イナズマイレブンMONSTERS!!!   作:月兎タンク

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 ダブル主人公書くの楽しすぎる。兄妹コントでギャグも書けるし、真面目で努力家な兄と天才肌で自信家の妹との対比で話作りやすいわでメリットしかない。


落ちこぼれのブルース 後編

 前半が終わりハーフタイムに突入した現在。尾刈斗のメンバーは非常に重い空気に包まれていた。

 

 それもそうだ。彼らにとってこの試合は夢の舞台であるFF予選の切符を掴めるかが掛かった試合なのだ。

 日本屈指のサッカー名門校帝国に所属し予選の切符など簡単に手に入る雷紋と銀牙とはあまりにも境遇が違いすぎる。

 

雷紋(考えろ…!考えるんだ稲魂雷紋…!ここで負ければ僕たちは尾刈斗(彼ら)の夢を潰してしまう…!考えろ…!雷門に勝つための策を…!)

 

 しかし望んでいるものが手に入らない彼らの境遇が自身と重なったのだろうか。雷紋は必死に脳をフル回転させこの劣勢をひっくり返す手段を模索していた。

 

 だが今の雷門と尾刈斗の実力は圧倒的だ。具体的には

 

 円堂ハル=稲魂銀牙>>>>>他の雷門イレブン>>>稲魂雷紋>>>>尾刈斗イレブン

 

 ぐらいの実力差だ。

 如何に銀牙の実力が凄くても彼女1人ではこの状況をひっくり返すのには力不足だ。

 

 となれば自身と尾刈斗イレブンの力を合わせるしか方法はない。

 

 だがこの期に及んで現実が見えていない人間が1人いた。

 

地木流「後半は銀牙さんのワントップで行きます。攻撃は銀牙さんに任せ中盤と終盤の防御を厚くして雷門の攻撃を耐えるんです。」

 

雷紋「ちょ、ちょっと待ってください地木流監督!銀牙1人じゃハルくんを突破できません!ここは多少防御を薄くしてでもチームで攻めに出るべきです!」

 

 地木流の指示に雷紋は断固反対する。点差で負けているこの状況で攻めに出るならまだしも彼は守りに徹しろと言っているのだ。

 そんなサッカーでは絶対に試合には勝てない。特にチームの最高権力者が気持ちで負けているなら尚更だ。

 

雷紋「考え直してください地木流監督!貴方はこの試合に負けてもいいんですか!?この試合に勝たないとFFの予選に出られないんですよ!?」

 

地木流「…せえ。」

 

雷紋「え?」

 

地木流「うるせえって言ったんだよクソガキ!雷門に手も足も出なかった選手は俺の命令に口出してんじゃねぇ!!!」

 

雷紋「…!ち、違います…!僕はただ…!」

 

 突如別人のように変貌した地木流は筋の通っていない怒声で雷紋の懇願を一喝する。

 事実とはいえ雷紋は実力差のある雷門イレブン相手にできる限りの事はした。その証拠に彼の身体は吹き飛ばされた際にできた擦り傷だらけだ。

 

怪現「か、監督…!それは言い過ぎですよ!雷紋君は帝国からの助っ人なんですよ!?」

 

地木流「助っ人だぁ?俺が頼んだのは稲魂銀牙だけだッ!こんな落ちこぼれ(・・・・・)なぞお呼びじゃねぇんだよッ!」

 

雷紋「落ち…こぼれ…。」

 

 雷紋は力無くその場に座り込む。雷紋は上からの命令とはいえずっと今日会ったばかりの尾刈斗の為に必死に戦ってきた。

 だが彼に待っていたのは感謝ではなく“落ちこぼれ”という罵倒だった。

 

 一の罵倒は百の賞賛に勝る。誰かが罵倒の恐ろしさを端的に表した言葉だが、まだ13歳の少年である雷紋にとっては死刑を宣告されたに等しいショックだった。

 

???「…取り消してくださいよ…!今の言葉…!」

 

 その時だった。地木流の耳に見知らぬ声が響く。当然尾刈斗イレブンの声でもないし銀牙の声でもない。

 では誰の声だ?地木流は声がした方向を見るとそこにいたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

ハル「雷ちゃんは…!落ちこぼれなんかじゃない…!」

 

雷紋「…ハルくん?」

 

 なんと雷紋を庇ったのは敵である筈の円堂ハルだった。彼は怒りの表情を浮かべながら雷紋を侮辱した地木流を睨み付けている。

 

月影「やめろハル!他チームのベンチに行くのはルール違反だぞ!」

 

 月影はルール違反を犯しかけているハルを自陣のベンチに連れ戻そうとするがハルのパワーには敵わず逆に引き摺り込まれている。

 

地木流「他チームの人間が俺の決定に口を挟まないでくれるか?世間では“怪物”だの“天才”だの言われてるらしいが俺からすればテメェもクソガキなんだよ。」

 

ハル「クッ…!この…!」

 

???「止めるんだハル君。それ以上食い下がるなら僕が監督権限で君を交代させるよ。」

 

 今にも殴りかからんとするハルを止めたのは現雷門イレブンの監督・乙女仙次郎だった。

 

ハル「乙女監督…。」

 

乙女「申し訳ありません地木流監督。うちの生徒が無礼を働いた事を謝罪します。」

 

地木流「ハッ!まぁいいでしょう、これで腹は決まりましたよ。後半は雷紋君を交代させます。」

 

ハル「そんな…!」

 

雷紋「……。」

 

ハル「…のかよ!」

 

地木流「ん〜〜?また何かいいましたかぁ?」

 

ハル「本当にそれでいいのかよ雷ちゃん!?そもそもなんなんだよ前半のあのプレーは!君の本当のプレーはあんな力任せのプレーじゃないだろ!」

 

雷紋「駄目なんだよハルくん…。僕は…、ガムシャラに…泥臭く戦わないと君には勝てないんだよ…!」

 

ハル「なんだよそれ…。俺の知ってる雷ちゃんはそんな奴じゃなかっただろ…!」

 

雷紋「……。」

 

ハル「…くそ!もういい!」

 

 これ以上雷紋に何を言っても無駄だと察したハルは監督に連れられてベンチに帰って行く。

 

地木流「やれやれようやくお邪魔虫がいなくなったようですね。さてミーティングを続けま…銀牙さん?何をしているんですか?」

 

 ミーティングを再開する直前、地木流は銀牙のおかしな行動に気づく。

  

 銀牙はベンチに尻をつけ、膝を立てて揃え両脚を両手で抱えたまま座っている。要するに彼女は体育座りをしているのだ。

 銀牙はジト目で地木流に視線を移すと静かに答える。

 

銀牙「何ってサッカーストライキ。お兄が出ないならあたしも出ない。」

 

地木流「なっ…!」

 

銀牙「そもそもあたし達はあくまで助っ人。別に尾刈斗が勝とうが負けようが知ったこっちゃない。もう“ワクワク”は十分に感じたからあたしは満足。」

 

地木流「じょ、冗談じゃない…!」

 

銀牙「どうしてもあたしに出てほしいのならお兄を出して。じゃなきゃ今すぐ帰る。」

 

地木流「クッ…!し、仕方ありませんねぇ…!お望み通りお兄さんを後半に出してあげますよ…!」

 

銀牙「ん。交渉成立。」

 

 銀牙が試合に出なければただでさえ低い勝利への確率が完全に0%になる。それを恐れた地木流は渋々銀牙の要求を飲み雷紋を後半も出場させる事を約束させられた。

 

 満足した銀牙は座り込む雷紋に手を貸し彼を立ち上がらせる。だが雷紋は彼女に対して不満を抱いている様子だ。

 

雷紋「…なんで僕を助けたんだ…?」

 

銀牙「…ダサかったから。」

 

雷紋「…は?」

 

銀牙「前半、お兄のサッカーが迷走してたのには気づいてた。お兄に何があって泥臭くサッカーをするっていう結論に至ったのかはわからないけど、お兄の“泥臭さ”はダサすぎる。ありもしない力に任せてサッカーするのはただの自己満足でしかない。」

 

雷紋「何だよそれ…。」

 

銀牙「不慣れな分野で競わずに持ち味を活かせってこと。どうせ“泥臭く”サッカーをするならせめて得意な分野で泥臭く戦うべき。」

 

雷紋「僕が得意な分野…。」

 

銀牙「お兄はあたしにはなれない。でもあたしもお兄にはなれない。あたしにはあたしの“最強”がお兄にはお兄の“最強”がある。」

 

雷紋「…ハァ。もういいよオマエが言いたいことはわかった。…ありがと。」

 

 雷紋は銀牙の肩を軽く叩くとベンチに立てかけてあったホワイトボードとペンを手に取り少し離れた所に座り込むと物凄い勢いで何かを書き始める。

 

怪現「何をやってるんだ…?雷紋君は…?」

 

銀牙「今のお兄に話しかけない方がいい。集中してるから。」

 

怪現「集中?何にだ?」

 

銀牙「勝利への方程式ってヤツ。」

 

 そう答える銀牙は淡々とした口調だったものの表情は僅かに口角が上がりどこか嬉しげだった。

 

♢♢♢

 ハーフタイムも終わり両チームメンバー全員が自身のポジションに着き終わる。

 尾刈斗は結局フォーメーションは前半と変わらずアンバランスな陣形で挑むつもりのようだ。

 

雷紋(…“ライガ”、いるか?)

 

 雷紋は心の中で自身のサッカーそのものに呼びかける。

 

ライガ『いるぜぇ〜?まあ〜尾刈斗のイタいおっさんにボロクソに言われたもんだなぁ。』

 

雷紋(オマエ、僕に嘘ついただろ。)

 

ライガ『嘘とは失礼な。俺はあくまで泥臭くても“いい”って言ったんだ。変に解釈をしたのはオメーの方だろ?いわゆる叙述トリックってヤツさ。』

 

雷紋(叙述トリックってそれ騙す前提の言葉じゃん…。ハァ〜…、もういいよ。おかげで自分を見つめ直せたから今回だけは許してやるよ。)

 

ライガ『そりゃどーも。んじゃ見せてくれよ、稲魂雷紋流の“泥臭い”サッカーってヤツをさ。』

 

雷紋「…ああ、見せてやるさ。僕の僕だけの僕にしかできないサッカーをな!」

 

ピピーッ!

 

 キックオフ早々雷門はハルにボールを回し速攻を仕掛ける。当然ハルの前には銀牙が立ち塞がる。

 

ハル「…雷ちゃんは大丈夫なの?」

 

銀牙「大丈夫。あの程度でサッカーができなくなるなら今頃あたしとの兄妹の縁が切れてる。」

 

ハル「…そっか。なら…手加減はしないよ!」

 

 ハルは急加速し銀牙を抜こうとするが流石は“怪獣”はハルのフェイントを的確に見抜き“怪物”を足止めしている。

 

ハル「ハハ!やっぱり強いや銀ちゃんは!」

 

銀牙「だったらとっととあたしにボールをちょーだい。」

 

ハル「それは無理なお願いだね!」

 

 ハルは軽く周囲を確認すると後方で待機していた星村に狙いを定めバックパスを行う。

 空間把握能力に乏しい銀牙はハルの狙いに気づくのが遅れバックパスが通ってしまう。

 

 

 

 

 筈だった。

 

星村「えっ…?」

 

 ボールを受け取る直前。星村は確かに見た。

 

 漆黒の羽が宙を舞う光景を。

 

雷紋「すみません。貴方のボール、奪わせてもらいました。」

 

 なんてことはない。雷紋がハルのパスをカットしたのだ。

 

 本来の星村ならパスカットを警戒する筈だが雷紋は前半は大胆なプレーを控える事によって完全に星村のマークから外れていたのだ。

 

月影「気配の消す技術は流石だがそれだけでは俺達には勝てんぞ!」

 

雷紋(テクニック5、スピード3、パワー2…。行ける…!)

 

 雷紋は月影の言葉には一切答えずに脳内に謎のステータスを計測する。

 すると雷紋はボールを月影の胸元の高さにまで上げると一瞬にして姿を消した。

 

月影「こ、この技は…!」

 

雷紋「“プレストターン”。」

 

 まさか自分と同じ技が使われるとは思わず不意を突かれた月影は雷紋の突破を許してしまう。

 

月影(くそ…!まさか俺と同じ技を持っているとは…!ぬかった…!…それにしても何故前半はあの技を使わなかったんだ…?使う機会ならいくらでもあった筈…。)

 

遠野「これ以上先には行かせん!」

 

雷紋(スピード5、テクニック3、パワー2…。なら…コレだ!)

 

 月影を突破した雷紋の前に今度は巨大な塔が立ち塞がる。その頂上にはDFの遠野が仁王立ちで待ち構えていた。

 

遠野「“ザ・タワー”!」

 

 かつて雷門イレブンの一員だった財前塔子の得意技“ザ・タワー”を炸裂させた遠野は頂上から稲光を呼び出し雷紋に直撃させる。

 その威力は中々の威力であり、稲光が直撃した途端雷紋は土煙に包まれた。

 

遠野「キャプテンを抜いた事は褒めてやるが手加減はしないぜ!ボールは貰ったぁ!」

 

 遠野は巨塔を消滅させると自らボールを取りに土煙に突入する。

 

???「グアッ!?」

 

 すると土煙の中から誰かが吹き飛ばされたような鈍い音が響く。その直後に土煙を吹き飛ばして中から出てきたのは…

 

 

 

 全身が金属の如き光沢でコーティングされた稲魂雷紋だった。

 

雷紋「“パワードメタル”!」

 

 身体が鋼そのものと化した雷紋は“ザ・タワー”の稲妻を耐えた後、そのパワーで遠野に力勝ちしたのだ。

 

 遂に念願のシュートチャンスが生まれた雷紋は技を解き、即座に指笛を吹くと地面から6門の藍色の大砲が出現し砲門が開く。

 そこにはなんと6匹のペンギン達が砲弾の代わりにスタンバイしていた。

 

雷紋「“ペンギン・ザ・トリガー”!!!」

 

 シュートという名の引き金が合図となり6匹のペンギン達は一斉に射出される。

 

雷紋「フルバーストォォォォォォ!!!」

 

 射出された6匹のペンギン達がボールと共に空中を舞うその姿はまるで弾道ミサイルだ。

 

暖冬屋「何やら大層な技やなぁ。でもワシの目は誤魔化されへんでぇ!そのシュートにはパワーが足らん!!」

 

 “ペンギン・ザ・トリガー”の本質を見抜いた暖冬屋は不敵な笑みを浮かべると右手に気を溜め黄金の拳を出現させる。

 

暖冬屋「“ゴッドハンド・タイガー”!!!」

 

 ペンギン達は猛虎に一瞬にして喰い殺されるボールは空を舞う。

 だが何故だろう。雷紋の表情に悔しさは一切存在せず寧ろこれを狙っていたと言わんばかりの笑みを浮かべている。

 

雷紋「今だッ!銀牙ッ!」

 

 雷紋は妹の名を呼ぶと彼の後方から“怪獣”が飛び出す。

 

暖冬屋「な、なんやと!?いつの間に!?」

 

銀牙「ワクワクポイント500消費。」

 

 現実か?はたまた幻か?まだ真昼である筈の空に満月が輝く空が出現し天高く舞う銀牙の背後に黄金の戦乙女(ヴァルキリー)が顕現する。

 

銀牙「“ルナ・ヴァルキリー”。」

 

 ボールにオーバーヘッドキックを叩き込むと戦乙女も巨大な大剣を振り下ろしボールが月を思わせる黄金に輝く球体と化しゴール目掛けて落下する。

 

暖冬屋「ま、間に合わん!…なら!“熱血パンチ”やぁ!!!」

 

 暖冬屋は拳を燃やし強烈な右ストレートを放つが戦乙女の一閃の前にはただの右ストレートでしかない。

 “ゴッドハンド・タイガー”ならばまだ可能性はあったが、咄嗟の“熱血パンチ”では“ルナ・ヴァルキリー”を止めるにはあまりに力不足だった。

 

暖冬屋「グハァ!!!」

 

 一瞬の拮抗すら許さずにゴールネットが激しく揺れ、尾刈斗のスコアボードには『2』の数字が刻まれた。

 

尾刈斗イレブン『やったぁ!!!』

 

銀牙「流石はあたし。それほどでもある。」

 

雷紋「今のは僕のフォローのおかげだろ…。うわっ!?」

 

 自陣に戻る途中にて雷紋はふらつき倒れかけるがギリギリのところで銀牙が兄の肩を鷲掴みにしなんとか立ち上がらせる。

 雷紋はまだ後半開始から数分しか経っていないなも関わらず大きく消耗している様子だ。

 

銀牙「体力が切れても走って。じゃないと雷門には勝てない。」

 

雷紋「元よりそうするつもりだけどさぁ…。イチイチ発想が鬼なんだよオマエは…。」

 

 鬼畜な妹の発言に兄は辟易しながら溜め息を漏らす。だがその姿はどこか嬉しそうに見える。

 

ハル「やっぱり凄いや…!雷ちゃんは…!」

 

 友のプレーを素直に賞賛するハルだが月影は雷紋の覚醒に言葉にし難い異物感を感じずにはいられなかった。

 

月影(なんだ稲魂兄の覚醒は…?だが…あまりにも異質だ…。パワーが上がったわけでもスピードが上がったわけでもない…。それにも関わらず何故誰もあいつを止められない…!?)

 

 過去の対戦相手にも追い詰められると秘められた力が解放され身体能力が向上する選手を何度も見てきた。

 だがらこそ雷紋の覚醒はあまりに異質なのだ。特段身体能力の上昇が見られずもそのプレーは明らかに前半とは別人だ。

 

月影(稲魂雷牙の血を継ぐ者か…。)

 

 稲魂雷牙…。雷紋と銀牙の父でありハルと同じ“怪物(サッカーモンスター)”の称号を持つ世界最強クラスのサッカープレイヤーだ。

 40手前になって引退する同期が増えてもなお年齢など関係ないと言わんばかりに世界の強豪達と最前線で戦い続けるまさに生ける伝説。

 今の雷紋の突破力はそんな“怪物”の面影を感じられずにはいられなかった。

 

ハル「“分析力”ですよ蓮さん。」

 

月影「“分析力”?」

 

ハル「雷ちゃん昔から人の癖とか能力を見抜くのが得意なんです。小学生の時はそれを活かしてチームの中心だったんです。…最近は少し迷走してたみたいですけど。」

 

月影「…つまり稲魂雷紋はこの短時間で俺達の能力や癖を見抜いたという事か?」

 

ハル「それは何とも言えませんね。もしかしたら試合前に雷門の試合を見て分析したかもしれないし、この土壇場で見抜いたかもしれません。どちらにせよこの状態になった雷ちゃんを止めるのは簡単じゃないですよ。」

 

 そう語るハルだがその表情には『喜』の感情が隠しきれていない。サッカー強豪校・北陽との試合でもサッカーに対して情熱を見出せなかったハルがここまで楽しんでいる様子を見るのは月影にとって初めての事だった。

 

月影「どうやら俺は稲魂雷紋の実力を見誤っていたようだな。世間の評価なんて何1つアテにならん。みんな!次のプレーからは稲魂雷紋にもマークを付けろ!そうすれば尾刈斗は機能不全になる!」

 

雷門イレブン『はい!』

 

銀牙「良かったじゃんお兄。注目されてる。」

 

雷紋「嬉しい気持ちと嫌な気持ちのダブルパンチだよ…。」

 

ピーッ!

 

 雷門キックオフで試合が再会すると雷紋は我先に前線へ上がる。彼の行動が意味する事はただ1つ、カウンターだ。

 

ハル「カウンターか…、でもうまくいくかな!」

 

 ハルは尾刈斗のディフェンスを軽々と突破しあっという間に中盤に突入する。

 ハルはボールを天高く上げると炎を纏いながら右回転をし“ファイアトルネード”の体制に入る。

 

 その時、ハルの前に同じく()()()()を纏いながら飛翔する“怪獣”の姿が映る。

 

ハル「まさか銀ちゃんも…!?」

 

銀牙「“ファイアトルネード(ソレ)”を使えるのはハルくんだけじゃない。ただ…

 

 

 

あたしのはちょっぴり火力強め。」

 

 銀牙の炎の軌跡は見る見るうちにその姿を変え巨大な東洋龍へと変貌する。

 その旋風によりハルよりも早くボールに到達した銀牙は左回転で得たパワーをダイレクトにボールに伝える。

 

銀牙「“ヒートドラグーン”。」

 

 龍から放たれた炎は爆炎を超えて獄炎の熱気をボールに纏わせながら前へ進む。

 

赤袖「…それ以上先には進ませない。」

 

嵐「2対1を卑怯とは思うなよ?」

 

雷紋「……。」

 

 恐らく銀牙のシュートを持ってしてもあの距離からでは暖冬屋を破れないだろう。とすれば雷紋が“ヒートドラグーン”に+1を与えてやる必要がある。

 だが先ほどの月影の指示通り、雷紋には赤袖と嵐のマークがつき前への道を塞ぐ。

 

嵐「悪いな、俺達は完全にお前の実力を見誤っていたよ。お前は弱くなんかないちゃんと稲魂雷牙の血を引いてる。このまま成長すれば間違いなく日本トッププレイヤーになれるだろうさ。」

 

雷紋「…違いますよ嵐さん。貴方達の評価は間違ってません、僕は弱いです。銀牙みたいなフィジカルはないし、ハルくんみたいなサッカーセンスもありません。その証拠に今もこんな所で立ち止まってる。…だから()()()()()()()()()()。」

 

嵐「…は?」

 

 その瞬間、雷紋は嵐のユニフォームの裾を審判にバレないように軽く力を入れて下に引っ張る。

 なんてことはない動作だがまさか雷紋がこのようなプレーを行うとは思っていなかった嵐は動揺し一瞬だけ思考が止まってしまう。

 その隙を雷紋は見逃さなかった。

 

 彼は一瞬の隙を突き2人のマークを突破する事に成功した。

 

雷紋「ごめんなさい嵐さん、こんなグレーな手段で突破しちゃって。まだ僕は弱いんです。弱いからこんなことをしないと貴方達には勝てない。期待に応えてFF本戦では正々堂々と試合ができるように努力しますから今だけは許してください。」

 

嵐「この野郎…!」

 

赤袖「…一本取られちゃった。」

 

 マークを抜けた雷紋は遅くはないが速くもない速度で泥臭くシュートを追いかける。

 雷紋はギリギリのところでシュートに追いつくがその熱気に一瞬怯んでしまう。

 

雷紋「熱っつ!だったら…!」

 

 雷紋は“パワードメタル”を発動させ身体を熱から守ると重々しい見た目から想像もつかない軽やかさでバイシクルシュートを放つ。

 

雷紋「“ツインブーストD(ドラグーン)”!!!」

 

 鋼鉄の右脚から放たれるシュートは紅と漆黒の炎を纏いながらゴールへと向かう。

 

暖冬屋「“ゴッドハンド・タイガー”!!!グギギギ…!しゃあっ!!!」

 

 暖冬屋はなんとか止める事に成功するがシュートの重さに冷や汗を流す。

 

暖冬屋(あ、危なかったで…!もしもこれが至近距離で撃たれとったら確実に決められとった…!)

 

 シュートの重さを表すように“ゴッドハンド・タイガー”を持ってしてもボールはDF周辺までしか飛ばせていない。

 

紫雨「…何か嫌な予感がするような…。」

 

 ボールを確保したのは雷門一ネガティブ思考な男・紫雨雄介。彼は直感的に嫌な気配を感じ取り即座にボールを前線に上げようとするが…

 

雷紋「その予感、的中させていただきます。」

 

 ボールの軌道を読んでいた雷紋は既に紫雨に接近しており、自身の周囲に小竜巻を発生させながら紫雨に突っ込む。

 

雷紋「“スパイラルドロー”!」

 

紫雨「うわっ…!?」

 

 “スパイラルドロー”を発動しボールを奪い返した雷紋はもう一度シュートを撃つ体制に入ろうとする。

 

 だが…

 

ハル「これ以上は行かせないよ雷ちゃん。」

 

雷紋「ハルくん…!」

 

 前線からここまで下がってきたハルが雷紋の前に立ち塞がる。彼から放たれる威圧感は夢での時とは比較にならない。

 それでも雷紋は一呼吸置き冷静に彼の身体能力を数値化する。

 

雷紋(パワー10、スピード10、テクニック10…流石はハルk…オール10!?)

 

 常人の合計パラメーターが10なのに対し全ての値がカンストしているまさしく“怪物”であるハルの数値に雷紋は驚きを隠せない。

 それでも彼には“逃げる”という選択肢はない。

 

雷紋「勝負だ!ハルくん!」

 

ハル「ああ!かかってこい!」

 

 雷紋は手始めにフェイントを用いてハルを突破しようと試みるが当然ハルには通用しない。

 この一瞬で改めてハルとの実力差を思い知らされるが雷紋は前に進み続ける。

 

雷紋(パワーでダメならスピードで押せ!!!)

 

 “プレストターン”を抜こうとしてもハルのスピードには通用しない。

 

雷紋(スピードでダメならテクニックで押せ!!!)

 

 “イリュージョンボール”を使ってもハルには全て見切られている。

 

雷紋(テクニックでダメならパワーとスピードの両方で押せ!!!)

 

 “パワードメタル”でチャージしてもハルは岩のようにびくともしない。

 

雷紋(それでもダメなら…!)

 

 雷紋の全てを使ってもハルには何1つ通用しない

 

 それでも雷紋は諦めない

 

 パワーも

 

 スピードも

 

 テクニックも

 

 全ての身体能力が上の相手に勝つにはもうコレで勝負するしかない

 

 雷紋は叫ぶ

 

 体力は底をついても

 

 身体中が傷まみれでも

 

 無様な姿を晒しても

 

 “怪物”を超える為に

 

雷紋「最後は根性だァァァァァ!!!!」

 

 鬼の如き形相で雷紋はハルにフェイントを仕掛ける。

 

 当然ハルには読まれていたがその瞬間ハルの動きが止まってしまう。

 

 何も友に華を持たせようしたのではない。

 

 無意識のうちに脚が止まったのだ。

 

 何故止まったのか?

 

 答えは至極単純だ。

 

 ハルは見てしまったのだ。

 

 雷紋の遺伝子に刻まれた“怪物”の一端を。

 

 雷紋は目にも止まらぬ早さで方向転換すると胸でボールをトラップしながらハルを抜く。

 

 その姿はまるでそよ風を思わせる軽やかなステップだった。

 

ハル「こ、これは…!」

 

雷紋「“そよ風ステップ”!」

 

 今雷紋の前にいるのは最後の砦である暖冬屋しかいない。

 

 これが表す事実はただ1つ。

 

 雷紋は“怪物(ハル)”に勝ったのだ。妹の力でもない自分だけの実力で。

 

雷紋(ハァハァ…、抜いた…抜いた!?僕がハルくんを抜いた…!?や、やばい心臓のバクバクが止まんない…!あーダメだ…なんか身体中の力が抜けてきた…。あと少しでシュートを撃てるのに…あと少しで勝てるかもしれないのに…。)

 

 現実を認識するに連れて雷紋の意識を遠のいていく。恐らくハルとの攻防で残りの体力の全てを使い切ったのだろう。

 次第に雷紋の走るフォームが崩れて行く。もう彼が限界なのは誰の目から見ても明らかだった。

 だが誰1人*1として彼を責める者はいない。それだけ彼のサッカーは皆の心を動かしたのだ。

 

 

“もう駄目だ。”

 

???『雷紋君これだけは忘れないでほしい。もしも、もう駄目だー!って思うような時は声を大にしてこう言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとかなるさ!」ってね!』

 

雷紋「ウォォォォォ!!!」

 

 刹那、雷紋の瞳に再度光が宿る。崩れていたフォームは銀牙を思わせる力強い走法へと変化し、顔つきは父・雷牙の面影を見せる荒々しいものへと変わった。

 

雷紋「僕が…!“なんとかする”しかないんだよォォォォォォ!!!」

 

 トップスピードを維持したまま飛び出した雷紋は加速力をそのままパワーへ変えシュートを放つ。

 するとボールにやや紫がかかった漆黒のオーラがチャージされ、同色の羽を撒き散らしながらゴールへ向かう。

 

雷紋「“ブラックウィンドォォォォォォ”!!!!」

 

暖冬屋「“ゴッドハンド・タイ…なッ!は、速い!くそッ!」

 

 予想外の“ブラックウィンド”の速度に暖冬屋は“ゴッドハンド・タイガー”中断せざるを得ずノーマルキャッチで対応する。

 確かに彼ほどのキーパーならば並大抵の必殺シュートは技を使うまでもなく止められるだろう。

 

 だが…

 

暖冬屋「な、なんや…!この威力は…!」

 

 一度死にかけた事で自身の限界を超えた雷紋の一撃は暖冬屋の許容量を超えていた。

 

雷紋「ぶち抜けェェェェェ!!!」

 

暖冬屋「グ…!く…くっそォォォォォォ!!!」

 

バシュッ

 

 布と麻が擦り切れるような音がグラウンドに響く。宙に舞っている最中の雷紋は最後の力を振り絞ってボールの終着点を確認すると

 ボールはゴールラインを割りネットに触れていた。

 

雷紋「や…った…!」

 

 ゴールが入った事を確認できた雷紋は安堵の笑みが溢れると完全に緊張の糸が切れたのか受け身を取れずにグラウンドの外にまで転がり落ちる。

 

雷紋(…って!ホッとしてる場合じゃないだろ稲魂雷紋…!まだ3点目…!ここから勝つにはあと2点取らなくちゃいけないんだ…!立て…!そして最後の1秒まで戦え…!)

 

 雷紋は必死に立ちあがろうとするが身体に力が入らない。それもその筈、もう彼の体力はとっくの昔に底をついておりここまで動けたのはいわゆる“火事場の馬鹿力”によるものでしかなかった。

 

 それでも雷紋は諦めない。例え彼は体力が切れようが、骨が折れようが、筋肉が潰れようが立ち上がる事をやめないだろう。

 何故なら自分はまだ“負けて”ないから。“負けて”なければまだ勝機はある、それがどんなにか細い希望でも0.1%以下の希望でも勝機がある以上“諦める”という選択肢は存在しないのだ。

 

???「もうやめろ雷紋。お前はよくやった。」

 

 立ち上がりを試みる雷紋の横に突如謎の声が聞こえる。雷紋はゆっくり首を声の方に向けるとそこには右手にウサギの人形を装着した顔色の悪い少年が彼を見下ろしていた。

 

雷紋「アリス…先輩…?」

 

ピッピッピッー!

 

 その瞬間審判のホイッスルが三度鳴り響き試合終了の合図が送られる。

 両チームのスコアボードには3と4の数字が表示されている。勝ったのは当然絶対王者・雷門だった。

 

♢♢♢

雷紋「…なんで…アリス先輩がここにいるんですか…?」

 

アリス「…少し雷門中に用があっただけだ。」

 

ウサギ『よく言うぜアリス。本当は試合が気になって来ただけの癖にー。』

 

アリス「黙ってろ兄弟。…雷紋、今お前は何も聞いてないよな?」

 

雷紋「あっハイ。なんか鼓膜が破れてるっぽいです。なーんにも聞こえません。」

 

アリス「…ならいい。」

 

 流石に鼓膜が破れたは嘘が下手すぎたか…。アリス先輩そっぽ向いちゃった。

 でも許してください先輩。僕もう脳を使う体力もないんです。

 

銀牙「お兄。」

 

 今度は銀牙が僕を見下ろす。…なんか嫌だなこの表現。

 

雷紋「…なんだよ銀牙。体力が残ってるなら肩貸してくれよ…。もうクタクタで動けないんだよ…。」

 

銀牙「最近のお兄。サッカーしてる時ずっと苦しそうな顔ばっかで何1つ“ワクワク”を感じなかった。」

 

 無視ですかそうですか。やっぱり僕はコイツが嫌いだ。

 

銀牙「…でも。今日の試合だけは違った。久しぶりにお兄のサッカーに“ワクワク”を感じた。…グッジョブ。」

 

 銀牙は口角を僅かに上に上げてサムズアップした右手を僕に突きつける。

 

雷紋「……。」

 

 ハッキリ言おう。銀牙(コイツ)は僕の“天敵”だ。

 

 父さまの才能は全てコイツに受け継がれ。

 

 予測不能のマイペースさで僕に迷惑をかけまくる。

 

 多分一生僕はコイツを嫌いながら生きていくのだろう。

 

 でも…

 

雷紋「銀牙も…グッジョブ…!」

 

 今だけは銀牙のことを“天敵”じゃなくて“ライバル”…そして血を分けた“兄妹”だと心の底から思えた。

 

♢♢♢

 雷紋と銀牙がサムズアップをしている中、ハルは彼らの姿をじっと見つめていた。

 

月影「…何か物足りない様子だな。久しぶりに死力を尽くして試合をしたのに楽しくなかったのか?」

 

ハル「…違うんです。やっぱり兄妹がいるっていいなーって思っちゃって。俺、ひとりっ子なんでいつも雷ちゃん達が羨ましかったんです。…俺も同い年の弟か妹がいればサッカーを楽しめたんじゃないかなって。」

 

月影「…そうか。」

 

 13歳とは思えない哀愁の漂うハルの言葉に月影はただ肯定するしかなかった。

 

 すると…

 

地木流「ふ〜ざ〜け〜る〜なァァァァァ!!!私が稲魂銀牙を助っ人に要請する為のどれだけ苦労したと思っているゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!?あと一歩で悲願が達成されるところで…!この役立たず共がァァァァ!!!」

 

 なんと地木流は尾刈斗の敗北の原因を稲魂兄妹になすりつけ始めたのだ。

 心なしか彼の姿は実年齢よりも2回りほど老けているように見える。

 

???「それが死力を尽くしてくれた他校の助っ人にかける言葉か?だとすれば貴様は指導者失格だな地木流灰人。」

 

地木流「誰だ貴様はァ…!!!今私は虫の居所が悪いんだァ!!!誰であろうと容赦はしn…」

 

 突如として地木流は固まる。それだけじゃない、現れた男の顔を見た瞬間ヤツの顔からは滝のような汗がダラダラと流れ身体もブルブル震えている。

 皆はその人物の名前を知っている。何故なら彼は…

 

雷紋「鬼道…総帥…!」

 

銀牙「おー。雑炊だ。」

 

鬼道「“総帥”だ、稲魂銀牙。」

 

 彼こそ伝説のイナズマイレブンの司令塔にして現帝国学園総帥・鬼道有人だ。

 帝国学園の総帥である鬼道は帝国の帰属校となった尾刈斗にとっては校長よりも偉い立場の人間である。

 そんな彼に対して知らなかったとはいえ一介の監督でしかない地木流が暴言を吐いたのだから今、彼は非常にマズイ立場にある。

 

地木流「き、き、き、鬼道総帥がな、な、な、何故ここにい、い、い、いらっしゃるのですか?」

 

 地木流は1秒前までの傲慢な態度が一変し、まるで猛獣を前にした小動物の如く縮み上がる。

 

鬼道「そう怯えるな。ただ俺はお前に良い知らせと悪い知らせの2つを持ってきただけだ。さて…どちらから聞きたい?」

 

 声こそは冷静だが、本当に前が見えているのか?と言いたくなるようなゴーグルを装着した鬼道の目の奥は恐らく1mmも笑っていない。

 感情を表に出さずに気迫だけで相手に自身の怒りを伝えるやり方に稲魂兄妹は嫌でも母と彼女に土下座する父の姿を連想してしまう。

 

地木流「そ、そ、そ、そうですなぁ…!で、ではまずは良い知らせからお、お、お、お願いしまーす…!」

 

鬼道「そうか。ではアリス、アレを。」

 

アリス「はい。父さん。」

 

 アリスは懐から2枚の書類を父に渡すとその内の1枚を地木流の前に見せつける。

 

鬼道「今し方尾刈斗サッカー部のFF予選出場の許可が出た。」

 

尾刈斗イレブン『ほ、本当ですか!?』

 

鬼道「確かに試合には負けたが格上の雷門に対しても諦めずに戦う姿は立派だった。帝国が費用等を負担しよう。…良かったな地木流?」

 

地木流「そ、それはワタクシとしても嬉しい限りございます…!はい!そ、それで…悪い知らせというのは…?」

 

 鬼道は少し悪い笑みを浮かべると懐からスマホを取り出し再び地木流に見せつけた。

 そこには今日行われた尾刈斗対雷門の練習試合の様子が映されていた。

 

地木流「こ、これは…!」

 

鬼道「ウチの倅が興味本位で部下を使って今日の試合を録画していてな。その途中、偶然(・・)こんな音声が入ったんだ。」

 

地木流『こんな落ちこぼれなぞお呼びじゃねぇんだよ!』

 

 ハーフタイム中に地木流が雷紋に向けて発した罵倒がそれはそれはハッキリと映っていた。

 

地木流「ご、誤解ですッ!総帥!わ、ワタクシ彼の事を落ちこぼれには見えないと言ったのです…!」

 

鬼道「そうか。俺の耳にはハッキリと“落ちこぼれ”と聞こえたが、貴様は俺の耳が壊れているといいたいのだな?」

 

地木流「め、め、め、滅相もない!」

 

 鬼道は的確に地木流の逃げ道を塞ぎ、彼を追い詰める。

 

鬼道「…もう分かっているだろう地木流。クビだ、今日限りで尾刈斗サッカー部の監督を辞任してもらう。」

 

 鬼道はもう1枚の書類を地木流に差し出すとそこには色々と小難しい言葉で『君は指導者にあるまじき発言をしたからクビね♪』という内容が書かれていた。

 身の丈に合わない不埒な野心を胸に秘めておけばよかったものの一時の感情に任せた失言により地木流は全てを失い膝から崩れ落ちた。

 

地木流「ぶさけるな…!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなーーーッ!!!事実を言って何が悪いッ!?稲魂雷紋は父の才能を一才継いでいない落ちこぼれだろーがァァァァァ!!!」

 

鬼道「ハァ…、この期に及んで現実を受け入れられないとはな。貴様のような老害が監督の椅子に座っている以上、尾刈斗の弱体化は当然か。」

 

地木流「そ・も・そ・もだッ!!!25年前の練習試合で雷門に大敗してから私の人生にはロクな事がないッ!その年のFF予選でサッカーのさの字も知らないようなオタクの集まりに敗れるわ、婚期は逃すわ、腰に爆弾を抱えるわ!全部ッ!ぜーーーんぶ!雷門が!そして円堂守と稲魂雷牙が悪いんだッ!!!」

 

 あまりに大人げなさすぎる地木流の言い分に尾刈斗イレブンも、雷門イレブンも、稲魂兄妹も、この場にいる人間は皆ドン引きしている。

 

有海崎「…ドン引きですね。偶然の不幸を人の子供に責任転換する大人にはなりたくないものです。」

 

乙女「…うん。そーだね。」

 

 雷門のマネージャーである有海崎はど正論をかますものの何故か乙女監督の目は笑っていない。

 

地木流「呪ってやるぅ…!特に稲魂一族は末代まで呪ってやるぞォォォォォォ!!!」

 

アリス「…このご時世にそんな失言をするとは関心しないな。」

 

ウサギ『SNSの拡散力は凄いぜ!』

 

地木流「やかましいッ!いいかァ!!!まずは貴様らの父稲魂雷牙だァ!!25年溜め続けたこの恨みで貴様らの父から呪い殺してやるぅぅぅ!!!」

 

???「ほーん?んじゃあ今やってみろよ?」

 

 突如地木流の背後にフードを被った謎の巨漢が地木流を見下しながら現れる。

 事情が飲み込めず唖然としている地木流を尻目に謎の男は雷門イレブンを一瞥した後視線を稲魂兄妹に移すとニカッと笑いパーカーを脱ぎ捨てた。

 

 露わになった謎の男の素顔には

 

 稲妻のように逆立った黄金色の髪と茶色の顎髭

 

 獅子を思わせる鋭く荒々しい目

 

 仁王像の如く筋骨隆々とした肉体と190cmはある長身

 

 そして微妙にサイズの合ってない有名ブランド“フーマ”の限定ジャージの下に縦書きの“怪獣注意報”の五文字がプリントされたダッサイ白シャツ

 

 皆は鬼道が現れた時以上に驚愕する。何故ならこの人物こそが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 稲魂兄妹の父・稲魂雷牙その人だ。

 

地木流「い、い、い、稲魂雷牙ァァァァァァァァ!!!?」

 

星村「ほ、本物の稲魂雷牙!?や、やば!?サイン色紙持ってくればよかった…!」

 

銀牙「アレ?パピーじゃん。なんでここにいんの?練習は?」

 

雷牙「ああ、アレ嘘。俺が見に来るつったら緊張すんだろ?特に雷紋が。」

 

銀牙「それもそうだね。特にお兄は。」

 

雷紋「うっさいな…。」

 

 ほのぼのとした(?)親子の会話を交わした雷牙は眉間に皺を寄せて愛息を愚弄した極悪人・地木流を睨みつける。

 

雷牙「さて…どうする?俺を呪い殺して犯罪者に成り下がるか、このまま大人しく引き下がって隠居生活を送るか。好きな方を選んでいいぜ?前者を選べば俺ちゃんのフルパワーキックがアンタの股間を直撃するがな。」

 

 雷牙を前にした地木流は鬼道の時とは違う意味で冷や汗が止まらない。鬼道は権力的な差があるが、雷牙は人間としての格が違う。

 地球には“蛇に睨まれた蛙”という言葉があるが、今の状況はまさにそれだ。地木流は嫌でも自分が蛙で目の前の男が蛇だと強制的に理解させられる。

 

地木流「ひ…!ひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!!!!」

 

 雷牙に屈した地木流は情けない声を出しながらその場から逃走する。その姿はまさに負け犬としか言いようがなかった。

 

雷牙「あっ、そうだ。」

 

 負け犬の如く逃げる地木流だが、雷牙は何かを思い出すと彼を引き止める。

 

雷牙「オメーの顔はもう二度と見たくねぇが最後に1つ言わせてくれ。アンタ…

 

 

 

 

 

 

 

何処かで会った事あるっけ?」

 

地木流「…は?」

 

雷牙「いやーなんか俺に怨みがあるっぽいから一生懸命思い出そうとはしたんだけどさー!全っ然記憶にねーの!なんかゴメンネー!」

 

地木流「き、記憶に無い…。私は25年間ずっと覚えていたというのに…。ち、ちっくしょ〜〜〜!!!」

 

 怨敵に覚えられてすらなかったというあまりに残酷な事実に地木流は男泣きしながら逃亡する。恐らく彼は死後にじんめん犬に生まれ変わるだろう。

 

雷牙「ふぅ、さてと…。立てるか?雷紋?」

 

 地木流の排除を終えた雷牙は未だにグラウンド外で倒れ伏している息子の前に立ち手を差し伸べる。

 

雷紋「…無理です。もう動けません。」

 

雷牙「そっか。んじゃああらよっと!」

 

 雷牙は雷紋を軽々と持ち上げお姫様抱っこをする。元々雷紋は小柄な方であるため雷牙からすれば小石を持ち上げるに等しいのだろう。

 

雷紋「恥ずかしいですよ父さま…。」

 

雷牙「贅沢言うなよ。試合が終わる度にお姫様抱っこされたくなきゃもっと体力付けな。」

 

雷紋「善処します…。」

 

銀牙「いいなー。お兄だけ。パピーあたしも。」

 

雷牙「今両手が塞がってるからおんぶで我慢しなさい。」

 

銀牙「はーい。」

 

 銀牙は雷牙の背中にしがみ付く。がその様はおんぶというよりは最早セミだった。

 

雷紋「…父さま。今日の僕の試合はどうでしたか?」

 

雷牙「最っ高。流石は俺ちゃんの息子だ、中学時代の俺を見てるようだったよ。」

 

雷紋「なら…よかったです。」

 

銀牙「パピー。あたしは?」

 

雷牙「銀牙も最高だったさ。ただハル坊に構いすぎ。」

 

銀牙「ハルくん以外はワクワクしないからやだ。」

 

雷牙「ハハハ!そっか!」

 

ハル「おーい雷ちゃーん!」

 

雷紋「ハルくん…!」

 

 満身創痍の雷紋に対しハルはまだもう1試合できそうな勢いで雷紋の元へ駆け寄る。

 

ハル「あっ!久しぶり!雷牙おじさん!」

 

雷牙「おう、お久〜ハル坊。いい試合だったな。」

 

ハル「ありがとう!雷ちゃんも銀ちゃんも凄かったよ!」

 

雷紋「…ありがとうハルくん。…地木流に“落ちこぼれ”って言われた時…僕を庇ってくれて。」

 

ハル「気にしないでよ、雷ちゃんの実力は俺が1番よく知ってるからね。」

 

雷紋「…だね。」

 

ハル「また会おうね!雷ちゃん!銀ちゃん!」

 

銀牙「うん。約束。」

 

雷紋「うん…!また会おう…!次は…FFで…!」

 

 こうしてハルは雷牙に抱えられて帰路に着く稲魂兄妹を大きく手を振って見送る。

 

月影「…もっと話したい事があったんじゃないのか?」

 

ハル「いいんですよ蓮さん。雷ちゃんももう限界そうでしたし、それに…」

 

月影「それに?」

 

ハル「雷ちゃんと銀ちゃんは()()だってことを改めて実感できましたから。」

 

月影「フッ、そうか。ならいい。」

 

 サッカーを通して2人の友情はまだ途切れていない事を実感したハルは来るFFでの再会を夢見て帰路に着く。

 

♢♢♢

 場面は変わり帝国所有の大型車両内。鬼道親子はそこにて親子水入らずの時間を過ごしていた。

 だがどうもアリスは鬼道に不満がある様子だ。

 

鬼道「どうしたアリス?そんなに不満か?俺の予想が正しかった事が。」

 

アリス「…ええ。父さんの言う通り稲魂兄妹(彼ら)は歴代の帝国にはなかったものを持っている…それは認めます。でも俺のやり方を変えるつもりはありませんよ。」

 

鬼道「フッ、分かっている。今の帝国に必要なのは“伝統”なんかじゃない、停滞した状況を変える“稲妻”だ。かつて豪炎寺修也が雷門に齎したようにな。」

 

アリス「俺の物語に汗臭いスポ根は必要ありません。それじゃあ俺は先に降りさせてもらいますよ、まだやらなければならない事が沢山あるんでね。」

 

 アリスは軽く鬼道に会釈すると車両から降り帝国に戻る。車内1人になった鬼道は最後に見せた雷紋のプレーを脳内で再生しながら微笑む。

 

鬼道「稲魂雷紋と稲魂銀牙…、この2人が引き起こす化学反応がサッカー界にどんな影響を引き起こすか見ものだな。」

 

 だがこの時の鬼道は思いもしなかった、今年のFFにはかつての雷門を彷彿とさせる台風の目が訪れる事を…。

*1
約1名を除く




これに雷門戦は終了!しばらくはイナヒロに方に集中するんで投稿期間開きまーす!
余談ですけど銀牙のステータスはパワー12、スピード10、テクニック8です。
〜オリ技紹介〜

・ペンギン・ザ・トリガー
 雷紋が使う林属性のシュート技。モーションは“デスレイン”の弾が砲弾からペンギンに変わっただけ。見た目こそは派手だが雷紋が使う技なので威力はお察し。

・ブラックウィンド
 雷紋が使う風属性のシュート技。モーションはオーラが黒くなり周囲に烏の羽が舞っている“マッハウィンド”。
 威力はそこまでだがその分スピード特化なため奇襲にはもってこいの技。

・パワードメタル
 雷紋が使う山属性のドリブル技。身体をメタル化させて突進するただそれだけのシンプルな技。故に応用が効きやすい。

・ルナ・ヴァルキリー
 銀牙が使う林属性のシュート技。マジンの要領で背後に戦乙女を出現させて空中でオーバーヘッドシュートを叩き込む。
 威力は“プラチナレオーネ”には劣るものの燃費はこちらの方がいい。

・ヒートドラグーン
 銀牙が使う火属性のシュート技。“プラチナレオーネ”と同様、“ファイアトルネード”のアレンジ版であり通常のものと比べる速度に劣る代わりに威力が高い。

・ツインブーストD(ドラグーン)
 雷紋が使う火属性の連携シュート技。モーションは鬼道と豪炎寺が使った“ツインブーストF”とほぼ同じだが、“パワードメタル”を使いながらシュートを放つ分コッチの方が威力が高い。

試験的に台詞の頭にキャラの名前を入れています。もしもコッチの方の反応がよければ『HEROS』も世界編から同じ形式にする予定ですのでアンケートお願いします。

  • コッチ(名前あり)
  • アッチ(名前なし)
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