どこかの聖書には人は産まれながらに“罪”を背負っていると書かれているらしい。
別に僕は宗教に熱心ってわけでもないし、その教えには言葉以上の意味もあるかもしれないのでここで何やかんや言うつもりはない。
でも僕の持論を言わせてもらえるのなら1つだけ付け加えたい事がある。
僕は人は産まれながらに“罪”の他に“不幸”も背負っていると思う。
“不幸”の定義はいろいろと複雑だけど僕個人としては運の悪い事の他に世間一般で言うところの“才能”で片付けられる物事も含む。
ほらクラスにもいるだろ?
滅茶苦茶勉強しても絶対に勝てないくらい頭の良い同級生とか。
逆に何もしてなくても生半可な同級生よりも運動神経がいいヤツとか。
それを踏まえた上で聞いて欲しい。
僕は2つの“不幸”を持って産まれた。
1つ目は
そのせいで13になっても事あるごとに
そして2つ目。…ハッキリ言ってこれは僕のアイデンティティを揺るがす問題だからあんまり言いたくない。
…え?だったらこんな長ったらしくて思想の強い演説をしないでさっさと話を進めろだって?
…酷いな。ここまでの長台詞は全部徹夜で覚えたんだよ。
あー!待って待ってよ!分かった!言うから!だから帰ろうとしないで!
ハァハァ…。ごめん、ちょっと調子に乗りすぎた…。
コホン…。じゃあ改めて言おう。僕にとって2つ目の不幸は…
“
♢
『さぁ!遂に始まりました!U-15新人大会!見てくださいこの歓声を!まだ初戦にも関わらず例年の決勝戦にも匹敵する観客ですッ!』
いよいよだ。集中。
『“サッカーサイボーグ”とも評される合理的な戦略と連携が自慢のサッカー強豪校・御影専農中と相対するのはこれまたFF決勝常連校!帝国学園だァァァァア!!!』
御影専農はウチにも匹敵する連携力が持ち味のチーム。となればスピードが勝負の明暗を分けるはずだ。
『さあ皆さん!もうお分かりでしょう!今日はまさに奇跡の日です!別地区で開催されているU-15スプリング杯に出場している王者・雷門!そして今このスタジアムに現れようとしている帝国学園の2チームには“伝説の遺伝子”を継ぐ者達がいるのです!!!』
気持ちを落ち着かせろ。そうだこういう時はビックマウスで戦意を向上させるんだ。
よーしそうなれば善は急げだ。スゥー…
御影専農なんて僕からすれば朝飯前だ。けちょんけちょんにボコボコにしてやる。…いやボコボコは可哀想だ、間を取ってポコポコにしよう。
…朝飯?あれ?そういえば今日朝ご飯食べたっけ?そもそもここに来るまでの記憶が曖昧だ。
あっ!そういえば家の鍵掛けてくるの忘れたかも…。ヤバいヤバい!母さまに怒られる!
『…イ!…紋!』
あ〜駄目だ駄目だ!試合に集中しろ!
『…オイ!聞いてんのか?』
そうだ!昨日父さまに教わった緊張のほぐし方を実践するんだ!
え〜と確か…びっくりすr…
『オイ!
「ヒャイ!!!びっくりするほどユートピアですっ!!!」
僕の返事がロッカー室全域に響き渡る。チームメイトは全員何言ってんだコイツと言わんばかりの冷たい目で僕を見てる。
『ったく!おいアリス!やっぱり聞こえてなかったみてーだぜ!』
「そう言うな
…1つ画面の前の君たちに質問しよう。今の2つのこの声の持ち主は一体誰だと思う?
3択あげるからその中から選んでほしいな。
①キャプテンマークを付けた赤髪の先輩
②右手にウサギのパペットを装着した顔色の悪い先輩
③本来選手が座る筈のベンチの上でスヤスヤと眠っている僕と同い年の女の子
シンキングタイムは5秒。5…4…3…2…1…0。
答えは両方とも②の顔色の悪い先輩だ。
この人は2年の不破アリス先輩。現帝国学園総帥・鬼道有人さんの養子にして名門・帝国サッカー部の
『かぁ〜!相変わらずアリスは下級生に甘いぜ!おい雷紋!ちったぁお前の
ウサギさんが指(?)を指した方向にはヘアースタイルこそ僕と似ているけど黒髪の僕とは対照的な白金色の髪を靡かせて帝国のユニフォームを根巻き代わりにしてスヤスヤ寝ている少女がいる。
…そう。
コイツは僕の双子の妹なんだ。認めたくないけど。
「雷紋、彼女を起こせ。あと1分以内に起こさなければ試合のパフォーマンスが38%程落ちる」
「なんでいつも僕があいつを起こす係なんですか…」
「妹の世話は兄の務めだろう。それに好き好んで寝ている“怪獣”を起こす愚者などこの世にはいない」
ハァ…。まあいいや。変に緊張を落ち着かせる方法を探すよりもコイツを起こす事を考えているほうがマシだ。
覚悟を決めた僕は一歩ずつ確実に少女に近寄る。
小さい寝息をたてながら眠りについている彼女を見た人は果たしてこの子にどんな印象を抱くのだろう?
ミステリアスな雰囲気を持つ美少女?
儚げな雰囲気を持つ清楚な少女?
…ハッキリ言って現実はそこまで甘くないと言わざるを得ない。
それを証明するようにこいつが帝国に入学した初日。その容姿に騙されてファンクラブが設立されたが1週間で部員は0になったそうだ。
昔から同級生は僕のことを羨ましがるが(誠に遺憾だが)血を分けた兄として僕は彼女の本質を嫌という程理解している。
そう考えると本質を見抜けなかった彼らも産まれながらにして“不幸”を背負っていたんだろう。
…さてやるか。スゥ~…
「試合の時間だ!起きろ
頼む神様…今日はまだマシであってくr
「ブホァ!?」
神に祈りを届ける前に僕の視界は天井が地面となり床が天井となった。
どうやらこの世に神はいないらしい。となれば世宇子中のような神学校の存在意義はどうなるのだろう。
「フワァ〜…よく寝た…。アレ?お
「お前が僕を投げ飛ばしたんだよ…!」
自分が元凶の癖に何やってんだコイツ?と言わんばかりのキョトン顔を披露しているのが僕の妹にして最大の天敵…
“稲魂”の姓で気づいた人も多いだろう。
少し遅くなったけど自己紹介をさせてもらう。僕の名前は
あの伝説の“
悲しいことに世間ではもっぱら“じゃないほうの兄”で通ってるけど…。
「役者は揃ったな。行くぞ」
『はいッ!』
アリス先輩は僕の心配などせず銀牙が起きた事を確認すると控え室を出る。
…僕って一応今日の試合のスタメンだよね?
「お兄。おんぶ」
「
このやろ…!無理矢理僕の背中にしがみつきやがった…!クソ…!お、重い…!
「zzz…」
また寝たし…!
え?何?僕、今からこの妹を
「おい雷紋!早くしろ!入場の時間だ!」
その後なんとか銀牙を起こして無理矢理入場させる事に成功した。
安いもんだ。僕の尊厳を守るためなら痣の1つや2つくらい。
夢に見たピッチに入場するとただでさえやかましかった歓声が更にヒートアップしまるで戦場に迷い込んだのかと見間違える。
まあ戦場なのは間違いないけど。
『おおっと!凄い歓声ですッ!それもその筈!帝国伝統の翡翠色のユニフォームを身に包みピッチに立っている2人の兄妹はあの生ける伝説!“怪物”・稲魂雷牙の血を継ぐ者なのですッ!!!』
実況界の生ける伝説の角馬王将さんの実況によりますます歓声がヒートアップする。
ヤバいな。もう下痢止めの効力が消えてきた。
「ムカつくぜ。父親が凄いからって観客からチヤホヤされやがって」
「実際凄いのは
「そもそもなんだあのヘアースタイルは?頭に烏でも飼ってんのか?」
余程僕たちの歓声が気に入らないのだろう。向かい側にいる御影の選手はヒソヒソ声で僕の悪口を言う。
多分この歓声の中なら聞こえないと思っているのだろう。でも人間の耳って不思議だね。爆音の歓声の中でも悪口はちゃんと聞こえる。100万ホーンの音楽で鼓膜が破壊されても落語は大丈夫なのと同じ理論なのかな。
まあ隣で器用に立ったまま寝ている妹と比較されるのはもう慣れてる。
寧ろ世間から“サッカーサイボーグ”と呼ばれていても他人に嫉妬する程度には人間性があると分かっただけ親近感が湧くほどだ。
でもヘアースタイルをいじったヤツ。お前だけは許さんポコポコにしてやる。
ピビーッ!
なんて考えてるうちに試合が始まってしまった。
一旦情報を整理しよう。対戦相手は強豪校・御影専農中。正式名称がアホみたいに長いことで有名な帝国にも匹敵する連携力が特徴のチームだ。
御影専農はウチの情報収集能力を警戒してこの大会までの練習は徹底的に情報が漏れないように対策してきたらしい。
その甲斐もあってか有益な情報は一切コッチにはない。
ならば僕たちはどうするべきか?その解は既にウチの天才少年監督兼腹話術師先輩が出している。
“前半はほどほどに攻めて奴らの戦術を全て引き出せ”
情報がないなら即座に引き出せばいい。実にシンプルかつ無駄なない作戦だ。
彼の指示に従って僕たちはある程度の膠着を演じながら御影専農の戦術を引き出す。
まさに不破アリス作の脚本通りの展開だ。
流石は天才少年監督。あの鬼道さんに匹敵する才能の持ち主だと評されるに相応しい実力の持ち主だ。
…でも僕たちは大きな間違いを犯してしまった。
確かにアリスさんの指示は完璧だった。そこに綻びが生じる原因となったのは間違いなく物語にオリチャーを入れた
穂村先輩が御影専農のDFに囲まれて四面楚歌になってしまう。けど彼の目にはたった1人だけ完璧なパスコースが空いていたように見えたのだろう。
それが間違いだったと知らずに。
彼はパスを出した。まあそこまではいい。問題はパスを受け取ったのが
『おおっーーと!!!他のメンバーが様子を見る中、10番!稲魂銀牙、単身で突撃だァァァァ!!!』
ボールを受け取った銀牙はアリス先輩の指示など知ったことかと言わんばかりにトップスピードで攻め上がる。
もとより父さま譲りのズバ抜けた身体能力を持つ銀牙のスピードには名門・帝国のスタメンですらも追いつくことが出来ずに銀牙は御影専農という名の防衛戦に単身突撃を行う形となる。
「馬鹿め!必殺タクティクス!“マトリックス・サイクル発動!!」
“鴨がネギを背負ってやってきた。”
御影専農の選手たちの目にはまさに銀牙がいわゆる“カモネギ”状態に見えたのだろう。
司令塔の選手がタクティクスの指示を出すと銀牙は瞬く間に囲まれてしまった。
『ああっと!御影専農の必殺タクティクス“マトリックス・サイクル”が炸裂ーーッ!!!6人でボールを持つ選手を囲み一気にボールを奪うタクティクスだァーーッ!!!これは帝国万事休すかァーー!?』
「…ッ!銀牙…!」
ほぼ無意識だった。気づけば僕はアリス先輩の指示を無視して銀牙の後を追って走っていた。
アイツを心配したのか?アレだけ嫌っている妹の危機の前に兄としての本能が目覚めたのか?
御影専農にボールを奪われてもそれはアリス先輩の指示を無視して単身突撃した銀牙のミスでしかない。
そんな自業自得の極みのようなヤツを僕が心配したのか?
…そうだ。僕は心配したんだ。妹よりも体格の良い選手に彼女が傷つけられる事を。
しかしだ。そもそも何故僕はアイツを嫌っていたのだろう。
父さま譲りのマイペースからか?
いついかなる状況でも眠たそうにしている天然の煽リスト故か?
デビュー戦の入場直前で僕におんぶをねだる性格の悪さからか?
全部正解だ。
アイツは見てくれだけはいいけど性格はハッキリ言ってクソだ。けどそれももう慣れた。
じゃあどこが気に入らないのかって?
決まっている。
アイツこそ…
この世で最も“
「…え?」
今の声は僕のじゃない。僕の遥か前方に御影専農の選手の声だ。
声の数は1つだけだったが多分考えている事は全員一緒なのだろう。
それもそうだ。だって死角の無い場所で突然
「・・・バン」
刹那。空気を切る鋭い音が聞こえたかと思うと御影専農のゴールネットが激しく揺れる。
あまりに一瞬の出来事すぎて
『…ハッ!ご、ゴーール!!!実況歴数十年…!今まで幾多の少年サッカーを実況してきたこの私ですが…!稲魂銀牙の動きを捉える事が出来ませんでした…!一体今の一瞬で何が起こったというのかぁ…!?』
事の真相は結果に反してシンプルだ。
御影専農が“マトリックス・サイクル”で銀牙を囲んだ瞬間。アイツは飛んだんだ。一蹴りで数mは飛べる脚力で。
そうなれば6対1なんてものは関係ない。だって空にいるのは銀牙ただ1人なんだから。
そして空という死角からシュートを打った。ただそれだけのことだった。
「す、スゲェ…」
「化け物だ…あいつは…」
普段から厳しい先輩達も銀牙の実力に脱帽し素直に彼女を讃える。
…どちらかと言えばドン引きしているって表現が正しいけど。
「……」
せっかくの先制点だというのに銀牙は表情1つ変えずにポジションに戻る。
自陣に戻る銀牙の様子は英雄の凱旋ではなく暴君の帰還を思わせる重い空気だった。
「…ナイスシュート」
それでも僕だけは銀牙に近寄って彼女を褒めた。
別にコイツを哀れに思ったんじゃない。そこに得点を決めたという事実がある以上どんなに嫌いな人間でもその功績を讃えるべきというのが僕のポリシーだからだ。
「……」
それでも銀牙は僕を無視してその場に立ち伏した。
…おかしい。ここはピッチのハーフラインだぞ?帝国に得点が入った以上次のプレーは御影専農のキックオフで試合が開始される筈だ。
なのにコイツはここが自分の居場所だと言わんばかりに立ち止まっている。
流石の銀牙もそんな初歩的なルールも知らないほどバカじゃない。
…!コイツ…まさか…!
『おーと!?突如稲魂妹が動かなくなったぞーッ!?これもまた不破アリスの物語の一幕なのかッ!?…おや?なにやら兄・稲魂雷紋が審判を呼んでいます!…こ、これは…!』
今一度改めて宣言しよう。
僕はコイツが嫌いだ。
「zzz…」
『ね、寝ている〜〜!!?寝ているぞォォォォォォ!?こ、この角馬王将ぅ!もう長い事少年サッカーを実況してきましたが…!試合中に眠りにつく選手は初めて見ましたァァァァ!!!これは前代未聞の出来事ですッ!!!』
前代未聞にもほどがある少年サッカー屈指の珍事に会場は騒つく。
僕は何度も銀牙に声を掛けたり身体を揺らしたりして起こそうと努力したが既にノンレム睡眠へと突入していたようで彼女が目を覚ます事はついになかった。
結局。稲魂銀牙のデビュー戦は試合開始から僅か3分で終了した。
その後の試合は5対0で帝国が勝利した。
彼らの名誉のために言っておくと御影専農は強かった。銀牙があっさり破った“マトリックス・サイクル”だったがあんな破り方は常人にできるわけがない。
前半はそれらのタクティクスと連携に苦戦し1対0のまま膠着状態に陥ったが、後半アリスさんの戦略眼によってタクティクスと御影専農の弱点を見破り戦況は帝国側に傾いた。
僕も先輩方のフォローによって1点をもぎ取る事に成功し稲魂雷紋のデビュー戦はそこそこ満足のいく結果に終わった。
しかしだ。翌日のネットニュースは雷門の話題と銀牙のやらかしで持ちきりで僕のことに言及する者は誰1人いなかった。
…こうして。僕のデビュー戦は妹がやらかした珍事に埋もれる形で幕を閉じた。
もうここまで見れば分かるだろう。
この物語は勇者が魔王を倒すなんていう綺麗な絵空事じゃない。ましてや廃部寸前のサッカー部が仲間と共に全国優勝を目指す物語でもない。
これは“足掻き”の物語なんだ。
“怪物”を継げない事実を受け入れられるない愚者が足掻きに足掻いた末に“夢”を諦める物語。
僕がどのようにして“夢”を諦めるのか…。その過程を君たちに見ていてほしい。
近いうちに詳しいキャラクター設定作ります。
≪人物設定≫
稲魂雷紋(13)
イナヒロの主人公・稲魂雷牙の息子にして本作の主人公。容姿は中学時代の父にそっくりだがハジケリストであった父とは異なり真面目かつ几帳面な性格。どうやらこの気質は母に似た模様。
キャラクターモチーフは烏と仮面ライダーWの主人公の1人・左翔太郎。
稲魂銀牙(13)
雷紋の双子の妹にしてもう1人の主人公。父・雷牙のサッカーセンスとマイペースさはこっち受け継がれており、いつも眠たそうにしているか寝ている。
無意識であるが父にも勝るとも劣らないトラブルメーカーということもあり雷紋からは割と本気で嫌われてるいるが本人はそのことに気づいていない。
キャラクターモチーフはライオンと仮面ライダーWの主人公の1人・フィリップ。
試験的に台詞の頭にキャラの名前を入れています。もしもコッチの方の反応がよければ『HEROS』も世界編から同じ形式にする予定ですのでアンケートお願いします。
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コッチ(名前あり)
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アッチ(名前なし)