公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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第十三話『襲撃と失恋』

「アダルス卿! 『夜の島』、まもなく上陸します!」

 

「……ああ。ご苦労。」

 

 『夜の島』への往路。

 ネカマサキュバスに入れあげて人生を棒に振りかけているエリート聖騎士こと、アダルス=レム=リビオンは。

 部下に呼びかけられて、ゆっくりと瞼を上げた。

 

(不気味なほどに、近海の海が凪いでいるな……)

 

 彼と、部下たち100名ほどが乗ってきた中型魔導船は、何の障害もなく『夜の島』の海岸線へと乗り付けた。

 

 その島に、一歩踏み込むと。

 どろりと、そんな質感を感じてしまうほどに、大気の魔力粒子が濃いのがわかった。

 

「うっ……!」

 

 部下たちが即座に重度の魔力中毒を起こし、浜辺に保存食だったものを嘔吐するのを横目に見ながら。

 アダルスは、鋭い視線で目の前に広がる白黒の浜辺を睨みつけた。

 流木が無数に散乱している以外、生命の息吹きはまったく感じられない。

 

(肌がひりつく……なるほど。この島は、我々の踏み入って良い場所ではないようだな……

 れぼ☆いりゅーじょん様、どうかご無事で……)

 

 部下たちは、ごく一部の優秀なものを除いて今もげぇげぇと嘔吐しており、使い物になりそうになかった。

 

 アダルスはそれを無関心に一瞥する。

 この異常事態にあって、それでも彼の表情にはどこか余裕の色があった。

 

 その余裕の源泉は、彼の懐にある。

 アダルスは、十個ほどの白いチェス駒のような何かを、掌の中でじゃらりと確認した。

 

 それは、此度の先見調査の切り札として荒木Lから渡された、とある()()()()()()である。

 

(……貴重な"アヴァター・ドール"を十体も貸与されるとは……ヤツめ、何を想定している?

 一国家を軽く攻め滅ぼせる戦力だぞ……

 

 

 "アヴァター・ドール"。

 そのアイテム効果は、記録された"プレイヤー"と同等の能力値(ステータス)を持った分身体を生み出すというもの。

 

 それが、十体。

 一軍を軽くなぎ払う、最古の"祈り手(プレイヤー)"荒木Lと同スペックの分身体が、それだけの数、『夜の島』への派遣が決まってすぐにアダルスへと与えられた。

 

 単なる未開領域調査に対して投入するには、あまりに過剰戦力すぎる。

 その事実が、彼に余裕と同時に得体の知れぬ怪訝さをもたらしている。

 

「ぎ、ぁ」

 

「……なに、どうした?」

 

 アダルスが、荒木Lの意思を汲みかねていた、その時。

 部下のひとりが、木扉が軋んだ時のような声を漏らすと。

 

「ァアアアアッ」

 

「ぇ」

 

 甲高い声を上げて腕を振り回し、脇にいた同僚の()()()()()()()()()

 アダルスの頬に、生ぬるい脳漿が飛び散った。

 

「──!?」

 

 豹変した部下の、異常な腕力。

 

 アダルスは気がつく。その部下の右足に、これまで流木のように見えていたものが、ヘビのように巻き付いているのを。

 

 ──流木に擬態したモンスターに、寄生されているのか!

 

 アダルスはぞっとする。浜辺に無数に散乱している流木、これらすべてが危険なモンスターの可能性がある──。

 

「おい、足元の流木に気をつけろ!」

 

 それに気がついたアダルスは、部下に注意を促したが──時すでに、遅かった。

 部下の半数ほどは白目を向き、脚には木目状のヘビに似た何かが巻き付いている。

 

「ぐっ……!」

 

 アダルスは、自分の足元から飛びかかってきた木目状のヘビに剣を振るうが皮膚は硬く、両断には至らない。

 体の半ばまで食い込んだ蛇が痛みに身を捩った動きを、すんでのところで回避し、彼はなんとか体勢を立て直す。

 が、部下たちはどんどん同士討ちで数を減らしていく。

 

(なんなんだ、この島は──!?)

 

「まだ無事な者、私のあとに続け! この浜辺を突破する!」

 

 アダルスはそう叫び、懐の『アヴァター・ドール』のうち、二つを宙に投げた。

 

『────。』

 

『────。』

 

 実体化した、新城Lに酷似した灰色の2体の天使。

 彼女たちは即座に発生させた光の剣で、木目蛇に寄生された部下たちを切り捨てた。

 

 だがその隙を突かれ、十匹を超える木目蛇から一斉に群がられ、なすすべ無く蹂躙されていく。

 

「今だ! 突破するぞ!」

 

 背後でアラキエル=アヴァター2体が消滅するのを感じながら、アダルスと無事な部下たちは浜辺を駆け抜けて森へと向かう。

 ……その先に、さらなる地獄が待つとは知らずに──。

 

 

 

 

 森の中は、浜辺に負けず劣らずの魔境だった。

 

 黒い針葉樹の中を走り続けるアダルスの仲間が、黒い猿や狼の群れ、得体のしれない怪物たちになす術なく殺されていく。

 

 その過程で、いつしか十体あった『アヴァター=ドール』は残り三体となり、部下たちに至っては、百人近くいたのがアダルス含めて十人しか残っていない。

 

「お、おかしいよ……おかしいよ、こんな島……!」

 

 かちかちと歯を鳴らしながら口走った部下の泣き言に、アダルスも内心同意していた。

 

「……」

 

 アダルス自身の消耗は、皆無に等しい。

 

 他の部下たちと比べればアダルスの実力(レベル)は雲泥の差であり、『夜の島』の異常なモンスターの動きも、全く見えないという程ではなかった。

 

 だが、これまで無事だったのは、危機を感じるたびにアヴァター=ドールを身代わりにしていたからだ。

 これがなくなれば、自分も生き延びることは危ういだろう。

 

(残り三体のアヴァター=ドールを失うまでに、れぼ☆いりゅーじょん様を見つけなければ……)

 

 他の部下たちは、どうなっても良い。

 自分だって、最悪死んでも構わない。

 だが、れぼ☆いりゅーじょんだけは、この地獄から連れ帰らなければならない。

 

 ……れぼ☆いりゅーじょんは、アダルスの人生にとっての光そのものなのだから。

 

 彼がれぼ☆いりゅーじょんとはじめて出会ったのは、彼がまだ十六の少年だった頃だ。

 

 当時彼の家庭は、母親の不貞行為によって半ば崩壊しており。同じようにアダルスの心も荒んでいた。

 

 良家の令嬢であった若い母は、政略結婚をしたアダルスの父との関係性に飽き、若い騎士と駆け落ちしてしまったのだ。

 

 溺愛していた若妻の裏切りに、父は大いに嘆き。 

 酒浸りで、家族に拳を振るうようになってしまった。

 

(母上なんて、女なんて、大嫌いだ!!!)

 

 それに嫌気が差し、家出をしたアダルスが路地裏で泣いていた時に出会ったのが……

 

『えーと……きみ、大丈夫? 迷子なら、家まで送ってあげようか?

 ……といっても。オレも今、ここがどこだかわかんなくて困ってるんだけどね、あはは……』

 

 ──そこで手を差し伸べてくれたのが、月の化身が如き美貌のサキュバス。れぼ☆いりゅーじょんだった。

 

(れぼ☆いりゅーじょん様……!

 私が過酷な鍛錬を経て、ここまで強くなったのは、貴女のためなのです……!)

 

 ──血反吐を吐く訓練も、あなたの隣に立つためと思えば辛くはなかった。

 

 自らの原点を思い出しながら、無我夢中に走っている内に。

 気がつけばアダルスは、黒い針葉樹林を抜けていた。

 

「こ、ここは……?」

 

 アダルスと、残り僅かになった部下たちの目の前に広がっていたのは──小規模な、集落だった。

 黒い碑石を中心とした小さな寄り合いのようで、三十人たらずほどの人々が、原始的な暮らしを営んでいる。

 

(──夜の島へ流刑に処されたという敗残兵たちの、生き残りか!)

 

 アダルスはそう直感した。  

 なぜか、その一帯には怪物たちが寄り付く気配がなく、人々は安心して生活を営んでいる様子だった。

 

「あ、アダルス卿……! あそこで()()をしましょう……!」

 

 剣に手をかけ、血走った目で集落とアダルスを交互に見ている部下に、アダルスは首肯する。

 

 あの集落の人々との平和的な交渉は、望むべくもないだろう。

 アダルスたちは、彼らの国を攻め滅ぼしたエトランジェ教団国の装備をしているのだから。

 敵地における補給──すなわち略奪を敢行する他ない。

 

 アダルスは、十人足らずの部下を引き連れて、その集落へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ジョージとヨルル、れぼ☆いりゅーじょんが"れべりんぐ"とやらで集落から離れている時に、ことは起こった。

 

「……なんだ? あの連中は……」

 

 女騎士キュリヤは、日課の木剣による素振りを一時中断して、集落の南西に視線を釘付けする。

 

 キュリヤの視線の先。

 武装した、騎士の集団が集落の方へと向かってきているのだ。

 先頭に立つ金髪の美丈夫は剣を抜き放ち、臨戦態勢のように見えた。

 

 そして、彼らの纏っている騎士鎧の意匠──純白のプレートに金蔦があしらわれたデザインに。

 キュリヤは、心の水面下に鳴りをひそめていたどす黒い憎悪が、鮮明に蘇るのを感じていた。

 

「教団国の聖騎士が、なぜこの島に……!」

 

 教団国。

 キュリヤの呟きを聞いた周囲の男たちからも、殺気が漏れる。

 彼らもみな、教団国により祖国を滅ぼされた人々なのだ。

 その殺気が徐々に伝播していき、集落全体が一色に染まった頃には。

 その騎士たちは、集落の目と鼻の先まで近づいてきていた。

 

 キュリヤたち集落の住民と、アダルスらが殺気の火花を散らしながら向かい合う。

 

「──久しいな。敗残兵諸君。

 私は枢機騎士アダルス。

 早速で悪いが、この場所は教団国の前線基地とする。

 即刻、明け渡してもらおう。」

 

「黙れ、教団国の豚どもが! 今ここで、故国の無念を晴らしてやる!」

 

「そうか。残念だ。

 "説得"に応じないのなら、実力行使に出る他ないな。」

 

「出鱈目を!!!」

 

 裂帛の声とともに、キュリヤは木刀でアダルスの部下のひとりへと打ち込んだ。

 

 その騎士はキュリヤの気迫に押されながらも反応し、白刃で木剣と鍔迫(つばぜ)ったが──その瞬間キュリヤは木剣を斜めに反らせながら騎士の懐に飛び込み、顎に渾身の肘打ちを食らわせた。

 

「ぁがっ……」

 

「剣をもらうぞ……!」

 

 意識を刈り取られた騎士のひとりから剣を掠め取り、キュリヤは慣れた構えを取る。

 

「フウゥ……!」

 

 左右から同時に襲いかかってきた騎士ふたり。

 そいつらには、上体を大きくよじりながら水平に円を描くように剣閃を走らせ、同時にふたり分の喉笛を断ち切ってやった。

 

 噴水のように鮮血を吹き出しながら倒れる騎士ふたりには、武器を奪おうと集落の住民たちが殺到する。

 

 その様子を、枢機騎士アダルスは冷めた目で見ていた。

 

「……少し、動けるのがいるようだな。

 この魔力濃度の中で生活し続けたことで、肉体が強化でもされているのか?」

 

「はぁっ、はぁっ……! 

 枢機騎士がなんだ! 相手が"プレイヤー"じゃないのなら、自分にだってやれるはずだ!

 自分はっ……自分は、まだ戦えるはずだ!」

 

 キュリヤは、乱戦と化した集落の中心で、枢機騎士アダルスを見据える。

 

 この瞬間だけ、彼女の思考からすべての雑念が消え、目の前の戦いへと神経が集中する。

 

 "プレイヤー"への恐怖も。

 うっとおしく思ってきた、貴族子女としての生まれも。

 それを材料に、ジョージ・スケベワークスに下手くそなアプローチをして取り入ろうとしている、今の卑しい自分も。 

 

 全てが思考から立ち消え、キュリヤは生涯で最も鋭い太刀筋で、アダルスへと剣閃を打ち込む──

 

「笑わせるな。」

 

「っ……!?」

 

 彼女の生涯最高の一太刀は、アダルスの片手に掴み取られていた。

 アダルスが手首を返すと、キュリヤの剣は飴細工のようにパキンとへし折れる。

 

「は……?」

 

 放物線を描いて地面にさくっと刺さった、半ばでへし折れた剣先。キュリヤは、非・現実的なものを見るように目を見開いた。

 

 ──こいつは、"プレイヤー"ではない。

 自分と同じ、人間だ。

 それならば、血の滲む鍛錬を積んできた自分にならば、勝機があるはずなのだ。

 

 なのに。なのに。

 ──どうして、勝てる気が、しないんだ。

 

「私は、お前などとは、モノが違う……」

 

「ひっ──ぁ、ああああぁ!!!」

 

 半狂乱になりながら、キュリヤは折れた剣でアダルスに斬りかかる。

 だが今度は二本指だけで剣を止められ、根本から刃をへし折られた。

 

「ひっ……ひぃぃぃっ……!」

 

 あの日の恐怖が蘇る。

 目の前のアダルスの姿が、故国を滅ぼした石膏の天使と重なる。

 

「フン……」

 

 へたりこむキュリヤを鼻で笑い、アダルスは周囲で繰り広げられている、集落の住民と部下たちの乱戦に目を向けた。

 

 アダルスの部下たちは、劣勢を強いられていた。

 

 騎士たちの疲労、そして住民たちの数的有利もあるが、彼らはこの『夜の島』で長い時間を過ごした影響か、以前より遥かに身体能力を増していたのだ。

 騎士たちは、鬼気迫る表情で飛びかかってくる彼らに恐怖の色をにじませている。

 

「そろそろ片付ける。遊んでいる場合でもない。」

 

 気だるげにそう言ったアダルスの姿が、その場から掻き消えた。

 瞬間、何十にも重なった重たい打撃音が響き渡り──集落の住民たちは、血を吐きながらその場に倒れた。

 

(こいつは、バケモノだ……)

 

 キュリヤは今、自分の勘違いに気がついていた。

 

 自分が無力だったのは、"プレイヤー"が相手だったからではないと気がついた。

 相手がこの世の理から外れた存在だから仕方がないと、無意識に言い訳をしていたのだ。

 

 この世には、"プレイヤー"なんて関係なく、はじめから強者と弱者がいて。

 自分は、自分を強者の側だと思い込んでいる弱者に過ぎなかったというだけなのだ。

 

 枯れ果てたと思っていた涙が、意味もなくこぼれ落ちた。

 鼻水がずびずびと垂れてきて、情けなくなった。

 

「う、うううああ……」

 

 それでも、戦わなければ。

 弱くても。自分だけでも。

 これ以上、自分自身を、嫌いにならないために。

 

 悠然とした歩みで、絶望が。

 枢機騎士、アダルスが向かってくる。

 

 キュリヤは、へし折られ、柄だけになった剣に力を込めた。

 へたりこんだまま、それでも、戦う姿勢を貫いた。

 

 その時だった。

 

「……えっ、なんか……なんか、大変な事になってる!?」

 

「──ジョージ?」 

 

 聞き慣れた、場違いなほど間の抜けた男の声が。

 キュリヤの涙を、引っ込ませた。

 

「……ジョージ、だと?」

 

「ジョージっ……ジョージ・スケベワークス……!」

 

 闇夜に差し込んだ一筋の光にすがるように、キュリヤは叫ぶ。

 その名を聞いた瞬間、これまで無感情だったアダルスの目が、悪鬼のごとくつり上がった。

 

 れぼ☆いりゅーじょんが、彼の前から立ち去る前。確かそんな名前を口にしていたのだ。

 

 アダルスは、ゆっくりと。

 キュリヤの視線が向いている方向へと、振り向く。

 

 そして、そこで彼は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(──れぼ☆いりゅーじょん様。

 嗚呼(ああ)、れぼ☆いりゅーじょん様。

 貴女の声はいつも朝露(あさづゆ)のように私の心に染み渡り。

 性格は柔和でありながら芯があり、そこらの学識ある男程度では太刀打ちできぬほどの知性と理性を兼ね備えている。)

 

 ──いつも、どこか遠くを見るような目をしている貴女。

 

『きみは……むかしのオレと、似ているね。

 息苦しいでしょ? 色々とさ。

 ……オレも、ずっとそうだったから、わかるんだ……』

 

 ──私の心に漠然と根を張っていた女への失望を取り払ってくれた、最愛の人!!!

 

(れぼ☆いりゅーじょん様!)

 

 アダルスの振り向いた先には、たしかに最愛の女性が──

 

 

 

「ジョージさんっ……はあ……はあっ……♡

 ねえ……そろそろ良いでしょ……

 もう、ガマンできないの……」

 

「ちょっ……れぼさん、このタイミングでサキュバスモード突入するなって! 

 なんか、集落大変なことになってるから!」

 

「やーあーだあーーー! えっちするうー!

 先っちょだけだからっ……

 先っちょだけだからあ!!!」

 

「ヤリチンみたいなこと言うなよ! 男の頃こんなキャラじゃなかったとおもうんだけどなあ!!!

 ……あのー、ヨルルちゃーん!? 

 お絵かきしてないでそろそろ助けてー!?」

 

 

「  へぁあっ。  」

 

 

 アダルスの口から、空気とも悲鳴ともつかぬ、かすれた音が漏れた。

 

 自分の目が、信じられなかった。

 

 彼の視線の先には確かに、最愛の女性であるれぼ☆いりゅーじょんがいた。

 

 見間違うわけがない。流麗な銀髪。知性に溢れていた瑠璃色の瞳。女神のプロポーション。

 その全てが、間違いなく一致しているのに──

 

「ジョージさぁん……♡

 へへへ……すきっ……だいすきぃ……♡」

 

 ──信じられないほど(とろ)けた、女の(かお)を。

 見知らぬ男に対して、れぼ☆いりゅーじょんは向けていた。

 

 ピシリ、と。

 アダルスの奥底で、魂の(コア)のようなものに、無数のヒビが入る音がした。

 

 ──俺には、俺には、そんな顔をしたことなんて、ないじゃないか!

 

「………………」

 

「あ……アダルス卿?」

 

 生き残っている部下のひとりが、アダルスの異様に気がついた。

 

 目は見開かれ、ゾッとするほど表情が抜け落ちた顔で、歯ぎしりだけをひたすら繰り返している。

 

 右手に握りしめた剣の柄から、引きちぎれる寸前の荒縄があげるような、"ギチチチッ"という悲鳴が聞こえる。

 

「………………………ジョージィィィ」

 

 地獄の底で亡者があげるような、(しわが)れた怨嗟の声が、アダルスの喉から漏れた。

 

「えっ?」

 

 アダルスの殺気に気がついたのか、ジョージと呼ばれた男が、顔を上げた。

 

 そして、その横には。

 見たことがないぐらい頬を緩ませて、豊かな胸が潰れるほどそいつに抱きついている、銀髪の──。

 

「ジョージィィィ……スケベワークスゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「おわあああっ! だれ! 

 ……ほんとにだれだお前!?

 いま忙しいから突っかかってくるなよ!」

 

 アダルスは、先ほどキュリヤたちを無力化した際の、ゆうに何倍もの速度でジョージ・スケベワークスへと間合いを詰め。

 憎っくきその男を唐竹割りにせしめんと、大上段から渾身の力で剣を振り下ろし──間違いなく、その脳天をかち割った。

 

「っ……!?」

 

 だが──勝利を確信した瞬間訪れる、()()()とした未知の感触。

 人体を両断した感触ではない……何か、限りなく手応えがないものを、()()()()()ような感触。

 

「……あぶねーなー、オイ?」

 

「──っ!?」

 

 唐竹割りに処したはずの間男(※アダルス目線)──ジョージ・スケベワークスは、しかし健在であり。

 剣を振り下ろした状態で硬直するアダルスを、見下ろしていたのだった。

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