公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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第十一話『発情とレベリング』

 ──ガタッ、ガタガタガタ!

 倒れた椅子に、ぐるぐるに縛り付けられた状態のれぼさんが、暴れている。

 五重に重ねた拘束用アイテムのロープがぎりぎりと悲鳴をあげていた。

 

「フーッ……フーーーッ……!」

 

 布を噛まされ言葉を発せない状態で、潤んだ紫玉の瞳を俺に釘付けにしながら。

 縛られた椅子ごと身をよじって、こちらに近づいてきている。

 

「れぼさん頑張れ……! 

 お前ともあろう男が、性欲なんかに負けるんじゃない!

 心までサキュバスになるな! 

 心までサキュバスになるんじゃない!」

 

「う"ー! う"う"う"ー!!!」

 

 俺とれぼさんがこんな、きったねぇ鬼〇の刃みたいな状況になっているのには、もちろん理由がある。

 

 日に数度おとずれる、れぼさんの()()だ。

 ふたりで話している時などに、れぼさんからの返事がなくなったり、ぽーっとした顔になっていたら危険サイン。

 

 そういう時はたいてい、3秒以内にはサキュバスモードとなって、俺に襲いかかってくる。

 なので、その時点でヨルルちゃんを呼んで、れぼさんを気絶させてもらうというのが……

 ここ数日ですっかり、この集落でおなじみの光景となっていた。

 

 しかし、たまに気絶から意識を取り戻しても、サキュバスモードから戻っていない時がある。

 そういうことがあってからは、れぼさんを気絶させた後は、目が覚めるまで、なにかに縛り付けておくようになった。

 

 今もまさにその状態だ。

 

「………………………! 

 もごっ……もがもがもが!」

 

「おっ……いけるか……!?」

 

 れぼさんがなにかを喋ろうとしているので、試しに口に噛ませた布を外してみる。

 

「ぷはぁぁあああっ……

 っもうっ……えっちしたいぃぃぃ!!! 

 ねえええっ! もう、だめなの。我慢できないのっ!!!

 ……くそぉっ……これっ……はずせよこれぇ! えっち! ひとりですら! できないだろうが!!! 

 3時間もできなきゃ頭おかしくなるんだよこっちはよぉ!!!

 つーか、縄で縛るなら縛るでもっとアガる縛り方ってモンがあるだろうがぁ!!!!!!

 はあっ、ジョージさんっ、いいでしょ!?

 ……ね? ねっ!?」

 

「ヨルルちゃん、おねがいします」

 

「んい」

 

「んぁあっ!?」

 

 スパァン!!! という破裂音とともに、ヨルルちゃんのビンタが、れぼさんの意識を遥か彼方へとふっとばした。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 木製のテーブルの上には、高級イタリアン顔負けの小洒落た料理が所狭しと並べられている。

 

 見たことががない具材がたくさん入っているが、それはともかくにんにくの匂いが食欲をそそるアヒージョ。

 これまた見たことがない魚介がごろごろのパエリア。

 サル……なんとかというらしい、トマトの冷製スープ。

 その他にもバラエティ豊かな料理が、俺の前に並んでいる。

 

 れぼさんが、アイテムボックスから取り出した食材で作った料理の数々だ。

 

「れぼさんって……つくづくハイスペだよな……」

 

「一時期、地中海料理に凝ってて……」

 

 俺がそう漏らすと、フライパンやらコンロやらの料理道具をアイテムボックスにしまっていたれぼさんが、照れくさそうにはにかんだ。

 

 エプロン姿なのも相まって、ここだけ切り取ると、まるで美人で料理上手な若妻のようだ。

 ……ほんとうにここだけ切り取ればな!

 悲しいかな、こいつの正体は性欲おばけのネカマサキュバスである。

 

「あ……たくさん作ったので、よければみなさんもどうぞー!」

 

 れぼさんがそう呼びかけると、遠巻きに様子を伺っていたヨルルちゃんファンクラブ(仮)の人々が、匂いに引き寄せられるように近づいてきた。

 

「わ、私どももいただいてしまってよろしいのですか……?」

 

「あはは、どうぞ遠慮せず! 

 素人料理で恐縮ですが……」

 

「お、おお……!」

 

 サキュバスであることをわすれてしまいそうになるほど爽やかな笑顔で、れぼさんが小皿を配っている。

 

 うーんこの好青年。

 いや、今は青年じゃないんだけども。

 もはや多重人格なんじゃないのかこのサキュバス……

 思わずそう訝しんでしまうほどの変貌ぶりだ。 

 こいつをあんな状態にしてしまうサキュバスの性欲というのは、どれだけヤバイものなのだろう。

 

「ヨルルちゃん……だよね。

 いつもありがとうね。

 オレがおかしくなった時、止めてくれて……

 これ、よかったらどうぞ?」

 

「……んぃ。」

 

 れぼさんから、肉を抜いたアヒージョが盛り付けられた小皿を渡されたヨルルちゃんは。

 ぱくっ、と。無表情でにんにくの香りが染みた野菜を口に放り込むと、すぐに目を瞬かせた。

 

「んまい……」

 

 どうやら、お口にめしたようだ。

 

「じ、実家のシェフの料理より美味い……」

 

 女騎士のキュリヤさんは、れぼさんの手料理を口に入れて呆然としていた。

 どうやら彼女は元々、かなりいいとこのお嬢様らしい。

 自分がいかに結婚相手として優良物件であるかを、俺にアピールする時にそう言っていた。

 なぜか、ものすごく嫌そうな顔で。

 

「くそっ……顔も体も負けてる上に、料理上手だと……?

 ど、どうすれば……どうすれば自分はあのサキュバスからジョージを勝ち取れる……?

 みんな、自分は、どうすれば……」

 

 ぶつぶつと、キュリヤさんが深刻そうな顔でなにかを呟いているが。

 

 ……なんか今の俺って、ものすごく(いびつ)なかたちでモテモテだよな。

 

 DLCレイドボスのヨルルちゃん。

 TSサキュバスのれぼさん。

 好意はないっぽいのになぜか迫ってくる女騎士のキュリヤさん。

 

 こんなにたくさんの美女に囲まれたのは生まれて始めてだが、なぜだかそんなに嬉しくない。

 たぶん、それぞれに別ベクトルで、身の危険を感じるからだろうな。

 人生、ままならないもんだ……

 

「はあ……」

 

「ん……? ジョージさん、オレの顔になにかついてますか?」

 

「いや、べつにぃ……?」

 

 俺は、れぼさんの顔から視線を外し、深い溜息を吐きながらアヒージョを口に運んだ。

 

 ……思わずうなりそうになる。

 マジでなんでもできるんだよな、こいつ……

 

「へんなジョージさん」

 

 れぼさんは、そんな俺を見て、楽しそうに笑った。

 その笑顔が不覚にも可愛くて、ついついどきっとしてしまう。

 畜生……!

 こいつが、ネカマサキュバスでさえなければ……! 

 

 

 

 ※

 

 

 

「レベル上限の開放……ですか?」

 

「そうそう。俺のレベルを見てくれ」

 

 俺はそう言い、れぼさんに自分のステータス・ウインドウを見せた。

 そこの上の方には、『レベル:101』という文字が記されている。

 

 れぼさんはそれを認めると、ひゅっとか細い息を漏らした。

 

「……これは、大事件ですよ。

 この世界の歴史に、R:E.O.プレイヤーがあらわれて100年近く……誰一人として、レベル100を超えたという話はありません……」

 

「その代わり、必要経験値も相当な量っぽいだけどな。

 これまでこの島で、軽く30体は討伐適正レベル100オーバーのモンスターを倒してきたけど……

 まったく、次のレベルに上がる気配がない」

 

「……なるほど」

 

 れぼさんは、顎に手をあて、考え込むように目を閉じる。

 

「この世界で生き残っていく上で、(レベル)があるに越したことはありませんが……

 その一方、命の危険にさらされるレベルの激しい戦闘は、"アバター同化"が進行する要因のひとつでもあります」

 

 この島でのレベル上げには、リスクもあるということです。節度を考えなければいけません。

 れぼさんはそう言った。

 

 俺は頷く。

 "アバター同化"とやらが進行して、殺戮衝動が芽生えたりするのは、俺としても望むところではない。

 

「……それでも、だ。

 れぼさんも、多少はレベリングをしといた方が良い。

 この島のモンスターの強さはイかれてる。

 しかも、この島の外だって、他のプレイヤーたちが派手に暴れまわってるんだろ?

 多少のリスクは取ってでも、目先の危機は減らしとくべきだ」

 

「……そうですね。そのとおりだ。」

 

 れぼさんは、なぜかくつくつと笑う。

 

「それじゃあ、ジョージさん。

 また、オレのレベル上げにつきあってもらえますか?

 出会った時みたいに」

 

「おう、任せとけ。

 この島を引率して、安全にレベルを上げさせてやるよ。

 ……主にヨルルちゃんが!」

 

「そ、そこはヨルルちゃん頼みなんですね……」

 

「まかせとけ、れぼ。」

 

 俺が言うと、ヨルルちゃんは、でんっと胸を張って答えてくれた。

 心強いぜ……

 

 ヨルルちゃんは精神年齢が赤ちゃんなので、おいしいものをくれるれぼさんのことは、ひとまず気に入ったらしい。

 

「さあ行くぞふたりとも。レベリングの旅へ!」

 

「いえーい。」

 

「の、ノリノリだなあ、ヨルルちゃん……」

 

 そうして俺とれぼさん、そしてヨルルちゃんの三人は、森へと繰り出すのだった……

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