「ダイ!お前・・・それは?」
「・・・うん。信じてたよ、イル。」
ナイフを己の腹に振り下ろす様子を見たヴェルザーは、慌ててダイの名前を叫んだ。そしてその腹部を見て、困惑した表情を見せる。
それに応えるダイの声色は柔らかかった。腹部からゆっくりと刃を引き抜くと、ダイに
スライムは痛ってぇ、と呟き、プルプルと体を震わせてゾーマの横へと移動した。そして唐突に宙を見つめ、口を開いた。
「おいイル。俺に身代わりまでさせておいて、知らぬ存ぜぬはねえだろ。・・・ダイの意思は固そうだぜ。話くらいしてやれよ。」
誰もいない空間に話しかけるスライムの姿は、訳を知らぬ者には奇妙に映ったことだろう。だが、その場の誰もが、じっとその返事を待ち続けていた。
やがて、その時が訪れる。ダイの目の前の空間が歪み、黒い球体が現れたのだ。そしてそこから、赤いおさげを揺らしつつ、1人の少女が地面へと降り立った。
少女は静かにダイの目を見つめた。ダイは口を開こうとして、しかし不思議と言葉が喉に詰まった。少女の怪しげに赤く光る瞳を見て、以前の彼女と変わってしまったのではないか、と躊躇したのである。
沈黙を破ったのは、少女の方であった。その声は、以前と変わらぬ優しい響きを纏っていた。
「久しぶりだね、ダイくん。色々言いたいことはあるだろうけど・・・また会えて嬉しいよ。」
「・・・うん。おれもだよ、イル。信じてたよ、絶対に庇ってくれるって。」
「ほんとだよ!ひやひやしたんだから・・・あんな無茶しないでよね!」
ぷんすか、と怒るイルの表情を見て、ダイは肩の力が抜けていくのを感じた。クスリ、とダイが笑うと、イルは表情をより不満げに変えた。
「ちょっと、ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるよ。ごめん、でもほら、いつも通りだったからさ。」
そう言ってダイがにこり、と笑うと、イルもまったく、とばかりに苦笑した。共に戦ってきた相棒同士、変わらぬことを知るにはこの僅かなやり取りで十分であった。
それでも、暖かい時間はいつまでも続かない。ダイは一瞬目を閉じ、そして真剣な表情をしてイルに問いかけた。
「イル、もう止めよう?イルが何をしたいのかも、それがおれのためだってこともわかってる。でも、そこにイルがいないのは寂しいよ。」
「・・・はぁ。こうなるから、忘れてもらおうと思ったのになぁ。」
ダイの真っ直ぐな言葉を受けて、イルは気まずそうに目を伏せて、ため息をついた。そしてぼそぼそと呟いた後、再びダイの方を見て口を開いた。
「それに、今さら無理だって。これだけ色んなことを起こしておいて、ごめんなさいで済むわけないよ。それなら、忘れてもらった方がお互いに幸せだと思うな。」
「そんなことない!だって、イルは誰も死なせてないじゃないか!それに、人と魔族が笑い合える世界にすることが、悪いことだとはおれは絶対思わない!もし悪いと言われるなら、おれも一緒に謝るから・・・だから!」
「・・・そう言ってもらえるだけで、わたしは満足だよ。ダイくんはいいことだって言ってくれるけど、そう思わない人もたくさん居る。今回上手くいってるのは、魔族の反乱分子をわたしが先に摘んでおいたのも大きいしね。今は刷り込みで誤魔化してるけど、潜在的に不満を持つ人間は表れるはず。その時、わたしの存在はきっと邪魔になる・・・!」
「っ! それでも・・・!」
ふたりの会話は熱を帯び、息の詰まる雰囲気が周囲を満たしていく。
ダイはイルとの友情を惜しむ思いと、与えられた幸福と平和を、イルを忘れてただ享受することへの抵抗心を語る。しかし、イルは理を重んじ、自分が消えるべきという意志を曲げない。
いくつ言葉を交わしたことだろうか。イルが覚悟を決めた表情で言った。
「平行線だね。・・・ここは私が創った世界。だから、最後はわたしのルールで決めさせてもらうよ。戦おう、ダイくん。」
「イル・・・。」
「3対3の真剣勝負。勝った方が主張を通せる。マスターならバトルで語るのがマルタ流だよ。フレイザード!」
「おう。・・・ケッ、結局こうなりやがったか。」
イルの呼び声に応じ、氷炎の魔人が姿を現す。イルの背後に、ゾーマ、スラッシュ、フレイザードが並び立った。
「わかりやすくて良いじゃねえか。あの小娘のそういう所はオレも好きだぜ。覚悟を決めろよ、ダイ。」
「ヴェルザー、でも・・・。」
「・・・ダイ。イルの顔を見てみろ。」
躊躇うダイに、バランがそう声をかける。促されるままにダイがイルの表情を伺うと、そこにはきらきらとした、爽やかな表情が浮かんでいた。
「どうして・・・?なんであんな楽しそうに?」
「あれがあの子なりの信頼の証なのかもしれんな。」
「信頼・・・?」
「ああ。きっとあの子にとって戦いは対話のようなもので、言葉で足りぬことを伝える手段なのだろう。お前の友として、最後の最後まで意志をぶつけ合うことを選んだのだ。」
バランは話しつつ、そんな事を思う日が来た自分に苦笑したくなった。自分には友と言える存在は居なかった。かつての自分なら、イルの思いになど気づけるはずもなかっただろう。
しかし、友人としてイルと関わり、父親としてダイを見守る中で、そんな自分も変わったらしい。今はただ、この青く眩しい子供達を見守っていたい。そのために、バランはイルの作ったこの流れに乗る事に決めたのだ。
ダイも、そんな変化を感じ取ったのだろうか。バランの言葉は不思議と反発なく、ダイの心に染み渡った。ダイは今度こそ背中から『ダイの剣』を引き抜き、全身に闘気を込めた。
「わかったよ、イル。全力で戦うよ。全力で・・・おれの気持ちの全部をぶつける!」
「うんっ!・・・ありがとう。わたしを受け入れてくれて。」
そう言って、イルはスラッシュ達の背後へと下がった。それを皮切りに、スラッシュが呪文を唱え始め、ダイは剣を逆手に持ち闘気を集中させた。
「『メラガイアー』!!」
「『アバンストラッシュ』!!!」
さいごの たたかいが はじまった!