メイド、勤務先の大敗北で将軍になる   作:メカバレ

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戦後処理

 最後にエインヘリル家の破れかぶれの突進というハプニングが起こったものの、帝国の後継者争いはバルグリフ皇子が勝利した。

 すでにフィリクス皇子側の兵士はほとんどが逃げ出し、貴族や武官もほとんど捕らえるか裏切っている。

 残念ながらフィリクス皇子はいまだ捕まっていないらしい。

 そのまま軍を纏めた征伐軍が西進すると、ほとんどの貴族たちは降伏を申し入れた。

 バルグリフ皇子率いる主力部隊は帝国西部最大の都市にしてフィリクス皇子の本拠地であるウェストガルトに堂々と入城し、ゼフォルもそれに従った。

 帝国西部にはこの遠征で初めて訪れる。同じ国家でも地方によって建築物が違うのかとゼフォルは都市を見回して思った。帝国東部出身が多いゼフォルの麾下の兵士たちも珍しそうにあたりを見回している。

 帝国東部は長年ロッソ王国と国境を接していただけあってあらゆる建物が頑丈に作られており、飾り気はほとんどなかった。それに対しこのウェストガルトの様式は美しいの一言に尽きる。

 建築材は白亜の材質で統一され、都市の中央には大きな運河が流れ、計画的に立てられた街道は整然としている。帝都でも見慣れぬ建築様式が使われてるのはおそらく海外貿易で海の向こうから異文化が伝わったのだろう。

 しかし籠城には全く向いていない。城壁はお情けのように区画を囲っているだけで、敵からの攻撃を防ぐには高さも厚みも足りない。 整備されすぎた街道は一瞬で敵兵が都市の中央にまで迫ってくるだろう。巨大運河から船で乗り付けても良い。

 今回の戦争で攻城戦が全く起きなかったのがよくわかる。このウェストガルトを代表に防衛に適した城塞などほとんど存在しないのだ。唯一海岸線には昔、海を超えた大陸からの侵攻を警戒した沿岸要塞があるらしいがそんなもの内戦では不要である。

 かつてゼフォルはヴァン・ウィルベートをさしてこんなに硬い要塞に住んでいれば要塞に頼ってウィルベート家が弱体するのは当然と評したが、この西部都市はまさに真逆だと思った。こんな芸術品のような町で暮らしていて強い兵士が生まれるはずもないし、心も鈍るだろう。フィリクス皇子の敗北は必然だったのかもしれない。

 流麗な大都市を見てもゼフォルはそんな感想しか浮かばなかった。

 

 

 

「あー、どうしたら口を割りますか?」

 

「だ、黙れい!お前ごとき下女をフィリクス殿下と合わせるはずがないだろう!」

 

 すでにバルグリフ皇子らの首脳陣は本城で占領統治を開始していた。

 そしてゼフォルら武官に課せられた命令はフィリクス皇子を捜索することだった。いまさら有効な反抗を行えるはずもないが、このまま雲隠れされても厄介なのは確かだ。ウェストガルトで隠れていたのを捕まえた西部貴族であるベンソン男爵を尋問にかけていた。

 しかしゼフォルは別に尋問の経験があるわけでもないし、部下にそういった人物がいるわけでもない。

 

「ぐぎゃっつ!ぼ、暴力を振るわれても言わんぞ!」

 

 何もしない訳にはいかないし、殺すわけにもいかないので取り合えず胴に蹴りを入れる。なんて事のない蹴りでしかなく、この程度で口は割らないだろう。割ったらこちらがびっくりする。

 最初捕まえた2、3人の貴族はゼフォルなりの拷問を行った。

 指の爪どうこうのイメージがあったので二、三枚はがしたが加減が分からず気絶してしまい、面倒になったので棍棒でボコボコにした。

 西部貴族に怒りがないといえば嘘になる。というか怒っていた。ゼフォルの主観ではあいつらは各方面軍が頑張っているときに安全な後方でぬくぬくと金を稼いでおいて帝都で事を起こしたとんでもなく頭の悪い逆賊である。

 尋問と称して嬲るのは結構楽しかったが、軟弱すぎてすぐ気絶するので情報が聞き出せなかった。

 そもそもゼフォルはフィリクス皇子の身柄もそんなに欲しいとは思えなかった。その功績があればもしかしたら中将も狙えるかもしれないが、間違いなくそれはゼフォルにとって毒にもなりうる。

 まず直属の上司であるオドールとの関係がこじれる可能性があった。

 あの総司令官様はどちらかというとフィリクス皇子との和解や話し合いでの解決を豪語していたので電光石化の速さで討伐したと聞いて今頃腰を抜かしているかもしれない。何かとゼフォルの役に立つので今関係を悪化させるのは惜しかった。

 そしてなにより内戦時の敵とはいえ皇族をとらえるのは帝国内で無用に敵を作り出すだろう。没落貴族からの成り上がりであるゼフォルならなおさらだった。前線とは関係ない宮廷闘争や駆け引きに巻き込まれるのは御免だった。

 だからこの尋問もどこかおざなりだった。それにこんな敗北者どもを叩いて得た情報で昇進するのは軍歴が穢れる気もしたのだ。

 

「じゃあ男爵、別のことなら聞いてもいいですか?私も手ぶらで帰るわけにはいかないのですよ」

 

「くどい!何も言わんぞ!」

 

「戦場でエインへリルという家の方に随分とてこずらせられましてね、かの家の者の身柄でもいいですよ?」

 

「ぬぅぅ……」

 

 情報の重要性のハードルを下げると、難色を示しつつも明確に反抗をしなくなった。

 なんとなく今の反応でゼフォルはおおよその事は察していた。

 多分目の前の男爵はトップシークレットであるフィリクス皇子の場所など知らないのだ。

 それでも最後の意地で話すまいという態度をとっていたが、知っているはずの事を尋ねられてとっととしゃべって楽になろうと考えている。

 

「考えてください男爵、最後まで降伏を選ばなかった貴方ほどの忠義者がこのまま潰えてしまうのは惜しいです。私も推挙したいところですが何かしらは喋ってくれないとそれもできません」

 

 そう言いながら尋問室の奥に置いてある血の付いたとげ棍棒をチラリとみる。

 言ったことはすべて嘘っぱちだ。別にベンソン男爵が最後の家臣なわけではないし、どうせ逃げ回ってたところをようやく捕まっただけで利用価値もない、推挙する気なんぞゼロだ。しかしそれを確かめるすべなど彼にはない。

 

「エインへリルの小娘は兵をまとめて領に戻った。もうここにはいないだろう」

 

 ゼフォルの目線先の棍棒を見て顔を青ざめさせると男爵はしゃべり始めた。よっぽど恐ろしかったらしい。

 

「なるほどエインへリル家の規模は?動員兵力は?」

 

「エインへリル伯爵家は爵位こそ高いが今は没落した家だ、今回張りきって3千の兵を用意していたがそれがすべてだろう」

 

 ひとまずあの頭のおかしいアルセリアが大軍で突っ込んでくる可能性はほとんどなくなった。あの破れかぶれの突撃だけで指揮官としての能力すべてを測れるわけではないが、それでも領地に帰って伯爵相応の戦力を全力で突っ込んできたらと考えるとさすがにゾッとした。

 

「勉強がてら教えていただけませんか?彼女はなかなかの能力をお持ちだったのになぜ没落したのですか」

 

「ふん、もともと連中は海岸線を守る名門だったが、今になっても貿易で稼がず馬鹿正直に軍隊だけ育てて借金が嵩んで没落したのよ、所詮は時勢に乗れなかった能無しよ」

 

「なるほど勉強になります」

 

「なら、バルグリフ皇子に私を……」

 

「あぁもういいです」

 

 そう言ってゼフォルは棍棒を振り上げ、ベンソン男爵の頭に振り下ろした、悲鳴を上げる暇もなく頭から血を流して男爵は倒れる。

 ノロマの男爵が気が付かぬ程の早業で殴り抜いたのは一種の慈悲だ。恐怖する余裕もなかったはずだ。正直に情報をしゃべったのだからこれくらいはしてやろう。

 まぁ死んではいないだろう。

 こんな能無し如きが、ゼフォルに一矢報いたアルセリアを馬鹿にする資格などない。こういった点では彼女を気の毒に思ったし他人事でもない気がした。

 興がそがれたので尋問室から退出し、兵に片付けるように命令する。すると同時に伝令の兵がかけこんだ。

 

「報告!フィリクス皇子が見つかったとのことです!」

 

 

 

 

 フィリクス皇子を見つけたのはグローメル将軍だった。西部の旧知の人脈を辿ってフィリクス皇子の隠れ家を見つけ、皇子も説得してついに捕まえたらしい。

 その手際の良さはゼフォルも唸らざるをえなかった。結果だけ見ればゼフォルは数人の貴族を半殺しにしてエインへリル家という没落貴族の情報を集めていただけなのだから。

 フィリクス皇子の拘束をもってウェストガルト城の本営にゼフォルら将校や高官らが集められていた。

 

「皆、ついに兄を拘束できた。これをもって私は皇太子に就こうと思う」

 

 最上座に座るバルグリフ皇子はゼフォルら帝国の重鎮を前にそう宣言した。

 長らく続いた後継者争いにようやく決着がついたのであって、嬉しそうな顔をしていた。裏で何を考えて居るのかわからないが。

 

『おめでとうございます!』

 

 家臣らも一同になってそれを祝った。まだ宣言だけに過ぎないが確定事項といってもいい。

 歯向かうような有力な一族はもう存在せず、関係が微妙だった皇帝も体調が思わしくないらしい。バルグリフ皇子を止められるものは帝国に存在しない。

 つまり仕える家臣たちも身分は安泰だった。それを現すように論功賞に移行する。

 

「第一位はエスメル少佐だ、ほぼ初陣なのによく戦い抜いてくれた。このまま若手の星として期待している」

 

「感謝いたします」

 

 以外にも第一位はエスメルだった。褒章は金に名馬や勲章が与えられ、中佐への昇進が決まった。皇子の前に跪く彼女の姿はその容姿と相まって冒険小説の一節のようで、昔からの主の晴れ舞台にゼフォルも今は素直に祝福していた。

 その後一位だと予想していたベルズーフが二位として呼ばれる。そしてそのまま大将の位が与えられた。

 次にフィリクス皇子を捕まえた功績でグローメルが三位で呼ばれ、四位になってゼフォルが呼ばれた。

 

「将軍、よく帝都で兄の策謀を破ってくれた。それにあの決戦で飛び出したエインへリル伯爵を止めたのはまさに感謝しかない、もしかしたら私のところまで来ていたかもしれないからな」

 

「職務を全うしたまでです。感謝いたします」

 

 そう称えられるゼフォルだが、内心はそうでもなかった。さすがにこの程度の功で昇進するとは思わなかったが、ゼフォルが欲しいのは中将の位であって増えていく勲章や褒美の金ではない。

 ゼフォルの後も臣下らが呼ばれていくがどうでもいいことだった。

 自分より先に呼ばれた3人を見やる。グローメルも昇進はしなかったが、エスメルとベルズーフは昇進した。もし功績三位以内に入れたら自分も昇進ができただろうか。

 今回の戦い、ゼフォルはあまり大きな手柄を立てることができなかった。

 帝都でのクーデター阻止なんぞはたまたま都合の良かったのがゼフォルだっただけであんな乱雑な計画はバルグリフ麾下の将軍なら誰でも対処できただろう。

 アルセリアの部隊を撃退したのも結局は最後の悪あがきを弾き返したにすぎない。

 何より今回の戦いは、ほとんどバルグリフ皇子に従って戦うだけでゼフォルが能動的にどうこうすることはなかったのだ。主命に従うのが臣下としての基本なのはわかるが、それでもゼフォルは己の力と知恵で戦い抜きたかった。

 そういった点ではアルセリアとの一騎討ちはまだ良かった。まさか西部貴族にあんな強者がいるとは思わなかったし、不完全燃焼で終わったのが残念だった。

 もしもグローメルに代わってフィリクス皇子を捕まえていたら、ベルズーフの代わりに主力部隊の指揮をとっていたら、エスメルに代わって最前線で暴れていれば。

 めでたい場であるというのにそんな疑問が頭から離れず、妬ましかった。

 

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