メイド、勤務先の大敗北で将軍になる   作:メカバレ

34 / 76
前哨戦

 ゼフォルはアルセリアを伴い、5千を率いて出陣をしていた。名目は威力偵察である。

 間違いなく来るであろうロッソ王国の大軍の動向を探るためそういうありふれた理由だ。

 偵察兵や警備と思われる少数の部隊しか存在せず、それらはあっという間に殲滅するか、逃げていくかでその進軍を阻まれることなく王国軍のザントン要塞を見渡せるところまで進撃ができた。

 

 いつもの双眼鏡でゼフォルが様子を見ると、いつもゼフォルが接近してもだんまりを決めこんでいる防衛線は少し騒がしくなっていた

 

「流石に騒がしいですね」

 

「2正面作戦を強いられているはずの帝国がここまで進出してきたら驚きましょう、攻めるのはこちらのはずだと思っているのでは?」

 

 呟くゼフォルに後ろで控えていたアルセリアがどこか訝しげな表情で言った。

 

「まぁそうでしょうね、もしかしたら今回は出陣してくれるかもしれません。もっと接近してみましょうか」

 

「閣下、どこまでやるつもりですか?」

 

 そのまま指示を出そうとするゼフォルにアルセリアは丁寧でありつつもどこか咎めるような声色で問い詰めた。

 オドール配下の参謀や、西部貴族出身の将官程度の木っ端ならゼフォルは適当にあしらっていただろう、そもそも彼らに意見するほどの度胸もない。

 しかし相手はアルセリアである。ゼフォルは自分に近しい能力を持ちこの戦いの主力だと思っている彼女を無碍にはできなかった。

 

「どこまで……とは?」

 

「王国が仕掛けるなら、将軍が態々ここまで前に出る必要はなかったはずです。この程度の偵察は私やクレッチマー准将に任せて全軍に防衛戦の指揮を取るべきです。閣下自身が全軍に動員の指示を出した後こうやって最前線まで出てきている、一体何を仕掛けるつもりなのですか?」

 

 相変わらず歯に物を着せぬ、彼女らしい言い方だった。こんな性格だからきっと西部では干されてたのではないだろうか。

 しかし能力は本物なのだ。だからゼフォルは正直に話すことにした。

 

「貴女には言っておきましょか、私はこの戦いであのザントン要塞を突破します」

 

「……本気ですか?」

 

「えぇもちろんです。王国はおそらく主力部隊をこの要塞に集結させ、大挙して押し寄せてくるでしょう。ならば意表を突き、集結前にこの要塞を占領し、そのままやってくる敵主力を各個撃破します」

 

「……な⁉」

 

 ゼフォルの言葉にアルセリアは驚愕の表情を浮かべる。そりゃそうだとゼフォルは自嘲した。自分で言っていてなんだがあまりに博打が過ぎる作戦だと思った。

 

「あなたも先鋒として活躍してもらいますよ、勝てばすべてが思いのままです」

 

「失礼ながら、ロッソ王国の主力が来ても東部方面軍とハルード要塞、これらがあれば、将軍ならば守り切ることができるでしょう、そのような博打に出る必要はないはずです」

 

「博打……そうかもしれませんね、少し前なら私もこんなことはしませんでした。けどアルセリア中佐、貴女のせいでもあるのですよ?」

 

「私が?」

 

「そうです、西部貴族がオドール閣下のもとに駆け込んで2万を超える兵を抱えることができた。そしてアルセリアという優秀な将を手に入れることができた。これだけのものを私は手に入れたのです。このまま順当にいけば、帝国は王国に勝てるでしょう。しかしそれでは面白くない、どうせならあの大国の幕を私が引いてやりたいのですよ。……付き合っていただきますよアルセリア中佐」

 

「……貴女には世話になったからな、やってやるさ」

 

 なぜここまで本心をアルセリアに吐露したのかはゼフォルにもわからなかった。ゼフォルを一回出し抜いたことがあるからか、あのような無謀な突破劇をこなした彼女なら納得してくれるかもしれない。ただ言えるのはこんなことをエスメルに言えば怒られてしまうだろうなということだけだった。

 

 

 

 アルセリアとゼフォルは5千の兵でザントン要塞にこもるロッソ王国軍を挑発し続けた。ここに駐屯しているロッソ王国軍はおおよそ3万である。

 城塞を活用されれば容易に突破できるものではないのは知っていた。城塞周辺を動き回りついには無視して後背に回ろうとするとついに王国軍は固く閉ざした陣地を開けて飛び出してきた。

 

「来ましたか、1万5千、およそ半数ですか」

 

 双眼鏡でその様子を確認したゼフォルは内心ではほくそ笑んでいた。このロッソ王国防衛線の指揮官はキリマンダル将軍という人物だった。2年前の侵攻にも主力として名前を連ねる王国の主力の将軍だ。しかし機動戦は不得意なようで、いつもゼフォルとの小競り合いでは押し負けていた。

 しかし全体的に悪くない指揮をする指揮官だということは知っていた。

 ここで半分の1万5千を出すという選択肢は間違っていない、これならゼフォル達の今率いている5千では出陣した方にも勝てないだろうし、隙をついて城塞を奪おうとしても残った半分がいるので落とせやしないだろう。この出陣自体が意味のないものになってしまった。

 

「アルセリア適度に戦って引きますよ」

 

「了解した」

 

 まずは適度にゼフォルとアルセリアが先頭に立って敵の先鋒とぶつかる。ゼフォルの曲剣が、アルセリアの長剣が敵兵を次々に血祭りにあげていく。

 

「いたぞ!悪魔の給仕だ!」

 

「ここで討ち取れ!何人もの仲間があいつに殺された!」

 

 何人かいる隊長と思わしき兵士がゼフォルを名指しで叫んだ。

 随分と恨みを買ってしまったらしい。ここ最近東部方面軍で最も出撃して王国軍を撃破し続けているのは他ならぬ自分なのだからしょうがないだろう。むしろ敵からの呪詛は心地よくさえあった。

 ちなみに適当な捕虜から聞いたが、なぜ悪魔の給仕なのかと言うと悪魔にロッソ王国の将兵の魂を捧げているかららしい、小洒落たことだ。

 連中は勝手に盛り上がっているようだが、ゼフォルに付き合ってやる義理はない、先鋒を程よく撃破した後、本体が来る前に反転し、交代する

 言うは易しの典型だが今回率いてきた5千はただの兵士ではない、ゼフォルには元ウィルベート家の精鋭、アルセリアにはエインヘリル家の精鋭が配属され、編成した東部方面軍の中でも指折りの最精鋭だ。それを2人が率いれば不可能ではなかった。

 

 率いる兵を反転させつつ交代させていく、先頭はアルセリアに任せ、ゼフォルはあえて最後尾で後退を見届けていた。

 

「待て給仕!絶対に逃さんぞ!」

 

 そんな声が聞こえる、随時後ろを振り返るとロッソ王国軍は必死に追撃していた。どうも悪名をあげすぎたらしい

 しかしこうも追っかけられるのは好都合だった。逃す気がないのはこちらもそうなのだ。

 小高い丘を超えた先、視界が開けるとそこにはイスペリア帝国の大軍がそろっていた。軽く見積もっても4万はいる。

 敵の追撃を読んだゼフォルはあらかじめ主力部隊に指示を出していたのだ。

 えらいですよオドール閣下。

 そう内心で総司令官様を小馬鹿にしつつ褒めたゼフォルは隣にいた魔法を使える士官に指示を出した。

 

「合図をお願いします」

 

「わかりました!」

 

 この士官はエスメルのような敵を吹き飛ばすほどの魔法は撃てない。と言うよりエスメルが例外中の例外なのだ。

 しかし空に放たれた魔法は派手な閃光を発する。それに合わせて展開していたイスペリア帝国の大軍、東部方面軍主力部隊が動き出していた。

 目の前の大軍こそ大本命である。ゼフォルとアルセリアの5千で偵察部隊に守備兵を片付け、敵の視線をゼフォルの部隊に釘付けにする。そしてその隙に東部方面軍の主力をここまで進撃させていた。いまは先鋒の4万しかいないがさらに4万も後方で待機させている。東部方面軍の全戦力といってよかった。残った5千はハルードで留守番だ。

 ゼフォルはこの大軍で敵がどう動こうと要塞に仕掛けるつもりであった。しかし相手は出撃すると言うこちらにとって最も最良な択をとってくれた。

 最もゼフォルは敵の出陣を予想していた。なぜなら王国のキリマンダル将軍はさぞ焦っていたはずだからである。防衛戦を任されて以来、ゼフォルが不在時の時にしか勝ち星を掴めていないのだ。

 そこに本国から大軍が援軍としてきているのである。本国の将軍達にこのままでは手柄を取られてしまうだろうし、あの悪魔の給仕に負け続きのままでは面目が立たないだろう。

 ここに付け入るスキがあった。援軍が来るというのはゼフォルに取っては不利なことだ。

 しかしだからこそキリマンダルが仕掛けてくる可能性が上がったということでもある。手柄を取られるのもそうだが、万が一負けても援軍が来れば何とかなるという心理が働くからだ。

 ゼフォル自身が欲深いからこそ敵であろうがこういった感情はよく理解できたし、予想も簡単だった。

 急いで再び部隊を反転させる。流石に急すぎたのかとも周りの数百だけが対応できたがそれでよかった。どうせ時間とともに5千ではすまない数万の大軍が仕掛けるのだ。今は目の前の哀れなロッソ王国軍を構えさせ、少しでも足を止めさせればそれでよかった

 

「全軍反転、数の利はこちらにあります、ひねりつぶしなさい」

 

 そう言って先頭を疾走していく、ロッソ王国軍の兵は先ほどまでの勢いはどこへやら一様に驚愕と困惑の表情を浮かべており、手始めに数人曲剣で真っ二つにすると大いに崩れた。

 

 そのあとは余裕の掃討戦だった。ゼフォルは周りの敵を蹴散らしているうちにアルセリアも合流し、そのままオドールの率いる本隊も攻撃を開始した。ゼフォルの言うことを聞くようにしっかり教育し、作戦も伝えていた。

 総司令官や幹部クラスの将校はともかく、兵士自体はゼフォルが鍛え上げたのだ。悪くない動きで王国軍を追い詰めていた。

 そしてそのまま1万5千の王国軍は4万を超える帝国軍にしらみつぶしにされ次々打ち取られていた。キリマンダルも死んだらしい。

 その光景をゼフォルは感慨深く見ていた。せいぜい自分の戦歴は二年と少しでとても歴戦とは言えないが、いつも寡兵でなんとかしていて、こうも明確に優勢な戦力で戦ったのは初めてだった。

 しかもそろえた戦力は自前で整えたものである。総司令官こそオドールで、金を出したのはアンス侯爵だが、彼ら二人が揃えた等は言わせない。結局大きな権力や財力を持っていても、これを明確な戦力化したのはゼフォルだ。

 

「フフフ……あーはっハハハハハ‼」

 

 自分の鍛え上げた兵が敵を蹂躙していく姿についゼフォルはらしくなく大笑いしてしまった。

 いつもの鉄面皮をかなぐり捨てその美貌をひたすらに喜色に染めながら、自分の身体をかき抱くように声を上げて笑う。

 突然の副司令官の豹変に周りの兵はギョッとするが、あまりにも気分がいいので気にしなかった。

 本隊がオドールに西部貴族たちのなので不安はぬぐえなかったが、目のまえの光景に間違いはなかったと確信する。この戦力ならいけるだろう。

 次々と討ち取られる王国軍が悲鳴と帝国軍の雄叫びにかき消されてはいたが確かにゼフォルの笑い声は鳴り響いていた。

 

 

 

 王国軍の1万5千をひねりつぶしたゼフォルは本陣に帰還していた。ザントン城塞を見ればすでに帝国軍の総攻撃が始まっている。

 兵の削りあう攻城戦に自前の兵を消費したくなったゼフォルはこの攻撃を東部方面軍の別の将校に任せていた。もちろんその作戦には口を出したが。

 本陣にアルセリアを伴って入ると反応は様々だった。

 

「おお!さすがゼフォル将軍!このツヴァル、感服いたしましたぞ!」

 

 なにかと自分を贔屓にしてくれているツヴァル伯爵がぺらぺらと褒め散らす隣で苦虫を嚙み潰したような顔でアンス侯爵は黙っていた。

 この反応だけでアンス侯爵の派閥は崩壊しつつあるのが分かる。少なくともゼフォルに歯向かうことはできないだろう。

 

「ご苦労だったゼフォル将軍」

 

「いえ閣下、当然のことをしたまでです」

 

 そして最上座のオドールがゼフォルも労わった。これももうこの陣営では見慣れた光景だ。それだけこの東部方面軍でゼフォルの活躍は逸脱していた。

 

「将軍、戦況はどうかね?」

 

「わが軍が圧倒しつつあります。王国はあの要塞に3万の大軍を置いていましたが、その半分をこの野戦で失いました。もはや連中に守備を維持できる力はありません」

 

 要塞への攻撃には一応信頼できるクレッチマーも当てている。それにここでゼフォルはこれまでオドールに強請って作らせていた攻城兵器を惜しみなく投入していた。本陣に来る前に双眼鏡で確認したからよくわかる。すでに城壁はズタズタになっていた。

 

「それは素晴らしい!諸君!わが帝国は二正面の戦いを強いられたがそのどちらでも勝っているらしい。どうやら南部小国家群との戦いでも戦いは有利に進んでいるようだ。エスメルという若い士官がすでに二つの国を降伏させたとか」

 

 オドールのその言葉に今度はゼフォルが驚愕をせざるを得なかった。

 確かにベルズーフとエスメルならば南部小国家群など一ひねりだろうが、ベルズーフが到着した報告はまだ受けていない。

 南部方面軍とエスメルだけでもうこんな戦果を挙げたのだ。しかし同時に納得していた。

 エスメルならできるだろう。しかし自分も負けるわけにはいかなかった

 

「もはや南部の趨勢は決まったようなものですなぁ、エスメルというのも若いのによくやります。このままいけばベルズーフ大将が小国家群をつぶしてしまうのは時間の問題でしょう」

 

 そう黙っていたアンス侯爵がゼフォルに向かいながら言った。

 言いたいことがすぐに分かった。言外に、このままだとベルズーフに手柄を取られるぞと言いたいのだ。ゼフォルたちはザントン要塞こそ突破したが、彼の要塞はただの防衛拠点だ。

 王国の生産力のある領地には寸土も取れていない、早く実りのあるものをよこせと出資者として言いたいのだ。

 その偉そうな態度に内心では火のように怒りが燻ったが、ゼフォルは決して表情には出さなかった。

 この男はたまたま金持ちの家に生まれて、少し金勘定がうまかっただけでなぜこうも偉そうなのだ。そもそも貴様では同じ兵力を用意しても自分の足元以下の成果しか上げられないだろうに。しかし今は同じ目標のために協力しなければならないのだ。

 

「南の友軍の奮戦に我らも負けるわけにはいきませんね、さらなる王国への進撃を進めましょう」

 

 そう協力しなければいけないからこそゼフォルは努めて冷静に言葉をつづけた。

 

「し、しかし将軍我らだけで王国を倒せるのでしょうか」

 

 そうオドールの参謀の一人が水を差してきた。最近黙らせてはいたが今回の事態は質問をせざるを得なかったらしい、たしか名前はユーテル大佐だった。

 

「なにを弱気な!オドール閣下にゼフォル将軍が揃っていて我らに恐れるものは何もいない!」

 

 そうツヴァル伯爵が吠えた。言っていることはゼフォルを助けてるつもりだろうが、好感度自体はユーテルの方が高い。

 なんだかんだで侵攻のリスクを考えて実質的な東部方面軍の支配者であるゼフォルに意見を突き付けたユーテルと、何も考えずゼフォルを援護した気になっているツヴァル伯爵では雲泥の差だった。

 

「心配は当然です。しかし作戦はすでに考えて居ます。諸将らには私の命に従っていただきますが、よろしいですね?オドール閣下」

 

「ああ、将軍にこの先の指揮を任せよう、皆、ゼフォル将軍の言葉は私の言葉だと思うように」

 

 オドールからの快い許可をもってゼフォルは作戦を発表した。東部方面軍8万5千という膨大な兵力は、もはや少将でしかないゼフォルの完全な指揮下だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。