異世界誘拐事件録   作:明智吾郎

3 / 16


 作戦会議

 

 「作戦は――こうだ」

 

 クライス王が玉座に腰かけたまま、重々しい口調で口を開いた。

 

 「……雪を取り返せるなら、なんだってやる! 話してくれ!」

 

 俺が前のめりに叫ぶと、クライスは静かに首を振った。

 

 「まず、君は前線には出るな」

 

 「……は?」

 

 言われた瞬間、耳を疑った。

 

 「君のウォークの力は、極めて危険かつ強力だ。使い方によっては、戦況を180度変える可能性がある」

 

 コロウが続ける。

 

 「おそらくティード側も、同じくウォーク能力者であるガウスを前線には出さないだろうな。簡単に失うには惜しい駒だ」

 

 心の中で舌打ちした。せっかく、奴らを一人残らずなぶり殺す絶好の機会だと思ったのに。どいつもこいつも、俺の中の怒りを知らない。

 

 エルフどもの絶望に染まった死に顔を、じっくりと――拝めると思ったのに。

 

 「ふはは、お前、今とんでもねぇこと考えてただろう?」

 

 笑いながら声をかけてきたのはダグだった。

 

 「……え? なんでわかった。もしかして、それも魔法か?」

 

 「いやぁ、すまねぇな。ちょっと一般人に意地悪しちまっただけだ」

 

 カチン、と来た。

 

 「どいつもこいつも……俺を雑魚扱いしやがって。そんなにすげぇ力を俺が持ってるってんならよ、使い方の一つくらい教えてくれてもいいだろ。いいか? 俺はまだお前ら人喰い種族を信用してねぇからな」

 

 俺は指を突き立てて言い放った。

 

 「いざとなりゃ、もう一回世界を繋いで――俺の世界の警察隊をお前らにぶつけてやるよ!」

 

 その時、静かにコロウが言った。

 

 「……お前に、力や魔法の使い方を教える時間が、もうないのだ」

 

 クライスが言葉を継ぐ。

 

 「ティードは、すでに港町ダイアリーを占拠している。王都にまで被害が及ぶのも時間の問題だ」

 

 メントが一歩前に出て、真面目な顔で語る。

 

 「ティード海賊団は近年、急速に勢力を伸ばしています。今や彼らの暴走を止められるのは、一国の軍でも難しい……」

 

 クライスの声が、ひときわ低くなった。

 

 「だが、ダイアリーを襲った最大の理由は――君だ」

 

 「俺……?」

 

 「ティードたちは、君の存在を恐れている。ウォークの力を持ち、かつその凶暴性……いつ、どんな形で牙をむくか予測できない。だからこそ、君を確保しようとした」

 

 「……確保?」

 

 「ガウスが死んだときの“補欠”として、君を冷凍保存するつもりだった。だが――その計画は、君がダイアリーで泥棒を捕まえた事件で狂った」

 

 クライスの目が、俺の瞳を射抜いた。

 

 「君は、あまりに“凶暴”だったのだ。彼らにとって、管理不可能な存在だ」

 

 「それで、町ごと占拠したってのか?」

 

 「最後に君が目撃された場所であるダイアリーを、あいつらは包囲した。ウォークの力をコントロールされる前に、“排除”しようとしたんだ」

 

 「でも、もう遅かった」ダグが口を挟んだ。

 

 「俺があの時助けなきゃ、お前バラバラにされて海に流されてたぞ。二度と生き返れねぇようにな」

 

 ……そんな、あぶねぇ話だったのか。

 

 「……わかった。で、結局俺は、何すりゃいいんだよ」

 

 「君はコロウと共に動いてもらう。彼は見た目こそ老いているが、銃の腕は超一流だ。いざとなれば、必ず君を守る」

 

 コロウが無言で小さく頷いた。

 

 「そして、前線にはこの私と、騎士団が出る」

 

 「王様も戦うのかよ」

 

 「クライスはめっちゃ強いぞ。ティードとタイマン張れるレベルでな」ダグが笑う。

 

 「我が騎士団には、ダグとメント。そして今は不在だが――クリス、カノン、カイラという者がいる」

 

 「カイラは今、ハミット王国で王子の護衛任務に就いている。今回の戦には戻れんだろうな」

 

 その時――

 

 ガチャリ

 

 重々しい音とともに扉が開き、スーツ姿の若い金髪の男と、制服を着た短髪の少女が姿を現した。

 

 

 「ただいま戻りました、陛下」

 

 高身長の金髪の青年が、礼儀正しく告げた。整った顔立ちと涼しげな目元、どこか近寄りがたい空気を纏っている。

 

 続いて、制服姿の短髪の少女が、伸びをしながら間延びした声を上げる。

 

 「ふわぁ〜、ただいまですぅ〜」

 

 クライス王が玉座から彼らに目を向けた。

 

 「ちょうど良いところに来たな。お前たちの話をしていたところだ」

 

 少女はぱっと顔を輝かせて、こちらに歩み寄ってくる。

 

 「おぉっ!君が悠くんだね!? ウォーク能力者の人間さん!」

 

 その無邪気な笑顔に、思わず身構える。

 

 「おい、人間。カノンから離れろ」

 

 金髪の剣士が低く鋭く言い放った。

 

 「こいつが勝手に寄ってきたんだろうが」

 

 「カノン、そんな家畜の元に近寄るな。臭いが移る」

 

 その言葉に、悠の中で何かがはじけた。

 

 「おい金髪……殺されてぇのか? あ?」

 

 「だったらどうする。丸腰の貴様に、俺が倒せるか?」

 

 悠はポケットに手を突っ込み、吠えた。

 

 「死にてぇみたいだな……繋がれぇ!」

 

 突如、空間が裂け、ゲートが出現する。向こう側から、ものすごい勢いでトラックが突進してきた。

 

 「うわぁぁぁぁあああ! なんなんだよぉぉー!!」

 

 運転手の悲鳴も虚しく、トラックは金髪の剣士へと突っ込んで——

 

 轟音と共に王室の床が爆発的に揺れた。

 

 煙の中、金髪の男は一歩も動かず、無傷でそこに立っていた。

 

 「ふん。この程度か。世界を繋ぐ力を持つ人間とやらは」

 

 「……あはは、さすがに殺せねぇか」

 

 場の空気がぴりつく中、制服の少女が慌てて割って入る。

 

 「お、おちついてよ! 二人とも! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」

 

 彼女は剣士に寄り添い、その様子を気遣うように尋ねた。

 

 「どしたの? つらいことあった? 貴方のお話、いっぱい聴きたいな」

 

 剣士は目を細め、ようやく表情を緩めた。

 

 「あぁ、すまん。少し気が張っていたようだ」

 

 悠がクライス王に向き直る。

 

 「で、こいつらも騎士団ってやつか?」

 

 「その通りだ。雷鳥の魔法を操るクリスは、極めて高い機動力を誇る剣士。そしてカノンは、まだ学生ながら剣の腕は一級品だ」

 

 「クリスが失礼なこと言ってごめんね。私はカノン! あなたとも仲良くしたいな。よろしくね!」

 

 悠は苦笑しながら応じた。

 

 「こっちも悪かったよ。……にしても、綺麗な顔してんな。学校じゃモテるだろ?」

 

 「うん、まぁ。でも私にはクリスがいるから! それにね、わたし“男”なの!」

 

 「……は?」

 

 信じがたい。どこからどう見ても、顔も体も声も、完璧に女の子だ。

 

 「カノン! そんな奴と話すな! 戻ってこい!」

 

 「はぁーい」

 

 カノンは駆け寄り、クリスの右腕にぴたりと寄り添った。

 

 悠は思わずため息をつく。

 

 (まともなのは、あのハゲの医者くらいか……)

 

 「こいつらが我がアルタイル騎士団だ」

 

 王の宣言と共に、空は不穏に揺れ始めた——

 

 

 

 王都上空。

 

 鳥の姿をした男の背中に、忍者のような装束の男が乗っている。

 

 「ほぉ……攻めてくるか」

 

 「ケケケ、船長に報告せねばな、ジャック」

 

 「戦争か……待っていたぞ。この忍術で奴らを蹂躙してくれる」

 

 「やめておけ。お前の技は戦には向かん」

 

 「ふふふ……あなどるな。私は鍛錬を重ねてきた。探偵は必ずこの手で仕留めてみせる」

 

 

 

 ──港町ダイアリー。

 

 風を切り、鳥と忍者が海賊船へと舞い戻る。

 

 「ただいま戻りました、ティード様」

 

 甲板に降りると、彼らは恭しく跪いた。

 

 「……今はやめろ。ワイン飲みすぎて気持ち悪いんだ……うえぇ」

 

 ティードは口元を押さえながら顔をしかめる。

 

 「ティード様、敵はこちらに向かっております」

 

 「私にお任せください。あの忌々しい探偵、今度こそ始末してみせましょう」

 

 「女、こっちに来い」

 

 声が凍りつく。下着姿で首輪をつけた少女が、視線を伏せて立っていた。

 

 「……」

 

 「来いと言ってるんだ」

 

 ぎり、と睨みつけると、少女はとぼとぼと近づき、ティードに腕を引き寄せられた。

 

 「貴様は人質だ。探偵に手出しをさせんためにな。だが、問題はクライスだ……奴はたとえ貴様が死んでも構わず攻撃してくるだろう」

 

 「……やめてよ。お願い……家に帰して……」

 

 ティードは冷笑を浮かべた。

 

 「俺にとってもこの戦いは賭けだ。勝てば運が良い」

 

 「俺の暗黒砲か、クライスの光魔法か……」

 

 「どちらが上か、楽しみだ」

 

 そう言って、男はワインを手に、上機嫌で笑った。

 

 そして——

 

 “海の決戦”が、いま幕を開けようとしていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。