他愛もない話の末。真っ暗な倉庫で。
「結局、彼方は、その女を殺してどう感じたのかな」
「僕は」
「……明確に違うと思った。嫌というほど女を殺してる感覚があった」
「気持ちよかったかい?」
「ああ、意外だった」
「それは彼方が望んだ答えだったのかな」
「わからないが、僕が何者なのかは分かった気がする」
「ふふ、そか」
「ところで、彼方はいつから女が嫌いなの?」
「…………」
「アタシが聞くのは残酷かな。でも、彼方が自分を見つけれたンなら良かったよ」
「自分……」
「そう、自分。彼方自身だよ」
「彼方は、ずっと自分を見失ってたンじゃないかな」
「……僕はいつだって遥と同じ舞台にはいなかった」
「あの入学式の日も、昨日だって、いつも観客だった」
「実際には、ただの一目惚れだった」
「そか」
「彼方は、アタシの、その矛盾と戦ってきたンだね」
「そうかもしれない」
「アタシはね、男を殺してみて……」
「同じだと思ったよ」
「え」
「そう、同じだ。アタシが憎悪していたものすべて、そしてアタシ自身も」
「昨日、男とセックスしているときに思い出したンだ」
「……」
「彼方、言ってたでしょ」
「セックスは違いを認めることだって」
「アタシは、昨日も同じことを考えたよ。同じだなって」
「遥も、自分を探していたんだな」
「そうかもね」
「ちなみに、セックスの感想はいるかい?」
「いや、やめとく」
「ふふ、そか」
「ああ、これだけ聞いておく」
「ン?」
「気持ちよかったか?」
「うーン、秘密」
「なんだそれ」
「そうそう、アタシが何で女が嫌いなのかって話したことはなかったよね」
「聞くかい?」
「……それはもう、必要ないな」
「そう?」
「それよりは、遥が今、どこにいるのかが気になる」
「セックスと殺人、やってみて、結局遥は自分を見つけられたのか?」
「……なくなったよ、そンなの」
「性的合一って知ってるかい?」
「アタシが当てにしていた"男と女"っていう二元性が、完全になくなっちゃった」
「違いを認めると、違いが消えて収束する」
「セックスも、殺人も、どっちも"一つ"の行為に見えたんだ」
「本来の一体性に戻ったという意味では、差別も、憎しみも、もう存在しない」
「そうか」
「僕と違って、遥は、ずっと孤独なんだな」
「孤独じゃないよ。ようやく、"アタシ"と"彼方"の区別がなくなっただけ」
「じゃあ、僕だけ、ただの、差別主義者なんだな……」
「ふふ、違うよ」
「え?」
「彼方は、ただアタシに恋をしたンだ」
「ロマンティックラブが出来てたンだよ。アタシたちは」
………………
…………
……
真っ暗な倉庫を僕たちは抜け出す。
僕と遥は一緒に星空を見上げ、思ったより広いね、と笑いあった。
地球の影に映し出されたプラネタリウムは僕と遥をどこまでも遠くへ運ぶ。
「そういえばさ」
「何だ?」
「告白の返事、もらってないんだけど」
「あんな、不気味な告白があるか」