メイド、勤務先の大敗北で将軍になる   作:メカバレ

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お久しぶりです。もっと早く投稿できるはずだったんですが4月はなかなか忙しくかなり間が空いてしまいました。




北方編
佐官


 帝都イスペリアの宮城、その中でも最中枢のエリアである大会議室。帝国の中でも高位の軍人か役人しか入れないその一室……ではなくその隣の控室でゼフォルは時間を潰していた。

 かつては隣の大会議室の入室を許されていたのだ。少将であるゼフォルは将官クラスの会議に何度も出席していたのだから。

 しかし現在の中佐の階級では入ることは許されない、今ここにいるのは代わるように会議に参加しているエスメルの副官として控室で待機しているだけだ。

 周りを見渡せば、同じように会議に参加している将校の副官や、大臣の側近などが待機していた。

 そんな中でもやはりゼフォルは悪目立ちをしている。この場にいる人間は一様に帝国の中枢に近い立場の者たちだ。

 ゼフォルがかつては自分たちの上司のように、高い階級を持っており、本来会議に参加できる立場だったのが、特大の失敗によって降格されてこの場にいることを知っているのだ。

 この場は中堅クラスのちょっとした社交場のようなものだ。仕事の延長ではあるが談笑をして情報交換をしている。

 まるで腫物扱いのようにゼフォルの周囲だけ人がいなかった。

 完全にこちらがが悪いのは分かってはいる。

 飛ぶように少将になったゼフォルはこの辺の層で知り合いがいないし、そこから降格してこの場にいるゼフォルと交流を持ちたくないだろう。しかしこうも露骨に避けられるとへこんだ。

 

「ゼフォル中佐、お久しぶりです」

 

「アティア憲兵中佐……」

 

 しかしそんな孤立したゼフォルにようやく声が駆けられた。拘束中のゼフォルの担当をしていたアティア憲兵中佐であった。

 

「エスメル少将のもとで軍務に復帰できたようですね」

 

「貴女には随分と迷惑をかけましたね。ありがとうございます。憲兵総監閣下のご同行ですか?」

 

「はい!そうです」

 

 誇らし気に返すアティアがほほえましかった。値踏みも下心もない素直なアティアの態度は見下し見下されで碌な人間関係を作ってこなかったゼフォルには新鮮だった。

 逆にこんな素直さで憲兵中佐としてやっていけるのかと疑問に思った。

 だが、以前までのゼフォルなら騙されやすそうだなと小馬鹿にした判断をしたかもしれないが、今はそう決めつけなかった。

 自分以外のタイプの人間を認めるようになっていた。以前まではこの乱世では戦争に強ければそれで良いとしか考えず、自分かエスメルにベルズーフくらいしか眼中になかった。

 だが思い返せば、戦術では自分に劣るグローメルはフィリクス皇子を捕らえる大戦果を挙げたし、能天気なオドールもなんだかんだで最後まで直属の部下には慕われていた。その部下の参謀たちも的確な指示の下ではよく働いていた。最後は軍法会議の場で責任を取ってくれようとした。

 そして目の前のアティアはゼフォルの恩赦のために駆け回ってくれたのだ。今のゼフォルはこういった人々があって生き残っているし、こうやって軍務に復帰できたのだ。

 この素直さも、美点であるだろう。組織においてこういった人物も必要だ。副官になるのも良く分かった。

 この心境の変化が進歩なのか退化なのかは判断しかねた。良く言えば視野が広くなって、人として成長したのかもしれない。

 悪く言えば、一時の気の迷いで他人にしなだれかかる甘えが出始めただけなのかもしれない。

 だがおおむね前者であろうとゼフォルは結論付けていた。

 

「ゼフォル中佐はエスメル閣下の付き添いですよね?上手く……いってそうですね」

 

「それはどういう……?」

 

「あの時は収監されていたのでしょうがないのかもしれませんが、今の貴女はとても楽しそうです」

 

 そんなに態度に出ていただろうかとゼフォルは少し恥ずかしくなった。しかし悪い気ではなかった。今が楽しいのは当たり前だ。

 結局エスメルに階級を追い抜かれてしまったが、彼女の副官に収まったのだ。それに素直なアティアに言われても悪い気はしなかった。

 

「ふふ……貴女のおかげですよアティア憲兵中佐、けど貴女は少しやつれましたか?」

 

「そうなんですよ!バルグリフ陛下が即位されてからというもののいろいろな新法や軍律ができてその対応で総監閣下にもこき使われてるんです!あまり寝られません!」

 

 そう口にするアティアだが、心から嫌そうなではなかった。大変だが自分の仕事に使命感とやりがいを感じているのだろう。

 

「貴女は真面目ですからね、中佐になったからには人を良く使うことも大事ですよ?」

 

「それ、貴女が言えることですか?」

 

「私だからこそいえるのですよ」

 

 アティアとは同じ階級になってしまったが、ゼフォルはあまり悪い気はしなかった。少なくとも少将のころなら、こんな親し気に話すこともなかっただろう。

 ある意味敗北を経験して同じ目線に立ったからこそこうして話すことができている。それが少し嬉しかった。

 

 

 

「もどったわ」

 

「おかえりなさいませ」

 

 帝国トップ層の会議も終わり、出席者だった少将であるエスメルをゼフォルは副官として迎えていた。

 あの後ゼフォルはアティアを介してあの場の何人かの士官や役人と会話が弾み、見聞を広めていた。かつて少将の位にいたときは各組織のトップ層と会議に腹の探り合いをしていたが、その一つ下の副官たちと話をするのもまるで別の世界のようで新鮮だった。退屈だったはずの待機時間もあっという間に終わってしまった。

 

「何か特筆すべきことはありましたか?」

 

「あったわよ。それも貴女の好きそうなこと」

 

「それは?」

 

「北方の蛮族が動いたわ。私の第二軍は北部方面軍の増援として派遣されるわ」

 

「それはそれは」

 

 素っ気なく返すゼフォルだが、内心はかなり昂っていた。

 ゼフォルの敗戦以来、なかなか大きな戦いというものはおこらなかった。南部の小国家群は滅ぼされ、滅ぼした帝国軍もほかならぬゼフォルが所属していた東部方面軍の立て直しに追われていたし、王国軍だって主力が壊滅したのだ。大陸の動乱は小休止期間に入っていた。

 詰まるところ汚名返上の機会が来なかったのである。

 

「ベルズーフ閣下が随分と叩いたというのに、北方の蛮族どももまぁ頑張りますね」

 

 北方の蛮族といえば、帝国建国以来の悩みの種だった連中だ。

 馬を生活の中心に定住はせず、いくつもの氏族に分かれて年がら年中争っているような連中である。

 それもあって民のほとんどが馬に騎乗でき、腕っぷしも強いものが多い。どれだけ撃退してもするりと逃げてしまうので、帝国はずっと北の蛮族の侵入に悩まされていた。

 その流れを断ち切ったのがベルズーフである。ゼフォルは勝手にライバル視をしていたので彼の来歴をよく勉強していた。

 バルグリフ皇子が頭角を現す前から、帝国軍北部方面軍の重鎮として蛮族を撃退し続けていた。蛮族に負けぬ強力な騎馬部隊を調練し、最前線には弩で武装した砦を配置して効率よく撃退していた。

 ちょうどゼフォルが東部で王国軍と小競り合いで遊んでいるときに、ベルズーフは決定的な大勝利を収めていたのである。

 この勝利のおかげで帝国はフィリクス皇子との後継者争いの時も、南部小国家群との戦いもゼフォルの王国進撃も北方を気にせずことに当たれたのである。

 あれから幾ばくの時がたとはいえ、もう反撃に出てくるのは妙だった。

 

「確かにベルズーフ閣下は蛮族をいやというほど叩き潰したわ。けど少々やりすぎたようね。所属するすべての氏族が損害を受け、追い詰められた彼らは統合され一大連合となった。さらに裏には王国の影があるわ」

 

「王国がですか?」

 

「蛮族たちの中でも最も有力な氏族であるガジュ族を中心として連合を結成、そこに王国から受勲までされて彼らはガジュ公国と名乗ったわ。既に帝国北部に攻撃を繰り返している」

 

 何気に歴史の一大変化点ではないかとゼフォルは思った。

 北方蛮族は確かに強力だ。彼らが本当に一つになれば、創立当初の帝国と王国ならとっくの昔に葬り去っていたかもしれない。しかしその協調性のなさでまとまらず、それゆえに蛮族としてひとくくりにされたのだ。

 

「はぁ、結局負け犬たちの傷の舐めあいですね。強大になりすぎた帝国に一人では逆立ちしても勝てなくなったから……と、油断は良くないですね、ガジュ公国。恐ろしい敵です」

 

 そう敵を表するゼフォルだが、エスメルのジトっとした視線を受けて慌てて発言を変えた。

 違うのだ。ベルズーフが破り去った敵と聞いて、ひとりでに敵対心を燃やしただけであって、この期において油断する気はなかったのだ。エスメルの前だから少し大きなことを言いたかったのもある。

 

「はぁ……そもそも貴女のせいでベルズーフ閣下じゃなくて私に回ってきたのよ」

 

「その件は謝罪しかできません。しかしこれをチャンスとお考えください。間違いなくベルズーフに次ぐ帝国の将はお嬢様です」

 

 現在ベルズーフは帝国軍総司令官と東部方面軍総司令官を兼任していて、現在の所在は東部のヴァン・ウィルベートだ。理由はもちろんオドールとゼフォルの後始末を行っていた。

 ゼフォルも反省はしているが、今さらこのことを蒸し返そうとは思わない。ベルズーフは今だって嫌いだ。せいぜい優秀なのだから自分の代わりに頑張れば良いのだ。

 それ以上に主人であるエスメルがこの戦いにどう勝つかに焦点を当てていた。

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