「結界、破れました!」
「映像、来ます!」
次元空間のなかで待機を続けている次元航行艦アースラ。
そのブリッジで謎の術式により組まれている結界の解析と解除を試みてはいたが、なかなか破れずに作業を続けていたクルー一同だったが、突然にその結界が破れた事により驚愕の声を上げる。
砂嵐の様な音を立てながら乱れていた画面はしっかりともの映す様になり、そのモニターには戦闘をしている少女等の姿があった。
「な、何これ? どういう状況?」
リンディや他の局員が居る艦橋とは別の、違う部屋で解析作業を続けていたエイミィは結界が解除された事に一安心をする。
だが、映しだされた映像によってその安心した心は一気に反転してしまう。
モニターには先程まで一緒に居た少女等、フェイト、アルフ、ユーノが映っている。そしてなのはと雄介、志蓮の姿も、だ。
そして、其処には自分達の見知らぬ者達の姿も同時に捉えていた。
「――これは!? こいつら……」
その映像を見て、クロノの目が細くなる。
なのはの身体を貫いていた腕と、その手の上で浮かんでいた桃色に光る魔力の塊が消える。
肉体的にも精神的にも大きくダメージを受け、疲労をしていたなのははレイジングハートを手放す。そして軽く音を立てながら倒れ、そのまま意識を失ってしまった。
「なのは!!」
目の前のシグナムの横を過ぎ、倒れたなのはの元へと急ぐフェイト。
そんな彼女の邪魔をする事も無く、シグナムを始めとしたヴォルケンリッター達は撤退の準備を始める。
「――ああ、逃げる! ロック急いで! 転送の足跡を!」
カタカタと急いでキーボードを叩きながら、逃げていくヴォルケンリッターを追いかけていく。
《やってます!》
「――あれは……!」
逃げていく彼等を捕捉しようとするなかで、モニターには彼等のうちの1人が映し出される。
そして彼女が所持している一冊の魔導書を見て、クロノは思わず大きな声を出してしまう。
《駄目です! ロックが外れました……》
「ああ……もうっ! ごめん、クロノ君……しくじった……クロノ君?」
逃げるヴォルケンリッターを追いかけようとするが彼等の方が上手なのか、多重転移を、転移魔法での移動を繰り返しているのか取り逃がしてしまう。
逃してしまった事に謝罪をするエイミィだが、クロノは真っ直ぐとモニターを見つめていて反応を返さない。
「第一級捜索指定遺失物、ロストロギア、闇の書……」
「クロノ君……知ってるの?」
「……ああ、知ってる。少しばかり嫌な因縁があるんだ」
そう言ってクロノは自分でも気付かないまま手を強く握り占めていた。
「…………」
ゾイルは静かに腕を組みながら口を閉じ、彼等のその様子を見つめていた。
12月2日午後8時45分。
「検査の結果……怪我は大した事無いみたいです。……ただ、魔導師の力の源――リンカーコアが異様な程小さくなってるんです」
「そう。じゃあやっぱり一連の事件と同じ流れね」
「はい、間違いないみたいです。」
エレベーターの中で、報告を受けているリンディ。
報告をしているエイミィも同じだが、リンディも酷く疲れているのが見て取れる。
戦闘で傷ついて気を失い倒れてしまったなのはを回収し、アースラは時空管理局の本局へと戻っていた。
本局にある医療機器での診断の結果、エイミィの報告通りになのはの持つリンカーコアが著しく小さくなってしまっている。
だが、小さくなっているというだけであり、命には何の問題も無い。時間が経過すれば彼女の意識が回復し、リンカーコアも元の大きさに戻るだろう。
「……休暇は延期ですかね。流れ的にうちが担当になっちゃいそうですし」
「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」
「いや、君の怪我も軽くて良かった」
「クロノ……ごめんね、心配かけて」
「君となのは達で、もう慣れた。気にするな」
フェイトの怪我は酷くは無く、消毒をして包帯を巻く……そして回復作用のある魔法を掛けるというだけで塞がる程度のものだった。
エリクサーと呼ばれる万能薬も存在はしているが、なるべく使わない方向でとアースラスタッフ一同となのは達の間で相談し、決めていた。
副作用なども無く便利ではあるのだが、迂闊に使用してしまえば、管理局上層部に知られてしまう可能性があるからだ。
上層部で転生者などの存在を認識している人物はかなり限られている。
そしてもし、迂闊に知られてしまえばどうなるか。
何事も無い事を祈るよりも、そういった情報が漏れ出ないように、バレないようにとする方が良いだろう。
「それにしても、何故君は来なかったんだ?」
「そ、それは……」
フェイトの治療を済ませ廊下を歩きながら、クロノは俺に対して質問をしてくる。
実際のところはそうでもないのかもしれないが、その言葉には刺が、そしてその目が俺を非難している、強く責め立てている様に感じられる。
「今回の相手は魔力を募集する……俺にとってそれは、どうしても避けたい事なんだ」
「……そうか」
リンカーコアにはその所持者が使った事のある魔法が記録されている。
闇の書の募集はリンカーコアを、魔力を募集するのだ。その際に、身体の外にリンカーコアが出る。
そしてその募集をする事で、リンカーコアに記録されている魔法のプログラムが闇の書に記載され、更に闇の書の主はその募集した魔法の使い方を知り、それを行使する事が出来る様になるのだ。
もし俺が募集されてしまえばどうなるのか。
攻撃やサポートの為の魔法などは使用した事などが無いから特にこれと言って問題は無いだろう。
だが、募集される際にリンカーコアが露出する。そして虹色の魔力光が見られてしまう。
それにより、俺が聖王の、彼女のクローンであるという事が知られてしまうのだ。
「――にしても、お前が急に家に来た時は驚いたぞ。手伝って貰うなんて言って来て」
「今回の事件は、この前のものと同等……いや、其れ以上の規模に成るかもしれないからな。どうか力を貸して欲しい」
「と言うか、そうせざるを得なくなるだろうな。ハハッ」
逃げる様にして話を切り替える。
これ以上、深く追求されるのは此方としては困るのだ。
なのはの気と魔力が小さくなり、ヴォルケンリッターが逃げた直後にクロノと志蓮が訪ねてきたのだ。
志蓮の方は前世での知識があるから問題は無かったが、クロノの方は大分と焦り、何処か複雑な気持ちを抱いている様な表情をしていた様に感じた。
「其れにしても、慌て過ぎだったよ。あの時のお前は」
「仕方無いだろう、君の方でも何か問題が起きなんじゃないのかって思って……」
「ありがとな、心配してくれて」
「――べ、別に心配している訳じゃ……」
素直にお礼を言うが、クロノはそれに対して顔をひどく紅くする。
どうやらクロノは真っ直ぐにお礼を言われるという事に耐性が無い様だ。
「うん。流石若いね、もうリンカーコアの回復が始まっている。ただ、暫くは殆ど魔法は使えないから、気をつけるんだよ」
意識が回復すると同時に、なのはは担当の医者による体内に存在するリンカーコアの検査を受けていた。
彼の言っている通りに、彼女のリンカーコアは回復へと向かって大きくなっていっている。だが、現段階では殆どの魔法が使えず、使用が出来るのは初歩的なものである身体能力の強化や念話などくらいだろうか。
「はい、有難う御座います」
なのはの検査が終了すると同時に、ドアが開いてフェイトとクロノ、そしてゾイルと俺を含めた4人が部屋に顔を覗かせる。
医者は執務官であるクロノとゾイルに用件があり俺達に聞かれたくないのか彼等は別の場所へと移動していった。
「ああ。ハラオウン執務官、ゾイル特務執務官、ちょっと宜しいでしょうか?」
「はい、何でしょう?」
「こちらへ」
「わかった……」
「フェイトちゃん……」
「なのは……」
お互いに暗い表情をしているが、それも一瞬で消え失せて笑顔になる2人の少女。
「あの、ごめんね。折角の再会がこんなで。怪我、大丈夫?」
「ううん……こんなの全然。それより、なのはは?」
「私も平気。フェイトちゃん達のおかげだよ! 元気元気!」
気丈に、そして相手に心配をさせまいと振る舞う2人。
その言葉、そしてその姿は見聞きしている俺の心に重くのしかかって来るものがある。
あんな体験をしてしまい、それがトラウマにならない方が可怪しい筈なのに。
そんな素振りを見せる事も無く、なのはは再会した事に対して大きく喜び振る舞う。
「フェイトちゃん……? フェイトちゃ――っ!」
「――なのは!」
それでも暗い顔をしているフェイトに対し、なのははベッドから降りて近づこうとする。
だが病み上がりだという事もあり体勢を崩してしまうが、フェイトが直ぐに抱きとめる
「ごめんね。まだちょっとフラフラ」
「うん……」
「助けてくれて有り難う、フェイトちゃん。それから、また逢えて凄い嬉しいよ」
「うん……私も……なのはに逢えて嬉しい」
互いの無事を確認するかの様にして抱き合う2人を見て、俺は静かに部屋を出た。
「どうして……」
どうしてあんな笑顔を見せる事が出来るのだろうか。
今の僕には理解出来ない。
「もし俺が……もし俺があの時ちゃんと居れば……。もし俺がなのはと同じ様な目に合ってしまったら……」
もしとか、たらとか、ればとか……。
そんな事を考えても限が無く、際限無く頭の中に湧き出て来るだろう。
「……強いな、ほんとうに……」
「行くぞ、ブロン」
「……ああ」
医者との会話を終えたゾイルが此方に話し掛け、その言葉に従って後を追いかける。
今の僕には、周りにある全てのものがいつもよりもとても大きく、遥か遠くのものに感じられた。
医務室から出てメンテナンスルームに入ると、其処には映しだされているキーボードをうっているユーノ、そしてアルフと雄介、志蓮、ドゥームが居た。
彼等の前には特殊なポッドが存在していて、傷ついてしまった魔導の杖達――レイジングハートとバルディッシュがその中で修復を受けている。
「――あっ!」
「なのは! フェイト!」
その後直ぐに、なのはとフェイトも入室をして来る。
「ユーノ君! アルフさん!」
「なのは、久し振り!」
「なのは」
「皆、久し振り!」
無事に再会が出来た事に感謝をし、再び笑顔を見せるなのは。
ユーノとアルフも無事であり、そして元気な様だ。
「バルディッシュ……ごめんね。私の力不足で」
「破損状況は?」
「正直、あんまり良く無い。今は自動修復を掛けてるけど……基礎構造の修復が済んだら、一度再起動して、部品交換とかしないと」
「そうか」
ユーノの報告に対してクロノの応える声は重苦しいもののように感じられる。
修復作業に入っている自身の相棒を見て、なのはとフェイトの顔に陰りが出る。
雄介と志蓮もまた戦闘時の事を思い出しているのか、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「ねえ、そう言えばさ……あの連中の魔法って何か変じゃなかった?」
「あれは多分、“ベルカ式”だ」
「ベルカ式?」
聞き慣れない言葉に、アルフは聞き返す。
「その昔、“ミッド式”と魔法勢力を二分した魔法体系だよ」
「遠距離や広範囲攻撃は、ある程度度外視して対人戦闘に特化した魔法で、優れた術者は騎士と呼ばれる」
「確かに……あの人、ベルカの騎士って言ってた」
思い出すのは剣を手にしたポニーテールの騎士。
フェイトは彼女の言葉と実力を思い出す。
「最大の特徴はデバイスに組み込まれた“カートリッジシステム”って呼ばれる武装。儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間で気に爆発的な破壊力を得る」
「危険で、物騒な代物だな」
「成る程ね……」
「いっぱい頑張ってくれてありがとね、レイジングハート。今はゆっくり休んでてね」
『だが、あの竜人は何だ? 魔法を使ってはいる様だったけど魔法陣が出てないし、カートリッジを使った痕跡も……』
『確かに、な……彼奴は、奴は一体……転生者であるという事は予想出来るけど……』
雄介と志蓮は、自分達が相手をしていた竜人の姿を思い出す。
竜の様にガッシリとした身体をしていて、羽虫の様に素早い挙動をしていた。
そして、攻撃をしてくる際に発生するであろう筈の魔法陣が出ていなかったのだ。
『魔法陣の出ない特殊な魔法なのか……それとも、レアスキルか』
『はたまた、俺達同様に特典によるものか……』
『ブロンはどう思う?』
『さてな。其奴を実際に見てみないと理解らない』
雄介と志蓮の話を聴く限りでは思い当たるものが幾つか存在している。
だが、確証が無い為に言葉に出した通りに目で確かめるしか無いのだ。
「フェイト……そろそろ面接の時間だ」
「うん……」
「なのは……それに君達も。ちょっと良いか?」
「ユーノ君、アルフ……」
「エイミィ」
自動修復機能を使っている為に、そしてなのは達が行ってしまった為に特にする事が無くなってしまったユーノとアルフ。
2人は休憩として自販機で買った缶ジュースを飲もうとするその時、後から聞き覚えのある声を耳にする。
「レイジングハートとバルディッシュの部品、さっき発注してきたよ! 今日明日中には揃えてくれるって」
「有難う御座います」
「でね……さっき、正式に今回の件がうちの担当になったの」
「え? でもアースラは今、整備中じゃあ?」
「そうなんだよね……」
上司であるリンディとの会話の時に予想していた通りの結果になってしまう。
事件が起きている現場に急行し、その犯行をしている人物を実際に目の当たりにしたのだからそうなっても仕方が無いかもしれないだろう。
だが、アルフの言う通りアースラは今整備を受けている最中だ。
実際に捜査を行うのだとしたら、現場で急造の前線基地の様なものをつくり、整備が終わるのを待ちながら、少人数で行動しなければならないだろう。
「あ! そうだ、クロノ君知らない?」
「なのはとフェイトと雄介達と一緒に面接だって」
「何か、管理局の偉人だそうですけど」
「へええ」
「失礼します」
「クロノ、久し振りだね。ゾイル特務執務官殿も、お久しぶりです」
「ご無沙汰しています」
「ああ」
応接室の自動ドアが開き、俺達はクロノとゾイルの金魚のフンの様に後ろを付いて行く。
目の前には男性が1人立っている。
此方に気づくと同時に彼は、俺達に椅子に座るように促し、人数分の紅茶を用意し始めた。
「“保護観察官”と言っても。まあ形だけだよ。リンディ提督からは先の事件や君の人柄についても聞かされたしね。とても優しい娘だと」
「有難う御座います」
男性の言葉に、フェイトは下を向き、照れながら礼を述べる。
「グレアム提督はクロノ君の指導教官だった人なんだよ。“歴戦の勇士”……1番出世してた時で艦隊指揮官、後に執務官長だったかな」
「滅茶苦茶偉い人じゃん!」
エイミィはカタカタとキーボードを叩きながらクロノ達が会っているであろう人の説明をしていく。
その人物説明に、アルフは思わず大きな声を出して驚いてしまう。
「うん。でも良い人だよ。優しいし」
「なのは君、雄介君に志蓮君、そして歩栄君は日本人なんだね。……懐かしいなあ、日本の風景は」
「え?」
「私も君達と同じ世界の出身だよ、イギリス人だ」
「え!? そうなんですか?」
「あの世界の人間の殆どは魔力を持たないが、稀にいるんだよ。君達や私みたいに高い魔力資質を持つ者が。魔法との出会い方までそっくりだ」
目の前で喋っている男性――ギル・グレアムは目を細め、昔を懐かしみながら言葉を続けていく。
「私の場合は、助けたのは管理局の魔導師だったんだけどね。もう50年以上も前の話だよ」
助けた相手は違うが、その経緯の殆どが似通っている事を知り、なのはは思わず口を開けて驚いてしまっている。
「フェイト君、そしてドゥーム君、君はなのは君達の友達なんだね?」
「はい……」
「約束して欲しい事は1つだけだ。友達や自分を信頼してくれている人の事は決して裏切ってはいけない……それが出来るなら、私は君達の行動について何も制限しない事を約束するよ。出来るかね?」
「はい、必ず」
「うん、良い返事だ。まあ、この事はフェイト君とドゥーム君だけでは無く、君達にも当て嵌る事なんだけどね」
フェイト達兄妹へと確認をしながら、グレアムは俺達へと視線を向けながら口にする。
彼の言葉は、俺達へ向けてのものだと同時に、自身に対してのものでもある様に感じさせる。
俺は出されていた紅茶を飲み、なのは達と退出をする。
「提督、もうお聞きかもしれませんが、先程、自分達がロストロギア闇の書の捜索捜査担当に決定しました」
「そうか。君達が、か……言えた義理でも無いかもしれんが、無理はするなよ」
「大丈夫です。急事にこそ、冷静さが最大の友。提督の教え通りです」
「そうだったな」
「では……」
クロノは報告を済ませ、軽く会釈をすると同時に部屋を出、その場を後にした。
部屋には、俺達を見送ったグレアムと、冷えてしまった紅茶の入ったティーカップが8人分と、空になったティーカップ1つが机に置かれているだけだった。
「親子って、リンディさんとフェイトちゃんとドゥームさんが?」
「そう、まだ本決まりじゃ無いんだけどね。養子縁組の話をしてるんだって」
上昇を続けているエレベータの中でなのはと雄介、そしてエイミィはテスタロッサ兄妹とハラオウン親子についての話をしていた。
「“プレシア事件”でフェイトちゃんとドゥーム君……親が居なくなっちゃったし」
プレシア事件――“プレシア・テスタロッサ事件”。略称は“PT事件”。
フェイトとドゥームの親であるプレシア・テスタロッサが起こした事件の名称だ。
次元震を起こして、次元空間の先にあるというアルハザードへと向かう。そして、実の娘であり、ドゥームとフェイトの姉に当たるアリシア・テスタロッサを蘇生させる為に起こしたもの。
表向きは、だ。
実際のところは、外道衆と呼ばれる謎の集団に属しているアカマタと自称した存在により煽動され、行動を起こした。
まあ、この事は上層部の人間であったとしても知っている人物は少ない。
そしてまだ、虚数空間に落ちて行ってしまったプレシアとアリシアの遺体は見つかっていない。
「艦長の方から、家の子になる? って。フェイトちゃん達もプレシアの事とかいろいろあるし……今は気持ちの整理がつくのを待ってる状態かな。なのはちゃん的にはどう?」
「うんっと……何だか凄く良いと思います」
「そっか! 雄介君は?」
「別に問題は無いと思いますよ。後ろに誰かが付いくれているというだけでも安心が出来るものですし……家族というのは、大事だと思います」
「でも、そうするとクロノ君……お兄ちゃんですね――フェイトちゃんの」
「そうそう。でも結構気が合うみたいだし、案外良い感じの兄妹かも」
「(流れ的には原作通りかな……ドゥームはフェイトの兄だ。だけど、クロノの方が肉体的な年齢は上で、でもドゥームは精神的には上で……)」
雄介には、ドゥームがクロノに対して「お兄ちゃん」だとか「兄さん」とか呼んでいる場面が簡単に浮かんでこない。
――だけどもし、そんな事になるのなら見てみたい。
想像をすると笑えてしまうが、それも良いのかもしれないと思う雄介だった。
「クロノ」
「――艦長……フェイトとドゥームも一緒か」
「「うん / ああ」」
「今回の事件資料、もう見た……?」
「はい。さっき全部」
「なのは達の世界が中心なんですよね、“魔導師襲撃事件”って?」
「そうね……なのはさんの世界から“個人転送”で行ける範囲に限定されてる」
「あの辺りは、本局からだとかなり遠いですね。“中継ポート”を使わないと転送出来ない」
「アースラが使えないの、痛いですね」
「空いている艦船があればいいんですが……」
「長期稼働が出来る艦は2ヶ月先まで空きが無いって……」
「そうか……」
今のアースラはプレシア事件を解決し、その際に出来た傷や故障箇所などの修理。そして改修作業などを行なっている。
時空管理局本局からなのは達の世界である地球へと向かうにはそれなりに距離があるのだ。次元航行艦があれば中継ポートを使わずに行く事が出来るが、フェイトの言葉通りに今は空きが無い。
更に、中継ポートでは一度に大人数を転送させる事は出来ない。そしてアースラに配属されている殆どのメンバーは整備をしているから、行く事が出来るのは極少数の人数だけだろう。
「というかフェイト、ドゥーム……君達は良いのか?」
「何が?」
「嘱託とは言え、あくまで君達は外部協力者だ。今回の件に迄、無理に付き合わなくても」
「クロノやリンディ提督が大変なのに、暖気に遊んでなんかいられないよ……アルフも手伝ってくれるって言ってるし。手伝わせて!」
「うん……有り難くあるんだが……」
「俺も同じ気持だ。クロノ……俺からも頼む。手伝わせてくれ」
「やっぱり、あれで行きましょうか!」
「あれ?」
重い空気を引き裂く様にして、リンディは予め考えていたプランを実行する事を決意する。
フェイトが疑問に感じて聞き返すが、リンディは「後のお楽しみね」といった感じにただ笑い返すだけだった。
「さて……私達アースラスタッフは今回、ロストロギア闇の書の捜索、及び魔導師襲撃事件の捜査を担当する事になりました。ただ、肝心のアースラが暫く使えない都合上、事件発生時の近隣に臨時作戦本部を置く事になります。分轄は、観測スタッフのアレックスとランディ」
「「はい!」」
「ギャレットをリーダーとした捜査スタッフ一同!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「司令部は私とクロノ執務官、ゾイル特務執務官、エイミィ執務官補佐、ブロン“特務執務官補佐”、フェイトさん、アルフさん。以上3組みに分かれて駐屯します。因みに司令部はなのはさんの保護を兼ねて、なのはさんの家の直ぐ近所になりま~す」
そのリンディの言葉に、なのはは満面の笑みを浮かべる。
フェイトとアルフも、彼女同様に驚きと喜びを感じていてた。
「話は以上です」
「では、各自――」
「――って、ちょっと待って下さい!」
それぞれの分轄についての話を終えて解散をしようとするその時、なのはと雄介、志蓮、フェイト、アルフ、ユーノの6人が声を上げる。
「ブロン特務執務官補佐って……」
「どういう事だよ!」
「どうって……言ってなかったっけ?」
「「「「「「言ってないっ!!」」」」」」
声を揃えて否定をしてくる彼女等に、思わずたじろいてしまう。
「悪かったな」
謝罪をするも、なかなか「許さない」といった態度を取る彼女等に狼狽えている俺を、リンディとエイミィの2人は面白そうに、クロノを含めた他のアースラスタッフは「大変そうだな」といった感じに見ていた。
「リンディさん、クロノ、ゾイル……エイミィさんも。会って欲しいヒトが居るんだけど。なのはとフェイト、ドゥーム、そしてユーノとアルフもだ」
「会って欲しいヒト?」
今後の方針についての話を終えた後、彼女等に頼みをする。
既に解散をしていて、他のスタッフは居ないのだが。
「志蓮、
「ああ、わかった」
「
頷くと同時に、
彼の背後に金色の光が出現し、辺り一体を包み込む。
「此処は?」
「
「
なのはの質問に応える志蓮。
周囲が光りって限りが無い空間の様に、前後と上下の感覚が狂いそうになる。
だが、足が床らしきものに着いている点と背後にドアがある事により辛うじて感覚を保つ事が出来ている。
「相変わらず可笑しな場所だな」
「先に進むぞ」
足を進める俺に従う様にして後を追いかけて来るみんな。
横や上の方には無数の棚が存在し、其処には槍や剣などの武器を始めとした物騒なものが保管されている。
代わり映えのしない異様な空間に加え、その中に置かれている無数の魔法兵器。
それが、余計にこの空間の異質さを際立たせている。
「何て魔力なの……」
「こ、これは……全部ロストロギア相当のものじゃないか! こんな危険なものを個人が所有して良い筈が……いや、此れ以上は言わないでおこう」
「助かる」
「ドア……?」
「ああ、開けるぞ」
開くと同時に視界が大きく変化する。
「此処は一体……?」
「神殿だよ、神様たちの居る場所」
「神殿!? 神って……いや、何だ……この大きな魔力は?」
「言ったろ、神だって」
宮殿の中から漏れでている気と魔力は俺からするととても小さなものに感じられる。だが、他のメンバーからすると大きなものに思えるのだろう。
「ちょ、勝手に入るのは――」
中に入ると、其処は以前に来た時と同じ様にしてパーティーが行われていた。
「「「「「「「「――え!?」」」」」」」」
中の様子に驚きを隠せずにいるなのは達。
「あ、久し振りだねー!」
一瞬にして天照が跳び抱きついて来る。
「久し振りと言う程時間は経っていない。と言うよりも離れて下さい……」
「ええ、良いじゃん? 減るもんじゃないし。それとも、意識してるのかなぁ~?」
腕に抱きつくようにして密着をしてくる彼女に、俺はただただ冷静に言葉を紡ぐ。
だが、彼女はその言葉とは反対により強く胸を押し付けてくるなんて事は無く、すんなりと離れる。
「で、どうしたのかな。迷えるヒトの子等よ……?」
「一応、あんた等と話しておかないとなんて思ってな」
「えっと、ブロン君。そのヒトは?」
「紹介が遅れました。此方は――」
「――地球の神の1人、天照大御神です」
俺の紹介に割って入る様にして、自己紹介をする天照。
彼女は一瞬にして、巫山戯た態度から威厳のある神としての態度へと切り替えてみせる。
発せられている威圧感と魔力、そして大きな気によってなのは達は勿論だが、リンディを始めクロノ達も体を強張らせてしまう。
「その辺にしてやれよ。怯えちゃってるじゃないか」
「オーディン……」
奥の方からゆっくりと歩いて来るその男は北欧神話で最高神を務めている神。
神とは云え、下界の人による文化に毒され――俗に染まってしまったからなのか、とてもラフな格好をしている。
簡単に言ってしまえばシャツと短パンといった風な感じだ。
「さてと、本題に入らないとな。この前もそうだったけど、また地球の危機が迫っている」
「ほう……」
「その地球滅亡を回避する為に、この人達に助力をして貰おうと思ってな」
リンディ達を紹介し、この先に起きるであろう事を予想しながら話を進める。
「今回起きるであろうものの規模は多分だが、前回の比では無い。とても大きな被害が……地球全体に大きなダメージが出るかもしれない」
「ヒトだけでは無くて他の生命も……人のつくりだした文化、そして何よりも地球自体が……それどころか、最悪の場合は宇宙全体が滅んでしまう可能性もある、と」
「ああ、その通りだ」
その天照の口にした確認に対し、もともと張り詰めていて重かった空気がより重く苦しいものになってしまう。
「そ、そうだ! 地球の神の1人って事は他にも居るの? いえ、居るんですか?」
機転を利かしたのか空気を変える様に大きな声で質問を投げかけるエイミィに対し、オーディンは応える。
「勿論他にも居る。無数に、な。八百万の神と言ってな……これは日本人の方が知っているか。まあ、800万どころじゃ無いんだがな」
「何処をどう見ても居ないけど」
「下界に降りて遊んでいるのよ。下界には娯楽が多いからね……私達の文化は停滞をしているわ。いつからこんな風になってしまったのかしら……」
「日本で言う昭和の最後辺りからじゃないか」
「えっ!? そんな最近だっけ?」
アルフの言葉に対し、怒る素振りすらも見せずにあっけらかんといった感じにして応える天照。
愚痴る天照を、オーディンはやれやれといった感じにして宥めている。
「取り敢えず、だ。大きな戦闘が繰り広げられる事になるだろうけど――」
「――大丈夫よ。気にせず好きなだけやっちゃいなさい。ある程度の被害が出るのは覚悟しているし……私達がやんちゃしていた時と比べると、ね」
「そう言ってくれると助かる」
俺達は天照とオーディンの2人と別れ、時空管理局の一室へと帰還する。
部屋の中に戻り時計を見ると、1時間程度で話を済ませる事が出来た様だ。
「ビックリしたわね。神様に逢えるなんて」
「貴重な体験をしたね、クロノ君」
「何で僕に言うんだ、エイミィ」
「あれ? ブロン君、その周りに浮いているのって何?」
なのはの質問に、周りのみんなも俺へと視線を向ける。
そこには、俺を中心にして玩具の様なものが浮かびグルグルと周っているのだ。
「“
「へぇ……こんなものがあったのか」
「志蓮、お前が驚くなよ」
「で、ブロン君……折神って何?」
「簡単に言うと式神の様なものだ」
「式神……?」
「ああ。ミッドチルダにはそいう云ったものが無いのか」
聞き返してくるクロノ達に頷きながら説明を始める。
「何て言えば、説明すれば良いのかな。荒ぶる神とか、神霊とか、様々な不思議現象を起こす超人的存在だとか……」
「えっと、具体的には?」
「モヂカラの塊の様なもの、だな」
「で、この赤いのは?」
捕まえて手の平に乗せると同時に変形を繰り返していく折神。
そのうちの一体を指差して、フェイトは質問をする。
「獅子折神だ。ライオンをモデルにしたものだな」
「こっちの青いのは?」
「龍折神」
「それじゃあ、こっちは?」
「亀折神だ。緑色のは熊折神で、黄色のは猿折神」
「それじゃ、それぞれで準備を始めましょうか」
話を切り替える様に手を叩き、リンディは指示を始める。
それに従ってエイミィとクロノは動き始め、ゾイルは部屋から出て行った。
「地球へ行く準備を始めるから、少し待っていてね」
「はい」
「わああ! 凄おい! 凄い近所だ!」
「本当?」
「ほら、あそこが私ん家」
ベランダに出て、自身の家のある方向を指さすなのは。
なのはとフェイトは外を見て、楽しそうにしている。
準備を終えて地球へと転移を済ませた俺達は一旦それぞれの家へと戻った。
リンディ達は戸籍などを偽造し、フェイト達がPT事件時に使用していたマンションの一室に住む事に。そして、他の局員等の協力の元で荷物を運び込み、今に至る。
「ユーノ君とアルフは、こっちではこの姿か?」
「新形態、子犬フォーム!」
「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと」
「君等もいろいろと大変だね」
彼等の姿は文字通り動物である獣のものへと変わっている。
アルフは子犬へと。PT事件での時の姿をそのまま小さくしたものと同じだ。
ユーノの方もまた、その事件時と同じでフェレットの姿をしている。
「アルフ、ちっちゃい! どうしたの?」
「ユーノ君もフェレットモード久し振り!」
「可愛いだろう?」
「うん」
小さなアルフを抱きしめるフェイト。
アルフはフェイトの顔をペロペロと舐める。
なのはもフェレットモードのユーノに対し、頬ずりをしている。
ユーノは少し戸惑い、そして照れている様だ。
『可愛い娘に頬ずりして貰えて役得だよなあ、ユーノ君よお!』
『そ、そんな事言われても……』
雄介の誂いの言葉に、ユーノは固まってしまう。否定をしないところを見ると、満更でも無く、そして悪くはないと思っているのだろうか。
志蓮の方はなのはとユーノを見て、今にも血涙を流しそうな勢いを醸し出している。
面白そうだからという理由で踏み台をわざわざ演じているとはいえ、彼女に対して好意を抱いていない訳では無いのだから仕方が無いのかもしれない。
「なのは、フェイト……友達だよ」
「「はーい!」」
クロノの呼びかけになのはとフェイトの2人は笑顔で玄関の方へと駆けて行く。
俺と雄介と志蓮、ドゥームも彼女等を追いかける様にして向かった。
「こんにちは!」
「来たよ!」
「アリサちゃん! すずかちゃん!」
出入口であるドアから、アリサとすずかが顔を見せる。
「始めまして…て言うのも何か変かな」
「ビデオメールでは何度も会ってるもんね」
「うん。でも逢えて嬉しいよ。アリサ、すずか」
「うん!」
「私も」
「フェイトさん、お友達?」
奥の方からリンディさんが姿を見せる。
「こんにちは。すずかさんにアリサさん、よね?」
「はい!」
「私達の事」
「ビデオメール見せて貰ったの」
「そうですか!」
「良かったら皆でお茶でもしてらっしゃい」
「あ、それじゃあ家のお店で!」
「そうね……それじゃ、折角だから私もなのはさんのご両親にご挨拶を。ちょっと待っててね」
そう言いながら再び奥の方へと戻り、準備を始めるリンディ。
「綺麗な人だね」
「フェイトのお母さん?」
「えっと……その……今は、まだ、違う……」
アリサの質問にフェイトは顔を赤くしながら小さな声で応えた。
「ユーノ君、久し振りだね」
「キュ、キュウ」
「何かあんたの事、どっかで見た事ある気がするんだけど。気の所為かな?」
フェレット状態のユーノを優しく撫でるすずか。
横の方ではアリサが膝の上に子犬フォームのアルフを乗せながらじっと見つめている。
アリサの言葉にアルフは不味いと思ったのか、ピクリといった感じに身体を小さく震わせる。
「お前が保護した犬の子供だよ」
「ブロン君」
「そっか……なら似てるのも仕方無いか」
なのは達とは少し離れた椅子と机で俺達転生者組は集まってジュースを飲んでいる。
俺の言葉にアリサは納得をしたのか、これ以上の追求はしなかった。
「そんな訳で、これから御近所になります。宜しくお願いします」
「ああ、いえいえ。こちらこそ~」
「どうぞ御贔屓に」
喫茶翠屋の中ではなのはの両親である士郎と桃子、そしてリンディが挨拶をしている。
話自体は他愛も無い内容だろう。だがまあ、その殆ど――8割近く、いや9割が嘘で固められているみたいだが。
「ドゥーム君が4年生……そしてフェイトちゃんは3年生ですよね? 学校はどちらに?」
「はい、実は……」
士郎の質問にリンディが応えようとするちょうどその時、店のドアが開かれる。
「リンディ提……リンディさん!」
「はい、なあに?」
呼び方を間違えそうになるが、すんでのところで呼び直すフェイト。
それに対し、リンディは何事も無い様にして応える。
「あの、これ……これって……」
「転校手続き取っといたから、週明けから、なのはさん達のクラスメイトね」
戸惑うフェイトとは対照的に、リンディはいたずらが成功した者に似た表情をしている様に見える。
まさに「してやったり」と言った感じだ。
「あら、素敵!」
「聖祥小学校ですか。あそこは良い学校ですよ。な、なのは?」
「うん!」
「良かったわね、フェイトちゃん」
「あの、えっと…はい……有難う御座います」
フェイトは照れ、顔を隠す様にして制服の入った箱を抱きしめた。
「ロストロギア闇の書の最大の特徴は、そのエネルギー源にある。闇の書は魔導師の魔力と魔導資質を奪う為に、リンカーコアを喰うんだ」
「なのはちゃんのリンカーコアもその被害に?」
「ああ、間違い無い。闇の書はリンカーコアを喰うと収集した魔力や資質に応じてページが増えていく。そして最終ページまで全て埋める事で――」
「「――闇の書は完成する」」
「ゾイル特務執務官」
モニターには、先の戦闘後でヴォルケンリッターが逃げる際、補足をしようとした時に捉えた映像が映し出されている。
「やっぱり君は知っているんだな」
「……ああ。だいたいのロストロギアについての知識は
「完成すると、どうなるの?」
「少なくとも、碌な事にはならない」
「果たして鬼が出るか、蛇が出るか……それとも龍が出て天変地異が起きるか……」
「まあ、碌な事にはならないだろうな」
「はい、はーい、エイミィですけど」
《あ、エイミィ先輩、本局メンテナンススタッフのマリーです》
必要なものは出し、片付けをしていると通信が入り、そちらを優先するエイミィ。
モニターには眼鏡を掛けたタレ目の少女が映っている。
「何? どうしたの?」
《先輩から預かっているインテリジェントデバイス2機なんですけど……何だか変なんです》
「え?」
《部品交換と修理は終わったんですけど……エラーコードが消えなくて》
「エラー? 何系の?」
《ええ。必要な部品が足りないって。今、データの一覧を送りますね》
「あ、来た来た。 え? 足りない部品って……これ?」
《ええ……これ、何かの間違いですよね?》
その送られてきたデータにはこう記載されていた。
――エラーコードE203 必要な部品が不足しています エラー解決の為の部品、“CVK-792”を含むシステムを組み込んでください。
《2機共、このメッセージのまま、コマンドを全然受け付けないんです。それで、困っちゃって》
「レイジングハート、バルディッシュ、本気なの?」
CVK―792 ベルカ式カートリッジシステム。
今回の事件の発端であり、そして相手である彼等ヴォルケンリッターのデバイスに組み込まれているもの部品。
――お願いします。
それは、レイジングハートとバルディッシュ両機の覚悟とも解釈出来るメッセージであった。
生存報告。
読んでいる人はいないだろうけど、幻想入りだとか神隠しのようにしてフェードアウトをするつもりはありません。
書き続けます。
でも、リアルの方でいろんな事情が絡み合い、此れまで以上にスローペースになる模様。
2ヶ月か3ヶ月に1話位の遅さになると思います。