異世界誘拐事件録   作:明智吾郎

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オオカミ狩り

 カイラはサダベルの怒声が響く中で、必死にその力に立ち向かおうとしていた。

 

「お前らの相手は僕だ!」

 

 その言葉が響き渡った瞬間、サダベルは冷ややかな笑みを浮かべ、指を鳴らすと、巨大なブレアスライムが地面を震わせながら現れた。その姿はまさに巨大な青い溶岩の塊、池袋の高層ビルをも超える圧倒的な大きさだった。

 

「きゃあああ!!!おいなんだあれええ!!」

 

 池袋の市民たちが恐怖に駆られ、悲鳴を上げながらその巨体を見上げていた。スライムの溶岩がじゅうっと周囲の建物を溶かし始め、町が飲み込まれていく。

 

「サダベル!もう人間はありったけ攫った!もう好きにしてよい!じゃ、逃げるか…」

 

 ティードが背を向け、余裕を見せるように言った。しかし、アレンの声がそれを遮った。

 

「逃がさない!」

 

 アレンはその一言を放つと、目にも留まらぬ速さでサダベルの隣に転移した。サダベルは一瞬で動揺を見せたが、それでも冷徹に冷笑し、手を上げて言った。

 

「ブレアスライム、"墓場"だ。」

 

 その瞬間、青い溶岩が池袋全域を覆い、関東地方全体がブレアスライムの溶岩に包まれていった。ブレアスライムの流れる溶岩で全てを無に還すというその必殺技は、言葉通り、東京を、そして関東全域を瞬く間に更地に変えた。

 

「これが、世界一の魔法使いの魔力か…」

 

 カイラは必死にその魔力を感じ取りながらも、どこか冷静さを保っていた。だが、その目の前で都市が崩壊する光景に、心の中で諦めかける自分もいた。

 

「無理か、諦めよう。」

 

 心の中でそうつぶやき、カイラはその重圧を感じた。しかし、そんな自分にカイラはすぐに言い聞かせるように、叫んだ。

 

「まぁ思ってないけどな。結界魔法!」

 

 その瞬間、カイラは周囲に結界を張り、青い溶岩の進行を少しでも防ごうとした。結界魔法は、範囲によってその効力が変わる。だが、サダベルの圧倒的な魔力の前では、国内最高戦力のカイラでさえ、周囲2メートルの小さなバリアを張るのが精一杯だった。

 

「その結界で果たして防げるかな?さぁ放て!」

 

 サダベルの挑戦的な言葉とともに、溶岩の雨がカイラを襲う。その圧倒的な力がカイラの結界を打ち破り、周囲の景色が焼け焦げていく。真夜中の都心で、命の叫び声が響き渡った。

 

「何とか防げたか…」

 

 カイラは焦りながらも、冷静に溶岩の収縮を見守った。なんとかブレアスライムの溶岩が収束し、周囲は更地となっていたが、その先にはサダベルの残忍な笑みが待っていた。

 

「エスケープ!」

 

 その瞬間、カイラの背後に突如現れたサダベルの手が彼を掴み、二人はどこかへ転移した。

 

 ここで、カイラとサダベルが岡山に転移するシーンに続きます。

 

 AM1時 岡山県 岡山駅前

 

 新年の祝福に沸く岡山駅前広場で、人々が笑顔を交わしていたその瞬間。

 

「そぉら!」

 

 サダベルの声が響き、突如として広場に現れた。彼は、カイラを力任せに放り投げた。カイラはその勢いでバスターミナルに吹っ飛び、痛々しくバスにめり込んだ。

 

「んぐ!」

 

 カイラは激しい衝撃に思わず息を呑んだが、それでもすぐに立ち上がろうとする。その顔には怒りが滲み出ていた。

 

「クソが、やってくれたな、時代遅れのじじいが!」

 

 カイラは歯を食いしばり、必死に反撃を誓った。サダベルにされるがままでいるわけにはいかない。その後ろで、市民たちがカメラを構え、彼らの壮絶な戦いを撮影し始める。

 

「お前、もう終わりだ。」

 

 カイラは意気込んでサダベルに向かって駆け寄る。だが、その目の前でサダベルは余裕の表情を浮かべていた。

 

「あんたの首を持ってクライス王のとこ行かないと僕の隊長としての立場ないんだよ。おまえ、ここで自殺してくれてもいいんだぞ?」

 

 カイラの冷徹な言葉がサダベルを挑発した。それでも、サダベルは全く動じることなく、カイラを見つめ返す。

 

「手間かけさせやがって、刺し殺してやる!」

 

 カイラは一気に距離を詰め、剣を振りかざした。鋭い一閃がサダベルの腹部を切り上げた。

 

「まだまだぁ!」

 

 サダベルはその剣を笑みを浮かべながら、軽々と受け流す。そして、すぐさまカイラの首を掴んだ。カイラは必死に腕を振り払おうとしたが、サダベルの力はそれを許さなかった。

 

「うおおお!」

 

 カイラはサダベルの腕を無理やりへし折り、その瞬間、サダベルは悲鳴を上げる。カイラの剣はサダベルの体を何度も突き刺し、再び激しい攻撃を繰り返した。

 

「痛いか?貴様に焼かれた者たちはもっと痛かっただろうなぁ!」

 

 カイラは怒りを込めてサダベルに剣を突き刺し続けるが、その度にサダベルは反撃を試みる。カイラの剣が突き刺さった瞬間、サダベルは一瞬で剣を折り、カイラを後方へ吹き飛ばした。

 

「僕の剣が…」

 

 カイラはうろたえ、倒れ込む。剣が壊れてしまったのは予想外だったが、彼は冷静さを保ちながら、また立ち上がろうとする。

 

「痛い…」

 

 サダベルは立ち上がったカイラに向かって、冷徹に言い放った。

 

「人間とはうっとうしいやつらだ。」

 

 サダベルの言葉に、カイラもまたうなずくように言った。

 

「同感だね。」

 

 その瞬間、サダベルは再び火炎魔法を放ち、周囲に爆発を引き起こした。カイラはその熱波を耐え抜きながらも、再びサダベルに向かって走り出す。

 

「お前は、私のフルパワーを出さなければ勝てなさそうだ。」

 

 その言葉がカイラに冷徹に響いた。サダベルは再び、恐ろしい力を見せつけようとしていた。

 

「アーマード・ブレア!」

 

 サダベルの体を取り囲む青い溶岩の鎧が現れる。その輝きは、まるで地球の破壊を示すかのように眩しく、熱気を帯びてメラメラと燃え上がっていた。

 

「これ、勝てるかなぁ…」

 

 カイラはその圧倒的な力を前に、ただ冷静に考え込んだ。だが、少し考えた後、彼は決意を込めて言った。

 

「まぁやるだけやってみるか。」

 

 その言葉とともに、カイラはもう一度、サダベルに向けて走り出す。だが、その目には、決して引き下がることはないという強い覚悟が宿っていた。

 

 AM1時 沖縄 那覇空港

 

 一方、沖縄ではアレンがティードを追い詰めていた。転移した先は海沿いの空港。すぐにティードは海面で暴れながら、アレンに向かってきた。

 

「動くな!オオカミ!」

 

 アレンの叫びとともに、ティードはアレンを必死に捕まえようとする。アレンはその猛攻をかいくぐりながらも、何とかティードを掴み取った。

 

「掴んだぁ!」

 

 ティードの暴れる力が強く、アレンを砂浜に投げ飛ばした。砂嵐が巻き起こり、アレンは地面に叩きつけられた。

 

「ガハハハ!貴様を殺してやる!待ってろ!」

 

 ティードはそのまま海中から勢いよく跳ね上がり、アレンに向かって猛然と突進してきた。

 

「まずい…!」

 

 アレンは即座に剣を抜き、立ち上がった。しかしその時、ティードの一撃がアレンを直撃し、空港に向かって吹き飛ばされた。

 

「空港が…爆発した!?」

 

 アレンは苦しみながらも立ち上がり、再びティードに立ち向かう決意を固めた。その惨状を見た観光客たちは、驚愕し、必死に逃げ出す。

 

 

 

 那覇ホテル 1Fロビー

 

 危険な状況を乗り越え、無事に被害者たちを救出した俺たちは、沖縄の某ホテルに避難させることにした。釜野が支配人に事情を説明し、どうにかかくまってもらうことができた。

 

「雪、大丈夫か?」

 俺はロビーのソファに雪を座らせ、隣で見守る。

 

「ごめん、無理させてるよな…」

 

 雪は力なく笑顔を見せたが、その表情に隠された痛みを感じ取った。

「ちゃんと助けに来てくれたから、大丈夫だよ!」

 

 ドーン!外から爆発音が響き渡る。

 釜野は驚きの声を上げ、近くの窓から外を見た。

「なんだ…今度は一体、何が起きてるんだ…」

 

 雪は震える手で俺の腕をぎゅっと握った。

「大丈夫だよ、俺がいるから。」

 

 釜野は静かに拳銃を構え、冷静に指示を出す。

「被害者たちを客室に避難させてもらえるか?」

 スタッフは慌てながらも対応し、すぐに被害者たちをエレベーターに乗せて上階へと送り出した。

 

 その時、ロビーを通りかかった小さな女の子が震えながら、低い声で言った。

「オオカミが、私たちを捕まえに来たんだ…」

 

 それは不安を掻き立てる言葉だった。ティードたちは今、東京にいるはずだ。ここまで来るはずがない。

 釜野は目を見開き、再度俺を見た。

「雪ちゃん、君も避難しよう。こっちへ!」

 

「あとで必ず迎えに行く。今は釜野の言う通りにして。」

 雪は無言で頷き、スタッフに手を引かれてエレベーターに乗り込む。

 

 釜野はすぐに立ち上がり、外を見に行くと言った。

「ちょっと外を見てくる。」

 

「だめだ、危険すぎる。」

 俺は強く引き止めたが、釜野は軽く肩をすくめて答える。

「大丈夫だって、出入り口から顔を出して確認するだけだ。」

 

 そう言って、釜野はホテルのロビーから外に出て行った。

 

 数分後、雨に打たれながら戻ってきた釜野は、顔を険しくしていた。

「空港だ、間違いない。どうやら爆撃が起きてる。」

 

「ティードか?」

 俺は一瞬だけ考え込む。

 

「いや、違うだろ。ティードが沖縄まで来るなんて。」

 

 釜野は拳を握りしめ、深く息をついた。

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「沖縄県警に連絡を取ってくれ。」

「まさか…行く気か?」

 

「当然だろ。真犯人が目の前にいるんだ。応援呼んで、即逮捕だ。」

 

 釜野はしばらく黙っていたが、やがて、諦めたように頭を掻きながら携帯電話をかけ始めた。

 

 20分後、沖縄県警の武装集団がロビーに到着した。

 警察官はウージーサブマシンガンを携え、厳戒態勢で俺たちを取り囲んだ。

「で、作戦の方は?」

「作戦などない、とにかく撃ちまくれ。やつが倒れるまでだ。」

 

 警察隊は不安げに顔を見合わせ、ひそひそと相談し始めた。

 釜野は呆れた様子でため息をつく。

「やっぱりそうなるよな。」

 

「無理もないさ。だが、俺には世界を繋ぐ能力がある。もしもの時は、海の中にでも繋いで放水攻撃をかければいい。」

 釜野はまたため息をつき、何も言わなかった。

 

 那覇空港

 

 アレンとティードの壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 アレンは剣を振りかざしてティードに突進する。

「遅い!」

 ティードは冷静に散弾銃を構えて撃ち込む。

 アレンはその銃弾をかわし、背後に回り込んでティードを切り上げた。

 

 ティードは激痛に苦しみながら、後ろへ転がりながら反撃する。

「うおおあああ!!」

 

 アレンは息を荒げながらも、ティードの首を切り落とし、散弾銃を手に取る。

「ふぅ、やったぞ、カイラ。これでティード海賊団は終わりだ。」

 

 しかし、次の瞬間、ヴェンデッタが現れた。

「最奥呪法スピア」

 アレンの首が切り落とされ、彼はその場に倒れた。

 

「な、なぜお前が…ここに…」

 アレンは最後に言葉を漏らし、目を閉じた。

 

 ヴェンデッタはティードの亡骸を抱え、再び転移していった。

 

 アレンはそのまま命を落とし、静かに戦いの終焉を迎えた。

 

 

 沖縄県警の隊員たちが空港に到着し、内部に入っていく。

「どうなってるんだ?」

 アレンの死体を見つけた俺は、すぐに駆け寄った。

「ごめん、早く到着できれば、こんなことにはならなかったかもしれない…」

 

 俺たちはアレンの亡骸を包み、沖縄県警の装甲車へと運び込んだ。

「こいつはカイラの友達だ。遺体はカイラに返す。」

 

「わかった。」

 釜野は頷き、装甲車の中に遺体を安置した。

 その後、俺たちは沖縄県警本部へ向かうことになった。

 

 

 

 岡山市街のビル群。

 青い炎がサダベルの体にまとわりつき、メラメラと輝きながら燃え盛っている。

「この炎の鎧は何もかもを溶かす、たとえ国であろうともな。」

 サダベルは冷徹な目でカイラを見据える。

 

 耳に手を添えながらカイラが一言。

「炎がなんだって?」

 

「これが私の全力だ。」

 サダベルはその言葉とともに、カイラに向かって突進した。

 カイラをがっちりと捕まえ、そのまま突き抜けるように奥のビルへと進む。

 壁が崩れ落ち、次々にビルが崩壊していく。

 周囲の人々は悲鳴を上げ、四方八方に逃げ惑う。

 

「ほう。」

 カイラは冷淡に呟きながら、その破壊の様子を見守る。

 

 ビルが次々と崩れ落ちる中、岡山市は次第に壊れていった。

「それだけか? あんたの力は?」

 カイラはサダベルの腹を蹴り上げると、サダベルは直角に飛ばされ、空へと舞い上がっていった。

 

「ぐぅ!」

 サダベルは空、高速で大気圏を抜け、宇宙へと吹っ飛んでいく。

 

 カイラは小さく笑い、サダベルを追いかけて宇宙へと飛んでいく。

「どうやらじじい、攻撃力に全振りしすぎたようだな。」

 サダベルの魔法は驚異的だが、その防御には隙があったようだ。

 

「ふん!」

 大気圏でようやく身体を止めたサダベル。

 その直後、カイラが追いつく。

 

「じじい、終いだな。」

 カイラの隣に、巨大な水神リヴァイアサンが現れ、大きな口を開けてサダベルに迫っていく。

 

「食らえ、リヴァイアサン! 奥義・ブレアスピア!」

 サダベルの目から、光線が放たれ、リヴァイアサンに向かって突き進む。

 

「ちっ。」

 カイラは舌打ちし、リヴァイアサンを転移させる。

 その間にも、レーザー光線がカイラの横を通り過ぎる。

 頬が焼け、血が流れ落ちる。

 

 そのレーザーは岡山市を貫き、街に到達するや否や、大爆発が巻き起こる。

 岡山の街並みは、無惨に崩れ去った。

 

「そうだよなぁ、せっかく手に入った水神を殺すわけにはいかない。」

 サダベルは冷ややかな声を出す。

「水神なしでもお前を殺せるさ。」

 カイラはそのまま告げる。

 

「ならば今度は――"全魔力"だ。」

 サダベルの目から、再び青いレーザーが放たれる。

 

「おっとっとぉ!」

 その瞬間、カイラはサダベルの正面に転移し、一撃でサダベルを打ち飛ばす。

 サダベルの顔が側方へと傾き、その結果レーザーの発射角度が変わり、レーザーはアメリカへと向かっていった。

 

 その光線は、発射からわずか0.001秒でニューヨーク市街地に到達。

 その瞬間、アメリカ全域の地盤が歪み、爆発が起きる。

 あらゆる建物が崩壊し、全土が荒れ果てた。

 

「じっとしろぉ!」

 カイラはサダベルを羽交い絞めにし、背後から拘束する。

 

「離せ!!」

 サダベルは必死に抵抗するが、カイラはその頭部を強く押さえ込んだ。

 

「今まで学園長の勤め、ご苦労だったな。退勤しろ。」

 カイラは無情に言い放つ。

 

「やめろおおおおおお!!」

 サダベルの必死な叫びも、無駄に終わる。

 

 ゴギッ――!

 サダベルの首が音を立てて折れ、完全に動かなくなった。

 

「やっとくたばったな。」

 カイラはサダベルを片手で抱え、池袋へと向かう。

 

 池袋の、もはや更地と化した地面。

「うそだろ、これが池袋なのか?」

 悠は沖縄から池袋へと繋がった現状を見て、驚愕の声を上げる。

 

「やったのか! カイラ!」

 上空から、学園長を抱えたカイラが降りてきた。

 

「まだです。アレンがどこにいるのか、探さないと。」

 カイラは決して安堵しない。

 

 悠はそのことをどう伝えるべきか、悩んでいた。

「カイラ...残念だけど、お前の友達は殺されたよ。」

 彼は静かに告げる。

 

 カイラはその言葉を聞いて、絶望の色が顔に広がる。

 彼はうつむき、しばらく言葉を失った。

 

「アレン...!」

 力強く下唇を噛みしめ、静寂の中で一分間、動かずに立ち尽くした。

 

 

 

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