ヤンデレ魔法少女13人から逃げ切れないと死ぬゲーム。   作:クロウト

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デストロイヤーって一体誰の事なんすかね...(すっとぼけ)



寝る子は良く育つ、けど育ち過ぎるとデストロイヤーになるので気をつけなさい。

 

前回のあらすじ──貴方は尻尾をぶんぶんと振る大型犬こと蓮見レイアと食堂で遭遇。危うくレイア√のバッドエンドを迎えそうになるも、そこで貴方公式のセコムである二階堂ヒロが助太刀。バッドエンドを迎え、幸せに暮らしたエンドは何とか避けられたものの、貴方は美少女二人からのダブルあーんを食らってしまった。

 

その結果──貴方はとても顎が疲れ切ってしまったのである。

 

 

朝食を摂り終えた貴方はヒロとレイアと別れて、一人で牢屋敷の巡回をしていた。ちなみに貴方が一人で行こうとするのをてっきりヒロは全力で阻止しようとする物だと思っていたが、思いの外了承はしてくれた。

 

本人曰く、【自由時間まで縛るのは正しくない。君の意志も尊重されるべきだ】との事。なら今後は朝食に行く時も一人で…と言おうとしたが速攻でヒロに断られた。哀れである。まあ、監禁とかされてないだけでまだマシである。

 

 

───さて、唐突に自由を得た貴方は何の気なしに外の中庭へと出ていた。脱獄する気なんて貴方には毛頭無いが、いつまでも室内を徘徊しているよりかはこうして外に出た方が気は晴れるというものだ。

 

中庭に出ると、そこは庭というよりかは一種の自然そのものが構築されているかの様に思わせる程に大きくそして広かった。まだ朝が始まったばかりなので陽光が木々の間に差し込んでおり、大自然の木々の匂いが鼻腔を刺激する。

 

さらに奥に行けば広い花畑もあるとの事なので、貴方はとりあえずそこを目指そうと足を動かそうとする。行くアテも何処にもない、ただの放浪になるが、たまにはこういうのも悪くないだろう。

 

…と、貴方がそんな呑気な事を考えながら、歩みをまた進めようとするが。その歩みは呆気なく、そして唐突に止められる事になる。

 

 

 

「 あー!! ここに居たんですねーー!!○○さーーん!!! 」

 

 

 

 

快活そうな聞き馴染みのある少女の声に貴方は思わずその方へと振り向く。その声は貴方の後方からしており、貴方はそこに見えた少女の姿に微笑みながらも、その少女は手を大きくぶんぶんと振っていたので、貴方もそれに応じた。

 

──探偵を彷彿とさせるシャーロック・ハットや紺色のインバネスコートを着た水色の髪と黄金色の瞳を持った少女。その少女は貴方の顔を視界に移すと、たちまち笑顔になりながら猛スピードで此方に迫って来ている。

 

彼女の名前は、橘シェリー。貴方と同じく、魔女候補の一人であり、牢屋敷に集められた者の一人でもある。

 

貴方は猛スピードで迫り来る彼女を受け入れる様に両腕を広げる。自分の元に迫り来る可憐な女の子をその胸で抱き留める。男の子ならば一度は必ず妄想をしたシチュエーションの一つだ。だが貴方はそんな男の子の理想のシチュエーションに遭遇しているのにも関わらず、貴方の表情は何処か覚悟を決めたかの様な表情だった。

 

 

シェリーが貴方の胸に飛び込み、体重を貴方にかける。その瞬間、貴方が感じたのは可憐な少女の暖かな体温…ではなく、全てを破壊する大岩の如き()だった。

 

貴方は全力でシェリーを抱き留める。だが貴方の両脚が半ば暴力的に降りかかった目の前の力の塊に抵抗しようと全力で踏ん張る。草と土を抉りに抉り、ズズズ…と擬音を立てながら後へ、後へと後退りをする。いやそうせざるを得なくなる。

 

だが貴方はここで諦めまいと、今日一の根性を発動して何とか身体全体でシェリーの体重を支えてひたすらに耐えた。体重重いっすねとか言った次の瞬間には貴方の頭が三秒後には吹き飛んでいるかもしれないのだから。

 

やがて貴方と貴方に抱き留められているシェリーの動きは止まり、貴方は何とか耐えきって見せた。

 

 

「 わー…!今日も流石の馬鹿力ですね!!! 」

 

 

お前が言うな、お前が!!!!!!と声を大にして叫びたくなるが貴方は紳士(自称)なので口を慎む。貴方は肋骨辺りから襲いかかりつつある鈍い痛みに耐えながら、シェリーに何度もやっていれば流石に慣れてくる。とだけ返した。

 

 

「 えー?これって慣れの問題なんですかねー?? 」

 

 

実際、慣れの問題では無いだろう。貴方の目の前で、貴方の胸に顔を埋めているこの橘シェリーという少女は()()の魔法を使える事が出来る。この怪力の魔法、下手をすれば人一人は余裕で殺せてしまうというとんでもない性能をしている。林檎を素手で一瞬でジュースにしてしまう事だって出来るし、壁や木なんて物もすぐに破壊する事が出来る。正にデストロイヤーみたいな力だが、そんなものを生身で受ければ貴方()()は全員、一瞬にして塵芥である。

 

それを慣れの問題で片してしまうのは少し無理があるだろう。貴方はそう考えたが、今の所はそうとでしか説明が付かないので、とりあえずそういう事にしとこうと心で決めたのであった。

 

 

─── それはそうと貴方はなんでシェリーが此処に居るのかが気になった為、なんとなく世間話の一環でそれを聞いてみる事にした。

 

 

「 私ですかー?特にこれといった理由は無いんですけど…強いて言うなら、○○さんに会いたかったから!!ですかね! 」

 

 

まぁ…彼女らしいと言えばそうだと貴方はシェリーの答えに納得する。シェリーはその快活そうな雰囲気から分かる通り、自分の興味のある事にはガンガン首を突っ込む性格をしている。何事にも興味津々な彼女が友達を見かけて自分から話しかけないなんて事は無いのかもしれない。

 

特に最近のシェリーは貴方に良く引っ付く様になっていた。今までは貴方以外にも牢屋敷内で友達は多く居る。もちろん、現在でも彼女との交友関係は続いてるのだろうが、それでも確実に貴方と過ごす時間が多くなっているのだ。

 

貴方がふとそんな事を疑問に思ってると、『あのー!』と貴方の胸辺りから声が聞こえて来た。シェリーからだ。

 

 

「 ○○さーん??私ー、いつもの()()がないとここから離れませんからねー!! 」

 

 

と、まるで子供の様に何かを催促してくる。それを聞いて貴方は心当たりがあったのか、思わず肩をびくっと震わしてしまう。またあれやるの??と貴方が思わずシェリーに聞き返してしまう。

 

 

「 えー?当然じゃないですかー!!でも私は全然、このまま○○さんとハグしたままでも良いんですけどねっ!! ○○さんの身体に包まれると、何だか安心して心がぽかぽかして来ますので!! 」

 

 

ぎりぎり、と腕の力を強めてくるシェリー。このまま彼女のされるがままに抱きしめられ続けると確実に怪力の魔法によって貴方の身体がたちまちボロボロになるのは目に見えている。半ば、脅迫の様に自身の力を使いこなして願望を叶えようとしてくるシェリーに貴方は根負けする他無かった。

 

…少なくとも、彼女に骨と身体をまとめて捩じ切られるよりかはマシだろう。

 

貴方はわかった、わかったとシェリーの催促を了承する。シェリーはたちまち笑顔になり、少しだけ腕の力を弱めてくれる。『わーい!!』と少女ながらに喜ぶ姿に貴方は少しだけ微笑ましくなる。貴方は意を決し、深呼吸を一つ挟むとシェリーに向けてある()()を送った。

 

 

─── 『シェリーちゃん。いつも可愛いね。大好き!凄いね!偉いね!天才!』

 

 

貴方の口から出たのは嵐の様なシェリーに対する褒め言葉。だが当のシェリーは何だか少し照れ臭くなった様な表情を見せるが、満足げに彼女は笑顔になってみせた。

 

 

「…えへへっ、こうして改まって言われると、何だか照れますね…」 

 

 

貴方はそう言いながら笑う彼女を見ては、本当にこの子が怪力の魔法を使えるのか?と疑問に思えてしまう。当然、彼女は紛れもなく魔法を使える。それはさっきの一連の行動で証明が付いている。

 

けれど、その証明があっても尚。ただ一人の少女として生きている彼女を世の中では怪物と呼ぶ者も居るらしい。人間じゃない。心の壊れている化け物…などなど彼女が魔法を自覚した時にはそんな罵詈雑言に溢れていたらしい。

 

───貴方は少なくとも、彼女を化け物とは思っていなかった。思える筈が無かったのだ。何故、彼女が化け物だと言われ、虐げられなければいけないのか。貴方は甚だ疑問だった。

 

貴方が少しその様な思考に意識を引っ張られているとギリギリ、とシェリーの貴方を抱き締める力が強くなる事で意識が現実へと引っ張られる。少しずつだが鈍く長く続く痛みが貴方の身体を包み込み、貴方はシェリーに少し苦しそうにしながらもうそろそろ限界だ、と少し苦しそうにしながらそう言った。

 

 

「 ──! すみませんっ!つい力が強くなってしまって…。今放しますね!! 」

 

 

シェリーも貴方の胸の中で何かを考えていたのだろうか。シェリーははっとした表情になり、即座に貴方を解放する。微弱な鈍痛から解放された貴方は乱れた呼吸を整える。

 

息を整え、先ほどの調子を取り戻した貴方。するとシェリーが頃合いを見たのか貴方に向かって、疑問を投げかけて来る。

 

 

「…ところで、○○さんはこんな所で一体何をしていたんですか?朝食の時はえらくレイアさんとヒロさんに板挟みにされてた様子だったのですが…」

 

 

どうやらシェリーにも食堂での一連の事件は見られていたらしい。貴方は取り繕う様に、あれは単なる事故だったんだと説明した。実際、貴方もあの時は何が何だったのかさっぱり分からなかったので、そう説明する他無かった。視線誘導の魔法を発動されて視線を固定された挙句、美少女二人に迫られる現場を見られているのだ。下手に大嘘こいて博打をしようものなら木っ端微塵にされる事だろう。

 

 

「…それは事故でも酷いですねっ!!シェリーちゃんの助手さんに何て事するんですか!ぷんぷんっ!! 」

 

 

シェリーは擬音を使い、頬を少し膨らませながら露骨に怒りの態度を取る。いつのまにか貴方はシェリーの助手になっていたのはさておき、貴方はシェリーがとりあえず納得してくれた事に安堵する。

 

───が、貴方が安心するにはまだ少しだけ早かった。

 

 

 

「…○○さんが嫌なら、私が今すぐにでも二人とも成敗してきます!!! シェリーちゃんの助手は誰にも渡しませんっ! 」

 

 

 

待て待て待て待て待て待て待て──!!! と貴方は今すぐにでもそれを実行してしまいそうなシェリーを即座に且つ必死に止める。シェリーは『何でですかー』と少し不満気だが貴方はそれだけは絶対に辞めてくれと懇願する。

 

シェリーはシンプルだが強力極まりない怪力の魔法を幼いながらに持っている分、力の加減というものがいかんせん分からない。幼い頃よりかは力の制御が多少なりとも出来る様にはなっているものの、それでもまだ何処かで0か100かといった極端過ぎる所もある。

 

つまり彼女がこのままヒロやレイアの元へ行ってしまったらどうなるか。間違いなく平和だった牢屋敷が血に塗れてしまう事は確定だろう。彼女では加減したつもりが、それが超弩級の大砲として普通の人間に襲いかかって来るのだから末恐ろしいばかりだ。

 

 

「 …むー、分かりましたよー。○○さんがそこまで言うならー…」

 

 

と、貴方の必死の説得の結果。シェリーはなんとかその矛を納めてくれた様だ。しかし依然としてシェリーの表情は何処か不満気である。貴方はそうだ、と折角シェリーと会ったのなら、どうせなら一緒に少し歩かないかと誘ってみる。

 

ここで会ったのも何かの縁。一人でただ何も考えずに歩くよりも、誰かと一緒に歩いていった方がなんてことのない光景にも色が付く筈だ。何より、このまま友達が不満そうにしているのも良くない。彼女の不満を直す為に自分に出来る事があるとしたら、きっとこういう事だろうと貴方が思い立った結果であった。

 

 

「 え!?良いんですか!!?? 」

 

 

貴方の勧誘にシェリーは勢いよく身を乗り出した。貴方はシェリーのその勢いの良さに若干、気圧されつつも貴方は快くシェリーを誘ってみせた。するとシェリーの先程までの不満そうな顔は何処へやら、その顔はとても笑顔に満ちており、よほど貴方の誘いが嬉しかったと見える。

 

 

「 では、今から名探偵シェリーちゃんと優秀な助手さんは不可思議なこの牢屋敷の謎を一緒に解き明かすんですね!?!? 」

 

 

──確かにそういうのも悪く無い。と貴方は思った。シェリーはミステリージャンルの物語や小説を好む節がある。牢屋敷に来る前にありったけのミステリーを読破して来たからなのか、少々言い回しが探偵チックになる所があるし、なんだったら殺人事件に対しても興味津々な所もある。そんな彼女に貴方は付き従っている内にいつしか彼女は貴方の事を助手と呼ぶ様になって来た。

 

それからだろうか。彼女と一緒にいる時間がいつのまにか多くなっていたのは。

 

 

「ふふーん!○○さんならそう言ってくれると思いました!!!なんせ、○○さんはこの名探偵シェリーちゃんの優秀な()()()()ですから!! 」

 

 

目をキラキラさせながらそう語るシェリーに貴方は同調する。牢屋敷の敷地内は古風だが馬鹿みたいに広い。聞けばここは800年以上前からある魔女のお屋敷らしく魔女候補たちが集められる以前は魔女たちが仲良く暮らしていたという。

 

貴方はオカルトに興味は無いが、そんな伝説が本当にあるとするのならば一度ぐらいはその真相に辿り着きたいと思っている。それは何も自分たちが此処から脱出する為の糸口を掴む、だなんて大層な事ではなく単純に自身の好奇心。知的好奇心が興味を刺激しているだけである。この曰く付きの牢屋敷を調べれば、一つぐらい何か人智を超えるものが出て来てたっておかしくは無いだろう。

 

 

「そうと決まったら、早速ここら辺一帯を回ってみましょうよ!!!!今なら看守の目も無いですし!私たちで牢屋敷から脱出する手立てがあるかもしれませんよ!! 」

 

と言いながらシェリーは貴方の手を取った。先程とは違う、確かな少女の温もりに貴方の口角は上がる。こうなったら、とことん探してやろう。と貴方は心の中で渦巻いている少年心に火が付いたのか、シェリーのその提案に乗り気でいた。

 

 

 

 

 

───それからと言うもの、貴方とシェリーは花畑を目指しつつ牢屋敷の外を巡った。

 

シェリーにとっては何も変わらない、何の変哲もない景色だ。だがそこに貴方という新しい色が加われば、景色はまた真新しくなり、空の枠にピースが当てはまるかの様にシェリーから見たその景色は完全な物となる。

 

自然に溢れるその森の中を貴方とシェリーが確かな足跡をそこに刻み込む。シェリーが少しでも新しい物を、微細の環境の変化を見つけるとすぐさま貴方を呼んでは自分の見つけた物を貴方に見せる。

 

 

「 ○○さん!!凄いの見つけちゃいました!!! 」

「 名探偵シェリーちゃんの手にかかれば、こんなものちょちょいのちょいですよ!!! 」

「 わー…。こんな所、初めて見ました!!!流石は○○さんですね!! 」

 

 

貴方と一緒にいると、新しいものがまるで滝水の様に湧いてくる。生い茂った木々の中を抜けると、そこにはまだ誰にも知られてないだろう見晴らしの良い丘があっから小さな洞穴らしき物まで。全てがシェリーにとっては新しく見るものだ。

 

 

───それは、ミステリーというよりかは冒険に近いかもしれない。なんて事の無い、稚児のする様なごっこ遊びなのかもしれない。けれどもシェリーはそれで良かった。まるで子供の様に笑い、探検に夢中になっている貴方の眩しい笑顔を見るとその笑顔を見るだけでも、シェリーの冷え切ってしまった心に篝火が灯った様なそんな感覚さえ覚える事が出来た。

 

 

貴方の顔が、貴方の行動が、シェリーにとっては全て眩しく思えた。ただひたむきに、自分の心のままに生きる事を最後まで諦めるつもりのない貴方はシェリーにとっていつのまにか特別な存在になっていた。冷え切り、暴力や罵詈雑言を吐かれても動じない鉄の心となったシェリーの心を緩く溶かす様に、貴方の言葉が、貴方に時折感じる温もりが彼女の心を温めて行く。

 

…そんな貴方の温もりをひしひしと感じているシェリーだったが、一つ貴方にある()()()をしてみた。

 

 

 

 

「 ○○さーん…ちょっとだけで良いんで、おんぶしてくれませんー?名探偵シェリーちゃんはもうへとへとです〜… 」

 

 

いつもの調子で、されど少しだけ、本当に少しだけ疲れた素振りを見せながら貴方にそう頼んでみる。別に本当に疲れている訳ではない。本当ならまだまだ動けるし、何なら貴方よりシェリーの方が圧倒的に体力が多い。それならどうして貴方におんぶを頼んだのか。それは彼女でさえも知り得ない心の奥底で育っている()()の感情によるものだった。

 

───その嫉妬の感情は、彼女が食堂で貴方を見かけた時から既にそれはあった。

 

 

 

貴方は唐突のシェリーのお願いに本当は疲れてないのでは…?という邪推が入りつつも、女の子のお願いを無碍にする事は出来ない。という無駄な貴方の紳士マインドがその邪推をぶっ飛ばし、少しだけ疑念はあるものの彼女のお願いを受け入れる事にした。

 

貴方はその場にしゃがみ込んで彼女を受け入れる準備をする。貴方がシェリーに早く乗れ、と催促するとシェリーはそれに応じて貴方の背中に乗り込んで行く。

 

 

「 へー…!助手さんって意外と背が大きかったんですね!!!見える景色が全然違いますっ!! 」

 

 

意外とはなんだ意外とは。と、貴方は反応しそうになるがそこはなんとか抑え込む。貴方自身もシェリーをおんぶした際に意外と軽いな…なんて事を瞬間的に思ってしまった為にそこはお互い様である。多分。

 

貴方はシェリーをおぶってまた森の中を進み始めた。暫く歩いたおかげか森を抜けれそうな道はもう既にあり、貴方はその道を辿って進み始めて行く。

 

 

一方でシェリーは自身の身体全体に感じる貴方の人の温もりを感じていた。女性の身体とは違う。筋肉があり、しっかりとした男性の身体は何処か懐かしい様で暖かい。それはシェリーが今まで感じた事の無かった感覚の一つだった。

 

 

「…なんだか、不思議な気持ちになりますねっ、これ…」

 

 

まるで心が浮つく様な。心の底から力が自然と抜けて行く様な。或いはそのどれもが当てはまらない様な。そんな不思議で奇妙な感覚がシェリーを襲う。その感覚はまさに名探偵であるシェリーでさえも、解明するのに手こずる()()であった。

 

 

「…もしかして○○さんって、人を安心させる体温や匂いを発せられる魔法とか持ってたりします?? 」

 

 

そんなものは持っていない。というか、そんな魔法は多分無いだろう。と貴方がやんわり否定する。であれば、この感情の正体は何なのだろうかとシェリーは心の中で思った。

 

───食堂で、貴方と会った時。シェリーはいの一番に貴方に駆け寄ろうとした。いつもならそれで貴方の隣に座って、相変わらずおいしくない朝食を取る。それだけの筈だった。けれどシェリーは見てしまった。

 

貴方が彼女以外の女性と腕を組んで歩いていて、そして彼女以外の女性にあっさり迫られてしまう。そんな景色を目の当たりにして、シェリーは貴方に向かう筈の足がいつのまにか止まってしまっていた。

 

その時だった。不意に、彼女の心にちくりと棘の様なものが刺さったのは。普段の彼女にとってはそんな棘なんて気にする価値の無い、些末な物。取ろうとしなくても、時間が経てば勝手に取れるものだと思っていた。

 

 

(…なんなんですかね、()()は…)

 

 

けれどもその棘は取れる事は無かった。その棘は次第に貴方がシェリー以外の女性を見てる。貴方がシェリー以外の女性と話している。ただそれだけの事実が、鉄の心になった筈のシェリーの心を締め付けるものと変容した。貴方が何処かへ行ってしまうのかもしれない。貴方がもうシェリーとは仲良くしてくれないのかもしれない。…そんな想像がシェリーの頭の中から離れなくなる。そんな想像をしてしまう度に、緩く締め上げるかの様に彼女の鉄の心に刺さった棘が荊となって感情なんてとうに捨てたはずの彼女の心に巻き付く様になる。

 

そして…彼女の心に巣食う小さな荊は、やがてその姿を小さな衝動へと変えてシェリー本人に襲いかかる。それは貴方を独占したい。貴方を自分の物にしてしまいたいという彼女の中に生まれた()()()だった。それは言い換えれば、寂しさとも置きかえれるだろうか。

 

シェリーは貴方の身体に身を預ける中で、今まで感じなかった。感じようの無かった感情が沸々と湧いてる事を自覚した。それが何だったのかは分からない。分かり様が無い。その正体不明の純情を前にシェリーはただ貴方の体温を確かめる事しか出来なかった。

 

───けれども、シェリーは貴方におぶられている中で一つ。かつて前に読んだあるミステリー小説の一節が不意に彼女の脳裏を唐突に掠めた。

 

(確か…自分の大切な人には、もう何処にも行かない様にって…印を付けるのでしたよね。それもうなじの部分に…)

 

シェリーの視線が貴方に向かう。いや、正確には貴方の首筋。うなじの部分である。血色の良い、薄茶色の貴方の首筋は傷一つ無く綺麗にそこにある。シェリーがその首筋を視界に入れた時、彼女の中にあった寂しさが小さい牙となって貴方にそれは向けられる。

 

 

「…すみません。○○さん。 」

 

 

 

不意にシェリーの声が貴方の鼓膜を揺らす。だがその声はシェリーにしては弱々しく消え入りそうな声だ。貴方は横目でシェリーの顔を見ると、その顔は何処か紅潮しており、普段のシェリーとは想像が付かない程にその表情は弱々しい物になっていた。

 

貴方は具合が悪いのか、とシェリーに聞く。だがシェリーはやんわりと首を横に振る。どうやら貴方の推測は外れたらしく、貴方は若干バツが悪そうな顔をしてじゃあどうしたんだ?とシェリーに聞いてみる。すると貴方のその質問に返って来たのは、それに対する返答───ではなかった。

 

 

「 ちょっとだけ、痛くしちゃうかもしれませんっ。 」

 

 

 

───ん?と貴方は呆気に取られた。だが時は既に遅かった。直後、貴方の首筋辺りに鋭い痛みが迸る。感じた事の無い痛み、蚊に刺された感覚とにている様だがそれとはまた違う、別の種類の痛みが貴方を襲う。

 

その痛みで貴方は何が起こったのか理解出来ず、体勢を崩しそうになる。けれど貴方は死ぬ気で踏ん張った。じんじんと痛む首筋が貴方の踏ん張りを邪魔しそうになるが、なんとか貴方は持ち直した。

 

何が起こったのか、貴方は分からなかった。だが貴方がシェリーの方を向いてみるとシェリーは先程の弱々しい乙女の顔ではなく、満足そうな、まるでしてやったぞと言わんばかりの自信に溢れた表情をしていた。

 

 

貴方は自分の身に何が起こったのだろうか、と少し不安になっていた。シェリーのその満足げな顔と良い、不意に貴方の身に降りかかった唐突な痛み。絶対、良くない事が今起こったかもしれない。と、貴方は直感する。

 

どう確認しようと貴方が迷っていた時、丁度近くに小池があるのを見つける。貴方はシェリーをおんぶしたまま、その小池に向かって自身の顔を見た。

 

───すると、貴方は見つけた。否、見つけてしまったのだ。

 

貴方の首筋辺り、丁度シェリーの顔が乗っかる部分に()()()()()()()()()赤黒く腫れているシェリーが付けた()を。

 

あ、終わったわこれ。

 

 

 

「…えへへっ。こうして見て見ると、恥ずかしいですねっ…」

 

 

 

貴方は血の気が引く感覚がした。首筋の痛みもいつのまにか引いてはいるものの、貴方の牢屋敷生活の難易度が爆上がりした事が今確定しまった事に貴方は内心で大きな焦りが生まれつつあった。顔に冷や汗を掻きつつ、貴方はシェ、シェリーさん...?と恐る恐るその首筋につけられた印について聞いて見る。

 

…もはや、聞くまでも無い事だが。

 

 

「 ごめんなさい、○○さん…。けど、○○さんがこの先シェリーちゃんとずっと一緒に居る為には、こうするしか無かったんです。 」

 

 

と、シェリーは語った。シェリーの言葉に貴方は咄嗟に返そうとはしたが、返す言葉が見つからない。貴方は突如訪れたその出来事にただ狼狽することしか出来なかった。

 

 

「 でもこれで!!!!○○さんは晴れて、本当に名探偵シェリーちゃんの助手さんであり、相棒になりました!!って事で良いんですよねっ!! 」

 

 

シェリーは無意識に貴方を離さぬ様にと背中を抱きしめる。きっと貴方は目覚めさせてはならない彼女の中にある何かを目覚めさせてしまったのかもしれない。だが据え膳食わぬは男の恥。貴方も立派な男であり、紳士(自称)だ。シェリーに付けられたこの印が、愛情によるものなら貴方もそれを全力で受け止めねばなるまい。

 

貴方はシェリーのその言葉に同調しながら、ゆっくりとその小池を離れては森を抜けようと歩きます。苦難も、女難も上等である。貴方は改めて、貴方の死体がぐちゃぐちゃになるバッドエンドを全力で回避すべく、紳士として生きて行くことを改めて誓ったのであった。

 

 

 

 

「 …だから 、もう私から離れないでくださいね…○○さん…。 」

 

 

 

 




キャラクター紹介なり。

貴方(紳士)
やっちまったぜ。な今回の被害者。基本この小説ではこいつがこんな目にしか遭わないので、可哀想な奴である。ちなみにこいつがマーゴの占いとか受けると決まって女難関連の物しか出ない。なんでかなあ•••?(すっとぼけ) ちなみにこいつの過去編とか色々書きたいんだけど、需要•••ある???

橘シェリー(牽制型ヤンデレ)
言わずとしれた光のサイコパス。友達の為なら心中も厭わないという光っぷりが本作では愛の方に覚醒してしまった、愛の戦士一号。好きな人という概念を理解した途端、恋愛テクニックなんて今までしたことないのでとりあえず自分の物にしたいという願望を叶えようとする鈍感恋愛強者。二階堂ヒロがモンハンのアイルーだとすれば、シェリーはモンハンの魔改造ガルクだと思っている。まっ、これも純愛だな!(感覚麻痺)


ちなみに二次創作の日間ランキングで7位にランクインしてました。いやー、皆やっぱこういうのが好きなんスね•••。コメント返信とかも徐々に始めて行くんで!よろしくオナシャス!!いつもコメントとお気に入り登録あざーすっ(ガシッ




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