此方が先になり、無印編が終了する筈なのに、先に無印とA'sの空白期間の話を投稿してしまったorz
暖かい陽射しが身体を優しく照らし、徐々にではあるが確実に暖めていく。
背中にはヒンヤリとした感触が存在し、少し青臭い匂いが鼻を打つ。
何時までも横になっていたいが、ふと眼を開き、身体を起こすと、其処は先程までとは違った空間が広がっていた。
「此処は……」
見渡す限り青々とした色が、草木が広がっている。
風により、樹の枝が揺れ、擦れ合い、その際に発生する音が聞こえてくる。
風が頬を、金色の髪を撫でていく。
それは弱いと感じられるが、それでも確かに優しさと温もりが存在していた。
「目が覚めましたか」
「――っ!?」
背後から聞こえてきたその声に、驚きながら俺は後ろを振り向く。
そこには、一風変わった見た目をした青年が居た。
「そんなに警戒しないでください。私は貴方と話がしたいだけです」
その様な事を言われても、警戒しないでいるという方が無理な話だろう。
声を懸けられるまで、後ろに居たという事に気が付かなかった。
何かしらの力を持っていると思って問題は無いはずだ。
況してや、目の前の彼からは、有機的生命体ならば本来持っているであろう気を感じ取る事が出来ないのだ。
警戒しない方がどうかしているだろう。
「そんな事を言われてもな…自己紹介すらもしてこない奴を、どう信用しろと?」
「それもそうですね。では……改めまして、私は“界王神”――シェンとでも気軽に呼んでください」
その言葉に、俺は唖然とする事しか出来なかった。
界王神。
成る程、言われてみれば確かにそうなのかもしれない。
藤色だろうか…青とも紫とも言い難い肌、白い髪色。そして、両耳に付けた変わった形をしたイヤリングのような物。
何処からどう見てもとまでは言えないが、それでも界王神だと言われればそうなのかもしれないと思わせる特徴を、彼は持っている。といっても知識内に存在している特徴から判断しただけなのだが。
が、本当に界王神だとしよう。
そうすると、此処は“界王神界”なのだろう。
地球と比べ、空気が澄んでいて美味しい。
心地よい風が吹いて、生物にとって良い環境だ。
「その……で、貴方が界王神様だとしてですが……。一体何のようですか?」
「シェンで構いません。そんなに堅くならないで下さい。フランクに、友達と話している感じで良いですよ」
目の前の青年、シェンが笑いながら、そう勧めてくる。
彼が本当に界王神だとしたら、そんな事は恐れ多くて出来はしない。
そう思うのが正常なのかもしれないが。
「それなら、シェン……と。それで、一体何の用で?」
「用というのは簡単です。貴方達転生者は“闇の書”には限界まで手出しをしないで欲しいのです」
「庭園、崩壊終了。全て虚数空間に吸収されました」
「次元震、停止します。断層発生はありません」
「了解……」
時間は遡り、ブロンが虚数空間に呑み込まれ落ちていった直後の事。
その場に残っていたなのはを始め、時の庭園に居た皆はアースラへと送還され事無きを得ていた。
だが、アースラに乗る全員の気持ちは酷く落ち込んだものだ。
プレシア・テスタロッサが発生させた次元震は停止し、その背後に居たという謎の存在であるアカマタを倒すことは出来た。
1人の少年の行方不明、という案件を残して。
「第三船速で離脱。巡航航路に戻ります」
その事に唇を噛み締めながら、彼等は崩壊し、消え去った庭園跡から離脱してく。
「あれ、フェイトちゃんは?」
「アルフと一緒に護送室、ドゥームは別の部屋だ。彼女はこの事件の重要参考人だからね……申し訳ないが暫く隔離になる」
医務室にて、なのは達は怪我をした部位の治療をしている。
幸いと怪我は酷いものではなく、消毒をしたり、包帯を軽く巻く程度だ。
と言うよりも怪我はほぼほぼ塞がってしまっている。あの薬――エリクサーの効果によるものだ。
「今回の事件は一歩間違えれば、次元断層さえ引き起こしかねなかった重大な事件なんだ。時空管理局としては、関係者の処遇には慎重にならざるを得ない」
そのクロノの言葉になのはは顔を下に向け、頷くほか無かった。
フェイト・テスタロッサは母親であるプレシア・テスタロッサの言葉に従い、行動を起こしていた。
彼女に非は無いのだから……といった気持ちを抱いていると同時に、それでもいろいろと必要な事なのだと理解せざるを得ない。
そんな複雑な気持ちを抱きながらなのははユーノによる治療を受ける。
「ブロンの事なんだが……」
その雄介の言葉に、場はシンと静まり返る。
虚数空間の底に落ちていき、消えていった彼。
無事なのだろうか、それとも。
考えれば考える程に悪い方へとイメージが動き固まってしまう。
「…………」
「彼奴なら生きている」
そのゾイルの言葉には確かな説得力があった。
その理由というものは理解できないが、その言葉を聞いた彼等には何故かそう感じられたのだ。
「奴の気を僅かだが感じ取ることが出来る。気が……感じ取れるんだ」
「――!? それは本当なのか?」
「ああ、確かにそうだ……。だが、何かに邪魔をされているのか、虚数空間の中だからなのか上手く拾うことが出来ない」
見えない壁の様なモノに遮られ、気をハッキリと感じ取る事が出来ない。
だが、その言葉は彼等に、なのは達にとっては希望となり、安心感を与えた。
少なくとも、ブロンは死んではいない。生きている。
「あとは、見付けて保護するだけか……」
そんなクロノの呟きはその事実に安心したという安堵感と同時にこれからの事に対しての不安と焦りを感じさせた。
「闇の書には手を出さないで欲しいのです」
「えっと……何となく理解は出来たのですが、何故ですか?」
界王神界にて、風に髪をなびかせながら俺はシェンの申し出に対して質問で返す。
そんな俺の態度を気にした素振りを見せること無く、シェンは笑いながらその質問に回答をしてくる。
「あなた方、転生者は強力な力――能力――を手にしています」
それは事実、この身体には、魂には強力な力が存在し眠っている。
「それが……その力を内包したリンカーコアが摘出され募集されてしまうとどうなると思いますか?」
そのシェンの言葉に、俺はその場面を、そうなった後の事を想像してしまう。
誰にも手が付けられない程の力を持ち、そして暴走を始めるだろう。
地球で発動し暴走した闇の書は、内包した魔力と魔法を暴発させ、その次元世界を破壊する。
そして“転生機能”により、新しい場所へと移動しそれを繰り返していくのだ。
それはとても恐ろしい事なのだろう。
「……そうなった場合、この世界は」
「ええ、破壊し尽くされてしまうでしょう。この世界だけは無くて他の世界も……」
その言葉に目の前が真っ暗になる。
死刑宣告に似たその言葉は、俺の背中を冷たく撫でていき、首元を締めているかの様な錯覚を感じさせる。
それは、この世界にとっても死刑宣告であろう。
もしそうなってしまえば、止めるどころか防ぐことも出来ない。
「わかりました……。不用意な戦闘は……募集されるような事は避ける様にします」
「有り難う御座います」
その俺の返答にシェンは、安堵したのか頬の筋肉を弛め、微笑む。
鳥の囀りが遠くから聞こえ、木々の間を風が通り抜けていく。
「あの……」
「何でしょうか?」
どれ位じっとしていただろうか。
沈黙に耐える事が出来ず、俺は思わず声を掛けてしまう。
「貴方は何故、転生者の事を……?」
「世界は無数に存在している……その事を知っていますか?」
その俺の質問には答えず、新たな質問をしてくるシェンに対し、俺は少し首を傾げる。
そんな素振りに気が付いていないのか、気付いていないふりをしているのかシェンは話を、言葉を続けていく。
「平行世界、異世界、次元世界…数えきれない程存在しています。……そして、各世界には神様が存在しているのです。人の数だけ、人の思いの分だけ……所謂八百万の神でしょうか」
神様が居るからヒトが居る。
人が居るから神様は存在している。
「……そして、この私を始め創造の神である界王神。その対となる“破壊神”。各世界を行き来する魂を管理する“転生神”」
「転生、神……?」
「はい。あの方はカタチというモノを持ってはいません。その者の心に合わせて姿を変えるのです」
「姿を変える……」
「憶えがありませんか?」
その問いに俺は自分の記憶の中を覗く。
この世界に転生をする前、前世の世界で死んだあと、不思議な空間で出会った存在。
それが、そうなのだろうか。
「でも、死んだら……魂は“閻魔様”に」
「ええ。それで合っています。……ですが、あの方は心の奥を…深層心理を見抜くのです。そして、転生を心の底から望んでいるヒトを、よっぽどの悪事を働いていない限り、転生させるのです。まあ、どの様な順番で転生をさせるかなどはサイコロを振って決めているみたいですが……」
「なんですか、それ……」
その余りにも、しようのない、そしてくだらなく巫山戯た選定方法に俺は思わず、驚きよりも、呆れが。
そしてその事実に笑う事しか出来なかった。
「次元震の余波はもうすぐ収まるわ……此処からなのはさん達の世界へなら明日には戻れると思う」
アースラ内に存在する食堂。
其処でなのはを始めとした地球組の魔導師、ユーノ、そしてリンディ提督が食事を摂りながら之からのことを話している。
「……ただ、ミッドチルダ方面への航路はまだ空間が安定しないの。暫く時間が掛かるみたい……。数ヶ月か、半年か。安全な航行が出来るまでそれくらいは掛かりそうね」
時の庭園で発生した次元震の影響によるモノなのか、次元世界を行き来する為の空間が乱れている。
無理に航行すると何処に出るか、最悪の場合は次元の波に呑み込まれ航行不能…そして、虚数空間に落ちる可能性も存在しているのだ。
「あの人が目指していたアルハザードって場所、ユーノ君は知ってるわよね?」
「はい……聞いた事があります。旧暦以前――全盛期――に存在していた空間で、今はもう失われた秘術が幾つも眠る土地だって」
「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだって言われてる」
ユーノの言葉に付け足すようにクロノは言葉を発する。
彼の両手にはトレーが握られており、その上には食べ物の入った食器が置かれている。
これから食事を摂るのだろう。
「あらゆる魔法が、その究極の姿に辿り着き、その力をもってすれば叶わぬ望みは無いとさえ言われた―――アルハザードの秘術。時間と空間を遡り、過去さえ書き換える事が出来る魔法……失われた生命をもう一度甦らせる魔法。彼女はそれを求めたのね……」
「でも……魔法を学ぶ者なら誰もが知っている。過去を遡る事も、死者を甦らせる事も出来ないって」
「だからその両方を望んだ彼女は、お伽話に等しい様な伝承にしか頼れなかった…頼らざるを得なかったんだ……」
そんなユーノとクロノの言葉に志蓮は黙り続けることしか出来なかった。
死んですぐにしか効果は無いとは云え、死者を完全に蘇生させる事が出来る薬物が存在している事を。
過去も未来も自由に行き来することが出来るタイムマシンが存在しているという事を。
「でもあれだけの大魔導師が、自分の生命さえも懸けて探していたんだから…彼女はもしかして本当に見付けたのかもしれないわ――アルハザードへの道を……今となってはもう分からないけどね」
サイヤ人という伝説で語り継がれている種族が存在していたのだから……。
だがそれは、今となっては確認する事が出来ないモノだ。
この場に居るユーノ、クロノ、エイミィ、そしてリンディはそう思わざるを得なかった。
「ごめんなさい。食事中に長話になっちゃった……冷めないうちに頂きましょう」
そう言いながらリンディは、笑い、スプーンを手に取る。
「君達には多分、アースラでの最後の食事になるだろうし……」
「お別れが寂しいなら、素直にそう言えば良いのになあ……クロノ君てば照れ屋さん」
そんなエイミィの言葉に、クロノは慌てふためく。
からかっているという事を理解してはいるがそれでも、顔を紅くし声が上ずってしまう。
「此処には何時でも遊びに来て良いんだからね」
「はい、有難う御座います」
「エイミィ、アースラは遊び場じゃ無いんだぞ!」
「まあまあ、良いじゃない。どうせ巡航任務中は暇を持て余してるだし」
声を荒げるクロノに対し、その上官であるリンディ提督は笑いながらその事を了承する。
「艦長まで!?」
それに対し、クロノは驚きを隠せず、ただ唖然とし、呆れる事しか出来なかった。
「ブロンさん…貴方は何故、プレシア・テスタロッサに思いをぶつけなかったのですか?」
「―――え!?」
シェンの唐突な疑問に、俺は思わず黙りこんでしまう。
あの時に、彼女を見て思った事は沢山あった筈なのだ。
だが、それが上手く思い出せない。
衝動的な感情、想いだったからだろうか。
「そんな事、訊かれてもなあ……」
「…………」
答えをなかなか出せない俺に対し、シェンは黙って俺の顔をジット見つめてくるだけだ。
それが、何処か責めているようで、そうじゃ無いみたいで……不思議な感じを与えてくる。
そうして俺は、ポツリと言葉を吐き出していた。
「資格が無いと思ったんだ……」
死んだ後……あの空間で、転生神と出会い力を望んだ。
前世で、家族の想いを蔑ろにし、鬱ぎ込んでいた自分。
促されるままに、自分の勝手な欲望のままに力を望み欲した。
家族の事を想った事は、今世で自身の持つ指の本数だけでは数えきれない程ある。
死んだ娘――アリシア・テスタロッサ――に対してのプレシアの想い、願い。
フェイトに対しては酷く当たっていたが、それだけの強い想い。
それだけ愛情が深いという事。
愛が強く深いが為に、故に浸け込まれ、暴走した。
彼女は罪を犯した犯罪者として語り継がれていくだろう。
だけど、そんな彼女が……自分よりも、よっぽど人間らしい。
人として精一杯生きていたと思う。
だからなのだろうか。
負い目を感じているからだろうか。
「資格が、無いと……感じたんだ」
あの時に声を出せた雄介が羨ましい。
そして、人として、母親として暴走していたプレシア・テスタロッサが羨ましく、眩しく感じられたのだ。
「それじゃ、今回は本当に有り難う」
「協力に感謝する」
言葉と、そして別れの握手を交わしていく。
この場、転送ゲートにはなのは、雄介、志蓮、フェレット状態のユーノ、ゾイル、クロノ、エイミィ、リンディが居た。
ただ1人、ブロンを除いて。
「フェイトの処遇の決定……そしてブロンの居場所が見つかり次第、連絡する。大丈夫さ、決して悪い事にはならない」
「うん、有り難う」
未だに見つかってはいないブロン。
彼の気がまだ存在している事だけが手がかりなのだ。
捜し出すには相当の苦労があるだろう。
そして、フェイト・テスタロッサ。
彼女の使い魔であるアルフ、フェイトの兄であるドゥーム・テスタロッサ。
彼等の処遇は、それほど悪い方にはいかず、それどころか良い結果が出るだろう。
何も知らされず、ただ母親の頼みを、命令を聞いていた彼女達。
そんな3人を、クロノ達が、目の前の彼等が見捨てる筈が無い。
そう信じる事が自然と出来るのだ。
「ユーノ君も、帰りたくなったら連絡してね。ゲートを使わせてあげる」
「はい、有難う御座います」
「じゃあ、そろそろ良いかな?」
名残惜しそうにエイミィは転送の準備が出来たことを伝える。
「それじゃ」
「またね」
眼を開くと其処は既に海鳴臨海公園だった。
設置されている時計は朝の6時25分を指している。
風は少し冷たく、潮の香りが漂ってくる。
小鳥の鳴き声が何処からか聞こえて来て、太陽も昇りつつある。
「帰ろうか」
「「「うん」」」
それぞれが、それぞれの家へと向けて歩を進めていく。
朝の風が髪を優しく撫でる。
新鮮な空気が肺の中に入り、帰ってきた事を彼等に実感させた。
携帯電話が、起きろとでも言わんばかりに大きな音を鳴らしている。
寝ぼけながら、重い目蓋を擦りながら、なのはは布団の中でモゾモゾと動き、そしてその携帯電話はベッドから落ちてしまう。
それでも鳴り止まぬ音に、なのははうんざりしながらも携帯を手に取る。
だが、その画面を見た途端、彼女は慌てて通話ボタンを強く押した。
「はい、なのはです……ふぇ! 本当!?」
《ああ…正式に決まった。フェイトの身柄はこれから本局に移動、それから事情聴取と裁判が行われる。フェイトは多分…いや、ほぼ確実に無罪になるよ。大丈夫》
《クロノ君ってば、あれからずっと証拠集めしててくれたからねえ》
《エイミィ、そういう余計な事は言わなくていい》
「有り難う、クロノ君!」
そんなクロノとエイミィのやりとりを耳にし、微笑むなのは。
《聴取と裁判、その他諸々は結構時間が掛かるんだ。で、その前に》
「うん。うんうん! すぐ行く! うん!」
「どうしたの、なのは?」
先程のなのはの声に、驚き目を覚ましたユーノ。
嬉しそうにしているなのはに、ある程度は察してはいるが確認を取るようにユーノは質問をする。
「フェイトちゃんが本局に移動になるんだって、暫くの間。で、その前に……少しだけど会えるんだって!」
「そうなんだ」
「私に逢いたいって言ってくれてるんだって!」
なのはの声は喜びに溢れていた。
そんな彼女を見て、ユーノもまた同じように嬉しさを感じ、口元を弛め、微笑む。
海鳴臨海公園。
其処には5人の少年少女が居た。
カモメなどの海鳥の鳴き声が響き、青い空に吸い込まれて消えていく。聞こえてくるのは穏やかな波の音。
少しすると3つの、いや、4つの人影が近づいていく。なのは達だ。
雄介と志蓮もまた連絡を受けていたのだ。
「あんまり時間は無いんだが、暫く話すと良い。僕達は向こうに居るから」
そう言いながら、クロノは少し離れたベンチの方へと移動する。
転生者組である雄介、志蓮、ドゥーム、ゾイルもまた別の場所へと移動する。
お互いに見つめ、微笑み合う2人の少女。
「何だか一杯話したい事あったのに、変だね……フェイトちゃんの顔見たら忘れちゃった」
「私は……そうだね……私も上手く言葉に出来ない。……だけど嬉しかった」
「え?」
「真っ直ぐ向き合ってくれて……」
「うん……。友達になれたらなって思ったの」
フェイトの言葉に対し、満面の笑みで応えるなのは。
最短で、真っ直ぐに、一直線に自身の思いをぶつけ、分かり合う。
理解しあう為に、友達になる為に。
「でも……今日はもうこれから出かけちゃうんだよね」
「これからの事なんだが……」
なのはとフェイトの2人から、そしてクロノとユーノ、アルフの3人からも離れた場所で雄介を始めとした転生者組は集まり話をしていた。これからの事を。この後に起きるであろう大きな事件、闇の書に付いての事を。
「八神はやてと接触した場合どうするか……」
「そして、ヴォルケンリッターに協力するか……募集されない様にするには」
「原作通りに進んでいくどうか……」
考えても、考えても答えなど出てきはしない。
保身の為に、そして予想出来ない……知識にない出来事が起きる事への恐怖。
「結局、なるようにしかならないよな……」
「出かけちゃうんだよね……」
「そうだね……。少し長い旅になる」
「また逢えるんだよね?」
友達になりたい。
そう願い、その思いを言葉にし伝えた相手。
その彼女が遠くに言行って、それっきりになる。
会えなくなるかもしれない。
それはとっても寂しくあり、不安なのだ。
そんななのはに対して、フェイトは大きくだが頷く。
「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから……。来て貰ったのは返事をする為……」
そんなフェイトの顔は、少し紅くなっている様に感じられる。
「君が言ってくれた言葉、友達になりたいって」
「――うん! うん!」
「私に出来るなら、私で良いならって……だけど私、どうして良いのか分からない。だから教えて欲しいんだ…どうしたら友達になれるのか」
「簡単だよ……。友達になるの、凄く簡単。名前を呼んで……はじめはそれだけで良いの」
不安になり、下を向いているフェイトになのはは微笑みながら優しく自分の考えを述べる。
「君とか貴方とそういうのじゃなくて。ちゃんと相手の目を見てハッキリ相手の名前を呼ぶの」
「…………」
「私、高町なのは…なのはだよ!」
「なの……は」
「うん! そう!」
「なのは」
「うん!」
「なのは…君の手は温かいね……」
その言葉になのはは思わず涙を流してしまう。
そんな彼女に対し、フェイトは自身の指でそのなのはの涙を拭う。
「少し分かった事がある…友達が泣いていると、おんなじ様に自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃん!」
泣きながらなのははフェイトに抱きつく。
慌てながらも優しく抱きとめるフェイトにもまた目尻に涙を溜めていた。
「有り難う、なのは…今は離れてしまうけどきっとまた逢える。そうしたら、また君の名前を呼んでも良い?」
「うん! うん!」
「逢いたくなったらきっと名前を呼ぶ……だから、なのはも私を呼んで。なのはに困った事があったら、今度はきっと私がなのはを助けるから」
そのフェイトの言葉になのはは我慢出来なくなったのか大きく嗚咽する。
「あんた達のとこの娘はさ……なのははほんとに良い娘だね……フェイトがあんなに笑ってるよ」
泣きながら抱き合っている2人の少女を見ながら、アルフはむせび泣く。
そんな彼女に対し、ユーノはフェレット状態の小さな手で、その涙で濡れた頬を優しく撫でる。
「時間だ。そろそろ……――!? なんだこいつらは……」
そんな2人の少女のところへと向かい、声を掛けるクロノ。
だが、そこに木々の間に出来た隙間、ベンチに存在している隙間。
周囲に存在している隙間という隙間から異形の存在が数えきれないほど現れる。
赤色の魚の様な頭部、そして、武者の様な姿をしている。
「封時結界!」
ユーノの結界魔法により、世界は分断され、この場に存在する魔導師組とその得体のしれない異形共だけになる。
そんな謎の軍団の中に一際目を引く存在が居た。
牛の様な頭をしていて、首から下は大男……鬼のよう胴体。首にはヒトの頭蓋骨を複数繋げて作られたと思われるネックレスの様なものがぶら下げられている。赤黒い肌。手には身の丈の2倍ほどの大きさをした巨大な大剣が握られている。
「やっと暴れられるぜ……。“ナナシ連中”共……好きなだけ暴れて良いぞ。俺も暴れてやるからな、ハハハハハハ!!!」
「此処は本当に静かだな……」
綺麗な空気に、水……心地よい風が吹き、鳥が元気良く飛び、川の中を元気良く魚が泳いでいる。
「ブロンさん、見てください!」
慌てながら此方に向かい走ってくるシェン。
その手にはサッカーボール並みの大きさの水晶がある。
「これを見てください」
「――!?」
その水晶には見知った顔が複数映しだされていた。
だけど、そこには何時もと違うモノが一緒に映しだされている。
赤黒い牛の様なモノとそして武者の様な姿をしたモノ。
特にその武者の様な姿をした異形の存在の数は非常に多い。
そいつらが七分に、陸地と海を合わせてやっと三分。
それほど沢山の異形共が溢れ出ていた。
「シェンさん……」
「行くんですね」
「――はい」
その三分しかない場所に皆が居る。
目にしてしまったからには放っておく訳にはいかないのだ。
人生の中で、ほんの少しとはいえ一緒に過ごしたのだ。
大事な友、仲間なのだ。
青臭いだとか偽善だとか言われようと構わない。
ただ、今の俺は駆けつけて助け出したい。
そんな思い出一杯だった。
「行ってらっしゃいです、ブロンさん」
「行ってきます」
友である皆の気を探り、そしてその場に瞬間移動する。
「気をつけてください……そして、忘れないでください。我々転生者には大きな責任というモノがあると云う事を」
そんなシェン――界王神――の言葉に気付くこと無く。
「ハハハハハハハハ!!!」
大剣を振り回しながら高笑いをする牛鬼。
振り回した際に、強い風が発生して立っている事すらも難しい。
「どうすれば……」
だがそこに、ドンドンと何かを叩く音が響き始める。
「太鼓の音?」
突如、複数の黒子が出現する。
そして、彼等の手には陣幕とのぼり旗が握られている。
「結界に、どうしてヒトが!?」
太鼓の音が止んだと同時に、彼等黒子は姿を消した。
だが、そこになのは達には見覚えのある人物が立っていた。
「――!」
普段見覚えのある姿ではなく、大猿から戻ったあとの、別れた時の姿ではあるが。
「其処までだ、外道衆!」
彼の瞳は、強く目の前の鬼を睨んでいる。
そこから発せられる殺気は大気を揺るがし、周囲の存在は否が応でも金縛りの様に動けなくなる。
「“サムライザー”、ゴー・ゴー・サムライ!」
【“ショーグンモード”】
手にした赤い可変式の筆を動かし、空中で文字を描く。
それは初めて使用した時と同じで、火の文字。
文字は身体中を覆い、そして火の粉を撒き散らしながら消失する。
「――貴様は!?」
其処には、以前と同じ……いや、少しばかり違った見た目をしている。
赤い和服の様なスーツ。
だが、その胸部には甲という大きな漢字が装甲の様に。
腕部には新たに銀色の籠手、脚部にも銀色をした装甲。
肩には大きな盾の形をしたモノが。
そして何よりも目を引くのは頭部だ。
マスクの火の文字が金縁で、その上部にはさらに金色に輝く火の文字が。
それにより、火から炎に変化しているのだ。
バックルには顔の様なモノが付いている。
彼の等身が低い所為なのか、少しばかり不格好に見えてしまう。
10代後半になって変身をすれば、それなりには様になるだろう。
「何だ、それは?」
「聞こえなかったのか? 将軍だよ」
その姿には敵も味方も唖然とする。
そして、それと同時に敵には畏怖を、味方には勇気を与えた。
「ブ、ブロン!」
「話は後だ……お前らならそいつらを倒せるだろ。俺は目の前の牛を倒す……参る!」
その言葉と同時に俺は駆け出す。
「ナナシ連中!!」
敵の方も動き出し、事態は混沌とした状況になる。
上空から放たれる魔法の光が、地上に居るナナシ達に命中し、爆発する。
空から降ってくる魔力弾は、まるで流星の様であり、死を運ぶ火山弾の様でもあった。
だがそれは色とりどりの光を放っているので、眩しく、そして花火の様にも見える。
「志葉の力を持つお前は……貴様は一体何なんだ?」
「さてな……少なくとも俺は俺で、転生者でもある事だけは確かだ」
手にしたシンケンマル、そして牛を模した大筒である“モウギュウバズーカ”を持ち攻撃をしていく。
右手のシンケンマルで斬りつけ、モウギュウバズーカで撃ち倒していく。
牛鬼の身体は硬く、斬りつけても、撃っても跳ね返されてしまう。
「ハハハハ!? その程度か!?」
「そんな訳ないじゃん」
自身の中に存在する気を少し開放し、シンケンマルに付加させ、斬りつける。
「――!?」
すると、先程までの苦戦が嘘の様に…野菜を斬るかのようにバッサリとその大きな腕を斬り落とす。
「ぎゃあああアアアアアアア!!!!!!!!」
耳を劈くほどの強烈な悲鳴。
その声は音に、そして衝撃波となり、周囲に居た味方の筈のナナシ連中を吹き飛ばす。
「ふむ……。今の俺にはモヂカラよりも、やっぱり気のコントロールで戦う方が良いみたいだ」
そんな大きな悲鳴を無視しながら俺はシンケンマルを振りかざし斬り刻んでいく。
「(外道衆にも外道衆で信じるモノとかがあるのかもしれない……だけど俺は、俺の守りたいモノを護る。例え偽善だとしても、歪んでいるとしても)……止めだ!!」
モウギュウバズーカにインロウマルを装填したシンケンマルを装着する。
そして、そのインロウマルに最終奥義と書かれたディスクを装填する。
「スーパーモウギュウバズーカ……」
「ち、畜生……この俺が」
「――外道覆滅!!!」
トリガーを引き、牛のカタチをしたエネルギー弾を打ち出す。
それは見事に牛鬼へと命中し、爆散する。
「…………」
その四散した身体の破片が集合し、元の身体に戻る。
そしてその身体は先程の大きさとはまるで比にならない程の大きさに――目測50m程度にまで巨大化する。
「ど、どうするんだい……この前は虚数空間に落ちていったから良かったものの」
そんな不安気なアルフの言葉に、俺はただ一言で応える。
「吹っ飛ばす!」
結界を崩壊させない程度に体内の気を開放していく。
掌に集中させたその気は一秒も刻まない間に大きくなっていく。
大きくなった気弾を、次第に小さくしていく。
「あれだけの気を……あんな大きさに凝縮するなんて………」
「ビックバン……」
「――俯せろ!!」
「――アタアアアアアアアッッックウ!!!」
放出された気の塊は、牛鬼の巨体へと一瞬で迫りいく。
耐える牛鬼だが、それも一時的なもの。
見る見るうちに、後ろへと後退し、ジリジリと、ジワジワとその身体を確実に磨り減らし、削り取られ、消滅していく。
「――ッ!!」
ゾイルの言葉に従い、伏せていた皆は被害という被害を受けはしなかった。
だが、周囲を見渡すとそのエネルギー弾により発生した爆風により木々は薙ぎ倒され、地面は抉り取られている。
「ブロン……無事で……」
「ブロン君!」
「ブロン」
周囲の安全を確かめると同時に、皆は俺を中心に集まってくる。
皆が皆、目尻に涙を浮かべ、無事だった事に安心してくれているのだ。
「心配かけてすまなかった」
「全くだ……。で、一体虚数空間からどうやって」
「その話は後だ……先ずはフェイト達を」
「ああ……」
クロノの疑問に、俺は後で答える事を約束し、フェイト達をアースラに転送させる事を勧める。
「フェイト、アルフ、ドゥーム……そろそろ」
「フェイトちゃん!」
フェイトに駆け寄るなのは。
彼女は、なのはは自身の髪を結んでいた白色のリボンを解き、フェイトへと差し出す。
「思い出に出来るもの……こんなのしか無いんだけど……」
「じゃあ、私も……」
フェイトも同じように、髪を結ぶ黒いリボンを解き、なのはへと差し出す。
「有り難う、なのは……。…きっとまた……」
「うん……。きっとまた……」
地面に出現した魔法陣が光り、フェイト達を…フェイトを、アルフを、ドゥームを、クロノを、ゾイルを包み込んでいく。
手を振るフェイトに対し、なのはを始め雄介も、志蓮も手を振り返す。
彼女達が、アースラへの転送を完了し、目の前から姿が消えるまで手を振り続けた。