狂人の面を被った小者   作:狂乱者

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第十一話「潜入調査」

 

 Dr.スタイリッシュ。

 帝都の学者にして、イェーガーズの一員。あとオカマ。

 帝具「神ノ御手 パーフェクター」を持つ人物であり、マッドサイエンティスト。

 そんな彼は、単独でナイトレイドのアジトを発見し、奇襲を掛ける。

 様々な部下、毒、自らを危険種に変える薬などを使い、ナイトレイドを苦しめるも、

 とうとう一人の犠牲も出せず、自分がイェーガーズ、最初の犠牲者となってしまう。

 しかし、彼の奇襲により、アジトの場所がバレたナイトレイドは、新たな拠点に移動せざるを得なくなる。

 その過程で本部から来た、新たな仲間「スサノオ」と「チェルシー」を加え、合計八人となったナイトレイドは、新アジトが見付かるまでの、潜伏地点へと移る。

 

 そこでナイトレイドは態勢が整うまでの間、鍛錬に励む。

 マーグ高地と呼ばれる秘境にて潜伏している彼らは、空気が薄い状態での鍛錬により、効率良く、己のレベルを上げていく。

 同時に新入りであるスサノオ、チェルシーとの親睦も深め、コンディションは徐々に整っていく。

 

 

 一方、世間では新型危険種という大柄な人型危険種が発見され、帝都周辺の民家や人々を襲撃する様になっていた。

 イェーガーズはこれらの殲滅に日々、奔走している。

 

 

 暗殺組織、特殊警察組織、二つの組織が互いの目標に向かい、精進している頃、狂人は欲望の赴くままに視察に繰り出していた。

 二人の手駒を失ったにも関わらず、帝都北側への視察と題し、イリス、残りのギャオスと共に北へと向かう。

 流石にエスデスも危険と判断したのか、「クロメ」を護衛に付け、合計、六人となったパーティ。

 彼らの目標は……

 

 

 

「あー……ったく。暇でしょーがねぇ……でやがります」

 

「くひゃひゃひゃひゃひゃ! クロちん。お菓子食べる?」

 

「貰う」

 

「父様。母様。足元が歪んでおります。お気を付けて」

 

「ふわぁ……眠いなぁ……」

 

「………………」

 

 戦闘をクロメが務め、そのすぐ後ろにイリス、ジーダス、Z、Bと並び、殿はアルビノが着く。

 険しくも、木々が生い茂る山道を登り、目的地である北の異民族の拠点を目指す。

 今回もオネストに提供する食料の確保と、適当な怪画材料の調達が主な目的である。

 尚、Vは留守番をしている。

 

「ふーむ……しっかし、どいつもコイツも使えねぇ……ですねぇ。いや、本当」

 

 大樽を背負い、そこからチューブで酒を飲みながらも、汗一つ掻いていないジーダスは、後頭部を掻きながらぼやく。

 遂にJとGが死んだのだが、彼は少しも表情を変える事無く、淡々とその事実を受けいれた。

 いや、舌打ちはしていたが。

 

「クロちんは私と違って使える子だねぇ~。可愛い可愛い! んにゃははははは!」

 

「どうも」

 

 やたらと触ってくるイリスをジト目で見ながらも、クロメは周囲に気配がないか、敏感になる。

 

 

「……止まって」

 

「ほえ?」

 

 クロメが急に立ち止まる。

 気が付けば、複数の気配が彼らを取り囲んでいた。

 周囲の森の隙間から、大型な人型の化け物が姿を現し、六人を睨む。

 巷で有名になっている人型危険種たちである。

 

「ほう」

 

「………………」

 

「ふーん」

 

 各々に反応する中、クロメは八房の柄に右手を沿わせ、構える。

 だが、その前にジーダスがクロメの前に立ち、手で制止を掛け、後方のZに命令を下す。

 

 

 

「Z。殺せ」

 

 

 

「承知しました」

 

 主の命を受けた神父服を身に纏っていたZは、格好に相応しくないエレキギターを背中から外し、手に持つ。

 同時に、クロメを除いた全員が耳を防ぐ。

 

「?」

 

「あぁ。クロメさん。耳を塞いだ方がいいぞ」

 

「分かった」

 

 ジーダスの言うがまま、耳を塞ぐクロメ。

 危険種たちは隙だらけの六人を殺すべく、駆け出す。

 醜い殺意に犯された獣たちは、脱兎の如き速度で彼らに迫るも、それよりも早く、耳を劈く音が、危険種たちの脳内に響き渡る。

 

 無言ながら、激しい動きでエレキギターから音を奏でるZ。

 アンプが無くとも、凄まじい音を出すエレキギターはZの帝愚である。

 やがて凄まじい音にやられたのか、危険種たちは次々と前のめりに倒れていく。

 演奏を止めると同時に、全員は耳から手を離し、音を聞き入れる態勢を整える。

 

 

「…………クソが」

 

 

 演奏直後、言葉を発したのはZであった。

 先程までの大人しい少年の性格は鳴りを潜め、そこには血走った目で、倒れている危険種を睨む、狂人の性格が出始めていた。

 

「……俺を……お、俺を! 俺をそんな目で見るなァァァァァッ!!」

 

 突如、発狂した様に叫び声を上げたZは、エレキギターを振り被り、目の前にいた危険種の身体を滅茶苦茶に叩いていく。

 そこには美しさや凶暴さなどは微塵もなく、ただただ、恐怖に囚われた少年が泣き叫びながら、眼前の生物を肉塊へと変化させていく様子だけがあった。

 

「あれは……?」

 

 Zの豹変に首を傾げるクロメに、ジーダスが丁寧に解説を加える。

 

「Zの持つ帝愚「仮死楽器 ジグラ」はスタイリッシュによって作成された、帝具「スクリーム」の下位互換とも呼べる代物だ。効果は単純、「聞いた者を仮死状態にする」それだけだ」

 

「帝愚……?」

 

「あー……それの説明は後ほど……面倒くさいですねぇ……ともかく仮死させた後は、自由自在。好きに出来るんだが、アイツは仮死状態の生物が「自分を馬鹿にしている」っつー被害妄想に囚われているから、あぁやって発狂しながら殴り殺すんだわ」

 

「被害妄想……ね」

 

 

「俺の側に近寄るなあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら、横たわっている危険種全てを殴り殺す事、数分。

 全てを肉塊へと変えたZは大きな溜息を吐いた後、爽やかな笑顔に戻り、ジーダスに一礼をする。

 

「終わりました。父様」

 

「ご苦労さん。んじゃ、行きましょうか」

 

 足元の肉塊を横に蹴り飛ばし、ジーダスは何事も無かったかのように、歩を進める。

 他のメンバーも同様に歩き始めるが、クロメだけは彼らの異常さに、僅かながらの恐怖を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジーダス・ノックバッカーを仕留める」

 

 ナイトレイドのボスであるナジェンダの一言により、新入りのチェルシーは帝都内にある、ジーダス邸の側まで移動していた。

 配下を二人失い、イェーガーズが新種の危険種の殲滅に動いている間こそ、ジーダスを討つ好機だと踏んだためだ。

 そのためには、彼の「秘密」とやらを知る必要がある。

 そこで抜擢されたのが、変装の帝具「ガイアファンデーション」を持つチェルシーであった。

 現在、ジーダス一味は北へと視察に出掛けているため、今の内に自宅地下へと潜入し、情報を得てくる事が、彼女の仕事である。

 一応、荒事になった時のためラバックも帝都に向かっている。

 タツミはエスデスに見付かると厄介なため、レオーネはGが生きていた事により、顔がバレている可能性があったため、まだ割れていないラバックが選ばれた。

 二人はジーダス邸の側まで移動し、ラバックは近くで待機、チェルシーは変装し、ジーダスに成りすまして、地下へと潜入、といった形を取る。

 

 

 

 

 

 

 

「(ジーダス・ノックバッカー……仲間の仇だからね。隅々まで調べさせて貰うよ)」

 

 ジーダスに変装したチェルシーは、かつて地方のチームの一員であったが、自身が任務で出掛けている最中に、ジーダス一味によって仲間を全員、売り飛ばされた過去を持つ。

 故に、彼女はジーダスに恨みを持っている一人なのだ。

 だからといって、感情的になる事はなく、彼女は暗殺者として、静かにドアを開ける。

 

「(鍵が掛かってない……ラッキー)」

 

 家の中に入り込む。

 近くの民家の影からはラバックが顔を除かせて、チェルシーの行動を見守っていた。

 

 

 

「(まずは地下室への入り口を探さないと……)」

 

 不自然に辺りを見回さない様に、あくまで自然を保ちながら、彼女は部屋の探索を開始する。

 まず入ったのは食堂。

 綺麗に掃除の行き届いた食堂では一人の少女が、おやつの果物と紅茶を飲みながら、のんびりと過ごしていた。

 

「あら。主様。お早いお帰りで」

 

「あぁ。V。ちっと用事が早めに済みやしてね」

 

 最初にして最後の鬼門。

 留守番をしているVの情報は入っていたため、彼女にバレない事こそが、今回の任務の鍵である。

 チェルシーの内面に冷や汗が垂れる。

 だが、彼女の不安を他所にVこと、シスター風の服装をした少女は立ち上がり、台所へと足を運ぶ。

 

「今、お茶を用意しますね」

 

「いや。今日は遠慮しておきやすよ」

 

「そうですか……分かりました。所で、他の皆さんは?」

 

「珍しく帝都を見て回るとのことで……」

 

「本当に珍しいですね……承知しました。私は此処にいますので、何かあったら申し付けて下さいね」

 

 閉じられた瞳のまま、微笑みを作るV。

 チェルシーはバレていない事に安堵の息を吐くと、そのまま地下室への入り口を探すため、台所を出る。

 

「(地下階段の情報を引き出そうかとも思ったけど……下手するとバレるしね。ここは自力で探すしかないか……)」

 

 廊下を歩き、側面にあるドアを開けていくチェルシー。

 部屋の殆どはギャオスの私室になっているらしく、それぞれの趣味思考が凝らされた部屋になっていた。

 しかし、今のチェルシーにギャオスの事を調べている暇はない。

 そうして5分ほど探し、ようやく怪しげな扉の前に辿り着く。

 

「(いかにも……って感じだね。ここかな?)」

 

 ドアノブを掴み、捻ると木製の扉は鈍い音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。

 鍵が掛かっていた場合は、Vから鍵の在り処を聞き出す覚悟もしていたが、それをしなくて済んだ事に、とりあえず安心する。

 

 目の前には石で出来た階段が見え、地下へと続いている。

 冷たい風と何処か血生臭い臭いが、彼女の顔に吹きかかる。

 

「(よし……当たり)」

 

 階段を降りつつ、扉を閉め、彼女は地下一階へと向かう。

 

 

 

 

 階段を降りると、石畳の床と小さなランプが置かれた小部屋に辿り着く。

 小部屋には二つの扉があり、片方を除くと大量の大樽と瓶に入った透明な液体が広がった大部屋となっており、もう片方は医療器具や実験器具が大量に配備された部屋であった。

 

「(これがシェーレって人が言っていた、実験室と保管部屋か……)」

 

 地下一階の情報はシェーレが死の間際に残した言葉により、ある程度の情報は得ていた。

 今回の潜入は彼女の情報があったからこそ、成し得た所業とも言えよう。

 まずは保管部屋に入るものの、本当に酒と薬以外は何もないため、早々に切り上げ、次に実験室に入る。

 ベッドやら机やら置いてある実験室では、薬品の臭いに混じり、腐臭と血の臭いが充満していた。

 嫌悪感を示しながらも、何か役立つ物が無いか探す。

 

 

「(ん? これは……!)」

 

 

 そこでチェルシーは、机の上に無造作に置かれていた、一冊の本を手に取る。

 

 

 

 表紙には「レギオンの生態、実験経過と死者蘇生薬(仮)についての私的絞殺……じゃなかった、考察」と長ったらしいタイトルが書かれていた。

 

 

 

「(これって……!)」

 

 中身を軽く読んで見るチェルシーは、この本こそ、自分たちが求めていた物だと判断し、同時に驚愕した。

 そこにはジーダスの強さの秘密、弱点、死者蘇生薬の真実など、彼らの仲間以外は決して知りようがない内容が示されていたからだ。

 

「(これは絶対に持ち帰らないと!)」

 

 懐に本を仕舞い、部屋の外に出る。

 目的を果たした彼女の目の前には、地下二階への階段が続いていた。

 

「(少なくとも、ジーダス達は明日までは帰って来られないハズ……私のキャラに合ってないけど、此処は更に奥まで調べちゃいますか)」

 

 意を決し、更に地下へと進んでいくチェルシー。

 ジーダスが彼女の仲間の仇でなければ、彼女を此処まで大胆にさせる事は無かったのだろうか。

 この彼女の行動が吉とでるか、凶と出るか……

 

 

 

 

 

 地下二階も一階と同様の作りであり、違うのは扉が一つだけ、という点だけであった。

 躊躇いこそ無いが、用心をして扉を開ける。

 そこには巨大な水槽と机のみが置かれた、質素な部屋であった。

 

「(怪画制作室……ジーダスの狂気の象徴にして収入源……)」

 

 軽く調べてみたが、特に目ぼしい物は何もないため、すぐに部屋を後にする。

 そうして彼女は地下三階へと向かう。

 

 

 

 地下三階、二階と全く同じ作りである。

 扉も一つだけであり、彼女は部屋へと入る。

 

 そこは本当に何も無い部屋、という表現が相応しかった。

 石造りの部屋には何も置いておらず、あったとしても、それは強烈な血の臭いだけであった。

 

「(何もないわね……何の部屋なのかしら?)」

 

 血の臭いには、ある程度耐性が出来ていたチェルシーは隠し部屋があるかもしれないと、隅々まで部屋を探すが、特にそれ関係の仕掛け等は見付からず、部屋を出ざるを得なかった。

 

「(怪しいけど……仕方ない)」

 

 そして彼女はシェーレの情報によると、最後の階層、地下四階へと足を運んでいく。

 

 

 

 地下四階、ここは階段の終わりと同時に目の前に扉が存在していた。

 鉄格子の小さな窓が付いた、鋼鉄の扉が行く手を遮っている。

 しかし、この扉には幾つもの血痕がこびり付いており、隙間からは腐臭と血の臭いしかして来ない。

 

「(うっ……)」

 

 戸惑いながらも、彼女は覚悟を決め、ドアノブに手を掛ける。

 捻りながら、扉を開け―――――――られなかった。

 

「……あれ?」

 

 今まで鍵が掛かってなかった事から、ここも大丈夫だろうと踏んだチェルシーであったが、この部屋だけは鍵が掛かっていた。

 何度か捻るが金属音が聞こえるのみ。

 開錠技術を持たない彼女は、部屋に入る事を諦め、階段を上っていく。

 既に目的は達成された。

 後は生きて帰るのみ。

 

 

 

 

 無事に一階まで戻ってきたチェルシーは、地下へと扉を閉め、玄関へと向かう。

 特に何も無かった事に拍子抜けしながらも、玄関に辿り着き、ドアに手を掛ける。

 

 

 

 

 

「もうお帰りですか? もう少しゆっくりしていけば良いのに」

 

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 

 チェルシーの背後で、薄目を開けたVが白銀の槍の先端を向けながら、言葉を放つ。

 先端は彼女の背中、1cmの所まで迫っており、Vが僅かに力を込めれば、チェルシーの身体には穴が開いてしまうだろう。

 

「……何の事でやがりますかねぇ?」

 

 だが、チェルシーもすぐに正体を晒す程、間抜けではない。

 まだVがこちらを偽者と見抜いた証拠が無いからだ。

 少なくとも、チェルシーの記憶内ではバレた様子は一切ない。

 

「ふふっ。演技がお上手なのですね。主様の真似をするなんて……ねぇ」

 

「V。気でも触れやがりました? 私に向かって、こんな態度を取るなんて……」

 

「…………こちらを向いて頂けますか?」

 

「…………それで納得するなら」

 

 Vの言葉通り、振り向くチェルシー。

 ジーダスとしての表情、笑顔を一切崩さずに、常に余裕のある言動を選んでいく。

 対面したVはジーダスの行動、表情、態度、言動、全てに注目する。

 

 

 

 

 

 そうして30秒ほどが経過した時、Vは槍を下げる。

 

 

 

 

 

「失礼しました。主様。いつも主様が申し付けておりました「とりあえず私が一人で来たら、カマを掛けろ」というのを実行したまでです。演技とはいえ、主様に槍を向けた事、お許しください」

 

 一礼するVにジーダスは笑顔のまま答える。

 

「構いません。お見事でやした。V。今後もその調子で頼みやがりますよ。私はちょっとイリス達を迎えに行って来ますので」

 

「承知しました。お帰りをお待ちしております」

 

 笑顔で右手を軽く振るVを背後に、扉を閉め、外に出るチェルシー。

 民家の影に隠れていたラバックの元に向かい、ジーダス邸が見えなくなった時点でガイアファンデーションを解く。

 

「ぷはぁっ……あー。死ぬかと思った」

 

「お疲れ様。チェルシーちゃん。良い報告は出来そうかい?」

 

 チェルシーに労いの言葉を掛けるラバックに、チェルシーは懐から取り出した本を見せ、小悪魔的な笑顔を見せる。

 

「最高の報告が出来るよ」

 

 

 


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