公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
なんかものすごい形相をした、ものすごいイケメンが、ものすごい勢いで斬りかかってきた件。
こいつ、いきなり全力で殺しに来やがった。
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【アダルス=レム=リビオン:レベル75】
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アダルスくん。
レベル70代、ステータスのビルドは……アタッカーよりの聖騎士ってかんじか。
これまで出会ってきた現地民の中じゃ、間違いなく最強だ。
「ぐっ……なぜ死なん!?」
アダルスくんが、今度は俺に袈裟斬りの太刀筋を走らせた。
だがその攻撃は、全く動いていないように見える俺に当たらず──幽霊みたいにすり抜けてしまう。
──R:E.O.には、『クイックステップ・キャンセル』(以下クイキャン)と呼ばれるテクニックがある。
クイキャンの仕組みは単純明快。
回避行動であるクイック・ステップを、スキル発動によりキャンセルすることで。
そのスキルに、クイステの無敵時間が乗っかる、というテクニック(グリッチ)。
俺が今、このアダルスくんの攻撃を動かずにすり抜けている仕組みを種明かしすると。
クイステの発動を、速度バフスキルの《
こう言うと、インチキじみて聞こえるよな。本来隙だらけになるバフが、無敵を維持しながらかけられるなんて。
でもこのクイキャン、なかなかキャンセルの受け付け時間がシビアでさ。
こいつを対戦中に安定して出せるようになるのが、対人戦トップクラス勢のスタートラインって言われてるぐらい。
このテクニックがあるから必然、実力が拮抗した上級者同士の試合は、"すり抜け"合戦になる。特に近接職だとそれが顕著。
遠距離職なら飽和攻撃ができるから、どうやっても無敵時間が切れて死ぬ"詰み状況"が発生しうるけど、手足の本数が決まってる近接職同士のタイマンだと、ミスらなければお互い基本的に不死身だからな。
よって、近接職の上級者にとっては攻撃≒回避。ゴリゴリにインファイトしながらノーガードの高速戦闘をすることになるから、見ごたえは中々にある。
フェイントとか、近距離ゆえの駆け引きの回数も多いし。
「ハァ……ハァ……!」
アダルスくんが、息を荒くして俺を睨みつけている。
とんでもない目つきだ。親の敵にだってこんな目は向けないと思う。
そんなに恨まれることした覚えはないぞ……?
俺はおずおずと、アダルスくんに怒りの理由を聞いてみる。
「あー……俺、なにかやっちゃいました?」
「黙れェ!」
俺のエセなろう主人公みたいな語り口が神経を逆撫でしてしまったのか、アダルスくんはキレ散らかしながら飛びのいて俺から距離を取った。
「絶対に……! 絶対に許さんぞ貴様ァ!
貴様は、私の運命の女性、れぼ☆いりゅーじょん様を、誑かしたのだ! 万死に値する!」
「…………ん?」
れぼさんが、運命の女性?
こいつ今、そう言ったか?
なんか、似たようなことを言ってたヤツが前にいたって話を、ゲーム時代れぼさんから聞いた気が……
というか、おんなじような雰囲気のやつを、ゲーム時代大量に見かけた気が……
「……あ」
そこで、俺は思い至る。
──こいつ、れぼさんのネカマの被害者だ!
ゲーム時代、ガチ恋勢からこんなふうに襲いかかられた事が何回もあったわ!
「……れぼさ〜ん?
てめえのネカマ趣味の被害者が、俺に突っかかってきてるんですけどー……」
俺が嫌味たっぷりな声で、れぼさんの方を振り向くと。
れぼさんはすでにヨルルちゃんに頭をぶっ叩かれて気絶し、あへ顔を晒しながらざりざりと地面を引きずられていた。
畜生! さっきからサキュバス化と気絶のタイミングが悪いな!
無表情で、ぐっ……と親指を立ててくるヨルルちゃんに引きずられるサキュバスを見て、俺は舌打ちした。
「殺してやる……殺してやるぞ、ジョージ・スケベワークス!!!」
「ちょいっ……ちょっとまって、あのバカがほんとごめん勘違いだからというかれぼさんは中身おとk」
「いでよ……! アラキエル=アヴァター!」
「話聞いてくれよ!!!」
俺に耳を貸さずに、アダルスくんは、ネカマサキュバスの毒牙にかかった哀れな若者は、懐から取り出した小さな何かをみっつ宙に放り投げた。
すると、それらは一瞬にして白い光とともに人間大となり、三体の石膏像のような見た目の天使が現れた。
「──あ、あああああっ!!!
石膏の、天使……! 私の故国を、蹂躙した……!」
女騎士のキュリヤさんが、その天使たちを見て悲痛な叫びをあげた。
「『アヴァター=ドール』……
使用したプレイヤーのステータスを完全にコピーした自律人形を作れるアイテムだね。
ゲーム時代はガチャのハズレア枠だったやつ。」
「しっているのか、れぼ。」
「うん。プレイヤーの完全コピーって言うと、なかなか強そうに聞こえるでしょ?
でも、わりと致命的な弱点があってね……積んでるAIが、かなり馬鹿っていう。
あらぬ方向にぽこすか大技を撃ったり、回避もバフもしなかったり。
技のチョイスがとにかくゴミなんだよねえ。」
「はぇー。」
いつの間にか復活したれぼさんが、頭にクソデカたんこぶを作った状態で、ヨルルちゃんに目の前の天使たち──『アヴァター=ドール』についての説明をしている。
正気に戻ったならまず、ネカマ被害者の誤解をとけよ、と言いたいところだが。
まず、目の前の天使たちの対処をしないといけない。
「あ、ジョージさーん!
そのドールのコピー元のプレイヤー、アヴァター化することを前提にビルド組んでるド変態なんで、ドールも固定砲台としてはかなり凶悪な性能してます!
気をつけてくださーい!」
「……おっけーい」
俺は、釈然としない返事をしながら目の前のドールたち──アラキエル=アヴァターとやらを睨む。
「ハハ……貴様、
だが残念だったな! このアラキエル=アヴァターは、一体一体が貴様らプレイヤーと同等の戦闘能力を持つ!
貴様がいくら奇妙な技を使おうが、アヴァター三体と私を同時に相手取って生き残る事は、不可能だ! 」
アダルスくんがそう宣言すると、呼応するかのように、アラキエル=アヴァターたちの手に凄まじいエネルギーが収束しはじめる。
スキルの発動準備だ。
恐らく、ステータスのビルドを耐久と火力に特化させているのだろう。一体一体のスキルが、とんでもない威力を予感させる。
あれ多分、俺じゃなくても当たったら死ぬな。タンク寄りの性能をしてるれぼさんでも、2発食らえば危ういだろう。
俺に直撃したら、HPバー二本弱くらい消し飛ぶんじゃねえかな。
れぼさんの言う通り、固定砲台としてはけっこうえげつない性能をしている。
アバターのビルドをコピーの運用前提で調整するのはピーキーだが、この性能の味方をいつでも召喚できるってのは強い。
なかなか面白い遊び方をしてるな。
いつか、
「お、おい、ふたりとも……
どっちでもいいから、ジョージを援護してやってくれ……!
いくらジョージでも、プレイヤー三人分なんて、勝てるわけないじゃないか……!?」
俺の後ろで、半泣きのキュリヤさんがれぼさんとヨルルちゃんの肩を揺すっている。
嬉しいね、美女から心配されるって。
だがそれに対しれぼさんは、いたずらっぽく笑って「まあまあ、見てなって、キュリヤちゃん」と言った。
『──
俺もそれに便乗し、キュリヤさんに首だけ振り向いて、不敵な笑みとともにサムズアップをしてやる。
「れぼさんの言う通りだ。
心配するなよ、キュリヤさん。
……最初に出会った時、ちゃんと自己紹介しただろ?
俺は、ただのプレイヤーじゃないってさ。」
「ジョージ……? なにを……」
腰のカランビットナイフを抜き放ち、その切っ先をアラキエル=アヴァター三体へと向ける。
天使三体の前方に収縮したエネルギーは、もはや目を満足に開けていられないほどの光量に達し、直後の爆発的な炸裂を予感させた。
「俺は、R:E.O.唯一の公式大会出禁プレイヤー……ジョージ・スケベワークスだ。」
「──消し飛ばせ、アラキエル=アヴァター!
私の恋路を邪魔する不届き者に、破壊の光を見せてやれ!」
「……"破壊の光"ね。
なら、俺もいいものを見せてやるよ。」
俺はゆらりとした、不規則なようで実は規則的な動きで、虚空をカランビットナイフ・ナイフでなぞりはじめる。
これは、"とあるグリッチ"を発生させるための準備動作だ。
俺が意図的に発生させられるR:E.O.のグリッチは300を軽く超えるが、こいつはその中でもぶっちぎりの最大破壊力。
グリッチの発動に対して抵抗の少ない俺でも、思わず自粛するレベルの切り札──というか、禁じ手。
じっさい、ゲーム時代にこいつを使ったのは二度だけ。
そのぐらい、こいつは……一歩間違えば、ゲームそのものを破壊しかねないグリッチだ。
「──」「──」「──」
天使どもが極大のレーザービームを発射するのと、ほぼ同時。
俺はグリッチの発動準備を完了していた。
「なんだ……なんだ、この悪寒は……!?
ジョージ、あなたは、一体何をしようとしているんだ……!」
「うーわ。ジョージさん、アレやるんですか!? いつかみたいに一帯消し飛ばさないでくださいよ!?」
「……やな、かんじー」
オープン・ワールドのゲームで、こういうバグがあるんだけど、知ってる?
公園のブランコに車で突っ込むと、カタパルトみたいな勢いでぶっ飛ばされたり。
落ちてるアイテムを拾おうとしたら、宇宙までぶっ飛ばされたり……
リアルな物理エンジンを積んでるゲームだと、わりとよくあるのだ。
なにかしらの条件を満たすと、そういう……
世界の歪みじみた、デタラメな力が発生することが。
そして、俺が今発動させようとしているグリッチは。
局所的にゲームの物理演算をバグらせて、ごく小規模な"空間の歪み"を作り出し。
それに指向性を与えて、ぶち壊したい標的に対して撃ち出すというもの。
とある有名な物理エンジンの名前と、その語義にちなんで。
俺は、このグリッチをこう呼んでいる。
「
※
「……っ?」
世界から、音が消えた。
光も、熱も。
ほんの一瞬、虚空に発生した果てしなく強大な何かが、全てを押しつぶしたような気がした。
アダルスも、キュリヤも、ヨルルを崇拝する集落の敗残兵たちも。
皆一様に、その一瞬の
「……なにを、した?」
アダルスが、異常事態にたじろいだ次の瞬間。
彼を守るように立ちふさがっていた三体の天使──その先頭にいた個体の胴体が、メキョッと
「は?」
まるで、空き缶が凄まじい水圧で押しつぶされるような光景だった。
三体の天使が、虚空のある一点に向けて、ブラックホールがごとく吸い込まれ。
メキョメキョメキョッ、と。手足がひしゃげ、圧縮され、どんどんと小さくなっていく。
そしてやがて、
圧縮が臨界に達し、天使三体は手品のように虚空に消滅してしまった。
「あ、あああ……流石です、流石です司教様……!
やはり、貴方は、この世界の……!」
地面に倒れていた集落の敗残兵たちが、ジョージに対して涙ながらに手を合わせて祈りを捧げる。
それをよそに、アダルスは目の前で繰り広げられた、この世界の法則を破壊するかのような現象に、無意識のうちに唇を震わせていた。
「……ふう。」
肩に入っていた力を抜きながら、ジョージがため息を吐くまで。
辺りは、異様な沈黙に包まれていた。
※
俺は、安堵のため息を吐いた。
けっこう難しいんだよな、これ。
かなり神経使う。
主に、破壊力を抑えるのに。
「さてと……」
「──ありえない。」
俺がアダルスくんの方に向き直ると、彼は半笑いのような声でそう漏らした。
「ありえない、ありえない……
こんなの、ぜんぶ悪い夢だ……はははっ。
この島も、れぼ☆いりゅーじょん様に男がいるのも、ぜーんぶ夢なんだ……そうに決まってる、じゃないとおかしい……ははははっ」
へなへなと、地面に膝をついたアダルスくんに、れぼさんが気まずそうに歩み寄る。
「あ、アダルスくーん……その、大丈夫カナ……」
やはり、この世界での知り合いなのだろう。
さっさとネカマの誤解を解いてやれ、れぼさん。
……いや、解いたら解いたらであとが怖いな?
「れ、れぼ☆いりゅーじょん様……!
やはり、なにかの間違いですよね?
そこにいるジョージという男とは、何もないのですよねっ?」
すがるようなアダルスくんに、れぼさんはぽろりと溢した。
「正直えっちしたい……」
「えっ」
「えっ」
「あっやべっ。」
俺とアダルスくんの声が綺麗にハモり、れぼさんは咄嗟に口元をおさえた。
「い、今のはサキュバスジョーク、小粋なサキュバスジョークですから!」
「ぽろっとこぼれ出た感じだったけど……!?」
「ポロリとまろび出て感じた……?
んもうっ、そういう下ネタはオレ以外に言っちゃダメですよ……?」
「鼓膜までサキュバスになってんのか?」
俺とれぼさんが問答をしていると、それを蚊帳の外から見ていた青年がひとり、ふるふると首を横に振っていることに気がついた。
「う、嘘だ……」
「あ、アダルスくん……」
「嘘だあああああ!!!」
「アダルスくーん!?」
彼は涙を流しながら、れぼさんに背を向けて、森の方へと走り去っていった。
……こうして。
NTR(寝てない)により、脳を破壊された哀れなるネカマの被害者、アダルス=レム=リビオンの犠牲により……
集落には、平和が戻ったのであった……
「めでたし、めでたし。」
「なにもめでたくないよヨルルちゃん。
やっぱりネカマってよくない文化だよ。」
特別エピソードのアンケート
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