『先輩、スマートウォッチってどう思いますか?』
僕の部屋でモフモフしたワインを飲みながら由理くんが尋ねてくる。
しかしそんな質問をした彼の腕にはスマートウォッチではなく簡素なデジタル時計が、この前ベルトを交換したばかりのデジタル時計が巻かれている。
チープカ●オなんて一括りにされているし、馬鹿にする人もいるが、専門にコレクションしている人もいるし、交換用のベルトも沢山発売されているし、そもそも腕時計としてはすこぶる優秀だ。
どう答えるか悩む。
チープカ●オをつけているのにそんなことを尋ねてきたと言うことは、CMとかドラマの役か何かでスマートウォッチをつけることになる、もしくは役作りのために質問してきたのかな?
正直に言おう、僕はスマートウォッチは腕時計として認めていない。
もちろん異論が沢山あるのはわかっているし、その異論を僕は尊重する。
ただ僕にとってスマートウォッチとは腕時計ではなく、腕時計の形状をした、時計機能を搭載しているものの全く別な装置だという認識だ。
しかしそれを上手く伝えられる自信は無い。
どう説明すれば良いのかな・・・。
例えるとしたら、今僕がワイングラスに入れて飲んでいるモフモフしたワインかな?
モフモフしたチリ産ワインを飲んでいるが、流石に由理君の前でラッパ飲み出来るはずもないし、するつもりもない。
そうグラスに入れて飲んでいる。
このグラスがケースでありダイヤルであり風防だ。
そしてグラスに注ぐワインがムーブメントだ。
僕は機械式時計が好きだ。
そして機械式時計においてその機械がみえないなんてあり得ないと考えている。
機械式時計は機械部分が見えなければいけない。
つまり、ワインに例えるのならばグラスは透明でなければいけない。
中に注いだワインの色を楽しむために限りなく透明なガラス製でなければいけない。
もちろんグラスにも好みが色々ある。
腕時計のケースに色々なフォルムやマテリアルがあるように。グラスにもカットされたものや、うっすらと色がつけられた者、形状も色々ある。
有名どころだとステム(脚)のないリー●ルだよね。
この前、モフモフしたワインの応募抽選で、モフモフしたワインのロゴが入ったリー●ルのグラスが当たるというキャンペーンをやっていた。
僕は当たらなかったけど。
だけど僕はワインの色をまず楽しみたい。
だからグラスのマテリアルは絶対にガラスだ。
金属や陶製、木製は絶対にあり得ない。
だってワインが、ムーブメントが、機械が見えないから。
続いてフォルムだけど、腕時計では絶対に妥協しないけど、正直ワイングラスではそこまで気にしない。
大変申し訳ないけど、モフモフしたワインを莫迦にしているわけではないけど、ワイングラスの形にもブルゴーニュとかモンラッシュとか色々とあるのは知っているけど、そこまで拘らない。
僕はグラスフォルムによって変じるという味を感じ取れるわけではないから。
ただシャンパンやスパークリングワインの時はやはり格好をつけて細長いフルート形で飲みたい。
アナリースさんなら間違いなくフルート形が似合うし、知子さんなら幅広くて薄いクーペ型がとても似合いそうだ。
青佳さんや茉莉だと何が似合うかな?
そして肝心のワイン。
赤でも白でもロゼでもスパークリングワインでもなんでも良い。
ただその色をグラス越しに楽しむ。
時計で言うのならば、絶え間なく規則的な動き続ける機械を、ムーブメントを眺める。
ただスマートウォッチは・・・グラスにカクテルを注ぐようなものだと思っている。
ワインじゃない、ビールでもない、ウィスキーでもない。
カクテルだ。
色々なお酒をブレンドし、時にはシェイクしたもの。
単純そうでいて、深く、複雑な味がする。
単純じゃない。
沢山の要素が混じり合っている。
『お酒を飲んで酔う』という行為は、時計では『時間を知る』という行為だ。
最終的な結果としては普通の時計でも、スマートウォッチでも時間を知ることが出来る。
だけど僕は単純なお酒で酔いたいんだ。
複雑な味ではなく、単純な味で。
なんか自分でも何を考えているか段々わからなくなってきたけど、スマートウォッチは
『ウォッチ』と名付けられているけど、肝心の『ウォッチ機能』は沢山ある機能の内のたった一つでしかない。
純粋な機能ではないんだ。
複数ある機能の内の一つでしかない。
だけどそう言うと、沢山の機能がついているカ●オが出しているG●ョックとか、同じく同社が遙か昔に出した電卓も機能としてついている時計はどうなるんだという話になるだろう。
だけどそれは違う。
時計という主機能のおまけでしかない。
時計が主、他の機能はおまけでしかない。
だけどスマートウォッチは全ての機能が主であり、従であり、混じり合っている物なんだ、僕としては。
G●ョックとか電卓も機能としてついている時計は、美しいワインが注がれたワイングラスの脇に置かれている、ソムリエがこのワインにはこれが合うと絶対の自信を持ってお勧めしてワインにつけられたささやかなおつまみも含めたセットという感じだ。
それにだ、そもそも機械がみえないなんてあり得ない!
まぁ電子機器に機械がないのは当たり前だけど。
あとスマートウォッチには機能美がない。
機械式だけでなく、全ての時計には機能美がある。
異論が沢山来るのはわかるし、スマートウォッチの種類によっては交換できるベルトも沢山でているのも知っているけど、僕は機能美を感じない。
もちろんデザイン最優先で生み出された時計も沢山あるけど、その中にも機能美というものは存在する。
いや機能美が存在しない時計はこの世には一つもないと断言する。
ただ僕の好みか好みじゃないという差だけが存在する。
ただスマートウォッチには好みか好みじゃない以前に機能美自体を感じない。
いつだったかブティックの店長さんに、そのブティックに存在してはいけない、古今東西色々な他社のカタログを沢山見せてもらった。
マニアはやっぱりこうでないと。
そのカタログ群の中に一つ、とっても変な時計があった。
その時計は、そのメーカーが言うところの『世界初の電波式腕時計』だった。
ただ驚くべきことにダイヤル上の12時と6時のインデックス間にヒューズみたいな物が配置されていたんだ。
何これと思ったし、何これと声を出してしまった。
店長さんは『これが電波を受信しているアンテナだそうです』と教えてくれた。
僕は最初はうわっと思ったが、なぜかその時計のページから目が離させなかった。
これも『正確な時間を知るために電波を受信する』という機能においてとても重要な機能だと気がついたら、何か愛おしく感じてしまったからだ。
もしかしたら出されたワインに酔っていたせいかもしれないけど。
だけど、スマートウォッチにはその様な機能美がない。
一切感じない。
ダイヤルに当たる部分はデジタル機器らしく色々と機能ごとにデザインを変えられるらしいけど、待機モード中は好きな画面に設定できる物が大半らしいけど、それもデザインなのはわかるけど、機能美としての美しさではない。
あるのかもしれないけど僕はそれを感じない。
さて、これを僕同様酔っている由理君にどう上手く伝えよう。
マニア同士ならばちょっと言葉が足りなくとも、そもそも『あれは時計じゃないですよねー』で終わる話だけど、肯定にしろ否定にしろ由理君はしっかりとした解答を示すための途中式も求めるタイプだ。
さてどうしよう。
『使えませんね・・・』
個室レストランの同じテーブルに座っている4人の女性から軽蔑もしくは侮蔑もしくは無関心以外形容しようがない視線が容赦なく投げつけられる。
『私達では不自然すぎると感じたので、頭を下げてあなたにお願いしたというのに・・・』
国母殿があきれ果てたように言うが、あれが頭を下げた?
今よりちょっと視線がマシなだけだったじゃないか。
『陛下にスマートウォッチを時計のかわりにつけて頂ければ、常に陛下の動向や健康確認が出来るので是非と思ったのですが残念です。行政委員長殿も使えませんね・・・』
4人の女性から軽蔑もしくは侮蔑もしくは無関心以外形容しようがない視線が更にきつくなる。
別にそれはどうでも良いが、この前この4人に呼び出されたときに聞かされた先輩の精神並びに健康状況からそれに賛成し、スマートウォッチを先輩に1日の半分でも、1/4でも良いから装着させる役目を引き受けたが、その前段階であるスマートウオッチの良さを先輩に感じさせる段階であそこまで強く拒否されるとは思っていなかった。
先輩は強靱だ。
・・・流石だ。
僕はそう思い、目の前にいる4人の女性の視線を無視し、ワインを飲んだ。
先輩の家で飲むワインはあまり美味しくないけど、この場で飲むワインよりは遙かに美味しい。
次はいつに先輩の家に行こうか。
というわけでまたも代理投稿です。
そろそろご自身でアカウント作って頂きたいですw