極めて唐突だが前世の話をしよう、元々コンピューターのことが好きで将棋も地元で触れる程度には触れていた僕は、将棋電脳戦に憧れ、半可通ぐらいにはソフトのことに詳しくなっていた。
だからまあ、転生するなら将棋ソフトを作ってプロに勝てるようなソフトを作って熱戦を演じて……上手くいけば勝ちたいよね。とネットの転生物の小説を読んだりして思ったのだ。
転生した経緯?触れなくていいでしょそんなの、別に面白くもなんともないし。よくある交通事故である。自損事故であることを除けば。であるけど。
転生した後にわかったのだが、この世界にはB◯nanzaも激指もや◯うら王も………大方著名なソフトが存在しない。rori関数とかいう優秀な関数を持ったソフトはあるが……。
小学生ながら自分でソフトを作って出場した(戦績はお察し)、2006年の世界コンピュータ将棋選手権にもBonanzaが存在しなかったのは頭を抱えた。ひーこら言いながら金沢から東京に前乗りして出場した甲斐がない、残念である。
ともかくソフトを作る方には才能はみじんこぐらいしかなかったが、幸いなことに指す方は割と才能があったようで、5歳から将棋を始めて小6で奨励会入会、18才で四段、C2、C1で頭ハネを1回ずつくらって22歳でB級2組。
そんな順調な棋士人生を歩みながら、東京の師匠の元を訪れて、自宅に帰って来たらこれである。
「なんでもしますので、あいを弟子にしてください、優翔お兄さん!」
獅子堂や九頭竜、銀子ちゃんがたまに研究会をするので、研究用の自室以外は鍵を開けっぱなしていたのがダメだったのか……?
……あいちゃん?なんでここにいるのかな?
ああ、自己紹介が遅れたな。自分は中村優翔。プロ棋士(七段)で転生者だ。
「……ひとまず、こっちに来てることは亜希奈さんには伝えないとなぁ。爺様の孫だから自分には結構当たり強いし」
「あっ……」
「あんまり心配しないで、元はと言えば爺さん達が悪いんだから」
うちの祖父とあいちゃんの祖父は兄弟で、素行不良で駅近の諸事情で余ってた土地を押し付けられて事実上の勘当された祖父と、悪い遊び(主に将棋)を教わったあいちゃんのおじいちゃんと、それのせいで印象が最悪になった亜希奈さんといった関係である。
俺の母というか、娘の代でマシにはなり、俺や母とは通り一遍の親戚付き合いはするようになったのだが。
今でも爺さんは健在だが、ひな鶴は出入り禁止である。
一通り連絡を済ませて、あいちゃんに向き直る。
「さて、弟子になりたい。とのことだったよね。一局、指そうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
戦型は……飛車先の歩を付く……居飛車明示。まあ、居飛車なら評価を誤ることもないから助かる、と思いながら飛車先の歩を突く。
三手目、あいちゃんが次に選んだのは飛車先の歩をさらに突き伸ばす手だった。
「ああ、やっぱり」
九頭竜に憧れて将棋を始めたんだな。間近で見てればそうもなるだろう。残念ながら俺の将棋にそこまでさせる力はない、
というかなんで師匠が俺なんだろうね、九頭竜じゃなく。
指し進めていくと、序盤、中盤、通してそこまで目立った悪手はなく、俺のソフトの感覚由来の手にも惑わされずに良く戦えている、が。全体を見ればもう一押しで崩れそう。ここは読みを入れて……。
「すぅー……はー」
これでギリギリ紙一重で成立するはず。角を切って攻め切る!
「こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こう、こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう────」
盤面に覆い被さるほどに近くに寄り、
「こう!」
深く読みを入れたあいちゃんが放った一手は、盤面全体をひっくり返すほどの攻防手だった。
切り捨てた角を取らずに盤面に叩きつけた桂馬が、攻防一体に働いている。
……まてよ、これを見落とした……?いや、これでもイケるんだろ?
やってやろうじゃねぇか!
…………
……
「参りました」
「え……?」
えー、一手差で負けました。殺してくれ。
仮にもB級2組のプロ棋士が、将棋始めて3ヶ月のアマに負けたんだ。悔しい以前に恥ずかしい。おいは生きていられんご。
「いや、本当に終盤強いね、序盤も中盤も思ったより卒がなかったけど」
「えへへ、ありがとうございます」
「やっぱりその序盤、九頭竜くんに憧れてるのかな、側で対局見てたもんね」
「や、やっぱりわかります?!くじゅりゅーさんの将棋、すごくかっこよくって、お手紙もおくったんですけど……」
これでも一応は人間ともそれなりに指してプロになったんだ、わかるよ。というか九頭竜、ファンレターのチェックぐらい自分でちゃんとやってくれ。
「それで爺さんの紹介でうちに来た、と」
納得だわ、あの爺さんならうちに連絡なんかしないだろ。
……まあ、将棋の才能だけなら俺より上かもしれんね、とくに終盤。