超級危険種「レギオン」
彼らの親玉にして、ノックバッカー一族に支配され続けていた存在が「マザーレギオン」である。
ノックバッカー一族は最も早く、この女王の存在に気付き、支配出来る様に改造を施した。
100年に渡る研究の末、遂に女王は屈服し、ノックバッカー一族に下る事となる。
その心内に復讐を宿らせたまま。
「奴はジーダスじゃないって事!?」
驚くのは緑色のコートを羽織り、手に嵌めたグローブの指先から糸を這わせている少年、ラバック。
隣では、隻腕に眼帯をした美男子、ではなく美女であるナジェンダが冷静に現状を把握しようと努めていた。
「キケケケケケッ! ジーダスを乗っ取ったのが、この私! マザーレギオン! 長年、ノックバッカー一族に従い続けて来たが、狂気に呑まれまくっていたコイツは実に容易く支配出来たよォ! ウヒャヒャヒャヒャッ!!」
顔の中央、鼻を突き破って出て来た触角の先端からノイズ混じりの声を発するマザーレギオン。
不愉快極まりない声は、この場で意識を保っているナジェンダ、ラバック、アカメの三人の耳に届き、容赦なく脳味噌に染み渡っていく。
聞き続ける事が苦悶に感じる程のノイズと音量でも、一切構わず、軍団の女王は言葉を紡いでいく。
「ジーダスの目的は人類の抹殺! 私たち、レギオンの目的は人類への復讐! どちらにせよ、やる事は変わりないけどねぇぇぇぇぇッ!!」
耳障りな声を響かせながら、レギオンで構成された身体は前方に位置するアカメに襲い掛かる。
対するアカメは村雨を器用に扱い、飛来するレギオンの塊を防ぎ、弾き飛ばす。
身体を形成しているレギオンを放出するため、徐々に形が崩れていく。
それでもジーダスの頭部を突き破り、存在しているマザーレギオンは笑い続ける。
「そのレギオンは私が直々に生み出した野生のレギオン! 触れれば体内を食われて、ハイ! 終了! ってな訳! イヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
「ぐっ……!」
村雨の効果にて、触れた部分のレギオンは死滅するも、飛んでくる塊全てを消し去れる訳ではない。
一部分が欠けただけでは、レギオンは止まらず、飛ばされた後も軌道を修正し、再びアカメに向かっていく。
最初は危なげもなく、塊を弾き飛ばしていたアカメであったが、その数が五つともなると、流石に疲労の表情が見て取れる程になっていた。
「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!………………んん?」
圧倒的な優位に立った事で、マザーは豪快な笑い声を発するものの、そこである事に気付く。
アカメを守るように張られている糸の存在に。
触手の根元にある、曇りきったガラス窓の様な目を動かし、少し離れた所で手を動かしているラバックの姿を視界に収める。
先程まで隣にいた女性は消えていたが、片腕では何も出来まいと鼻で笑い、残りの身体を構成していた、全てのレギオンを緑コートの少年へと向かわせる。
黒い触手の形を採ったレギオンは、ラバックを刺し貫くべく勢いを増して直進していく。
「やっぱそう来るよな!」
ラバックはレギオンの攻撃対象が自分に移った事を確認すると、残されていたクローステールで自分の前に糸による防御壁を生成していく。
だが、彼の思惑をあっさりと砕く様に、壁を貫いたレギオン触手はラバックの頭部目掛けて進み続ける。
「まぁ、分かっていたけどな!」
防御壁は単なる目暗ましであり、作り出した本人は後方へと跳ぶ事で、攻撃を回避していた。
注目を自身に向けさせる事でラバックが狙っていた事。
それは――――――
「天叢雲剣」
「ケヒッ?」
両断。
後方からの凄まじい力に気付かなかったジーダスの頭部に寄生していたマザーレギオンはスサノオの放った斬撃を受け、地に落ちる。
背中に巨大な輪を取り付け、胸部の中心に禍々しく光る黒い球体を浮かび上がらせ、全身に機械化染みたパーツを宿らせたスサノオが顕在していた。
「囮役……ご苦労……ラバック……」
「ナジェンダさん!」
木々の隙間で力を使い果たし、倒れこんでいるナジェンダにラバックが駆け寄る。
ナジェンダが行ったのは「スサノオの奥の手解放」である。
「狂化」と呼ばれるスサノオの奥の手は、胸の勾玉からマスターの生命力を吸い取る事で発動する、まさに奥の手である。
得られる能力は絶大であり、先程使用した「天叢雲剣」は超級危険種だろうが、一撃の下、真っ二つにする事が出来る。
「即死級の攻撃を、何度も繰り出されては敵わないからな……奥の手を使用させて貰った……」
生命力を大幅に吸われたナジェンダは、肩で息をし、ラバックの肩を借りて立ち上がる。
その視線の先には、縦に分かれたマザーレギオンが地面の上で痙攣していた。
寄生していたジーダスの頭部もろともの切断のため、一定量の血液がばら撒かれるが、それを気にする人物はこの場にはいない。
「ガッ……グガガッ……ぐげげげげげげげげげげげげ」
身体が二つに分かれても、壊れたラジオから流れ出る音声の様に、言葉を放ち続けるマザーレギオン。
女王が斬られたと同時にアカメやラバックに襲い掛かっていたレギオンは消滅し、アカメはようやく一息吐く事が出来た。
「こんっ……なあっさり……なさけな……いみっとも……ないあられ……もない……」
長き渡りノックバッカーに苦渋を飲ませられ続け、ようやくジーダスを乗っ取る事で、全人類に復讐が出来ると思った矢先、対峙していた人間共に簡単に殺られ、マザーレギオンは憤慨する。
爆発する感情のまま、言葉を出そうとするも、その気力すら湧かない状態である。
残された手段は虚しく死に絶えるのみ……
「私達は革命を成す。そのためにも、此処で死ぬ訳にはいかない」
「なんで……わたしたちは……ふくしゅう……おまえたち、にんげんが……」
アカメの声がマザーレギオンに向けられるが、既に死の淵にいるレギオンには届いていないようであった。
うわ言の様に言葉を呟き続け、青く輝いていた目を黒へと沈黙させる。
「……終わったか」
気配が消えた事により、アカメは村雨を鞘へと仕舞い、全員の無事を確認するべく、周囲を見渡す。
ナジェンダは疲労が凄まじく、義手こそ壊されたが傷は殆ど負っていない。
ラバックも同様。今はナジェンダの側で立位を支えている。
マイン、タツミ、レオーネはそれぞれ気を失ってはいるが、外傷は見られない。
レオーネは内部の傷が心配なため、一刻も早く移動する必要があるが。
未だに奥の手発動中のスサノオは、脅威が去った事により、解除しようと胸の前に手を持っていく。
そこで膨大な殺意をアカメとスサノオは感知した。
すぐさま抜刀し、構えるアカメと顔をマザーレギオンへと向けるスサノオ。
ナジェンダとラバックも、二人の行動を見てから、死体となっていたハズのマザーレギオンへと視線を向ける。
青に染まっていた眼球を真っ赤にし、分かれた身体をレギオンによって無理矢理に繋ぎ合わせ、次々とレギオンによって獣の様な身体を形成していく化け物の姿が、そこにあった。
アカメとスサノオが駆けるよりも早く、全長50mに及ぶ、まさしく「怪獣」と呼ぶに相応しい存在が出来上がる。
狼に類似した姿を採った大量のレギオン達は、女王を生かそうと必死に働き続け、外的を排除しようと集まり、形作る。
この怪獣は女王を守る城であり、同時に敵を排除する獣である。
生きた城は声を発する事が出来ない状態でも口を開け、咆哮する。
レギオンという怪獣とナイトレイドの闘いは続く。
急な巨大化であるが、スサノオは事前の殺意を感じ取り、気絶していたレオーネとタツミを脇に抱え、その場から離れる。
アカメはマインを背負い、すぐさま跳び、ナジェンダとラバックも駆ける事で被害を受ける事を避けていた。
全長50mの獣は、統制官を失いつつある存在であるため、眼下で動く小さな獲物を狩り殺す事にのみ、全ての動きを集中させている。
ゆっくりと振り上げられた右腕は回避するスサノオを捕らえる事は出来ず、触れていった木々をレギオンで埋め尽くし、瞬時に食い殺してしまう。
対象を捕まえられなかった事を怒り、今度は惨めに動き回る男女を潰すべく、左腕で横薙ぎを繰り出すが、鈍重過ぎる動きでは暗殺者として鍛え上げられた二人を捕縛する事は敵わない。
代わりに大量の木が吹き飛ばされ、軽い更地がその場に生まれる。
あっさりとかわされ、ますます怒りを募らせていく怪獣は口に当たる部分を開き、残り一人、ピンク髪少女を背負った事で機動性が落ちた赤目の少女の方を向く。
口から黒い塊が射出される瞬間、アカメの目には怪獣の喉奥で赤く発光する物体が移る。
口内から発射される黒い弾丸はレギオンの塊であり、触れれば死ぬ事を意味する。
大人一人分はある弾丸は変則軌道を行いながらアカメに迫るものの、仲間を守る事に集中している凄腕の暗殺者に触れる事は出来ず、地面にぶつかり跳ね返るのみ。
「チッ……どうする……」
ナイトレイドのボス、ナジェンダは獣から距離を取りつつ、今後の行動を思案していく。
全身がレギオンの化け物では、生身で触れる事は危険である。
ならば帝具人間であるスサノオの「天叢雲剣」が最も効果的であるが、それは相手が単一の個体である場合のみだ。
アレは群集体。群が集まって生み出された存在。
簡単な斬撃程度では、傷を埋めるべくレギオンが移動するだけで終わるだろう。
どうするのか。
考えられる弱点は、マザーレギオンの存在である。
奴こそ、このレギオンの親玉であり、現状を生み出した張本人。
スサノオの一撃により瀕死に陥っているであろう、マザーレギオンに止めを刺せば、この怪獣も自然に消滅する、というのが彼女の考えだ。
しかし、そのマザーレギオンは身体の何処にいるのか分からないのが問題なのだ。
分かりやすく額とか心臓部とか腹部にいれば話は別だが、わざわざ弱点を剥き出しにする理由がない。
そう考えると、某マッドサイエンティストは何で額に己を表出させていたんだろう、等と考えるのは無駄なので止めておく。
ともかく、あの怪獣の弱点の場所が不明な限り打つ手がない、というのが現状である。
思案しつつも、アカメが時間を稼いでくれたお陰で安全域まで退避出来たナジェンダ、ラバック、スサノオの三人は小高い丘の上にいた。
相手の動きをよく見るためだ。
スサノオはレオーネとタツミをナジェンダ達に預け、すぐにアカメの援護に向かう。
帝具の奥の手により、激しく体力を消耗しているナジェンダは再び地面に腰を着け、息を荒くしつつも呼吸を整える。
心配そうにラバックが彼女を見るが、左手を軽く上げ、大丈夫である事を示す。
視界の先には未だに気を失っているレオーネと意識を取り戻したタツミの姿が映り込む。
「うっ……ここは……ラバ……それに……ボス!?」
「起きたか……タツミ……いきなりですまないが、インクルシオは使えそうか……?」
乱れる呼吸を落ち着けながら、ナジェンダはタツミの様子を尋ねる。
イリスの自爆に最も近くで巻き込まれたタツミであるが、インクルシオの頑丈過ぎる鎧が殆どのダメージを受け負ってくれたお陰で彼自身には目立った外傷は無かった。
胸を撫で下ろすラバック達の側で、息を切らしたアカメが到着する。
「タツミ……目が覚めたか……」
「うぅ……」
背負ったマインを完全に守りきり、アカメ自身も一切の傷を負わずにレギオン達から逃げ切ったのだ。
背後のマインを下ろすと、彼女はくぐもった声を出す。
今はスサノオが「八咫鏡」と呼ばれる巨大鑑を眼前に展開し、レギオンの弾丸を跳ね返し、怪獣自らに当てている。
とはいえ、弾丸はレギオンであるため、獣には何らダメージを与えていない。
「アカメ! 悪い……心配掛けたな……」
「いや、無事なら……いい……それより、今は……スーさんを……!」
後方に振り返り、戦況を見るアカメに対し、タツミは頷き、ボスであるナジェンダの方を向く。
「あぁ。ボス。あの怪獣っぽい奴を倒せばいいんだろ?」
「そうだ……ただ奴はレギオンの塊……生身で触れれば死ぬ……更に、弱点である核の場所が不明だ……」
「いや……核の場所なら……見た……喉の辺りだ……」
「本当か!? 良し……なら行ける……! ボス。ラバ。アカメ。行ってくるぜ!」
アカメの言葉を受け、タツミはしゃがみこみ、己が帝具の名を叫ぶ。
自身の尊敬する熱き人物から託された帝具を。
タツミの思いに答え、帝具は少年の身体に装着されていく。
「インクルシオォォォォォォォォォッ!!」
「埒が明かないな……!」
スサノオは空を飛びながら、本日何度目かになる「天叢雲剣」を繰り出し、怪獣の身体を切断するが、傷口から伸びたレギオン同士が即座に繋がり、彼の攻撃を無かったものにしてしまうため、一向に致命傷を与えられない。
スサノオも目立った外傷はないが、レギオンに触れれば帝具人間であるスサノオの核は容易に喰われてしまう為、これはある意味で当たり前である。
こちらは弱点を見つけ出し、潰さなければ永遠に勝てず、向こうは軽くでも触れられれば勝ち。
あまりにも不利な条件の中だがスサノオの目に宿った闘志は消える事はなかった。
まだ短い期間だが、帝具である自分を「仲間」と言ってくれた仲間たちのためにも、こんな所で諦める訳には、死ぬ訳にはいかない。
感情がある彼だからこそ、闘志を滾らせ、目の前の怪物に当たる事が出来た。
「スーさん!」
そこへ思っていた仲間の声が聞こえる。
インクルシオという鎧を纏った、幼くも勇猛果敢な戦士タツミがノインテーターを持ち、まだ残っていた木の天辺から彼に声を掛けた。
「タツミ! 回復したか!」
「あぁ! スーさん! 奴の弱点が分かったぞ!」
「本当か!」
レギオンの右腕による薙ぎ払いを避け、スサノオはすぐさまタツミの側まで移動する。
「スーさん。俺を思いっきり、奴の喉辺りに向かって投げてくれ」
「いくらインクルシオとはいえ、奴に触れる事は危険だぞ。それを承知した上での発言か?」
「そうさ。アカメを、スーさんを、仲間を信じているからの発言さ」
「……分かった。死ぬなよ」
「あぁ!」
スサノオはタツミを腕を掴むと、レギオンの喉元に向かって投擲を開始する。
しかし、何度も攻撃を回避された事に怪獣はとうとうキレ、大口を開け、何本もの太く長く黒い触手を放っていた。
飛んで来るタツミ目掛けて触手が伸びるが、少年は怯む事なく、ノインテーターを目の前で素早く回転させ、まるで盾の様に扱う。
奇しくも、それはブラートが三獣戦で見せた使い方でもあった。
確実に成長しているタツミは、また少しアニキであるブラートに近付いて行く。
「ウオォォォォォォォォォッ!!」
黒い触手はノインテーターの回転に弾かれ、次々と形を崩し、散り散りとなっていく。
他の触手が背後からタツミを襲撃しようと向きを変えるが、それら全てをスサノオの天叢雲剣が断ち切っていく。
やがてレギオンの口内まで来たタツミは喉奥で赤く光る、マザーレギオンを発見する。
弱弱しくも憎悪に満ちた光を放つマザーレギオンは、未だにジーダスの頭部を身体に付着させたままであるが、今のタツミにとってそれはどうでも良い。
触手は無駄と判断し、怪獣は口を閉じる事でタツミを食い殺そうと閉口し始める。
されど奥の手発動により、強化された腕力を誇るスサノオの投擲による速度を得たタツミはそれよりも早く、マザーレギオンの前まで迫っていた。
「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁっ!!」
回転を止め、ノインテーターの切っ先をマザーレギオンへと向け、突き出す。
周囲のレギオンが主を守ろうと動くが、既に遅し。
タツミの突きにより、マザーレギオンの身体は貫かれ、レギオンは全て消えて行く。
というのが理想であったのだ。
「なぁっ……!?」
目を赤く輝かせたマザーレギオンの全身から、真っ赤で細い触手が発生し、ノインテーターの突きを防いでいた。
タツミが次の攻撃を繰り出すよりも早く、触手で槍を奪い、ニヤリと笑った様な表情を作るマザーレギオン。
既に投擲の勢いは消え、インクルシオを纏った少年に残されたのは重力に従って落下する事のみ。
ただ普通の落下と違うのは、地面よりも前にレギオンの大群に飲まれるという事か。
「ぎぎぎぎぎぎぎぎ……キヒヒッ」
人としての言語を失っても、勝ち誇った笑いを行うマザーレギオンはタツミを見下し、触手の先端を彼に向ける。
レギオンに呑ませて殺すよりも、自身で殺す事に決めた様だ。
「ちく……しょ……!!」
鎧の中で驚愕と悔しさに塗れた表情を浮かべるタツミと笑い狂うマザーレギオン。
触手はゆらゆらと宙を動いた後、タツミに向かって突き進む。
その時である。
乾いた音がレギオン犇く怪獣の中で、一際大きな音で響く。
一体何事か、と全てのレギオンは音の正体を認知すべく、眼球を動かす。
同時にマザーレギオンが赤い発光を止め、ゆっくりと落下を始める。
そして理解する。
自分たちの主である、マザーレギオンが攻撃を受けた音だという事に。
「よしっ! 最後に汚名返上出来たわね!」
ナジェンダ達の側で、パンプキンを構えていたマインがガッツポーズを取る。
万が一に備え、気絶から復活したマインが狙撃をした結果が前述の通りである。
絶叫。
全てのレギオンはマザーレギオンが死んだ事により、統制が取れなくなり、形を崩していく。
群により脅威を発揮するレギオンであるが、それは頂点に立つ者の指示があってこそだ。
今の彼らは烏合の衆より脆く、醜い存在であった。
「無事か? タツミ」
落下していくタツミはレギオンに触れる事なく、スサノオに抱きかかえられる。
所謂、お姫様抱っこという形で。
だがタツミは恥ずかしがる事もなく、スサノオの前で軽く拳を突き出して答える。
「約束。守ったぜ」
「……あぁ。そうだな」
全てのレギオンが消え去っていく中、ナイトレイドは勝利を手にしたのだった。
「ギッ……にんげ……くそ……ころす……かなら……!!」
だがしかし、脅威はまだ生き残っていた。
マインの狙撃を受け、風前の灯となった命を無理矢理に発光させ、マザーレギオンは無様に地面を這い蹲っていた。
流石にジーダスの頭部は使い物にならないと判断し、落下地点に捨ててあるが。
見るに耐えないおぞましさと人間への憎悪を執念と力に変え、ゆっくりと何処かへと這って行く。
そんなマザーレギオンの前に、黒い触手が地面から現れる。
すぐさまレギオンだと気付いたマザーは、助けを求める命令を下す。
黒い触手は先端を折り曲げ、頷く動作を見せた後、マザーレギオンに向かって伸びていく。
これですこしは傷の回復が出来る、生き延びる事が出来る、と安堵する。
しかし、触手はマザーレギオンの直前まで伸びた後、再び先端を空へと伸ばす。
「?」
謎の動作に疑問を抱くマザーレギオンであったが、直後に答えを知る。
触手は容赦なく、マザーレギオンを叩き潰した。
「!?!?!?」
理解不能な行動に驚きながら、マザーレギオンは息絶える。
触手が地面から退くと、そこには潰された哀れなマザーレギオンの死体が残っているだけだった。
触手は主であるマザーレギオンを潰した後、別の方向に向かっていく。
「……生まれる前から殺意を持って生まれて来た……そして幼少期にマザーレギオンを移植され、乗っ取られた……しかし、しかしだ。それでも俺は人を殺したかった。殺して殺して殺して殺して、殺し尽くしたかった。俺自身の意思で。俺自身の力で。それも敵わず、それも出来ず、俺は支配されたままの人生を過ごして来た……」
淡々と独白を続けるのは、ジーダス・ノックバッカーの頭部。
真っ二つにされ、中身をマザーレギオンに吸い尽くされ、もはや言葉を発する事すら不可思議な状態にも関わらず、彼は続ける。
マザーレギオンの支配から解放された、彼本来の言葉を。
「だがそれでも……俺が最後に殺す奴は決めていた……」
マザーレギオンを潰した触手がジーダスの頭部まで伸びてきて、再び全身を振り上げる。
「俺自身だ」
触手は力尽きる様にジーダスの頭部を潰し、そのまま消滅していく。
ここに、ジーダス・ノックバッカーは完全に死んだ。
最後のノックバッカーが死んだ事により、永きに渡って狂人を生み出してきたノックバッカー一族の血筋も途絶える。
これにて狂人の面を被った小者という物語は幕を閉じる。
ナイトレイドの今後の活躍や帝都の人間たちの行動など、物語内の人物達の話はまだまだ続くが、これは「ジーダス・ノックバッカー」が主役の物語。
故に終幕。
「ジーちゃん! ジーちゃん!」
「……んん……イリス……か……?」
「そだよー! ほら! 皆待ってるよ! 早くいこー!」
「何処に……って、まぁ、予想は出来るがね」
「んふふふふふ! てか、やっと本当のジーちゃんに会えたねー!」
「……………………そうだな」
「にひひひひひ! ならいいか! 早く早くー!」
「はいはい。んじゃ、逝こうか」
「私はずっとジーちゃんと一緒だよー!」
「なら、結婚でもするかね」
「おっけー!」
「なんつー味気ないプロポーズ……まぁいいか」
「にゃははははははは!!」
完
これにて終わりです。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。
やはり読み直してみても、まだまだ未熟な点が目立ちますね。
「ここが可笑しい」
「ここは、この原作キャラではこうするのでは?」
「このキャラは何がしたかったのか」
「このキャラは何処に行ったの?」
「展開、文法、日本語が変」などの質問、指摘ありましたら、どんどん書いて下さい。
お待ちしております。
閲覧、ありがとうございました。
また新作にて、お会いしましょう。