ヤンデレ魔法少女13人から逃げ切れないと死ぬゲーム。   作:クロウト

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過去からの引き金

 

 

 

─── ズキン。ズキン。ズキン。

 

 

貴方の身体の内に蠢く痛みがミミズの様に身体中を這いずり回る不快な感覚がのしかかる。貴方はその痛みに耐え、冷や汗を流しながら森の中を歩いていた。

 

だが一歩、踏み出す度に体重をかけた足の方から無数の古傷の過去の鈍い痛みが貴方の足を重くさせ、なまじ頑丈である貴方の身体でも迫り来る痛みには流石に堪える。

 

貴方はその痛みに顔をくしゃり、と歪ませながら夕焼けに包まれた森の道に敷かれた帰路を進んでいく。急がなければ自由時間の終わりに間に合わず、遅く帰った事で看守に見つかりでもすれば、懲罰房行きだ。

 

痛みで、足が止まりそうになるも、貴方は拳を握り締めて、太腿を全力で殴り付ける。現状、貴方には痛みを和らげる手段が無かった為、こうでもして足を踏み出さなければ歩けなかった。

 

─── この貴方の全身に襲いかかっている痛みは貴方がこれまで負って来た傷による痛みだ。

 

腹に思い切り重傷を喰らったり、過去の牢屋敷の囚人か魔女の影響で生まれた悍ましい化け物との絶え間ない死闘の連続で、貴方の身体はとっくに常人が許容できる痛みの範疇を超過していた。

 

戦闘の最中はその痛みを理解し、苦しむ暇すら無いのと貴方の中に刻まれた()()が一時的に貴方の負った傷によって生じる痛みと悪化を防いでいた為に貴方の身体は痛みを痛みとして受容するのをいつしか拒絶する様になった。

 

貴方の身体に襲いかかっているその遅効性の猛毒の様な痛みは、貴方の身体に刻まれた呪いと傷を負った身体で無理矢理動き過ぎた()()である。

 

貴方は既にこの感覚を幼少の頃から幾重にも経験して来た。だが、この溜まりに溜まった膿が一気に身体の内から爆発する様なこの感覚には未だ慣れないでいた。

 

しかし、この感覚はそう長くは続かない。痛みの蓄積によって貴方に叩きつけられたツケは時間経過ですぐにでも痛みが引く一過性の物に過ぎない。だから暫く耐えれば、貴方の身体の中に蠢いている膿は取れる筈だ。

 

 

貴方はその痛みが抜け落ちる時まで、必死に歩き続ける。ちなみに先程まで、貴方と共に過ごしていたシェリーとハンナには先に帰る様に貴方から促した。

 

何故なら貴方は自分で選択し、自分で負ったこの痛みに他人を巻き込む必要はないからだと考えたらからだ。こんな痛みに悶え、苦しんでいる自分を見られでもしたら、きっと失望されてしまうだろうから、と貴方は一人で踠く道を選んだ。

 

 

─── 貴方にとって、少しでも、こんな風に情けなくて惨めな自分にとってカッコ悪い姿は友達には見せたくないのである。

 

 

 

貴方は早く引いてくれないか、と自身の内に蠢く痛みに悪態を吐き、舌打ちを一つ打ちながら終わりが見えない様な森の道を進み続ける。

 

いつもならぱっと移動し終える事ができるのに、こんな時に限ってのろのろ、と亀の様にしか移動出来ない自分を貴方は怨めしく思った頃。

 

 

貴方がいつまでも変わらない森の道を険しい表情を見せながら、歩いていると•••貴方の右手側にある森の茂みから、がさがさと()()()()()()()がした。

 

音の大きさからして、小動物や虫の類ではない。恐らく人か、人の大きさぐらいに匹敵する程の動物か。実際、この森にはそういった人ではない野良のなれはてと呼ばれる存在も居るし、貴方もそいいった存在と格闘した経験を持つ。

 

 

貴方は最悪のタイミングで来たな、と呟きながら静かに痛みを堪えながら、拳を握り締める。

 

痛みで感覚が鈍っている中での戦闘は余りにも危険極まりない行為だ。けれども貴方の身体の動きを鈍らせるほどの重い痛みの中で逃走を計れるかといったら難しいだろう。ならば、迎え撃つ他に貴方が取れる方法は無い。

 

迎え撃って、短期で仕留める。一瞬の動作なら痛みに耐えて拳の一撃、二撃を相手に打ち込むことぐらいは可能だろう。と、貴方は痛みで回ってない頭の中で必死に戦闘のロジックを組み立てる。

 

 

──── そうして、貴方が考え込んでいると、茂みの中に鳴り響く音がどんどんと大きくなっている。速度を上げ、此方に近付いている証拠だ。

 

夕焼けによって生まれた陽炎でうまく視界が確保出来ないが、それが凶暴性を持つなれはてなのならば貴方は戦うしかないだろう。と覚悟を決める。

 

敵か、味方かもわからない状態のまま、貴方は痛みに苛まれる中で緊迫した空気感を覚え、貴方の顔からは冷や汗が垂れて来る。

 

 

 

─── ズキン。ズキン。ズキンッ!!!!

 

 

茂みの中から何者かが迫り来る音と共に、貴方の中に蠢く痛みもまた大きくなり、残響する。まるで夏に鬱陶しく鳴り叫ぶ蝉の様に、貴方の身体にある痛みは泥の様にそこに纏わりついていた。

 

 

 

そして、貴方が茂みの中に注目していたその瞬間。前方から茂みから一つの影が勢い良く飛び出して来る。

 

貴方が反射で思わず両腕を眼前へと持っていき戦闘の構えを取る───。が、貴方の目の前に飛び込んで来たその影の正体は、貴方の想像していた様な敵…ではなかった。

 

 

 

「…!○○…?どうして、こんな所に…?」

 

 

困惑しながら貴方の名前を呼ぶ、その影の正体は一人の少女であり、貴方の友達でもあった。

 

陽炎で姿は見えにくくなっているものの、貴方はその少女の輪郭をはっきりと認識する事が出来る。

 

黒髪のツインテールに灰色の瞳、ゴーグル付きの帽子を被り、片腕に白い包帯を巻き付け、黒を基調としたダークな服装をしており、背中には少女の背丈程の銃が背負われている。その少女の名は()()()()()。魔女候補としてここに連れてこられた一人である。

 

貴方はナノカの姿を認識し、思わず構えていた拳を下げる。依然として貴方の中に渦巻いている痛みは消えないので、なるべく自分が痛がっている素振りを見せぬ様に取り繕う。

 

そして貴方はナノカの問いに少しだけ笑いながら、少し辺りを散歩していただけだと伝えると貴方は逆に、ナノカこそ何をしていたんだと聞き返す。

 

 

「…私は変わらず、牢屋敷の探索をしていたわ。けれど、こんなところで貴方と会えるなんて思わなかったわ。」

 

 

言葉こそ淡白であるが、ナノカの表情は柔らかく普段の彼女を知っている貴方からしてみればナノカの柔らかな表情は珍しかった。それだけ彼女にとって、貴方との遭遇は「嬉しい誤算」だったのだろう。彼女の方も、クールビューティな雰囲気を保とうとしているが、貴方が身体に襲いかかっている痛みで気付かなかったが、彼女からは清涼とした雰囲気の内に潜む「嬉しさ」が隠しきれてなかった。

 

 

貴方は彼女の言葉に、微笑ましく思った。彼女の言葉とその反応が出会った最初の頃よりかは自分の事を大きく信用してくれてるのかなと考えつつも、貴方は必死に自身の中に蠢く激痛をなんとかして彼女にバレない様にしないとも考えながら取り繕った笑顔を彼女に見せる。

 

─── と、そんな時。貴方がナノカの方を見てると、ふと、彼女の頭に数枚の木の葉が乗っかっている事に気付く。

 

恐らく、茂みの中を移動してる時に変に纏わりついてしまったのだろう。貴方はそんな事を思いながら、片手でナノカに向けて手招きをして、こっちに来る様にと軽く促す。

 

 

「 …?どうしたのかしら。」

 

 

ナノカはそんな貴方の手招きに応じて此方に近付いて来る。不思議そうな顔をしながら近付いて来る彼女の姿にはいつものクールな雰囲気は感じられず、本当に何処にでもいる様な少女の様だった。

 

貴方は近付いてきたナノカに、頭に木の葉が付いてる事を指摘する。そして貴方はナノカの頭の上へと軽く腕を伸ばしてナノカの被っている帽子を取らない様に優しく撫でる様に触れる。

 

 

「っ…?!貴方、一体何をっ…」

 

 

突然の事にナノカは驚いた様な表情を浮かべるが、貴方は気にせずに木の葉を丁寧に取っていく。しかし、この間にも貴方の中にはまだ激痛が疼いているが、先程と比べたらまだ耐えれる痛さなので、貴方はなんとか表情を保ちながらナノカに接する。

 

 

一方で、ナノカは貴方に頭に引っ付いていた木の葉を取ってくれている間。頭から直に感じる貴方の手の感触がとても暖かく、牢屋敷に入れられてから緊迫し続けていた自身の心を緩やかに癒してくれる様な感覚を覚えていた。

 

ナノカは貴方の事を完全に自身の背中を預けるのに値する唯一の人物でありながら、自分の命を救ってくれた命の恩人でもあった。クールな雰囲気を放っているが何処か抜けている所があり、いつも孤独を選ぼうとしていたナノカを何かと気にかけてはナノカの無くしものを夜が更けても一緒に探し続けてくれた。

 

─── 貴方のその行動やナノカの接し方は、昔、この牢屋敷に入れられていたというナノカの姉のそれを彷彿とさせる物だった。ナノカがそれを認識してから、彼女は徐々に貴方と接している内にいつしか貴方と姉を重なる様になっていった。

 

孤独を選び、他人を突き放そうとするナノカと対照的に誰かと一緒に抗う事を選び、他人の意志を受け入れ尊重しようとする貴方のそのひたむきさは確実にナノカの中に秘めてある【本性】が本人の知らないところで引き摺り出しつつあるのだ。

 

 

ナノカは貴方に撫でられながら、顔を俯きながら、顔を紅く染める。髪を硝子の様に繊細な物として扱う貴方の手の感触は、とても心地良いものであると同時に貴方に全幅の信頼と好意を寄せている少女にとって貴方の手は劇薬でもあった。

 

 

(……暖かい。)

 

 

それはかつてナノカが忘れていた姉の温もりと酷似していた。大好きだった、大切だった、かけがえのない家族だった姉の暖かさが、姉の笑顔が、貴方の手を通じてかつての追憶がナノカの脳裏を掠める。

 

きっとどれだけ心を鬼にしても、どれだけ孤独を選ぼうとも、人は寂しさには慣れない性なのだろう。ナノカの様に表面上は冷たい心を持ち、孤高に強かに理不尽に立ち向かおうとする人の中には、抑えきれない程の寂しさの棘が、荊の様に潜んでいるのだ。

 

 

─── そして、ナノカは脳裏に姉の幻影を見たのか、ふと自身も把握してない意識外の中で、ぽつりと言葉を呟いてしまう。

 

 

 

 

「お姉ちゃん…」

 

 

貴方はナノカのぽつりと溢したその言葉を聞き逃せなかった。ナノカのその声は寂しそうで、泣いてこそはいないものの、その一言だけで彼女の背負っている大きい悲しみの断片が感じ取れる。

 

ナノカはすぐに自分が言ってしまった言葉に気が付き、ばっと顔をあげて貴方の方へと向き直る。その様子は少し焦燥が入っている様だった。

 

 

「 あっ…こ、これは、違う…の。今のは忘れて──ッ。」

 

 

ナノカは珍しくあからさまに動揺している様子だった。それほど自分の口から出た言葉が信じられなかったのだろうか。ただ、貴方はそれに猜疑心を抱く筈もなく寧ろこれが少女のあって然るべき姿なのではないかと思った。

 

貴方はそう思いながら、狼狽しながらも取り繕おうとしているナノカに『大丈夫だ』と一言だけ投げかける。今ここには貴方とナノカ以外、誰もいないし、来る気配もない。きっと今頃は外出禁止時間に間に合う様に牢屋敷に向かって帰ってるだろう。だからナノカのこの姿を見る者は、貴方以外にいないし、貴方はそれを口外するつもりもない。

 

故に、貴方はナノカに敢えて本来の自分を出す様に軽く促しながら、木の葉が取れた筈のナノカの頭に触れる。それはいつも張り詰めてるのでは、心が持たないのではないかという貴方なりの配慮でもあった。

 

 

「っ…」

 

 

ナノカは貴方の言葉を聞くと、途端に押し黙ったかの様な素振りを見せる。先程までの狼狽していた様子も無く、ただ貴方の言葉がナノカの心に届いたかと言われれば、ナノカの表情が見えない貴方にはその推測もままならない。

 

貴方はその静寂にひょっとして、何かまずい事でも言ったのではないかと不安になりつつなっているが、どうやらそういう事でも無いらしい。

 

 

 

「…本当に、いつも貴方に助けられてばかりね。私は…」

 

 

 

と、静寂に包まれていたナノカが言葉を切り出す。ナノカのその言葉はどこか自虐を帯びている様にも見え、ナノカの過去を唯一知っている貴方にとって、その言葉の重みは理解しているつもりだった。

 

故に貴方はナノカのその言葉に、『そんな事はない』とキッパリ言い返す。ナノカは貴方の言葉にぴくり、と僅かに身体を震わせるが、それでも貴方はナノカに対しての虚偽の一片すらない思いの丈をぶつける。

 

実際、貴方もこの牢屋敷という訳のわからない所に放り込まれてからナノカに助けられた場面は多く存在する。触れた者や、対象の思いが籠った物に触れると、その物に関連する過去や未来が見える【幻視】の魔法を持っているナノカはこの牢屋敷に集められた時、即座に牢屋敷の情報をその魔法で読み取って、牢屋敷の情報を事前に把握していたという。

 

そんな思い切った彼女の行動のおかげで、牢屋敷の事も、何も知らなかった貴方も彼女と行動を共にする事で自ずと牢屋敷という場所について理解も深められたし、危険な罠や過去の囚人が遺した魔法についても対処する事が出来た。

 

貴方はナノカに、『助けられてるのは自分も同じ。ならお互い様だ』と笑いながら彼女に向かって語りかける。

 

 

 

「…それでも、私が貴方に救われ続けたのは変わりないわ。」

 

 

 

その時。ナノカの脳裏に過ぎるのは、自身を庇い、傷まみれの姿になりながらも必死に最後まで抗い守る事を諦めなかった貴方の姿だった。

 

ナノカの記憶の中の貴方はいつも傷付いて、誰かを助ける為なら自分の事を勘定に入れない自己犠牲の塊でしかなかった。その貴方の姿勢は、貴方の一挙手一投足の全てが、ナノカのかつての姉を思い出させ、傷が治った貴方の姿を見ても、その想起は消える事はなく、ナノカの心に残留し続ける。

 

 

 

 

──── 私は、お姉ちゃんだから。

 

 

忘れる事の無い、大好きだったお姉ちゃんの言葉がナノカの心に同時に強く残響する。ずっと自分の側に居てくれて、恐怖で震えた自分を見ても、ナノカの為ならと身代わりになってしまった病的なまでの優しさを持つお姉ちゃんの、もう聞く事すら出来ない言葉が、強く、強く、心に鳴り響く。

 

今度は、守りたかった。お姉ちゃんをこんな目に遭わせた悪者を、全部、全部倒してやりたかった。そう決めて、ナノカは牢屋敷(ここ)に来た筈なのに。そこに来ても、貴方という存在に、守られてばかりだった。その光景が、ナノカの脳裏に鮮明に蘇る。

 

 

 

 

 

───『もう、私を庇わないでっ…守らないでよぉっ…!!!お願いだから、離れてよぉっ…!!』

 

 

傷付く貴方に守られながら、記憶の中のナノカは呪詛にも思える言葉を子供の様に泣きながら貴方に訴える。けれども貴方は動かない。ナノカの言葉に応じない。

 

それどころか自身を傷付けている化け物に向かって、特攻を仕掛けようと足を踏み出す。貴方は足を踏み出しながら、ナノカに向かって『絶対に離れない』と叫びながら目の前の敵に向かって歩き続ける。

 

 

────『っ…!! なんでっ…どうしてっ…!!!そうやって、また勝手に私のことを守るのよぉっ…!!!私がそんな事っ、いつ頼んだのよっ…』

 

 

悲痛な叫びがこだまする。また自分のせいで、無力な自分を守って誰かが死んでしまう。勝手に守って、勝手に庇って、勝手に死んでいく。そんな過去のトラウマがナノカを包み始める。

 

絶望が、恐怖が、憎悪が、悪意が、ナノカの経験した全ての悪意が形をなして、彼女の魂の中に潜む魔女の因子が胎動を始める。ぽろぽろと、涙を流しながら苦しむ彼女の顔にはもう孤独を選び続けた孤高の狙撃手としての顔は無く、そこにあるのはただ自分の無力に苦しみ、悶えている等身大の少女だった。

 

 

だが───貴方はナノカのその叫びに対し、『友達が苦しそうな顔をしていた!助ける理由は、それだけで充分だ!!』とキッパリ言い返した。

 

その言葉にナノカははっとした表情になりながら、俯いていた顔をあげる。顔をあげた時に広がった景色は未だ変わらず、貴方が劣勢になりつつも、傷まみれになりながら蛮勇を振り回しながら敵に向かって猛攻をけしかける。

 

まるでナノカの心に蠢く絶望を、過去の傷跡を打ち払う様に。どれだけ傷付いても貴方の振るう拳は止まる事を知らない。貴方の拳が、貴方の渾身の蹴りが、敵の身体に打ち付けられる度に、敵が貴方の猛攻に怯む度に、死すら恐れぬ貴方の姿勢が、友を守らんと決死の覚悟を纏った貴方の拳が、ナノカの過去の荊を焼き払う様に、絶望を殴り飛ばしていく。

 

 

─── ナノカの目に映ったのは、誰かを護り抜く事に命さえ投げ打つ覚悟を決めた貴方の勇猛果敢な姿と傷と血で身体を濡らしながら、自身の目の前に映る化け物を殴り飛ばしたあの時の憧憬だった。

 

化け物を殴り飛ばした時に『ちゃんと、守れただろう』と此方の方へと向きながらにこやかに勝利宣言をした貴方のその姿が、今でもナノカの脳裏に強く焼き付いている。

 

だからこそ、今度は────今度こそは、自分が救われた分だけでも貴方を守らなければいけない。そんな思いが、決意が、いつしかナノカの心に強く刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

「…だから今度は、私が貴方を守るわ。」

 

 

鮮明に自身が守られた憧憬を思い出したナノカは、貴方に向かって近付く。貴方はその言葉とナノカの行動に疑問を抱くが、貴方はナノカの突然のその行動に考える暇もなく、次に感じたのは───自分の身体に何かがぶつかる微かな衝撃だった。

 

見れば、貴方の身体にナノカが抱き付いていた。貴方がナノカのその行動に驚愕する暇もなく、ナノカの両腕は貴方の背中にがっちりホールドされ離れる気配は微塵すらない。

 

 

 

そうしてナノカが貴方の身体へと触れた時───偶然か、或いは運命がそうしろと言っているのか。奇しくも、ナノカの【幻視】が貴方に触れたことで偶発的に発動してしまう。

 

ナノカの幻視で見た貴方の光景は、ほんの数十秒前の景色。つまり貴方とナノカが偶然遭遇する前の出来事であった、貴方が己の身体の中に蠢いている激痛に苦しみ悶えながら木を支えにして必死に歩いている姿がナノカの幻視に映り込んでいた。

 

─── ナノカはその光景を目にした途端、彼女の中の瞳の光が揺らぎ、貴方の背中を掴む手の力を思い切り強める。貴方がナノカのその姿に、どうしたと聞くとナノカは先程とは打って変わったどこまでも冷たい口調で貴方に語りかける。

 

 

「…何処の誰がやったの?」

 

 

貴方はナノカのその言葉に疑問を抱くと同時に、突然口調が変わったことに思わずえ?と言いながら固まってしまう。貴方の身体の中にある痛みもその声を皮切りに何故か、収まっていた。

 

 

「何処の誰が、貴方にあんな酷い目に遭わせたのかしら。」

 

 

あんな酷い目───?とナノカの言葉に貴方は頭の中で疑問符を浮かべる。しかし、貴方はナノカの持っている魔法を思い出し、まさか、と貴方は心の中で戦慄を覚える。

 

 

 

「…貴方の身体に触れた時、幻視が発動して、さっきの貴方の光景が視えたの。苦しみながら、痛みに悶えながらも、ここを歩く貴方の姿が…。」

 

 

 

 

あっ、バレてますわ。貴方はナノカにそう告げられた時、確信に近いものを抱いた。ナノカの表情は見えないものの、多分鬼の様な形相をしているのだろうなと貴方は直感的にそう予想もできた。

 

 

 

「貴方が自分の痛みを、辛さを他人に出さない人だっていう事は承知しているわ。けれど…それでも、私は貴方には絶対に居なくなって欲しくない。貴方の抱えているその痛みが、ここにいる誰かによって与えられた物で、それが原因で貴方が消えてしまいでもしたら。私はその人を絶対に許さないし、生かすつもりもないわ。」

 

 

 

ナノカのその言葉には冷たいを通り越して〞圧 〟があった。言葉の節々から彼女の言葉が全て嘘偽りないと思わせるほどの重圧が貴方の身体に直に伝わって来る。

 

 

「だから答えて。貴方をそんな目に遭わせて、貴方に苦しみを強いたのは何処の誰なの?」

 

 

また、ナノカが貴方を抱く力を強めていく。絶対に離さないと言わんばかりに握られたそれを貴方は振り解く事が出来ず、ただナノカのその言葉に気圧されるばかりだった。貴方はこれ以上、隠し通そうとしても結局また詰められるだけだと観念したのか、ナノカにこれまでの経緯を語った。

 

─── 自分が傷を負えば負うほど、突発的にこれまで負って来た傷の分の痛みがまとめて帰ってくること。そしてそれは誰かに傷付けられてやられたものではないことを、ナノカに説明した。

 

 

 

「…そう…だったのね。」

 

 

貴方の説明を受けたナノカは、貴方の事情を理解し、その口調からは圧が少しだけ収まっていた。それでも、ナノカは自分の知らない所で、貴方が傷付き、苦しみに悶えていたという事実が未だ消えない。

 

 

「だったら、もう無茶をするのはそれきりにしてちょうだい。」

 

 

ナノカの切実な声が、貴方の鼓膜に入り込む。貴方はちゃんと説明すれば、納得してくれるやろ!と安易な考えでナノカに全ての経緯を説明したのだが•••実際には納得したものの、彼女の中に煮えたっている貴方への余りにも重すぎるその感情はその重量を増すばかりであった。

 

 

「私は…もう貴方が、傷付く姿を見たくない。今度こそ、私は私の大切な人に傷一つ付けさせたくない。…守りたいのよ。」

 

 

ナノカは忘れない。あの日、自身を庇って傷付いた貴方の姿を。頭から足に至るまで、さまざまな傷という傷に塗れても尚。立ち続けたあの頃の貴方の背中をナノカはこれから先、一生忘れることはない。ナノカは貴方の抱擁から一歩退き、貴方の手を取る。貴方の手は幾重もの古傷の跡が残されており、それだけで貴方の経験した死闘の数々を物語っていた。

 

 

「私は貴方のその優しさに、言葉に、数えきれないほど救われたわ。私の側に居てくれたのが貴方で…本当に良かったと思ってる。」

 

「…だから、貴方に無茶なんてさせたくないの。」

 

 

ナノカはあの日の憧憬を、貴方の姿を心に刻んでいる限りは決して貴方を守る事を辞めないし、諦めるつもりも毛頭ない。彼女の言葉はそれを感じさせる様に強く決意に満ち溢れている言葉だった。

 

 

「私の足が、私の手が動く限り。何度だって貴方の為に、私はこの銃の引き金を弾けるわ。だから、貴方がこれから先、誰かの為に傷付くなんてしなくていいのよ。」

 

 

貴方がまさか、と言おうとしたが彼女の言葉にはそれを冗談だと思わせる要素が何処にもない。彼女の言葉は、彼女の一言一句その全てが本当の事を言っているのだと貴方は何処か確信めいた物を抱いていた。

 

 

「─── これからは私が貴方の事を守るわ。誓って、私以外の人には貴方の指一本触れさせない。約束するわ。」

 

「だから、貴方も誓って。私の知らない所で、傷付かないで。もう自分を犠牲にする、だなんて考えないで。」

 

 

ナノカが貴方の手を握りしめる。それはまるで、主に忠誠を誓う騎士の様にナノカの顔には迷いは無く、本当に貴方の為に尽くす事を決めた様だった。

 

貴方はナノカのその言葉に頷くしかなかった。ナノカは本当に自分の事を心配し、気にかけてくれているのであろう。貴方はそんなナノカの気遣いと心配を無下にする事なんて出来なかった。できる筈もなかった。

 

貴方が頷き、肯定した時に見たのはナノカの今日一番の笑顔だった。

 

 

 

 

「私が、必ず守るから。」

 

 

ナノカは貴方を守り続ける。今度こそ、自分の大切な人を守り切る為に。失わない様に、その手からこぼれ落ちない様に。貴方の姿に姉の姿を重ねながら、何度だってその引き金を弾く。

 

─── それが、貴方に救われたナノカが出来る唯一の恩返しであり、ナノカにとって愛おしくある貴方の側に居られる方法の一つでもあるのだから。

 

 




キャラクター紹介なり。

貴方
脳筋ゴリラ。敵の攻撃をいくら食らっても、元から自分を勘定に入れてないので、ゴリ押しで攻めてくる、敵からしたら恐怖の権化みたいな奴。

黒部ナノカ(依存&排除型ヤンデレ)
庇われる事がトラウマなナノカだったが、貴方という存在が介入し、目の前でトラウマの再現をされたものの、自分の命を救い、死なないで完全勝利を果たした貴方が精神安定剤となったが、無事ヤンデレ化。以降は、貴方を脅かす脅威と認識した者は容赦無く撃ち殺すし、めちゃくちゃストーカーする様になる。けれども元来のポンコツ属性は外れてないので、ちょっと接すれば大人しくなる。

度重なるスランプのせいでめちゃくちゃ遅れてしまった•••ほんまに申し訳ないっス。
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