終戦から二時間後、雪の無事が確認された。彼女はロシアのカリ島で、現地警察に保護されていた。異世界での長い戦いを経て、ようやく平穏が訪れた。しかし、これから二つの世界は、元の生活に戻るための道を歩まなければならなかった。その道は決して平坦ではないことが、誰の目にも明らかだった。
「これからも貢献していこう。世界を立て直すために。」
クライスたちは異世界へ帰還し、深い決意を胸にこう宣言した。
「全ての人間を、あちらへ引き渡す。」
その言葉を皮切りに、二週間後。異世界で誘拐されていたすべての人間が、家族の元に帰還した。喜びと涙が交錯する中、無事に帰還した者たちはその身に抱えきれないほどの感謝と安堵を感じていた。
しかし、その一方で、帰還できなかった者たちがいた。死んでいった人間たちも、多数存在する。
だが、その死が無駄でなかったことを示すかのように、エルフたちは人間の尊厳を認め、共に歩む決意を固めた。それは、この終わりなき戦争における、平和への第一歩だった。
クライスたちは、胸の中で静かにその事実を噛みしめた。この小さな一歩が、未来に向かって大きな意味を持つと信じて。
現代 アルタイル王国 スモーク山山頂墓地
現代では、メントの遺体を墓に還す作業が行われていた。クライスたち、そしてデジャヴはその作業に徹していた。
「そぉら!」
ギャバットはシャベルを力強く振るい、土を豪快に掘り起こす。
「これで、やっと終わったんだね。」
カイラが静かに言うと、クライスが頷く。
「あぁ、やっとな。」
クライスは少し疲れた様子で肩をすくめる。
「早く手伝ってくださいよぉ!」
エリーはサボり気味のクライスたちに声をかけ、急かす。
「ほぇぇ、つっかれたぁ…」
ハンドルはシャベルを地面に置き、背伸びをしながら一息ついたその瞬間。
バキ!
突然、メントが入っていた棺桶から手が突き破ってきた。
クライスは瞬時に剣を抜き、構えた。
バキバキ!
棺桶の木材が破れ、メントがそこから無理矢理這い出してきた。
「私が生きていることに驚いてるようだな。」
メントが低い声で笑う。
「な、なんで…?」
ハンドルは呆然とし、目を見開いてメントを見つめる。
「私の体得していた禁忌魔法には、蘇生術がある。」
メントが笑みを浮かべながら続ける。「死ぬ直前に全ての魔力をそこに込めることによって、数日後に見事に蘇る禁忌魔法だ。」
「ば、馬鹿な…!」
クライスが声を上げ、剣を構え直す。
「ふははぁ!そしてこれで復讐の戦争をはじめることができる…!!」
メントの目に狂気が宿る。
「おれが貴様を葬る…!」
クライスの声は冷徹で、怒りをにじませながら言った。
「雷魔法!ライデン!」
メントが杖を振るい、雷を放つ。
「させるかぁ!ハンドル!」
ギャバットが叫び、鉄槌を振るうも、メントの姿は無傷のままだ。
「化け物め…!」
ギャバットは歯を食いしばって呻く。
「水魔法!ショット!」
ハンドルはクロスボウガンを構え、矢の先に水魔法を込めて放つ。しかし、矢は反射し、跳ね返ってしまう。
ドカン!
メントの雷が、エリーに直撃し、激しく炸裂する。
「強化魔法!」
エリーは体術を強化し、雷を素早く回避する。
「はぁ!」
クライスが一気に駆け、杖と剣の攻防戦が繰り広げられた。
「お供する!」
カイラも剣を抜き、クライスと共にメントの杖に斬りかかる。
「氷結魔法 エイジ!」
メントが呪文を唱えると、その瞬間、クライスたちは一斉に氷結魔法で凍りついてしまった。
「貴様らでは私には勝てんよ、このまま氷ごと粉砕してやる!」
メントは得意げに言い放ち、爆発魔法を放とうとしたその瞬間。
「火炎魔法 ボルケーノ!」
空からロイスが現れ、火炎魔法で氷を溶かす。カイラたちは自由を取り戻す。
「ほう、火炎魔法で溶かすか。」
メントはその状況に驚きつつ、空高く舞い上がった。
「ロイス!感謝する!」
クライスは息を切らしながら、ロイスに感謝の言葉を送る。
「もういい、このまま終わりにしてやる。」
メントは飛行魔法で空へと飛び立ち、杖をクライスたちに向けて構える。
「最奥魔法 バッド!」
メントは杖に全魔力を込め、その魔法を放とうとしていた。
「彼を止めないと!彼の魔力量だと、王都、いや…この国が滅びる!」
ロイスが焦りながら叫ぶ。
「魔力を溜めている状態で岩石魔法で体を覆っている!全員の最奥魔法で奴の奥義を食い止める!これしかない!」
クライスが冷静に指示を出す。
「総員!武器を奴に向けよ!」
クライスが命令を下すと、全員が一斉に武器を構える。
「最奥魔法!ホワイトショット!」
全員の武器が白く光り始め、最奥魔法が放たれる。
「これで…終わりだぁ!!!!」
メントの杖から黒いビームが放たれる。対するクライスたちの光線がぶつかり、その衝撃で空の雲が一気に消え去った。
「うおおおおお!!いけえええ!!!」
クライスが叫び、ビームがメントの黒いビームを突き破る。
「馬鹿なぁ!!!!ぐわぁあああああ!!!!!!」
メントは最後の叫びを上げ、ビームにさらされると、身体ごと消滅していった。
「やっと…終わった…のか…!」
クライスが息を整え、呟く。
「ええ、そのようですね…!」
カイラが静かに答え、クライスの肩に手を置いた。
クライスたちは安堵の表情を浮かべ、肩を抱き合って立ち尽くしていた。
飛鳥探偵事務所
「…はよ!おきて!」
突然、雪の声が耳に飛び込んできた。まるで夢の世界から引き戻されるように、目を覚ます。
夢を見ていた。恋人の雪と、夕暮れ時の静かな砂浜に並んで座り、結婚について話している夢だ。あの穏やかな空気の中、言葉がようやく口をついて出た。
「雪、話があるんだ。」
雪は俺の肩にもたれかかり、穏やかに「なーに?」と微笑みながら聞き返してくれた。
「俺と結婚してほしい。」
ついに、ずっと言いたかった言葉が口をついて出た。あの夢の中で、ようやく勇気を出して言ったんだ。
だが、その時、突然目の前が明るくなった。
「は!」
雪の掛け声と共に、埃をかぶったソファの上で目が覚めた。夢から引き戻された現実に、しばらくはぼんやりとした状態だった。
「おはよ!凄いうなされてたね。」
雪の笑顔が見え、私は安堵の息をついた。
「あ、あぁ...いい夢を見てた。」
うん、あの夢は現実でも叶うかもしれない、そう思った瞬間、心の中で何かが温かくなった。
でも、心のどこかで、やっぱりこの気持ちを伝えなければと思っていた。無意識に口に出していた。
「...雪、話したいことがあるんだ、大切な話。」
雪が少し驚いたようにクスクスと笑い、こちらを見た。
「急に何?」と、少し不安げに。
でも、この瞬間が、俺にとって一番大切なものだった。
「俺と、結婚してほしい。」
ついに言ってしまった。その瞬間、心臓がドキドキと速く打ち、顔から汗がにじみ出るのを感じた。
雪はしばらく黙って、じっとこちらを見つめていた。その静かな時間が、何もかもが確かに過ぎる瞬間だった。
そして、ようやく雪が口を開いた。
「私でよければ、是非したいです。」
その言葉に、俺は胸がいっぱいになった。恥ずかしそうに照れる雪を見て、俺もつられて笑顔がこぼれた。
こんなに幸せな瞬間が、これから続いていくことを信じられる気がした。
そして、俺に降りかかった全ての騒動が、今、こうして終わりを告げる。
後世の時代に残すべき物語、それがここに記されるべきだと思った。
異世界誘拐事件録