公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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第八話『美人局女騎士とネカマサキュバス』

 女騎士のキュリヤさん。

 凛とした金髪イケメン女子の彼女を保護してから、ひとつ困ったことがある。

 

「ジョージ……きょ、今日は、天気がいいなっ」

 

「そうっすね……」

 

「あなたには、伴侶はいるのか?」

 

「独身っす……」

 

「そうか……! なら……なら、自分はどうだ!

 こう見えて、家柄は良い! 

 これまで剣しか振ってこなかったから、女としての魅力は、あまりないかもしれないが……

 そういうのはっ……これから頑張っていくから!」

 

「ええ……」

 

 キュリヤさんが、なにを思ったのか俺に猛アタックを仕掛けてきている。

 今なんて、自分の腕を俺の腕に巻き付けながら求婚をしてきている。

 これだけなら、まだいい。

 ついに俺の人生にもモテ期が到来したか、と喜べたかもしれないのだが、素直にそう思えない理由がある。

 

「……クッ」

 

 俺に腕を組んできているキュリヤさんは、今にも「くっ殺せ……!」とでも言いそうな表情で、プルプル震えているのだ。

 

 すごい。女騎士のリアルくっ殺だ、しかも向こうからくっ殺しにきてる。

 当たり屋タイプのくっ殺である。

 新しいなおい。

 

 とにかく、言ってることと表情があまりに噛み合っていない。

 結婚いう割に、この娘ぜったいに俺のこと好きじゃないだろ、というのが全身から伝わってくる。

 

 美人局(つつもたせ)にすらなってないぞこれじゃ。

 その瞳は羞恥に潤み、好意はかけらも伝わってこない。 

 

「結婚っ……自分と、結婚してくれ……!

 ……そうじゃないと、自分だけが死に損なった、意味が……」

 

「あのー……」

 

 結婚、結婚、と馬鹿のひとつ覚えのように連呼しているキュリヤさんの肩に手を置き、そう呼びかける

 

「ちょっと、腕はなしてもらっていい……?」

 

「だ、だめだっ。結婚するんだ!

 すると言うまで、この腕を離すつもりはない!」

 

「いや、そうじゃなくて、うしろ……」

 

 俺が、親指でキュリヤさんのうしろを指し示すと。

 

「…………」

 

 彼女が振り向いた先には、無表情のヨルルちゃんが佇んでいた。

 

「ひえっ……」

 

 ひと睨みされただけで、キュリヤさんの体から力が抜け、地面にへたり込む。

 やっぱり、プレイヤーでもない現地人からすると、DLCレイドボスのヨルルちゃんはかなりの威圧感に感じるのだろうか。

 

 ヨルルちゃんファンクラブの人たちはいつも、ヨルルちゃんのオーラ(?)を浴びて恍惚としているが、あいつらがおかしいだけだからな、たぶん。

 

 キュリヤさんが離れた俺の腕に、今度はヨルルちゃんが自分の腕を巻き付けてきた。

 

 美少女をとっかえひっかえだ。

 困っちゃうね。モテる男は……

 困っちゃうねほんとに……

 

「……ヨルルの」

 

「いてて……折れる折れる……」

 

 

 

 

 

 

【レベルが上がりました。100⇒101】

 

「……え」

 

 その日の昼下がり。  

 

 俺がいつも通り、食料調達と安全管理を兼ねて、集落の周辺でモンスターを狩っていた時のこと。

 ナイフで首を切り裂かれた巨大な猪が、ずしんと土煙をあげて倒れ込むんだ瞬間に、頭にアナウンスが響いた。

 

 ──レベルが上がりました、と。

 

 俺のレベルはとっくに100で上限到達(カウント・ストップ)している。

 もう、レベルアップなどするわけがないのだが……今たしかにレベルが上がったし、こころなしか先程までよりも体が軽くなったような気がする。

 

「ここがDLCエリアだから、レベルキャップが開放されているのか……?」

 

 違和感こそ、以前からあった。

 この島にいるモンスターたちの中に、一体として討伐適正レベル100以下のものは存在しない。

 これまで出くわしてきたものは、最低でも適正レベル102。

 

 適正レベルもなにも、チート以外でそんなレベルになれるわけがない──ずっと感じていた違和感が、たった今解決した。

 この『夜の島』では、以前までのレベル上限が取り払われているようだ。

 

 それにしても、レベルアップのアナウンスなんて聞いたの何年ぶりだ……?

 

「……あ、そうだ」

 

 しばし、ちょっとした感動に浸っていた俺だったが、ちょっとしたことを思いついた。

 

「ヨルルちゃーん? 

 ちょっと来てくださーい?」

 

 俺がそう呼びかけると、木の枝で地面にお絵かきをしていたヨルルちゃんが、てってってっと駆け寄ってきた。

 

 【『夜と死へ織りなす夜想の因果(■■■ー・■■ー■ー■■)』:適正レベル███】

【対象とのレベル差が大きすぎるため、情報の取得に失敗しました】

【※警告:複数プレイヤーでの挑戦が想定されたエネミーです】

 

 

「なんですかー」

 

「……だめか」

 

 レベルが1上がった程度じゃ、まだヨルルちゃんの適正レベルは分からないらしい。

 

 ゲーマーの性で、ちょっと興味があったのだが……

 知れるのは、まだまだ先になりそうだ──

 

「ねえ、みて」

 

「いでで……っ」

 

 ヨルルちゃんが、俺の前腕をつねってそう言ってきた。

 ヨルルちゃんはもうすっかり、俺に反応して欲しい時はどこかしらをつねれば良いと学習してしまったみたいだ。 

 

 これに関してはもう、注意してもやめてくれない。「普通に呼ぶよりもはやいから」らしい。

 

 まずいな。着実にDV気質が目覚めはじめている。

 この調子じゃヨルルちゃんは、語彙力が腐れゲーマーの暴力女とかいう、別の意味でのモンスターに育ってしまうぞ。

 

「みて。」

 

「どうしたの、ヨルルちゃん……」

 

「かきました。ジョージのこと」

 

「んー……? どれどれ」

 

 俺がヨルルちゃんに腕を引っ張られて、彼女が先程まで絵を描いていた地面の方に向かうと。

 そこには、ナイフのようなものを持っているように見える棒人間が描かれていた。

 

 そしてその傍らには……なんだろう、これは。

 無数の触手が生えた黒い狼みたいなのが、描かれている。

 

「お、おお……? これが俺なのはわかるけど。

 横にいるのは誰……というか、なに……?」

 

「ヨルル……」

 

「ええ……?」

 

「……にて、ない?」

 

「う、うーん……」

 

 似てる似てない以前に、原型がない。

 自画像があまりにもアグレッシブ過ぎるよ、この子。

 

 ……いや、そうか。

 もしかするとヨルルちゃんは、鏡を見たことがないのかもしれない。

 

 俺は、アイテムボックスをごそごそして、小さな手鏡を取り出した。

 それを、ヨルルちゃんに見せる。

 

「はい、ヨルルちゃん」

 

「……それ、なに?」

 

「これは、鏡って言って……自分の姿が見れる便利アイテムだよ」

 

 ヨルルちゃんに伝わりやすいよう、ゲーム用語っぽく説明する。

 

「ふうん」

 

「ヨルルちゃん。自分の顔、見たこと無いんじゃない?」

 

 ヨルルちゃんは、後ろから俺の肩に顔を乗せて。

 俺の持っている手鏡を、覗き込んできた。

 

「ほーら。自分の美少女ぶりを自覚しなさ──……ん!?」

 

 ──どす黒い、影の獣。

 鏡の中で、禍々しいオーラを放つナニカが、俺の肩に寄り添っていた。

 

「あ、あれ……?」

 

 な、なんか今一瞬、やべーのが見えた気が……

 ごしごし、と目を擦って、再び鏡を覗き込む。

 するとそこにはいつも通り、我らがレイドボス系黒髪無表情ガール。ヨルルちゃんが映っていた。

 

 …………気のせいだな、ヨシ!!!

 

「ヨルルって、こういうカタチをしているんだ」

 

 ヨルルちゃんは、鏡の中に映る自分の頬っぺをむにむにしながら、興味深そうに鏡を覗き込んでいる。

 

「ジョージは、すき? 

 ヨルルの、かたち」

 

 やがて俺に振り向いて、ヨルルちゃんは俺にそう聞いてきた。  

 

「まあね、ヨルルちゃんは可愛いから」

 

「かわいい……それって、ヨルルの"キャラデザ"、いいってこと?」  

 

「あんまり人の見た目のことキャラデザって言わないからねヨルルちゃん。

 けど、まあ、そういうこと。」

 

「ふうん……ヨルルって、かわいいんだ。

 よく、わかんないけど。」

 

 なんの感慨も無さそうに言って、ヨルルちゃんは鏡から顔を離した。

 

「ねえ、ヨルルがガチャでピックアップされてたら、どのぐらい"かきん"する?」

 

 ヨルルちゃんの質問に、俺は「もちろん……」と続ける。

 

「性能次第ですね。

 俺は基本、キャラデザでは狙わないので。」

 

「あいが、ない……

 あいがないね……」

 

 忖度のない俺の答えに、ヨルルちゃんはちょぴり、しょんぼりしていた。

 

 

 ※ 

 

 

 ヨルルちゃんと俺が、集落へ帰る道すがら。

 どこからか、なにかとなにかが激しくぶつかり合うような、衝撃音が聞こえてきた。

 

「なんだ……!?」

 

 幾度かの衝撃の末、凄まじい爆発音が響き渡る。 

 爆風で巻き上がった砂煙が、俺の顔を叩いてきた。

 

 ──近い。

 

 俺は咄嗟に、腰のカランビットナイフを抜き。

 臨戦態勢を取った。

 

「ふー……ちょっと、ヤバかったなぁ。

 エーケーさんの武器がなきゃ、殴り負けてたかも……」 

 

 もくもくと立ち込める砂煙の向こう側に、そいつのシルエットが浮かび上がる。

 

 ──建物の柱のように巨大な両刃槍を担いだ、長身の女だ。

 ガシャコンッ、と。蒸気を吐き出しながら機構を変形させるその武器は、俺のよく知る人の手によるもので。

 

「──れぼさん?」

 

「ははっ……久々にされたな、その呼ばれ方。

 ほんと、懐かしいや……」

 

 そいつは、ショートカットの銀髪をなびかせ。

 砂煙の向こうから、悠然と出てきた。

 

 有名イラストレーターに特注したデザインを、一流3Dデザイナーに立体化依頼したと豪語していた、サキュバスアバターだ。

 ゲーム時代からモデリングが完璧で、長い睫毛が揺れる動きすら見て取れるほどの、超絶クオリティだった。

 

 ヨルルちゃんの言を借りるのなら、"キャラデザ"がいい。

 こっちは、文字通りの意味で。

 

 抱きしめれば折れてしまいそうなぐらい華奢(きゃしゃ)な肩と腰に、豊満な胸やら尻やらを搭載した、"そんな女三次元(リアル)にいねえよ"を地でいく、男の理想を詰め込んだようなプロポーション。

 それは今や現実の肉体として、目を離せなくなるほどの存在感を放っている。

 

 顔立ちの印象は、可愛らしさと綺麗さの比率が、ちょうど半分ずつだろう。

 あどけない『少女』と、成熟した『女』の狭間にある、危うい領域の魅力を永遠に湛えている。

 

 そう、そいつは。

 ゲーム時代に数々のガチ恋勢と数人の逮捕者を生み出した『R:E.O.』最凶の呼び声高い悪女(ネカマ)にして、俺のフレンド。

 

「ほんとうに、久しぶりですね──ジョージさん」

 

「れぼさん……髪、切った?」

 

「へへ……ずいぶん短くしちゃいました。

 ……もう、ゲームじゃないですから」

 

 銀糸のような髪に指を通しながら。

 遠い過去を追想するように、まぶたを閉じて。

 

 れぼ☆いりゅーじょんが、そこに立っていた。

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