異世界誘拐事件録   作:明智吾郎

11 / 16
ChapterⅣ 戦争
マフィア


 那覇、ホテルの部屋。

 

 ピピピピ!と目覚まし時計が鳴り響く。

 

「んー…」

 

「ほら、起きて!寝ぼすけ!」

 

 雪が声をかける。

 

「わかってる…あと五分だけ…」

 

 ふと、思い出す。

 

 雪はもう大丈夫なんだ。

 

「どした?怖い夢でも見た?」

 

「いや、何でもないよ。」

 

 二度と失わないように、守らなきゃ。

 

 俺は強く念じた。

 

「久しぶりだな、探偵。」

 

 声が響く。

 

 目の前に現れたのは、あの時、重要参考人として捕らわれていた海賊団のグリスだ。

 

「なんで生きてる…石になったはずじゃ…」

 

「忘れたのか?俺は石化を逃れて、警察たちの記憶を改ざんし、逃げ延びた。」

 

 そうだった、あの後何事もなかったかのようにみんな過ごしていたな。

 

「魔法って便利なんだな。でも、人の部屋に透明で居座るなんて悪趣味でしかないぞ。」

 

「話が終われば出ていく。」

 

 雪が俺の袖を掴んで、震えている。

 

「大丈夫だよ。少し外してくれ、すぐ終わる。」

 

「うん、わかった…」

 

 雪は部屋を出ていった。

 

「お前が助けたケッカイ島の人間たちはまだ出荷されていない。おそらく、ティードはまだ生きている。復帰したら真っ先に日本に攻め込んでくるだろう。」

 

「それに、今テレビをつけてみろ。」

 

「テレビ?」

 

「いいから。」

 

 リモコンでテレビをつける。

 

「なんだよ…これ…」

 

 ニュースが映し出される。

 

「狼野悠、エルフの手先として全国指名手配。」

 

 俺が、指名手配!?

 

「どういう訳かお前はサダベルの仲間として追われている。おそらく、世界を繋げる能力を目の当たりにして、サダベルやティードを送り込んだ張本人として追われているらしいな。」

 

 呆然としている俺を尻目に、グリスは言った。

 

「せいぜい生き延びろよ、探偵。」

 

 そう言うと、姿を消した。

 

「悠?どうしたの…?」

 

 雪が心配そうに部屋に戻ってきた。

 

 どうする…?とにかく、今すぐ逃げないと。

 

「雪!!逃げ!」

 

 ピンポーン!

 

 部屋のインターホンが鳴り響く。

 

「雪、部屋の奥で待ってろ。」

 

 恐る恐る覗き穴を見ると、そこには誰もいない。

 

「きゃあああ!」

 

 部屋の奥で雪の悲鳴が聞こえ、俺はすぐに駆けつけた。

 

 雪を拘束していたのは、パーカーを着たフードを被った数人の男たち。

 

「てめぇら動くなぁ!」

 

 銃を構える。

 

「お前がな。」

 

 ドン!

 

 後頭部を銃で殴られ、俺は倒れ込んだ。

 

 目を開けると、そこは事務所のような場所で、10人ほどの強面の男たちが立っていた。

 

 手足を縛られ、身動きが取れない。

 

「クソ…ここは…」

 

 中央の椅子に腰掛けたサングラスの男が口を開いた。

 

「起きたか、探偵さん。」

 

「なにもんだよ…あんたら。」

 

「俺たちはロシアンマフィア スカー、俺はそのボス、ザックだ。」

 

 ロシアンマフィア…?どういうことだ、まさか…ここは。

 

「ここは…どこなんだ…」

 

「言いそびれていたな、ここはロシアの孤島、カリ島だ。」

 

「安心しろ、お前さんの彼女には一切乱暴してない。ただ彼女を返してほしけりゃ俺たちに協力してもらう。」

 

「何が目的だ…?」

 

「異世界に攫われた俺の娘を取り返す。」

 

「おらぁ、戦争したいんだよ、エルフたちを皆殺しにしてやるんだ。」

 

 フフっと鼻で笑い、そう言った。

 

「銃と魔法ってさ、どっちが強いと思うか?」

 

 

 

 

 クライス王、メント、そしてクリスはサダベルの報告を受けて、アルタイル王国へと帰還した。しかし、すでにその時は遅かった。

 

「それで、ティードはまだ生きているのか?」

 クライスは玉座に座り、足を動かしながらイライラと問いかけた。

 

「ええ、仕留め損ねました。」

 カイラは無表情で答えた。

 

「陛下、お言葉ですが、これはカイラの責任ではありません。」

 クリスが続ける。「ダグもアレンも殺され、しかも相手は極悪海賊に世界一の魔法使いです。」

 

「わかっている。」

 クライスは低く、力なく答えた。「遅れてしまった私にも責任がある。」

 

 その時、突然の痛みが走った。

「は?」

 カイラが目を見開いた。

 

 クリスが激しくうめいた。

「ぐぅ...貴様...!」

 彼の体が急に後ろへと崩れ、背中を深く刺したのはメントの杖だった。

 

 血が吹き出し、クリスはその場に倒れた。

「いやああああ!!」

 カノンが駆け寄り、血を押さえようと必死に手を当てた。

 

「貴様ぁ!」

 クライスは目を見開き、剣を握りしめて立ち上がった。その音は、王宮に響き渡った。

 

「いつから裏切っていた!」

 クライスの声は怒声となった。

 

 メントは冷徹に答えた。

「ずっと前さ。」

 メントがそう言い終わると、窓が突然割れ、赤い鎧を着た兵士たちが数十人も王宮に侵入してきた。

 

「その赤い鎧...貴様ら魔国の者だな?」

 クライスの声には驚きと怒りが込められていた。

 

「そうだ、魔国ジーンだ。」

 メントが不敵に笑った。「ティード海賊団がピンチだとなれば、我々も黙って見ているわけにはいかない。」

 

「クソが...」

 クリスは朦朧とした意識で呟いた。 「毒が強すぎる...」

 

 カノンは涙をこぼしながら、彼の頬を手で支えた。

「いやだ...死なないで...」

 彼女は泣きながら言った。

 

「カノン、ごめんな。」

 クリスの声はかすれていた。「一緒に居てやれなくて...お前はもう兵士を辞めて、静かに暮らせ。長生きしてくれ...それが...おれの...願い...」

 

 その言葉を最後に、クリスは動かなくなった。

 

 

 

 静止したクリスの遺体を見つめるクライスの怒りは、もはや抑えきれないものとなった。

 

「クリス...!よくもぉ!わが友を!!」

 クライスは剣を天に掲げ、激情に満ちた声を上げた。

 

「来い!光神ダイス!」

 彼が召喚の呪文を唱えようとしたその瞬間、突然、ヴェンデッタの声が響いた。

 

「呪法べベラ!」

 

 転移したヴェンデッタが、クライスに石化の呪いをかけた。

 

「クソ!」

 クライスは咄嗟に右腕を振るい、その石化の進行を切り落とした。腕が床に転がる。

 

「ふーん、石化が始まった片腕を切り落としたか。やるじゃないか。」

 ヴェンデッタの言葉は冷徹で、挑発的だった。

 

「おい!貴様は何者だ!いつメントに成り代わった!」

 クライスが叫んだ。

 

 メント?と呼ばれる男は、冷笑を浮かべながら答えた。

「言ったろう?ずっと前だ。」

 

 その瞬間、ヴェンデッタが再び呪文を口にした。

 

「最奥呪法スピア!」

 

 彼が指を向けると、カノンに向かって呪いのレーザーが飛び出した。

 

「カノン!早く逃げろ!」

 カイラの声が響く。

 

 カイラはすぐさま手を差し出し、カノンの周囲に結界魔法を展開してレーザーを防いだ。

 

「エスケープ!」

 カイラはカノンの手を握り、瞬時に王城外へと転移した。

 

「アーマード!」

 クライスは叫びながら、自身の身体に鎧を装着させる。

 

「ほほう、それが強化形態ってわけね。」

 ヴェンデッタの冷徹な声が響く。「じゃあ、これを防ぎきれるかしら?最奥呪法ストーム!」

 

 クライスの目が見開かれた。

 全方位から呪いのレーザーが彼を包囲する。

 

「エスケープ!」

 クライスはすぐさまレーザーの外側へと転移し、攻撃を避けた。

 

「ヴェンデッタ!覚悟ぉ!」

 クライスは再び天を仰ぎ、剣を高く掲げた。

 

「光神ダイス!」

 だが、その瞬間、メントの冷たい声が響いた。

 

「じゃあな、王様。」

 気がつけば、メントはクリスの遺体を担いでいた。

 

「何だと...」

 クライスは唖然とした表情で言葉を失った。

 

「いまよ!全員転移魔法で逃げて!」

 ヴェンデッタの命令で、一瞬の隙を突かれ、敵たちはすぐさま転移魔法を使って逃げてしまう。

 

「くそ!」

 クライスは怒りを露わにしたが、すでに遅かった。

 

 次の瞬間、ヴェンデッタたちは王宮から姿を消し、クリスの遺体もろともその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 ロシア、カリ島

 

 俺と雪は、ロシアンマフィア「スカー」と呼ばれる組織に連れ去られ、今、薄暗い檻の中に囚われていた。

 

「よう、起きたか?」

 ロウが低い声で言う。手錠を付けられ、冷たい床の上で目を覚ました俺に、ロウは冷ややかな視線を送った。

 

「眠れるわけねぇだろうが。」

 俺は力なく答える。

 

「それもそっか。」

 ロウは小さく納得し、ガラガラとパイプ椅子を動かして、腰を掛ける。

 

「俺はロウだ。短い間、お前の監視を頼まれた。」

 ロウは無表情でカロリーメイトの箱を投げてきた。

 

「カロリーメイトかよ。というか、あんたら日本語わかるんだな。」

 俺は箱を受け取り、目を見開いた。

 

「俺たちは国際的なギャングだ。」

 ロウが冷たく笑う。「これから潰す他国の言語を理解するのは当たり前だろうが。」

 

 同刻、北京、中国

 中国マフィア ジョンイル 拷問室

 

「ふーんふーんふーんっと♪」

 センター分けの若い男、イザが無邪気に鼻歌を歌いながら棚の上の刃物をガサガサと漁っていた。

 

「よせ…頼む、やめてくれ…家族がいるんだ…」

 スカーの工作員、ライズが必死に泣きながら命乞いをする。だが、血が頭から大量に流れ、彼の体はすでに衰弱しきっていた。

 

「だったら喋れよ、アホンダラがぁ!」

 イザはライズを罵りながら、ナイフを振りかざした。「てめぇのその低能さで自分のボスの首を絞めてんだぞ、わかってんのか?」

 

 ライズは弱々しく声を絞り出す。

「…ボスは、今指名手配されてる日本人を捕らえて、これから魔国ジーンに乗り込んで戦争を始める気だ…」

 

「その答えが聞きたかったんだよぉおお!」

 イザはライズに抱きつき、血塗れの頭を優しく撫でた後、ナイフを彼の首に突き刺した。

 

「地獄の底でな。」

 ライズの体が一瞬で硬直し、動かなくなった。

 

 同刻、中国マフィア ジョンイル 書斎

 

 ドアが開き、イザの弟、二ムが入ってきた。

 

「兄貴!ボスが呼んでる!そいつ、喋ったのか?」

 二ムは急かすようにイザに聞いた。

 

 イザはにやっと笑い、うなずく。

 

「はい、スカーの連中は既に日本人を捕らえたそうです。」

 イザは満足げに言った。

 

「ボス、俺たちの武装は完璧です。どうでしょう、ここはスカーと共に魔国ジーンに乗り込み、国ごと乗っ取ってしまうのは?」

 

「我々の銃とエルフの魔法、どう考えても技名がない我々の銃弾が、先に奴らの腹をえぐりますよ。」

 二ムは目を輝かせて言った。

 

 イザと二ムはキラキラした目でパクに向かって話す。

 

「やれやれ、君たちにはかなわないわ、わかったわ。」

 パクはくすくすと笑いながら、穏やかに答えた。

 

「やったー!皆殺しだ!」

 イザがはしゃぎながら言った。

 

 数分後、イザたちは書斎を後にした。

 

「なぁ、ニムー。」

 イザがふと声をかけた。

 

「んー?どったの兄ちゃん?」

 二ムが首をかしげる。

 

「もし、この戦争でボスが死んだら、次のボスは俺だな!」

 イザが少し不敵に笑って言った。

 

「兄貴も人が悪いよ!」

 二ムが笑いながら返す。

 

 

 

 

 ロシア、カリ島

 

「じゃあ、そろそろ働いてもらおうか」

 

 ザックの声と同時に、頬に鋭い痛みが走った。叩かれた勢いで床に転がりそうになる体を無理やり起こされる。

 

「いてぇんだよ、馬鹿野郎!」

 

 怒鳴り返したが、ザックは無表情のまま胸倉をつかんできた。

 

「いいか、お前が言う通りにすれば、娘は解放する。だが──」

 鋭い目がこちらを射抜く。

「もし少しでも逆らえば……わかってるな?」

 

 ため息を吐いて目をそらす。

 

「わかったって。離せよ、おっさん」

 

「聞き分けが良いな。さあ、連れていけ」

 

 薄暗い独房を出て、眩しい西日が差し込む事務所の外に出る。足元に広がるのは、スカーが占拠した無人島──ロシア沖の孤島、カリ島だった。

 

「ここにゲートを立てろ」

 

 ザックが指さしたのは、事務所から10メートルほど離れた平坦な地面。従うしかない。俺は目を閉じ、異世界──魔国ジーンを思い浮かべる。

 

「リンク」

 

 空間がうねり、まるで水面のように歪んだ光の幕が開く。そこに現れたのは、魔国ジーンの市街だった。

 

「ここに繋げたまま固定しろ」

 

「は? そんなことやったことねえぞ」

 

「言ったはずだ。できなければ娘もろとも殺す」

 

 くそ、どうすれば……。深呼吸し、意識を集中させる。思い描け。ここに固定する、絶対に動かないイメージを。

 

「……やってやる」

 

 ビビッ、と小さな破裂音。収縮するはずのゲートは形を保ったまま、安定している。

 

 成功──したのか?

 

「皆、装備しろ。重装備だ。奴らを皆殺しにしろ」

 

 それから一時間後、パク率いる中国マフィア500人がカリ島へと上陸する。

 

「ここかぁ、スカーのアジトは」

 

 笑顔を浮かべながらイザが呟き、そばにいた部下に手を伸ばす。

 

「おい、斧貸せ」

 

「はい、兄貴」

 

 斧を受け取ったイザは、何のためらいもなく部下の脚に振り下ろした。

 

「ぎゃあああ!」

 

 膝を砕かれた男がのたうちまわる。

 

「こらこら、敵地で暴れないの。狙うなら首にしなさい」

 

 パクが煙草に火をつけながら、呆れたように言う。

 

「この斧、切れ味悪くないか?」

 

 イザはそう言ってさらに二発、斧を振り下ろした。

 

「うぎゃあああ!!」

 

 叫び声が島中に響き渡る。

 

「切断するのに三発もかかるとはな。これから相手にするのは魔法を使う異種族だぜ? こんな装備で大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ、問題ない。奴らの耐久力は俺たち人間と同じだ。この程度で十分」

 

 ニムが軽く笑って返すと、兄弟はそのまま砂浜を抜け、ゲート前へと到着した。

 

「これがゲート。ここから先が魔国ジーンってわけね」

 

 パクは吸っていた煙草を投げ捨て、トンプソン短機関銃を構えた。

 

「じゃあ、みんな──いきましょうか」

 

「おい野郎ども、銃を構えろ。虐殺開始だ。女、子供、捕虜、スカー、全部だ!皆殺しだぁ!!」

 

 同刻 アルタイル王国 アルタイル城

 

「カノン、今までご苦労であったな。これから君に与える最後の仕事だ」

 

 クライス王の言葉に、うつむいたままのカノンが応じる。

 

「……はい、クライス王」

 

 クリスを失った心の空洞はまだ埋まらない。だが、それでも──

 

 復讐に燃える王は兵を動員し、カノンを伴い記者会見の場へと向かう。

 

 城の中庭。噴水の前に集う数十名のエルフ記者たちの前に、クライスは姿を現した。

 

「魔国の連中は、私の信頼していた友の命を奪った」

 

「海賊、そしてサダベルの抗争で、数多の同胞が血を流し、命を落とした。我々は今ここに宣言する──」

 

「魔国ジーンに、宣戦布告する!」

 

 その言葉は風に乗り、瞬く間に世界を駆け巡った。魔国ジーンの国王──ジーンの耳にも届く。

 

 魔国ジーン 王塔

 

 地獄のような光景が広がっていた。奴隷として扱われる人間たちが、エルフの手にかかって次々と殺される。もはや秩序など存在しない。そこは純然たる闇の王国だった。

 

 王塔、王の間。人間の皮膚で張られた玉座にふんぞり返るのは、黒い眼帯をつけた肥えた男──魔王ジーン。

 

「へぇ、たてつく気か。ゴミの分際で」

 

 爪をカチカチと鳴らしながら、嘲笑する。

 

「どうされますか、国王様?」

 

 傍らに立つ臣下・メントが問いかける。

 

「迎え撃つに決まってるだろうが。当たり前のことを聞くな、ゴミが」

 

 魔国ジーン 王塔地下

 

「がぁあああ……」

 

 呻きながら傷を癒すのは、かつて勇者に討ち漏らされ、時の隙間へと逃げた怪物──魔王グランド。

 

 この地に再び、深い闇が胎動を始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。