迫真バディ部・天使の裏技   作:天使ξ紳士

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第1話:天使の悪魔と新しいバディ

「天使くん、今日からの新しいバディを紹介するね」

 

 デビルハンター東京本部。

 石造りの重厚な建物の一室にて。

 

 ボクは上司から呼び出されていた。

 

「はぁ……。バディって、次は一体誰と?」

 

 ボクは気だるげにそう問い返してみせる。

 

 また新しい人間? どうせ直ぐ死ぬのに。

 

 そうだ、人はとても脆い。

 ボクは何度も『死』を見送ってきた。

 それなのに、同じことの繰り返し?

 

 だけど上司の命令には逆らえない。

 ボクは半ば諦めたような表情を浮かべた。

 

「入ってきていいよ」

 

 上司の声に従い、人間の数が一つ室内に増える。

 

「おっす、お願いしま〜す」

 

 軽いような、まだ若い男の声が耳に響いた。

 そしてぬっと扉が閉まり、その姿があらわになる。

 

 チョコアイス色の肌に、筋肉質な身体。

 健康そうな人間が一人。

 

「彼の名前はね、鈴木くん。君の新しいバディだよ」

 

 名前なんてどうでもいい。

 きっと覚える必要もなく、忘れてしまうから。

 

「ええ……。わかりましたよ」

「オッス、おなしゃすセンセンシャル!」

 

 意味不明で元気な挨拶だった。

 ボクは面倒くさげに、ただただ頷いた。

 

 どうせ、この人間も直ぐに死ぬ。

 

 

■ ■ ■

 

 

 そうして上司から解放されたボクは……いや、ボクとそのバディは早速、仕事現場に向かっていた。

 

 公安のデビルハンター。

 ボクも所属するこの組織の仕事は、主に民間で扱いきれなかったりする、強い悪魔を狩ることだ。

 これは必然的に、殉職率が高くなる要因である。

 

「はあ……」

 

 夕方の霞がかった都心。

 街路樹の隙間から薄い風が吹き抜ける。

 

 ボクは歩幅をできるだけ小さくする。

 どうもこうも、歩くのは疲れるから。

 呼吸をするのも、正直、少し面倒だ。

 

 そしてボクの隣にいるコイツ。

 この相手をするのも面倒なことだ。

 

「それで、天使くんには彼氏とかいないの?」

「いるわけないじゃん」

 

 人間ってのはどうも、色恋に興味がある。

 前のバディもこんなこと言ってたっけか。

 まあ、全部どうでもいいことに思えるが。

 

「え、じゃあつまりレズってこと?」

「……はあ?」

 

 一体何を言い出すんだこの人間は。

 

 ボクは思わず足を止めた。

 そいつの顔をまじまじと見つめる。

 

「ん? どうしたどうした?」

 

 短く刈り込んだ髪。

 野獣のように鋭い眼光。

 そして快活な笑み。

 

 ボクの声は自然と低くなった。

 

「レズって……何を言っているんだ君は」

「あっ、ふーん(察し)。バイセクシャルね」

 

 今まで面倒くさい人間はたくさん見てきた。

 でも、唐突に変なことを言い出すヤツは珍しい。

 頭のネジが外れてるとでも言おうか。

 

 とはいえ、ボクは天使の悪魔だ。

 悪魔にとって人間の性欲なんて、ただの煩わしい感情のひとつに過ぎない。

 だと言うのに……。

 

「ほらほら、正直にいってほらほら」

 

 こいつ、シツコイ。

 

「ホラホラホラ!」

 

 人間は、ボクの肩を軽く叩いた。

 ニヤニヤしながら好奇の視線で。

 ポンポンと制服越しのその感触も。

 それが、少しイラッとする。

 だから警告も兼ねてボクはこう言うのだ。

 

「ボクに軽々しく触れない方がいい。なぜなら君の寿命を吸い取っちゃうから」

「ふぁっ⁉︎(驚愕)」

 

 驚いた様子の人間。

 彼がブンブンとこちらの身体を揺さぶってくる。

 触ったら寿命を吸い取ると脅したのに、積極的にボクの身体に触れてくる。

 

 もしかして、コイツ……バカか?

 さっきの言葉の意味を本当に理解しているのか?

 

「やべえよ……やべえよ……。114514万年くらい吸われてたらどうしよう(≒ 4179億7610万日)」

 

 うん、コイツはバカだ。

 人間はそもそも、そんなに長生きしない。

 というか、何だその年数は。

 意味不明にも程があるだろう。

 

「はあ……早く行くよ」

 

 ボクはため息をついて、再び歩き出した。

 直接触ってないから、0年だということは暫くの間、コイツには内緒にしておこう。

 教える価値もなければ理由もない。

 どうせ、気づく前にはもう死んでいるだろうから。

 

 夕方の街は賑やかだ。

 その喧騒が、ボクにはどうも合わない。

 都会は忙しくて、息もゆっくりできない。

 

「……ふう」

 

 

■ ■ ■

 

 

 悪魔狩りの現場。

 

 それは、この先の廃墟になったビルだ。

 対象の悪魔はそこに潜んでいるらしい。

 通行規制のテープを、公安の印を示して通る。

 

 ボクにとって日常の仕事だけど、毎回毎回、面倒くさいものは、面倒くさい。

 考えてみれば分かるだろう?

 毎日同じ味のアイスティーを飲んでいたとしたら、いつか必ず飽きは来る。

 それとこれは、両方とも似たようなものなのだ。

 

「Foo↑ 到着〜^」

「…………」

 

 そしてこの『面倒』をさらに『超面倒』にしているのが、この煩わしい人間だ。

 

 気が合わない、やる気に満ち溢れている。

 一体どうして上司はこんなのをボクのバディに選んだのだろうか?

 ボクとは全くの正反対な性格だというのに。

 

 ボクはちらりと、ヤツに目を向けて見た。

 

「あっ(唐突)、天使くん。今俺のことチラチラ見てたでしょ?(確信)」

 

 チッ……目が合ってしまった。

 徹底的に無視しておけば良かったのに。

 無駄なことをしてしまったものだ。

 

 ボクは気怠げに目を逸らして返答する。

 

「見てない」

「嘘つけ、絶対見てたよな〜?」

「見てない」

 

 これだから、余計なことはしないが吉なのだ。

 しみじみと怠さを自分でも感じてしまう。

 これから悪魔狩りの仕事だと言うのに……全く。

 とっとと任務を片付けて帰ろう。

 

「ほら……もうボクは先に行くよ」

「おっ、ちょっと待ってくださいよ(追いかけ)」

 

 廃ビルに侵入し、中の様子を伺ってみる。

 どこに悪魔が隠れていることやら……。

 暗室の中、目を凝らして探して見る。

 

 ——途端、視界が白く染まった。

 

 反射的に翼が自身を守るように展開される。

 急な敵襲に見舞われても、己を守るためだ。

 

 ……が、何も起きなかった。

 

 それもそのはず。

 コレは敵襲などによるものではない。

 犯人は……。

 

「おい人間……このボクの目に照明を当てるなんて、いい度胸してるじゃないか」

 

 人間からのイタズラであったからだ。

 

「おっ、バッチェ明るくなりましたよ!」

 

 暗室を照らして大きな声をあげている人間。

 

「……」

 

 ふつふつと、静寂ながらも怒りが込み上げてくる。

 握り拳に力をこめて、素早くエネルギーを放った。

 

「ゔぉえ!(激痛)」

 

 カランカランと音を立てて細い筒状のライトが地面に転がり弧を描く。

 人間が急所……みぞおちを抑えて横たわっていた。

 

「ふん……」

 

 ざまあみろってモンだ。

 軽く蹴ってみて、ちょっとだけ溜飲が下がった。

 

「ヲ!ヲ!ヲ!ヲ!(哀叫)」

 

 よし、この人間は放置しよう。

 ボク一人でも悪魔の処理はできる。

 さっさと、やることやって帰る。

 ソレだけにボクは集中すればいい。

 

 コツンコツンと階段を登っていく。

 無防備にも横たわっている人間を尻目……に?

 

 ヌルっ。

 

「置いてくとかやめてくれよな〜(復活)」

「わぁ⁉︎」

 

 つい、情けない声をあげてしまう。

 先ほどまで一階に倒れていたヤツが、気づけばいつの間に隣に平然と立っているのだ。

 ボクの驚きも仕方のないものだろう。

 

「どうしたどうした? そんな驚いたような顔なんかして。あっ、天使くんもしかして……女の子の日?」

 

 ムカつく……!

 

「まあ女の子ならね、多少はね?」

「…………」

 

 ——瞬。

 

 ボクは再び、拳を叩き込まんとする。

 今度こそ急所を狙って、確たる意思をもって。

 

 が、しかし。

 

「ちょっ、天使くん⁉︎ 仲間割れはマズイですよ!」

「……止め、られた?」

 

 ボクの渾身の一撃は、人間の制服をまとった片腕によって呆気なく無力化された。

 点一秒もない、必殺の速度だったのだが。

 

 コイツ……思ってたより強いのでは?

 そんな思索をしている最中。

 

「しょうがねえなあ……じゃあブチ込んでやるぜ!」

 

 視界の隙で、僅かに人間の腕がブレた——。

 それにボクが危機を察知して回避しようとし……。

 

 ——ぺしんっ!

 

 それよりも速く。

 ボクのお尻に、人間の手が神速で叩き込まれた。

 

「ひゃっ⁉︎」

 

 変な声が漏れる。

 それは廃ビルを木霊するように響き渡った。




天使の悪魔のプリティプリン
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