ぜひ、最後までお付き合いください。
全てを束ねた『ミナデイン』が闇を切り裂き、世界に暖かな光が差し込む。戦いは終わりを迎えた。そしてダイは、瞳に僅かな動揺を浮かべつつ、じっとその時を待っていた。
「・・・わたしの負けだね。見事だったよ、ダイくん。」
「っ、イル!!」
イルはその身体からぱちぱち、と火花を散らしつつ、勝者たる少年を讃える言葉を口にした。浅い呼吸を繰り返し、立っているのもやっとの様相であるにもかかわらず。
たまらずダイはイルに駆け寄り、その身体を支えようとした。それに安心してか、イルはダイにその身を預ける。あれだけの大事を引き起こしたとは思えない軽さだった。
「ごめん、イル・・・。」
「謝らないでよ。嬉しかったんだよ、ダイくんの本気と戦えて。手加減なんてされたらむしろ怒ってたところだよ。」
「でも・・・。」
「それ以上言うと、ほんとに嫌いになっちゃうよ?」
イルは悪戯めいた表情を作りそう言った。ダイは歯痒い気持ちを飲み込み、その言葉に頷いた。
「わかった。それじゃあ、約束を守ってもらうよ。勝った方が主張を通せる、だったよね?」
「・・・わたしこんなに弱ってるのに、そんな事言うんだ、ひどいよダイくん・・・。」
「イルが気にするなって言ったのに!?」
ダイの反応を見て、腕の中のイルがくすくすと笑った。毒気を抜かれたダイは、苦笑いをしつつ願いを告げた。
「まったく・・・おれのお願いは決まってるよ。戻ってきて、イル。記憶を戻して、またみんなで仲間になろう。」
「・・・わたし、一応世界をめちゃくちゃにした大魔王さまなんだけど?」
「悪意があってやった事じゃないっておれは知ってるよ。それに、イルは誰も殺してない。きっとみんなわかってくれる。それでも怒るひと達には、一緒に謝りにいこう。だから、お願い。」
「・・・どうしてそこまで?」
「大事な親友だから。」
真っ直ぐな言葉を受けて、イルははぁ、と息を吐き、両手で顔を覆った。赤みがかった頬がもにょもにょと動き、ぼそぼそと言葉が紡がれる。
「もう。・・・完敗だよ。あーあ、折角色々頑張ったのになあ。計画が台無しだよ、ねえ、バーン?」
「・・・!」
「ククッ、良いざまだな、イルよ。」
イルの呟きに応え、空間が歪み、魔族の男が姿を現す。活力に満ちた姿を見せつけるのは、かつての大魔王、バーンだった。
一瞬警戒したダイであったが、すぐにバーンが敵意を持っていないことを悟り、乱れた気を落ち着かせた。そして冷静になった頭で疑問をぶつける。
「バーン、さっきのことだけど・・・どうしておれを助けたんだ?」
「大した理由はない。今の自己犠牲に酔いしれたこやつに比べれば、約束された平和な世界を、己の欲がために破壊せんとするお前の方がマシと思えただけのことだ。」
「それにしても、狭間の世界から這い出てくるなんて思わなかったよ。流石は大魔王だね。」
「フン、よく言ったものだ。余にとどめを刺さん時点で、本気で捕らえておく気は無かったのだろう?」
イルは返事をせず、手をひらひらと振った。食えん奴だ、とバーンは笑った。ダイは疑問符を浮かべつつ、本題に戻ろうとする。
「とにかく、まずはみんなの記憶を戻してよ。何か手伝った方がいい?」
「ああ、それはすぐ終わるから大丈夫だよ。ゾーマ、お願い。」
イルがそう言うと、瞬時に彼女の背後に現れたゾーマが、両手を突き出し指を広げた。
ゾーマのゆびさきから いてつくはどうが ほとばしる!
『凍てつく波動』が世界を駆け抜け、全ての呪文の効力を消し去った。それと同時に、ダイ達を見守っていた仲間たちの表情が変化し、口々にその名を呼んだ。
『イル(さん)!!!』
そして、彼らは急いでイルのもとへと駆け寄った。申し訳なさと心配を煮詰めた表情を見て、イルは苦笑する。
「ごめんなさい。きっとみんながそういう顔をしてくれると思って、良かれと思って記憶を消したんだ。結局傷つけちゃったけど・・・。」
「・・・気にしないでください、イルさん。それもあなたの優しさですから。こうしてまたあなたの名前を呼べることが、何より嬉しいことですよ。」
アバンの言葉に、他の面々も次々に同意を示す。イルはとても暖かい気持ちになって、顔が緩むのを抑えきれなかった。
そんな表情を見て、ダイは心の底から安心した。そして、願いの続きを告げる。
「ね?みんなイルのことが好きだし、わかってくれたでしょ?だから、一緒に帰ろう?」
ダイのそんな無邪気な願いを受けて。
イルは、緩んだ顔のまま言った。
「・・・ごめんね。」