公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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第十話『出禁とスケベワークス』

 俺とれぼ☆いりゅーじょんは、横並びの切り株に隣り合わせで座っていた。

 

 れぼさんは太ももを支えに頬杖を突いた姿勢で、俺に顔を向けている。

 ゲーム時代のコスチュームに比べて、肌の露出具合は遥かに少ない。

 髪の毛も、ロングだったのがショートカットになっているのが印象的だった。 

 

 ネカマが目的だったゲーム時代とちがって、肌露出常識的かつボーイッシュないでたちだ。

 おそらく、本人が意図してそうしているのだろう。

 

 ……れぼさんはたしかにネカマが趣味ではあったけど、女性化願望があるわけじゃないと本人が言っていた。

 彼女さんもいたし、たぶんそれは真実なのだろう。

 

 なら、ゲームアバターが実際の肉体となった今。

 きせずして性転換してしまったであろう現状を、れぼさんはどう受け止めているのだろうか。

 

「ジョージさんは……変わらないですね。

 ……姿も性格も、あの頃のままです」

 

 俺がそんなことを考え、どう話を切り出せばいいか悩んでいると。

 れぼさんがそう口火を切ってきた。

 

「あー……まあ俺は、この世界に来てから何ヶ月かしか経ってないからね。

 ……ちなみに、れぼさんは?」

 

「わたっ、けほん……オレは、七年前ですよ。

 つまり、92人目の“プレイヤー”ということになります。」

 

 れぼさんは、咳ばらいをしながら言った。

 七年……七年か。

 けして、短くない時間だ。

 この世界に俺たち──“プレイヤー“と呼ばれる存在が現れ始めたのは、百年ほど前のことだという。

 

 それが年にひとりのペースでやってきているらしいから、そう考えると、れぼさんと俺の時期が七年しかずれていないのは、幸運と考えられなくはないかもしれない。

 

「その……大変だったんじゃない? いろいろと」

 

 俺が、れぼさんの胸あたりに視線をさまよわせながらそう訊くと。

 れぼさんはいたずらっぽく笑って、腕でその双丘を軽く持ち上げながら「まあ、最初はそりゃ大変でしたけど……性別の変化そのものには、一年そこそこで慣れましたよ」といった。

 

「ふーっ……ほんとに困ってることは、また別にあったり……」

 

 もじ、とジーンズの膝をすり合わせて、れぼさんは熱い吐息を吐いた。

 

「え、なに? 困ってることって」

 

「……まあ、今はそんなことどうでもいいんですっ。

 ほら、再会を祝して、乾杯しましょう!

 この世界の、たっか~いワイン持ってきましたから!

 とある酒好きのエルフから譲ってもらった、なんと150年物の逸品です!」

 

「お、おう……エルフとかいるんだな……」

 

 れぼさんが、アイテムボックスから取り出したいかにも高級そうなワインをきゅぽんっと開けて、グラスに注ぐ。

 そして、真っ赤な色をした液体がちゃぷりと揺れるそれを「どうぞ」と差し出してきた。

 

 複雑に絡み合ったフルーティな香りが、鼻腔を突き抜ける。

 こんなに上等なワイン、リアルじゃ呑むどころかお目にかかったことすらないかもしれない。

 

 150年物とか言ってたな。わかりやすくファンタジーチックな醸造年数だ。

 こんな軽々しく開けていいものだろうか……

 

「ジョージさん?」

 

 俺がぼーっと、ワインを眺めていると。

 グラスの向こう側から、れぼさんが目を細めて覗き込んでくる。

 (あで)やかな色をした紫色の瞳が、ワインの中で揺れているように見えた。

 

 ……やばいやばい、一瞬どきっとしてしまった。

 

 俺はとっさに、リアルのれぼさん(“泣きぼくろがまぶしい高身長爽やか王子様系イケメン”)を頭に浮かべて、煩悩を振り払ってから。

 れぼさんが差し出してくるグラスを、受け取った。

 

「へへ、かんぱ~いっ!」

 

「か、かんぱ〜い……」

 

 チンっ、と硬質な音。

 れぼさんはすぐに、グラスをいっきに傾けて飲み干してしまった。

 白い、滑らかな喉が、ごくごくと震えている。

 

「ぷはあっ……」

 

「おいおい……そんな呑みかたするなよ……

 そのほっそい体でワインなんてイッキされると、不安になんだけど……」

 

「オレの酒の強さ、忘れました? 

 こんなの、ほろ酔いみたいなもんですよ〜」

 

「つってもさあ」

 

 れぼさんはそう、空になったグラスにワインをつぎ足しながら。「……それに、ジョージさんが俺から聞きたいような話題をするには、お酒でもないと。」といった。

 

 そうだ──俺には、れぼさんに聞かなくちゃいけないことが、無数にある。

 

 この世界を、暴君の様に荒らしまわっているという、“プレイヤー”たちについて。

 

 ……そして、エーケーさんをはじめ──この現実化した『R:E.O.』 の世界にやってきているかもしれない、俺の知り合いについて。

 

 俺の七年前にこちらにやってきたれぼさんは、それらについて知っている可能性がある。

 

「れぼさん。この世界のことを、俺に教えてくれ。」

 

 ワインで唇を湿らせてから、れぼさんの目を見て()く。

 するとれぼさんは、小さくうなづいて口を開いた

 

「その前に、ジョージさん──つかぬことを、聞くんですけど。

 現実(リアル)での親兄弟の名前って、覚えてますか?」

 

「え……そりゃまあ、覚えてるけど」

 

「……じゃあ、ふとした時に殺戮衝動(さつりくしょうどう)がめばえたり……

 モンスターを倒したあとに、自分の中で歯止めがきかなくなるような感覚はないですか?」

 

「ない……と思うけど?」

 

 意図がよくわからない質問に、俺が困惑しながらも答えると。

 れぼさんは安心したようにため息を吐いて「よかった……“アバター同化”は、ほとんど進んでいないみたいですね」とこぼした。

 

「“アバター同化”……?」

 

「ジョージさん。

 オレたち“プレイヤー”は、レベルを100でカンストさせるまでに。 

 数えきれないモンスターや NPC、そして他プレイヤーを殺してきましたよね。」

 

「そりゃあ、ゲームだし」

 

「でも、今はゲームじゃない」

 

 れぼさんは、自分の胸に手を当てて続ける。

 

「……つまり、オレが言いたいのは。

 今オレたちの体となっているこのアバターは、少なく見積もっても数千以上の命を奪ってきた()()()()()()()()で……

 オレたちの精神は、その肉体の記憶に、だんだんと引っ張られてしまう、ということなんです。」

 

「アバターに、精神が引っ張られる……?」

 

「それを、オレは“アバター同化”と呼んでいます。

 この世界にきている“プレイヤー”たちは、その影響で……

 残虐な行為を、それこそゲーム感覚でするようになってしまうケースが後を絶ちません。」

 

「……マジ?」

 

「マジなんです。

 この世界は今、そのせいで、しっちゃかめっちゃかになってます。」

 

「しっちゃかめっちゃか……」

 

 俺は自分の手を──いや。アバター『ジョージ・スケベワークス』の両手を、まじまじと見つめる。

 

 じゃあ、俺もやばいじゃん……

 

 俺も他プレイヤーの例にもれず、ゲーム時代にこのアバターを使って、おびただしい数の敵を葬ってきている。

 

 ……むしろ、ゲーム時代の俺は四面楚歌。

 敵殺害数(キルスコア)でいえば、並みのプレイヤーとは比較にすらならない。

 

 れぼさんいわく、ゲーム時代に敵を殺した数が多いほど、それに引っ張られて暴力性が増すというから。

 その点俺は、かなり危ないってことになってしまう。

 

「……ちなみに、その“アバター同化”ってのが進行しやすくなる条件とか、あるわけ?」

 

 俺の問いにれぼさんは、わずかに眉をひそめて答える。

 

「……オレの知る限り、精神に多大な負荷(ストレス)がかかると、一気に進行することが多いです。

 過酷な戦闘だったり、トラウマを思い出したり……

 逆に、ストレスさえかからなければ、アバター同化の進行速度はほぼ知覚できないほど緩やかにとどまることが多いです。」

 

 その言葉に、俺は顎に手を当てて考える。

 

「なるほど……つまり、ストレスフリーな楽しい生活を送ればオーケー、ってことだな?

 なーんだ。そんなに難しく考えることないな」

 

「あはは……いつだって前向きですよね、ジョージさんは。

 オレは、あなたの、そういうところに……」

 

「それだけが取り柄なんでね、俺は」

 

「……そんなこと、ないんだけどなあ」

 

 れぼさんは乾いた笑いを浮かべて、ふたたびワインを(あお)った。

 ながながと話しているうちに、もうあっちは四杯目だ。

 さすがに酔いが回ってきたのか、目つきがやや()わっている。

 

「そういや……れぼさんは、大丈夫そうだよな?」

 

「……ん。なにがですかぁ……?」

 

「“アバター同化”ってやつ。

 れぼさんも、ゲームの時とそんなに変わってないなって……」

 

 俺がそう言うと、れぼさんは。

 酒気に赤らんだ顔で、じいっと俺を見てきた。

 

 穴が開きそうなほどに。

 

 瞳の奥まで、見透かそうとするように。

 

「……」

 

 視線がかち合う。

 

 潤んだバイオレットの瞳と、赤みの目立つ白い肌が、果てしなく色っぽい。

 そしてその瞳の奥に、どこか危うい光がチラついたような気がした。

 

「へえ……? 大丈夫に見えるんだ……

 こっちは、再会した瞬間から必死に抑えてるってのに……

 ほんと、気楽なひと……」

 

 れぼさんが、口の中でぼそぼそと何かを呟いている。

 俺はそれに違和感を感じたが、これまでなんとなく避けてきたとある質問をするべく。

 

 れぼさんの放つ奇妙な空気をあえて気にせずに、口を開いた。

 

「れぼさん……エーケーさんは、どうしてるんだ?

 多分、こっちの世界に来てるよな。」

 

 俺たちふたり共通のフレンド。

 転移した時、一緒にクラン拠点のBARにいたエーケーさんについて。

 俺が聞くと、れぼさんは、ぴたりと動きを止めた。

 

「…………」

 

 れぼさんの顔は赤らんでいるが、その目はぽーっと虚空を見つめ、焦点を結ばない。

 しばらくさまよっていた視線は、やがて俺の手元のワイングラスに定まった。

 

「ワイン……」

 

「れぼさん?」

 

「……ジョージさん。

 ワイン、あんまり呑んでないですね。

 お口に合わなかったですか?」

 

「あー、いや。

 これは、なんかもったいなくて……」

 

「へへ……じゃあ、オレが呑ませてあげますっ」

 

「あっ?」

 

 ひょいっと。

 俺の手からワインの入ったグラスを取り上げて、自分の口に含むと。

 

「ん……」

 

 れぼさんは俺の顔を、両手でがっちりホールドして。

 ──口移しで、俺の口の中にワインを流し込んできた!

 

「んん〜〜〜!?」

 

 やわらかい唇を通して、ワインとれぼさんの香りがなだれ込んでくる。

 至近距離。長いまつ毛、その隙間から見つめるラピスラズリみたいな瞳、小ぶりながらスッとすじの通った鼻。

 目と鼻の距離でも、毛穴ひとつ見えないきめ細やかな肌を持った銀髪の麗人が。

 

 顔を真っ赤にして、俺に口づけしている。

 

 どんっ! と。

 俺は思わずれぼさんを突き飛ばした。

 わけがわからなかった。 

 こういう酔い方をする人じゃなかった。

 

 俺に突き飛ばされたれぼさんは。

 数歩たたらを踏んだあとに、唇の端からこぼれたワインを舌でなめ取りながら、妖艶にわらっていた。

 

「ふーっ……ふーっ……

 あはっ……突き飛ばすことないじゃないですかあ。

 傷つくなー……」

 

「れ、れぼさん、酔いすぎじゃない……?」

 

 れぼさんの様子がおかしい。

 鼻息が荒く、獣みたくぎらついた目で、俺を上目に見ている。

 声色は媚びるように上ずっていて、まるで先程までとは別人のようだ。

 

「あーっ……かわいい……」

 

「ちょっ」

 

 俺は、ふたたび近寄ってくるれぼさんを、突き放そうとしたが──先んじて手首を捕まれ、阻止されてしまう。

 

 そして逆にぐいっと引き寄せられ。

 黒ニットに包まれたその豊満な胸に、むぎゅぅぅぅ、と無理やり手を押し付けられた。

 

 その柔らかな感触に呆気に取られた瞬間、俺の視界がひっくり返る。

 掴まれた腕を起点にして、地面に組み伏せられたのだ。

 

 あ、そういやれぼさん、総合やってたっけ──

 そんな現実逃避にも近い考えが頭をよぎっているうちに、俺は押し倒され。

 れぼさんは、恍惚とした表情でその上に(またが)ってきていた。

 

「や、やめろぉ……!」

 

「はあ……っ、好き……大好き……♡」

 

 ご、語尾にハートが付いてやがる……

 これじゃまるで、本物のサキュバスじゃねえか──

 そう悪態を吐きかけて、俺はあることに思い至る。

 

(今ホンモノのサキュバスだ、こいつ!!!)

 

 ──"アバター同化"。

 先ほどれぼさん本人から聞いた現象を思い出す。

 『アバターに精神が引っ張られる』と、そう言っていた。

 

 ならば。

 このサキュバスアバターで、七年の時を過ごしたれぼさんは。

 精神もまた、淫魔(サキュバス)にひっぱられているのではないか?

 そして今、酒も相まってその本能が抑えきれなくなり、俺に襲いかかっていると。

 

 色々と合点がいく。

 おかしいと思ってたんだ。

 俺と話しているとき、しきりに太ももをすり合わせたり、妙に熱い吐息を吐いてたり!

 

「れ、れぼさん……れぼさん、待って!

 ほんとに! 頼むから! ヤバイってそれは!」

 

「へへ……へへへぇ……

 ジョージさんが、ジョージさんが悪いんですっ。

 こんな、こんな無防備な顔して、オレの前に座ってるからっ……!」

 

 カチャカチャと、俺のズボンのベルトを外そうとしているれぼさんの表情はだらしなく緩み、もはや普段の理性は感じられない。

 

 ──やばい、マジで喰われる。

 アッチの意味で。

 

「どうして、だめなんですか……?」

 

「お、男同士でしょうが!!!」

 

「んへへ……今は女ですよ……♡

 あ……()()してみます……?」

 

「か、確認だとぉ……!」

 

「ゲームの時には、CERO的に再現されてなかった部分まで、バッチリです……♡」

 

「せ、CERO的に再現されてなかった部分だとぉ……!」

 

 ごくり……!

 このサキュバス、スケベすぎる……!

 

 一瞬生唾を飲みかけたが、すぐに正気に戻る。

 だめだ! れぼさんは俺の数少ない友だち!

 この一線を超えると、大切なものがいろいろな意味で壊れてしまう!

 

 華奢なのに凄い力だ。

 力いっぱい振りほどこうとするが、俺は斥候(スカウト)職で向こうは戦士職。

 いちど捕まってしまったら、筋力差でそれはできない。

 

 万事休すか──!?

 

 俺が苦渋の表情をしながら、れぼさんに身を委ねかけた、その時。

 地面でぐんずほぐれつになっている俺とれぼさんに、近づく影がひとつ。

 

「……ジョージ。なに、ソレ?」

 

「よ、ヨルルちゃん──」

 

 オルドまんじゅうを片手に、そのへんをピクニックしに行っていたヨルルちゃんが、帰ってきた。

 

「…………」

 

 ヨルルちゃんは、俺に覆いかぶさっているれぼさんを、いつもの無表情で一瞥すると。

 

「ヨルルのだから、さわるな」

 

「ぶべらぁっ……」 

 

「れぼさーん!?」

 

 べちぃんっ! と。

 無造作に振りかぶったビンタによって、れぼさんをぶっとばした。

 

 ソニックブームみたいなのを発生させながら吹っ飛んだれぼさんは、ド〇ゴンボールみたいな勢いで、木々をいくつかぶち抜いたあと。

 その先にあった巨岩にめり込んで、ようやく止まった。

 

「か、かふっ……」

 

「れぼさーん!」

 

 俺は、岩盤に穿たれたクレーターの中心で虫の息になっているれぼさんにかけよる。

 

 れぼさんからは、先ほどまでの発情しきった雰囲気は感じられず、意識が朦朧としているのか虚ろな瞳で浅い呼吸を繰り返していた。 

 

 カンストした戦士職がワンパンでこれである。

 さすがヨルルちゃん、DLCレイドボスは伊達じゃない。

 

 

 

 

  ※

 

 

 

 

「ごめんさい……ごめんなさい……

 オレ、こんなつもりじゃ……」

 

 十数分後。

 ヨルルちゃんにズタボロにされたことで、正気を取り戻したれぼさんは。

 地面に正座して、ひたすら謝罪を繰り返しながら、ひんひんと泣いていた。

 

「れ、れぼさん……」

 

 俺が、座り込むれぼさんの肩に手を置こうとすると。

 れぼさんは、がばっと顔を上げて俺に言う。

 

「ふ、普段はこんなこと無いんです! 

 これまでは、ガマンできてたんです!」

 

 半泣きで、弁明するようにれぼさんが叫ぶ。

 

「で、でも、サキュバスの脳みそって、男に対する"Like"と"Love"の区別が付かなくって……!

 ジョージさんのこと、人として大好きってだけだったのにっ。

 話してる内に、どんどん区別がつかなくなってっ。

 顔を見てるだけで、我慢できなくなっていって……!」

 

 両手で自分の顔を(おお)い、消え入りそうな声で、れぼさんはすすり泣いていた。

 

「気持ち悪いですよね、こんなの……

 オレも最近、自分自身のことが、よくわからなくなってて。

 ……オレ、もうジョージさんの前から消えます。

 どうか、それで許してください……」

 

 れぼさんは、そう言うと。

 重々しく立ち上がって、俺に背を向けてとぼとぼと去っていこうとする。

 

 ただでさえ細くなった背中を、さらに小さく丸めるようにして。

 

「れぼさん、待ってくれ」

 

 俺がそう呼びかけると、れぼさんは肩を跳ねさせ。

 びくつきながら、首だけを振り向いた。

 

「……はい、ジョージさん」

 

 ──"なにも、言わないでほしい。"

 ──"あなたから言葉で突き放されたら、耐えられない。"

 

 怯えの色が滲んだれぼさんの瞳は、そう言っているように見えた。

 

 俺は、立ちすくみ(ちぢ)こまっているれぼさんへと歩み寄って、口を開く。

 

「その……急にああいうことされたのは、ちょっとびっくりしたけどさ。

 せっかく再会できたんだから、消えるとか言わないでくれよ」

 

「で、でもオレ……無理やりなんて、人として最低なことを、ジョージさんに……」

 

「いや……まあ、サキュバスだし……」

 

「そ、それにっ。

 一緒にいたら、またガマンできなくなって、ジョージさんのこと襲っちゃうかもだし……!」

 

「その時はまあ……

 また、ヨルルちゃんにひっぱたいてもらえば、正気に戻るんじゃない……?」

 

 ちら、と。

 俺は、横で仁王立ちをしているヨルルちゃんを見た。

 

「ね、ヨルルちゃん」

 

「…………」

 

 ヨルルちゃんは、なにも言わずに、口をへの字にして。

 地面に正座するれぼさんを、普段より3割増ひややかな表情で見下ろしている。

 

「あの……そういえば、その子って……?

 なんか、プレッシャーがすごいし、レイドボスって出てるんですけど……」

 

 冷水のように降りかかり続けるヨルルちゃんの視線に耐えかねたのか、れぼさんはおずおずとそう質問してきた。

 

「ああ。この子ね、ヨルルちゃん。

 ひとまずその認識で大丈夫。

 ほら、れぼさんにこんにちはして。」

 

「…………」

 

「あっ舌打ちした!? 

 こらっ、ヨルルちゃん!」

 

 れぼさんからぷいっと顔を背け、不機嫌さを隠そうともしないヨルルちゃん。

 俺が「だめでしょ!」と叱りつけるも、ヨルルちゃんは目端でれぼさんを睨みつけるだけで、返事のひとつもしない。

 

「……まあ、ヨルルちゃんと俺の出会いを説明するとながーくなるから、一旦置いといて。

 さっきのこと、俺はほんとに気にしてないからさ。

 れぼさんさえ良ければ、また一緒にやってかない?

 ゲームの時みたいに」

 

 そう言い、俺がれぼさんに手を差し伸べると。

 

「う……う……」

 

 れぼさんは、目をうるうるとさせながら、感激したように肩を震わせ──

 

「じょ、ジョージさあんっ!」

 

「ちょっ……」

 

 がばっと、俺に抱きついてきた!

 

 俺はさっきの件を思い出し、とっさに引き剥がそうとしたが……

 

「オレっ……ずっとこわくて……! 

 これまで、ゲーム時代の知り合いにもほとんど出会えなかったし、会えたとしてもみんな人が変わっちゃっててっ……

 オレ自身も、どんどん自分が自分じゃなくなっていくのがわかるし……!

 いつか、ジョージさんたちのこととかも忘れちゃったらどうしようって考えたら、震えが止まらなくて……!」

 

 れぼさんは、ずぴずぴと鼻をすすりながら、俺の胸に顔を押し付けているだけだったので。

 無理やり引き剥がすのはやめて、俺はしばらくされるがままに甘んじることにした。

 

 よしよし、と。

 巻きツノが生えたれぼさんの銀髪を撫でると、さらに強く胸に頭を押し付けてきた。

 

「……あ」

 

 その時、俺はあることに気がつく。

 ずぴずぴ泣きながら、俺に抱きつくれぼさん。その背後に、先ほどよりも更に冷たい目になったヨルルちゃんが、佇んでいることに。

 

「…………」

 

「んえっ……?」

 

 ヨルルちゃんは、恐るべき腕力で、俺かられぼさんを引きはがすと。

 

「んええええっ!?」

 

「ちょっ……ヨルルちゃん、なにやってんの!」

 

 ハンマー投げのようにれぼさんを振り回して、空の彼方まで(ほう)り投げてしまった!

 

「れぼさーん!?」

 

 ──なにやってんのヨルルちゃん!?

 

 キラーンッ、と。

 空の彼方に吸い込まれていったれぼさんを尻目に、ヨルルちゃんはすっきりしたような顔になっていた。

 

 その後、俺が落下予測地点へと全速力で向かい、死にかけのヤ〇チャみたいな体勢で地面にめりこんでいるれぼさんに回復薬をかけることで。

 なんとか、事なきを得たのだった……

 

「ヨルルを、なでたほうがいいとおもう。

 ヨルルは、キャラデザがいいので。」

 

 とか言いながら、ヨルルちゃんが俺に頭を差しだしてきたが、無視して15分ほど説教をした。

 れぼさんがとくべつ頑丈なサキュバスだから良かったものの、加減を間違えたら取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

 

 説教の最中、ヨルルちゃんはへちゃむくれみたいな顔になっていた。

 以外と顔に出るんだよなこの子……

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