会議室でウィルベート公爵軍の会議が開かれていた。
相変わらず会議前からエスメルとゼフォルは二人だけである程度の方針は決めていた。しかし現在の軍勢はウィルベート公爵家の家臣らだけでなく、合流したイスペリア帝国東部諸侯まで集まった大所帯となったため、流石に二人きりで全ての方針を決めることはできなかった。
中央の上座に総大将エスメルが座り、その隣にゼフォルが座る。
ゼフォルは会議に集まった諸侯の顔ぶれを見る、ある程度の情報は集めさせ、名前と軍歴くらいは覚えていた。諸侯が彼女を見る目は嫉妬や畏怖など様々だったが、あまりに敵対的な視線を向けるものは皆無だった。無理もない、彼らは降伏した身であり、ゼフォルらが兵を率いて解放しなければ今もロッソ王国の占領下だったのだ。いくらメイド上がりといえどゼフォルは救い主だったのだ。
会議は意外にも紛糾した。これまではゼフォルとエスメルの独壇場だったが、今はあくまで最も爵位の高いエスメルに戦時下の特例で諸侯が従っているだけで、正式な上下関係はないからである。何よりここで存在感を示さなければならない諸侯たちは積極的に発言を行なっていた。
「基本方針はこの場にいる全戦力で帝国中央に向かっているロッソ王国軍の後背を突きます。さすればバルグリフ皇子の軍と挟撃の形となります」
いまだ帝国中央の戦いは決していなかった。危険を押して奥深くまで潜入したエルシアの情報によればすでにロッソ王国軍はじりじりと後退しつつあるらしい。すでにヴァン・ウィルベートの包囲軍を撃破して一月が経とうとしている、すでに王国も退路が断たれつつあるのは知っているのだろう。後退の準備を始めているはずだ。
王国軍に帝都を落とされてのイスペリア帝国の敗北という最悪のシナリオは回避されつつあった。
「この帝国を救う大事な先鋒を皆様方にお願いしたく……」
「誠ですか!」
「エスメル閣下!ぜひわたくしに先陣を!」
そうゼフォルが言うと諸侯の目の色が変わり、血気盛んに先陣を申し出た。降伏した彼らは汚名返上のため、やる気に満ち溢れていた。このやる気をうまくコントロールすれば、兵数以上の力を発揮できるだろうとゼフォルは思っていた。
喧騒に包まれる会議室の雰囲気もゼフォルはなんだかんだで好ましかった。血気にはやりすぎだったり言いすぎな意見も多いが、ヴァン・ウィルベートの公爵家家臣の座に胡坐をかいた給料泥棒よりは好ましい、彼らは責任が怖くてまごついていただけだからだ。まぁ会議出席者のほとんどが今日あった他人ばかりでフラットに物事を見られているのもあるだろうが。
それに次の戦いは激戦になるはずだ。間違いなく王国軍は安全に撤退するため、後ろから迫るゼフォルらの軍勢を何とかする必要がある。正面のバルグリフ皇子の軍にも気を払わないといけないとはいえ、相応の数と練度の部隊がぶつかるのは確定であった。
チラリと参加者の一人にゼフォルは注目した。そこにはひげ面の立派な鎧の大男がいた、クレッチマーという立派な名前が付いており、なんと伯爵家の血族である。ロッソ王国軍に一度は降伏した身であったが、総大将のエスメルの指名で主に元東部貴族の将兵のまとめ役として臨時で将軍に任命されていた。
「クレッチマー将軍はいかがですか?」
「そうですなぁ……ロッソ王国軍がバルグリフ様の軍とにらみ合っているうちになんとか我らは間に合えばよいでしょう、最悪補給路を断つ動きを見せれば王国軍は撤退するはずです」
年嵩も地位も本来なら上のはずの将軍とは思えぬ控えめな物言いにゼフォルはクレッチマーの評価を一段上げた。この男が将軍に指名されてから、ゼフォルはその背後をエルシアを使って徹底的に洗っていた。突然の指名にエスメルが何か騙されていないかと思ったのである。
伯爵家の領軍を率いて戦歴もそこそこあり、帝国が大敗した先の王国との戦いでは出兵に反対して不参加だった。そして帝国軍が負けてロッソ王国軍の侵略してくるとほどほどに戦って、余力のあるうちに降伏。それが評価されてロッソ王国の占領下でもある程度の権限を許され、ゼフォルたちが進撃したときには反旗を翻しロッソ王国の代官をひっとらえて参戦した。
降伏した事実は残っているが持てる権限でやれるだけのことはやっている点は評価できる。
今の物言いも聞く人によれば弱腰といわれるかもしれないが、ゼフォルに言わせれば確固たる確信も能力もなく無責任に勝利を吹聴する連中よりはましだった。今まさに方々から何を弱気な、といった苦言が投げかけられるが、ゼフォルがロッソ王国の後背を突く策を言った時点で勝てるだのなんだの騒ぎ出し、功績欲しさに先陣は任せろだの言ってくる者たちの中で唯一黙っていたのはクレッチマーだけだった。下手に賢くて独断専行される心配もなく、この落ち着き様は指示を的確にこなしてくれそうでゼフォルは評価していた。
「一理ありますが、今は帝国の危機、バルグリフ皇子の軍を救うためにもクレッチマー将軍に諸侯らを先陣として任せたいです」
「そういうことなら……承りましょう」
浮きたつ諸侯らに対してクレッチマー将軍は隠してはいるが不服そうだった。次に来るであろう激戦で自分の兵に損害が出るのが嫌なのだ。それを理解している彼をゼフォルは評価していた。だからこそ解っている側の彼には最前線で戦ってもらわねばならなかった。
「後詰にはゼフォル将軍をつけ援護させるわ、激戦になるけど奮起して頂戴」
「はっ!かしこまりました」
そしてダメ押しでエスメルからも要求さると。クレッチマー将軍はその大柄な体にふさわしい気持ちの良い大声で答えた。
「クレッチマー将軍、安心してください。しっかりと援護しますとも」
「ヴァン・ウィルベートの英雄たるゼフォル将軍がそういうなら心強いですな」
ゼフォルとしてもここでクレッチマーに死なれても困る。会議でよくわかったがある程度思慮深く、聞き分けの良いなかなかに使える男である。ゼフォルほどではないが。
その後の会議も基本的なプランはほとんどゼフォルの主導によって進められ、クレッチマー将軍の少しの助言とエスメルの訂正と追認で円滑に進んだ。
かくしてウィルベート公爵家率いるイスペリア帝国東部諸侯連合軍1万2千が帝国中央に出陣した。
「ゼフォル、敵は少ないけど結構苦戦しているわ」
「流石に王国軍も精鋭を当ててきましたか、なかなかですね」
本陣でできるだけ偉ぶろうと椅子に座りながら足を組むエスメルの隣にゼフォルはメイドらしくピタリと立っていた。エスメルは小柄な体をできるだけ舐められないように威厳たっぷりにふるまって、ゼフォルは元メイドでキャラ付けしているだけだ。
数里離れた先ではクレッチマー将軍率いる先鋒軍5千がロッソ王国軍の陣地前で激しい戦いを繰り広げている。
ゼフォルは前線で戦う帝国軍と王国軍の激戦をみながら不敵に笑みを浮かべていた。元来ゼフォルは戦いに対して忌避感というものはこれっぽちもない。むしろこの固定化された貴族社会で下のものが分かりやすく出世できる最も確実な手段とさえ思っていた。目の前の死んでいく将兵達にも王国、帝国問わずそのチャンスは等しく与えられているのだ。だから目の前の死者より己の予想通り進む戦況に満足していた。
ロッソ王国軍は黙って挟撃を待っているほどアホではないらしい。ご丁寧に主要な街道に守備隊を置いていた。数は6千ほどだろうか、こちらの半分程ではあるが帝国東部から中央をつなぐ街道の最も狭いところで待ち構えていた。地図で確認したがゼフォルでも陣を構えるならここだっただろう。それに兵の動きも良い、あのジョナス将軍のような二流を当てるわけではなく相応の練度を持った将兵をぶつけてきているのがわかる。それだけこの戦いは重要なものだった。
苦戦を予感しつつもゼフォルの心は昂っていた。これまでのような敗残兵の寄せ集めの寡兵ではなく、1万を超えた正規兵を今率いていた。対する敵も一線級の戦力と予想ができる。ようやくこの戦争の表舞台に立てた気がした。
公爵家の秘蔵の双眼鏡をのぞけば両軍必死の形相で戦っている。ロッソ王国軍はここを抜かれれば本体の退路が断たれる恐れがある。だが帝国軍も負けてはいない。
「進め!進め!」
あの会議では礼儀正しかったクレッチマーが鬼のような形相で兵を叱咤激励する。そのほかの諸侯の指揮官たちも降伏という汚名をようやく晴らさんと、必死になって攻め立てている。指揮官達の熱に充てられ故郷を占領された兵士たちも奮戦していた。
対する王国軍はその勢いに押され気味だ。
「いやいや、皆必死に戦っていますね、これもお嬢様のご決断があってこそ」
「そうなるように彼らを追い詰めたくせによく言うわ」
「しかるべきものをしかるべき時に使ったまでですよ、一度負けた降兵がロッソ王国の精鋭を押しているのです。泣かせてくれるではありませんか」
咎めるように少しきつくエスメルが言うが戦いの熱に充てられたゼフォルはあまり気にしなかった。口ではああ言ったが、涙の一つも流れていない。
エスメルはまだ若いから理解できないかもしれないが、降参の汚名を勝ちの決まったつまらない攻城戦ではなく、敵の有力な戦力との正面のぶつかり合いで晴らさせてやっているのだ。むしろ感謝すらして欲しかった。
小一時間が経ち良い感じにロッソ王国軍もクレッチマーの部隊も息切れしてきた。すでに本陣に援軍の催促が届き、予想していたゼフォルは麾下の兵達の準備を終わらせていた。
「これで最低限彼らの顔も立ちますか……ではお嬢様行ってまいります」
「武運を祈ってるわ」
総大将の許可をとり、ゼフォルは三千の兵を率いて出陣した、ヴァン・ウィルベートで最初の奇襲をしたときのベテラン兵たちを中核にしたゼフォルの切り札である。一介のメイドだった自分が東部貴族連合の筆頭将軍になり、戦況を左右しうる最精鋭を率いている。その充実感を胸に戦場へと駆けた。
ゼフォルが到着したときには両軍ともに疲れ切っていた。
すでにクレッチマー将軍には後退するように伝えてある。問題は彼が素直に言うことを聞くかだ。聞かなかったらそれまでだ。
「将軍、クレッチマー将軍の部隊は引いています!」
伝令がそう伝えてくるが双眼鏡を持ったゼフォルはすでに知っていた。お利巧ですよとクレッチマーを内心で称賛しつつゼフォルは剣を抜いた。
「敵はすでにクレッチマー将軍との戦いで疲れ切っています。もはや我らを止める余力はありません」
そう良く通る声で奇抜なメイドアーマー上のマントを翻しながら宣言した。
「全軍突撃、救国の英雄になる機会です。奮起しなさい」
ゼフォルの号令に3千の兵は蜂矢の陣をしき一直線にクレッチマー将軍の部隊と入れ替わりロッソ王国軍を殴りつけた。
突然現れた士気も体力も万全の帝国軍の出現に王国軍は浮足立っている、追撃のために陣から出てしまったのも悪かった。疲労困憊の王国軍はみるみるうちに帝国軍に押され、王国軍の追撃戦はいつの間にか撤退戦に変わっていた。
「クレッチマー将軍にも動ける兵で急いで後詰をするようにと。このまま敵陣を落としますよ」
伝令に手早く指示を出しさらに部隊を前進させる。命令では全軍に聞こえるよう言ったが、内心ではもうクレッチマーの部隊はどうでもよかった。手持ちの兵だけで決着をつける気だったし、ただ聞いている兵にいまだ後詰がいる安心感を与えたかっただけだ。
王国軍は陣地に撤退しようとするがゼフォルは後退する王国軍にぴったりつくように進撃した。いかに固い陣地とはいえ撤退する味方がいてはうまく機能しないからだ。
「待ってくれよー!まだ閉めるな!」
「おい!早く門を閉めろ⁉」
そんな悲鳴のような言い争いが敵陣から聞こえた。ゼフォルは部隊の先陣に立ち、両手に曲剣を構え飛ぶように一気に距離を詰め、門周辺の兵を片付けた。ゼフォルの一番乗りに味方の兵は士気をたぎらせ、続々と陣の縄張りを突破しつつあった。
陣地に入ると敵の抵抗を受けた。ある程度弱らせてこれだ。クレッチマー将軍に先陣を切らせなければ思わぬ損害が出ていただろう。
しかし大勢は決していた。そう判断し掃討を進めていくゼフォルだがふとエスメルと魔術の訓練していた時の気配を感じ、ゼフォルはその場を飛んだ。
ゼフォルのいた場所に魔力の光弾が直撃し、大爆発を起こす。エスメルの訓練やらこれまでの戦いでの活躍をよく見ていたのですぐにそれが魔法による攻撃だとわかった。すぐに発射角を計算し、目を向けるとそこには豪奢なローブを着た敵の魔導士がいた。
「まさか本当に女中の格好した将軍がいるとはな……」
「わざわざやられに来るなんて殊勝なことですね、ダリウス将軍」
豪華な格好に護衛の騎士たち、ゼフォルは魔導士の正体におおよそ検討をつけていた。あらかじめヴァン・ウィルベートで見た並び立つ旗印とエルシアからの情報でロッソ王国の主要な将軍の名前をすべて記憶している。ゼフォルは欲しいものはしっかりと調べるタイプなのだ。
今回出陣しているのが魔法を得意とするロッソ王国でも有名なダリウス将軍だとあたりをつけていた。
「ふん、勉強はある程度しているようだな。わしの名前を知っているとは」
「いえいえヴァン・ウィルベートの壁の上に魔法が届かず、わたわたしているのを見たことがあるので」
「……吐いた言葉は取り消せぬぞ!小娘!」
そうダリウス将軍は吠え、魔力弾を乱射した。威力自体はエスメルのものには劣る。しかしさすが歴戦といったところかエスメル以上に狙いが正確であり、なんとか陣地内の障害物を利用して跳ね回り、直撃を避けるが、こちらも攻撃するのなら接近しなければならず。急接近しようとしてもそれを阻むように魔法が飛んでくる、少し周りを確認すれば周りのロッソ王国の兵士がゼフォルの配下を阻んでおり、陣地内の混戦で一騎打ちという奇妙な状況になっていた。
「ふん、所詮女中か、逃げまわるくらいはできるようだな」
「解せませんね……もう大勢は決しているのに私と一騎打ちですか?魔法のお勉強はできても戦術の勉強はしてこなかったのですか?」
「この戦いで確信した!貴様をここで討ち取らなければ、王国は大きな損害を受ける!この命に代えても討ちとるぞ!」
そう言ってダリウス将軍は一際大きな魔力弾を発射させるが、しょせんはこれまでやっていることと変わらない、体を大きくひねって回避する、が、大きな魔法弾に隠れた小さな魔力弾が迫っていた。
「やば」
衝撃がゼフォルを襲う、なんとか曲剣をクロスさせ直撃は避けたが、爆風の衝撃で地面に無様に転がる羽目になった。体の節々が痛むが、この奇抜なメイドアーマーにも防護の魔法がかかっているようで、致命傷ではなかった。
痛む体と食らった土埃に舌打ちしつつも心の中は高揚していた。ロマンチストでもあるゼフォルが求めた戦いはまさにこれだった。魔法の腕と、会話の節々からにじみ出る矜持、なるほどダリウス将軍は確かにロッソ王国の主力に名を連ねるのにふさわしい人物なのだろう。どうせ戦うならこんな豪傑を夢見ていた。ジョナス将軍のような文弱をなぶっても楽しくも誇れもしない。
先ほどの討ち取る宣言も良かった、己はもはやただのメイドではなく、ロッソ王国にとって無視できない脅威なのだと認識できた。だからこそ負けるわけにはいかない。そう己を鼓舞しつつ、土煙を利用して距離を詰める、この時エスメルがいれば楽できたんだけどなと本陣で指揮を執ってるであろう彼女を思いつつ、目の前の強敵を排除することに意識を集中させた。
「ぬるいわ!」
土煙を利用してくることなどお見通しだったらしい、少し距離を取っていたダリウス将軍は土煙から現れたゼフォルに余裕をもって魔力弾を撃ち込む。
「ふっ!」
迫りくる魔法弾に対し、曲剣の刃先を叩き込む、そうすると魔法弾は真っ二つに裂け、ゼフォルの左右で爆発した。
あまり使いたい技ではなかった。もともとエスメルとの特訓の時に魔力弾を切ることできるのではないかと思っていてイメージトレーニングはしていた。大陸の強者の中にはできるものも居るらしい、そして手元にある曲剣は公爵家の貯蔵する逸品で、先ほどの大きな魔力弾によってダリウス将軍も消耗している、表の態度には出してなかったが、威力が下がっている。これならば成功する可能性は高いと踏んでいた。
「な、なんだと⁉」
己の魔力弾を切られて驚愕するダリウス、そしてその隙を見逃さず一気にゼフォルは距離を詰め、仕込んでいたナイフを投擲する。
「ぐぬっ!」
それまで何とか距離を詰めるのに必死だったゼフォルを見ていて飛び道具の警戒を怠ったのか、この搦め手はダリウスの肩に深々と刺さり、練っていた魔力も霧散した。これで私の距離だとゼフォルはついに刃をダリウスに振るった。
「なめるなよ女中風情が!」
しかしダリウスも負けじと腰の剣を振りぬき、何とかゼフォルの初撃をはじく。暫く二人は激しく剣劇を交わすが地力の違いや肩に与えた傷から徐々にゼフォルが優勢になりダリウスは劣勢になる。そしてついにダリウスの剣が弾き飛ばされた。
「くっ!おのれ!」
「将軍、大勢は決しました。軍としても一騎打ちでもです」
まだ剣をふるわず、ゼフォルはダリウスに声をかけた。周りを見れば、イスペリア帝国軍がロッソ王国軍をほとんど掃討し終え、戦いの趨勢は決まっていた。
「おとなしく降伏しませんか?」
ゼフォルはそうダリウスに提案した。
敵の将軍を生け捕りにしたという功績が欲しかったのもそうだが、自身を高く評価してくれたダリウスをこのまま殺すのも惜しかった。
「ふん、女中らしく丁寧なことよ。だがな、このダリウス、部下をみすみす殺しておいて生き恥を曝そうとは思わんぞ」
「そうですか……では最後に言い残すことは」
「ロッソ王国万歳!」
そう叫んだダリウスの首を一思いにはねた。周りを見渡せば、王国軍は敗れ去っていて、帝国軍ばかりだ。わざわざ晒すこともないだろうと近くに倒れていたダリウスの旗印で丁寧に首を包むとあらためて勝利を宣言した。
勝利に喜ぶ兵士を尻目にゼフォルは手の持った大将首を大事そうに抱えながら帰途に就く。
なにか健全な自尊心が満たされていた気がした。味方はエスメルを除いてゼフォルがどんなに大きな功績を立てても、どこかこの成り上がりがと、敵意と嫉妬を隠してはいなかった。
かつては立場が上だった彼らがそんな醜い感情を向けるしかできないのもまた心地が良かったが、敵将のダリウスは王国軍の優秀な指揮官として純粋に敵としてゼフォルを評価し、恐れ、排除しようと向かってきた。立派な男だと思った。敵ながら認められている事が嬉しかった。
この戦いは激戦ではある。だが前哨戦に過ぎない、ロッソ王国軍主力の後背を突くチャンスを得ただけで次こそ一大決戦だ。しかしこの勝利がゼフォルに与えてくれるものはどこか大きかった。