異世界エルフ、ミスティの楽しい魔法教室〜世界に魔法を贈りたい   作:おんせんみかん

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15話 魔法少女の誕生日

 

 teamワルプルギスの一期生、まほろば⭐︎レンが生誕祭を行うリアル会場は、異様な熱気と緊張感に包まれていた。

 無明アリーナの会場周辺には、制服警官が要所要所で目を光らせ、通行人すべてに職務質問も辞さない構えで待機している。

 

 それだけではない。一般人を装った私服警官たちも、関係者にしかわからない目印をつけ、群衆の中に紛れ込んでいた。

 事情通の者が見れば、路肩に停まった観光バスの異様さにも気づくだろう。すべてのカーテンが隙間なく引かれ、中の様子が一切窺えない。

 

 それは偽装された「トロイの木馬」だ。中には完全装備の機動隊が、突入の合図を息を殺して待っている。

 今回のイベントは、単なるアイドルの誕生祭ではない。政府関係者すらもが注視する、国家規模の重要事案となっていたのだ。

 

 その張り詰めた空気を、一通の無線が切り裂いた。

 

『本部より各員へ! マルタイ、東京上空を会場へと接近中! 繰り返す! マルタイは空から来る!』

 

「空からだと!?」

 

 現場指揮を執るネゴシエイター、入国管理局の柏原は耳を疑った。

 

『ネゴと確保、A班は二手に分かれろ! 関係者入り口とステージ付近へ急行! B班は会場内にて警戒! 指示あるまで接触厳禁! C班は外事と協力し、周辺の不審な外国人を洗え! 怪しければ多少強引でも引っ張って構わん! 定刻までに機動隊も展開せよ! 相手は要人かつ、こちらの常識が通用しない「力」を持っている。心して掛かれ!』

 

 無線を聞き、私服警官たちですら思わず空を見上げてしまう。

 

「こちらネゴ、柏原! 空からとはどういうことだ!? ヘリか飛行機か! 対象の移動手段を確認は!?」

 

『本部よりネゴ柏原へ。……信じ難いが報告する。マルタイは身一つだ。ヘリでもなければ、ホウキに跨っているわけでもない。生身で、飛行して向かっている! オーバー!』

 

 その報告に、柏原は近くにいた警察官と顔を見合わせ、言葉を失った。

 生身で飛行? まるで散歩でもするように空を歩いてくるというのか。

 だが、事態はその馬鹿げた無線から30分後、現実のものとなった。

 当初の予測では、生誕祭開始30分前には到着してリハーサルを行うはずだった。だが蓋を開けてみれば、開演5分前の強行到着。

 

 しかも──

 

『視認! 西上空! ……速いッ!!』

 

 関係者入り口で空を睨んでいた柏原の視界に、それは飛び込んできた。

 遊覧飛行のような優雅な速度ではない。

 三つの流星が、西の空を切り裂いて迫ってくる。

 先頭を行く金髪の人物──対象E。

 すでに日は落ち、周囲は夜闇に包まれているというのに、彼女の周りだけが燐光を放ち、煌々と輝いていた。かつて配信画面越しに見た、あの魔法陣の輝きそのものだった。

 

「本部より各員! まもなく接触する! 手順は徹底せよ! まずは暗幕で視界を遮断! その中でネゴシエイターが対象Eとの対話を試みる! タレント『まほろば氏』は速やかに会場へ誘導しイベントを優先! 保護対象、森泉美は隔離して車両内にて保護! 抵抗した場合は薬剤の使用も許可する!」

 

 怒号のような指示が飛ぶ中、機動隊員が盾と暗幕を持って展開する。

 現場はすでにカオスだ。リアルチケット強盗未遂、海外の工作員と思われる人物、企業の産業スパイ。転売チケットが目の前で発火して消滅する怪奇現象の処理。

 柏原は胃の痛みを堪えながら、急速拡大する空の影を見上げた。

 

「おいおいおい! 減速しないぞ!?」

 

 誰かの悲鳴が上がった次の瞬間、三つの影は爆音と共に頭上を通過し、急制動をかけて会場の屋上へと降り立った。

 

「くそ! 屋上には屋根しかない! 出入り口はないはずだ、袋の鼠にして──」

 

『だめです! 現在、上空の報道ヘリから映像が入りました! ……消えました!』

 

「何だと!?」

 

『屋根を……透過して、そのまま会場内へ侵入! 止められません、すり抜けました!』

 

「イベントの開始が告げられました! それと同時に……まほろば氏が──マルタイが天井を通り抜けて、降りてきてます!」

 

 捜査本部を仕切っていた公安の本部長は、その無線を苦々しく聞きながら、天井を仰いだ。

 コンクリートと鉄骨で固められたドームの屋根を、幽霊のようにすり抜けたというのか。

 国家権力が敷いた重厚な包囲網は、たった三人の魔法使いによって、紙切れのように無力化されたのだ。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 まほろば⭐︎レン。バースデーフェスティバル。

『マジカルガールズコレクション1st』

 

《時間だ!野郎ども!》

《よっしゃぁぁーーー! レンちゃん応援するでー!》

《始まったんか? 肝心のレンちゃんはどこやー!》

《曲とモニターにワルプルギスのロゴだけが映っとる。これ事故?》

《現地班、うおおおおおおお!! やべぇ! 上! 上ぇぇぇ!》

《コメントは削除されました》

《ディレイはよ! もうすぐくるっ!? ネタバレすんなぼけぇぇええぇぇー!》

《速攻、コメ削除されてブロックされとる。運営仕事早すぎGJ!》

《うおおお! 天井から光が!? ガチ魔法での登場だ!! しかも、初手コラボの時のリアル姿とか!》

《変な外人とか警察が多数張ってたから、それ対策でギリ入場にした説》

《それな! 友達はひったくられたチケ入りバッグが、犯人逮捕済みで交番に届いてたらしい。日本の警察いつからそんな有能になった?》

 

『みんなぁーー! こんまほろばー! こんな姿でごめんね! 今日は〜! 私の全てを見てもらいたくて、この姿で来ちゃいましたー!』

 

《こんまほーーー!》

《レンちゃんむっちゃきれいすぎでしょ! 解像度どうなってんの!?》

《ミスティちゃんも神々しすぎ! やっば! これで性別ないとか、実質二度美味しいじゃん!》

 

『今日は昨日に引き続き、ゲストとして、私たち魔法少女の先生にして、異世界から来てくれた本当の大魔法使い! ミスティ先生が来てくれましたー!』

 

『ご紹介に預かり、光栄だよ。知っている人も知らない人もこんばんユグドラ! 僕はこの世界の魔法伝道者にして、みんなの先生、ミスティーだよ。今日は楽しんでいってくれるとうれしいな』

 

《こんゆぐーーー!》

《こんばんユグドラーー!》

《誰だ! ミスティちゃんはAIで作れるとか言ったやつ! このオーラを再現できるならやってみろーーー!》

《初手から飛行魔法に、透過魔法。ここからどんな魔法が飛び出るのか、ワクワクが止まらん!》

 

『さて、レンちゃんはリアルな姿も素敵だが、君たちの知るまほろば⭐︎レンに変わった方が、みんなも馴染みがいいだろう?』

 

『そうですね。この姿も嫌いではなくなったんですけど、やっぱりみんなのレンちゃんに帰ります』

 

『ここに大魔法使いがいるんだから、着替えの時間で待たせたりなんかはしない。さぁ! ここから本当の意味でのワルプルギスの夜の始まりだ! 驚嘆し、驚愕し、そして感動に魂を焦がしたまえ!』

 

『はい。先生! ここに咲く花は幻想の花。錬金とは金を生み出す秘術にあらず! 私が錬金するのはみんなの夢! そして希望! それらを集めてぇーーー! マホロバ⭐︎マジカル⭐︎ルルリラルー! 魔法少女を愛するみんなの時間を、幸せに──れーーーんきん!』

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 その瞬間が訪れた時、会場にいた人間も、放送を見ていたリスナーも、時間が止まったような錯覚を覚えた。

 人は、魂の底から仰天し、思考の許容量を超えた事象を目にした時、言葉を失うのだと初めて知った。

 

 ──直後。

 

 ドームが揺れた。

 比喩ではない。人々の歓声という物理的な振動が、会場を爆発させたのだ。

 配信を見ていたリスナーたちも、近所からの壁ドン(物理)も構わずに絶叫し、その場で足を踏み鳴らした。

 

『改めましてーー! こんまほろばーー⭐︎ リアルの私をみんなの力でーー! まほろば⭐︎レンに錬金! 魔法錬金少女のまほろば⭐︎レンです! こんまほー! こんまほー!』

 

 一瞬の発光と共に現れたのは、まほろば⭐︎レンその人だった。

 最新鋭の3Dホログラムでも、高精細な立体映像でもない。

 照明を浴びて落ちる影の濃さ。激しい動きに合わせて揺れる髪の質量。マイクが拾うわずかな吐息。そして何より、モニター越しでは決して伝わらない「生命の熱量」が、最前列の観客を直撃していた。

 そこに「絵」ではない。確かな体温を持った、本物の『まほろば⭐︎レン』が立っていたのだ。

 

《画面の向こうからレンちゃんが……!!》

《あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 何で俺は会場にい゛な゛い゛!!》

《うええええ! 我らのご主人様が画面から本当に飛び出してきた!! これが魔法! これが真の魔法少女!! さいこぅーーーー!》

 

 レンの後ろに設置された巨大モニターには、会場に来ることが叶わなかったリスナーたちの阿鼻叫喚の声が流れる。

 運良くリアチケを勝ち取った現地組の優越感が煽られ、会場のボルテージは限界を突破していく。

 

『みなさんどうですかー! ミスティ先生にお願いして、現実へと来ることができました! ミスティ先生には、本当に……ほんどうに゛……ありがどうございまず!』

 

 感極まって涙ぐむレンに、会場の至る所から「レンちゃん泣かないでー!」「ミスティ先生ありがとう!」といった温かい声援が飛ぶ。

 

 ミスティもその声に応えるように、背中から妖精のような燐光を放つ蝶の羽を広げ、空中をくるりと一回転して笑顔で手を振った。

 

『ぐじゅ……さ、さらにですねー! ワルプルギスのみんなー!』

 

 その掛け声と共に、会場は水を打ったように静まり返る。期待による静寂だ。

 

『あら、みなさま。こっちの世界では初めましてかしら? ワタクシ、胡蝶の魔女の【夢幻カスミ】と申しますの。どうぞよしなに』

 

『Bouquet on Walpurgis Night〜♪ あらあら、みなさん、今日はレンちゃんの誕生会に来てくれてありがとうございますね。わたしの名は、【歌の魔女】シンガー・ムジカ……、さぁ、お歌の時間はご一緒しましょうねー? 可愛い坊やたち』

 

『人がいっぱいなのだ! 私は【花の魔法少女】のララなのだ! みんなの心にある花は何色なのだ?』

 

『みみうぅー! 人間がいっぱいで人酔いするのですぅ……。今、UMAって言ったのは誰にぅ!! こう見えても【魔法界の大妖精の予定】! みーまう・ザ・グレート・エレガント・グレート・ザ・ライトニングという立派な名前がぁぁぁー!』

 

『こらーー! せっかくの誕生日に嘘つかないの! みーまう! 錬金で作ったクッキーあげないからね!』

 

『それは困るのですー……しょうがない。【魔法使いの相棒】みーまうなのです! 人間ども仲良くしてやるのです!』

 

 フリルのついた着物をきた淑やかな女子高生──夢幻カスミ。

 妖艶ながら母性溢れる美女──シンガー・ムジカ。

 花冠をつけた元気一杯の幼女──ララ。

 そして、ずんぐりむっくりとしつつも愛くるしい謎生物──みーまう。

 

 次々と現れるメンバーたちは、もちろんバーチャルではない。

 五人が実体を持って舞台に勢揃いした瞬間、再び会場が大爆発を起こした。

 

『さて、一期生全員が揃ったところで、みんなに重大発表があります。みんなーこれが気になってたよねー』

 

 レンが指差した背後の巨大モニターには、teamワルプルギスのHPと同じカウントダウンが表示され、残り時間は一分を切っていた。

 会場中から「きになるーー!」というノリの良い返事が返ってくる。

 

『それじゃー、みんなでカウントダウンをしてみよう! 10秒から行くよー』

 

 レンが耳に手を当てて観客を煽ると、黄色い声援が飛び交う。カウントは10を切った。

 観客が数字を叫ぶたび、メンバーたちが思い思いにポーズを決める。

 

『5!』

 カスミが高々と手を上げ、

『4!』

 ムジカが艶然と微笑み、

『3!』

 ララが全身で数字を表し、

『2!』

 みーまうが短い両手を必死に上げる。

 

『1!』

 最後にまほろば⭐︎レンが、可愛らしくウインクを決め、指を天に突き上げた。

 

『「0!!」』

 

 メンバーと観客の声が一つになった瞬間、無数の光の玉が弾け飛び、会場全体を幻想的な光で包み込んだ。

 そして巨大モニターには、五人のシルエットと、それに続く無数の人影が映し出された。

 

《teamワルプルギス》改め……

《新生ワルプルギスの夜会!》

 

 夜想曲メンバー、一期生。

 まほろば⭐︎レン

 夢幻カスミ

 シンガー・ムジカ

 ララ

 補欠、みーまう

 

 最後の『補欠』の文字に、みーまうだけが地団駄を踏んで抗議している。

 観衆は事務所名の変更に一瞬どよめき、よくある話だと納得しかけた。

 だが、最後に表示された文言が、その場にいる全員の度肝を抜いた。

 

『特別監修、魔法指導。ミスティア・フル・ローゼユグドラ』

 

 会場が驚愕の絶叫で揺れる中、当のミスティアは、すでに忽然と姿を消していた。

 羽が残した微かな燐光だけを、ステージの上に残して。

 

 

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