【速報】ブルマ寝取ったったwww【悲報?】   作:粗品もんすたー

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おまたせしました。
いきなり風邪をもらって、治るまでめちゃ長引いてました。
普通に辛かったです。みなさんもご自愛ください。




くっ、鎮まれ俺の風邪……!

 

 

 

 

 

 テレビをつければ出てくるのは俺の顔。俺の名前。俺の声。

 どこを見ても俺、俺、俺。雑誌にも俺の名前や顔が載らない日はなかった。

 

 長年の努力が実を結んだと言えるのだろう。

 とはいえ。

 イメージ戦略のため、防衛戦略のため、欠かしてはならない事のため⸺⸺とはいえだ。

 

 一歩でも外を出歩けば人の耳目が集まり、些細な言動すらも取り沙汰されるとなると、どんな精神的超人でも、どんな鉄人でも、ノイローゼになって心を病んでしまいそうになるだろう。

 まして元が平凡な俺なんか、心が折れてしまうのが自然だ。あってよかった超能力、ってなもんだ。

 

 でもなぁ。それでもなぁ。幾ら自分の心を調整できたって、偶には息抜きの一つもしたくなる。

 だがその自由という名の贅沢は厳禁だった。

 素顔を晒して出歩くだけで大騒ぎになるのだ、安易な行動は慎んでないと逆に面倒になる。

 

 有名人の気苦労ってのを、こんな形で痛感するなんてな。俺ってほんとバカだ。

 

 金は欲しい、いい女を抱きたい。この欲は今も残ってるし、裕福に暮らしたいのは本音だ。

 しかし、承認欲求は消えた。名声はもう要らねえなと思ってしまってる。

 今更やめられないし、やめる気もないが、存外スターってのも楽じゃなかった。

 なんせプライバシーがない。下手にスキャンダルを起こしてしまえば今後の戦略にも支障が出るし、そのせいで頭を空っぽにして遊びに出られもしなかった。隠さなきゃならんこともあるしな。

 

 諸々ひっくるめて耐えることはできる。

 こういう時のための超能力だ、自己催眠で乗り切るために、散々有効に活用してきた。

 だがそれはそれだ、耐えられるからって、無理に耐え続けないといけないわけでもない。

 俺は敢えて自分へ息抜きを許している。

 耐えられるからと延々働き続けてたら、それこそ自分が機械になっちまうんじゃないかって気がするからだ。んなわきゃねえし、そこも自分で心を調整すれば済む話だが、わざとそうしてない。

 

 なんでかってーと元はと言えば俺のやってることは全部、俺のためだから。なのに肝心の俺自身が、なにも楽しめてないんじゃ本末転倒ってなもんだろう? 偶には遊んでもいいじゃん。

 

 ってわけで、北の都に遊びに行った。

 

 遊びって言っても、アトラクションは面白くない。絶叫マシンも全然スリルを感じない。

 だから俺が行くのはゲームセンターだ。夜ならバーで酒を楽しめるし、ギャンブルに興じてもいい。反則的な動体視力、反射神経であらゆるゲームで無双する。運ゲーで遊んだりもする。マスクとサングラスとニット帽で顔を隠し、偽名を名乗り、特に目的もなくぶらついた。

 

 何が楽しいの? って頭の片隅で思ったが、これが意外と楽しかった。

 いつもなんらかの目的に向かって活動していたから、何も目的を設定せずに、時間を無駄に浪費できるこの瞬間が、ちょっとどうなんだと自分で思うほど愉快だった。

 

 でもまあ、特筆するようなことは何もなくて、あっという間に時間が溶ける。

 一年に一度だけ自分に許してる時間の無駄も、贅の限りを尽くしたご馳走みたいにあっさり消えた。

 

 

「もう夜か」

 

 

 独り言をこぼして、自分の声が虚しく聞こえるのも乙なもの。

 俺はぶらぶらと夜道を歩き⸺⸺おっ、と目を瞬いた。

 明らかに害意を持ってぶつかってきたガキがいたのだ。これだけならただのスリ目的の悪ガキだなと呆れるだけだが、俺の懐に手を伸ばす手捌きに光るものを感じたのである。

 まあ、それはそれとして盗らせてはやらん。無造作に脚を伸ばし、ガキの脚を引っ掛けて転ばせた。

 

 

「いたっ」

「ラピス! ……テメェ! なにすんだよオッサン!」

 

 

 転んだのは黒髪のガキ。喚いたのはメスガキ。双子っぽいな、顔がそっくりだ。

 なんとなく記憶が刺激された気分だったが、こんなガキ共と面識なんかあるわけがない。

 気のせいだと思って、俺は自分の手にある財布を振った。勿論俺のだが、ガキ共は目を見開く。

 

 

「なっ……ぁ」

「チィ、しくじったっ。ずらかるよラピス!」

「待て待て。人様の金をスろうとしといて謝罪もなしか? せめて説教の一つぐらいさせて、気持ちよくならせてくれよ。よそのガキに無責任なマウントを取んのが一番気持ちいいんだからさ」

 

 

 我ながら最低なことを言ってるが、元々俺は大層な人間じゃない。俺みたいなろくでなしに捕まったらどんな目にあうか、身をもって思い知らせて社会勉強をしてもらおう。

 

 逃げ出そうとしたガキ共の首根っこを掴んで、片手で一人ずつ持ち上げる。

 驚いて暴れ、何度も体や顔を蹴ってくる脚癖の悪い双子に、俺はニヤリと意地悪く笑いかけた。

 生憎ガキに蹴られた程度じゃ痛くも痒くもないんでね。無駄に疲れるがいいさ。

 

 

「人様の物に手ぇ出すもんじゃないぜ、クソガキ共。悪いことばっかしてっと、もぉーっと悪い大人に食い物にされちまうぞ。それにガキの頃から手癖を悪くしてると親御さんも泣いちまう」

 

 

 軽口を叩くと男のガキが悔しげに吐き捨てた。

 

 

「偉そうに……! 親なんていねえよ、オレらにはさ……っ!」

「あん?」

 

 

 ガキの喚き声は耳に障る。聞き流せばいいものを、このガキの声には感じるものがあった。

 なんつーのかな、助けを求めるSOSの声ってーのを感じなくもない。

 

 改めてガキ共を見ると、どちらも忌々しい大人への敵愾心を瞳に込めていた。

 

 よく見ると身なりは普通だが、あんまり清潔じゃない。

 歳は十歳より下。六か七ってとこ。

 体を庇っている様子はない、親から暴行を振るわれている線はなさそうだ。しかし線は細い。

 親がいないってのを信じないにしても、最低でもネグレクトされてるってのは確かっぽいな。

 

 

「………ハァ」

 

 

 俺は慈善事業はしない。オフの時は。

 が、変に目が肥えてしまったせいで、このガキ共の背景を薄ら察してしまえた。

 溜め息と一緒に、掴んでいたガキ共の首根っこから手を離す。ドサッと尻餅をついたガキ共を見下ろして、俺はうんざりした気分で頭を掻いた。

 俺が活動をはじめる前、この世界は治安が悪かった。銃を乱射しての強盗もそこいらに蔓延っていたし、荒野を歩けば野盗に襲われるなんて日常茶飯事だったろう。治安維持活動に明け暮れてやっとマシになった程度で、BE機関の時代になってようやく文明圏の国らしくなったと言える。

 

 俺も場数だけは踏んでるから、すっかりその手の事件にも慣れきって鈍感になってると思う。

 だが子供が不遇な環境に置かれ、道を踏み外しそうになってんのに直面すると、知らんぷりしているのも気が咎めてしまった。せめて関わった奴には何かしてやれよと、良心が囁いてくるのだ。

 

 

「……ほらよ。これでうまい飯でも食え」

 

 

 身分証含めた付属品、これから使う予定の金を抜き取って、財布ごとガキに放り投げる。

 咄嗟にキャッチしたラピスってガキは、目を瞬いて財布と俺の顔を交互に見た。

 俺はサングラスとマスクをしてっから、顔は分からんだろうが。

 

 

「そいつに俺の名刺も入れてある。今の生活から抜け出してぇなら西の都に行って、BE機関養成校で名刺を見せろ。悪いことにはならねえよ」

「BE機関……?」

「それって……な、なあラズリ、それ聞いたことないか?」

「⸺⸺後は勝手にしろ。じゃあなガキ共」

 

 

 小僧の方がラピスで、小娘の方がラズリね。一応その名前を覚えといてやるか。一ヶ月ぐらい。

 背を向けてさっさと立ち去る。あのガキ共が俺の所に来るかどうかも確実じゃないのに、これ以上関わりを深くしても良いことはない。それより酒を飲んで酔ってしまいたかった。

 年一のチートデイなんだ、酔っていいのはこの日だけとなりゃあ先を急ぐ気持ちも強くなる。

 

 場末のバーに入った。

 客の姿はちらほらとあるが、騒がしくはない。

 シックな空気だ、悪くない。マスターに酒を頼み、ちびちびと酒を楽しむ。

 

 カウンター席に座ったまま、聞こえる他の客の話を酒の肴にして、空気感とアルコールを満喫した。

 そうしていると、心地よく酔いが回ってくる。ふらふらして、ふわふわする、酩酊した感覚。

 回復術があるから二日酔いも怖くない、最高に気分が盛り上がってきた。

 さっきのガキ共の事でモヤってた気分も、綺麗にリセットできた。

 

 

「ん?」

 

 

 久し振りの酔いへ浸っていると、カウンター席の隣に、無断で座ってくる奴がいた。

 声を掛けるでもなしに無愛想にマスターへ声を掛け、お高い酒を頼んでいる。しかも俺のツケでとか言いやがった。

 

 

「………」

 

 

 なにふざけたことホザいてんだと思って睨もうとしたら、隣に座っていたのは鶴仙人だった。

 お、と思う。珍しいな。この人が酒を呑むのは本当にレアだ。

 ていうかなんでここに? 偶然かと思ったが、鶴仙人は横目に俺を見ても何も言わない。

 驚いた様子じゃないしわざと会いに来たのか。ならどうやって氣を抑えてる俺の居場所を……。

 

 どうでもいいな。どうせCCスカウターに登録してる、俺の生体反応を辿ってきただけだろ。

 なんか機嫌がよさそうだし、喋りたいことがあんなら好きに喋らせてやろう。

 

 

「霊仙」

「なんスか?」

 

 

 鶴仙流の身内だけが呼ぶ渾名みたいな名前。

 霊仙、と俺を呼んだ鶴仙人は、ワインを飲みながらニヤッと口角をあげた。

 

 

「今更だが、感謝してやる」

「……なんでです? 感謝もなにも、恩があるのは俺の方なんですがね」

「貴様と関わったばっかりに修行も捗った。そのおかげで、気に食わんかった奴をブッ飛ばせたのよ」

 

 

 誰のことだ? と首を傾げる。

 酔いの回った頭で真剣に考え、たっぷり数秒の間を置いてやっと理解した。

 亀仙人のことだろう。武天老師と名高い武術の神と戦い、打ち勝ってきた帰りなのかもしれん。

 後の時代なら戦闘力差で亀仙人は戦力外になってたが、今の時代ではバリバリの一線級。俺でも同じ戦闘力、同じ条件で戦えば勝てないと思う。それに勝利した鶴仙人は流石だった。

 

 

「そいつぁよかった。で……殺したんスか?」

「いいや? ワシも甘くなったようでな、殺さず生かしておいてやったわ。くっくっく」

 

 

 悪童みたく陰険に笑う様に、わざと生かすことで屈辱を与えているのだろうと察した。

 昔ながらの腐れ縁だ、実力差が明白になると、寛大になって殺す気もなくなったらしい。ちなみに、この場合での寛大さは嫌味にしかならない。実に鶴仙人らしいと言える甘さだ。

 俺としてはこんなところで、亀仙人の訃報など聞きたくもなかった。もし鶴仙人が殺めてしまってたら龍球案件だったと思う。罪もないのに殺されるなんていくらなんでも可哀想過ぎるからな。

 

 個人的には亀仙人と会いたい気持ちはある。あるが、隠棲してる人へ必要もないのに会いに行って、わざわざ引きずり出すような真似をする気になれなかった。今回の一件で自発的に鍛え直し、カメハウスから出て会いに来てくれるなら歓迎するが、そうでないなら放置一択だ。

 

 

「ここにはそれだけ言いに来た。ではな、霊仙。戦闘力では貴様に及ばんが、技の一点ではまだまだ遅れを取らんぞ。教えを受けたければいつでも来い。態度次第で考えてやらんでもない」

「ええ、そうですね。また頼りにする時があるかもしれません。その時はよろしくお願いします」

 

 

 飲むだけ飲んで、言いたいだけ言って、鶴仙人は金も払わずバーから出ていった。

 要するに気分良く酒を飲んで、自慢話をして、俺に奢らせただけなんだが、どうにも憎めない人だ。彼の視点だとピッコロ大魔王が俺に殺られ、その子供が俺の所で飼いならされているのを見て溜飲が下がり、更に亀仙人に勝つことでやっと残ってた角が取れて丸くなったのかもしれない。

 

 あの人もあの人で、散々苦労してきたんだ。悪事を働かねえなら自由に生きたって良いだろ。

 俺と関わる前にやった悪事に関しては、俺は知らんからノーカンでいい。俺とか天津飯達、学校の奴らを鍛えてくれてるんだ、帳消しになったってことにしよう。俺はそうする。

 

 鶴仙人が去ってからも、俺はちびちびと長ったらしく酒を呷った。

 この日はもう何事もなく時が過ぎたが、逆に何もないからこそ有り難い。

 会計を済ませて気持ちよく外に出て、家に帰った俺は、酒の匂いをぷんぷんさせたままベッドにダイブした。年一のチートデイはこうして終わって、また明日からいつもの忙しさが戻ってくる。

 

 眠りに落ちる。落ちて、静かに寝た。極楽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識レベルが覚醒し、稼働を開始したバイオレットと、俺は早速とばかりに組手をおこなった。

 

 流石に戦闘力1000万は桁違いだ。殴られたら痛そうだし、繰り出されてくる攻撃も速い。

 それにバイオレットには鶴仙流の技を教えて、鍛えさせてある。そこらの一般兵とは比較にならない技量もあり、油断していると結構ヒヤリとすることもありそうだった。

 とはいえ同格との戦闘経験が皆無に等しい俺でも、格闘術の腕は鶴仙人のお墨付きだ。プロの戦士に匹敵する練度のバイオレットを相手に迎えても、油断しなければ危なげなく打ち倒せる。

 闘争本能を操り闘志を全開にしながらも、思考は冷静なまま保持した俺の精神状態は最高。己の心を超能力で操れる俺が、戦闘で遊んだり慢心することはありえない。対峙する仮想敵を本気で迎え撃つ。

 

 

「グァッ………!?」

 

 

 拳打の交錯は千を超えた。しかし俺の被弾はゼロ、対して仮想敵は俺のジャブを無数に浴びている。

 焦れたのか、バイオレットが至近距離からどどん波を放った。俺は首を傾けるだけで躱し、踏み込みながら右脚をバイオレットの内股へ差し込んで、右肘を胸の中心に撃ち込む。

 もんどり打って転倒し、吐瀉して呻くバイオレットの顔面に、正拳を振り下ろして寸止めした。目を見開いて固まる女の上から退いた俺は、息を整え額に浮かんだ汗を拭い、女に手を差し出す。

 

 素の状態とはいえ、誰かと組手をして汗をかいたのははじめてだった。悪くない手応えである。

 バイオレットは人造人間だから、全く気力と体力を消耗していない。なのに頬を赤らめながら俺の手を恐る恐る取って、助け起こされるのに身を任せた。所作に『女』を出してる気がしないでもないが、なるべく気にしない方向でいこう。取り合ってたら面倒臭いことになりそうだ。

 

 

「法師様、ありがとうございます」

「おう」

「性能面では劣ってないはずなのに、こうまで手も足も出ないとは思いませんでした。流石です」

「お前も今の体になって初の組手にしちゃあ、動けてる方なんじゃないか? 悪くない経験をしたよ」

 

 

 武道家らしい作法を守って一礼するバイオレットへ、俺もおざなりに応じる。

 バイオレットがもじもじしながら言ってくるのに、内心の気まずさを隠しながら。

 

 

「時間が合えば今後も頼むわ。力のある奴と手合わせする経験は何にも代えられんからな」

「はい。法師様の相手が務まるのは()()()()()()()、仕事に差し障らない範囲で時間も調整します」

 

 

 たしかにな。たしかに今は、俺の相手になるのはバイオレットだけだ。

 だがそれは、今だけでしかない。いずれはバイオレットを超える戦士は何人も現れる。敵も味方も。その時までに、俺の相手になれるのを誇ってるバイオレットを、なんとか落ち着かせたいな。

 

 見渡す限りの荒野から離れ、舞空術で帰路につく。バイオレットも後に続いて飛翔した。

 緩く並走して飛びながら、口頭で軽く仕事の話をする。

 管轄している地域の治安活動や、俺の家がある養成校内での業務についてとかだ。それらの内容を聞いて、時には所感を口にしながらも、俺は頭の片隅で別の事を考えていた。

 

 バイオレットのメンケアについてである。

 

 この子との関係を円満にする解決策は明白だ。バイオレットを愛人にでもすればいい。

 自惚れてるみたいで嫌だが、それで俺の女になりたがってるコイツも満足するのは分かってる。

 必要だったからヤッたとはいえ、ヤり捨てみたいにすんのは気が引けるしな。責任を取るべきだというのは頭では解っちゃいるんだ。が、拗らせてる女の相手は普通にしたくないんだよ。

 どうしたもんかねと考えちまう時点で、俺は最低な男だと自白してるようなもんだが、本音ってのは自分でも偽れないし、偽りたくもない。問題を未解決のまま先送りにすんのも性に合わん。

 病んでる部下のメンケアもしてやんのがデキる上司ってもんだろ。既に手遅れ感があるけどな。

 

 どうしてやんのがいいんだろうか。わざとキモ発言して嫌われてみるか?

 ちょいシミュレーションしてみよう。

 

 

『バイオレット。お前、俺の女になるか?』

 

 

 こんな切り出し方とかどうだ。なんという俺様発言、キモすぎる。

 だがそれでいい。なんなら完全にドン引きされて、百年の恋も冷める感じで嫌われたい。

 ぶっちゃけそれ狙いでのキモムーブといっても過言じゃなかった。

 

 

『わりぃけど俺って性欲強ぇーんだわ。女の一人や二人で満足できやしねえのは自分でも分かってる。いい女なら誰でも抱きてえし、お前は愛人にしかしてやれねえけど、どうする?』

 

 

 追加でこれだ。畳み掛けるのである。キショ過ぎて吐きそうだろ? 俺が女の立場でこんな事言われたら、去勢する勢いで金的してぶん殴ってるわ。それぐらい最悪な言い回しだ。

 だがシミュレーションとはいえこれはない。

 嫌われるのを狙ってやるならこれで正解かもしれんが、もしコイツが受け入れたら目も当てられん。

 じゃあどうすんのって話。こういう時、変に言葉をこねくり回しても逆効果だ。素直が一番だろう。

 

 

「なあバイオレット」

「はい、なんでしょうか?」

 

 

 仕事の話の流れをぶった切って呼びかけると、バイオレットはきょとんとしながら応じた。

 

 

「はじめてお前を抱いた時の事、覚えてるか?」

「……………はい、もちろんです」

 

 

 切り出すとバイオレットは暗い顔になった。あれはバイオレットの裏切り行為だったからだ。

 だがそんなこたぁ今となってはどうでもいい。

 

 

「俺はお前がRR軍のスパイだったって解っていた。っつーのもお前を紹介したあの人が人造人間にされてたからだ。俺はバイオレットがスパイだと解ってて傍に置いたし、お前がどんな目的で俺に抱かれようとしてたかもお見通しだった。要するに利用するためにお前を抱いたんだ、俺は」

「さすがです法師様、当時の時点で既に人造人間について把握しておいでだったとは」

「いや………そこはどうでもよくてだな。最後のとこ聞いてたか? 俺はお前を利用したんだよ」

「………それがどうしたのでしょう?」

 

 

 どうってなんだよ、どうって。

 心底不思議そうなバイオレットに、俺は顔を引き攣らせる。

 

 

「私はRR軍の狗でした。それに敵対するBS軍にいた法師様が、敵を欺くのは当然の事です。私はまんまと利用された間抜けで、体の関係を持ったからと法師様が気にする必要はないでしょう」

 

 

 道理ではあるが、抱かれた側がそれを言うのかよ。それでいいんか?

 

 

「法師様が被害者です。私としては、あの日の事は犬に噛まれたと思って忘れてほしいぐらいですよ」

「犬に噛まれたって……お前それ、悪い男が女を捨てる時に言う台詞じゃねえか」

「そうは言ってもその通りでしかありません。確かに私は心を入れ替えて法師様に尽くし、何もかもを捧げる覚悟を持っています。あわよくば法師様の寵愛をいただき、もう一度愛してもらいたいとも思っていますが………それはあくまで私が個人的に熱望しているだけで、法師様がそれに取り合う義務はありません。ですので私が目指しているのは、法師様にとって都合の良い女です」

「…………マジで言ってる?」

「本気です。法師様の望むことならなんでもします。人造人間計画の被験体でも、世間に公表できない非正規戦でも。私個人に打算がないとは言えませんが、私は私のためにそうしたいと思ってます。法師様が気に留める必要はありません」

「お、おう………」

 

 

 こ、こわい。ぐるぐるお目々になってるぞ。この子ってば完全に病んでるって。

 怖ぇよ。なんでこの子はこんな風になったの? 誰のせい? 俺? 俺なのか?

 嘘だろ。スパイのバイオレットを抱いた方が、色々と手っ取り早かったから抱いたんだが、それだけでこんな事になる? ヤバいじゃん、この子のメンケアとか俺には無理だ、普通に手に余る。

 

 早口で捲し立てたバイオレットに返す言葉を失った。

 無言でついてくる気配に恐怖すら覚える。

 基地、っていうか家につくと、俺は声が震えてしまわないように気をつけつつ口を開いた。

 

 

「バイオレット……今日はありがとな。組手また頼むわ」

「はい」

「じゃあ、仕事に戻ってくれ。俺はあがるわ。おつかれ」

「はい。今日もご指導いただきまして、ありがとうございました」

 

 

 逃げるように家の中へと早足で入る俺を、バイオレットは敬礼しながら見届ける。

 バイオレットはその後、すぐに離れて行った。指示通り仕事へ復帰するためだろう。人造人間化への施術明けからここまで、休暇という形で不在の日を埋めていた彼女には溜まってる仕事があった。

 

 家のソファーにどっかりと腰を落とした俺は、心の底からの溜め息をこぼす。

 

 バイオレットはもう駄目だ。なんであそこまで酷いことになってんのか皆目見当もつかん。

 主観じゃあもう何も判断がつかんから、客観視して自分の気持ちを整理した方が建設的かもしれん。

 まずバイオレットとの体の関係について。これはバイオレットも言ってたが俺に非はないはず。

 次に当時は未成年だったバイオレットを許し、傍で働くのを許したこと。これも非はないはず。

 そんで普通に上司・部下として働いていた今まで。バイオレットが独断で人造人間化した、と。

 

 

(ん………? 俺、何も悪くなくね………?)

 

 

 事実ベースのことを羅列してみたら、俺が悪い要素は特になさそうだった。

 じゃあなんでバイオレットがあんなことになってるのかを考えてみよう。

 RR軍のスパイとして役目を果たそうと、体を使ってまで努力したがバレて捕まった。でも許され、普通に働けた。事実を並べるとこうなるが、ここにどんな感情を計算に入れるとああなる?

 

 俺の顔はイイ。社会的ステータスもある。しかも強い。………もしや、自信過剰のナルシストっぽくて言い難いが、バイオレットの奴、普通に俺に惚れてて、なんやかんや拗らせただけのヤバ女なのでは?

 

 

(………アホくさ)

 

 

 そう考えると腑に落ちる。しっくりきた。

 肩から力が抜けて、さっきのとは違う種類の溜め息が自然と溢れる。

 ほんとにアホくさい。マぁージでしょうもないな。

 惚れた腫れたをバカにしてんじゃなくて、思い悩むのがアホらしくなった。

 

 もういいや。バイオレットが暴走したら遠慮なくしばこう。

 都合のいい女になるってんならバカな真似をすんなって叱ってやりゃあいい。なんなら拗らせメンヘラ女は趣味じゃねえって面と向かって言ってやろう。なんで俺が気を遣ってやらにゃならんのだ。

 

 ⸺⸺そう、割り切ろうとした瞬間だった。

 

 ぴんぽーん、とインターホンが鳴らされた。

 

 

「………!?」

 

 

 思わず肩をビクッとさせてしまう。

 まさかバイオレットが戻ってきたのか? なんで!? とビビってしまったのだ。

 

 

「おーい! 三蔵センセぇー!」

「お、おい、失礼だぞ悟空っ」

「いいっていいって、先生はこんぐらいじゃ怒んねぇから!」

 

「…………」

 

 

 外から聞こえてきたのは悟空少年の声だった。

 露骨にホッとしてしまう。

 安堵してしまった自分に失笑してしまいながらも、俺はソファーから立って玄関に向かった。

 

 

「………なんだ、誰かと思ったら悟空君とクリリン君じゃないか」

 

 

 玄関先にいたのは悟空とクリリン。俺の養成校で、すっかり仲良くなっていたらしい二人組だ。

 腰に手を当てて少年達を見下ろすと、少年達から感じる氣の陽気さに癒やされて頬が緩む。

 悟空は、おっす! と片手を上げて挨拶してくるが、クリリンは俺の顔を見てカチコチに固くなり、緊張した様子で頭を下げた。

 

 

「おっす! 先生は今日休みなんだろ? だからちょっと遊びに来ちまった! な、クリリン!」

「ば、ばか! 遊びに来たんじゃねえって! あっ、あのっ、三蔵先生に、今日はお願いがあって来ました……お、お時間のほう、だ、大丈夫でしょうか……?」

「………フッ。フフフ………あぁ、時間は空いてる。そんなに固くならなくてもいいぞ、クリリン君。丁度暇になったところだからね、俺にできることならなんでも付き合うよ」

 

 

 ホントですか! と顔を輝かせるクリリン少年に俺は微笑む。ああ……心が洗われる……。

 顔が晴れていく俺の様子に、なんとなく頼み事を快諾される予感を持ったのか、クリリン少年は物怖じしながらも勇気を振り絞って言い放った。

 

 

「で、でしたら……先生、お願いします! どうかワタクシ、クリリンを弟子にして下さいッ!」

「おう、いいぞ」

「………………へっ!? いいんですか!?」

「いい。そろそろ学校のカリキュラムじゃ、クリリン君も物足りなくなってくる頃だと思ってたしな」

 

 

 ぶっちゃけ悟空やクリリン達の間にある、清涼な空気を吸ってリフレッシュしたくもあったし。実利的な面に目を向けても、クリリンや悟空との関係値を深めておきたくもあった。

 

 目を見開き、全身で驚きを表現して、やったー! と喜ぶクリリン少年に俺は笑みを深める。

 

 よし。気を取り直していこう。善は急げだ。さっそく二人の要望に沿うとしよう。

 クリリンや悟空がどんだけ強くなっても、損はないからな。

 

 

 

 

 

 

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