「フレイザード、焼き払って!」
「『五指爆炎弾』!!からのォ、『オーロラブレス』!!」
「ちっ、下がれダイ!ガァァ!!!」
迫り来る氷炎の嵐に対し、ヴェルザーはダイを庇うようにして前に出る。そして体内のありったけの魔力をかき集め、気迫と共に吐き出した。
姿こそ変われど、ヴェルザーは『冥竜王』の肩書を持つ魔界の覇者である。その口から放たれた炎は轟々と音を立てて氷炎を飲み込んだ。
「ふむ、力を削いだと思っていたが、中々根性のある奴よのう。」
「そうだね。ゾーマ、『かがやくいき』!」
イルの指示に従い、ゾーマは冷たく輝く息を吐き出した。冷気が熱を奪い去り、炎の勢いが削がれていく。
しかし、これを好機と捉えたバランが呪文を唱え始める。序盤からゾーマは遊撃役として全体に圧力をかけ続けていたが、ここでようやく意識が一方に向いた。それは即ち、バランへの警戒が薄れたことを意味する。
ゾーマは冷気をいっそう強め、魔力が切れかけたヴェルザーを落とそうとする。それ故に、バランの動きに気付かない。
「『ギガデイン』!!」
バランの唱えた呪文は黒雲を呼び寄せ、豪雷が天井を貫きゾーマに降り注いだ。反応できていないのか、諦めたのか。ゾーマは視線すら動かさない。
「「「(獲った!!)」」」
ダイ達は最も強大な敵の排除を確信する。その思いに導かれるようにして、雷は一直線にゾーマへ向かい。
キーン。
と音を立てて、バランに向かって跳ね返された。
「ッ!?」
バランは咄嗟に『真魔豪竜剣』を前方に放った。剣が雷を受け止め、バランは窮地を紙一重で切り抜ける。
しかし、その額からはたらりと汗が垂れていた。そしてその目は理解できないものを見た、とばかりに見開かれている。
口を開いたのは、魔力不足で息を荒げたヴェルザーだった。
「マジかよ、『マホカンタ』か・・・。実在するのか・・・!」
「『マホカンタ』?」
「ああ、あらゆる魔法を跳ね返す伝説の呪文だ。だが、いつの間に・・・?」
「ククッ、良い表情だな。儂と戦う者は誰もがその顔をする。真の魔王には、魔法は通用せんということを知ってな。」
ゾーマはニタリ、と笑みを浮かべ、ダイ達を嘲笑うようにしてそう言った。絶望がその場を包みかけた時、こらっ、という可愛らしい声がその空気を振り払った。
「ゾーマ、変に話を広げないでよ。キミが『つねにマホカンタ』を得たのは『新生配合』したからでしょ?」
「クククッ。確かにそうではあるが、誰もが『新生配合』したからといってこの性質を会得できるわけではない。何よりイル、お前が後天的に魔物にこの性質を付与した、という事実の方が奴らからして見ればより恐ろしく映るだろうがな。」
ゾーマの言葉は、ダイたちの心情を正しく言い当てていた。
『マホカンタ』は恐ろしい呪文である一方で、ダイ達3人の戦闘スタイルを考慮するとそこまで脅威というわけではない。
だが、これがイルによって与えられた能力である、という事実が彼らにとっての脅威であった。どんな隠し玉があるかわからない。その事実には単なる強敵を相手取るのとはわけが違う恐ろしさがある。
「ちっ、ならこれでどうだ!」
「っ! イル!」
歯噛みしたヴェルザーは、自分の羽を一部砕き、相手の指揮を執るイルに向かって石礫を放った。
イルを狙うつもりはなかったダイは、その行動を見て焦り、咄嗟に彼女の名前を叫んだ。石礫をじっと見つめるイルは、避ける素振りを見せずに小さく口を動かした。すると、ダイにとっても懐かしいふわふわの妖精が現れ、その石礫を身体で受け止めた。
「おっと。そいつはルール違反だ。流石に干渉させてもらうぜ。」
「ありがとう、ワルぼう。・・・ちょっと残念だよ。お願い、ゾーマ。」
「ククク、真なる闇の冷たさを教えてやろう。『マヒャデドス』!!」
「っ!」
ゾーマは両手を振り上げ、巨大な氷塊を創りだした。腕が振り下ろされ、氷塊がダイ達に向かって落とされる。
視界を埋め尽くした氷塊を前に、息を呑むダイ。しかし立ち尽くしているわけにもいかない。『竜の紋章』を光らせ、ありったけの闘気を込めた剣を振りかぶる。
だが、剣を振りかぶったダイの前に、ひとりの異形の魔人が立ち塞がる。額の紋章を光らせたその魔人は、両手を胸の前で組み、まるで竜の顎門のごとくその手を開いた。
「『
圧縮された『竜闘気』が解放され、青い激流となって氷塊を食い破る。そして全てを破壊し尽くし、あたりにひとときの静寂が訪れた。
「『スラ・ストライク』!!」
「ぐおっっ!!」
しかし、水色の流星がその静寂を切り開く。音速を超えたスラッシュの体当たりが、バランの腹に突き刺さった。
吹き飛ばされたバランは壁に身体を強く打ち付け、苦しげに呻き声を上げた。心配してバランの方を見たダイの背中を、どうやってか接近したイルの指がちょん、とつつく。
「よそ見はダメだよ?ダイくん。」
「くっ!」
ダイは咄嗟に飛び退きイルと距離を取る。睨み合いの末、イルが口を開いた。
「もう諦める?わたしは、ダイくんが素直にわたしのシナリオに乗ってくれるなら全然いいよ。それが一番、丸く収まるはずだからさ。」
イルはそう言って、再びダイの目をじっと見つめた。その顔には普段の明るい表情は無く、思考を読むことはダイにはできなかった。
口の中が乾いていくのを感じつつ、ダイは言葉を紡いだ。
「おれは・・・。」