ヤンデレ魔法少女13人から逃げ切れないと死ぬゲーム。   作:クロウト

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なんとか年越し前には間に合いました。マジでごめんなさい!!なんでもするので許してください!!!


へたくそな絵、ありのままの自分

 

 

へたくそ。

 

へたくそ。へたくそ。へたくそ。

 

 

─── 真っ暗になってしまった絵を見るたびに、少女の中に存在する魔法がそう語りかけてくる。

 

自分の描いた絵は、自分の感性の赴くままに描いた絵は要らないのだと。魔法によって躍動する絵と少女の描いた魔法の絵を見た世間の称賛の声が少女に冷たくそう言い放つ。

 

今まで描いてきた絵が、チラシの裏から始まった小さな芸術の足跡がどこまでも深い黒に染まっていく。まるで浜辺の足跡を流してしまう海の波の様に、その黒は彼女のありのままを否定する。

 

 

へたくそ。へたくそ。

 

 

また、そんな声が聞こえてくる。何処からも声は聞こえてこない筈なのに、辛く当たる声が聞こえてしまう。

 

やがて少女の描いた絵の全てが黒に染まった時。少女はその魔法を得て、そしてやがて悟ってしまった。

 

 

 

─── あはは、そうだよね。

 

─── こんな恥ずかしい絵。大嫌い。

 

 

自身の過去を否定し、黒く塗り潰された上に生まれる新たな未来を受容した少女のその笑顔は酷く虚ろだ。

 

そして彼女の笑顔と共に、彼女の心がジクジクと痛みを帯びていく。魔法に同調し、受け入れて、本当に魔法なんてない時に描いた自分の絵も消してしまって。

 

やがて彼女の描いた本当の絵を見る人も誰もいなくなってしまった。

 

 

へたくそ。へたくそ。へたくそ。

 

 

大嫌いな自分の絵を消す。消して。消して。消して。無かった事にする。そうしたら、また少女の魔法はどんどん躍動してはそこに新たな芸術を生み出す。それで良い。それで良いのだ。誰にも見られない様に、誰にも拒絶されぬ様にと少女は少女の描いた絵を秘匿する。

 

本当の自分の大嫌いなへたくそな絵を見て、好きになる人なんていない。こんな絵を見たって気持ち悪いだけ。なんてことは少女自身が一番理解していた。

 

 

─── 彼女もまた、自分の描いた絵を嫌っていたのだから。

 

 

だから少女は今日もまた魔法が作用しなかった時に出来てしまった絵を捨てようとする。これは、世間が評価してくれるものとは違う。これは、皆が凄いって、笑顔になってくれるものとは違う。これは、皆が受け入れてくれるものとは違う。

 

そう自分に言い聞かせながら、その絵をくしゃくしゃにして無かった事にしようと腕を伸ばした時。

 

 

─── 誰かの手が少女の描いた絵に触れた。

 

 

その人は見てしまった。彼女の本当の絵を。魔法を使った、ただ綺麗だけの絵ではなく。彼女の絵に込める想いが籠った、人の温もりが灯ったその絵を。

 

 

「 あっ••• 」

 

 

声が出なかった。絞り出そうとしたが、出てくるのは掠れた声とも呼べぬ声だけがその空間に響き渡る。けれどそれはあまりにもか細く、少女の本当の絵を見てしまったその人には聞こえる筈も無い。

 

少女の足が小刻みに震え出す。視界がぐらつき始め、心を焦燥という感情が塗りつぶしていく。今まで隠せていた筈の絵が、ずっと大嫌いだった自分の絵が、見られてしまった。

 

 

─── 怒られちゃう?否定されちゃう?気味悪がられる?友達じゃなくなっちゃう?嫌われちゃう?

 

 

そんな不安の濁流が少女の脳髄に駆け巡る。

 

 

 

「 ちっ•••違うのっ!•••えっと、それは•••その••• 」

 

 

うまく言葉が出せない。恐怖で口が震えているからか、少女の一言一句その全ても震え始めている。説明しなきゃ、謝らなきゃいけないのに。それなのにどうしても恐怖という存在が、少女の頭を蛇の様に締め付ける。

 

少女は心のどこかで魔法で描いた贋物の絵を本当だと偽り、見せ続けていたその事実が露呈された今なら何を言っても、もう許してもらえないのではないか。という諦観さえ生まれ始めていた。

 

 

へたくそ。

 

 

─── やだ。

 

少女の本当の絵を見たその人は、少女にとっては絶対に嫌われてほしくない人物だった。友達だった。彼女にとっては親友に近い者だった。否、もしかしたら親友以上の存在だったのかもしれない。

 

だからこそ、その人にだけは絶対に見せてはいけないと少女は心の中でそう誓っていた。だからその人の前では贋物の絵を見せ続け、それが暴かれぬ様に少女は半ば必死に秘匿を貫き通して来た。

 

 

─── やだ、やだ、やだ!!!

 

 

だからこそ嫌われたくない。そんな恐怖が、辛酸が、彼女の心を帳の様に覆い尽くす。そんな少女の脳裏に過ぎるのは自分の絵を見て、怒りに取り憑かれた悪意を漂わせているその人の幻影。

 

騙していたのか?ずっと?贋物だったのか?ありえない。なんて絵だ。騙していた上にこんな絵を描くなんて。ああ、なんて()()()()()()なんだ。

 

そんな言っていない筈の言葉の幻の数々が、少女の頭を支配する。ツギハギの様に次々と降りかかるその言葉が、鈍器の様に少女の頭に強く響く。

 

 

─── ごめんなさい!もうきらわないで!もう、こんな絵描かないから!!!

 

 

心が強く痛みを訴える。言いたいのに。そう謝りたいのに。言葉が出てこない。口から出てくるのは掠れた喉の呼吸音だけで。早くしないと、あの人に嫌われちゃう。嫌われて、否定されて、もう何処にも居なくなってしまう。

 

隣で一緒に絵を描いていたあの頃が無くなってしまう。

 

 

 

「 っ───!!ごめんなさっ•••!!! 」

 

 

少女の心に衝動が取り憑き、遂に謝罪の言葉が出て来た。弾き飛ぶ様に、嫌われてしまうという恐怖から必死に逃げる脱兎の様に。少女はただ怖れのままに言葉を口にしようとした。

 

─── だが、少女のその言葉が、謝罪が最後まで言い切られることは無かった。その言葉を、他の誰でもない()()が遮ったから。

 

 

()()

 

 

貴方は少女の名前を静かに呼ぶ。けれどその言葉はどこか力強く、噛み締める様にも思える。いつもとは違うその言葉に少女は、()()()()()はその口を思わず閉じてしまった。

 

静寂が辺りを支配する。第三者の発言が一片たりとも許されぬ様な荘厳たる雰囲気から貴方はノアに向かって言葉を切り出す。

 

 

 

『これが、ノアの絵?』

 

 

貴方はノアの絵を見ながらそう聞く。ノアの方からは貴方の表情は窺い知れないものの、ノアはきっと怒ってるだろう、という確信めいた物を抱きつつ貴方の言葉に肯定する。

 

 

「•••そう、だよ。これが、のあの本当の絵••• 」

 

 

肯定するしかなかった。今更、嘘をついたところでもう何も取り繕えやしない。ノアにできるのはただ肯定し、騙していたことに対する罪を受け入れて、ただ許して貰うまで必死に謝る事しかできない。

 

貴方はノアの言葉に、ただ『そっか』とただ納得した様な言葉だけを出す。

 

怒号も、呆れも、絶望も、そこにはない。だけどもノアにとってはその静かに貴方が発したただ一言のそれでさえもひどく恐ろしく感じてしまった。

 

 

「 っ•••••こんな絵、見たくないよね•••のあがちゃんと魔法で描かなかったのが、悪いよね••• 」

 

 

今はただこの静寂が、貴方のその後ろ姿が、ひどく恐ろしい。騙して悪いのは自分の筈なのに。それなのに、その自らが負ってしまった罪にすらも恐怖が帯び始める感覚がひどく気色が悪い。

 

けれども謝罪はしなければならない。犯してしまった罪を贖わなければならない。そうしなければ、それができなければ、もうノアの隣に貴方の姿なんて霧の様に居なくなってしまうのだから。

 

 

「 ごめんねっ•••こんな気持ち悪い絵描いちゃって•••もうこんなの描かないからっ、描かない•••から。 」

 

 

ぽつり、ぽつり、と呟くノアの言葉は悲痛という黒に塗られ、辛酸と罪を噛み潰す音が聞こえてくる。けれど、貴方はそれを黙って聞いているだけ。ノアの絞り出したその言葉に何を反応するまでもなく、ただ聞くだけ。否定も、肯定もせずにただそこに立っているだけだった。

 

されどノアは止まらない。止めれない。自分の中に渦巻いているこの感情を言葉にしなければ。矢継ぎにもっと言葉を紡がなければ。謝らなければ。そんな想いがノアの心を支配し、そして彼女の中にある因子が胎動し始める。

 

 

「 ごめんなさいっ•••ごめんなさいっ•••ごめんなさいっ─── 」

 

 

ノアはただ謝り続ける。貴方という親友を失わない様に、縋る様に。ただ幼子の様に謝り続ける。ノアの目には雫が溜まっており、それが床にぽろぽろと静かに落ちていく。感情の濁流に乗せた絶望がノアの心に襲いかかる。

 

─── だが、次の瞬間。ノアの言葉を聞き続けていた貴方の沈黙が絶望からノアを守る様に開かれる。

 

 

『すごく、上手じゃんか。ノアの本当の絵。』

 

 

その言葉にノアは目を見開く。貴方のその言葉は、ノアの絵を否定する訳でもなく、嘲り罵る訳でもなく、ただ純粋に褒めているだけだった。

 

 

「 え•••? 」

 

 

ノアは涙を流しながら貴方の言葉に目を見開く。貴方の言葉の声色はひどく優しく、まるで全てを受け入れ、赦してくれる様な声。その声には怒気の一片すらも存在しない。

 

 

「 上手•••? のあの絵が•••? 」

 

 

震えていながらも心の中に渦巻いているノアの不安を掻き消す様に貴方の言葉が強く響く。ノアがそう問えば、貴方は有無を言わさずに頭を縦に振って、ノアのその言葉に肯定を示すだろう。

 

 

『正直()()()()()()()よりも、自分はこっちの方が好きかもしれない。』

 

 

貴方はノアの方へと向きながら、そう語る。貴方のその言葉には嘘の一片すらなく、貴方の顔は驚くほどまでに笑顔で、その絵を好きだという気持ちは本物だと言わんばかりのにこやかな表情だった。

 

ノアはその言葉に息を呑み、そして黙りこくってしまう。涙は依然として零れているものの、彼女から言葉を紡がれることはない。

 

貴方はそんなノアを見て、にこやかな表情から急に一変して、焦燥に満ちた様な顔になったかと思えば。

 

 

『あ、いや、別に魔法で描いたものが下手って言ってるって事じゃなく!!どっちも上手だけど、自分はこっちの方が好きってだけで、魔法で描いたものも本当に上手だと思う!!いや、本当に!!!』

 

 

貴方は先程いった自分の言葉を訂正しようと身振り手振りで必死に説明しようとする。貴方も貴方で唐突に訪れた焦燥でうまく言葉が纏まらないのだろう。貴方の額には徐々に冷や汗が滲み始め、必死に違う違うと説明しようとする。

 

 

─── しかし、貴方のその言葉は貴方の本意のまま、ノアにきちんと伝わっていた。

 

 

 

「••• う•••あっ••• 」

 

 

ぼろぼろと大粒の涙がノアの瞳から零れ落ちる。止めどなく溢れ出てくる不安とは違うその感情が、一気にノアの心に押し寄せては絶望の黒色に染まっていっていたノアのキャンバスを白く塗りつぶして、また白紙に戻していく。

 

 

「 のあ•••のあねっ•••ずっと、怖く、てっ••• 」

 

 

ノアの震えた声が大粒の涙と共に溢れ出る。貴方は少し呆気に取られた様な顔でその方を見る。

 

 

「 ○○ちゃんに•••のあの本当の絵を見られて•••嫌われちゃったらどうしようって•••ずっと•••不安でっ•••辛くてっ••• 」

 

 

ノアの気持ちが貴方にぶつけられる。それは今まで自分の授かった魔法に自分の描いたものを否定され続けた一人の少女の【禁忌】とも言えるもの。自らの心にしまい込んでいた筈のその冷たく暗い思い出に温もりが帯び始める。

 

 

「 だから•••○○ちゃんに嘘、吐いちゃってっ•••!嫌われたくなかったからっ•••○○ちゃんにのあの魔法を見せててっ•••!!! 」

 

 

貴方はただノアの言葉を、吐き出された懺悔にも思えるそれを。ノアの名前を呟きながら聞いていた。彼女の心の奥底にしまい込んでいた禁忌を、貴方は知らず知らずのうちに掘り返してしまったのだろう。ノアの懺悔と謝罪は続いていく。

 

 

 

「 ごめんなさいっ•••!!ごめんなさいっ•••!!騙しててっ、嘘吐いちゃってっ•••ごめんなさぃ•••!! 」

 

 

ノアの謝罪が聞こえてくる。その場に立ち尽くして涙を流しながら必死に謝るその姿はまるで幼子の様にも見える。罪の責任感から弾け出した様なその声は言葉じゃ形容しきれない程の感情が、想いが、辛さが滲み出ている。

 

貴方はそんなノアの元に一歩、歩み寄る。魔法によって自己を否定された彼女にとって、本当の絵を拒絶される事が何よりの恐怖だったのだろう。ならばせめて、その恐怖から生まれる不安の負担をどうにかしてやりたい。貴方はそんな一心で彼女に近付く。

 

怒気も、悲しみもなく。ただノアを受け入れる様に貴方はノアの前に立つと、片膝を付いて、滝の様に泣いているノアの瞳から流れる涙をその指で優しく拭う。

 

 

『大丈夫。そんな事、元から気にしてなんかないよ。』

 

 

貴方はノアの心を縛りつけている荊を取り払う様に。ノアが感じていた不安と恐怖を拭い、安心させようと矢継ぎに言葉を紡いでいく。

 

 

『それに嘘吐かれてたぐらいで、嫌いになんてならない。だからもっと自分はノアの()()()()()()()()を側で見ていたいよ。』

 

 

貴方はノアの涙を受け止め、微笑みながらそう語る。ノアは貴方のその表情を見ると、元から溢れ出していた涙が更に勢いを増して地面に落ちていく感覚を覚える。

 

視界が霞んで、周りの風景すらまともに見えはしないが。その中で、ただ貴方の笑顔だけが眩しく輝いて見えた。

 

 

 

「 っ〜〜〜〜!!!! 」

 

 

その時。ノアはもう堪えきれなかった。ノアの心の中でずっと張り詰めていた不安と燻っていた衝動が爆発しては、近付いて来た貴方に思い切り抱き付いた。貴方の胸板に顔を沈ませ、貴方の体温を確かに感じながら、ノアは貴方の背中に手を回しては決して離さない様に力を入れ続ける。

 

貴方はそんなノアを目にしながら、赤子をあやす様に優しく背中を撫でる。その度にノアは不安と衝動を押し流す様な大粒の涙が流れ落ちて、次第に彼女の中に取り憑いている棘を取っていく。

 

 

へたくそ。へたくそ。へたくそ。

 

 

 

そんな声がまた聞こえてくる。魔法によって突きつけてくる残酷な現実がノアにまた刃を立てる。けれどもノアは微塵もその声に恐怖を抱かなかった。

 

 

─── のあが不安で怖くなった時は、いつもキミがいてくれるから。

 

─── だからのあ、怖くないんだ。

 

 

自分の絵を好きだと、受け入れてくれた貴方は言ってしまえば彼女の心の防波堤だ。決して破れる事のない、堅牢な防波堤が彼女の周りを優しく囲い、或いは魔法という刃から彼女を守るための砦へと貴方の想いは姿を変える。

 

そうして黒く染め上げれていたノアのキャンバスは真っ白に染め上げれていく。またありのままの自分が小さな芸術の足跡を遺せる様に。そこに生きた証を刻み付けれる様に。貴方という白い塗料が乱雑に、強引に黒を白へと変えていく。

 

ありのままの自分で良い、と。貴方がそう言ってくれたから。やがてノアは貴方の言葉を依代にしながら、小さな一歩を踏み出していく。

 

貴方は泣きじゃくるノアを抱きしめながら微かにそんな予感を感じ取るだろう。一人で抱え込んで、辛くて堪らないノアの心を少しでも癒せたのなら貴方はそれだけでもこの行動に意味はあったとそう思えるのだ。

 

 

─── そして、ノアの涙はやがて乾き、泣きじゃくる様子も時を経つにつれて無くなっていく。けれどもノアは頬に涙を残した状態でふと貴方の方を見る。

 

 

「 ○○ちゃん。 」

 

 

 

潤んでいるノアの瞳が貴方の瞳を射抜く。ステンドガラスの様に色彩がある彼女の瞳に貴方は思わず吸い込まれそうになる。けれどもノアはそんな事お構いなしに彼女は彼女のまま、一言だけただ言葉を発する。

 

 

「 ─── ありがとうっ! 」

 

 

少し小っ恥ずかしくなりながらも笑顔でそう貴方に感謝を述べるノアの表情には虚の一片すらもなく。その笑顔は本当に彼女が心の底から貴方に感謝を述べているのだと思わせる。そんな笑顔だった。

 

 

••• こうして、ノアと貴方の小さな一幕が降りていく。けれども貴方は知らない。この城ヶ崎ノアとのやり取りが、やがてノアの心の中にまた一つ。大きな衝動を生んでしまう事を•••。

 

 

 


 

 

 

 

 

外出禁止時間ギリギリに牢屋敷に戻って来た貴方は早足で食堂に向かっていっていた。腹が減っている、という訳ではないが今日は色々と濃い出来事が多かった為に貴方はさっさと飯を食べて寝たいという気持ちが強かった。

 

本当は風呂に入らないでそのままベッドに飛び込みたいという想いも強かったけれど、貴方はいや流石に風呂には入らないといけないでしょ。という紳士特有の理性が貴方の本能を押し殺し、仕方なく食事を取った後はシャワールームに行く事にする。

 

道中では貴方が散々この牢屋敷で目にして来た梟の化け物、ゴクチョーと呼ばれる者が貴方とすれ違う。ゴクチョーは貴方の事を見ても、何かを咎めたりとかはされなかったものの、通り過ぎ様でめっちゃくちゃデカい溜息をかまされた。

 

貴方はゴクチョーの事をいつか絶対焼き鳥にしてやろうと心で誓うのであった。存外、心の狭い男である。

 

 

 

やがて貴方はまだ誰もいない食堂へと足を踏み入れる。だがそこには誰もおらず、外出禁止時間ギリギリに貴方が来た事によってもう皆が食事を食べ終えてしまったのだろうか、と貴方が思いながら適当に空いてる席を選んでは用意されているビュッフェに気怠げに足を運ぼうとする。

 

──── そんな時だった。

 

 

 

「 あっ、○○ちゃんだ〜!! 」

 

 

柔らかな口調と共に貴方の背後から一人の少女が近付いてくる。貴方はその方へと顔を振り向けば、そこに居たのは貴方と同じ牢屋敷の魔女候補である城ヶ崎ノアが食堂にやってきていた。

 

貴方は少し驚いた様な顔をしながら、ノアの方を見る。別に食堂に居る事自体がおかしい訳ではない。が、ノアは芸術家気質な所があるのかはたまた自分のやる事を優先するタイプなのか定かではないが、彼女は時間内に食堂に来る事はあまり無い。基本的に彼女は最近発見したという自分のアトリエで自分の芸術活動を優先しており、食堂できちんと食事を取るのはあまり見かけない。

 

そんなノアの為に貴方や二階堂ヒロといったノアと少なからず関わりのある人達がノアの元に食事を持って来るのだが•••今日のノアはどこか違う様だ。

 

 

「 えへへ〜、今日ね〜、のあちゃんと時間通りにここに来れたんだよ〜!のあ、偉い? 」

 

 

ノアはまるで褒めて欲しそうな子供の様に貴方に笑顔を浮かべながら、そう聞いて来る。時間を遵守することはシンプルではあるが、ヒロ風に言うならば正しい事だろう。貴方はノアの言葉に肯定し、軽く肩を叩きながら偉い!!!!とノアの正しい事をきちんと褒めてあげる。

 

この行動はノアが子供、という訳でもないが、人間は褒められたことに対してはもっと取り組もうとやる気を出すもの。貴方はノアの行動を肯定し、そして褒める事で彼女の中にあるストレスを少しでも減らす事が出来れば、と思い立ち始めた事である。

 

─── だが、貴方がノアを先程の様に褒めても、今日のノアは満足していない様子だった。

 

 

「 ••• む〜 」

 

 

褒められたのは嬉しかったのだろう。ノアは少しだけ表情を柔らかくしたが、その顔は何処か不満げで、何か物足りないといった様子。貴方はそのノアの様子に何か気を悪くしてしまったのだろうか、と考えるも特にそういった心当たりは思いつかない。それか自分の知らない所で、何か過ちを犯してしまったのだろうかと一抹の不安を貴方が募らせていると...。

 

 

「 ••• 頭、撫でてくれないんだ。 」

 

 

ノアが明らかに不満そうな口調でそう溢す。自分の我を突き通そうとする子供にも似たその言葉に、貴方の不安は掻き消される。ノアが自分の帽子を取り、両手でしっかりと握り締めながら、どう見ても撫でられ待ちの姿勢を取っているので、貴方はそんな事か、と思いながらノアの頭に手を伸ばした。

 

貴方はそのまま、ノアの白銀の髪を優しく梳かす様に丁寧に撫でていく。貴方の手の体温がダイレクトに伝わったからなのか、ノアのその不満そうな顔はたちまち笑顔へと変わっていく。

 

 

 

「 ん•••えへへ•••○○ちゃんに撫でられると、心が暖かくなるんだよ〜?なんでだろうね〜。 」

 

 

 

その言葉に、貴方はノアと同じ様に笑いながら同調する事しか出来なかった。ノアは先程の不満の表情が嘘であったかの様に、口元を綻ばせながら貴方の手の温もりを感じている。その彼女の幸せそうな一面に、思わず貴方の心も少しだけ温もりを帯びた気がした。

 

 

 

「 あ!そうだ〜!! 今日ね、ノアのアトリエでいーっぱい、○○ちゃんの絵を描いたんだよ〜!! 」

 

 

ノアは突然、話題を切り出す様に貴方にそう言ってはノアは懐から折り畳まれた紙を貴方に差し出して来た。そこそこの大きさの紙には絵の具やらインクやらが滲んでいる痕があり、それだけでも彼女が頑張っていたという証拠になる。

 

貴方が不思議そうな顔をしながら、ノアの紙を受け取り、そしてその折り目を解いていくと、そこにはまるで自分が絵の中に居るみたいだとそう思わせてくる程の精巧な出来の貴方を描いた絵がそこにあった。

 

綺麗の一言では片付けられないその絵は、ノアの魔法によって動いている形跡はなく、それは紛れもなく本当の意味でノアが描いた貴方の絵だった。

 

 

 

「 •••どうかな〜?のあ、ちゃんと○○ちゃんの事、上手に描けたかな? 」

 

 

 

ノアの努力と、技術の結晶が詰まっている貴方が描かれたその絵は誰がどう見たって賞賛するだろう。ましてやそれが貴方が見たものだとしたら、その賞賛は大衆のそれよりも更に大きくなるだろう。

 

貴方はノアのその絵を見て、思わず泣きそうになってしまう目をぎゅっと堪えながら、ノアの絵を大切そうに持ちながら、ノアに自分を描いてくれた事への感謝を伝え、そして貴方は暫くの間、ノアの絵を思いきり褒めちぎった。

 

上手、めちゃくちゃ綺麗、尊死しそう、神が描いた絵みたい、もしかしてピカソの生まれ変わりですか?う、うああああ...画伯が牢屋敷を練り歩いてる...などなど貴方は必死に絞り出した語彙力で、とにかく出た言葉を形にして、褒めちぎってはまた言葉を出す。

 

貴方のその必死さには虚偽は無く、ただただ純粋にノアの絵を認め、本物の絵でもへたくそではないと必死に説明したいのだろう。ノアは貴方のその気持ちを瞬時に理解しては、少し頬を紅潮させながら貴方の方を向きながら、貴方の方を向いては口元を綻ばせる。

 

 

 

「 っ••• えへへへへっ、ありがと〜○○ちゃんっ! 」

 

 

 

ノアはすっかり自信が付いたのか、貴方がノアの本当の絵を初めて見た時からこんな風に絵を見せてくれる事が多くなった。貴方はそれを嬉しく思うのと同時にノアが自分の心の中にある棘を取ったからなのか、少し前よりもノアの表情がとても明るくなった様な印象も受ける。

 

 

 

その後、ノアは貴方の隣で晩御飯を食べたいと駄々を捏ね始めたので、仕方なく貴方はその日はノアと食事をする事になった。

 

時間が経つにつれて、貴方とノア以外にも人が集まり出し、食事をする頃には他の少女たちが食堂に集まっていた。何やら他の少女たちの目線が痛い気もするが、貴方はそんなん気にしてもしょうがねぇべ!!!!と思いながら、ノアと一緒に楽しげに食事をする。

 

だが、貴方は気づかなかった。貴方が食事をして、他の少女から視線を逸らした時にノアが他の少女達に向かって牽制とも言える意味で貴方の頬に顔を近付け、そしてそこに()()()()()()()()事を。

 

貴方は頬から来る感触に外での疲労ですっかり忘れており、仄かな衝撃が来た事自体は把握したので貴方は()()()()()()()ノアにその事を聞くと、ノアは

 

 

「 蚊が居たからね〜、のあが追い払ってあげたの! 」

 

 

と、ノアは笑顔でそう答えた。貴方はノアのその言葉に何ら違和感を持たずにそっかぁとただノアの偽りの優しさにほっこりと心を暖め、感謝する事しか無かったが、ノアは貴方が再び食事に手を出し始めた頃に他の少女たちに向かって視線を送る。それは他の少女に対するノアの宣戦布告でもあるし、またノアの心の中に蠢きつつある衝動でもあった。

 

 

 


 

 

 

─── 時は遡り、貴方がまだ自由時間で牢屋敷の外から出ていた時。ノアのアトリエにて。

 

そこはノアが見つけた芸術活動をする為だけに用意された魔法で隠された不思議な場所。きっかけはノアとヒロがノアの芸術活動を堂々と出来る場所を探して、偶然ここを見つけたのがきっかけなのだが、今やそこはノアだけではなく、他の少女達も出入りする程の割とポピュラーな部屋になっている。

 

ノアはそこで元気に鼻歌を歌いながら、目の前の紙に絵の具の筆を自分の気の赴くままに走らせては、自分の芸術活動に励んでいた。

 

その紙にはまだ形は朧げだが、人形のシルエットが浮かびつつあった。ノアの筆が一回走る度にそのシルエットはより鮮明になり、徐々にだがその人形は確かな形となってその場所に現れる。

 

「 ふふ〜ん、○○ちゃん、喜んでくれるかな〜 」

 

ノアは自分の想い人である貴方を思い浮かべながら、また筆を走らせる。その度に紙に描かれていたシルエットもまた、明確になりつつあり、そこにある人物の影を写す。

 

─── その人物とは、貴方。貴方の影がそこに在りつつあった。

 

その紙に描かれていた貴方の姿はとても凛々しく、まるで肖像画なのではないかと見間違えてしまう様な精巧な造りをしていた。だがノアはそれでは満足が行かない様で、自身の描く絵が本当に貴方に喜んで貰えると確信を持つ為に、ノアはひたすらに筆を走らせる。

 

「 •••う〜ん。 」

 

だがノアは紙に描かれた貴方を見て、何か物足りない様な、何処か足りない様な怪訝そうな顔をしては、また筆で貴方の輪郭を描く。

 

物足りない。何かが足りない。貴方はこんなふうな顔じゃない。と、ノアの心の中でそんな誰かも知らぬ声が嘯かれる。ノアはその声に気付かずとも、その声に従う様にして自分が足りないと思った部分に黒いインクが乗ったその絵筆を紙に乗せる。

 

ノアがその筆を走らせ、貴方が描かれていく。だけどノアが描いたその絵は貴方という存在を表すには駄目だ。まだこれを見せたって貴方は喜んでくれない、という思いがノアの心の中に取り憑いては止まなかった。

 

 

「 ちがう、こんなの○○ちゃんじゃない。 」

 

 

ノアはそう言いながら、()()貴方の絵が描かれたその紙を手に取ってはくしゃくしゃに丸めては、ぽいっとそのまま床に落とす。

 

床に落とされた紙の中のインクはそのまま滲み、凛々しく描かれていた貴方の顔は最早その丸まった紙の中でその形を崩す。

 

ノアは紙を投げ捨てた後、おもむろに自分の携帯を取り出してはそこに内蔵されている写真のアプリを開き、そこのアルバムを覗き込む。

 

ノアのアルバムは貴方で埋め尽くされていた。貴方とノアが二人で撮った写真や、ノアがこっそり撮った貴方の横顔やプライベートな私生活の一部まで。貴方という存在、その全てがノアにとっての芸術の糧であり、またそれがノアにとっての愛でもあった。

 

 

「 ••• やっぱり、本物の○○ちゃんはかっこいいな〜。 」

 

 

写真を見ながら、ノアがぽつりとそう呟く。ノアは貴方に余りにも大きすぎるほどの愛情を抱えていた。敬愛、親愛、性愛といった人が人に抱く愛の類を全てごった煮にした様なドロドロの愛をノアは貴方に対して抱えていた。

 

またそれは依存でもあるのかもしれないし、衝動なのかもしれない。ノアはそんな貴方に抱える愛情に心を溶かしながら、恍惚とした表情で貴方を見ていく。その瞳は、限りなく濁っていた。

 

 

 

 

 

 

「 ••• そうだ、○○ちゃんはかっこいいんだ。 」

 

 

─── のあの本当の絵を見ても、否定しないでちゃんと向き合ってくれた所。

 

─── どれだけ自分が辛くて、苦しくても、○○ちゃんは人の心のチクチクに寄り添ってる所

 

─── 普段、たまに見せてくれる○○ちゃんの気の抜けた笑顔な所。

 

─── 強くて、どんなに怖い相手でも○○ちゃんが必ず、のあの事を守ってくれて、やっつけてくれる所。

 

全部、全部、全部、全部。のあは○○ちゃんの事が大好き。○○ちゃんの全部を、のあの物にしたいってそう思うぐらい。のあはね、○○ちゃんに助けられた時から、ずっとそう思ってたんだ。

 

だけど、○○ちゃんは皆にも好かれてる。今日も○○ちゃんはずっと外に出て、のあとは会ってくれなかった。のあね、それがすっごく寂しくて、ちょっぴり悲しいんだ。でも、だからって○○ちゃんが迷惑だと思う事はやっちゃいけない。

 

○○ちゃんが悲しくなる事はやっちゃいけないって思って、のあね、ちゃんと我慢してるんだよ?

 

... でも、のあの事もちゃんと見て欲しいなって思う。

 

あの時、○○ちゃんが、のあの絵を見てくれた時みたいに。○○ちゃんが、のあの絵だけを見てくれないかな〜っていっつも考えてるんだよ?

 

だからね、のあが、頑張って我慢した分。○○ちゃんものあが独り占めしないと、だめだよね?

 

嫌がる事はしちゃいけないってわかってる。けど、○○ちゃんが悪いんだ。

 

のあの事を置いていっちゃって、他の子となかよくしてるなんて。そんなの、のあが許さない。

 

 

「 ふんふふ〜ん、はやくのあのキャンバスに来てくれないかな〜。 」

 

 

のあは、のあの描いた○○ちゃんの失敗作を見ながら、鼻歌を歌いながら、そうやって楽しそうにまた紙を取り出して、○○ちゃんを描く。

 

いっぱい失敗しちゃったけど、今度こそは○○ちゃんのちゃんとした絵を描いて、○○ちゃんに褒めてもらうんだ〜♪

 

そうしたら〜、今度はのあが○○ちゃんを独り占めする番!皆が、○○ちゃんを取り合いっこしちゃうから〜、ちょっとぐらいのあの物にしたって誰も怒らないよね。

 

 

 

「 ...○○ちゃん、大好き。大好き。大好き。大好き。これからも、ずっと大好き。のあね、○○ちゃんの為ならなんでもするし、○○ちゃんの絵もこれからずっと頑張るよ。 」

 

 

 

 

だから、のあとずっと一緒にいて?

 

ずーっと、のあのキャンバスで、のあと一緒にお絵描きするの!

 

それでね、○○ちゃんとたーっくさん絵を描いて、ここでのあとずっと居るの!

 

大好きな○○ちゃんと一緒にいられて、のあはすっごく嬉しいし、○○ちゃんも、悲しくならないで良いんだよ!

 

... だから、だからね。今度はのあが、○○ちゃんを助ける番。

 

のあ、○○ちゃんの為に頑張るからね?

 

ずっと、○○ちゃんと一緒にお絵描きできる様に、○○ちゃんをのあの物にするんだ〜。他の子なんて見させないし、見る必要なんてないよね?

 

 

─── だから、ずーっと一緒にいようね!

 

 

「 ○○ちゃん! 」




キャラ紹介なり。

貴方(バカ)
シンプルに鈍感を超えたバカ。の癖して、パーフェクトコミニュケーション取るもんだから、もうどうしようもねぇわこいつ。あーあ、早くこいつ監禁されねーかな。

城ヶ崎ノア(無害&妄想&牽制型ヤンデレ)
まさかのトリプルハイブリッドの上質なヤンデレ。無害ではあるものの、その本質は貴方を自分の物にする為なら多分なんでもするやばい奴。正直、この娘が一番怒らせたらやばい娘な気がする。ワイトもそう思います。

ゴクチョー
「 早くあの人、背中から刺されれば良いのに。 」
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