公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
モンスターに襲われていた金髪の女性を集落へ運び込んだ俺は、彼女をアイテムボックスから取り出した布の上に横たえた。
「ぅ、う……」
「司教様……彼女は?」
目をつむりながらも、うなされているように呻いている彼女をヨルルちゃんと二人で見守っていると。
ヨルルちゃんファンクラブ(仮)の数人が歩み寄ってきて、そう聞いてきた。
「そのへんでモンスターに襲われてたから、助けてきた。
命に別状はないと思うんだけど……」
「この者の服装からして……おそらく私たちと同じく、流刑に処されてこの島にやってきたものでしょう」
「お、おお……流石はヨルル様の司教様……なんと慈悲深い方なのだ……」
「やはり司教様は、
「うおおおおお……っ!」
「……プレイヤー、ね」
感激したように、俺とヨルルちゃんにひざまずく人々(いつものこと)を尻目に、俺の関心は彼らの発言の方に向いていた。
「……あの、聞きたいことがあるんだけど。
その、"プレイヤー"ってのはどんな──うぉっ」
俺が、そう聞こうとした瞬間だった。
傷だらけで横たわっていた金髪の女性が、勢いよく飛び起きて、俺の首を締め上げた。
「プレイヤー……ッ、プレイヤー!!!」
「ちょ……」
悲鳴のような声で叫びながら、彼女は歯を食いしばり、憤怒がこもった視線で俺を睨みつけている。
ぎぎぎ、と。
彼女は渾身の力を俺の首にこめているようだったが、苦しさは感じない。
……この感覚は、多分あれだな。レベル差がありすぎて、俺の紙のようにぺらぺらの防御力すら貫けていない感じだろう。
つまりノーダメだ。
迫真の声と表情に対して攻撃力が貧弱すぎる。
ヨルルちゃんにつねられる方が500倍は痛い。
「ちょっとちょっとお姉さん……落ち着いてくれよ」
俺は首を締め上げられたまま、彼女の泥まみれの頬を.服の袖で拭ってやった。
その擦り傷だらけの肌をいたわるように、できるだけ優しく。
「……っ」
俺のその行動に、彼女は混乱したように目をぱちぱちと瞬かせる。
やがて、彼女の手から力が抜け、だらりと垂れ下がった。
そしてカクンと膝が折れ、地面にへたり込む。
「えーっと……大丈夫?」
「……ぁ」
彼女は視線を俺の胸辺りにさまよわせながら、静かに口を開く。
「……あ……あなたは」
「ん?」
「あなたは……本当に"プレイヤー"なのか?」
彼女は、女性としてはやや低めの声でそう聞いてきた。
イケメン女子って感じの、ハスキーな声だ。
「まあ……たぶん?」
俺はそう言い、脳内でアイテムボックスにアクセスして手のひらに『上級回復薬』を出現させ、彼女に手渡した。
へたり込んでいる彼女に視線を合わせるために、俺も地面にしゃがみ込みながら。
「君の言う"プレイヤー"ってのがどんな存在なのか、俺に教えて欲しい。」
「……」
彼女は、混乱したように目元をひどくゆがめながらも、小さく頷いた。
※
彼女は、キュリヤさんという名前らしい。
元・騎士であるとのこと。
そして、彼女が生まれ育った国は、"プレイヤー"の手によって滅ぼされたのだと言う。
この世界における"プレイヤー"という存在には、いくつかの特徴があるらしい。
ひとりひとりが、一国すら太刀打ちできないほどの戦闘力を持ち……
この世界の法則をかき乱すような、凄まじいアイテムの数々を保有している。
そして、およそ一年にひとりの周期でこの世界に出現し──現在は、最初の出現から99年が経過しているという。
「……
ゲーム時代の『R:E.O.』の大型調整は、だいたい年に一回。
そこで、細々としたバランス調整がなされたり、新要素が追加されたりする。
"プレイヤー"が一年にひとりのペースで出現する、というのを聞いて、俺はそれを想起した。
……で、その話から察するに。
「俺は、この世界に転移した99人目の"プレイヤー"ってことか……」
そう呟きながら、キュリヤさんを見る。
彼女は俺が渡した『上級回復薬』を、おずおずと飲む。
すると瞬時にして、全身にくまなく刻まれていた大小の傷が治癒した。
「間違いない……これほどの秘薬、"プレイヤー"しか持ち得ない」
キュリヤさんは、驚きに目を瞬かせながら言った。
……ほんとうの『秘薬』は別にあるんだけども。
まあ、カンストアバターの俺はともかく、俺よりかなりレベルが低いであろうキュリヤさんにとっては、『上級回復薬』の効果もそれと大差ないだろう。
「……あなたのような、プレイヤーがいるとは思わなかった」
「え?」
「私の知る限り──……いや、歴史上においても。
ほぼ全ての"プレイヤー"たちは、神の力を持った暴君か、人間性を喪った怪物のような存在だった」
俺の瞳をまっすぐに見て、キュリヤさんは言う。
もうそこに、恐怖はないように見えた。
「だが、あなたはあの化物どもとは違う……良識ある、普通の人のように見える」
キュリヤさんの言葉に、俺は少し首を傾げる。
「……うーん。他のプレイヤーたちも、そこまで無茶苦茶なことをやるような奴ばかりってわけじゃ、なかったと思うんだけどな……」
『R:E.O.』プレイヤーの年齢層は、そこまで低くない。それなりに分別がつく年の、大人が多い。
確かに一部、イカれた連中はいたけれど、それは少数派。
むしろ、ゲーム時代の悪名高さで言えば、公式から大会出禁を食らっている俺の右に出るものは少ないだろう。
だが、この世界の住民であるキュリヤさんや、ヨルルちゃんファンクラブの面々たちは。
口を揃えて"プレイヤー"という存在を、横暴極まる悪の化身かのように
「それは、それは違う──ジョージ・スケベワークス!」
「うぉっ……近い近い」
どういうことだってばよ──? と頭を抱えそうになっていた俺に、ぐいっと身を乗り出して。
キュリヤさんが、顔を近づけてきた。
長い金のまつ毛とサファイアの瞳、すっと通った鼻筋が、ゼロ距離で俺の目に飛び込んでくる。
ガチ恋距離というやつだ。
「"プレイヤー"は……っ! やつらは!
何の理由もなく進軍と簒奪を繰り返しっ、私の仲間たちを、祖国の国土を!
雑草をそうするように、無感情な目で踏みにじったんだ!」
キュリヤさんは激情にかられるまま、座っている俺の肩を支えによろよろと立ち上がり。
高くなった視線から、俺に怒鳴る。
「……あー、その。落ち着いて……」
俺は、彼女から目線をそらしてそう言う。
すると、キュリヤさんはよりヒートアップした声で続ける。
「なぜ、目線をそらす──!」
「いや、その……ほら。目のやり場がちょっと……」
「は……? それは、どういう……」
座っている俺に対して、キュリヤさんが立ち上がった事によって。
俺の視線の高さがちょうど、失禁の跡が残る彼女の股あたりになってしまっている。
悲壮感にじむ演説を、それを見ながら聞くのはなんとなく忍びなかった。
「あ、あっ……!?」
そこではじめて、彼女は自分の状態に気がついたのか。
顔を真っ赤にして、俺から手を離した。
支えを失い、地面に尻もちをついたキュリヤさんの顔を、どこからかひょこっとやってきたヨルルちゃんが覗き込んだ。
「あの。ふくをきたまま、トイレはだめなのですが」
「ひ──っ!?」
至近距離でヨルルちゃんの紅い瞳と目を合わせたキュリヤさんは、まるでおぞましい怪物を見たかのように短く悲鳴をあげた後。
再び白目を剥いて、気を失ってしまった。
よく気絶する人だな。
「……」
動かなくなったキュリヤさんを、ヨルルちゃんはきょとんと見おろしながら、ぽつりとつぶやく。
「しんだか……
にんげんは、もろい……」
「いや、RPGのラスボスみたいなこと言わないでヨルルちゃん。
死んでないから。気絶しただけだから。」