メイド、勤務先の大敗北で将軍になる   作:メカバレ

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密談

 受勲を受けるためゼフォルは5千を率いてハルード要塞を出立していた。オドールは呑気に見送っていた。やっぱり大勢の参謀を連れてである。

 一時的なものとはいえ、この地を離れるのにゼフォルは少し名残惜しさを覚えていた。

 このハルード要塞ではゼフォルに比する能力を持った人材はおらず、司令官は能天気で、ゼフォルの好き勝手に兵を動かし、功績を荒稼ぎした。そう言った点ではこの地は天国ですらあった。

 しかし帝都行きはそれはそれで魅力的だ。エスメルやエルシアにも会えるだろう。東部方面軍に回されてから一年間会えなかった。手紙のやり取りはあるし、休暇を取って帰ることもできたが、さすがに王国との最前線だということと功績のために帰る気にはならなかった。

 1回エスメルが学園の長期休暇の時は帰ろうか迷ったがそういう時に限って王国が活動を活発化させ帰れなかった。

 しかし今回の帝都行きはただの受勲式だけで済むものではない。明らかに人の流れがおかしい、参加者の名簿を確認したが、ゼフォルをはじめとして地方に派遣されているバルグリフ皇子派閥の強者たちが続々と集められていた。

 現在彼らの手によって帝国の国境は安定を保っている。王国に関してはつい先日ゼフォルが勝利したばかりだし北方の蛮族も最近ベルズーフがおとなしくさせたらしい。

 南方の小国家群とはバルグリフ皇子が実権を握ってから、その急激な変化に外交関係の混乱こそ見られるものの、強大な帝国に挑むほどの余裕はないだろう。

 そして中央でバルグリフ皇子とフィリクス皇子の対立が決定的になものになっていた。

 フィリクス皇子は現在、帝国西部に閉じこもってしまっている。オドールの出身でもある帝国西部は大海に面し、せいぜい出没する海賊が脅威なことくらいで有力な外敵も存在せず、海外貿易で非常に豊かだ。

 帝国の中央、北部、東部を押さえているバルグリフ皇子に対し、西部一地方を有しているだけのフィリクス皇子のほうが金払いのいいらしいことからその経済力は計り知れない。

 二年前の戦い以来、帝室の2人の皇子の関係は破綻していた。

 帝国のほとんどの政治の実権を握った弟に対し、あくまで正当な後継者としての立場を崩さなかった兄という関係だが、ここまで爆発することはなかった。

 バルグリフ皇子がいまだに外敵を警戒して、兄に対して懐柔策を取っていたからである。そのおかげで帝国が割れるということはなかった。

 しかし最近になってバルグリフ皇子は今までの甘い対応をやめ、兄であるフィリクス皇子に帝都への召喚命令や西部諸侯への大幅な課税などその態度を隠さなくなった。

 バルグリフ皇子の意図は明白だ。国境の安定化に伴い国内最大の相手を叩き潰しに出たのだ。帝国の主権を全て握り、大きく改革させたい皇子にとって西部諸侯の経済力を取り込むことは確定なのだ。

 そして国内の混乱をできるだけ長引かせないために、各地から腕利きの精鋭をかき集め、一気に制圧する。東部方面軍からゼフォルが呼び出されたのは西部諸侯に甘い対応をするのではなく、確実に叩き潰すためだ。あくまで交渉をするのならば元西部貴族であるオドールを呼び出すだろう。

 来るであろう国内の内戦にゼフォルが尻込みすることはない。

 生まれた国であるし、将軍にまで出世させてもらった帝国に愛着も忠誠心もある。しかし東部生まれ、東部育ちのゼフォルは帝国西部など行ったこともないし、知り合いもいない。

 正直に言えば、ゼフォルやバルグリフ派の軍人が身を挺して国境を守っていた時に後方でのうのうと金稼ぎにいそしんでいた連中がいくら死のうがどうでもいい。

 本来ならばその無駄に稼いだ資金を前線に使うべきなのだ。その点でいえば王国との最前線まで出て金を戦いに使っているオドールのほうが遥かに立派だ。

 そしてあんな平和ボケした西部貴族たちなど、国境で戦い続けたゼフォルらバルグリフ麾下の将軍たちの相手にすらならないだろう。これから受勲式で得る勲章がさらに増えるわけだ。

 そう思いながらゼフォルは帝都へ向かった。

 

 

 

 ゼフォルらの一行は懐かしのヴァンダル高原にまで到達していた。かつて帝国と王国合わせて15万を超える大軍が激突した激戦区であった。張り巡らされた陣地や柵は取り払われ、兵士たちに踏み荒らされた田畑はきれいに耕しなおされ、帝国を支える巨大な穀倉地帯としての姿を取り戻していた。

 バルグリフ皇子の適切な復興事業の成果か農民たちはゼフォルらの軍を見ても嫌な顔一つしなかった。町から離れた一角で陣を張らせると、むしろ稼ぎ時と言わんばかりに農民たちが嗜好品や食料を抱えてやってきた。

 あとは帝都までもう一息であり、この後フィリクス皇子派と何かがあると予想を立てているゼフォルは全軍を休憩させた。もちろん羽目を外しすぎないように釘を刺し、士官たちには交代で休むように指示を出した。

 そしてゼフォルは高級士官用に割り当てられた館の一室で時を待っていた。身体こそ清めたが、再び軍服をしっかりとまとい、酒ではなく果実水を楽しんだ。帝国一の穀倉地帯だけあって味は良く、アルコールを入れられないのが残念だった。

 

 短い休息を楽しんでいると予想通り使者がゼフォルを訪ねてきた。ベルズーフからだった。

 二年前、ゼフォルとエスメルのもとに使者として訪れた男はゼフォルに次ぐ出世頭となっていた。階級はオドールと同じ中将で北部方面軍総司令官である。

 役職だけを言うなら2人は同じだが、そもそも前の東部方面軍総司令官も歴任しており、なにより同じ方面軍司令官としても北部は特別な意味を持つ。

 バルグリフ皇子の最も強固な支持基盤は北部なのだ。そこの指揮官を任されるということは皇子からの信任が厚いということに他ならない。

 そんな男が受勲するはずのゼフォルを訪ねてきている。今帝都で何かが起こっているのは明白だった。

 同じバルグリフ皇子派の将軍のため会う機会はあったが、東部方面軍では入れ違いになってしまったため、最近はほとんど会っていない。しかし使者一人の所作だけで彼がただものではないとわかる。使者といってもただの役人や軍人ではなく、密偵といった影の人材だろう。実力者であるゼフォルから見ても気配の消しかたがうまく、ゼフォルがオドールの金で作らせたにわか仕立ての密偵部隊とは練度が違った。

 正直うらやましかった。

 

 すでに出立の準備はできていたので使者の先導で目的地に向かう、郊外のさびれた屋敷に通された。町やゼフォルの陣地からは遠く、機密保持にはもってこいだろう。中に入るとさびれた見た目とは裏腹によく整理と清掃が行き届いていた。

 案内された部屋に入るとそこには帝国軍北部軍総司令官であるベルズーフ・カーディナルその人がいた。

 帝国軍上層部の中でもまだ30代前半といまだ若々しく、身体は頑健で武術の心得もあると見た。しかし決して武力一辺倒ではなくその目には知性の輝きが見えた。

 東部方面軍の副指令官であるゼフォルを呼びだすのだ。北部方面軍の重鎮の誰かが来るとは思っていたがまさか総司令官自らの登場に驚愕する。がいつもの鉄面皮で表には出さない。

 

「まさか、ベルズーフ閣下がいらっしゃるとは」

 

「こちらこそ呼びだしてすまないな、ゼフォル将軍」

 

「いえ、閣下のお呼びとあれば何なりと」

 

 そう言ってゼフォルは頭を下げ、気を引き締めた。目の前にいる男は階級が同じとはいえオドールとは比べ物にならない傑物だ。最近のぬるま湯につかっていたのと同じ感覚では足元をすくわれてしまうだろう。

 そのままベルズーフが手を振ると護衛の兵たちは退出し、部屋には二人の将官のみになった。

 

「バルグリフ皇子とフィリクス皇子の関係が悪いのは知っているかね」

 

「ええ、もちろん。帝国で一定以上の役職を持っている者なら察しているでしょう」

 

「帝都で一戦起こる。その時にはゼフォル将軍に先鋒を頼みたい」

 

「帝都で、ですか」

 

 流石のゼフォルも面を食らった。皇帝のお膝元である帝都で争いが起こるなど前代未聞だ。それだけは避けるためゼフォルも目の前のベルズーフも二人の君主であるバルグリフ皇子もこのヴァンダル高原で王国軍と戦ったのだ。

 

「穏やかではありませんね、私が呼び出されたのも西部へと進撃するためだと思いましたが」

 

「連中はその小賢しさを最悪の方向で発揮させてきた。恐らく正面戦力で勝てないと悟り、帝都に送り込んだ戦力で一気にクーデターを決めるつもりだ」

 

 そこまで聞いてはさすがのゼフォルも怒りを覚えた。戦争を知らぬ西部貴族の軍は、各戦線で鍛えられ、軍律も整えられたバルグリフ皇子の軍に勝てる可能性はゼロに近い。だから一発逆転を図るのはわかるがその手段は野蛮としか言いようがない。

 たしかにフィリクス皇子の方が継承権は上で、バルグリフ皇子に奪われた形だ。しかしそれは2年前に帝国を守ったという実績の結果であって、その後も帝国の運営という責任を十分に果たしているといっていい。

 そのほかにも北方の蛮族、東方のロッソ王国にも帝国の国土を犯されるというへまはしていない。それを西部でせこく金を稼いでいるだけの一派が不満に思って帝国の心臓部で暴れだそうというのだ。身勝手にも程がある。億が一にこのクーデターを成功させてフィリクス皇子が復権しても、帝国は王国に滅ぼされてしまうだろう。

 

「クーデター計画を止めることはできないのでしょうか、あまりに不毛です。これではこのヴァンダルで二年前に散った将兵らが報われません」

 

「残念だが、帝都の西部貴族の屋敷に明らかに警備とは思えない兵士が集められている。第一皇子の命令書まで持っているのだから、政治的な解決は不可能だ」

 

「そこまでお知りなら裏はとれてると解釈しても?」

 

「もちろんだ。あらかた目処はついている。屋敷をたたけばいくらでも罪状が出てくるだろう」

 

 ここまでの会話であらかたの確認は終わった。まず第一皇子の命令書と暴力装置である兵士のせいで動けないだけで、フィリクス皇子一派の動きは筒抜けなのだろう。そもそもベルズーフの密偵だけでここまでわかるのだ。バルグリフ皇子が抱えている密偵はそれ以上だろう。

 相手を逆賊として断じれば帝都での戦いをゼフォルは安心して行うことができる。万一にもこちらが罪で罰せられることはないだろう。

 

「承知しました。しかしなぜ私を?」

 

 了承しつつ作戦を言うように促す。残念だがゼフォルも帝都での戦いは想定外で、考えてすらいなかった。しかし目の前の男が無策のはずがないだろう。

 

「殿下の配下の中で怪しまれず帝都に来られるのがゼフォル将軍だけなのだ。最近王国相手に手柄を立てた貴方なら、帝都に召喚しても怪しまれないだろう」

 

 ゼフォルも合点がいった。

 最近手柄をあげた将軍といえば、自分と、北方で手柄をあげた目の前のベルズーフだけだ。しかし後者はあまりにも皇子の最側近で警戒されており、帝都に戻せばすぐに怪しまれるだろう。

 

「流石の作戦です。すぐにでも1千ほどで行きましょうか?」

 

「話が早くて助かる。一応矛盾がないように言ってしまうが、西部貴族どもはいまだ油断しきっている。今なら貴官が精鋭を率いれば一息に叩き潰せる。帝都の詳細な地図と屋敷の正確な間取りを渡す。それを確認後、すぐに出撃してほしい」

 

「承りました」

 

 ゼフォルは早速兵の配置を思い浮かべるが、どうしても聞きたいことがあった。

 

「失礼、最後に質問が」

 

「私に答えられることならいくらでもしてくれ」

 

「バルグリフ皇子のご子息の安否は?」

 

 エスメルの名前を出すのをぐっとこらえて質問をする。帝国学院はもちろん帝都にある。そこにはエスメルが通っているのだ。この戦いに巻き込まれる可能性があるならばすぐ助けに兵を割かなければならない、必要ならば真っ先にゼフォル自身で向かうだろう。

 

「学院のことなら心配はない。貴官も良く知っている優秀な指揮官に守らせている」

 

「私も良く知っている……?」

 

「エスメル臨時少佐だ」

 

 それを聞いたゼフォルの頭は真っ白になった。

 

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