バカラッ、バカラッ——
馬の蹄音が響く中、俺は城の門をくぐり抜けた。
目の前に広がるのは、王都の広大な市街地。舗装された道の両側には石造りの建物が並び、人々のざわめきが風に乗って流れてくる。
門の前で足を止めると、周囲の市民たちが俺を見つめてざわついた。
「耳が……丸いぞ」「まさか人間か?」「なんで家畜が陛下の城から出てくるんだ?」
その視線に耐えながら、俺は黒い光沢を放つ馬車へと向かう。
「ここが……王都か」
思わず漏れた呟きに、メントが隣で微笑む。
「そうか、あなたは目覚めた時にはもう城の中だったな」
馬車に乗り込むと、すぐに見覚えのある顔がぴょこんと覗き込んできた。
「やっほー、悠くん! あ、隣、いいかな?」
カノンだ。まさか、二人きりでこの席に……これは金髪の逆鱗に触れそうで怖すぎる。
カノンは人懐っこく笑って言った。
「私ね、エルフとか人間とか、そういうの関係ないと思ってる」
その言葉に少し驚いて視線を向けると、彼女——いや、彼は真剣な表情で続けた。
「なんで人間が“食べ物”になったのか、知ってる? 五百年前に起きた“ビッグバン”って呼ばれる戦争で、人間はエルフに敗れて降伏したの。それがすべての始まり」
「つまり……人類は、負けたのか」
「うん。戦わずに、降参したの」
御者が声を張る。
「まもなく発進いたします!」
俺たちを乗せた馬車が動き出す。クライスや他の面々もそれぞれの馬車に乗り込み、列を成して王都を出発した。
プー、プーププー!
後方の城からファンファーレが鳴り響く。
「陛下! ご武運を!」「平和を取り戻してください!」
市民の歓声の中、クライスが馬車の窓を開け、身を乗り出して拳を振り上げた。
「うぉーっ!!!」
その咆哮に応えるように、歓声はさらに大きくなる。
──港町ダイアリー 午後六時。
「見えてきたな……」
クライスが静かに呟いた。
「そろそろ停めるか?」とコロウが聞く。
「ああ」
馬車が次々に停まり、俺たちは地面に降り立った。
前方には、巨大な木造の海賊船が停泊している。その周囲には、黒焦げになった建物の残骸。まるで地獄のような光景が広がっていた。
「これが……ダイアリーなのか」
あまりの惨状に言葉を失う。
「いいか、作戦を伝える」
クライスが一同を振り返り、指示を飛ばす。
「まず、ダグ、クリス、カノン、メントで奇襲をかける。敵は我々がここまで大胆に攻め込んでくるとは思っていないはずだ。だったら最初から全力で行く」
その言葉に、皆の表情が引き締まる。
「俺の光魔法“ダイス”が準備できるまで、できる限り海賊幹部を潰してくれ。悠、お前は馬車で待機だ。いざという時はゲートを開いて、俺たちを逃がす」
「わかった」
「コロウ、お前は悠の護衛を頼む」
「任せろ、相棒」
ダグが大きく伸びをして、ゆったりと呟いた。
「さ〜て、やりますか」
そして、呪文を唱える。
「水魔法・ドルフィンズ!」
――バシュン! バシュン!
水でできたイルカが次々と出現し、飛翔するように街へと突っ込んでいく。
そして——
ドォンッ!!
イルカが地面に激突し、爆発を起こした。
その爆風を見下ろしながら、ティードが甲板の上で呟いた。
「来たか、我が兄弟たちよ……」
戦いが、始まった。
「おいおい、だらしねぇなぁ……海のクズどもがよォ!」
ダグが咆哮しながら、水のイルカ《ドルフィンズ》を引き連れてダイアリーの街へ突撃した。水飛沫を上げ、魔法生物たちが後を追う。
「騎士団のダグが来たぞ! やっちまえ!」
海賊の下っ端たちが慌ててショットガンを構え、一斉に引き金を引く。
――バン! バン! バン!
銃弾がダグの身体めがけて飛ぶが、そのすべてが水の盾に阻まれる。
「ぬるいんだよォ! てめぇらの攻撃はァ!」
ドルフィンズを身に纏いながら、ダグは怯むことなく突き進んだ。
すると、瓦礫の向こうから巨体が現れる。全身が角張り、まるで四角い岩の塊のような男だった。
「お前ら、下がってろ」
その声に、海賊たちは慌てて退いた。
「てめぇが俺を楽しませてくれんのか? あぁ?」
ダグがにやりと笑う。相手の男は周囲の空気をクンクンと嗅ぎ始めた。
「……薬物の匂い。これは枯枯草……さては、キメてきたな」
「せいかーい!! 俺を殺せるやつなんざ、この世にいねぇ!」
「哀れな男だな。まさか王国を守る軍にこんな奴がいるとは」
「俺ぁな、愛国者なんだよォ! 国のためなら、何したって許されんだよ!」
ダグは背中の竹槍を抜き、渾身の一撃を叩き込んだ。
――バシィン!
槍が岩男の頬を直撃する。だが、男は微動だにしなかった。
「普通のエルフなら、今ので死んでる。かてぇな、お前、幹部だろ?」
「その通り。ティード海賊団幹部、ガーゴンと申す」
岩のような肉体を持ち、いかなる攻撃にも耐える魔法の使い手——
「岩石化魔法か」
「聞いているぞ、貴様が騎士団最強らしいな」
「だったらどうした」
「ならば、ここで潰すまでだ!」
ドンッ!
ガーゴンの平手打ちがダグの頬を捉えた。
「ぐげぇええ!!」
ダグの身体は吹き飛び、焼け焦げた民家に叩きつけられる。
「残念だったな。最強はこの俺だ」
雷鳴が空を裂いた。
――ズババババッ!
電撃の残光とともに、金髪の剣士・クリスがガーゴンの背後に現れる。
「は、速い……!」
次の瞬間、雷を纏った剣がガーゴンの身体を叩きつけた。
「ぐはぁ!」
ガーゴンが吹き飛び、地面を転がる。
「俺の魔法は“雷化”。雷を自由に纏い、移動も攻撃もできる」
そのとき、上空から羽音が響いた。
「間抜けが。防御に全振りした貴様では話にならんわ、ガーゴン」
バサバサと羽ばたきながら、鳥の姿をした男が舞い降りてくる。
「バードリー……貴様も幹部か」
「五年ぶりだな、クリス。元気そうで何よりだ」
ティード海賊団創設当初からの幹部。鳥に変身する術を使い、空中からの奇襲を得意とする男だ。
「悪いが、再会を喜んでる時間はねぇ。ここで死んでもらう」
「ケケケッ、それでこそ! 速さ比べと行こうじゃないか!」
そう言うや否や、バードリーは空へと舞い上がる。
「飛びやがったか! 反則だろうが!」
「悔しければ、お前も飛べばいい!」
クリスはため息混じりに右腕を天に突き出した。
「来い、雷鳥《ザンダー》!」
雷鳴が爆ぜ、光の中から雷の鳥が現れる。クリスの雷魔法を凝縮し、具現化された無機の使い魔だ。
※雷鳥とは、クリスが意のままに操る“雷”をまとめて形成した魔法生物である。ダグの《ドルフィンズ》と同様、実体を持つエネルギー体だ。
「おい、金髪、俺の魔法パクんなよ……」
瓦礫の中からダグが這い出てきた。
「勝てりゃ何でもいいんだよ、薬中兵士さん」
「……それもそうだな」
だがその時、瓦礫が爆ぜ、轟音が響く。
――バコォン!!
ガーゴンが再び姿を現す。
「まだだ! まだ終わってない!!」
その不屈の闘志に、ダグは口元を歪めて笑う。
「今度は本気でやる。覚悟しろよ、岩野郎!」
「こちらも同じく、だ!」
雷鳴と銃声、水飛沫と羽ばたきが交錯する——
「このまま……何もせずに待ってろってのか……?」
目の前に雪がいる。それなのに、ただ黙って見ていることしかできない。俺はじりじりと歯噛みしていた。
「気持ちはわかる、恋人をすぐにでも助けに行きたいのじゃろう。わしも同じじゃ」
コロウが低く言った。
「だが、船にはティードがいる。命が惜しければ、騎士たちが敵を殲滅するまで待つんじゃ」
隣では、クライスが天に剣を掲げ、力を蓄えていた。
チャキン……。
突然、クライスの動きが止まった。構えが変わる。
「どうしたんだよ?」
「……誰か来る」
コロウが呟く。
「空から、強いのが」
「な、なんか来るのか……!?」
俺は慌てて拳銃を抜き、前に構えた。
「悠、下がれ」
クライスが前に出て、剣を構える。
ヒューン――
スタッ。
空から降り立ったのは、忍者姿の男と、あの魔女だった。
「お前……俺の呪い、早く解けよ!」
俺は思わず叫んだ。
「君を狙いに来たんだけど、王様と銃ジジイも一緒とはね」
ヴェンデッタは楽しげに笑った。
「簡単にはいかんようだな」
ジャックが二刀流の短剣を抜いた。
「いいか、忍者はさほどでもないが、魔女には気をつけろ。魔法の腕は桁違いだ」
クライスが低く告げた。
「……俺が強くない、だと?」
ジャックの目が細くなる。
「私は忍者をやる。コロウ、お主は悠を守りつつ、魔女を引き受けろ」
「無茶を言うわい」
コロウが苦々しく返した。
「行くぞ」
ジャックが跳ねる。
キィン!
短剣が閃いたが、クライスは剣でそれを受け止めた。
「この程度か。海賊団の幹部とはがっかりだな」
クライスは鼻で笑い、
「ふんっ!!」
そのままジャックを左手で掴み、地面ごとぶん投げた。
「あなたはステルス向きでしょ? 正面から王様に挑んで勝てるわけがないわ」
ヴェンデッタがクスリと笑う。
「この場所を選んだのは貴様だろうが! ヴェンデッタ!」
ジャックが怒声を上げる。
「ふふふ、あなたがここで死んでくれれば、新しい船長候補が減って助かるのよ」
バァン!
銃声が響いたが――
「無駄よ、お爺さん」
ヴェンデッタは影のようにすり抜けた。
「なるほど、投影か」
コロウが渋く言った。
「ご名答。本体は船よ」
ヴェンデッタはにやりと笑った。
その瞬間――
ザクッ!
ジャックが馬車の御者の首元を切り裂いた。
「こっちだぁ、王様ァ!」
運転席に乗り込むと、馬車を走らせた。
「乗ってやる、その勝負」
クライスが地を蹴る。
ダダダダッ!
馬車と並んで全速で走るクライスを見て、俺は目を見張った。
「マジかよ……走って追いついてる……」
「油断するな。来るぞ」
コロウが俺をかばうように前へ出る。
「――呪法《ツンドラ》」
ヴェンデッタの杖が光った。
ズバァン!
紫色の魔法光線がコロウを襲うが、彼は紙一重でかわした。
「オイ! こっちだッ!」
俺もたまらず引き金を引く。
バン! バン! バン!
だが――
「無駄だって言ったでしょ? 本体は“船”だって」
ヴェンデッタは影のように消えて笑った。
「クソ、マジで当たんねぇな…!」
俺が呟いた直後、ヴェンデッタが冷たく笑う。
「諦めるのかしら?」
コロウは一歩前に出て、俺を励ますように言った。
「焦るな、若造。まだ我々は負けていない」
その言葉と同時に、ダイアリーから馬が疾走してくる。
「探偵!お前を終わらせてやる!」
レガースの怒声が響き、トンネルで遭遇したあの男が俺に向かって走り寄る。
「また殴られに来たのか?!」
俺は一度笑ってから、挑発的に叫んだ。
「ははは!返り討ちにしてやるよ!」
「今度は容赦せん!」
レガースが火炎魔法を唱え、手から炎の弾が飛んできた。
「チィッ」
俺は素早く左に跳び、炎をかわす。
「ふははは!どうしたどうしたぁ!さっきの威勢はどうしたんだぁ!」
レガースが高笑いしながら炎を連射してきた。
俺は走りながら、それを一つ一つ避け続ける。
「なめんなよ、繋がれぇ!」
俺は叫びながら、魔法の力を引き寄せた。
次の瞬間、世界は歪み、渋谷のスクランブル交差点に繋がった。
「キャー!」「なんだなんだ!」
市民たちが驚き、叫び声を上げる。
「どけぇ!どけやぁ!」
俺は叫びながら、人々を押し退け、目の前のレガースに集中した。
バァン!!
空に向けて発砲した。
「よし、あいつの背後に繋がるようにイメージするんだ…」
あいつに対する怒りを胸に、強く叫んだ。
「繋がれ!」
ヒュン。
ゲートが現れ、先にはレガースの背中があった。
「おらぁ!」
俺は全力で走り、レガースの背中にタックルをかける。
「ぐはぁ!」
レガースがうめき声を上げ、倒れこむ。
すぐさまゲートは閉じ、俺はレガースの上に馬乗りになり、激しく殴りつけた。
ドゴ!ドゴ!ドゴ!
「バカタレェ!てめぇじゃ何回やっても俺を殺せねぇよ!」
「バカタレがぁ!バカタレがぁ!」
その時、コロウが冷静に言った。
「ヴェンデッタ、お仲間に伝えろ、悠はすでにウォークを使いこなしている」
後ろから血まみれの馬2体と共に、ジャックが吹っ飛んでくる。
「うぐあぁぁ!!」
クライスが冷静に呟く。
「ふぅ、やりすぎたな」
「おい、馬まで巻き込むことはないだろぉ!」
コロウが文句を言うと、クライスは笑いながら返した。
「射程距離にいるのが悪い」
「くっ…ヴェンデッタ、けた外れの強さだ、さっさと船長に伝えろ」
ジャックが苦しそうに言った。
「私が止めても、あなたたちはすぐに船までたどり着くわよ」
ヴェンデッタは冷たく言い、次の瞬間。
「また会いましょう、探偵さん」
シュン。
ヴェンデッタは闇に消えた。
「もうこのまま突入するぞ」
クライスが決断するように告げる。
「オイ、決め技を溜めるんじゃないのか?」
コロウが尋ねる。
「その必要はなくなったようだ、ダグたちはすでに多くの幹部を仕留めている」
クライスは無表情で答えた。
「悠、君はここで待機だ」
クライスが振り返り、俺に言った。
「はぁ!? このままここに居ろってのか!?」
俺は驚き、声を荒げる。
「君は切り札なんだ」
クライスは冷静に続ける。
「空へ光の砲撃で合図を送れ。その時は街ごとゲートで包み、大きな湖や海にでも繋いでくれ」
「わかったよ、でももし雪が殺されたら、俺はお前らを殺しに行く、海賊共も皆殺しだ」
俺は怒りを込めて言った。
「威勢のいいやつだ。良いだろう、その時は返り討ちにしてやる」
クライスが笑った。
その後、クライスとコロウは走り出し、ダイアリーへ向かっていった
「おらぁ!」
ダグが竹槍を振り回し、下っ端海賊を次々となぎ倒す。
「タフだな、薬中野郎」
ガーゴンが冷ややかな目でダグを見て、呟く。
「誉め言葉か?」
ダグが不敵に返す。
「多分違うぞ」
クリスが後ろから現れ、バードリーの血まみれの首をわし掴みにして引きずりながら歩いてきた。
その姿は返り血まみれで、まるで戦場の魔物のようだ。
「そっちこそ、殺戮を楽しんでるな?」
ダグがその姿を見て、楽しげに言った。
「分かってるみたいだな」
クリスは無表情で、顔にこびりついた血をぺろりと舐め取った。
「き、貴様…この私に…こんな仕打ちをぉ…」
バードリーが必死に叫ぶ。
「アハハ、これから仲間の前でお前の首を切ってやる」
クリスが冷たく言い放った。
「知り合いだからって、敵は敵だ」
「や、やめてぇええ!!」
バードリーが悲鳴を上げる。
「おおおお!いいぞぉ!クリス!やっちまえ!あははは!」
ダグは楽しげに叫び、周囲の混乱を楽しんでいる。
その時、すたたたた!
カノンがすごい速さで駆け寄ってきた。
「どいてどいてー!」
カノンが叫びながら、ガウスと剣を交えている。
ガウスはバードリーの惨状を見て、唖然とした表情を浮かべる。
「イカレたやつらだ…」
ガウスが呆れたように呟いた。
「おい、バードリー、何故負けた?」
ティードの声が響いた。
気づけば、ティードがいつの間にかバードリーの前に立っていた。
「よォ大将!ここで終わりだぁ!」
ダグが豪快に叫ぶ。
「いけドルフィンズ!」
バシャン!バシャン!
が、ティードは冷徹に剣を構えると、黒い光線を放った。
「失せろ、暗黒砲ガノン」
ティードの言葉と共に、黒い光線がドルフィンズに直撃し、あっけなく消滅させた。
「ふん!」
ティードは冷たく吐き捨てた。
「ぐがぁ!」
ダグが衝撃を受けて、真上に飛ばされる。
「まじかよ…」
クリスが呆れたように呟く。
ダグが落ちてくる前に、クリスは素早くソードオフショットガンを取り出し、撃った。
バァン!
ダグは吹っ飛び、民家に突っ込んだ。
「暗黒魔法、ブラックボックス」
ティードが冷徹に呟き、黒い宝箱のような物体が現れた。
「ぎゃははは!」
ブラックボックスは不敵に笑いながら、舌と牙を見せる。
「こいつらを一掃しろ、ブラックボックス」
ティードが命じると、ブラックボックスは大きな口を天に向けて開いた。
「ぎゃはは!」
ブラックボックスは笑いながら、黒い火の玉のような物体を射出した。
「カノン、気をつけろ!何をするかわからんが、やばい気配がする!」
クリスが叫んだ。
ヒューン、ヒューン、ヒューン!
次々と黒の火の玉が降り注ぐ。
「グはぁああ!船長ー!!お助け下さい!!!」
下っ端海賊たちが叫びながら、火の玉に触れた者たちはその体が燃え上がり、炎に包まれていった。
「そいつは触れると、ブラックボックスかそいつが死ぬまで燃え続ける」
ティードが冷徹に告げる。
「きゃー!!あっつ!!」
カノンが火の玉に触れて、燃え上がる。
「カノン!!!」
クリスが叫びながら、駆け寄ろうとするが、すでに遅かった。
「きさまぁ!カノンを戻せ!」
クリスが怒りに満ちた目でティードを見つめる。
「ぐはぁあああ!!皮膚がぁああ!溶ける!!」
ダグも吹っ飛ばされて、燃え続けて悶絶している。
「バードリー、引くぞ」
ガーゴンが冷静に言い、バードリーを背負って走り出す。
「くっ」
クリスが怒りを抑えながら、歯を食いしばる。
「逃げられる…もう少しで殺せたのに」
「皆さん!治癒します!ヒーラ!」
メントの声が響き、杖を構えて回復魔法を唱え始めた。
「回復していく…?でもまだ燃えてるよぉ!」
カノンが苦しみながら叫ぶ。
「こっちもだぁ!あっちー!!」
ダグが悶絶しながらも叫ぶ。
「やはり、あの箱を仕留めないと無理ですね。街を燃やしたのも、この力が原因でしょう?」
メントが冷静に分析する。
「そういうことだ、諦めろ」
ティードは余裕を見せて告げる。
「諦めるのは貴様だ、ティード」
突然、クライスの声が響いた。
キィン!
バキン!
クライスが走りながら剣を交え、地面が割れるほどの激しい衝突が起こる。
「来たか!兄弟よ!」
ティードが冷ややかに言った。
「もう兄弟ではない!決着をつける!!」
クライスが怒声を上げて、戦闘に突入した。
「何年ぶりだ、クライス!」
「覚えていないな!」
二人は激しく剣を交え、攻防を繰り広げる。
「見せてやる、真の力を!」
ティードは剣を収め、上半身を裸にし、力を溜め始める。
「変身術、ウルフ!」
「ぐおおおおおおおおおおおおああああ!!!!」
ティードの体が瞬く間に黒い毛で覆われ、顔が獰猛な狼の顔に変わっていく。まるで獣がその場に現れたかのようだ。
「どうだ!これがウルフだ!人間の世界に伝説として語られる、幻の猛獣だ!」
「ならば、こちらも本気を見せてやる。アーマード!」
ガチャン、ガチャン!
クライスの周囲にスタイリッシュな鎧が現れ、それが彼の体に装着される。鎧がしっかりと彼の体を包み込んだ。
「この鎧はただの甲冑ではない。自分の魔力を蓄え、強力で動きやすい形へと変化させる。私の魔力は、このアルタイル王国でも最強だ。」
「ただの鎧に過ぎん。俺の敵ではない!」
「そうか、試してみるがいい。」
どぅん!!
ティードが凄まじい速さでクライスの腹にパンチを叩き込む。
「この程度か。」
その攻撃は、クライスの鎧を一切傷つけることなく弾かれた。
「その強度は本物か。面白い。」
二人は再び拳を交え、殴り合いが始まった。
「騎士道もクソもないな。」
「全くだ。」
「フン!!」
バシン!
ティードの強烈なパンチがクライスの鎧に叩き込まれる。
「ぐおおあ!」
ティードは連続してパンチを放ち、クライスは膝をついてその場に崩れ落ちた。
「終わりだ、兄弟。」
カチャ。
ティードはショットガンを手に取り、クライスを狙った。
「こっちだ、馬鹿野郎!」
悠が背後からゲートを開き、そこから地下鉄の電車がティードに向かって猛スピードで突っ込んでくる。
「キキー!!!」
運転手は必死に急ブレーキをかけたが、その間に電車はティードの背後に迫っていた。
「まじかよ。」
「カノン、掴まれ!!」
ドカーン!!!
電車がティードを直撃し、周囲が一瞬で爆風に包まれる。
「ぐああああ!!」
「うおおおああ!!」
「陛下!!」
「みなさん!無事ですか!?」
「カノンのバリアがなかったら危なかったぜ。サンキューな。」
「ううん!いいの!少しでも役に立ちたかったから、無事でよかった!」
クリスは倒れたクライスに駆け寄る。
「陛下、大丈夫ですか?」
「問題ない。それよりもティードを追うぞ。」
悠は倒れたティードの前に立ち、銃をティードの眼球に押し当てる。
「おい、雪を返せ。」
カチャ。
ティードは苦しげに顔を歪めながら言った。
「もう遅い...あの女はヴェンデッタが我が基地に移送している...」
「基地?どこだ?」
その瞬間、空からバードリーが現れ、羽爆弾を投げつけた。
「羽爆弾!!」
ヒューン!ドン!
爆発音とともに、周囲が一瞬で煙に包まれる。
「まずい!悠!逃げろ!」
「は?」
ドカーン!!!
爆発によって周囲が吹き飛ばされ、バードリーはクライスを背負って飛び立った。
「逃がすわけねぇだろ、外道が!」
バン!バンバン!!
悠は必死に発砲するが、バードリーはその速さで避け続け、悠の弾は全て外れていった。
「クソ、逃げられたか...」
「町が燃えている!鎮火しなければ!」
「了解!行け、ドルフィンズ!」
ドルフィンズたちは火の手を押さえるべく、建物に向かって突進していく。
数分後、ドルフィンズのおかげで町全体の鎮火に成功した。
生き残った住民たちが広場に集まってきた。
「おーい!!カノン!探偵さーん!!」
「げぇ!」
「アリス!!」
カノンは声を上げ、アリスの元へと駆け寄った。二人は嬉しそうに抱き合う。
「怪我してない?心配してたよー!」アリスが声を上げる。
「私は大丈夫!アリスのパパとママも無事でよかった!」カノンは笑顔で答えた。
その後、アリスは悠に駆け寄ってきた。
「な、なんだ?」
「この間は食べちゃおうとしてごめんね?でももうあなたは食べないから!」アリスはにっこりと笑う。「あなたがいなくなったらカノンが悲しむもんね!」
悠は少し困惑して答えた。「あなた"は"...ね」
その時、遠くから足音が響いた。
「あれは…?」
制服姿の男が鎧姿の兵士を数名引き連れて歩いてくる。
「無事ですか?みなさん。」
「おおおお!たいちょおおおおお!!」
「カイラ!帰ってきてたんだな!」クリスが笑顔を見せた。
「私が呼んだんだ。手当と迎えの兵士が必要だろ。」クライスがにっこりと微笑んだ。
「カイラ?」悠は少し驚きながら彼に視線を向ける。「こいつがか?」
その男は騎士というより、まるでカノンと同じ学生のように見えた。
「アリス、カノンちゃん無事でよかった。」カイラは心からの安堵を込めて言った。
「悠、紹介しよう。我がアルタイル騎士団の隊長、カイラ・エドワードだ。」クライスが静かに言った。
「あなたがウォーク能力者の人間か、話は聞いてます。」カイラがぎこちなく頭を下げたが、悠は目をつむることにした。
「カイラは我がアルタイル王国で一番の戦力だ。だから私の息子と次女の護衛をカイラ一人に任せた。」クライスは誇らしげに語った。
「安心してください、ご子息様は王宮へ無事帰還しました。」カイラは真剣な表情で報告する。
「うむ、ご苦労だったな。」クライスがその言葉に満足そうに頷いた。
その時、突然の爆発音が響いた。
「忘れてもらったら困るぜええ!!探偵!!!今度こそ貴様を炎で消す!!!」レガースの怒声が広場に響いた。彼は馬に乗り、炎の玉を振りまきながら近づいてきた。
「まずい…」悠は冷静に状況を把握する。拳銃は弾切れ、他の騎士たちはもう動けない。王国の兵士ではとても勝てそうにない。
「陛下!お下がりください!ここは我々が!」兵士たちが慌てて後退しようとするが、カイラが前に出た。
「みんな下がってて。」カイラは冷静に言うと、右手をレガースに向けて放った。
「こい、リヴァイアサン!」
すると、巨大なエイに羽が生えたような異形の生物が現れ、レガースに向かって突進した。リヴァイアサンは大きな口を開け、レガースを丸ごと呑み込んだ。
次の瞬間、爆発音が響き渡った。
ドカーン!!!
リヴァイアサンが爆発し、レガースの姿は跡形もなく消え去った。
「何が起こったんだ?」悠は目を見開きながら声を上げる。
「リヴァイアサンが対象を飲み込んだら、そいつはこの世のどこにも存在できなくなる。だから体の中で消滅する。」カイラは冷静に説明した。
「カイラは格闘術もすげえんだぜ!俺らなんかじゃとても太刀打ちできねえ。」ダグが感心した様子で言った。
「ダイアリーの皆様!海賊共の脅威は去りました!これからこの町の復興を全力で支援していく!兵士たちの指示に従ってテントへ向かってください!」クライスが広場に向かって大声で呼びかけた。
その後、兵士たちが馬車で続々と到着し、仮設の大きなテントが次々と立てられていった。
「悠、そして騎士たちもご苦労だったな。だが、これでティードが諦めるとは思えん。近いうちにまたやってくるだろうな。」クライスが冷静に言った。
「コロウの爺さんはどこいったんだ?」悠は周囲を見回しながら問いかけた。
「奴には市民の救助に向かってもらった。そのうち戻るだろう。」クライスは安心させるように答えた。
俺たちは城へと帰還した。しかし、事件は何一つ解決していなかった。これからも、俺は戦い続けなければならない。
数日後、スモーク山の小屋前。
「それじゃあ、いろいろと世話になった。」
「いいか、今のお主には呪いがかかっておる。」コロウが低い声で警告する。「くれぐれも"自分の口からこの異世界のことに触れるなよ"。石になって死ぬぞ。」
思い出す。確か、拘留室の男も異世界のことを口にしたら石になったはずだ。あいつも海賊の仲間だったのか?
あれ?
なんで俺が一度帰ったとき、釜野たちは石になった男のことを話さなかったんだ?
おかしいな。だって、あまりにも不自然だろう。
まるであの直後、誰かが密かにその男を処分したかのようだ。
誘拐事件の捜査班が解体されたことも気になっていた。警視庁か、海賊たちと何か絡んでいるのか?
俺は頭をかきながらゲートの中に入った。
渋谷のスクランブル交差点。ガヤガヤとした喧騒が広がり、何も変わらない日常が続いている。
でも、その世界には雪はいない。
諦めない。だって、俺は…
「どうしても、あいつらが許せない。必ず取り戻す。」
「たとえ俺の命が尽きても。」