【速報】ブルマ寝取ったったwww【悲報?】 作:粗品もんすたー
真っ直ぐだった。
愚直とも言えぬ真っ
駆け引きの余地がない、ただ真っ直ぐに突っ込む弾丸。人造人間らしいミラの初撃は、迷いや容赦がない一直線な突撃だった。地面に向かえば、体一つで星の貫通も容易く実現できよう。
音を置き去りにする突進の勢力、肉体から溢れる気力、小細工無しに拳を突き出す膂力。一分の狂いもなく放たれた拳打は、三蔵の繰り出した拳と激突し、凄まじい衝撃波となって地球全土を席巻した。
「っ………!」
少年達に稽古をつけた後、外出する予定だった三蔵の衣装はスーツにネクタイというもの。余波だけで容易に破れてしまいそうな衣服だったが、氣のオーラに防護されて一寸も裂けていない。
しかし初撃の激突により、三蔵の拳は明確に痺れ、赤黒く腫れてしまった。ミラの剛拳の威力は超サイヤ人の三蔵法師を凌駕している。ただ一撃を以て力の差が露呈した瞬間だった。
だからといって手を緩めるミラではない。拳の激突により体勢を崩した三蔵の隙を突き、ぴたりと張り付くように間合いへ飛び込むと、呵責のない剛拳を雨霰とばかりに浴びせかけ連打する。
例えるならば、秒間二十発以上もの弾丸を吐き出す短機関銃。毎分千発を優に超す拳弾の掃射。ミラの猛攻は顔面を、鳩尾を、人中を、肩を、腕を、胸を、一撃で破壊し殺傷し得るものだ。
一拳の余波だけで大地が震え、大気が引き裂かれ、繊細なマシュマロのような地球が怯える。
クソが。環境保護団体じゃないが、地球に気を遣えよ低能野郎。内心で痛烈な悪罵を浴びせた三蔵法師は、初撃で拳を砕かれていたゆえに受けに回った。顔を傾け、体を逸らし、躱し、残像しか追えない拳の猛雨を両腕を盾に巧みに捌く。掠めるだけで気圧されるのが道理と言える脅威を、氷山のように冷たく重い心と、炎のように燃える本能が生む集中力で見極め、一発の被弾すら許さず捌き続けた。
「こんなものか? 三蔵法師」
防戦一方の三蔵の耳に、落胆へ至る寸前の言葉が投げかけられる。そんな失望手前の言葉を、攻撃しながら投げられる余裕がミラの優位を物語るが、三蔵は完全にミラの戯言を聞き流していた。
言い返す余裕がないのではない。敵と言葉をかわす必要性を、1ミクロンも感じなかっただけ。
こうしてミラの猛攻を捌く中で、三蔵は淡々と分析し、解析し、
ミラが繰り出す剛拳。拳の感触は把握し、剛拳を逸らすために添えた腕や手首、肘に触れていた三蔵は触診を終えていく。直前に聞いたトワの口上をも材料に、冷徹な思惟を脳内に纏めた。
(⸺⸺肉体のほぼ全てが生体だな。だが体の中には機械もある。八割が生体、二割が機械か。心臓を含めて内臓は人間と同じ、肉体の骨格や神経系の伝達、氣の巡りを補助するために機械がある感じだ)
武術の達人は対峙した敵手の実力を見抜く。
そして武術の達人とは、人体の仕組みに精通した、いわば人体破壊の職人とも言える者。
エンジンの不調原因を、見ただけで洞察するメカニックのように、三蔵はミラの動作や意識の流れ、実際に触れた感触を通して、ほぼ完璧に不埒な襲撃者の肉体構造を掌握していた。
脳内にミラという人造人間の設計図を描き、構造を記憶しながら三蔵の目が妖しく光る。
掠めるだけで、受け流すだけで、両腕が破損していく感覚に苛まれながらも思考に淀みはなかった。
(コイツは俺を見定めてんな。俺がどんだけやれる奴なのか確かめてやがる。つーことはだ。仮にトワとかいう奴が言ってた未来人ってのが本当でも、俺の力は正確に把握できてないんだろ。教科書にでも載ってた偉人を、生きたデータで知ってはいねえ訳だ。でなきゃ様子見をする意味はないしな)
ミラから感じる氣は、SSJ1の三蔵では到底足元にも及ばない。ミラがその気ならば、たった一撃で瞬殺することもできるはず。なのにそれをしていないという一事だけで、『ミラは現時点での三蔵の実力を知らない』『ミラの戦闘センスは高いが、格闘技という観点では素人』『この攻防で自身の情報を盗られていると察せない知能』『己の力を高めたい欲望がある』という情報を三蔵は取得していた。
それだけではない。更に細かいところまで三蔵の情報収集の手は及んでいた。
動きの癖。視線の癖。肉体の頑健さ。内包する氣の量。武術の腕の高低。ミラにとっては様子見に過ぎない牽制に近い拳の連打だけで、三蔵はおおよそミラという戦士の底を見切りつつあった。
(コイツはまともに武術を学んでねえ。身体能力と、氣の多さ、センスでゴリ押すタイプだ。格闘の腕前に関してはズブのド素人。それでも大概の奴はセンスだけでどうにかできちまいそうだが)
戦闘力は三蔵に圧倒的な大差をつけてミラへ軍配が上がっている。
だがそれ以外の全て。
いや。戦闘経験を除いた全ては、三蔵に軍配が上がっていた。
氣の多寡と氣を操る気功術こそが強さの要訣である。しかし決して戦闘技術の価値が低いわけではない。純粋なセンスも勝敗を左右する要素で、武術の技や戦闘経験も物を言うだろう。
数値で例えるなら、戦闘力という名の氣の量はミラが百とし、三蔵を一だとして。
武術という名の、
そして鶴仙人や亀仙人の武の数値が百だとするならば、三蔵という肉体の才は七十を叩き出す。
氣の多寡によって戦闘力に差が出て、どんなに神懸かった技量を持つ達人をも、容易く殺してしまえるのが現実ではある。だが………ある程度でいい、ある程度、戦闘力が拮抗していれば。
勝敗を分かつのは、純粋な武の腕前だ。
「グぉ………っ」
ミラが初の足技、回し蹴りを放つ。胴を薙ぐそれを、片腕で受けた三蔵が吹き飛ばされた。
空中で縦や横に、斜めに位置を入れ替えながら攻防を繰り広げていたからだろう。光の速さで地面に叩きつけられた三蔵を、目で追えた者などどこにもいない。地球が悲鳴のような地響きをあげた。
砂塵が舞い上がり、クリリンが「あぁっ!?」と叫んだ。何が起こってたか全く分からなかったが、空中にミラがいて三蔵が消えていたことで、地面に叩きつけられたのが恩師だと理解できたのだ。
「この時代では破格の強さだが…………こんなものか。期待外れだ、面白くもない」
動きのない表情に落胆が表面化する。期待を裏切られたと失望する。
手前勝手な事情で一方的に襲い掛かっていながら、こんな事を吐き捨てても許されるのだ。
そう、強者なら。ただ強いだけで、どんな悪徳も容認されるのがこの世の摂理である。
「…………」
砂塵の中に埋もれ、巨大なクレーターの中心で倒れている三蔵は満身創痍だった。
ミラの剛拳を受け流し続けた両腕はボロボロ。筋繊維は断絶し、骨は折れている。回し蹴りの威力は殺人的で、内臓だって幾つも破裂していた。
だがサイヤ人の生命力、しぶとさは異常なものである。ショックで即死してもおかしくない重態でも意識を繋げていられ、そして意識さえあるならば三蔵は問題なく戦闘を続行できた。
死にはしないと判断できたから、一張羅であるスーツの方を重点的に守っていた。砂埃を跳ね返しながら立ち上がった三蔵は、半死半生だった肉体を全快させている。超能力による回復だ。
サイヤ人の肉体の打たれ強さと、もはや仙豆やナメック星人の回復術を凌駕するまでに成長した超能力の掛け合わせは、実質不死身と称しても名前負けしないしぶとさを三蔵に発揮させる。
立ち上がった三蔵は毛筋の先ほども動揺していない。闘争本能に衰えはなく、冷静な精神状態にほつれもない。取得した情報をもとに、武術の神の名に相応しい仙人達に次ぐ達人は確信した。
最悪
トワは知恵者なのだろう。なんらかの思惑があってぺらぺらと喋っていた。
しかし余計なことまで口にしている。彼女は時間を気にしていたのだ。
脇が甘い、詰めが甘い。
トワがどれほどの知恵者でも、こと外交力では海千山千の社交界を泳ぎきった、この三蔵法師の影も踏めていなかった。時間制限が迫っているなら………存分に、時間を使わせてもらうまで。
「カッ⸺⸺!」
気合い一閃。
三蔵は一息に自らの形態を先に進めた。
露わになった三蔵の姿にミラは目を見開いた。彼からするとSSJ2は既知の形態だ、しかしこの時代で既にそこまで至れているとは思ってもいなかったのである。明白にオーバースペックだ。
SSJ1の10倍はある氣の全てを肉体に収める。スパークする氣のオーラが消え、天候を狂わせる余波を完璧に律した。ゆえに地響きゼロ、空間の振動ゼロ、無欠の静謐だけがある。
更に玄奘法を発動した。界王拳もどき、三倍。全身の筋肉が隆起する、黄金ではなく赤いオーラが立ち昇った。しかしそれでも、これほどやっても、三蔵の氣は見事に抑え込まれている。相手に自身の戦闘力をわざわざ教えてなどやらない。超サイヤ人3一歩手前の氣を、SSJ1と同等までに隠し通す。卓越した氣のコントロールと、それを阻害する変身による精神の高揚を無にする超能力の合わせ技だ。
離れていたトワが顔を引き締める。注意深く観察する目に力が篭もった。
SSJ2の戦闘力は見当がつく、だが実際に感じられる氣が前段階と同じなのはおかしかった。
「面白くもない、か………なら面白くしてやるよ」
ニヤリと笑って投げかけた言葉すら三蔵の戦略だ。
戦士らしいミラの性格は掴めている、こう言えば敢えて受け手に回り先手は選ばんだろう、という。
「…………」
案に相違せず、ミラは落胆の無表情に微かな期待を滲ませた。予想外のSSJ2だ、少しは楽しめるかもしれない、と。まんまと罠に掛かる単純さを嘲笑うこともなく、三蔵は息を深く吸った。
これより行うのは一種の賭け。まだ体得には至っていない、全身全霊。
常時発動はできない、一瞬だけでいい。
先手を取り流れを掴むことだけを目的に⸺⸺自己催眠を全開にして己の心を固定した。
「スゥゥゥ⸺⸺……………」
吸ううううう。
吸ウウウウウゥゥゥゥ。
ぴたりと静止。
⸺⸺そして。
一気に、吐き出した。
「カァァァァァ⸺⸺⸺⸺ッッッ!!」
瞬間。
ミラは
「グホぉ!?」
さっきまでとの落差で、消えたと錯覚するほどの超スピード。光速を超えた、理外の突進。
地面を蹴る音は無。大気を裂く移動は虚。ミラの動体視力を振り切り、上空へ飛翔した三蔵が繰り出したのは、相手の右脇腹を抉る渾身の
メキッ、メギメギ、メキぃ………!
右脇腹を抉る鉄拳。肉を喰い、骨を砕き、内臓を拉げさせる豪拳。
吐瀉して苦鳴を漏らしたミラの体が『く』の字の形に曲がった。余りの威力にミラは吹き飛び、遥か上空に打ち上げられる。視界が明滅するほどの威力、ミラの敏捷性は一撃で殺された。
宇宙まで飛んでいきそうだ、ミラはなんとか急制動を掛けて踏み留まる。成層圏のギリギリ内側で、苦悶に歪んだ顔で眼下を見下ろすが、驚愕に歪んだミラの貌へ更に緊張が走った。
吹き飛んだミラを追って、七つの光が残像の線を引きながら追撃してきたのだ。
「金剛………圏、か………!!」
吐血して汚れた口許を拭う余裕は喪失していたが、黄金の球体の正体はすぐに見抜けた。
金剛圏。三蔵法師の代名詞とも言える必殺の奥義である。七つの内の四つが『どどん波』の光線を、四方八方を駆け回りながら放ち、残り三つが隙を見て『気功砲』を放り込む出鱈目な技だ。
この気弾の厄介なところは、撃墜しようにもそれぞれが独立した自我と知能を持つ点である。安易な攻撃は躱され、各々の気弾が連携しながら、侮れない威力のエネルギー波で波状攻撃してくるのだ。
肝臓打ちで動作が鈍り、一時的に戦闘力が落ちたミラでは、俊敏な金剛圏を追い切れない。
接敵するなり散開し、四方八方から光線を浴びせてくるのにミラは防御に徹する他なかった。
レバーブローのダメージが抜けるまで耐え切るのだ。格下と見ていた相手に痛恨の一撃を浴びた屈辱を晴らすため、なんとしても凌ぎ切る。上から、下から、前から、後ろから、角度を変え位置を移り、見舞われる『どどん波』に歯を食いしばる。さながら全身を金属バットで乱打されているかのようだ。
「………調子に、乗るなッ! ………ぬッ」
光線を躱して腕を振り、気弾を放って金剛圏を撃墜しようとする。だがミラが躱す先を読んで気功砲が
その間に三蔵が浮上し、成層圏まで上昇していく。金剛圏に嬲られるミラを眺めながら天に昇っていく様は、あたかもカメラマンに配慮しているかのようで、自らの優位を誇示しているようにも見えた。
大猿の力を引き出しての攻撃は、一度が限界だった。だがそれで十分である。SSJ2の力を三倍にした上で、大猿の力で更に十倍にした異常な戦闘力は、たったの一撃だけで採算が取れる。
むしろあの一撃をまともに食らって即死せず、肉体を貫通されないで、KOされる寸前のボクサーみたいな状態で踏み止まったミラの打たれ強さは異常だ。まるでサイヤ人のようであった。
しかも、短時間で復帰してしまいそうな気配すらある。ここで手を緩めては、またも形勢は逆転するだろう。三蔵にはここで一気に畳み掛けるしか選択肢はなかった。なかったが………やり方は、考える。
「………………!!!」
下手な反撃は下策と判断。気弾の撃墜は諦め、体を丸めて耐える。
耐えて耐えて耐え続けて、腹部の激痛が抜けるのを待つ。
消極的で弱腰な対処ではない、金剛圏の性質を知るが故の防御態勢だ。
金剛圏は三蔵法師の分け身。だがエネルギーで構成された球体は、氣を使い果たせば消滅する。弾切れを起こせば使い物にならない銃と同じだ、この猛攻も決して長くは続かない。
ミラはそうやって危地を脱そうとする。だが三蔵の気配が迫るのを感じて下を見た。
冷めた眼と視線が交わる。
侮りも、驕りも、遊びもない、機械の如き冷酷な視線。
ミラの背中を冷たい戦慄が駆け抜けた。
自らと同じ高さまでやって来た三蔵に注意が向いた途端だ。七つの光弾が残りの氣をフルに使って、捨て身の突撃を仕掛ける。防御に専念すれば大したダメージにはならないと割り切っていたミラの、意識の隙間を突いた巧妙な攻撃だった。
全身を殴打する光弾が炸裂する。苦悶の表情を浮かべなんとか踏ん張ったミラが気がつくと、自らの眼前にまるで手品のように一瞬で移動した三蔵が陣取っていた。
「三蔵ォォオ………!!」
ミラの戦闘力が復活していく。相手を格下と見縊ったばかりに貰ってしまった有効打が、彼の心から一切の慢心を拭い去って、目の前の敵は決して舐めてはならない強敵だと認識させたのだ。
大猿の力までも引き出した三蔵の一撃は、確かに効いた。あのまま同等の威力を持った攻撃に晒されていれば、ミラとて敗れていただろう。だがあの一撃以外も効いてはいたが、ミラの強靭な肉体にほとんどダメージを与えられていない。金剛圏による波状攻撃を浴びている最中にも、肝臓打ちによるダメージは徐々に抜けていっていた。一時的に低下していた戦闘力もほぼ万全に戻りつつある。
咆哮したミラが自らの必殺技を開帳しようとした。
三蔵は手を伸ばせば届く位置にいる、ゆえに気功波は使う隙はなく、超スピードによりカマイタチを纏った斬撃、『ピーラーストーム』をお見舞いしようとしたのだ。
しかし三蔵はミラの躍動を許さない。
動き出そうとした直前、動作の『起こり』を制する手刀がミラの喉を突いたのだ。
「おゴッ」
魔界の戦士は目を見開いて、嘔吐く。
視えなかった………いや、視えていた。視えていたのに反応できなかった。
縮地という武術がある。彼方から彼方へ瞬間移動する空想上の仙術ではなく、歴とした武技だ。
これは断じて超スピードによる速攻ではない。特殊な呼吸法と足捌きによって、相対した者の無意識領域へ侵入し、相手の視界の中に居ながらにして認識させない武術の奥義である。
ミラが力を解放しようと力んだ瞬間、目の前にいた三蔵は縮地の応用で距離を詰め、ただゆったりと手刀を突き出した。その全てをミラの目は捉えていたにも関わらず、取得した視覚情報を全く処理できなかった。言葉にすればそれだけの事。攻撃されているのに、他所事のように無視してしまったのだ。
機先を制されたミラの、力の解放は不発した。技の出も潰され、生物の反射として喉を押さえる。
隙だらけである。超サイヤ人2に三倍玄奘法を重ね掛けした三蔵の戦闘力は、現段階のミラより一歩劣る程度。成人したプロボクサーと、平凡な中高生程度の差しか両者の間にはなかった。
しかし技量の差でいえば完全にその逆。ミラが俯けた顔へ、三蔵の下から掬うアッパーカットが鋭く打ち込まれ、魔族は大きく仰け反らされる。鼻血を吹きながらたたらを踏んだように後退するのに、機械のような男は無言で張り付いて追撃に入る。
「ぉッ………クッ………!」
柔く握った拳が魔族の上半身を丁寧に穿つ。
練り上げた術理に沿い、貫くのは分かり易い急所ばかりではない。
氣が流れる気脈は血の流れる血管に等しく、気脈が収束する部位を点穴と称する。
点穴を突けば気功波を放つのを妨げられる。腕を動かし反撃しようとするのを、肩や肘を的確に殴打すれば、敵の動作を封じ棒立ちの案山子に貶められる。卓越した武術家とは敵の背に手術台があると定義し、自らの手脚は敵を解体するメスに見立てるものだ。一方的に、敵を殺すのである。
(こ、コイツ……!? コイツは……オレを、
何もできない。動けない。氣を解放できない。ミラの真価、全力の形態への移行も不能。
一定のリズムで奏でられる音楽に興じているように。ミラの体を楽器に見立てたかのように。三蔵という奏者は、ミラの挙動の悉くを制限して、リズミカルにその体を蹂躙していた。
本能的な恐怖からか、身を捩りながら魔族が逃れようとする。仕切り直したいのだろう、一度距離を稼ぎ、呼吸を整え、氣を解放できれば形勢を逆転できると理解している。戦士の勘で見抜いていた。
だが離れようとする魔族に、男はビタリと密着して絶対に逃さなかった。幾ら受けるダメージが低かろうと、正確に急所や点穴を攻撃され続ければ、如何に強壮な戦士にも負債が蓄積する。それは三蔵にとってこの戦いにおける財産だ、どちらの資産が上回るかを競う人生ゲームとも言えた。折角の稼ぎ口を無意味に手放すバカはいない。いたとしても、自らの優位に増長したサイヤ人ぐらいなものだ。
数分前の光景の焼き直しのようだった。
一方がもう一方を、ひたすらに殴りつける。ただしその役回りは逆転していた。
暴が武を制圧していたのが、武が暴を組み伏せている。
異なるのは………武は暴の猛攻を捌いていたのに対し、暴は武に滅多打ちにされ流血している点。
そして三蔵法師はサイヤ人としては異常なほど冷徹で、冷静だった。
より確実に敵を詰ませるために、ミラの顔に掌底を叩き込んだのと同時に手札を切ったのだ。
「太陽拳」
「⸺⸺⸺」
声も出ない。三蔵は掌から指向性を持った、莫大な光を迸らせたのである。
それによりミラの目が光に焼かれ、物理的に何も視えなくさせられた。もはや防御もままならない。
(ま、
時間にすればたったの数分。しかしながら三蔵もまた毎分千発を超える拳打を撃てる。数分も殴られ続けるという事は、すなわち三蔵法師から数千回、下手すれば一万回近く攻撃を受ける事を意味した。
勘だけで凌ぐなんて無理がある。上に、下に、左に右にと頭が跳ね回され、全身が腫れ上がっていく中で、ミラはかつてないほど自らに迫る死を感じていた。死の輪郭が、徐々に鮮明になっていくのを。
鉄の男がミラの耳に指を突っ込む。指先に乱回転する小さな球を形成しながら。光線ではなく弾丸として組み直した『どどん波』だ。咄嗟に頭を傾けても回避できない、頭の一割が弾け飛ぶ。
死ぬ。死ぬのか。
死は………怖くない。だが敗けるのは………怖い。敗北が、ひたすらに怖かった。
このままでは壊され、解体される。生まれながらの強者であり、暗黒魔界の王になるべく造られた己が………宇宙一の、最強の生命に君臨するはずの自分が………こんな時代の、三蔵法師などに敗けるのだ。
(なぜだ。なぜオレが………)
なぜ戦闘力で己の足元にも及ばぬはずの敵に、こうまで圧倒されて殺されそうになっている。
なぜ自分はまだ全力を出していないのに、されるがまま殺されそうになっている。
三蔵が聞けば鼻で笑うだろう。戦闘力だけで勝てるなら苦労しねえよ、と。敵がわざわざ真価を発揮するのを待つほどバカじゃねえよと。しかしミラという戦士にとって、受け入れられない戦いだった。
三蔵が認められないのではない、ただ全力を封じ込められている自分が許せなかったのだ。
(ま、敗ける、ものか………!!)
掠れ、薄れていく意識の中。
血飛沫が舞い、骨が折れる音の中。
ミラの中に、闘志が宿った。窮地に陥った真の戦士だけが持つ、魂の燃料ともいえる業火が。
「お、レが………オレがァッ! 敗けるかァ!」
「!!」
血を吐きながら飛び出したのは、意地とプライドをブレンドした本物の気迫。
どこか超然とし、他者を弱者と見下していた、生まれながらの強者には持ち得ないはずのもの。
ミラは骨の髄まで理解させられていた。戦闘力という氣の量なら遥かに凌駕している相手に、こうまで一方的に嬲られているのは⸺⸺純粋な武術の技量という一点で、遠く及んでいないからなのだと。
氣の多さ。肉体の強さ。戦いのセンス。勘。これらを覆し得る重大な要素を魂に刻まれた。
だがそれでも、勝つのはオレだとミラの魂が叫んでいる。
三蔵が浴びせる殺戮の拳を食らいながらも、ミラは自滅覚悟で無理矢理に氣を解放する。数百回もの連打で点穴を突かれ、気脈が閉ざされていたゆえに、ミラの行為は自殺と同義な暴挙だった。
さながら細い血管に大海原の海水を丸ごと流し込むかの如き所業。破裂しないわけがない、事実としてミラの肉体は内側から決壊し、肉片と血を撒き散らした。
「ブッ!?」
だが決死の一撃は確かに届いた。咄嗟に両腕を交差して受け止めようとした三蔵の防御を抉じ開け、ミラの剛拳がその腹筋に直撃したのだ。途方もない破壊力は三蔵を吹き飛ばし地表へと叩き落とした。
「ハァ………はぁ………ハァ………」
肩で息をするミラは半死体。体の至るところが裏返り、血に染まった肉と骨を露出している。
一万にも届き得る、度重なる打撃の雨はミラの戦闘力を通常の超サイヤ人程度まで削り切り、後少しでトドメを刺されてしまっていただろう。
だが………そんなミラは、怒っていた。憤怒し、激怒していた………己の不甲斐なさに。
彼の髪が逆立つ。白目が赤く染まる。無事なところなどないが、肉体からは氣が溢れ出ていた。
覚醒。
この期に及んでまさかの進化だ。彼の体に宿るサイヤ人の細胞が反応し、彼を超化させたのである。
「ミラ……!?」
焦燥に駆られた魔女が駆けつける。トワだ。
彼女にはミラを癒やす力があったが、一目でミラの状態を洞察して息を呑む。
生きているのが不思議な状態だ。如何に優れた魔法を扱えるトワであっても、ここまで死にかけていてはすぐには治せない。ましてこんなところで悠長に回復させてる場合でもなかった。
時間を掛けすぎているのだ。そして、それだけじゃない。
地面に叩きつけられる寸前、舞空術で持ち堪えた男が、再び舞い戻ってこようとしている。
「………この爆発力。舐めてなかったんだが………いい勉強になった」
ほぼ動いているだけの死体と化してなお、超サイヤ人級の戦闘力がある。しかもふざけたことに覚醒までして、戦闘力が超サイヤ人2の領域に届いていた。あんなボロボロの姿で、だ。
土壇場で覚醒する敵など冗談ではない。ここで確実に殺しておかねば、もしまた襲われた際に勝てる自信が三蔵にはなかった。半死人であれだけの戦闘力を持つなら、全快されるととても敵わない。
大猿の力を使いこなさないと、戦いを成立すらさせられないだろう。だから………殺す。今、ここで。
全力で飛翔する三蔵にダメージは皆無。カウンターの形で食らった剛拳も無意味にした。
三蔵法師は即死さえしていなければ無限に復活する、理不尽な継戦力を発揮するのだ。
その不死性は、魔人ブウに次いでいる。
「ミラ、退くわよ!」
「ふ、ふざけるな………オレは、逃げん………!」
「馬鹿言ってるんじゃないわよ! そんな状態で戦う気!? 殺されるだけよ!」
トワは戦慄していた。まさかこの時代ですら、三蔵法師がここまで強いとは予想外だったのだ。
意地でも戦おうとするミラに驚きながらも、トワはその反抗を許さない。
「時間切れよ。このまま三蔵と戦っても、タイムパトロールが介入してくるわ。三蔵法師は一対一に拘るような奴じゃない、連中と一緒に袋叩きにされてもいいの!?」
「…………チィッ。…………三蔵法師、次は………敗けんぞ………っ」
舌打ちして、ミラはトワの決定に服する。
トワが杖を振るう。すると、二人の姿が掻き消えた。
三蔵が再び舞い戻った時には、二人の魔族はどこにもない。
「…………ハァ」
溜め息。
逃したか、と三蔵は吐き捨てた。
手札のほとんどを晒して、殺し切れなかったとは………とんだ失態だ。
切り札はあったが、それもここにはない。
もしこれが奇襲ではなく、三蔵側に準備期間があったら、こんな醜態を晒さずに済んだものを。言い訳みたいで言いたくないが、次があるなら、いや………次はあるものと想定し、その時は上手くやろう。
にしても。
「これが、戦いか」
修行や組手からでは得られない経験。養殖された食材ではなく、天然物の食材を手に入れられたかのような感動に、サイヤ人の体が喜んでいるのが分かった。求めていたのはこれなのだ、と。
戦いを楽しむつもりはないが、体の方は純粋に愉悦している。ならばやはりいい勉強になった。
もっと強くならないといけない。もっと鍛え、もっと突き詰めていこう。三蔵はそう決心した。
しかし………⸺⸺
三蔵は内心首を傾げていた。
奴ら、というよりトワは時間を気にしていた。
なぜ? ミラの継戦力に不安があったのか、はたまた時間跳躍には条件があるのか。
あのまま続けていればミラは確殺できた。だがトワという未知数の存在が手を出してくれば、幾らでも状況を覆す余地はあったはず。少なくとも三蔵なら慎重になり、迂闊な手出しはしなかっただろう。地球側でまともな戦力は三蔵だけだ、あの状況からでも二対一で掛かられれば敗色濃厚だった。
なのになぜ撤退した?
どうしたものか。三蔵がそう思惟を働かせると⸺⸺まるで彼に答えを与えようとするかのように、三蔵のすぐ近くで再び空間が捻れるのを感知した。
「…………!?」
三蔵は瞬時に身構えた。
任意の時間に任意のタイミングで時間跳躍ができるなら、最悪の事態が想像できる。
トワが任意の時間に跳べるなら⸺⸺たとえばここから未来や未来にでも行って、たっぷり時間を掛けて全回復してから、ここに戻ってくればいい。そうすれば簡単に三蔵を倒せるだろう。
その最悪の一手を警戒して、三蔵は解除していた戦闘態勢を取ったのだ。
しかしそもそも論、敵魔族の狙いが三蔵の殺害だったなら、トワが無駄なお喋りをする必要はない。戦闘をおこなう理由がない。最初から三蔵が強くなる前に、地球ごと破壊してしまえば済む話だ。
だが三蔵といえど、この一瞬ではそこまで考えが及ばなかった。今はただ予想できた事態へ警戒し、もしも予想通りの展開になった場合、どんな打開策を打つかを考えるのに思考のリソースを割いた。
けれど彼が想定した事態は訪れなかった。
瞬間移動じみて、こつ然と現れたのは二人の男達だったのだ。
「っ………!? ほ、法師様………!?」
「ああ? なんだ、ミラの野郎はどこ行きやがった」
一人は
もう一人は⸺⸺孫悟空によく似た風貌の男だった。黒い癖髪が特徴的で、左頬に☓印の古傷が刻まれており、赤いバンダナを額に巻きつけた姿は、まさしく歴戦の猛者といえる風貌だ。
二人ともが凄まじい氣を内包しているのを肌で感じ、三蔵は浮き足立ちそうな心を鎮める。
コイツらは………敵か? それとも………。
若者の方には
「何
誰何する声は絶対零度の冷気を帯びていた。
おっ? と悟空に似た男が関心を向け、次いで面白いとでも言うように口角を上げる。
やろうってのか? という、男の輩じみた態度に慌てたのは若者だった。
「ま、待って下さいバーダックさん! ここでこの人と戦っちゃ駄目だ!」
「チッ………なんでぇ。ならどうしろってんだ、コイツはオレ達を逃がす気がなさそうだぜ」
バーダック。………知らない名前だ。そんなサイヤ人がいるのか?
若者に敵意はなさそうだが、話ができるならそれに越したことはない。
冷淡な目で観察されていることに気づいているのかいないのか、若者は確信を持って断言した。
「大丈夫です、法師様は話せば解ってくれます」
「………」
「そうかよ。じゃあさっさとするんだな、オレは知らん」
あたかも三蔵のことをよく知っているかのような口ぶりだ。
ますます分からん………分からんが、どうやら対話をする気はあるらしい。三蔵は戦闘態勢を解いて、若者の方へ向き直った。
「もう一度聞いてやる。テメェらは何者だ」
ゼノバースの主人公枠はバーダックでいいや。エピソードオブバーダックの後、トキトキ都に転移しちゃった感じで。
そんな雑な感じでいきます。
ミラはしばらく復活に時間が掛かる重傷。トワの治癒の力も焼け石に水ってぐらいヤバい。当分の間、潜伏していることでしょう。
ただし傷が癒えた時、ミラは以前より格段に強くなっている模様。
次回、謎の少年の告白……!