【速報】ブルマ寝取ったったwww【悲報?】   作:粗品もんすたー

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1部・別世界へ
グリッチ1


 

 

 

 

 東洋の龍そのものである、神々しいドラゴンに見下ろされ、俺の中の時間が止まる。

 

 

『さあ、願いを言え。どんな願いでも一つだけ叶えてやろう』

 

 

 ⸺え……? と無意識に零れ落ちた声は、漆黒に塗り潰された空の下で虚しく消えた。

 

 テレビのチャンネルを替えた時のように、ぷつりと視界が切り替わった直後のことである。

 

 俺は久しぶりの休日に、ひとり暮らしの安いアパートの一室で、直前までドラゴンボールという漫画を全巻一気読みしていたはずだ。一回り年上の上司から押し付けられたからである。

 

 喫煙所での世間話のせいだ。なんの偶然か、厳しい上司と二人きりになってしまい、気まずくなって「なんか面白いもんないっすかねー、最近のは俺的にあんま刺さんなくって、暇潰せないんすよー」などと口にすると、上司は少し考えてからドラゴンボールを勧めてきたのだ。

 数時間前に上司の家に行って、漫画を貸してもらった俺は、思わぬところで藪をついて蛇を出してしまった気分だった。何が悲しくて普段仕事上の関係しかない上司から、漫画などを借りる羽目になっているのだろう。せっかくの休日を棒に振ったみたいで気が重い。

 

 なーにが「ドラゴンボールは名作だが、入りとしては漫画が一番だ」だよ。

 

 別にこの作品を忌避する理由はないが、だからって好んで読む気もなかったってのに。

 

 あーあ。

 読まなきゃ余計気まずくなりそうだしな、口は災いのもとなんてよく言ったもんだわ。

 

 俺はそう後悔していたし、興味の欠片もない物に目を通す労力と時間を割かなきゃならない無常さに、心の底からうんざりしていた。

 

 だが今は違う。読み始めてみたらどうだ。最新の名作たちに勝るとも劣らぬ、いやはっきり勝ってるクオリティだと断じられる出来栄えに、俺はすぐに魅了された。

 日本で、いいや世界で一番面白い。この作品を知らないのは人生の10割を損してる。

 俺はそう思うほど、この作品にのめり込んだ。魔人ブウ編のラストまで読んだ後は、夢のような時間がもう終わってしまったと、初カノにフラレた時並に寂しくなってしまうほど。

 

 上司には感謝して、吸ってる銘柄の煙草を一箱プレゼントしようと決めた俺は、この超名作の続編はないかなーと、スマホで検索しようとしていて⸺⸺その直後が今である。

 

 

「うぇ……? えええ……?」

 

 

 呆気に取られていた俺は、間抜け全開な反応しか出来なかった。

 そんな俺の様子を訝しんだドラゴン⸺⸺漫画の神龍が、低い声で訊ねてくる。

 

 

『どうした。願いはないのか?』

「ちょ、ちょっと待って!」

『考え事か? いいぞ、少しだけ待ってやろう』

 

 

 言ってから「ちょっと待って」が願い判定されるんじゃないかと焦ったが、神龍は寛大にも普通に待ってくれるようだった。助かる、神的にいい人……龍だ。意地悪じゃない。

 俺はキョロキョロと視線を左右に走らせた。

 知らない場所だ。どこかの山頂で、俺の真後ろに小さな家がある。すぐそこに崖があり、下には自然豊かな森があった。俺は知らない所にいて、知らない家があって、なぜか漫画の神龍に願い事を聞かれているってわけか。……なんだそりゃ、と俺は失笑してしまう。

 

 これは夢だな。たぶん。凄いリアルだが、漫画の一気読みして寝落ちしちまったんだろ。

 俺は自分でそう結論付けた。だってそうだろ、こんなのありえないじゃん。何もかもがいきなり過ぎるし、こんな雑な導入なんか現実的にありえないに決まってる。

 なんでいきなり神龍にお願いできる環境に放り出されてるんだ、ドラゴンボールを七つ集め終わってるってどんなご都合主義だよ、そもそも架空の世界に来るなんておかしい⸺⸺そうした全部の問題も、夢だからの一言で解決できてしまう。

 

 そう判断してしまえば、一気に落ち着いて気が楽になった。

 

 俺は笑いながら神龍を見上げ、馬鹿馬鹿しい願い事を口にする。

 漫画を読みながら、俺もそうだったらいいのにな、と思ってしまったことを。

 

 

「神龍! 願い事が決まった!」

『なんだ?』

「俺を⸺⸺俺の体を! 惑星ベジータのサイヤ人と同じ人種に改造してくれ!」

 

 

 サイヤ人になりたい。俺の願いはそれだった。

 

 おかしなことじゃないだろ? たとえ俺がクソザコでも、サイヤ人になれたら超人だ。

 主人公の孫悟空は、子供の頃に戦闘力が低くても、助走無しの跳躍で何メートルも高く飛べた。銃弾を受けても痛いで済むし、恐竜みたいな奴を相手にしても普通に勝てる。

 同じ地球人で、同じ戦闘力でも、銃弾を受けたら地球人は死ぬ。運動能力と耐久力は、人種が違うだけで雲泥の差だ。しかもこの願いなら、神龍は叶えられるはずである。

 神の力を超えた願いは神龍には叶えられない、だから実在するサイヤ人と俺の体を入れ替えるような真似はできないだろう。そこらの下級戦士のサイヤ人でも、地球の神より遥かに強いからだ。しかしクソザコ地球人の俺を、サイヤ人と同じ人種に改造することはできるはず。

 

 果たして神龍は『少し待て。惑星ベジータのサイヤ人というものを探す』と言って黙り、宇宙の彼方までアンテナを伸ばして、検索しているように虚空を見つめた。

 俺は固唾を飲んで見守る。そうして数分の末、ローディングを終えたのか俺を見下ろす。

 

 

『……見つけた。ではお前をサイヤ人にしよう』

「!!」

 

 

 神龍から眩い光が放たれ、俺に直撃した。

 雷撃を浴びたようなのに痛みはない。だが明らかに俺の体が変わった感覚がする。

 異物感が発生した。ケツの方に、手足とは別のものが追加されたのだ。ふさりと俺の尻から尾が生えて、反射的にそれを動かすと体の正面に猿の尻尾が回されてくる。

 

 サイヤ人の尻尾だ! 俺は歓喜して飛び跳ねると、予想以上に高く飛べて少し慌てた。

 ビルの高所から落ちてしまったかのような浮遊感。本能的に恐怖したが、地面とキスしてしまってもどこも痛くない。どころか、全身から溢れる力は俺の恐怖心を容易くぬぐい去る。

 これがサイヤ人の体か! これが超パワー! 夢の中とはいえとんでもないな!

 俺が興奮して体を動かしていると、神龍は無感動に別れを告げた。

 

 

『願いは叶えてやった。では、さらばだ』

 

 

 神龍が消える。暗黒の空が晴れ、青い晴天に戻った。空中に浮いていた七つの球がぐるぐると、サーカスのピエロが球をジャグリングしているように回転して⸺⸺

 

 

「よっと」

 

 

 再び天高く跳躍した俺は、物は試しでドラゴンボールを掴んでみた。

 するとどうだ、ドラゴンボールを七つとも簡単にキャッチできてしまったではないか。

 

 

「うわ、できちゃったよ」

 

 

 両腕に石ころと化した七つの球を抱え、着地した俺は苦笑いを浮かべてしまう。

 超人的な動体視力を持ってしまった俺には、ドラゴンボールの軌跡が止まって見えていた。これなら簡単に掴めると思い、発作的に挑戦してしまったらこの結果である。

 伊達に名門野球部で、三年間球拾いだけをこなし続けていない。球拾いならお手の物だ。

 言ってて悲しくなるが、今はもういい。どうせ夢の中なのだ、龍球を独占してしまったっていいじゃないか。俺は内心言い訳じみた事をこぼしながら、近くの家に入り龍球を安置した。

 

 せっかくの機会だ、ちょっと空でも飛んでみよう。夢が覚めるまで好きにしていいだろう。

 俺はそう思って再び外に出ようとして、不意に床へ落ちている古ぼけた冊子が目についた。

 なんだこれ? なんとなくそれを拾い、パラパラと中身をあらためる。見た事がない文字なのに読み解けるのに違和感があったが、どうせ夢なのだからと細かいことは気にしなかった。

 

 

「……ふーん?」

 

 

 中身は、この家の住人が記した日記。

 この家の住人は元々龍球を集めていたようだ。

 高祖父……祖父の祖父の代から龍球を集めはじめ、武泰斗に封印されているおそろしいピッコロ大魔王を、封印されているまま消滅させるために龍球を使おうとしていたらしい。

 が、世界の為を思った高祖父の志なんてなんのその。ピッコロ大魔王を知らない世代になると、そんな訳分からん奴に使うのも馬鹿らしいので、自分達のために使うことにしたようだ。

 願いは億万長者になって、子々孫々まで遊んで暮らせる大富豪になること……だそうだが。

 

 

「武泰斗にピッコロ大魔王の封印ねぇ……なんとか辻褄合わせようとしてんのな、俺」

 

 

 夢の中でまで細かいことばっか気にするのは、雑な性格のくせに神経質な俺らしい。

 武泰斗を知っていて、ピッコロ大魔王が封印されているのを知っている。俺は武泰斗に近しい存在の子孫ということにしているくせに、どこで龍球を知ってるのか、なんでそんな伝説を子孫の代まで信じてるのかにはノータッチ。とりあえず長い時間を掛けて龍球を集めきったんだから、ドラゴンレーダーなしで集められたのもおかしくないよね? という意図を感じる。

 我ながらせせこましく、苦笑いを禁じ得ない。おまけに日記を読んだところ、父は鶴仙人の弟子だったらしく、舞空術やどどん波を修めていて、その子であるっぽい俺も使えるようだ。

 

 

(ま、夢から覚めるまでの遊びには使えらぁな)

 

 

 心の中で呟き、俺は古ぼけた日記を放って外に出た。

 サイヤ人になったからって、いきなり気の扱いなんかできるわけもないが、夢の中ならできて当然だろう。俺は勝手にそう決めつけ、思い込みのまま崖先に身を投げた。

 

 体に溢れる馬鹿でかい力と、体に染み付いているらしい癖あるいは技術で飛翔する。

 やっぱり飛べた! 俺は思いっきり飛んで、全身で風を感じながら歓声をあげる。

 

 

「ひゃっほぉぉ⸺⸺い!」

 

 

 天高く飛び、どこまでも高く、高く浮上して。

 やがて成層圏を出て、窒息しかけて、大慌てで気を噴射して地球に戻るも気絶した。

 

 ⸺⸺こうして。

 はしゃぎ過ぎて空から落下したバカが一人。

 このドラゴンボール世界に出現したのだった。

 

 

 

 

 

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