魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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転生期
転生


 時刻は12時間表示にして午前2時。草木も眠る丑三つ時というものだ。

 

 窓の外は、チカチカと点滅している街灯以外の光源は存在せず、真っ暗だ。家の前の道路には乗用車が走っているのか、時々エンジンや排気音などが聞こえてくる。その他にも、夜遅くまで遊んでいるであろう学生達のはしゃぐ声も、静かな夜の街の中を一時的に騒がしていく。それ以外は特にこれといって無く、実に静かなものだ。

 

 電気も付いていない暗い部屋の中で、俺はパソコンを起動してアニメを見ている。

 大音量にしている所為なのか、繋いであるヘッドホンからは小さく音が漏れだしてしまっている。一瞬だけヘッドホンを耳元から離してみても、聞取り難いとても小さな音が聞こえてくるだけだ。上手く聞き取れない程の音量なので、別段気にする程の事でもないだろう。

 明るく光を放っているモニターに映っている映像は、次々と、目まぐるしいスピードで変わっていく。いや、聞こえてくると言える程の音ではない。

 そのアニメには、数えきれないほど沢山の美少女キャラクター達が出てきており、主人公と思われる男の子が囲まれて、彼等は実に楽しそうにして青春を謳歌している。

 

 「ハハッ」

 

 それを見て、静かな部屋の中を乾いた笑いが木霊していく。その空虚な音は、広い部屋の中を反響していき、自分がたった1人である事を思い出させてくる。そして、その事を思い出してしまう回数だけ自分というものが嫌になっていくのだ。

 

 「はぁ……」

 

 アニメとういものは、見ている分には面白い。そうではあるのだが、そうであると同時にたったそれだけでもあるのだ。楽しさを感じる事は出来るのだが、それもそういった事をしている時間だけの出来事である。刹那的に、瞬間的に、一時的に、その場だけを楽しむことは出来る。繰り返すが、たったそれだけの事なのだ。

 

 それが終わると自分は何をしているのだろうなどという疑問が出て来る。

 そうしていると同じようにこのままでは駄目じゃないかという焦燥感や焦りなどを感じ始めて、それらが頭の中で一杯になる。そしてそれが徐々に大きくなり、潰れそうな程の強い不安感が襲ってくるのだ。

 それらから必死に逃げるかの様に、また別のアニメの鑑賞やゲームをプレイしたりしてそういった現実から目を背けて、一時的であろうとなかろうと逃避行動を選択するのだ。

 

 「……頭痛てぇな」

 

 酷くガンガンとした痛みが頭を襲う。

 此処最近、ずっとと言っても良いくらいの頻度で起きている。割れてしまうのではと思ってしまう程の大きな痛みが疾走り、ズキズキと痛みがするのだ。まるで何かに、荒縄の様なものに締め付けられているみたいに。

 頭痛薬を飲んだとしても大した効果は無く、意味は存在しない。寝る事でしか和らがず、俺にはそうして痛みを引かせる事しか出来ないし、知らない。

 だが、身体があげているそういった大きな悲鳴を無視しながら、アニメを見るという行為を続ける。

 頭が痛いから寝たいという欲求よりも、今の俺にはアニメを見たいという欲望の方が強い。

 毎日の事なので、ある程度の痛みであるのならば我慢をする事が出来るので、そのままでいるのだ。

 

 「……つまらない」

 

 小さな声で、自分にしか聞こえてこない程の大きさの声で、ボソッと呟く。

 

 何度も繰り返すが、アニメというのは面白いものなのだ。

 

 ――――どう面白いのか? などと聞かれたとしても上手に答える事が俺には出来ないだろう。

 

 やりたい事も無く、何かをしようという意欲も意思も無い。

 する事が、出来る事が他に無いのだからアニメを見たり、ゲームで遊んだりしているのだから。惰性で行なっているそれには、大した理由も意味も存在はせず、目の前に繰り広げられているそれら全てが何の面白みもない茶番の様なものに思える。一時的に盛り上がりはしたとしても、結果的にはその時だけのものであり、熱が冷めると同時にどうしてこんなものになんて思ってしまう事は毎日の様にあるのだ。

 

 「喉渇いたな」

 

 今見ているアニメには、携帯電話片手に持ちながらジュースを飲んでいるキャラクターが映し出されている。

 それに影響を受け、感化されたのか。それとも乾燥していて密閉された部屋という空間に長時間居続けた事が原因なのだろうか。どうやら俺の身体は、水分を欲しているようだ。

 言葉に出てしまう程のその強い要求を呑むために、俺は1階にある台所へと向かう事にした。

 

 出口である扉へ向かい、部屋の外に出る。

 

 外の空間は、実に静かなもので、肌に当たる空気が軽く、とても冷たく感じられる。部屋の中で温風機の電源を入れていたからなのか、そう思われた。

 

 家族はグッスリとして、寝静まっている。

 時折聞こえてくるのは、父親の大きないびきくらいだろう。仕事による疲れが大量に残っているみたいだ。

 

 寝ている皆を起こしてしまわない様に、そうして目を覚まさしてしまわない様にと出来るだけ音を立てない様に、そっと細心の注意を払いながらゆっくりと階段を降りていく。

 

 「どんだけ大きいんだよ」

 

 1階である下に降りても、父親のいびきは、はっきりと、鮮明に耳に届いた。

 

 台所に着くと、自分が普段使用している専用のコップを食器棚から取り出す。

 

 隣に置いてある母親の使っているコップと当たってしまい、カチャリと軽い音が鳴り響いた。

 

 水道の蛇口を軽く捻り、そこから吐出される水道水を中に入れていく。目安ではあるのだが、ある程度の水を入れると、蛇口からの流水を止めて、電子レンジの中に入れる。

 

 「これくらいの時間で良いかな……?」

 

 ボタンを押して設定した時間は1分50秒だ。

 

 自分は猫舌なのだが、熱いものは飲むことが出来る。だが、嫌なのだ。かといって逆にぬるすぎるのもまた、同じように嫌いなのだ。少しずつ温めて調節していくしかないだろう。

 

 ボタンを押して温めている間に俺は、トイレに向かい用を足す。窓から見える月が綺麗に光っていて、少しの間、俺はボッーっと見惚れてしまう。

 

 終えると洗面所に移動し、手を洗う。

 

 その時に、ふと鏡に写る自分の顔が目に入った。見たくもないのだが、それをじっと見てしまう。

 

 ――あぁ、なんて顔なのだろうか。

 

 (けが)らわしいと同時に(きたな)らしい。見るに堪えない程だ2日前から剃っていない為に無精髭が乱雑に生えており、顔の至るところには膿が出来ている

肌はカサカサと乾燥しており、頭髪には数本と言えない程の無数の髪の毛が白く変色してしまっている。頭皮のカサつきが原因なのか、フケが大量に発生していて、肩に乗っているそれがやけに目立ってしまっている。口を開くと八重歯があり、上手に歯磨きが出来ていないが為に歯垢がたくさん残っている。歯茎も見ていられないくらいに膿んでいて、もうどうしようもない程の状態だ。そして、目が死んでいる。死んだ魚の様でもあり、ドブ川の様に腐った色をしているのだ。

 

 鏡に映っている嫌いな自分自身の顔を見ていると、台所からピーピーといった電子レンジによる電子音が鳴っているのが聞こえてくる。

 

 どうやら指定した時間が経過して、温め終わったみたいだ。

 十分に温められたであろうコップを取り出して、お湯の中に粉末を一匙分入れ、スプーンを手に取り、円を描くように回して混ぜる。ある程度、それが溶けたのを確認すると、口元にそれを持っていく。

 インスタントコーヒーが持っている独特の匂いが鼻を打つ。

 ゆっくりと口に含み、渇いている喉を少しずつ潤していく。

 

 「(温かい……)」

 

 どうやら俺にとっては運良く、ちょうど良いくらいに温められていた様だ。

 ゴクゴクと喉を鳴らしながら食道を流れていくそれは、確実に水分の補給を実現し、身体中に、その温かさは染み渡っていく。そしてそれは冷えている俺の身体の温度をジンワリと上昇させていった。

 

 飲み終わった後のコップを流し台へと置き、水を張る。

 

 一時停止をしているアニメの続きを見る為に、ゆっくりとした足取りで階段へと向かう。

この時もまた、音を立てないように静かに登っていく。ギシギシといった音が鳴ってしまうが、爪先からかかとへという順番でゆっくりと段に足をつけていく。その登り方により、先程まで鳴っていた音は、ただ登っているだけの時と比べてより小さくなる。

 

 「え!?」

 

 登っている最中に、突然だが目眩がした。頭がクラッとする。

 

 謎の浮遊感を感じ、そのまま頭の方から登ってきた1階の方へと身体が静かに落ちていく。

 

 落ちきってしまう迄の、それまでの時間がとても長く感じられる。

 

 感じるだろうと予想出来る強い痛みは、おそらく一瞬だけだろう。

 

 「(……死ぬのか?)」

 

 ――自分はこのまま1階の床へと落下して、死んでしまう。

 

 ただ階段から転げ落ちてしまうだけの筈なのに、何故かそんな事を自然と理解する事が出来てしまった。

 

 落ちていく自分には、周りのものはゆっくりと見えている。落ちていくスピードがやけに遅く感じるのだ。

 

 禄に動けもしないのに、必死に身体を動かそうと試してみるが、動かす事はもちろん無理であり、その間の時間が刹那的であり無限の様に思われる。

 

 その間には、考える事が、考えてしまう事が沢山出てきてしまう。

 

 「(あぁ、そうか……)」

 

 思い返してみると、総じてつまらない人生だった。此れといって何の面白みもないのだ。

 

 何をするでもなく、何かを行い、何かを残したという訳でもない。ただ日々をダラダラと、のらりくらりとして、両親や祖父母の脛を噛りながら暮らしているだけ。

 

 しなければいけない事なんていうのは沢山あるくせに、やる気も無く、意欲も無く、やりたい事も無く、アニメを見たりゲームをしたりしているだけのタダ飯ぐらいのプー太郎。

 

 そんな自分自身という存在が嫌で、嫌で仕方が無い。変わらないと駄目だとは思えるのだが、それでも変わろうという意思が湧き出てこない。それがもどかしくて、とても悔しい気持ちを抱え生きていく。

 

 常に、毎日の様に自分を責め立てて、自分という存在に対して否定をし続ける。

 

 人生のうちで1回きりであり、最大の逃避行動出る自殺。そんな事を考えてみるも、一般的に知られている勇気とはまた違った方向性の、それを実行するだけの間違った勇気を振り絞る事すらも出来ずに、毎日を、そういった日々を過ごしていく。

 

 そうでなくても毎日のよう様に自分の事を生きているだけ無駄、生きている理由も価値も無い、死んだ方が良いなんて思っているのだ。

 

 両親や祖父母などの家族、親戚や友達に多数の知り合い達。沢山の人達に大きな迷惑を掛けて、心配をさせて、心配を掛けて。

 

 アニメを見ていないと、ゲームをしていないと、自分の好きでしていたいと思える事をし続けていないと、自分というモノが、理性が保てそうにない。

 

 まだ笑う事が出来るから大丈夫。まだ楽しいという気持ちを感じる事が出来るから大丈夫。そう自身に言い聞かせながら、何の代わり映えもしない、意味も無いであろうと思える同じ様な日々を繰り返して、過ごしていく。

 

 「(ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……)」

 

 心のなかで繰り返す謝罪の言葉。誰に対しての謝罪なのか、自分でも良く理解は出来てはいない。

 だが、どういった意味なのか、どういった事に対してなのかは理解が出来る。

 

 子供である自分が親よりも先に死んでしまう事。何もせずにいて、迷惑を掛けた事。そして、また大きな負担と迷惑を掛けてしまう事に。

 全てが、自分のしでかした事を、自分の責任だと、自分が全て悪いのだと。そう感じてしまう。そう思ってしまう。

 

 「(……天罰、なのかな?)」

 

 考える事は、無数に存在している。考えてしまう事があり過ぎる。

 

 死んだ後に、自分はどうなってしまうのか。死後には天国や地獄のどちらに逝ってしまうのか。そしてそもそも、そんなものは存在しているのかどうか。

 

 「(ま、地獄だろうな)」

 

 そして、まだ見ていないアニメが、見直したいアニメが、していないゲームが、したいゲームが、読んでいない漫画やライトノベルが存在する事。

 そういったサブカルチャー的なものの事ばかりを考えてしまい、頭のなかを占めていく。

 

 「(最後の最後にこれかよ……)」

 

 自嘲する。ただただ自分の考えている事、考えてしまう事に対して嘲笑(わら)えてしまう。

 

 最後の最後まで、今から死んでしまうというその最期の時まで自分という存在はクズの部類に入っている、属している人間だったのだから。何処までも自身の持つ煩悩にまみれた存在なのだから。

 

 ヒンヤリと冷えている床に頭が勢いよくぶつかる。

 身体と頭の位置が本来とは逆であり、首に存在している骨が頭部の重さに耐え切れずにグキッという音を立てながら折れてしまう。

 

 「(俺ってほんとバカ)」

 

 薄れていく意識の中で、最期の最期まで自分自身という存在を許す事が出来ずに、責め立てる事しか出来なかった。

 

 目の前が一瞬にして真っ暗になる。そして2階の方からドタドタとした音が、両親の慌てふためく声が小さく反響しながら聞こえて、次第にそれが遠くへと消えていった。

 

 

 

 

 

 気が付くと、其処は真っ白な空間だった。

 白く、とても白く、純白であり、目が痛くなる程の白い光を放っている場所だ。ただただそう表現をする事しか出来ない。上手く表せる言葉というものが浮かんで来ないのだ。

 

 此処は何処なのだろうか、自分はどうなってしまうのだろうかというそんなありきたりで平凡であろう疑問が、沢山頭のなかをグルグルと駆けまわっていく。

 

 意識が思考という名前の海を泳いでいると、強烈な閃光が疾走り、急に目の前がより明るくなった。

 

 明るくなったというのには語弊があるかもしれない。その光は、もともと其処に存在していて、それを認識出来るようになっただけなのだから。

 

 他の場所と比べて見ると分かるのだが、それは少しもやがかかったような感じをしている。そして、この空間が空間な為に、光っているという事を何とか認識出来るというだけなのだが。

 

 そして目の前に居るそれは意思を持っている。意志があるのだ。それはものでは無く、何かしらの存在だと、自分よりも遥かに上位の存在だという事が当たり前のように、ごく自然と理解をする事が出来たのだ。

 

 「(そうか……)」

 

 そして俺は、自分が死んだという事を知り、悟った。

 

 知ったというのとは少し違うだろう。決して知らなかった訳では無いのだから。ただ、知っているつもりであって、認識をしているつもりであっただけなのだ。

そう。あくまでも、つもりでいるというだけだったのだ。

 

 目の前に居るそれにより、俺は、自身の意思など関係は無く、否応無しに、強制的に、そして自然に、よりはっきりと完全に理解をさせられた。

 

 自分がどうなってしまったのかを。

 死んだとうい事を。

 家族を、両親や祖父母達を残して、先に逝ってしまったという事を。

 

 「(くそっ……畜生……。……ちくしょう……)」

 

 酷く後悔をした。強く懺悔をした。凄く涙を流した。

 あの時にああすれば良かった、この時にこうしておけば。何故、あんな事をしてしまったり、言ってしまったりしたのか。

 そんな事が頭のなかを占めていく。

 

 自分という、取り返しの出来ない事をしでかしてしまった存在を呪ってしまう程に。

 

 どうしようもないと、時既に遅しなのだという事を理解が出来ているからこそなのか。余計にそれら全ての事が凄く辛く、申し訳無く感じられてしまう。

 

 今の俺には目という部位は存在していない筈なのに、目の前の存在を確かに認識していて、そういった考えなどに対して涙に似た何かが流れ零れ落ちていく。

 

 存在はしていない筈なのに、そういった気持ちが原因で、小刻みに、時折身体らしきもの全体が大きく震えてしまう。

 

 「(……なんだ?)」

 

 そうしていると目の前の光は、頭に、魂に直接何かを語りかけてきているかの様な気がした。

 

 それはとても自分の知っている言葉とは呼べるものでは無い。いや、ヒトの持つ言語とは全くの別のものなのだろう。

 

 だがそうであっても、それは確かに何かを告げている事だけは理解が出来る。

 

 泣いている子供に対してするのと同じように、何処までも優しく。怖がって不安に震えている人に対し、もう大丈夫だよとでも言い聞かせ安心させる様に。

 

 何故かそれが、どの様な意味を持っているのかを理解する事が出来る。

 

 「(ああぁ……)」

 

 それにより、俺のなかに存在していた何かが、重い何かがスッポリと抜け落ちていく。黒く淀み、歪み、濁りきっていて重い何かが。実際にそんなものに重さは存在しないが、確かにそう感じられ、同時に、心がとても安らいだ。

 

 そうしてその光の存在はまた、俺に告げる。

 

 「(転生……?)」

 

 仏教などにより、よく知れ渡っている輪廻転生の事なのだろうか。もしそうなのであれば、来世はどういったものに生まれ変わってしまうのか。

 

 だが、その疑問は目の前の存在により見事に否定される。

 

 “神様転生”というものらしい。そう聞こえた。そう感じ取れたのだ。

 

 その言葉を受けて、俺は歓喜した。喜びに打ち震えた。

 

 前世での俺は、アニメやゲーム、漫画、ライトノベル以外にも暇つぶしの手段が欲しいと思い、その手段の1つとして読んでいたネット小説。

 その中でも、俺は特に転生ものを頻繁に、好き好んで読んでいた。特に神様転生というジャンルのものを、だ。

 

 簡単に、そして身も蓋も無い自己解釈による勝手な説明をしてしまうと、人間による手前勝手な妄想ではあるのだが、神を名乗る謎の存在の手により、特典という名前の特殊能力を貰って、そして前世の記憶を保ったままでヒトに転生するというものだ。そして一言で神様転生と言ってもいろいろなパターンがある。神の失敗により死んだという解釈や死んでいなくても神に選ばれて転生をするなどの豊富なパターンが存在している。

 

 こうありたい、こういう存在で居たい、こうしたい、こんな事がしたい。読んでいると、自分にはその作品にそういう思いが詰まっている様に感じられた。

 その気持ちを、オリジナルの主人公に行わせているだろうと思える作品が沢山あった様な気がする。

 

 俺はそれを読んで、想像し、妄想し、強く願った。望んだ。自分にもこんな事が起きれば良いのに、こんな力を持っていれば、こんな事が出来ればなと。

 

 それが実現するのだ。叶ってしまうのだ。喜ばずにはいられない。

 

 そして目の前の存在は、どんな世界でも、どのような力でも構わないと、そう告げた。そのように、光は語りかけてくる。

 

 それにより更に、俺の心は舞い上がった。好きな力を使える様になる、好きな世界で好きな事が、好きな様に、好きなだけ出来る事に。

 

 自分に対して、あまりにも好待遇であり、都合が良すぎる展開に、恐怖を感じていると同時に、どの様な願いにするのかを思い出していた。

 

 死ぬ前の生活において、あらかじめ考えて、妄想をしていたものを望み、要求をした。

 

 それは、快く承諾をされて、転生の準備がなされる。

 

 「(―――あれ?)」

 

 意識が、自分というものが薄くなっていく様な気がする。

 

 全てが、真っ白だった世界が黒く、真っ黒に染まっていく。深く、深く、谷底へと、奈落の底へと落ちて行くかの様な、落下をしている様な錯覚が感じられる。

 

 意識が完全に消えかかるその前に、目の前の光である存在は、ヒトのようなカタチをしている様に見え、感じられた。

 

 そして、俺の意識はテレビの電源を切るのと同じように、線が千切れてしまうかの様にしてプツンと途切れた。

 

 

 

 

 

 淡く、薄い光を感じる。人工的に造り出された光だろうか。

 

 コポコポといった液体が立てるであろう音が耳元で鳴っている。今の俺は、何かしらの液体の中にでも居るのだろうか。

 

 「…… ……… … 」

 「… …  …… ………」

 

 自分の前には誰かが、2人ほどの人物が並び、話しているのが聞こえてくる。

 

 水や、それとは別の何かを挟んでいるのが原因なのか、上手く会話を聞き取る事が出来ないので、何を言っているのかがよく分からない。そもそも、それは自分が知っている言語なのか、自分の知識内に存在している言葉なのかどうかも分からないのだから。

 

 だが、その言葉はどのような意味を持っているのか、どういう気持で話しているのかは、何となくだが理解をする事が、想像する事が出来る。

 

 何処か喜んでいるかの様に感じられるのだ。何か嬉しい事があったのか、欲しいものでも手に入れる事が出来たのか、目標にしていたものが達成できたのか。それは、小さな子供が欲しいと思っていた、新しく発売されたであろう新品のおもちゃを買っても貰えた時のように弾んでいて、純粋な喜びという感情を感じ、想像させてくる。

 

 少し、気になったので、眼を開いてみる。慣れていない所為なのか、光がやけに眩しく感じられ、開けた目は一瞬で細くなってしまう。

 

 「… ………  ……  …  …… …」

 

 目の前に立っている、1人のヒトは俺に向かって何かを言っている様だ。

 

 相変わらず何を言っているのか聞き取れずに、困惑をしてしまう。

 

 だがそうであっても、その言葉が、それがどのような意味をしているのか、どういった気持ちで喋っているのかという事のだいたいを察し、理解をする事が出来た。

 

 ――誕生、おめえとう。

 ――生まれてきてくれて、ありがとう       と。

 

 

 

 

 

 意識が覚醒していく。

 

 自分の身体は、今の俺はどうやら何かしらの液体に包まれている様だ。

 

 口元にはマスク型の人工呼吸器が付いている。

 

 俺が今居る此処は、まるで母親の胎内であるかの様に、不思議と謎の安らぎを与えてくる。

 

 「(それよりも、状況の確認をしないと)」

 

 眼を開くと、水が目のなかに入ってくるが、そんな事は気にせずに、周囲を見渡しみる。

 

 目の前には、ガラスのように透明で、頑丈な何かがあり、水が漏れないようにと塞ぎ、中と外の空間とを遮っている。ガラスの外側には黒い膜が張られているのか、目の前は真っ暗であり、外の様子を確認する事が出来ない。

 

 「(とにかく此処から出てみないと、な)」

 

 自然と自分には何が出来るのか、自分はどのような力を持っているのか、そしてどの様にすればその力を扱う事が出来るのかが理解出来た。

 

 意識を集中させていくと、自身のなかに、何か温かいものが存在しているという事を感じ取る事が出来る。そして、それをどのように操作すれば、どういった事が起きてしまうかという事もまた、しっかりと理解出来る。

 

 「(これが“気”、なのか……?)」

 

 自身の思う様に、その理解をしている方法で、身体のなかに存在している温かい体内エネルギーである気を、周囲へと一気に開放し、爆発をさせる。

 

 その爆発の結果、自分の身体を包んでいた液体は一滴も残さずに蒸発し、それが入っていた容器が、口元にあった呼吸器も一緒に粉々になり、飛び散っていく。

 

 「うっ……」

 

 支えるものが無くなった事により、身体は重力に従い、引かれているかの様にしてドンッという大きな音を立てながら、床に向かって倒れてしまう。

 

 直ぐに立ち上がり、切れて血が流れている口元を手で拭いながら、大きく周囲を見渡してみる。

 

 「此処は、研究所か何か、か……?」

 

 声が、しっかりと出る事に安心し、再び周りの確認をする。

 

 辺りはとても静かで、ヒトやその他の動物を始めとした生命体の気配というものが、一切も感じる取る事が出来ない。

 

 その代わりといってはなんなのだが、何かしらの機械群がズラアッと目の前に並び存在している。ウィンウィンといった機械音が鳴っているところから判断すると、正常に起動し、動いている様だ。

 

 「…………」

 

 手を握り閉めて、そして開いてみる。それを3度ほど繰り返していく。

 

 次に、身体に異常が無いのかどうか、どの様な感じなのかを知る為に、目を閉じて、意識を集中させていく。

 

 五体は満足で、生涯一切病気になる事の無い恒常的健康体。

 身体には、細胞と一緒に、ナノマシンが使用されている。それにより回復能力は、常人を遥かに凌いでいる。その為に、怪我をしたとしても、ものの数秒ほどで綺麗に塞がってしまい、同じ方法では、同じ様な事では怪我をしない様になるという耐性の様なものが身に付く。

 “リンカーコア”にも異常は見受けられない。

 尻尾にも、何の問題も存在はしていない。

 

 そう、俺の身体には尻尾があるのだ。それは毛に覆われている事でフサフサとした感触をしている。見た目を言葉にしてみると、猿の尻尾の様な感じだ。

 

 「問題は無いみたいだな」

 

 自身の身体の確認を終える。

 

 これといった異常も無く、一安心というものだ。

 

 気になる事といってしまえば、転生前と現在である転生後の違いだ。

 

 尻尾が存在していて、声と身長の変化だ。

 

 声の方は転生前と比べて、小さな子ども特有の甲高さに加えて、落ち着いた感じをした声と言えるだろう。まあ、主観によるものなのだが。前世とは違って、滑舌も良く、しっかりと喋る事が出来ている様な気もする。まあ、これは主観によるものだが。

 

 そして、身長の方だ。こちらは、前世と比べて、格段に低くなっている。転生時のサービスの様なものなのかどうかは分からないが、前世の時の半分くらいの目線の高さだ。

 

 「はぁ……」

 

 ふと、破壊したあとの生体ポッドのような何かに使われていたであろう耐水圧ガラスの破片が気になり、そちらに目を向けてみる。

 

 目にしたそれを疑うようにして瞬きをし、大きく瞳を見開く。そこには、信じたくないものが映っていたからだ。

 

 映っているのは当然ながら自分の姿だ。前世時の、見るに耐えられない程の醜悪な姿とは違い、やけに整った顔立ちをしている。これは良いだろう。ブサイクよりもイケメンだという方が気持ち的にもプラスに働く。加えて、前世で少なからず顔に関してはコンプレックスがあったのだから。

 

 だが、髪の毛は綺麗な金色をしていて、瞳はオッドアイだった。左は紅玉(ロート)で、右が翡翠(グリューン)の虹彩異色をしているのだ。

 この姿は、この世界において、重大な位置に存在しているキャラクターの特徴とほぼほぼ合致している。

 

 これは自身が望んで、頼みには入れてはいないものだ。頼んだ覚えの無いものなのだ。

 

 「マジかよ……」

 

 これには、流石に驚き、血の気が引くかの様な錯覚を感じ取る。

 

聖王(かのじょ)”の血を引いてしまっているのは、ほとんどの確率で……いや、確定といっても良いのかもしれない。

 

 「面倒なことになるだろうな…ここは、変身“魔法”を使うべきか……」

 

 体内のリンカーコアを動かして大気中の“魔力素”を取り込み、その“魔力”を回転させていく。

 

 身体の周りを、“虹色の光(カイゼル・ファルベ)”が発生し、空間内を明るく照らしていく。

 

 「よし、取り敢えずこれで良いだろう」

 

 光は一瞬にして消え失せ、再び部屋は薄暗くなる。

 

 気持ちを切り替えていく。

 

 此処がどのような目的で造られた施設なのか、本当に誰も居ないのかを調べる為に、この建築物の中を虱潰しにして探索をする事にした。

 

 

 

 

 「ずっと続いているのか……?」

 

 決意をして、部屋を出てからどれくらいの時間が経過したのだろうか。

 

 この建物はどのような構造をしているのか分からないが為に、今が何処なのか、どの様な場所に居るのかを判断をする事が出来ないのだ。

 

 最初に居た部屋から出て、左の方へと向かって道なりに歩いてはいるのだが、同じ様で一向に代わり映えしないその景色に対し、この廊下は延々と続いているのではないのだろうかといった不安が襲い掛かり、嫌気が差してくる。

 

 「本当に誰も居ないのか……」

 

 どれだけ歩いてみても、見かけたドアを開けて部屋に入ってみても、中にはヒトも他の動物も存在はせず、これといって目に止まるようなものも置かれてはいない。

 

 ただただ、それを繰り返していく度に、大きくガッカリとした気持ちになり、肩をションボリと下げる事の繰り返しだけなのだ。

 

 「――――あ!」

 

 半ば諦めながらも暫くの間を歩いていると、目の前には大きなドアがあった。どうやら、この方向ではそれが最後のドアであり、行き止まりでもある様だ。

 

 「出口か何かなのか……」

 

 近づいてみるとそれは自動ドアだったのか、センサーに引っかかって、音が鳴り、ひとりでに半分に割れて、それが両端へとスライドをしていく。

 

 部屋の中には、無数の机と、その上にはパソコンが設置されているだけだ。あとは、遠くにもまた、入ってきた方のものよりも数倍程も大きなドアらしきものがあるだけだった。

 パソコンは長時間動いているのか、カタカタと大きな音を鳴らしながらモニターを光らせている。

 室温は高く、パソコンが放つ熱によるものなのか、室内はとても熱く感じる。

 

 「調べてみるか」

 

 先程まで覗いていた殆どの部屋には、調べる必要のありそうなものはこれといって無く、見て回るだけの行動を繰り返していただけだった。

 

 強いて挙げるのであれば、ちょうど良いくらいの大きさをした上下セットの服を見付けて着用しているくらいだ。

 

 だが、今回の部屋には運良く起動しているパソコンが置かれている。

 調べてみる事でしか、この施設に関している情報、そしてそれを始めとしたこの世界の情報を知ることは出来ないであろう。

 

 この世界に存在しているパソコンなどの操作方法や規格などは、前世で使用していたものとは全くの別物と考えても良いだろう。だが、それがどうしてなのかは理解する事が出来ないのだが、それを当たり前のように操作をする事が出来た。

 

 いや、知っているのだ。あらかじめ、そういった知識をインプットされていたのかどうかは自分ではあずかり知らぬ事なのだが、その機械に関する知識を本棚から自然と引っ張りだす事が出来た。

 

 カチカチといった音を鳴らしながら、素早く机の上に映しだされているキーボードを叩き、タイピングをしていく。

 

 そうして、そこからこの施設の事、この世界の、この時代におけるある程度の情報を探し出し、得る事が出来た。

 

 先ず、この世界は俺の望んだ通りに“魔法少女リリカルなのはシリーズ”というアニメの世界似た世界から分岐して、誕生した“並行世界”の1つだ。

 今居るこの世界。いや、星は現地名称でいう地球。“第97管理外世界”だ。年代の方は西暦2003年。“新暦”にしてみると63年であり、1月2日だ。

 

 「原作介入するか、しないでおくか。どうしようかな……」

 

 希望通りの世界である事に安堵をしながらも、この先の事を考えると頭を抱えそうになってしまう。

 この世界は、アニメでの世界と同じ様に事件などが起きて進んでいくだろう。

 それに対して、自分から進んで、頭を突っ込んでいくのか。それとも、逃げ腰でひっそりと暮らしていくのかの2つの選択肢が浮かんでくる。

 どちらにしても聖王(かのじょ)の血を引いているのだから、巻き込まれてしまう可能性は大いに存在しているだろう。

 

 「はぁ……」

 

 そんな事を考えてしまう。そして、大きな溜め息が零れ出る。それは、自分以外存在はせずに居る空間内を、パソコンの音と一緒に鳴り響く。

 

 「あれ?」

 

 パソコンをある程度触り終えて、その横に何かが置かれている事に気が付く。それは、腕輪のようなものだった。丁度、自分の腕にぴったりと合わさるかの様な大きさだ。

 

「“デバイス”か?」

 

 その腕輪には、いろいろなボタンが存在している。そして調べてみると、それは本当にデバイスだった。

 

 デバイスというのは、“魔導師”が魔法を行使する際に使用する杖の様なものだ。魔法を使う時に補助として用いる道具というだけなので、あからさまに杖の様な形をしていなくても問題無いのだ。さらに、それを使わなくても魔法は行使する事が出来る。繰り返すが、あくまでも補助道具なのだ。そして、それは“魔法プログラム”を保存しておくハードディスクの様な機能を持っている。魔法の他にも、いろいろなものを量子変換して収納する事も出来る。有り体に、簡単に言ってしまうと便利アイテムのようなものだ。

 

 「ほう……」

 

 どうやら、これは“ストレージデバイス”の様だ。しかも大容量の。

 

 中にはキャッシュカードが2枚に、鍵などが入っている。

 

 さらに触ってみると、空間上にモニターの様なものが出現する。それには厚さというものが無く、このデバイスから映しだされている様だ。そして、その“空間モニター”には何処かの住所や座標が表示されている。

 

 「この施設に居た“違法魔導師”の仮住居の様なものか? 使わせて貰おうかな」

 

 前世で教育を受けて、培ってきた良心が痛む。

 だが、この世界で生活をしていく為の基点である場所が無いのだから仕方がないだろう。

 

 入室して来た時に、視界にドカッと入ってきて、奥に存在している大きなドアの方へと向かう。それもまた、自動ドアであったのか勝手に開いた。

 

 「………夜か」

 

 開いた扉の向こうは外に繋がっていた。

 

 空は吸い込まれそうになる程に暗く、草木が生い茂っていて、月の光が僅かにだが周囲を優しく照らしている。

 

 空気は少しばかり不味く感じられる。大気などが廃棄汚染などの所為なのか汚れているが、それ程気にする必要も無いだろう。ヒトが、動物や植物が繁殖して、元気に生きているのだから。

 

 その他には、草や樹の葉のものか青々しい匂いが、腐葉土特有の匂いが鼻につく。

 

 「良かった……“満月”じゃなくて」

 

 今日の空を照らしているのは三日月だ。

 その事に大きく安堵をしながら、このままでは不味いであろうと思い、“稀少技能”である“スキルメイカー”を使用する。

 

 創りだすスキルは1つだ。

 好きな時に全“次元世界”に存在している情報の中から任意に好きな部分の情報を引き出して閲覧する能力。

 

 意識は、深く沈んでいく。周りから発せられている音や空気の流れ、匂いなどいった五感に関するものが、一時的ではあるが消失する。

 

 「ふむ……」

 

 閉じていた目を開けて、深呼吸をする。

 

 山の空気は、木が光合成をしていても、それが追いついていないからか、少し不味く感じた。

 

 「近くには、不法投棄でもされたゴミがあるとか……。無いな……」

 

 引き出して閲覧した情報によれば、俺以外の“転生者”が多数存在している様だ。

 彼等、もしくは彼女等全員が、友好的な性格をしているとは限らない。出来得る限りだが、距離を取って、様子を観ておくべきだろうか。

 

 聖王(かのじょ)の血を引いているという証拠を隠蔽する為に、変身魔法を使用し続けているのだ。近くに居るというだけでも、たちまちのうちにその魔力は感知されてしまい、俺が転生者であるという事に気付かれてしまうかもしれない。いや、近くでは無くとも優れたデバイスの補助があれば、その転生者などの魔導師が優秀であり秀でた実力を持っているとすると、直ぐに感知されバレてしまうだろう。

 

 「ホントどうしよう……」

 

 考えれば考える程に、マイナスの方へと、消極的な方へと傾いてしまう。

 

 それに、この身体は小学生程の肉体年齢をしているのだ。このままだと、小学校に通う必要が出て来るだろう。

 

 変身魔法をもう一度発動して、大人の姿になってしまうというのならば問題は無く、良いのかもしれない。

 

 だが、この身体は、現在の状態だと子供の肉体なので、長時間の行動を取る事は出来ないであろう。

 

 どちらにしても詰んでいるであろう。そういった理由から、大人しく小学校に通った方が良いのかもしれない。

 

 だが、その前には戸籍を作りだす必要があるだろう。今の俺にはそういったものが無い子供の不審者であり、不法入国者のようなものなのだから。

 

 そういった事に、強く頭を抱えたくなる。

 

 そうしてまた、この状況を打破すべく、意識を集中させていく。

 

 創りだすのは1つのスキルだ。

 どのような状況や環境であろうとも謎や疑問を瞬間的に、その時に適した答えというものを導き出す事の出来る能力だ。

 

 「これで良いかな……」

 

 スキルを創りだし、少し考え込む。

 

 戸籍をどの様にするのか、そして小学校に通うのかどうかを。

 

 そうして、スキルの効果により結論が導き出される。

 

 心が痛むが、暗示魔法などといったものを使用して戸籍を作り出して、改竄をする事になった。

 

 「取り敢えず、此処から離れないと、な……」

 

 後ろを振り返って見てみると、その人工物はかなりの大きさを誇っていた。成長し生い茂っている木々により隠れてはいるのだが、ヒトに見つかっていないという現状が不思議なくらいだ。

 

 今のところは問題無いのかもしれないが、いつかに目の前に存在している建築物が誰かに見つかり、知られたりする訳にはいかない。この施設には、データだけではあるが、あまり良いと言えるようなものは無いのだから。

 

 「フン……」

 

 掌に気を集中させて、目の見えるかたちでエネルギー化させる。それは、ブォンブォンという音を放ちながら、月よりも強く、ハッキリと明るく輝いている。

 

 そして、それを目の前に建っている建築物に向けて放つ。

 

 エネルギー弾だ。

 

 その破壊力は凄まじいもので、目前に存在していた建物を一瞬のうちにして粉々にし、跡形も無く消し飛ばした。

 

 「どれだけ気を集中させるかで威力も変わる…意外と難しいな」

 

 大きく舞い上がっている土埃の中で、独り言葉にする。

 

 少しでもミスを起こして、間違ってしまえば目も当てられない事態になっていただろう。一面が更地になってしまったり、周囲に存在している木々が意味もなく折れて、倒れてしまったりと。

 ヒトが、それに気が付いて、近付いて来る可能性もあったのだ。

 そして、さらに最悪のケースがある。大地が大きく削れて、地割れが発生して裂け、大地震の後とでもいうくらいに酷く凄い被害が出ていたかもしれない。そうなっていた筈だ。

 

 幸いにも、大きな被害を出すことも無く、無事に破壊をする事が出来た。

 

 

 

 

 少し歩いていると、横から強烈な異臭が流れてきているのに気が付く。それは鼻につき、表情は瞬きをする暇もなく歪んでしまう。

 

 「………本当にあったよ」

 

 そちらの方へと、嫌々なのだが、好奇心の方が強いが為に向かうと、大量のゴミが捨てられていた。

 

 生ゴミによるものなのか、他のものも混じる事で、その場所からはこの世のものとは思いたくない程の強烈な匂いが流出し、漂っている。

 

 ヒトが歩いているだろう道が見付からないので、獣道を歩いていると美味しくないと感じていた空気が、更に強くなり、かなり不味く感じ始めたのだ。そして、鼻を摘みたくなる程の匂いもまた、して来たのだ。

 

 気の所為だと言い聞かせながら進んでいると、この場所へと辿り着いたのだ。

 

 「何でこんな場所に捨てているんだ?」

 

 周りの木は、少し腐っている様に思える。其処にある木々からは、本来生命体であるならば、微弱であろうとも放っている筈の生命エネルギーである気が、他の木々よりも非常に弱く感じられるのだ。

 

 右手の人差し指と中指を合わせて、勢い良く上げる。

 

 すると、クンッといった感じにして、不法投棄をされている大量のゴミの塊が一瞬で跡形もなく完全消滅する。

 

 「フンッ……。道理で空気が不味い訳だ」

 

 カッとなってやった……後悔はしていないといった感じで、俺の顔は今、清々しい程に良く朗らかな笑顔をしているかもしれない。

 

 消し飛ばしたのは良いのだが、それでも溜まっていた空気は相変わらず不味く感じ、その匂いが原因で、目には大粒の涙が溜まっている。

 

 空気とは、無理に手を加えなくても流れていくものだ。このまま放置しておいても、そのうちに匂いはマシになるだろう。

 

 「(ま、根本的な解決にはなってないが、な……)」

 

 

 

 

 ゴミを処理した後にもう暫く歩いていると、目の前には住宅街が入り、広がっていく。

 

施 設から抜け出し、1時間程度歩く事で、ようやく文明人の居るべき空間らしい場所へと辿り着いたのだ。

 

 近くにコンビニなどのATMか存在している場所を探す。

 

 すれ違う人々が、なにか嫌なものをみたかの様に顔を顰めている。

 

 考える必要も無く、その事に関する答えは導き出された。

 

 臭いだ。俺の身体から自身の意思とは関係無く悪臭が放たれているのだ。

さっき、不法投棄されていたゴミの集合場所に居たのだから、その臭いが染み付いているのだろう。

 

 「しまったな……」

 

 人目が無いであろう場所を探し、その物陰へと移動をする。

 

 気を少しばかり体外へと開放し、微かに感じる程度の強さをした風を起こす。魔力の方もまた、同時に使用してデバイスに記録されている消臭魔法を発動させる。

 

 使っておいてなんなのだが、どうしてこのような魔法がインプットされているのだろうかと疑問に感じてしまう。

 

 そして、もう一度だけ魔法を使用して成人したて程度の大人の姿へと変身する。設定年齢は20歳だ。これで現在の20時という遅い時間に出歩いていても、それ程不審に思われる事は無いだろう。

 

 其処から、もう少しだけ歩いていると右手側前方に、コンビニがあるのに気が付く。

 

 俺は駆け入るかの様に、走りだした。

 

 店の中に入ると同時に、その系列のコンビニ特有の入店音が鳴り響く。

 

 店員による「いらっしゃいませぇ」といった気怠そうな声を気にする事もなく聞き流し、ATMが何処にあるかを探す為に、周囲を見渡す。

 

 意外と直ぐ側で、出入口の左手の方に設置されていた。灯台下暗しとなって探し続ける事にならなくて良かったというものだ。

 

 「えっと……」

 

 装着しているデバイスからキャッシュカードを出す。

 

 そのままではもちろん突然何も無い空間から出現したかの様に見えるであろうと思い、ズボンのポケットの中に展開して、そこから取り出すのだ。

 

 パスワードの方は4桁であり、施設内で、デバイスを弄っている時に空間モニターに表示されていたので、それを見て覚えている。

 

 手に持っているカードをATMに通して、タッチ画面にあるボタンを押していく。

 

 「(ダニィ!?)」

 

 声には出さにようにと細心の気を配りながら口を強く閉じ、目を見開き驚く。

 

 開いた口が閉じない。

 

 画面に映し出されている金額の桁が可怪しいのだ。0が15個、それ以上もある。

千兆円は確かに入っていて、それ以上は数えようという気持ちが出ない。

 

 だが何かを買うでもなく、ただただ無意味にこの場に居続けているのには、仕事をしている店員の邪魔をしそうで、申し訳なくもあり、居心地が凄く悪く感じられる。

 

 俺は、そそくさといった感じに出入口へと向かう。

 

 店員の「有り難う御座いましたぁ」という言葉が後ろから聞こえ、自動ドアにより遮られた。

 

 「まさか、これ程のものとは、な……」

 

 デバイスの中には10枚ほどの枚数の万札が入っている。財布というものを所持していないのだから仕方が無いだろう。

 

 ポケットの中に入れていれば良いのではと思いもするが、スリに遭ってしまう可能性も存在している。もし、そうなってしまえば目も当てられない。

 

 

 

 

 

 そして時は流れる。

 

 「今日は皆さんに新しい友だちを、転校生を紹介します。入ってきて良いですよ」

 

 西暦2004年、新暦にして64年の5月17日。海鳴市にある“私立聖祥大附属小学校”。

 

 俺は予定通りに転校生として潜り込むことに成功する。

 

 「はじめまして、“保和歩栄(ホワブロン)”です。よろしくお願いします」




はじめまして。リオンザードと申します。
毎日、このサイトで小説を読み続け、アニメを見て妄想をする日々を過ごしています。
その妄想をどう処理すべきか悩み、文章にして投稿することを決意しました。
叩かれる、批判されること、読まれないことは覚悟しています。
ですが、出来る限り根気よく思いつく限り書き続け、投稿し続けたいと思います。

最初の頃はオリジナル作品を書こうかななんて考えていましたが、いろんなことを考え、作り出さないといけないので自分には無理だと思いました。
もともとあるものを利用する二次創作ならばいくらでもやりようはあると思い始めました。
パクリだとか言われてもしかたがないと思います。
だけど、何かをつくりだすには先ず誰かの、元からあるものを参考に、コピーし、真似して始めるものだと考えています。

支離滅裂で長くなりましたが読んでくださった方ありがとうございます。


12月5日に投稿したものを15日に書き直し投稿しなおしました。
感想を読んで、返信で都合の良い言い訳をしましたが、結局ダメだと思い加筆修正しました。

また、次話などの他の話を書きなおしたりする事もあるのでよろしくお願いします。
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