メイド、勤務先の大敗北で将軍になる   作:メカバレ

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帝国軍第二軍

  帝都にある帝国軍第二軍の宿舎は慌ただしく動いていた。ひっきりなしに士官があちこち駆け回り、兵達は武器兵糧をかき集めていた。

 ゼフォルは総司令官付きの副官としてそれらの監督を行っていた。

 少将だった頃は西部貴族から巻き上げた資金やオドールの個人資産を使って好き勝手に集めていたし、担当の下士官を脅して口止めしていたことなど数回ではすまない。

 だが、今そんなことをすればエスメルに迷惑が掛かるし、間違いなく雷が落ちる。

 煩わしくないといえば、嘘になる。しかしゼフォルも階級が落ちて好き勝手にできなくなったし、そもそもここは東部方面軍の時のような一地方軍ではない。

 皇帝陛下のお膝元である帝都であることもある。ゼフォルはちゃんとした手続きをもとに武器兵糧をかき集めていた。

 だが嫌でもなかった。かつてゼフォルは9万を超える東部方面軍のほとんどの書類を作っていたしその中には明らかに不正なものもあった。オドールの書類すら偽造した。そもそも戦力の3割ほどが不正に組まれた軍隊なのだからさもありなんである。

 それに比べれば仕事量は大幅に減っていたし、お天道様に顔向けできるものばかりなので気持ち的にも楽だ。何よりこの一枚一枚がエスメルのためになるのだから嫌なはずがなかった。

 

「精が出るなぁ、中佐」

 

「これはこれはアルセリア大佐」

 

 そうこうしているとアルセリアが声をかけてきた。

 有望株とはいえエスメルは所詮はベルズーフ配下の将軍の1人でしかなかった。そのため直属の部下などが少なく、陣営の層は薄かった。

 そのため、今回第二軍が編成されることになり、壊滅した東部方面軍の部隊がそのまま編入されていた。

 もともと、東部方面軍の、特にゼフォルの配下はウィルベート公爵家の士官や兵だったものが多い、ゼフォルも含めてようやく元鞘に収まったのである。

 しかしこの時元オドールの配下や、ゼフォルが徴兵したアルセリアも正式に帝国軍に任官していたのである。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「いや、階級で超えたからからかってやろうと思ったのだがな」

 

「思ったのだが?」

 

「お前を揶揄うと後が怖いからやめるぞ」

 

「ふふふ……賢明なことで」

 

 東部方面軍総崩れのその原因であるゼフォルなど、いくら罵声を食らってもしょうがない立場だ。今こうして牢ではなく、中佐として軍務に努められるのはエスメルをはじめとして、様々な人間が駆けまわってくれたからにすぎない。

 特に目の前のアルセリアなど特に迷惑をかけた。先の戦いでは無謀な大侵攻の中で随分と無理を聞いてもらった。そのため、特にアルセリアからどれだけ罵られても我慢するつもりだったゼフォルだが、向こうがやめるというならそれでいいだろう。

 

「私は大佐に感謝していますよ。本当にエスメル閣下のもとにはせ参じてくれるとは思いませんでした」

 

「撤退戦の時も世話になったからな、あの後私だけ兵がまだ元気だったから反撃作戦に巻き込まれたが、さすがお前の弟子だけある。いい指揮をしていた」

 

「もう弟子じゃありませんよ。とっくに私なんて超えています」

 

「本当にエスメル少将を認めているんだな。正直お前が副官になると聞いたときはどうなることかと心配だったぞ」

 

「どうなる……とは?」

 

 ゼフォルがエスメルの部下になって何か不利益になることがあるのだろうか、ことがエスメルのことだからこそゼフォルは不思議に思ってアルセリアに聞き返した。

 

「いくら昔なじみっていても、お前の性格だぞ?年下のくせに私の上に立ちやがって!今に見てろ!って考えそうだったからな」

 

「後が怖いですよ私は」

 

「冗談だ……いや本当に冗談だからその顔をやめろ。私をアンス侯爵を見るかのような目で見るな」

 

 言いたい放題言われて、鉄面皮はそのまま眼だけで強く訴えかけるとアルセリアは観念したかのように謝罪した。敗戦したゼフォルをいくら貶めるのは許すがエスメルとの関係性をからかうのは許せなかった。

 

「全く、私ならともかくお嬢様のことを悪く言うのは許しませんよ」

 

「いい主人を持っていたんだな」

 

 そういうアルセリアの顔つきはどこか優しげだった。

 

 

 

「副司令官閣下、ゼフォルです」

 

「入り給え」

 

 ゼフォルが入室許可を求めると部屋の主から許可が下り入室する。東部方面軍ナンバー2の執務室に入室する。そこにはクレッチマー准将がいた。

 

「副司令閣下、第三師団の物資と装備のリストです。こちらは第一師団の予備兵力のリストになります」

 

「早いな中佐、貰おうか」

 

 かつてゼフォルは東部方面軍の副司令官であり、クレッチマーはそこに所属するゼフォル軍団といっていい1万5千の次席だったのだ。

 それがあの戦いの結果ゼフォルの階級は三つもおちて中佐になり役職もエスメルの副官に落ち着いた。副官とはあくまで総司令官を補佐するポジションであり、そこに部隊の指揮権はないのだ。

 それに対してクレッチマーは第二軍の副司令官というエスメルに次ぐ役職に座っていた。もちろんその権限も兵力も今のゼフォルとはくらべものにならなかった。

 ゼフォルこそ命令違反に越権行為など問題だらけだったが、クレッチマーはあくまで上官のゼフォルに従っていただけである。

 それでもゼフォルを止めきれなかったとして処罰をするという意見もあったそうだが、たびたびゼフォルの違反行為を諌めるなど、正しい行為をしたため、結局無罪放免どころか東部方面軍で唯一功の方が多い名将としてこうして第二軍の副司令官に上っていた。

 彼が第二軍の副司令官なことはまだ良かった。大切なエスメルを支える副司令官として彼の優秀さは良く知っている。どこかの馬の骨が配属されるよりかは何倍も良い。

 それでもやはりその席をとられたことに嫉妬してないと言われれば嘘になる。

 

 「流石ゼフォル中佐、早く的確だ」

 

 「光栄です」

 

 会話の内容だけなら上司が部下を労わっているにすぎないが、場の空気はどこかぎこちなかった。

 当然といえば当然である。かつてゼフォルとクレッチマーの上下関係は逆だったのだ。

 むしろぎこちないのはゼフォルだけでクレッチマーは自然体で振る舞っている。立場が上になったからなのか年の功のどちらかだろう。彼の性格から後者の可能性が高いはずだ。

 この空気を何とかしたいが今のゼフォルには何ともしがたい、なにせもはやゼフォルの階級はクレッチマーより二つ下なのだから。

 

「ゼフォル中佐、時間は開いているだろうか?」

 

「はっ、問題ありません」

 

「貴官とは少し話しておかねばならん」

 

 そう言われてゼフォルはびくりと体を震わせた。確かに彼とはゆっくり話すべきだとは思っていた。こうしてその機会が目の前に来るとゼフォルも腹を括らなければならなかった。

 クレッチマーが手を鳴らすと彼の副官が紅茶と菓子をもってきて二人に配膳すると退出する。そうするとクレッチマーはゼフォルに着席を促しゼフォルも席に着いた。

 

「なんでしょうか……」

 

「私は貴官より階級も年も爵位も上になってしまった。かつてのような態度をとることはできない」

 

「承知の上です」

 

 言う人次第では、嫌味に聞こえるかもしれないが、彼に限ってそれはなく、むしろゼフォルを気遣う配慮を感じた。

 

「私は臆病だった。本当ならこのような忠告、少将だったときにすべきだったのだ。こうして階級で上回らなければ口にできないのを許してほしい」

 

「もちろんですとも……あの時の私に下手なことを言えばどのようなことをしたかわかりません、事実、准将を補給路の防衛に回して遠ざけたのは私なのですから」

 

「感謝する。先の戦いは明らかに焦りすぎだ。確かにあの時、王国に勝てる可能性もあったが小さな勝機を求めすぎていた」

 

「はっ……」

 

「まぁその件はエスメル閣下に随分と絞られたであろう。私はこれ以上口にする気はないよ」

 

 少し意外な回答だった。クレッチマーだってあんな無謀な侵攻作戦に参加させられれば文句の一つ言いたいだろう。

 

「先の戦いで失敗こそしたが、貴官の才能は本物だった。これからもその才能を役立ててほしい」

 

 今度は少しではなく、正真正銘に意外だった。もっと言うことを聞けと下手に策を立てるなと言われると思ったのだ。

 

「まだ私に策を考える機会をいただけるのですね」

 

「軍隊には様々な才能を持った人間が必要だ。常人離れした貴官の軍才を押さえつける気はない」

 

「それで私は負けました」

 

「そうならないように私やエスメル閣下が上官として貴官を止めるとも」

 

「……!」

 

「勘違いするな。ゼフォル中佐、先の戦いが君一人の責任であるはずないのだ。確かに少将の位にあってベルズーフ閣下の命令にも反抗したのは問題だが、本当ならオドール閣下が止めるべきだったのだ。私は他の指揮官たち連名で少将だった君に否をたたきつけるべきだったのだ」

 

 厳しい声で言うクレッチマーだが、その言葉には心がこもっていた。

 

「階級が上になっても私は貴官のようなうまい作戦が建てられるわけでない。しかし危ういと思ったら止めることはできるのだ。ほかならぬエスメル閣下もそのつもりのはず。貴官は一度の失敗に腐ることなく己の作戦と意見を持ち続けるのだ。それがきっと帝国の、ひいてはエスメル閣下のためになる」

 

「承知いたしました」

 

 クレッチマーなりの激励にゼフォルは渾身の敬礼をささげた。

 大分長い付き合いだが今のゼフォルはクレッチマーを心から尊敬していた。少し前まで顎で使っていたというのに不思議な感覚だった。だが悪い気分ではなかった。

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