公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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第十五話『教団国と宿敵』

「……あ(・)り(・)え(・)な(・)い(・)」

 

 ──ぷつん。と。

 アラキエル=アヴァターの消滅と同時に、アヴァター=ドールと視界を共有していた新城Lの意識も暗転した。

 

「なんなんだ……あの男は……

 あんなプレイヤーが、存在するというのか……」

 

 新城Lは大聖堂の中心で、身震いしていた。 

 彼女にそうさせるのは、『夜の島』で分身体(ドール)が遭遇した、とあるプレイヤーの存在だ。

 

「99人目のプレイヤーが、すでに『夜の島』にいたとは……」

 

 ──ジョージ・スケベワークス。

 

 その、あまりに幼稚で不埒(ふらち)なプレイヤーネームを、新城Lは口の中で忌々しそうに反芻した。

 

 アヴァター=ドールを通して、荒木Lは見た。

 

 異常としか言いようのない精度のクイキャンで、人類最強クラスの強者であるアダルスの攻撃をすり抜け続け。

 最後には、極小のブラックホールのような何かを生み出し、新城Lの分身体(アヴァター)を三体同時に圧(・)殺(・)してしまった男の姿を。

 

「特に、最後のあの"圧縮"……あの男のビルドはなんだ……?

 メインジョブは斥候系に見えたが、魔術師……?

 いや……しかし……

 突出した魔法系ビルドでなければ、あれほどまでの火力は……」

 

 ……『夜の島』のモンスターが恐ろしく高レベルなのは、想定済みであった。

 でなければ、DLCエリアの名を関する意味がない。

 だが、あの男の存在に関しては、完全なるイレギュラーである。

 

 ジョージ・スケベワークス。

 

 あの男が、ゲーム時代の強豪プレイヤーであることは、まず間違いないだろう。

 この世界をかき回すのはいつだって、ゲーム時代から名の知れている有名プレイヤーたちだった。

 

 だが新城Lは、ジョージ・スケベワークスなる人物の名を、まったく知らなかった。

 古参勢でないにしろ、それなりに『R:E.O.』をプレイしていた自分でも、聞き覚えがない。

 

 正体不明(アンノウン)──まったくの。

 

 聖堂の中心で、白い天使はただ。

 ひさしく覚えていなかった、未知の存在に対する畏れのようなもので、胸中を充満させていたのだった。

 

「──それでわざわざ、私たちを呼びつけたってわけ? アイテム頼りのニワカ天使。

 暇だったから来てやったけど、くだらない用件だったら……わかってる?」

 

 しばらくした後、新城Lの前には三人の男女が佇んでいた。

 

 真っ先に新城Lに口汚い言葉を浴びせたのは、ラフな黒パーカーを纏った、青い髪の猫耳少女だ。  

 

 彼女は、普段は高位神官たちが座る椅子にどっかりとふんぞりかえって机に脚を乗せ、棒付きのキャンディーを咥えながら新城Lに対し冷たい視線を向けている。 

 

「……め、めずらしいね、りっつん……

 今のきみが、ぼくを呼ぶだなんて……」 

 

 一方、比較的親しげにそう言うのは、艶のある黒髪で、十代半ばほどの少年。

 一見して少女のような、あどけない容貌をして入るが、側頭部からは角が生えており。

 その両目は、ぎらぎらと黄金色の輝きを放っている。

 

「…………」

 

 三人目は、聖堂の壁によりかかったまま微動だにしない、二メートルほどの無骨な騎士甲冑。

 その人物だけは、なにも言わず、ただ虚空に視線を漂わせている。

 

 ──33番目のプレイヤー、『Ma0(マオ)』。種族、《天猫人(ケット・シー)》

 

 ──97番目のプレイヤー、『SATAN(サタノ)』。種族、《影棲悪魔(ネイヴァー・デーモン)》。

 

 ──12番目のプレイヤー、『遍歴の騎士鎧、ペレト=デュ=アジルールフォ@新作アバター配信中!』。種族、《蠢く英雄鎧(ヘルクド=アーマー)》。

 

 猫耳、悪魔、騎士鎧。

 

 彼らは、エトランジェ教団国に籍を置くプレイヤーたちの中で、新城Lの招集に応じた者たちだ。

 

 個性豊かな三人を前に、新城Lは『君たちに、知識を貸してもらいたいんだ』と切り出す。

 

「単刀直入に聞きたい──ジョージ・スケベワークスというプレイヤーを知っているかな?」

 

 その名を聞いた瞬間、猫耳の少女──Ma0(マオ)が、ぴょこっとその耳を震わせ。

 

 黒髪の少年、SATAN(サタノ)はにわかにその大きな目をさらに丸く見開き。

 

 物言わぬ騎士鎧、ペレト=デュ=以下略は、相変わらずなんの反応も示さない。

 

 三人目はよくわからないが、他の二人はどうやら、なにかしらの心当たりがあるようであった。

 

「……あっは、アンタから、あのバカの名前が出てくるなんてねー?」

 

 椅子から猫じみた身軽さで飛び上がったMa0(マオ)が、新城Lへ歩み寄り、見上げるように睨みつけた。

 先程まで軽薄に笑っていたその表情に色はなく、鬼気迫る印象を与えてくる。

 

「一体……どういう風の吹き回しなわけ?

 ……たちの悪い、冗談だったら。

 ここで暴れて、あんたら三タテしてやるけど」

 

「知っているのか? Ma0(マオ)

 なら、教えてほしい。彼(・)について。」

 

 新城Lが指を鳴らすと、虚空に半透明のディスプレイが現れ……

 そこには、アラキエル=アヴァターが見た最期の光景──ジョージ・スケベワークスなる男が、ナイフの切っ先をこちらに向けた映像が映し出された。

 

「彼が、99番目の"プレイヤー"だ。」

 

「──。」

 

 男の顔を見た瞬間、Ma0(マオ)の目が見開かれ。

 だがすぐに、目元と唇を、侮蔑と嘲笑が混じったような形に歪ませた。

 

「……へえ、ジョージ。

 来たんだ。あんたも、今さら……」

 

「教えてくれるかな。」

 

 新城Lの問いに対してMa0(マオ)は、はんっと鼻を鳴らし。

 顎で、黙り込んでいるSATAN(サタノ)を指し示した。

 

「そこの新顔に聞いたら? ゲームの頃オトモダチだったんでしょ? 

 あんたはとっくに、アバターに脳ミソ乗っ取られて、どうも思ってないんだろうけど」

 

 「あはっ、薄情者よねェ?」悪辣にほほえんで、Ma0(マオ)はSATAN(サタノ)に視線を流す。

 

 その幼い悪魔は、猫耳の言葉を意に介さず、荒木Lに対し口を開いた。

 額に冷や汗をにじませた、深刻そうな表情だった。

 

「り、りっつん……

 あ、あいつが……あのジョージ・スケベワークスが、この世界にやってきたってのは、確かなの?」

 

 新城Lは、それに首肯する。

 

「うん。間違いない。

 そして彼は今、件のDLCエリア……『夜の島』にいるようだ。」

 

 SATAN(サタノ)はそれに、深い溜息とともにうなだれて『うっはあー、まじかぁー……』と呟いた。

 

「りっつん……そいつはね……

 ゴリッゴリの、レジェンドプレイヤーだよ。

 最強プレイヤー議論スレじゃあ、冗談交じりではあるけど、毎回かならず名前が挙がってたレベルの、トップ・プレイヤー……」

 

「……? その割には、私は聞いたことないけど。」

 

「そりゃあ、そうだよ……

 なんたって、あいつはりっつんがこのゲームはじめた頃には、とっくに大会の表舞台からは姿を消してたんだ。

 第一回・ワールドチャンピオンシップ……歴代最大規模の大会で優勝してから、ずっと……」

 

 SATAN(サタノ)は、いまいちピンと来ていない様子の新城Lに対し、さらに続ける。

 

「……この世界を、嵐みたいに暴れまわってるっていう、強(・)豪(・)プ(・)レ(・)イ(・)ヤ(・)ー(・)たちがいるんでしょ?

 南方帝国を焦土に変えた、《炎の躯(むくろ)》。

 それを仕留めた《幽(かすか)の剣聖》。

 最古参のくせ未だにビルドのタネが割れてない、《時魔術師》なんてのもいたっけ……」

 

「……あと、そこにいるプ(・)ロ(・)ゲ(・)ー(・)マ(・)ー(・)さんも……」そう言って、SATAN(サタノ)はMa0(マオ)をちらりと見やった。

 

「──今挙げた全員、公式戦でジョージ・スケベワークスに土を付けられてるって言えば、あいつがどれぐらいヤバいか分かる?」

 

 聖堂に、冷たい沈黙が満ちた。

 新城Lは、唇を引き結んだまま微動だにしない。

 一方、Ma0(マオ)は殺気を放ち、「はあ? そいつらと一緒にしないでくれるクソガキ? 私は決勝だから。あと勝つ寸前まで行ったから」と早口でまくし立てた。

 

「……ふうん、とにかく、理解したよ。

 彼が、どんなプレイヤーなのかは。」

 

「りっつん……あいつとは、まともにやり合っちゃだめだよ。

 名前がふざけてるからって、舐めちゃダメっ、ぜったい!

 確実に倒したいなら、たぶん、強豪プレイヤークラスを二人はぶつけなきゃキツイってレベルだと思う……!」

 

 新城Lは、「ううん、参ったなあ……もう意図せず喧嘩売っちゃったんだよね……」と眉を八の字にさせ、SATAN(サタノ)はそれにこの世の終わりのような顔になる。

 

 しかし……そんなふたりに目もくれずにMa0(マオ)は。

 心底楽しげに、無邪気に──なくしていたお気に入りのおもちゃをようやく見つけだした子供の様に、唇を歪めていた。

 

「ジョージ……あんたは私が、今度こそぶっ殺してやるから……」

 

 猫耳の少女の瞳は、ほの暗い闘争心の炎で燃えているのだった──。

 




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