イナズマイレブンMONSTERS!!!   作:月兎タンク

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 今回の試合で銀牙を外したのはシンプルにバランス調整です。
 他のメンバーがレベル30ぐらいの中こいつだけ50〜60くらいのレベリングなんで予選で活躍させるの難しいんですよねー
 だったらなんでそこまで強くさせたんやって話になっちゃうけど。


雄大な山々を制覇せよ!対決 上州赤城山! 前編

王将『さぁ!!!遂に始まります!FF予選!数多くある学校の中で本戦への切符を掴めるのはたった1校!!!その先陣を飾るのは名門・帝国と予選初出場の新気鋭・上州赤城山中だァァァァ!!!』

 

 今年で70を超えるというのに一切錆びついていない実況界の“怪物”・角馬王将の実況により会場の熱気は更にヒートアップする。

 

観客『て・い・こ・く!て・い・こ・く!』

 

 絶対王者の看板を奪われてもそのブランドは未だに衰えていない。観客達はこれから現れるであろう帝国の戦士達に向けて大音量でその名を叫ぶ。

 

銀牙「うるっさ…。」

 

 スタメンから外された事で今日1日暇になった銀牙は観客として試合会場に足を運んでいた。

 本来なら試合が始まるまで寝ているつもりであったが流石の銀牙も兄の怒声以上の大声援の中では眠りには付けないようでやや不機嫌そうなジト目になっている。

 

???「銀牙、目つきが悪くなってるわよ。せっかくの雷紋の試合なんだからもう少し愛想よくしてなさい。」

 

銀牙「…はーい。」

 

 銀牙の隣に座っている女性は少し語気を強めて注意すると銀牙はややうんざりしたような顔をしているものの兄の時とは異なり無視する事なく女性の言葉に従う。

 

 その女性は茶髪のショートヘアーの気品のある女性だった。彼女は今年で39歳を迎えたものの努力の賜物か外観上の年齢はまだ20代後半にしか見えない程若々しい。

 

 彼女こそ稲魂雷紋・銀牙の母親であり、元イナズマイレブンのマネージャー、そして…現雷門中理事長ーー

 

 

 

 

 

 

 稲魂夏美である。

 

銀牙「それにしても珍しいね。マミーが試合を見に来るなんて。」

 

夏美「あら?これでも私は貴方達の母親よ?子供達の晴れ舞台を見に行くのは親として当然じゃない?銀牙が今日の試合に出られないのは残念だけど。」

 

 夏美は雷門中理事長として夫・雷牙以上に多忙を極めている故に中々兄妹の試合を見には来れないもののFF予選という息子の晴れ舞台をその目で直に見届ける為に時間を作ってくれたようだ。

 

夏美「それで?貴方が居ない帝国は初戦を突破出来るのかしら?」

 

銀牙「知らない。けど突破してもらわなきゃハルくんと試合できないから困る。」

 

夏美「フフ、貴方らしい答えね。…あっ!見て!雷紋が出てきたわ!」

 

 キャプテンである穂村を先頭とし綺麗な整列でグラウンドへ入場する帝国イレブン、その真ん中辺りに雷紋は居た。

 

 …だが案の定と言うべきかその顔は緊張で強張っていた…。

 

♢♢♢

穂村「帝国キャプテン穂村英輔だ、今日はよろしく頼む。」

 

家山「赤城山キャプテン家山登(かやまのぼる)だ!今日はいい試合にしよう!」

 

 両チームのキャプテンは握手を交わしコイントスで先行後攻を決め、選手達は指定されたポジションに着く。

 

 今回の帝国のスタメンは以下の通り。

 

FW:霊道、元屋敷、星見沢

MF:穂村、雷紋、本能寺

DF:井野辺、江流崎、盟帝央、安座

GK:陣野

 

 帝国のフォーメーションは“4-3-3 デルタ”。攻守に優れるバランスの取れたフォーメーションだ。

 銀牙が抜けている穴には怪我で休養していた元屋敷が数ヶ月ぶりにピッチに舞い戻る。

 

 帝国に対し上州赤城山のスタメンは以下の通り。

 

FW:川辺、御山

MF:山野、街田、愛原

DF:又義、滝、大山田、家山(キャプテン)、寺出

GK:木霧

 

 赤城山のフォーメーションは“5-3-2 ”。最初に目につくのは5名も配置されたDF達。

 “攻撃は最大の防御”ならぬ“防御は最大の攻撃”と言わんばかりに守り重視のフォーメーションは初出場故にデータが少ないという事もあり異質さすら感じさせる。

 

雷紋(スーハー… 落ち着け…稲魂雷紋…!僕は今日ここで証明するんだ…!僕も頑張れば出来るぞって…!)

 

 雷紋は自身の両手で両頬を強く叩き気合いを入れ直す。突然の奇行に赤城山の選手は少し驚いている様子だが雷紋にはそんな事は関係ない。

 

雷紋(よし…!行くぞ!)

 

ピーッ!!!

 

 審判のホイッスルによって試合開始が告げられる。コイントスの結果、赤城山先行(キックオフ)で試合が始まった。

 

御山「よっしゃあ!!!祭りの始まりじゃーい!!!」

 

 赤城山のエースストライカー・御山大将(おやままさひろ)は開始早々トップスピードで敵陣へ攻め込む。

 そのスピードはお世辞にも速いとは言えないものの力強い踏み込みは野生の熊を思わせる重厚なフォームだ。

 

霊道「テメーのボールを寄越しやがれェ!!!」

 

 FWの霊道はボールを奪うべく“キラースライド”を発動し御山に襲い掛かる。

 それに対し御山はボールに強烈なスピンを掛けると右方向に軽く蹴ると同時に自身は左側へと移動した。するとボールはまるで生きているかのように左方向へ移動し霊道を通り抜けて御山と合流した。

 

御山「“ひとりワンツー”!!!」

 

霊道「チッ!セコい真似しやがって!」

 

穂村「何やってるんだあの単細胞(バカ)は…。」

 

 単純なドリブル技にあっさり抜かれた霊道に対して穂村は呆れの声を出す。

 霊道を抜いた御山は更に加速しゴール目掛けて一直線に突き進む。その時、彼の前に黒い旋風が吹き荒れる。

 

雷紋「“スパイラルドロー”!」

 

御山「どわぁ!?」

 

 直前まで気配を消していた雷紋の奇襲が成功し御山からボールを奪う。流石の強靭な足腰を持つ御山も不意を突かれては強みも活かせない。

 

雷紋「霊道先ーー 何!?」

 

 雷紋が霊道にパスを出そうとした瞬間、先ほどまでバラけていた筈の赤城山MF陣が雷紋を取り囲んでいた。

 

愛原&街田&山野「「「かーごめかごめ、かーごの中のとーりーはー」」」

 

雷紋「ええ…今試合中だよ…?」

 

 赤城山のMFは雷紋を中心に円を描くように童謡を歌いながら歩き始める。

 あまりに試合からは似つかわしくない光景に雷紋はほんの一瞬だけ思考が止まってしまう。

 それを見逃さなかったMFは一斉に飛び掛かり雷紋を袋叩きにした上でボールを奪う。

 

愛原&街田&山野「「「“かごめかごめ”!」」」

 

雷紋「あべしっ!!!?」

 

 雷紋は数秒も持たずにボールを奪い返されてしまい、ボールは遥かに前線にいる御山に再び渡ってしまう。

 

御山「見とけや帝国!これがワシの必殺技じゃい!!!」

 

 御山はトップスピードで走り込むと目にも止まらぬ速さで三連撃をボールに叩き込む。

 すると彼と背後に夜空と巨大なツキノワグマのオーラが出現し満月に向けて咆哮をあげる。

 

御山「“ワイルドレジェンド”!!!」

 

 かつてイナズマジャパンの一員だった吹雪兄弟が使っていた必殺技“ウルフレジェンド”を彷彿とさせる必殺シュートが炸裂し陣野が守るゴールへ向かう。

 

 それでも誇り高き帝国の守護神である陣野は怯む事なく右手に黒と赤の2色のオーラを集中させ天高く飛び上がる。

 そして右手を地面に激突させると地面に禍々しい紋章が浮かび上がると同時に3枚の衝撃波の障壁が発生する。

 

陣野「“エンパイアシールド”!」

 

 三重に張り巡らされた障壁は一瞬でシュートのオーラを消失させ跳ね返した。

 

王将『出たーーッ!!!陣野の“エンパイアシールド”ーーッ!!!昨年決勝にて雷門に破られるまでは無失点記録を保持し続けた帝国の城門だーーッ!!!今年は無失点記録のまま優勝にこぎつけるかーーッ!?』

 

 “エンパイアシールド”によって弾かれたボールはDFの盟帝央が保持し即座に穂村に回す。

 ボールを受け取った穂村はマスクを付けたまま指笛を吹くと7色のペンギン達がボールの中にチャージされる。

 

穂村「“皇帝ペンギン7”!!!」

 

 穂村がシュートを打つと同時に7色のペンギン達が飛び出し虹色の軌跡を描きながらゴールへ向かう。

 

穂村「シュートチェインだ!霊道!」

 

霊道「褒めてやる!穂村!」

 

 シュートに追いついて霊道は優雅な動きで口笛を吹くと今度はネオン色に輝く数匹のペンギン達がボールに入り込み王冠を被った巨大な1羽のペンギンとなってゴールへ向かう。

 

霊道「“ペンギン・ザ・パレードォ”!!!」

 

 “皇帝ペンギン7”にシュートチェインして炸裂した“ペンギン・ザ・パレード”は銀牙の“ルナ・ヴァルキリー”に匹敵する威力となる。

 王者雷門の正GKですら止める事の出来なかった必殺シュートと同威力なのだ、如何に赤城山といえど簡単にはこのシュートを止める事は不可能だ。

 そう考えた霊道はニヒルな笑みを浮かべてシュートがゴールネットを揺らす音を堪能しようとする。

 

 だが…

 

王将『おおっとーーッ!?どういう事だ赤城山ァ!?先ほどまで前線に上がっていた選手がもう後衛まで戻っているぞーーッ!?そして6人の選手で何かするつもりだーーッ!!!!』

 

 またしても知らない間に後衛まで戻っていた選手達は6人で横一列に並ぶと気を練り上げ始める。

 6人の気が一定の大きさまで上昇したところで一気に放出すると彼らの背後に巨大な山が出現する。

 

家山「必殺タクティクス!“ビッグマウンテン”!!!」

 

 DFゾーンを埋め尽くす巨大な山により行く手を阻まれたペンギンの王様は自らの覇道を拒まんとする障害を破壊する為にその嘴を岩肌に激突させる。

 恐らくこれが霊道単体のシュートならばシュートブロックされていただろうがシュートチェインをしていた事が功を成した。

 ペンギンの嘴は巨大な山に亀裂を入れ粉砕する事に成功する。

 

木霧「“まさかりチョップ”!」

 

 流石のペンギンも山の制覇に力の殆どを使い果たし目的地に辿り着いた時にはあれだけ大きかったペンギンの王様はいつのまにか子ペンギン程の大きさまで縮んでいた。

 そのような状態ではまさかりを担いだ人間に勝てる筈がなく、木霧の気を込めた手刀によりトドメをさされてしまった。

 

王将『止めたーーッ!!!まさかの赤城山、必殺タクティクスを使って“ペンギン・ザ・パレード”の威力を大幅に減少させゴールを防いだーーッ!それにしても戻りの早さと強力なブロック技を有している点は千羽山中を彷彿とさせます!!!』

 

霊道「チッ…!」

 

雷紋「霊道先輩でも得点出来ないなんて…、コレが全国のレベルか…!」

 

 現時点での帝国最強の技を持ってしても得点が敵わない赤城山の実力に驚きつつも雷紋は改めてこれまでの自身のサッカーがどれだけ銀牙の攻撃力に依存していたのかを実感する。

 

雷紋(さっきのブロック技も銀牙なら簡単に突破出来ていた筈だ…!それなら僕も自分の力で突破しなきゃいけない…!…でもコレだけは勘違いするな稲魂雷紋!悔しいけど僕はアイツにはなれない…!だから力押しのプレーだけは絶対に真似するな!分かったな!分かってる!)

 

 雷紋は心の中で以前のような無様なプレーを繰り返さないように釘を刺しつつ赤城山のカウンターに備える。

 

♢♢♢

夏美「中々いいプレーをするじゃない、上州赤城山は。」

 

 夏美は赤城山のプレーを素直に褒め称える。伝説のイナズマイレブンのマネージャーとして日本のみならず世界各地の強豪チームを見てきた夏美が皮肉抜きに賞賛するというのはよっぽどの事である。

 

夏美「赤城山のスタミナとバネは全国屈指、それらを活かす事で驚異的な戻りの速さを実現させている…。多分、雷紋達からすれば倍の人数のチームと試合をしている感覚に陥っているでしょうね。」

 

 夏美の考察は概ね当たっている。

 ボールの支配率は帝国の方が上回っているものの未だにシュートチャンスが回ってきていないのがいい証拠だ。

 帝国がボールを奪えば即座に赤城山が選手を帝国選手を取り囲み奪い返す。

 そうされれば5割の確率で赤城山の必殺シュートが撃たれ陣野がシュートを止める…といった風に試合は完全に膠着していた。

 

夏美「さて、噂の天才少年監督さんはこの状況をどう打破するのかしら?」

 

 夏美は軽い微笑を浮かべながら顔色1つ変えずにベンチに座るアリスを見る。

 

参募「…やっぱり技を解禁させた方がいいんじゃないですか?」

 

アリス「駄目だ、絶対に許可しない。」

 

 アリスが選手達に出した指示は実にシンプル。

 

 『前半は赤城山の戦略を引き出すように拮抗状態を演じろ』ーーそれだけだ。

 

 故に選手達はドリブル、ブロック技を封印し純粋な実力だけで赤城山と戦っているのだ。

 まぁ、得点に拘る霊道と本気を出さなければ全国のレベルに付いて来れない雷紋のみ意図的か無意識かの差異はあれどアリスの指示を破っているわけだが。

 

ウサギ『おいおいアリス、スタミナ量じゃ赤城山がウチより上だぞ〜?そんな弱腰で勝てるのかよ〜?』

 

アリス「心配するな兄弟(ブラザー)。一見膠着状態に見えるこの状況…その実、勢いは帝国(こちら)にある。」

 

 兄弟に対して諭すアリスの口元は僅かに口角が上がっていた。

 

♢♢♢

井野辺「雷紋!」

 

雷紋「ナイスパス!井野辺さん!」

 

 井野辺からボールを受け取った雷紋は自身を経由して前線にボールを上げようとするがまたしても3人の選手に囲まれてしまう。

 

雷紋「クッ…!」

 

 この技を破らなければ帝国に攻撃のチャンスはない。“負けて”いる状態である雷紋は赤城山に“勝つ”為に脳をフル回転させる。

 

雷紋(僕は1人に対して相手は3人…!一見隙だらけに見えて実は意外とない隙…!考えろ…!思考を止めるな稲魂雷紋!…ん?3人…?)

 

 何かに気づいた雷紋は改めて自身を取り囲む3人の選手達を見回す。一見すると統率が取れた動きに見えて相手の動きは僅かに足並みが揃っていない。

 

 これが意味する事はただ1つ…

 

雷紋(見えた…!この技の攻略法…!)

 

 “かごめかごめ”の攻略法を理解した雷紋だが彼は何を思ったか試合中にも関わらずリフティングを始めた。

 その行動を諦めと判断した赤城山は即座に飛び上がり雷紋に向かって襲い掛かる。

 

雷紋「! そこだ!“そよ風ステップ”!」

 

 雷紋はそよ風を思わせる独特なステップでドリブルで走り出すと危なげなく赤城山の強襲を全て躱わす事に成功した。

 

王将『抜いたーーッ!!!稲魂雷紋、かの松風天馬が得意としていたドリブル技を駆使して赤城山のブロック技を突破して見せたーーッ!!!』

 

銀牙「おおー。やるじゃん。お兄。」

 

夏美「やっぱりあの子は私の息子ね。あの一瞬で相手の弱点を見抜いちゃうなんて。」

 

 “かごめかごめ”の本質は単純な数の暴力。故に相手に襲い掛かる時に選手ごとに動きのばらつきがあるという欠点を抱えている。

 その欠点を見抜いた雷紋は持ち前の分析力と変則的な“そよ風ステップ”を使う事で3名の襲撃を全て躱わす事に成功したのだ。

 

雷紋「お願いします!元屋敷先輩!」

 

元屋敷「任せろ!行くぞ穂村、霊道!」

 

 元屋敷の合図で穂村と霊道は彼の前方に走り始めると元屋敷は口笛を吹く。

 すると地面から5匹のペンギンが出現し元屋敷が放ったシュートを放つと同時に射出され宙を舞いながらボールの後を付いて行く。

 

元屋敷「“皇帝ペンギン”!」

 

 そして前方をトップスピードで走る穂村と霊道に追いつくと2人のツインシュートにより更に加速される。

 

穂村&霊道「「“2号”!!!」」

 

 帝国伝統の必殺技である“皇帝ペンギン2号”が炸裂し赤城山のゴールへ向かう。

 初披露から25年の月日を経た今ではポピュラーな必殺技と化した“皇帝ペンギン2号”だが本家本元たる帝国の選手が使う完成度は有象無象のものとは一線を画す。

 

 それでも赤城山の選手達は怯む事なくまたも横一列に並び悠然と立ちはだかる。

 

家山「行くぞ!必殺タクティクス!“ビッグマウンテン”!!!」

 

 一斉に気を練り上げ巨大な山脈を出現させて“皇帝ペンギン2号”を止める…それこそが赤城山の戦略(プラン)()()()

 

 だがその戦略は一陣の黒風が吹き荒れた事で水の泡と化す。

 

雷紋「すみません。そのお約束を破らせてもらいます。」

 

家山「な…!いつの間に…!?ま、マズい!」

 

 タクティクスを中断しようとする家山だが時既に遅し藍色のペンギン達が宙を舞うシュートに漆黒の羽が舞い散る。

 

雷紋「“ブラックウィンド”!!!」

 

 “皇帝ペンギン2号”に“ブラックウィンド”がシュートチェインされた事によりペンギン達は更に加速する。

 “ペンギン・ザ・パレード”以上のスピードを得たシュートは“ビッグマウンテン”を発動させる暇も与えずにDF6人衆を打ち破り一切威力を落とされる事なくゴールへ襲い掛かる。

 

木霧「くそ…!“まさかりチョップ”!!!」

 

 木霧はまさかりでペンギン達を斬り殺さんと手刀を振るうがたかがペンギンでも彼にとっては手に余る存在だった。彼の手刀は一瞬にして弾かれその屈強な身体を吹き飛ばす。

 

雷紋「やった…!」

 

 帝国のゴールを確信した雷紋は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 

 だが地球にはこんな言葉がある。

 

 『勝って兜の緒を締めよ』

 

 例えば勝利を確信してもどうなるか分からないから油断するなという意味だ。

 その諺を完全に失念していた雷紋は改めてその言葉のは必要性を嫌でも実感してしまう事となる。

 

滝「“ウォーターフォール”!!!」

 

大山田「“ザ・ウォール”!!!」

 

 なんと“皇帝ペンギン2号”によって吹き飛ばされた筈のDF2人がギリギリのところでゴールラインの手前に立ち塞がりブロック技を発動したのだ。

 

 “岩山”と“流水”の壁によって阻まれたシュートは徐々にその威力が落ち始め遂には大山田の腹部に収まってしまった。

 

ピッ!ピッ!ピッー!!!

 

王将『なんという事でしょうーーッ!!!キーパーを破ったと思ったのも束の間!滝と大山田の2人が割り込み得点を阻止したーーッ!!!それと同時に前半戦終了してしまいましたーーッ!!!まさかの両チームのスコアは0-0!あの名門帝国が初出場の赤城山に押されていますッ!!!』

 

 まさかの試合展開に実況も観客達も驚きを隠せない。気づけば帝国コール一色だった会場内はチラホラ赤城山コールが混じるようになっていた。

 

観客『あ・か・ぎ・や・ま!あ・か・ぎ・や・ま!』

 

 突然の赤城山コールに当の選手達は唖然としつつもすぐに我に帰り誇らしげな表情でベンチへ向かう。

 

夏美「やるじゃない赤城山イレブン、帝国相手に同点のまま前半を終えるなんて並大抵のチームじゃ無理よ。ハルくんも月影君も居ない今の雷門が当たっていたらと思うとゾッとするわね。…あら?銀牙?」

 

 今日は大人しく試合を観戦している思っていた愛娘はいつの間にか姿を消していた。

 

♢♢♢

雷紋(クソ…!絶対あのシュートは決まったと思ったのに…!)

 

 帝国が誇るFW陣のシュートも渾身の奇襲すらも通用しない事実に焦る雷紋。

 改めて全国の水準(レベル)の高さを実感すると同時に赤城山と同レベルのチームをほぼ1人で蹂躙してきた銀牙の強さを再確認させられた事で彼の自尊心が僅かに傷つけられる。

 

???「随分苦戦してるね。そろそろあたしを出せば?」

 

 すると帝国のベンチに雷紋が今ここで1番聞きたくない少女の声が響き渡る。

 

雷紋「…どうしてオマエがここにいるんだよ、…銀牙。」

 

 そこに居たのは父譲りの独特なファッションセンスの私服姿でベンチのポストもたれかかる銀牙だった。

 

銀牙「シンプルに心配だから。お兄も気づいているんでしょ?今の帝国に足りないのは攻撃力。赤城山のタクティクスを破るにはそれが圧倒的に足りない。」

 

霊道「んだとコラ…!」

 

 『攻撃力が足りない』…それはFWの力量が低いと言われているのと同義。

 

 前半で点を取れていない以上、他のFWは彼女の言葉を事実として受け入れる事が出来たが誰よりも高いプライドを持つ霊道だけは銀牙の言葉を自身への挑発として受け取ってしまった。

 

穂村「落ち着け霊道、銀牙が言っている事は事実だ。単体じゃタクティクスを突破出来ない以上、後半は連携技を中心に攻める…それがベストだ。」

 

霊道「ひよってんじゃねェぞ穂村ァ!俺のペンギンに奪えねェゴールは無ェ!!!」

 

 冷静に現状を把握し別の活路を開こうとする穂村と山よりも高いプライドが邪魔して冷静さを欠き無謀な挑戦をしようとする霊道の意見が衝突し帝国は一触即発の空気となる。

 

穂村「俺達は帝国の看板を背負って試合しているんだぞ?お前1人の我儘(エゴ)でその看板に泥を塗る気か?」

 

霊道「ケッ!関係ねェよ!その我儘(エゴ)あってこその霊道界也なんだ!今更捨てる気はねェ!」

 

 ますますヒートアップし今にも手が出そうになる霊道。このままでは霊道は退場となりただでさえ足りない攻撃力は更に不足してしまう。

 本来なら羽交締めにしてでも止めるべきなのだろうが、興奮状態になった霊道を止められる選手は居ない。

 

 そう選手には…。

 

アリス「静かにしろ霊道。これは命令だ。」

 

 アリスの低い声が霊道の耳に届く。如何に気性が荒く粗暴な霊道でさえもチームの最高権力者である監督(アリス)には逆らえずバツが悪そうに一旦引き下がる。

 

ウサギ『はいちゅうもーく!今からアリスの物語の第二幕が幕を開けるぜー!』

 

アリス「俺が言いたい事は3つ。1つ、俺は銀牙を試合に出すつもりはない。」

 

銀牙「あっそ。じゃ帰る。」

 

アリス「そして2つ目、後半はドリブル、ブロック技を解禁する。思う存分暴れてこい。」

 

帝国『はい!』

 

アリス「そして3つ目は…」

 

♢♢♢

王将『さぁ!ハーフタイムも終わり遂に後半戦が始まります!果たして勝つのは名門帝国か!?それともジャイアントキリングが巻き起こり赤城山が今大会のダークホースとなるのかぁ!?…おっとぉ?どうやら帝国は後半からフォーメーションを変えるようです!』

 

 アリスの指示により3トップから2トップに変更した帝国。

 だが観客達は騒ついている。その原因はFWに配属された選手を見れば一目瞭然だろう。

 

 現在、キックオフの為にハーフライン付近に立っている選手は銀牙が入学するまで帝国のエースストライカーだった男、霊道界也。

 

 そしてもう1人は…

 

霊道「おい稲魂兄。俺の足引っ張ったら殺すからな。」

 

雷紋「ひゃ…ひゃい…!精一杯頑張らせていただきまーす…!」

 

 無駄にシュート技を多く習得しているものの公式戦で得点を決めた事は一度もないMr.非力こと稲魂雷紋。

 

 まるで親の仇を見るかのような痛々しい霊道の視線に完全に萎縮している雷紋は内心でこう思う

 

雷紋(ああ神様…どうして僕はいつもこんな理不尽な目に遭わされるんでしょうか…?)

 

 雷紋の表情にはいつも自分にだけやたらと多い試練を与えてくる神への恨みと明日まで自分は生きていられるかの不安で満ちていた。




 散々引っ張った挙句こんな中途半端なところで稲魂兄妹の母親を明かしたのは何かしらの意図があったわけじゃなくて原作のカップリングを崩す覚悟が中々決まらなかったからです。
 なお雷牙の妻が夏美になっている都合上、当然ハルの母親も変わっており今作のハルの母親は冬っぺになってます。
 とゆーかイナヒロのヒロインが夏美になっているのも夏美のビジュが好きってのもあるけど作者が円冬派なのが原因です。

【不定期開催!イナMON!今日の裏話!】
 実は初期構想時点での銀牙のキャラは明るく無邪気な性格だったがイナヒロに登場するあるオリキャラと被るという理由でクールビューティーに見せかけた不思議ちゃんになった。
 なお雷紋は初期構想と大して変わっていない…と言いたいところだが彼もかなり変わっており、1話投稿時点では雷牙から実力を綺麗に抜いただけの皮肉屋に加えて優秀な妹にコンプレックスましましと良く言えば人間臭い、悪く言えば嫉妬深いキャラとして設定していたが雷門との練習試合の途中から変更し観察眼を武器に泥臭く何度も立ち上がる雷牙とは別ベクトルの熱血漢へと変わっていった。

試験的に台詞の頭にキャラの名前を入れています。もしもコッチの方の反応がよければ『HEROS』も世界編から同じ形式にする予定ですのでアンケートお願いします。

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