狂人の面を被った小者   作:狂乱者

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第七話「将軍邂逅」

「イェーガーズ……でやすか」

 

「そうですよ。全く要求がドS過ぎますな。エスデス将軍は」

 

 

帝都宮殿 食堂

 

 肥え切った肉袋に、更に食い物を詰めていく諸悪の根源、オネストは対面に座っている、狂人、ジーダス・ノックバッカーの発言に咀嚼しながら答える。

 周囲に控えている警備兵たちは、彼らの食している最高級の食材を見て、喉を鳴らすものの、自分たちは分不相応であることを悟り、視線を逸らす。

 ホールケーキを手掴みで持ち上げ、口に運ぶオネストに対し、ジーダスは自前の小樽で酒を飲みながら、話を続ける。

 

「それはさておき。オネスト大臣。例の薬の件ですが、ナイトレイドに存在がバレやした」

 

「ほう。それは珍しい失態ですな。ジーダス財務大臣。貴方らしくない」

 

「すみません。出来の悪い部下のせいでして。報告が遅れたのは、貴方へのご機嫌取り様に、今回の食材を取りに行っていたためでやがります」

 

「本人を目の前にして言う台詞じゃないですよ。更に謝罪の態度じゃないですよね。絶対」

 

 ややジト目でジーダスを見るオネストだが、ジーダスは笑顔で答えるのみ。

 これ以上、この件を追求してもしょうがないと判断した大臣は、次の話題へと飛ぶ。

 

「まぁいいです。私の支援を続け、こちらに害を与えない限りは、貴方にある程度の自由は約束しましょう。無論、私の邪魔などしたら……」

 

「コレ、でやがりますもんね」

 

 ジーダスは親指を立て、己の首を切るような動作をする。

 己の立場を弁えている狂人に、悪大臣は残虐な笑みを返す。

 

「分かっているなら良いです。今回のケーキ、中々美味でしたよ」

 

「そいつは良かった。北の異民族に腕利きの菓子作りの名人がいると聞き、連れて来させたかいがあった、というものです」

 

「……ちなみに、その名人は、今は?」

 

「売りましたが?」

 

「それは残念」

 

 微笑ましく笑んでいる2人の端的な会話は、実に簡素であったが、言葉の意味を知る警護兵達は、背筋が凍るほどの悪寒を感じた。

 その時、扉が勢いよく開き、中から水色ロングヘアーの美女が、数人の男女を引き連れて入ってくる。

 

「失礼する。オネスト大臣。此処にジーダスがいると聞いたが」

 

「此処にいますよ」

 

 入ってきた「エスデス」将軍は、不適な笑みを作り、ジーダスを指差し、後方の人物たちに紹介を始める。

 

「イェーガーズの諸君。コイツが「ジーダス・ノックバッカー財務大臣」だ。大臣とは名ばかりの狂人だ」

 

「これは酷い説明で」

 

 小樽の中の酒を飲みながら、ジーダスは右手を軽く振る。

 ガスマスクを被った大男、黒髪の青年、同じく黒髪で日本刀を所持した少女、ミステリアスな雰囲気な青年、オカマ、そして見知った顔が一つ。

 

「おや。セリュー・ユビキタスさん。貴女もイェーガーズに入ったので?」

 

「……その節はどうも」

 

 ジーダスの顔を見たセリュー・ユビキタスは明らかに不機嫌な顔で、上辺だけの挨拶を返す。

 視線すら彼の方を向いていないのが、誰から見ても明らかである。

 

「む。セリュー。既にジーダスと会っていたか」

 

「はい。ナイトレイドの賊一人を討ち取った時に、少々」

 

 セリューの脳内に、輝かしくも忌まわしい記憶が蘇る。

 ナイトレイドの1人、既に名前は忘れたが、賊の女を討ち取ったと思った。

その時、唐突に現れ、賊を奪い、更に私に攻撃してきた、忌まわしい男の顔を。

 あの後、上から「財務大臣の行為は正義である」と散々に言われ、渋々納得したが、私は絶対に納得などしない。

 悪は滅ぼすべきなんだ。

 その悪を使って儲けた金など、汚れているに決まっている。

 汚れた金で私の腕が作られているとしたら……

 

 そこまで想像し、セリューは首を左右に振る。

 

「そんなに邪険にしないで下さいよ。私、貴女の正義は素直に尊敬しているんですよ?」

 

「……そうですか」

 

「そうそう。悪は滅ぼすべき、との発言。帝都の軍人としての鑑! 貴女がイェーガーズに入った事により、帝都の住民も安心して暮らせるハズでやがりますしねぇ。私も毎日、安眠できやすよ」

 

「そ、そうですか……? えへへ……」

 

「(ちょろい)」

 

 ジーダスの並べた言葉に、あっさりと陥落するセリューを見て、その場にいた全員が全く同じ言葉を浮かべた。

 ほんわかした雰囲気であったが、すぐにエスデスが場を取り持つことで、緊張が走る。

 

「ジーダス。最近、お前はナイトレイドに狙われているとの情報も入っている。何かあったら、すぐに我々を頼るといい」

 

「これは僥倖。感謝の極み。宜しくお願いしやすね。イェーガーズの皆さん」

 

 自分を護ってくれるであろう、人物に座ったまま話すのは失礼に値すると考え、ジーダスは立ち上がり、一人一人に握手を求める。

 まずは黒髪の青年に。

 

「自分は本日付でイェーガーズに入隊しました。ウェイブと申します! ジーダス財務大臣は我々が全力で護ります故、ご安心して下さい!」

 

 堅苦しく挨拶をするウェイブに笑顔で握手を行う。

 次にキャンディを咥えている日本刀少女の前に向かい、挨拶を交わす。

 

「……クロメ」

 

「……ほぅ。宜しくお願いしやすね」

 

 

「私はランと申します。以後、お見知りおきを」

 

 丁寧な一礼を返したミステリアスな青年、ランにも笑顔で握手を。

 

「私はボルスと言います。素顔を晒さずに挨拶することをお許しください。これは私の罪ですので……」

 

 大柄ながらも、丁寧かつ小心者染みた印象を与えたボルスにも同様に。

 

「セリュー・ユビキタスです! ジーダス大臣の生活の安全は我々にお任せ下さい!」

 

 すっかりジーダスの言葉に乗せられたセリューは敬礼を行いながら、良い笑顔を見せる。

 足元では複雑な表情のへカトンケイルのコロも同様の行為をしていた。

 とりあえず笑顔を返す。

 

「お久しぶ「あ。お疲れ様です。Dr.スタイリッシュ。ではさようなら」

 

「ちょっとぉ! 男には優しくしなさいよ!」

 

「いや。私、どーも貴方は苦手でして」

 

 ジーダスが唯一、苦笑いをしながら敬遠するオカマ、いや、マッドサイエンティスト、Dr.スタイリッシュは憤慨しながらも右手で空を仰ぐポーズを取る。

 

「いいわ! いずれ貴方をスタイリュッシュの虜にしてあ・げ・る。ふふ」

 

「個人名の意味で? 文字通りの意味で?」

 

「両方よ!」

 

「全力で遠慮しやす……が、貴方の天才的な頭脳と技術には期待していやすよ? 今度、またイリスと“遊んで”やって下さい」

 

「ふん。あのイカれた同僚には、手を焼かされるからね」

 

 遊ぶ、の部分を強調しながら話すジーダスに鼻を鳴らすスタイリッシュ。

 彼は仕方なく苦笑いで返す。

 

「そして知って通り。イェーガーズのリーダーである私、エスデスだ。また宜しく頼むぞ。ジーダス」

 

「えぇ。こちらこそ期待していますよ。エスデス将軍様」

 

 期待と冷酷が混ざった、何とも言えない視線をジーダスに向けるエスデスだが、向けられた青年は変わらぬ笑顔でいるままだ。

 

「では戻るぞ」

 

 エスデスは目的が済んだため、イェーガーズを引き連れ、部屋を去っていく。

 嵐が過ぎ去った後のように、静かになった部屋で、ジーダスは再び席に着く。

 

「エスデス将軍に気に入られるのも大変ですねぇ」

 

「まぁ、彼女の恋の相手が見付かれば、私なんて放って置くでしょう」

 

「なら良いのですが」

 

 オネストと会話を始めたジーダスは欠伸をしながら、良い天候の空を見上げる。

 いくつもの超危険種が空を飛び回る様は、宮殿の景観を損ねていた。

 

 

 

 

 

深夜 帝都ジーダス宅 地下2階 イリスの実験室

 

「イリス。GとJの様子はどうですか?」

 

「にゃははははは。時間掛かるねー。特にGちゃんは」

 

 フラスコ、ビーカーが乱雑に置かれた、ほの暗い研究室では、並べられた二つのベッドの片割れの上で気を失っているJが全身、包帯塗れで置かれていた。

 もう片方のベッド上では頭部だけとなったGが眠っていた。

 首から下には何本ものチューブが差し込まれ、部屋の奥にある水溶液から液体を送り込んでいる。

 ベッドの側に立つ、イリスとジーダスは彼らを見ながら、話を続ける。

 

「Gちゃんの帝愚「ギロン」は「切った物の内部を滅茶苦茶にする」だからねぇー。というか、これが本当に帝具じゃなくて良かったね。帝具だったら、いくら人体改造したとはいえ、死んでるよーん。んひひ」

 

「でやがりましょうねぇ。Dr.スタイリッシュに製作して貰った、彼ら専用武器をこちらが勝手に「帝愚」と言っているだけですから」

 

「何で帝愚なんだっけー?」

 

 首を傾げるイリスに、溜息を吐きながら答えるジーダス。

 

「帝より愚者に相応しい武具、だからですね」

 

「普通に専用武具で良いと思うにゃー」

 

「確かに」

 

 二人して、うんうんと頷く。

 名付け親はこの二人なのだから、無責任な発言である。

 

「それで、Gの頭部以外の部分はどうなので?」

 

「人型にするのは難しいねぇー。もう完全に機械化するしかないよー。ぬふふふ。それだとスタっちゃんに全部、お任せコース!」

 

 頭だけとなったGの髪を掬うように撫でる。

 僅かに眉が動くが、それは不快感から来るものではなく、幸福によるものだと、表情で判断出来る。

 

「仕方ありませんねぇ……まぁ、脳味噌さえ無事なら、いくらでも使えますからねぇ。ギャオスは」

 

「うっひょー。そだね。でもGちゃんとJ君は幸運だったね。仕事終わりのVちゃんに回収して貰えてさー」

 

 スカルノフ宅をナイトレイドが襲撃し、撤退した直後、騒ぎを駆けつけた、仕事終わりのVは現場へ直行。

 事前にJとGがいることを聞いていた彼女は、念のため、と二人が残っていないか探し始めた。

 そこで彼女は瀕死のGと泡を吹いていたJを見つけ、すぐさまジーダス宅へと戻ってきたのだった。

 

 急いでイリスの研究室に運び、治療を開始して、既に10日以上が経過している。

 世間ではエスデス将軍直属の三獣士が消え、代わりにイェーガーズなる特殊警察が結成された事が、大々的に公表された。

 

「全くです」

 

「ところでジーちゃん。ナイトレイドの顔が割れてない奴の報告はしなかったのー?」

 

襲撃地点にはおらず、自宅で過ごしていたジーダスがナイトレイドの、世間一般に公表されていない面々、タツミとレオーネの顔を知る訳ないのだが、彼は軽く思案しながら答える。

 

「餓鬼はどうでも良いですからねぇ。怪画ではコアのマニアックな方にしか売れませんし。そういう奴ほど要求がうるせーんですよ。費用ばっか掛かってしゃーない。女性の方は耳と尻尾が生えていたでしょう? 帝具で変身している可能性もありやすしね」

 

「成程ー」

 

 首を激しく上下し、再び笑い始めるイリス。

 ジーダスは帝都のためではなく、怪画売りとして考えた結果、今回の二人の顔を報告しない事に決めた。

 レオーネの件に至っては、彼の帝具勉強不足であるが。

 

「そういえば、Jの容態はいかほどで?」

 

「両腕欠損程度なら何とでもなるよー。首を絞められていたけど、こっちは無問題! ただ帝愚「ジャイガー」の影響で、全身に毒が巡ってるから、普通の腕じゃ無理無理ー。こっちも機械化推奨! てかそれ以外無理! いひひひひひ!」

 

「帝愚「ジャイガー」……体内に仕込むことが可能な棘の様な武具。Jは全身に猛毒が仕込んでありますから、ジャイガーを通して相手に猛毒を注入する……のが望ましいのですが、鎧相手には相性最悪ですねぇ」

 

 Jの敗北要因は、相手が「インクルシオ」を纏った帝具使いだったこと。

 戦闘経験の差、殺意に呑まれた事が原因であったと考えられる。

 普通に弱い、というのもありえるが。

 

「ここ最近のJは思った以上に使えませんねぇ。彼のお陰で、死者蘇生薬を作っていることが、ナイトレイドの連中にバレた訳でやがりますし」

 

 ジーダスの発言に、小刻み笑っていたイリスが、突如として腹を抱えて爆笑し出す。

 右手の指先を彼に向けながら。

 

「んにゃにゃにゃにゃ! 死者蘇生薬をあの女に使ったのはジーちゃんじゃーん! 『アジトにでも帰らせた後、皆さんに笑顔を与えてから目の前で爆発させやりましょうか』とか言ってたのにさー! そりゃ、あそこまで鮮明に記憶が戻ってのは計算外だったけどねー!」

 

 爆笑するイリスを横目に、ジーダスは無視を決め込む。

 彼は自身の欠点を反省し、目の前の二人を見る。

 

「しかし……ナイトレイドの連中に手も足も出ませんでしたか。困りやがりましたねぇー」

 

 ギャオスは帝具使いとの戦闘の経験が殆どなく、主に一般市民の虐殺をやってきた。

 その事実が今回の敗因に繋がった、という事である。

 弱い者虐めしか出来ない者が、強者に蹂躙されるのは世の理であり、必定。

 生き残るには、強者に取り入るか強くなるか、の二択しか残されていない。

 

「きくくくくく……ならー……『あの子』、使う?」

 

 一頻り笑い終えたイリスの顔に、普段の狂笑とは違う、邪悪な笑みが宿る。

 ジーダスは彼女の顔を見ながら、思案に浸る。

 

「ギャオス最後の一人にして、唯一の帝具持ち、かつ最高の器……そうしますか」

 

「きゃっほーい! オッケーオッケー! 地下3階を開放だよーん!」

 

 笑顔で走り去るイリスを見送った後、彼の視線は部屋の一角へと向けられる。

 そこには両手両脚のロープで縛られ、猿轡をされた女性が憎悪に満ちた目で狂人に殺意をぶつけ続けていた。

 

「わざとらしい会話による、私たちの秘密の一角……お土産には丁度良いでしょう?」

 

「ん……んん……!」

 

 一歩、また一歩と近づく足音は彼女にとっての死へのカウントダウンに等しい。

 歩くことを躊躇わない青年は、すぐに女性の目の前に到達し、彼女に視線を合わせるためにしゃがみ込む。

 

「GとJの負傷により、私の警護が薄くなった時に尾行する点はお見事でやがったんですけどねー。ちーと殺気が強過ぎでしたねぇ。身内か何かを怪画にでもされました?」

 

「ぷはっ……恋人よ……アンタに恋人を怪画にされて……!」

 

「それは実に下らない」

 

 猿轡を外された女性は、彼の一言に吼えるように喋るものの、ジーダスは意にも介さない。

 女性が紡ぎ出す罵詈雑言を淡々と受け止め、一息吐いたのを見計らって立ち上がる。

 

「革命軍の密偵だとは思いますが……単独行動していた時点で、私怨に駆られた人というのは分かりやす」

 

「だから何だって言うのよ……!」

 

 彼女は狂人の言う通り、革命軍の密偵チームである。

 「ジーダス・ノックバッカー」についての情報を集めている彼女は、何処にでもいるような、平凡な女性である。

 故に密偵に向いていた。

 何処にでも居そうだからこそ、人が密集する帝都にはうってつけの人物だったのだ。

 

 密偵とし、革命軍に情報を提供し続けてきた彼女であったが、ある日、帝都内にスパイとして入っていた恋人が、ジーダスに捕まり、怪画として売られた事を知り、慟哭し、復讐に駆られてしまった。

 以降の彼女は少し危険な状況でも、一人で情報を集める事をし始め、仲間内に咎められても、決して止めない日々を送る。

 そうしてジーダスの私兵が傷付き、警護が減っている時を狙い、大胆にも家の中にまで侵入したのだ。

 回収した情報をナイトレイドに渡し、恋人の敵を取って貰おうと急いた事が、彼女の寿命を終わらせる結果になる。

 

「今、顧客たちの間では、ナイトレイドの女性陣怪画が最も望まれてやがります」

 

 ナイトレイドのシェーレが怪画になった事により、他のメンバーの怪画、いや、その前の状態で欲しがる輩が増大した。

 極上の女体を味わうために、金を惜しまない性欲の権化どもを思い出しながら、ジーダスは鼻で笑う。

 

「一方、色町の事件以来、ナイトレイド怪画持ちは危険という事も知れ渡っておりやすが……それでも欲しがる人が多いのは、この世の業ですねぇ」

 

「だからそれがどうしたのよ! 殺すならさっさと殺しなさいよ! 革命軍に入った時から、死ぬ覚悟は出来るのよ!」

 

 意味不明な言葉を並べるジーダスに女性は吼え続ける。

 

「ですから、貴女は怪画にする価値もないって事でやがります。まぁ、自分から死にたがってるから、殺しますが」

 

 ジーダスは両手で女性の首を掴み、持ち上げる。

 ギリギリと首を締め上げるものの、絶妙な間隔で彼女の意識は落ちない。

 

「ぐ……くっ……!」

 

「絞殺だと思いますか? 違います」

 

 手の力を緩めず、言葉を紡ぎ出すジーダスの顔は笑みで満ちていた。

 酸素が不足し始めるが、彼女はまだ苦しみの中をさ迷っているだけであった。

 

「(……ッ!?)」

 

 そこで奇妙な不快感に襲われる。

 首から来る苦しみではなく、己の中から湧き上がる不快感。

 まるで大量の蟲に全身を走り回られているような感覚が女性を襲い続ける。

 余りの気持ち悪さと不快感に言葉を発しようとするも、狂人の腕がそれを邪魔する。

 

「ガッ……アァ……?」

 

 次にやって来たのは痛みと喪失感。

 内部からの痛みが全身を駆け巡り、治まると同時に、何かが無くなった感覚が残る。

 

「アェ……ハヘ……?」

 

 徐々に考える事すら出来なくなって来た女性から、大量の汚物が毛穴という毛穴から吐き出され、ジーダスの顔に飛び散るが、全く動じずに首を絞め続ける。

 白目を向いた女性の目が、一瞬で黒く染まり、そこには何も無い空間が出来上がる。

 先程まで50kgはあった彼女の身体は、今では3kgも感じない程、軽くなっていた。

 

「これが私の最大の秘密です……あの世で革命軍の皆さんにお伝え下さい」

 

 手を離し、軽くなった女性の死体を床に置く。

 スーツに飛び散った汚物を手持ちのハンカチで拭き、また別のハンカチで顔の汚れを落とした後、ジーダスは扉に向かう。

 

「Bに掃除させますかね……ん?」

 

 去り際、扉付近の机の上に置かれていたチラシに目を留める。

 「エスデス主催 都民武芸試合」と書かれた紙には、優勝賞金の額が記載されており、この部分がジーダスの興味を引く。

 

「額は微々たる物……ですが「あの子」のウォーミングアップには丁度良いでやがりますかね」

 

 

 


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