狂人の面を被った小者   作:狂乱者

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第九話「復讐襲撃」

 

「チームスタイリッシュ。熱く激しく攻撃開始よ!」

 

 現在の状況は、タツミがエスデスの元から逃げ出し、ナイトレイドのアジトへと戻った後の話になる。

 ドS将軍から、ようやく逃走出来たタツミは、アカメ、ラバックと合流し、アジトへと、無事に帰還した。

 イェーガーズの帝具の情報、という大きな収穫と共に。

 その晩はナイトレイド全員でタツミの帰還を祝った。

 

 一方、イェーガーズはタツミの行方を捜すものの、見つけられず仕舞いであった。

 だが、一人だけ、タツミの痕跡を追い、ナイトレイドのアジトに辿り着いた者がいた。

 Dr.スタイリッシュである。

 偵察用に五感の一部分だけを特化させた強化人間を使い、タツミ達の追跡を行ったのだ。

 そうして見事に場所を探し当てた彼は、自らの私兵を呼び寄せ、アジトに奇襲を掛ける。

 全ては最高の素材、ナイトレイドとその帝具を独り占めするためである。

 彼の行き過ぎた探究心は、後に己の身を危険の中に投下していくとも知らずに。

 

 

「それに……こっちには面白すぎる玩具もあるし……ね」

 

 戦闘員、スタイリッシュ風に言えば「将棋の歩」が飛び交う中、背後の森の中で、人型とは思えぬ姿をした物体が目を光らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカメの一閃が飛び掛ってきた男の身体を斬り裂く。

 されど、丸渕眼鏡を掛けた男は怯む事なく、アカメを飛び越し、体勢を立て直す。

 全身が機械で出来ている男「トビー」を相手に、相性最悪なアカメは諦める事無く、己の殺意を高めていく。

 

「アカメちゃん!」

 

 先程、アカメに助けられたラバックが、彼女を援護しようと駆け出すが、そんな彼を邪魔する様に立ちはだかる、巨漢の二人。

 顔は完全に人形そのものであり、感情を感じさせない冷徹な感じが、ラバックの歩を踏み止まらせる。

 

「こいつら……邪魔……!」

 

 自らの帝具「クローステール」を指の間に挟み、引っ張り、攻撃態勢を整える。

 一本一本を絡めての攻撃は、巨漢相手には効果が薄いと判断したラバックは、糸を束ねての攻撃を繰り出そうと考える。

 だが、相手の速度が不明なため、隙の多い束ねた攻撃は危険と判断し、様子見も兼ねて、糸を飛ばす。

 素早く操作されたクローステールが、動かない巨漢の首に絡みつき、一気に締め上げる。

 巨漢たちは慌てることなく、糸を掴み、引っ張り上げる。

 体格差により、簡単にラバックを動かせると判断しての行動だろう。

 だが、その糸は囮であり、既に別の糸を相手の足首に巻きつけたラバックは、そのまま糸同士を絡ませ合い、巨漢同士がぶつかり合う様に仕組む。

 目論見は成功し、突如として足の自由を奪われた巨漢はお互いに衝突する形で転びあう。

 これで巨漢に速度はなく、力だけである事を確認したラバックは、糸を束ね始める。

 

 そこで彼は窓の外から凄まじい殺気が自分に向けられている事に気付いた。

 

「ッ!?」

 

 直感で動作を止め、その場から飛び退くと同時に、窓ガラスが割られ、紫色の液体が彼の今まで居た場所と二人の巨漢に飛び散る。

 巨漢達に掛かった液体は、身体を床ごと溶かし、下の階層との邂逅を簡単にやってのける。

 

「糸使いィィィィ……見ィ付けたァァァァァァ……」

 

 割れた窓から侵入して来た男は、廊下に着地し、ラバックを睨む。

 申し訳程度に羽織った黒いジャケットに黒いズボン。

 逆立てた髪と血走った目。

 片腕だけで大人一人分はある巨大な機械の両手を震わせ、絶叫する。

 

「俺を殺したクズ見っけェェェェェェェッ!!」

 

 スタイリッシュにより機械化した両腕を身に付け、復活を果たしたJは、かつて己を殺したラバックを見付け、嬉しそうに、憎らしそうに、狂いながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余裕ぶってんじゃねぇ!!」

 

 巨大な筋肉男、「カクサン」とスタイリッシュに呼ばれた人物は、前方で巨大な銃を構える、ピンク髪の少女、マインに向かって突撃する。

 飛び上がり、賊から奪い、与えられた「エクスタス」を構え、マイン目掛けて落下する。

 対するマインは自分の帝具「パンプキン」と呼ばれる巨大な銃を構え、先端に砲撃をチャージしていく。

 その様子を見ていたカクサンは邪悪な笑みを浮かべ、彼女を馬鹿にする。

 

「馬鹿が! 俺の身体はインクルシオの一撃すら防いだ! 手前ェの銃撃如き! 簡単に受け止めてやるぜ!」

 

 男の言葉に返事をせず、マインは標的に狙いを定めるのみ。

 彼女の意思に答えるべく、充填されていくエネルギーは更に高まっていく。

 

 マインの帝具「浪漫砲台 パンプキン」にはある特徴がある。

「ピンチの時ほど、威力が上がる」

 ただし、ピンチの際、無条件で威力が上がる訳ではなく、ピンチの時の使用者の感情をエネルギーとして放つ物であるため、危険時に絶望する様な、軟な精神力を持つ者では扱えないのである。

 無論、帝具として基礎攻撃力もあるため、ピンチ時でなくても威力は高い。

 

 これを踏まえた上で、現状の再確認してみる。

 今まで秘匿であったアジトの場所がバレ、大量の敵に奇襲を掛けられている、この状況。

 ピンチと呼ばずして何と呼ぼう。

 

 

 放たれた一撃は凄まじく、大男であるカクサンを軽く覆い尽くしていく。

 

「えっ!? 防ぎきれ……!!」

 

 何とも雑魚に相応しい言葉を残し、スタイリッシュの強化人間、カクサンはこの世から抹消された。

 彼の死を悲しむ者は皆無であった事を付け加えておく。

 

 カクサン消滅直後、彼が持っていたエクスタスは、多少の傷を負った状態で地面に突き刺さる。

 敵を葬り去ったマインはエクスタスへと歩み寄っていく。

 彼女の脳に、自分のために散っていった仲間の、最後の表情が思い出される。

 帝都に回収されしまったエクスタスが、今、彼女たちに元に帰ってきたのだ。

 

 

「……マインッ!」

 

「きゃっ!?」

 

 そこでインクルシオを纏ったタツミが、マインを抱きかかえ、その場から離れる。

 直後、エクスタスが空へと浮かび上がる。

 否、地面から生えた細長い機械の腕が、エクスタスを持っているのである。

 

 

 

「んにゃははははははははは!! もうどうでもいいやー! 皆殺しー! 皆殺しー!!」

 

 

 

 馬鹿みたいな笑い声を上げ、頭部以外は完全な機械となったGが地面から出現した。

 枝と枝を適当に組み合わせた様に思える金属の身体と、3mはある細長い機械の腕、首すら2mはある。

完全に人を止めたフォルムとなったGは、壊れた人形の様に笑い狂うのみ。

 8本となった腕の中の内、2本は彼女の帝愚であった「ギロン」が手の代わりに取り付けられ、別の2本がエクスタスを持ち、構えている。

 全長、7mはある化け物はマインとタツミを見下す。

 

 

「みぃーんな! ぶっ殺してやんよー! キャハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くたばりやがれェェェェッ!!」

 

 機械化した指先をラバックに向けるJ。

 一本一本の指先が外れ、銃口に変化した手から発射される紫色の弾丸が、緑髪の少年に襲い掛かる。

 

「お前は仕留めたハズじゃ……!?」

 

 己の手で殺めたハズの人間が生きていた事に驚きながらも、ラバックはクローステールの糸による防御壁を生み出す。

 最初に窓の外から放たれた弾丸の速度を見た時、自分の動きでは回避出来ないと判断したからの行動である。

 だが、防御壁に当たった弾丸は糸と共に液状に変化し、床へと落ちていく。

 

「やっべー……」

 

「キヒャハハハハハッ!!」

 

 狂った様に弾丸を連射するJに対し、ラバックは手を高速で動かし、次々と防御壁を厚くしていく。

 やがてお互いの姿が見えなくなる程、厚くなった糸の壁に対し、毒液の弾が次々と厚みを削っていく。

 

「ソラソラソラソラソラァァァァァァッ!!」

 

 何十発という弾丸を撃ちまくり、Jは遂に糸の壁を完全に打ち破る事に成功する。

 壁が薄くなり、その先にいた者はラバックである……ハズだったのだが、そこにはまた、同じような壁があるだけであった。

 

「二重壁だァ? 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄なんだよォォォォォッ!!」

 

 ラバックのちんけな策にイラついたJは、再び弾を放とうとするが、極度の疲労感が己の身体に襲い掛かった事に舌打ちを行う。

 毒液の出所は彼の体内を巡っている血液であるため、連射すればする程、彼は貧血になり、疲れが溜まっていく。

 肩で息をするJは、良く見れば、周囲にクローステールの糸の結界が出来上がっている事を知る。

 これ以上の発射は危険だと言う事、糸の結界等という小賢しい物に対しての怒り、これらを判断し、腕を後ろに向け、前傾姿勢になったJは地面を蹴り、壁に向かっていく。

 低空飛行で突っ込むと同時に、後ろに向けた機械化した腕が唸り、今度は指先から炎が噴射される。

 所謂、ジェット機と同様の加速を得たJは、糸の結界を突き破り、数秒も掛からず、ラバックの生成した壁を容易く突き破る。

 壁の先にいた人影に対し、邪悪な笑みを浮かべるが、ここで一つ、大きな疑問にぶち当たる。

 

「(何で人影が二つあるんだァ……!?)」

 

 噴射による加速により、改造された彼の目を持ってしても、ラバックを正確に収めることは難しく、「人影」として判断する事しか出来なかった。

 殺意に身を任せ、無駄に加速した事が仇と成る。

 されど、今更止まる事など出来ず、彼は前方にあった人影へと身体をぶつける。

 

「んがっ!?」

 

「っと……あっぶねー」

 

 Jが体当たりをかました人影はラバックではなく、ラバックが作り出した人型の糸人形であった。

 壁により視界を制限した後、囮として人形を生成した彼は、Jの行動をクローステールで探り、突撃してくると分かると、すぐに回避行動を始めていた。

 

 糸は人型を崩し、ラバックの操作の元、Jの身体に次々とクローステールが絡まっていく。

 体勢を崩したJは腕からの炎の射出を止めるが、勢いづいた身体は止まる事など出来ず、廊下の床に何度もぶつかりながら、数十mを移動する。

 ラバックの手の甲に装着されたクローステールの巻取り口から伸びている糸が、勢いよく消費されていく。

 

「首を縛っても死ななかった……改造を受けたとはいえ、死者は蘇らない……ジーダスの死者蘇生薬って奴か? いや……でも、何か引っ掛かる様な……」

 

 ようやく糸が止まった事に気付いたラバックは思案を止め、指で挟んだ糸を引っ張る。

 すると全身に糸が絡んだJが横たわったまま、廊下を引き摺られてくる。

 

「ヌガァァァァァァァッ!! このド畜生がァァァァァァッ!!」

 

 暴れ狂うものの全身を糸で縛られ、身動き一つ取れないJは負け犬の様に吼える。

 絶叫に近い咆哮であったが、ラバックの精神に脅しを掛けるには威厳等、色々と足りない。

 

「さて……首を吊っても死なないんなら……」

 

 ラバックは糸を縛り上げ、締め付けをどんどん強くしていく。

 Jの全身の肉という肉にクローステールの糸が食い込み、血液が流れ出てくる。

 

「全身を切り刻んでやるよ」

 

「ギィィィィィィッ!! アァァァァァァァッ!!」

 

 痛みによる絶叫か、手も足も出ない己の不甲斐なさに対する絶叫か。

 本日、何度目かとなる獣の言葉を叫びながらJの全身から血があふれ出てくる。

 所謂、直立不動で縛られているJであったが、ここで彼も反撃に移る。

 

「調子にィ……乗んなやァァァァッ!!」

 

 渾身の力を込め、両腕を自分の身体の外側へと向ける。

 手首から先が腕の中に引っ込み、出てきたのは、男の子の浪漫、ドリル。

 出て来ると同時に高速回転を始め、己の本分を全うするドリルにラバックは驚く。

 

「いっ!?」

 

「キッキッキィィィィィィッ!!」

 

 ドリルによる回転により、次々と糸を切断していくJは、数分ぶりの自由を手にする。

 手始めに立ち上がり、次の策を行おうとしていたラバックに目掛けて飛び掛る。

 されど、既に動き出していたラバックは糸の槍を生成し、投げるモーションまで取っていた。

 飛び上がり、自分の上空に来たJの頭部目掛けて槍を投擲する。

 しかし、純粋な身体能力では、普通の人間であるラバックより、改造されているJの方が上である。

 顔を僅かに傾けるだけで投擲を回避したJは、獲物の回避行動の前に、上空に陣取る事に成功し、ドリルを向け、落下を始める。

 直撃は死を意味する一撃に、ラバックは横っ飛びで避ける事を選択するが、それよりも前にJが笑い叫ぶ。

 

「バァァァァカァァァァがよォォォォォォッ!!」

 

 左手のドリルが腕から切り離され、弾丸の如く速度でラバックのわき腹を掠めたのだった。

 

「ぐっ!?」

 

 反射的に身体を捻る事で直撃は免れたが、身体に巻いたクローステールごと、腹の肉を削っていったドリルによる痛みに意識を取られてしまう。

 しゃがみ込み、左手で削られた部分を押さえ込む。

 そうしている間に、嬉々としたJの右手のドリルがラバックに襲い掛かる。

 

「死ねやァァァァァァァッ!!」

 

 歓喜と復讐で上擦った声になりながらも叫び続けるJに対し、ラバックは呼吸を荒げながらも、静かに呟く。

 

 

 

「お前がな」

 

 

 

 右手を軽く振るう。

 それだけの動作で、Jの胴体と首は切断され、統制を失った身体は力なく、ラバックの近くに落ちる。

 

「……?」

 

 何が起きたのか理解出来ないJの頭部を見つめながら、勝者である少年は立ち上がる。

 

 

「界断糸……とっておきの一本だ」

 

「界断糸」クローステールの糸の原材料は東海の雲に住むと言われていた、超級危険種である龍の体毛を使用している。

 界断糸はその体毛内でも、急所を護る部位に生えていた体毛を使用した一本である。

 強度は他の糸とは段違いであり、これを容易く破る存在は殆どいない。

 

 先ほど、Jに向かって投げた槍の持ち手部分に界断糸を絡ませておき、右手に持っていたラバックは、Jが自分に迫る前に腕を振るう事で界断糸による切断を試みたのだった。

 ピンと張り詰めた糸の線上に位置していた、哀れな両腕機械の少年の首は、意図も容易く切られ、地面を転がる事となる。

 

「ギググググ……グガァァァァァァッ!!」

 

 首だけになりながらも吼えるJに、身体を震わし驚くラバック。

 

「いってー……うわっ。ま、まだ生きてんのかよ……」

 

 脇腹を押さえ、気味悪がりながらも、クローステールを敗者である少年の頭部に絡ませ、再び力を入れて引っ張っていく。

 またも肉が食い込み、眼球が飛び出そうな程、圧迫されたJの頭部は死の直前を感じさせる様に、震えていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのよっ! コイツ!」

 

 マインが回避行動を取った後、パンプキンの砲撃を己に伸びてきた機械の腕に放つ。

 しかし、直撃した腕は僅かに衝撃で止まる程度であり、少々の煙を上げながら、再びマインへと襲い掛かる。

 先端に装着されたギロンの切っ先は、ピンク髪の少女の体内を崩すため、幼き身体へと容赦なく伸びる。

 

「くっ!」

 

 横っ飛びで回避するものの、今度は別の手に取り付けられた銃口がマインを狙っていた。

 回避直後の隙を狙われた少女に避ける事は出来ず、凶弾はマインの心臓を撃ち抜く――――

 

「させねぇ!」

 

 前に、インクルシオを纏ったタツミのノインテーターが弾丸を弾く。

 

 腕8本、内訳、ギロン、銃、盾、手が対になって存在しており、手を象ったパーツはエクスタスを持っている。

 足を折り曲げていても、5mはある存在にタツミもマインも攻めあぐねていた。

 

「ひゃっふー! ぶっ殺せー!!」

 

 無差別に動き回る腕に付けた銃が火を噴く。

 それはつまり、銃弾が周囲の被害関係なく放たれる事を意味している。

 周囲に存在し、Gを手伝おうとしていた、スタイリッシュの強化兵たちは、次々と彼女の銃の餌食となっていく。

 一応は仲間であるハズの強化兵たちを撃ち殺しても、Gは狂った笑顔と声で、この場に相応しくない声で笑うのみ。

 

「コイツ……滅茶苦茶だっ……!」

 

 エクスタスの切断を飛んで交わし、そのまま空中からGの頭に迫るタツミであったが、ギロンを交差させた防御に阻まれてしまう。

 その隙にマインの銃撃がGの顔面を狙うが、今度は盾を持った腕が防ぐ。

 お返しと言わんばかりに、エクスタスをマインの方に向かわせるが、既にその場を離れていたマインとは距離が空き過ぎているため、追撃を断念する。

 

「みっなごっろしっ! みっなごっろしっ! あ、そーれ!」

 

 動き続けていた銃の腕は、二本ともマインを標的と捉え、狂った様に弾を吐き続ける。

 横っ飛びからの地面を転がり続ける事で避け続けるマインであったが、彼女が動作を止める前に、懐に潜り込んだタツミのノインテーターが、双方の銃を切り落としてしまう。

 機械化した身体は頑丈であったが、流石に銃までは頑強に出来なかった結果である。

 

「おぉー! やるぅー!」

 

 怒る訳でも、驚く訳でもなく、純粋にタツミを褒めるGだが、既にエクスタスが彼を切り裂かんと、開かれていた。

 タツミはエクスタスの動きには特に注意していたため、後方に飛ぶ事で切り裂かれる事を避ける。

 すると、Gは使い物にならなくなった腕をエクスタスの間に挟みこみ、何の戸惑いもなく切断してしまう。

 

「邪魔な物はー! 切り落としましょー!」

 

 切り口から微弱なスパークを放ち、何本ものケーブルが垂れ下がり、短くなった腕は電源の落ちた機械の様に、動きを停止する。

 

 

「完全にイカれてやがる……」

 

 マインの近くまで後退したタツミの側で、ピンクツインテールの少女は、ある意見を持ち出す。

 

「ねぇ。やっぱりアイツの弱点って頭部よね」

 

「ん? あぁ……まぁ、だろうな」

 

 唯一、人として残っている部分の頭部。

 機械化された腕や身体に対しては全くの防御をしなかったが、頭部だけは分かり易い程の防御をしている。

 誰がどう見ても、彼女の弱点は頭部だと気付けるには、十分な行動である。

 

「なら、やる事は1つ!」

 

「あ。ちょっとっ!」

 

 マインの返事を聞かずに飛び出したタツミはノインテーターを構えたまま、突っ込む。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「来いよナイトレイド! 槍なんか捨てて掛かって来い!」

 

 ギロン二刀流にてタツミを迎え撃つG。

 インクルシオを身に付けた少年の突きの連撃を、ギロンを巧みに操る事で捌いて行く。

 されど、帝具使いとの闘いで実戦経験を身に付けているタツミが徐々にGを押し始めていく。

 

「おらぁっ!!」

 

 気合の叫びと共に、ギロンの付いた2本の腕を弾き上げる。

 大きな隙が出来た形になるGであるが、既に、用意していたエクスタスを開き、タツミの目の前まで迫らせている点は抜け目がない。

 だが、姿勢を低くし、駆け抜けようとタツミは動く。

 あっさりとエクスタスを潜り抜けられ、間合いに入られたGは残った盾の腕で、少年の一撃を防ごうとするが、側面から迫っていたエネルギーに気付く。

 タツミが時間を稼いでいる間にチャージし終えたマインの砲撃が、此処に来て放たれたのだ。

 これには盾を2つとも使わないと防御出来ないと悟ったGは、盾を防御に回す。

 その結果、タツミの攻撃範囲内に、己の顔が入ってしまう事となる。

 

「これでっ……!?」

 

 Gの顔面目掛けて、槍を振るい上げようとするタツミであるが、突如、横から襲った衝撃により、側面にあった茂みにまで吹き飛ばされてしまう。

 

「うっひょー! 残念無念!」

 

 エクスタスを片手に任し、自由になったもう片方の手が、タツミを横薙ぎの要領で弾き飛ばしたのであった。

 

「タツミっ!」

 

 飛ばされた仲間の名を叫ぶマインであったが、すぐに敵へと意識を向ける。

 しかし、その時には既に、Gはマインの目の前まで迫ってきていた。

 

「えっ……ぐぅっ!」

 

 動作1つ1つが散漫であり、巨体ゆえに機動力はない、と踏んでいたマインであったが、Gは化け物染みた高速移動で、己の範囲の中にマインを収める。

 タツミを飛ばした腕で、マインの首を掴み、空中へと招待し、ゆっくりと頭部を近づけていく。

 

「すーぐに動き回って逃げちゃう蟲ちゃんっぽい奴はぁー……突き崩しの刑ー!」

 

 2本のギロンの先端がマインに腹部に定められる。

 成すがままではないマインは首を掴まれながらも、パンプキンの砲身をGに向けるものの、盾となった腕が彼女の帝具を叩き落す。

 

「ぐっ……あぁ……!」

 

 呼吸による酸素の取り込みが難しくなり、息苦しくなっていくマインに、狂った頭は嬉しそうに言う。

 

「のひょー! さぁー! お前の罪を数えろー!!」

 

 ギロンを備えた腕が突き出す様に動き、マインの腹部に突き刺さる――――

 

 

「その言葉、そのまま返すぜ」

 

 

「……にゃは?」

 

 後頭部から声が聞こえた。

 そしてゆっくりと伝わってくる熱さ。

 更に遅れてやって来た痛みが、己の後頭部から額にかけて、槍が突き刺さっている事を認識させる。

 

 

 吹き飛ばれた後、敵の意識がマインに向けられたと知ったタツミは、インクルシオの奥の手「透明化」を行い、Gの背後まで移動し、跳び、ノインテーターの先端を頭部に突き刺したのだった。

 

「えっとー……んー?」

 

 マインを掴んでいた手は、彼女の意思とは関係なしに、敵を離してしまい、他の腕も次々と垂れ下がっていく。

 自分を支えていた足も動かなくなり、彼女の意識は痛みで支配されていく。

 

 

「……あぁ。そっか。負けたんだ」

 

 

 痛みによる叫びではなく、呆気なく、彼女は自身の敗北を悟る。

 先程までのハイテンションは完全に鳴りを潜め、そこには静かに現実を受け入れる、年相応の少女の顔があった。

 やがて流血しながらも、彼女の瞳は光を無くし、力なく項垂れる。

 

 Gの背中と言える部分に着地していたタツミは槍を引き抜き、マインの側へと降り立つ。

 喉を解放された事により起きる咳をしながら、マインはパンプキンを手にし、立ち上がる。

 

「来るのが遅いわよ!」

 

「いやー……悪い悪い」

 

「大体、勝手に突っ走るんじゃないわよ! 作戦があるなら一言、言ってから行きなさいよね!?」

 

「悪かったって……俺も吹き飛ばされてから思い付いただけなんだから」

 

「なら、私を勝手に囮にしたって事!?」

 

「だからそれは謝ってるって……」

 

 マインは己が勝手に囮された事を怒り、感情のままタツミに怒りをぶつけていた。

 対するタツミは罪悪感からか、ひたすらに謝るばかりであった。

 

 

 

 

 呑気に会話を行う2人の目の前で、機能停止したGの額から、黒い輝きが見えた。

 

 

 


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