???「…体に…は見……ません。で…が、脳波に……乱…が見ら…ます。今日は…念…入……した方がいい…う」
???「…う…か。ありが…す先…」
う〜ん…ココ…は?見たことのある天井のような…そうでもないような…。なんか根源的な既視感を感じるかも…。
夏未「ーー!! よかった!目を覚ましたのね!」
母…さま…?今日は家に帰らない筈じゃ…?それに…ココは病院…?なんで…。
・・・ハッ!お、思い出した!!確か秋葉名戸での尊厳破壊の帰り道に銀牙と頭をごっつんこして…!
夏未「はぁ〜…!本当に目覚めてくれて良かった…!貴方達が気を失って病院に運ばれたって連絡を貰った時は本当に心配したのよ…!」
そっか…あの後、僕は気絶しちゃったんだ…。
だとしたら申し訳ないな…母さまも忙しいだろうに、僕たちのせいで仕事を後回しにさせちゃって…。
???「ごめんなさい母さま…僕の不注意で…」
……ん?なんか僕の声おかしくない?心なし…どころか明らかに高いんだけど…。しかも声質がやたらと銀牙に似てる気がするし。
…どうしたんですか母さま?そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔で驚いて。僕の顔に変なものでも付いてます?
夏未「ど、どうしたの急に改まって…!しかもその話し方…!まるで
いや…そりゃ僕は貴方の息子である稲魂雷紋なんだから当たり前でしょ…。
それともなんですか?もしかして貴方の目には僕が雷紋以外の人間に見えてるんですか?
アッハッハッハ!それはないか!どーせ最近、仕事が忙しいから疲れているですよ!もう母さまも若くないんですから無理しちゃダメですよ!
夏未「もしかして…頭を打った衝撃で記憶が混濁しているのかしら…?ちょっと待ってなさい!すぐにお医者様を読んで来るから!いい?絶対そこで大人しくしているのよ!
???「・・・え?」
ぎ、銀牙…?いやいや!!どうして僕の顔を見てアイツの名前を呼ぶんですか!?
よく見てくださいよ母さま!僕と銀牙は双子でもそこまで似ていないじゃないですか〜!流石に疲れてるといっても、そんなミスをするなんて母さまらしくないじゃn…
???「……は?」
母さまを呼び止めようとした瞬間、僕は言葉を失ってしまう。
本来なら母さまを呼び止めて、先ほどの言葉の真意を問いただす…それ以外に優先すべきことはない。
…だけど、不意に目に入った光景は僕の言葉を打ち切らせるとは十分すぎるモノだった。
???「ぐ〜…ぐ〜…」
僕の視線の先には1人の患者がベットの上に眠りについていた。
いや…ココは個室じゃない共用の病室なんだから、隣のベットに人が居ること自体はそうおかしなことじゃないのは分かってる。
1番の問題はベットの上で寝息を立てながら寝ている人間の
多種多様なカラーリングの頭髪が跋扈するこの世界では異端とも言える黒髪…。
そして烏が羽ばたいているかのような独特なヘアースタイル…。
半袖の入院服から見える、どんなに特訓を重ねても筋肉じゃなくて擦り傷ばかりが増えていくやや細い腕…。
あまりに見覚えがありすぎる要素の数々…。その人物はどこからどう見ても…。
雷紋?「zzz…zzz…」
ココに居る筈の稲魂雷紋その人だからだ。
???「はぁぁぁぁ〜〜〜!?!?!?」
いやいやいや!?!?!?なんで!?なんで僕が隣に居るの!?おかしいじゃん!?だって僕は今ココに居るわけでしょ!?多分、頭の上に凄まじい量の?マークを頭に浮かべながら困惑しているわけでしょ!?
でも、現実には目線の先にだらしなく涎を流しながら寝ている僕が居るんだよ!!
じゃあ、今ココで混乱している稲魂雷紋は誰だってのさ!?
夏未『絶対そこで大人しくしているのよ!銀牙!』
???「いやいや…まさかね…。」
よくよく考えてみると母さまの反応の数々…それが既に今の僕の身に起こっている“それ”の正体をありありと証明していた。
…けど、僕のプライドが目の前の現実を意地でも受け入れようとしないんだ。
だって、“それ”を受け入れてしまえば僕はメイド服を超える尊厳破壊を自覚してしまうから。
???「頼む頼む頼む…!一生のお願いです神さま〜!僕の予想が外れててください〜!本当にお願いしますっ!!!」
もう色んな意味で追い詰められていた僕は、勝負事において1番よろしくない心が負けている時の神頼みを一生分反復しながら、恐る恐る病室に備え付けられた鏡を見る。
そこに映っていたのは…
???「嘘だろ…?」
父さまにも母さまにも似ていない白金色の髪…
黙れば美人・座れば傲慢・動く姿はただの怪獣と評されるくらいには整った顔。
アレだけ荒々しいサッカーをしながらも、傷1つ付いていない綺麗な肌…。
もうココまできたら見間違いようもない……。鏡に映っているのは…
僕の人生の天敵である稲魂銀牙その人だった。
……………
…………
………
……
…
R銀牙*1「お〜。マジでお兄の身体じゃん。オモシロー」
G雷紋*2「何面白がってるんだよ!?僕とオマエの身体が入れ替わってるんだぞ!?もっと焦れよ!」
結論から言おう。本当に信じられないことだけど、どうやら僕と銀牙の身体…いや、魂が入れ替わってしまったようだ。
・・・やっぱり自分で言ってても全っっっ然理解出来ない。なんだよ魂が入れ替わるって。
そんな言葉、漫画ならともかくリアル人生で使う筈がないじゃん。
え?何?僕って神さまに嫌われるようなことした?幼い頃からずっと妹と比較されてきてさァ、チームの為にメイド服着て無給労働頑張ったのにさァ、その結果がコレ?
もしも神様が実在するなさァ、100%寝っ転がりながらゲラゲラ笑ってこの様子を見てるよ。ふざけんなっての。
R銀牙「それで?コレからどうするの?」
G雷紋「…ハッキリ言って僕は一生、オマエの身体のままで生き続けるのは絶対にゴメンだよ。だから…なんとしても元の身体に戻る!」
R銀牙「それに関しては。あたしもミートゥー。だから具体的な方法をプリーズ。」
…どうすればいいんだろ?当たり前だけど、こんな状況に意図して遭遇したワケじゃないし…。
う〜ん…ココはベタな展開だったら、やっぱ……
G雷紋「もう一度頭をぶつけてみる…とか?」
R銀牙「OK。じゃあ今スグやろう。即・決・断」
G雷紋「ちょ待っt」
ゴツンッ!!!
G雷紋「キュ~…」
R銀牙「痛った…」
痛いです…主に頭が…。・・・ハッ!完全に意識飛んでた!…僕の身体は……!?
G雷紋「…変わってない……」
目の前に銀牙の魂が入った僕が居るのも変わらないし、鏡に映ってる僕も銀牙の肉体のままだ。
R銀牙「…ダメじゃん」
G雷紋「ハァ〜…!…もうこうなったら仕方ないよ……。すっっっっごい不本意だけど、もう現実を受け入れるしかない。具体的な解決策が見つかるまで、入れ替わって生活するしかないよ」
R銀牙「しんっど…。何が悲しくてクソ真面目なお兄の真似して生きなくちゃいけないの?」
G雷紋「しょうがないだろ〜!僕だって好k(ブルル…!」
刹那、僕…いや銀牙の肉体に何か電流のような感覚が走る。けど、その感覚は女の子特有の物ではない。寧ろ、人間である以上は避けては通れないあまりに普遍的な感覚だった。
G雷紋「…ね、ねェ銀牙…?」
R銀牙「何…?」
G雷紋「トイレってどうやってすればいいのかな…?」
R銀牙「・・・エッチ」
しょうがないじゃん!トイレは生理現象なんだから〜!僕だって好きでこんなことになってるワケじゃないっての〜!!
♢♢♢
雷紋と銀牙の肉体が入れ替わってから翌日。検査入院の結果、現代の医学的な観点からは異常無しと判断された兄妹は家に帰され、元の日常へ戻っていった。
兄妹の肉体が入れ替わってしまったという1点を除いて……
目を覚ましてすぐに目の前の状況を受け入れるという常人を超えた適応力を持つ銀牙はまだしも、
G雷紋「ぶへぇ!?」
R銀牙「ハァ…ハァ…。何…この身体…。体力…なさすぎ……」
特に2人を苦しめたのは、他でもない“サッカー”だった。
雷紋は高すぎる銀牙のフィジカルを制御する事が出来ずに、ただ振り回されるだけであり、銀牙も銀牙で普段通りの動きを雷紋の肉体に強制するが故に、体力のペース配分が上手くいかずにすぐにバテる。
霊道「おい銀牙コラァ!!なんだァ?そのお粗末なミスはよォ!?んな不甲斐ねェプレーをするくらいなら俺に10番を返しやがれッ!!!」
穂村「雷紋。試合に向けて練習を張り切るのは結構だが、もっと体力の配分を意識して動け。思考を続けられない選手は一流とは言えないぞ」
当然、兄妹の身に起こっている事情など知る由もないチームメイトの目には、2人が不甲斐ないプレーをしているようにしか映らない。
チームメイトからすれば至極当然、兄妹からすれば理不尽な叱責がグラウンドに飛び交う。
参募「どうしたんでしょう2人共…。せっかく相模原との試合で銀牙ちゃんの不調が治ったと思ったらまたぶり返すし…。今度は雷紋君まで動きが悪くなるなんて…」
秋葉名戸との試合まで残り日数が少ない中、チームの柱である稲魂兄妹の不調を前に、参募は顔を青くしてしまう。
ウサギ『やっぱデータの為に雷紋を売ったのがよくなかったんじゃねぇか〜?あの時の雷紋、スッゲェ目でアリスを睨んでいたしよ〜!』
アリス「……」
自身の右手に宿る兄弟の煽りにも特に気にする事なく、監督業務を続けるアリス。
だが、所々で向けられる兄妹への視線には形容し難い違和感に対する疑惑の感情が籠っていた。
……………
…………
………
……
…
G雷紋「痛ってて…身体が擦り傷だらけ…ってワケじゃないけど疲れたァ…!」
身体が入れ替わってやっと確信した。
R銀牙「あたしも疲れた。お兄。おんぶ」
G雷紋「ハァ〜…!今回だけだからね!」
流石の銀牙も慣れない身体で肉体的にも精神的にも、普段以上に疲労を感じてるようだね。…てか、顔は僕とはいえコイツがくたびれた顔してるの初めて見るかも。
R銀牙「スンスン)…臭っさ。もしかしてシャワー浴びてないの?」
G雷紋「無茶言うなよ!家ならまだしも他の女子生徒が居るシャワー室に入れるわけがないだろ!?着替えだって更衣室じゃなくてトイレで済ませたし!」
え?じゃあ家での入浴はOKなのかって?…そういうセンシティブなことは聞かないで欲しいな…。
ハァ…今日は早く帰って寝よう…。幸運なことに母さまも父さまも、しばらくは家に帰って来れないらしいからバレる心配もないし。こういう時は両親が共働きなのに感謝だね。
コツコツコツ…
…そう、僕と銀牙はこのまま真っ直ぐ家に帰って、晩御飯を食べるなり自由な時間を過ごすだけ…その筈だった…。
けど僕はすっかり忘れていた。この学園には、少しの違和感すらも見逃さない病的なまでに執拗的な先輩が居ることを…
アリス「おっと。奇遇だな雷紋、銀牙」
ゲッ!アリス先輩…!何でココに…!?いつもなら、監督室に籠って監督業務をしている時間帯なのに…!
G雷紋「アリスせn…ゲフン!ゲフン! あーアリスパイセンだー(棒)。こんな所で会うなんて奇遇ー(棒)」
R銀牙「…それあたしの真似?全っ然似てないし」
G雷紋「シ〜!静かに!オマエは黙って寝たフリでもしててよ!後は僕が上手く誤魔化すから!」
…とは言ってみてけど、こっから誤魔化せばいいんだよォ…。この人、普通に勘も鋭いからそう簡単に上手く筈がないんだよなァ…。
あ〜も〜!こうなったらヤケだッ! やるっきゃないッ!!!
G雷紋「…珍しいじゃん。いつもなら監督室にこもってるんじゃないの?」
アリス「秋葉名戸のデータのお陰で、既に執筆も終わっているからな。デスクワークの気分転換がてらに学園内を散歩してたら、偶然雷紋を背負うお前を目にしたから、声を掛けただけだ」
ウサギ『にしても珍しいこともあるもんだな〜!まさか銀牙に人の心があるだなんて思ってもいなかったぜ〜!』
あっ、コレ絶対嘘だ。多分、今日の練習であんまりにも調子が悪かったから、何かいつもとは違う異物感を感じて怪しんでるパターンだ。
G雷紋「…別に。昨日お兄とジャンケンして負けたから、仕方なく今日一日言うことを聞いてるだけ。好きでしてるワケじゃない」
アリス「ほぅ?それは珍しいな。俺が知っている稲魂銀牙なら、意地でも兄の言う事は聞かない筈だかな」
R銀牙「おー。よく分かってんじゃん」
おっしゃる通りです…。本物の銀牙なら、100%すっとぼけて約束を反故にするのがオチです…。
アリス「…単刀直入に聞く。お前達は誰だ?返答次第では…分かってるな?」
G雷紋「えっと…そのぉ…」
……………
…………
………
……
…
これ以上隠し通すのは無理だと判断した僕は、コレまでの経緯と僕たちの身に起こった事全てをアリス先輩に話した。
正直、ガチガチのリアリストかつ超が付く程のデータキャラの先輩が、僕たちの話を信じてくれるとは思っていないけど、変に出し渋って不信感を植え付けるよりも、正直に話した方がよっぽどマシだ。
G雷紋「というワケなんです…。正直言って信じてもらえないでしょうけど…」
アリス「……」
うっわ…。メチャクチャ僕たちを睨んでる…。コレどっちだ…?得意の観察眼で真偽を判断してるのか、それともシンプルに何言ってんだコイツ的な侮蔑の目かな…?…十中八九、後者だと思うけど……。
アリス「…分かった。信じよう」
ホラやっぱr…え?今何って言った?僕の聞き間違いじゃなければ『信じる』って言ったよね…?
アリス「何度も同じ事を言わせるな。お前達の身体が入れ替わった事を信じると言ったんだ」
G雷紋「…本当ですか?」
アリス「なんだその顔は?もしかして俺は現実主義者かつデータキャラだから、非現実的な話は信じないとでも思っていたんじゃないだろうな?」
G雷紋「いや〜…ソンナコトハアリマセンヨ〜!」
ヤッベ…顔に出てたかな…?肉体は銀牙だからあんまり表情筋は発達してない筈だけど…。
アリス「そもそも…監督室で銀牙が礼儀正しく説明してて、雷紋が太々しく寝転がって眠っている時点で、俺からすれば十分異常だ」
R銀牙「zzz…zzz…」
G雷紋「アハハハ…」
フゥ…!予想外に予想外なことばかりだけど、とりあえず心強い味方は出来たぞ…!
…ん?待てよ?そもそも僕たちの身体が入れ替わったのは銀牙が僕のメイド服の写真持って逃げたから…。そしてメイド服を着るきっかけとなったのはアリス先輩の無茶振り…。アレ?もしかしなくても、この騒動の元凶ってアリス先輩?
…コレ以上、考えるのはやめとこう…。今はアリス先輩が味方になってくれたことを喜ぶべきだよ。うん。そうだ。
アリス「取り敢えず鬼道財閥の力を使って情報を集めさせよう。現実にお前らの肉体が入れ替わっているんだ。96.3%の確率で同じ前例がある筈だ」
G雷紋「あ、ありがとうございます…!」
なんか気持ち悪いくらいに親切だな…。あんまり人の善意を疑うことはしたくないけど、この人も大概人の心ないしなァ…。
R銀牙「それで?次の試合はどうすんの?まさかまたベンチ?」
G雷紋「そりゃそうだろ。だって僕たちはロクに自分の身体を使えないんだよ?試合に出たって、チームの脚を引っ張るだけっての」
R銀牙「別にあたしはいいけど」
G雷紋「オマエが良くてもチームが良くないの!オマエのサッカーにペース配分なんて概念はないんだから、試合に出ようもんなら前半が終わる前に潰れるのがオチ!」
それは銀牙だけじゃなくて僕にも当てはまるけど。だって見たくないでしょ?馬に振り回されるジョッキーなんて。
アリス「…いや、お前達には秋葉名戸戦に出てもらう」
G雷紋「・・・はい?」
突然放たれる、僕の合理性とチームの利益を考慮した上で一歩引いた発言を全否定するアリス先輩の言葉。
合理性もへったくれもない全否定に、唖然とする僕と相変わらずの無表情で関心している銀牙を前に、当の本人はあんまり教育上よろしくないであろう悪い笑みを浮かべていた。
もうちっとだけ日常回が続くんじゃ。
ちょっとした作者の好奇心なんですけど、読者の皆さんは兄妹のうちどっちが好きですか?
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雷紋
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銀牙