フレイザードから放たれた5本の必殺の光。それを相殺したのは、突如として現れた大魔道士の師弟だった。
黄金の光が対消滅し、あたりに静寂が訪れる。沈黙を破ったのは、困惑したダイの声だった。
「ポップ!マトリフさんまで!どうしてここに・・・!?」
「どうしてだぁ?それはこっちの台詞だ、この馬鹿!」
ダイの疑問に対し、ポップは怒りの表情を浮かべつつそう答えた。思わずびくっ、と身を縮こまらせたダイに向けて、ポップが距離を詰めて言う。
「てめぇ俺たちに何も言わず勝手に行くたぁどういうつもりだ!」
「うっ、これには事情が・・・。」
「どんな事情があるってんだ!言ってみろ、あぁ??」
「・・・儂を前にしてよそ見とは良い度胸だな?」
ダイの煮え切らない態度を見て、ヒートアップしていくポップ。だが、親友同士のやり取りに水を刺すようにして、ゾーマがふたりに襲いかかる。
「『閃華裂光拳』!!」
「何っ!?」
「っ!ゾーマ、切り落として!!」
しかし、その攻撃は、またも乱入してきた桃色の髪の少女によって防がれることとなった。
虹色に光る拳を、咄嗟に腕で受け止めたゾーマ。ただその拳はただの打撃ではない。暴走した回復魔法が、ゾーマの腕の組織を破壊していく。咄嗟のイルの指示で切り落とさなければ、体組織の崩壊は全身に及んでいたことだろう。
「マァムまで・・・!」
「私たちだけじゃないわ!みんなよ!」
その言葉を後押しするかのように、視界の端ではヒュンケルがスラッシュに向けて『アバンストラッシュ』を放っている。同時に、ダイ達の体が緑色の優しい光に包まれる。レオナの『ベホマ』の光だった。
回復呪文をかけ終えたレオナは、無言でじっとダイの目を見つめた。怒りと悲しみと心配と喜びが混ざり合った視線に咎められ、ダイは気まずそうにごめん、と声を漏らした。
レオナははぁ、と息を吐いて、ダイのことをぎゅっ、と抱きしめた。そしてレオナが体を離すと、入れ替わるようにして現れたアバンがダイに声をかけた。
「ダイ君。色々話したいことはありますが、まずはあなたが無事で本当によかった。」
「先生・・・ごめんなさい。でも、おれは・・・。」
「大丈夫、分かっています。『イル』という存在についてあなたが悩んでいることも、私たちがその存在を忘れてしまっているということも。そして、『イル』さんは私たちに近い人物であったということも。」
「!!」
アバンの言葉を聞いて、ダイは伏せていた目線をパッ、と上げた。アバンはダイを安心させるかのようににこり、と笑いかけ、そして真剣な表情で少女に目を向けた。
「彼女が『イル』さんですね。まさかあのような可愛らしい少女とは思いませんでしたが。ダイ君は私たちが彼女と戦うのを避けたかったのですね。彼女を・・・イルさんを忘れた私たちが、仲間を手にかけるのを防ぐために。」
「・・・違います。もっとおれは自分勝手で・・・。イルが示してくれた道に、イル自身が居なかったのが納得できなったんです。」
「・・・そうですか。ならば尚更、頑張らなくてはならないですね。私たちの『仲間』を救うために。」
アバンから見て、ダイの言葉の意味を正しく理解することは不可能だっただろう。それでも、アバンは迷いなくダイの意志を掬い上げることに決めた。どうして、と思うダイに、まだ不満げなポップがあのな、と声をかける。
「あんまり俺たちを舐めるんじゃねえぞ。お前の様子がおかしいもんだから皆で調べたんだ。大変だったんだぜ?何しろお前の言った『イル』って名前くらいしかまともに情報が無いんだからよ。」
「でも、私たちが冒険してきた場所を巡って、色んな人と話してるうちに違和感に気づいたわ。どの冒険でも、私たちの存在だけじゃ説明できない出来事が必ずあったから。」
ポップとマァムの言葉を聞いて、ダイは瞳の奥が熱くなるのを感じた。彼らはダイの放った微かなSOSを、確かに受け取ってくれていたのだ。そして、世界に残された僅かなイルの存在のかけらを拾い集め、この場に間に合わせてくれた。
「俺が父さんと再会できたのにも、恐らくあの少女が関わっているのだろう?ならば、俺はその恩に報いなければならない。」
「私からしても、彼女はパプニカを救った英雄のひとりなはずだもの。ちゃんと連れ戻して、叱って、もう一度ありがとうって伝えたいわ。」
「ヒュンケル、レオナ・・・。」
この場に駆けつけてくれた6人。それとバランとヴェルザーの視線が、自然とダイに集まっていく。ダイはぱん、と両手で自分の頬を叩いた。そして決意を込めた言葉を、その場の全員に向けて放った。その明るい声に、もう迷いはない。
「ありがとう、みんな。改めて言うよ。おれと一緒に戦ってほしい!イルを救うために!」
大きな声でそれに応じ、各々が構えを取る。視線の先のイル達は、体勢を立て直してその時を待っていた。
そして、イルが口を開く。
「仕上げだね。ワルぼう、『ミナダンテ』!」
「ま、あんだけ加勢されたら参戦もやむなしだな。いくぜダイ、死ぬんじゃねえぞ!」
イル達の足元に巨大な魔法陣が現れ、瞬時に8本の巨大な魔力の柱が立ち昇る。それらはワルボウの手の中で圧縮され、破壊の奔流となってダイ達に向かって放たれた。
ダイ達はそれを打ち砕かんと、各々の持つ最強の技の構えを取る。だがその瞬間、ぱちん、とダイの頭の中にある言葉が浮かんだ。
「(全てを束ねて、わたしの前に来て。・・・これだ、この時だ!)」
ダイは右手を天に掲げ、その掌に雷を宿した。それを見た仲間達は、言葉なくしてその意図を悟り、魔力を練り上げていく。
そして、ダイが右手を振り下ろし、一筋の稲妻が『ミナダンテ』に向かって放たれる。
初めは細いその光に、仲間達の放った魔力が束ねられていく。色とりどりの光がねじれ、絡み合い、そして神聖なる蒼を生み出す。
その呪文の名は。
「『ミナデイン』!!!!」
全てを想いを束ねたその光は、『ミナダンテ』の魔力を突き破り、真っ直ぐにイルの元へ向かっていった。
しかし、イルたちの前に、ニヤリと笑みを浮かべたゾーマが立ちはだかった。
「フッハッハ!『ミナデイン』とは良いものを見せてもらったぞ!やや惜しくもあるが、これもまた勝負の綾。己の希望に焼かれて死ぬがいい!!」
「(しまった!『マホカンタ』が・・・!)」
『ミナデイン』の反動で、ダイ達は身動きが取れない。あと一手、ゾーマを軌道から弾き出す手段があれば。しかし、どう願ってもそれは叶いそうにない。
極限の状況で、ダイの視界はまるでスローモーションになったかのように、詳細のその光景を映していた。蒼い光がゾーマに届き、そして跳ね返される。
そんな光景が、虚空から現れた
「『カラミティエンド』」
暗黒闘気の込められた手刀が振り下ろされ、ゾーマの身体を深く切り裂いた。衝撃でゾーマの身体は吹き飛び、『ミナデイン』を遮るものはいなくなる。
「おめでとう。ダイくん。」
蒼がすべてを飲み込み、壁を食い破り、そして闇に覆われた空を切り裂いた。世界に光が差し込み、静寂が戦いの終わりを告げる。
イル を やっつけた !