公式大会出禁プレイヤー、ジョージ・スケベワークスのDLCエリア転移録 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
俺とれぼ☆いりゅーじょんが最初に出会ったのは、第一回ワールドチャンピオンシップ──俺が優勝し、そして"殿堂入り"とかいう名目で公式から出禁を食らった、あの大会の直後だ。
俺が大会本戦の猛者たち相手に使った戦術を構成するのは、大半がシステム上意図されていないゲームの挙動、いわゆる"グリッチ"というやつだ。
サービス開始から、独自に蓄積してきたその技術。それらを総動員して、俺は参加者のべ2万人の頂点に立った。
ガキの頃から、そういうゲームの遊び方が好きだった。
作り手が意図していない仕様の裏を突いて、誰かを驚かせたり打ち負かしたりするのが、俺は好きだった。
けして、外部のチートツールやMODに頼ったりはしない。それはズルだ。
あくまでゲームそのものの挙動を利用して、その中を全力で遊ぶ。
それが俺なりの、ゲームとの向きあい方である。
……ただ、まあ。
後々プロが出てくる程度には競技性が高いゲームの、なおかつ最大規模の大会でそれをやるのはまずかったよね、という話。
俺が優勝したあと。
いや、厳密には試合中のコメント欄からしてそうだったらしいんだけど、俺は大いにぶっ叩かれた。
大炎上、と言って良かったかもしれない。
『動きキモすぎない?』『インチキ戦法』『優勝取り消せよこれ。相手の娘トラウマだろ』『この動きをアンリミテッド・スケベワークスと名付けよう』『あほらし。引退だわ』
などなど。
バラエティ豊かな誹謗と中傷の末、俺は対人勢のみならず、『R:E.O.』界のほぼ全てから総スカンを食らった。
対人戦色の強いゲームにおいて、最強プレイヤーというのはある種の象徴だ。
自分たちがやっているゲームの"象徴"が、俺みたいなのだとは認めたくなかったのだろう。
いや。人から褒められたくてゲームやってるわけじゃないし、べつに良いんだけどね?
優勝した瞬間は、かなり気持ちよかったし。
ぜんっぜん気にしてないんだけどね?
……ほんとに気にしてないんだからね!
優勝してすぐに、怒髪天を衝く観衆たちから逃げるように会場から去った、帰り道。
絶え間なくなり続けるメッセージ通知にうんざりしながら、俺はウィンドウを開いた。
するとそこにあるのは案の定、他プレイヤーからのおびただしい罵詈雑言、ひどいものだと殺害予告。
そしてオレの数少ないフレンド、エーケーさんから送られてきた『ウケるね』という、あまりに他人事な一文だった。
「あのクソアマ……メッセージ通知オフにしてやるからな……
「あの──すみません。」
「ん……?」
通知をオフにして、ようやく静かになった道をひとりで歩く俺の背中に、誰かが声をかけてきた。
さわやかな好青年風の声だった。
「さっきの大会で、優勝してた人ですよね?」
そこに立っていたのは、プリセットの男アバターに初期装備──見るからに始めて初日の初心者プレイヤーです、という感じの人物だった。
「アッハイ。優勝したね……一応」
俺が気まずそうに答えると、彼はぱあっと目を輝かせてくる。
「オレ、あんまりこのゲーム詳しくないんですけど……
何万人もエントリーしてる大会で優勝って、凄いですよね!
おめでとうございます!」
「あー、えー……」
初心者ゆえの、真っ直ぐな称賛。
俺はむず痒くなって、後頭部をかく素振りをする。
「まあ、だーれも認めてないけどね」
「……あー。たしかに……会場、凄い空気でしたね。
なんというか、その……なんだろうな」
言葉を選んでくれているようで、歯切れが悪い彼に対して。
俺はキッパリと言う。
「ブーイングの嵐だっただろ?
……俺ねえ、このゲームだと、けっこうな嫌われ者なんだ。
初心者さん、関わる相手は選んだ方が良いよ。
せっかくのゲームで、嫌な思いしたくないだろ?」
「…………」
「それじゃ」
俺は彼に背を向けて、再びひとり歩きだす。
「──オレは、かっこいいって思いました!」
「……え。」
あっけに取られて、思わず振り返る。
「どこが……」
「背中に無数のブーイングを浴びながら、そんなの気にせずに戦っていたところです」
「…………」
「……自分の話に、なってしまうんですけど。
オレはこれまでずっと、親や周りの期待に、ひたすら応え続けるような人生を送ってきたんです。
ひかれた
嫌われたり、期待外れだって、思われたくなくて……」
「へー……俺みたいなのからしたら、レールの上を歩けてるだけで、じゅうぶん立派だと思うけどねぇ……
エリートにはエリートなりの苦労がある、ってやつ?」
「り、立派なんかじゃないですよ。
正直、なんのために生きてるか分からないし、上っ面だけの人間だから、気軽に遊べる友達もいないし……
……現に今、仕事がどうしようもなく嫌になって、ひとりでゲームに現実逃避してますし」
「ははは、さては、サボりだな?」
「う……サボりです……人生初の……」
「やるね」
やはり、根っこから真面目な人なのだろう。
彼は肩をすくめて、蚊の鳴くような声でそう言った。
「でも……オレは、そんな人間だから。
外野から何を言われても、周りがぜんぶ敵でも、ステージで笑っていたあなたが。
自分のやり方を貫いて、自由に戦っていたあなたが……
ほんとうに、輝いて見えたんです」
「…………」
「ああ、こんなふうに、生きれたら──って……」
変わり者だ。
俺は、率直にそう思った。
俺だって、自分が真面目な大会を引っ掻き回した悪役だってことは、わかってる。
俺に浴びせられた罵詈雑言の数々も、ある意味妥当なものだ。
だから、それで良いと思っていた。
誰からも、認められなくたって。
それが自分の中で納得のいく結果であれば、満足だと思っていた。
……でも、やっぱり──
【プレイヤー:ジョージ917からフレンド申請が届きました】
「えっ……?」
人から認められるのって、嬉しいもんだよな。
ピロンッ、と。
彼は、自分の視界に現れたシステムウィンドウに、困惑している様子だった。
「い、いいんですかっ。
オレみたいな初心者と、フレンド登録してもらって!?」
初期アバターの表情を、これ以上ないほどに輝かせる彼に、俺は手をひらひらと振りながら答える。
「いーのいーの。元からブロックされすぎてて、フレンド欄すっからかんだし」
「ジョージさんも、友だちいないんですね……!」
「その代わり、討伐隊は組まれたことあるぜ?
俺と仲良くするとけっこう大変だから、覚悟しとけよ」
こうして、それから長い付き合いとなる俺とれぼ☆いりゅーじょんはフレンドとなった。
それから3ヶ月ほど……
俺は彼のレベリングに付き合ったり、対人戦のイロハを教えたり。
リアルで何度か呑みに行って、彼のイケメンさや経歴と肩書のガチエリートぶりに、驚愕したりしていたのだが──
「お疲れさまですっ、ジョージさんっ!
今日はどこ行きますかっ!」
「あったぶん人違いです」
「……あっ。けほんけほん……
失礼しました。
オレです。れぼ☆いりゅーじょんです」
「えええ……」
──ある日、彼は唐突に、どぎつい露出の銀髪サキュバスと化していた。
CEROギリギリ、胸とか腰とか、ちょっと目のやり場に困るぐらいの。
なにを言っているか分からないと思うが。
とんでもないクオリティの特注アバターに身を包んで。
全く違和感のない女声まで習得した、あまりに堂に入ったネカマとして、俺の前に現れた。
「オレ、ジョージさんと出会った日に決めたんです。
自分を変えるために、このゲームの中では、リアルとは真逆の人間になってみよう、って」
「…………ほ、ほう?
それがなんで、そんな……淫乱どすけべな格好のサキュバスに?」
「ふふ、よくぞ聞いてくれました。
客観的に、自分を分析した結果です。
生真面目なイケメンエリート野郎と対照的な存在がなにかって考えると、淫乱どすけべサキュバスになると思うんですよ」
「なにを言ってるの?」
こいつ今、さらっと自分のことイケメンエリートとか言いやがった。
いや、まったく否定できないんだけども。なんだかなあ。
俺のジトっとした視線を受け流して、れぼさんはふふん、と満足げに腰に手を当てていた。
「……あ、一応言っときますけど。
オレには女性化願望とか、男が好きとか、そういう
あくまで、自分の殻を破るためのツールとしての、どすけべサキュバスなのです」
「ツールとしてのどすけべサキュバスってなんだよぉ……」
「まあ、なにはともあれ!」
れぼさんはそう言って、俺に身を寄せると。
わざとらしい、『ぱちっ☆』という擬音が似合うようなウインクをしながら、腕を組んできた。
「これからもよろしくお願いしますね、ジョージさんっ♡」
「うわあ語尾にハート付けるんじゃねえ!
どこで身に付けてきた、その技術!」
Tips:プレイヤーネームの由来 ジョージ・スケベワークス
:全力戦闘時、グリッチを総動員した挙動があまりに変態じみていたことからつけられた蔑称を、なんか気に入っちゃって名乗っているぞ!
:本人がスケベだからスケベワークス呼ばわりされているわけではないのだ!
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