「あいつらのデバイス……」
都市部上空で飛行魔法を使い浮いているヴィータの目には、デバイスの起動を成功させて、バリアジャケットを装着し終えた2人の少女の姿が映っている。
ヴィータはその少女等の姿を視認して少し驚いてしまっていた。その理由は主に2つ存在している。
先ず1つ目は魔力だ。
2人の少女等のうちの1人は前回の戦闘時、撤退前にリンカーコアから出来る限りの魔力を抽出し、募集をした筈なのだ。
だが、そのような様子を見せる事も無くデバイスを構え悠然と立ち、此方を見据えている。
成長途中故の回復速度の速さだと言えば、無理矢理にでも理解と納得をする事が出来るかもしれない。
そして2つ目の理由だ。彼女等の手にしているデバイスと着用をしているバリアジャケットが前回と比べて、微細ながらも変化をしているのだ。
そういった理由などから驚いているのはヴィータだけでは無かった。
隣に居るザフィーラは勿論、クロノを始めとした管理局員等も同じ。
クロノはあらかじめ話を聞いていた筈なのだが、そうであっても驚きを隠せずにいた。
だがそういった中で、ゾイル1人は驚くと言うよりも、「遂に来たか……」といったふうにして顔を綻ばせている。
【Assault form, cartridge set】
【Accel mode, standby, ready】
デバイス――再会した相棒である“レイジングハート・エクセリオン”と“バルディッシュ・アサルト”――を起動させたなのはとフェイトの2人。
彼女等の手にしている
それぞれの柄の部分に、レイジングハート・エクセリオンにはマシンガン型のカートリッジシステムである“CVK792-A”、バルディッシュ・アサルトにはリボルバー型のカートリッジシステムである“CVK792-R”が搭載されている。
そしてバリアジャケットだ。
パッと見たところ、これと言って変更された箇所は無いと思えるだろう。
だが、変化している場所は複数存在している。
先ずは、なのはの方だ。
詰め襟状のインナースーツ、肩部にはフィールドジェネレータである赤い宝石の追加、袖部には青いクラブが追加されて上半身を中心とした防御性能が強化されている。
次にフェイトの方だ。
見た目の方はなのはのものと比べて変化した部分は少なく、大きく変化はしていない。変化した部分を強いて挙げるのであれば左腕部、そして足回りに装甲が付いている事だろうか。それにより防御の強化はピンポイントに止める事が出来、魔力消費の増加を抑えた上で元来の高速機動を存分に生かせられる。
「新しいシステム……」
「これって――」
《――カートリッジシステムさ!》
バリアジャケットの展開と装着を終了させたなのは達2人の横に、突如として空間モニターが出現する。
そのモニターには、彼女達の知る男性――ブロンの兄であるマッドの姿が映し出される。
当のマッドは「ドヤァ」と言わんばかりの笑顔を浮かべており、その声は上ずっている。
その顔と声から察するに、相当に嬉しく自信があるのだろう。
「カートリッジ、システム……?」
《既に知っていると思うが、君達の相手であるヴォルケンリッターが使用しているデバイスに搭載されているシステムと同様のものと言って良いものだ》
「それって危険なんじゃ」
マッドの言葉を聞き、彼女等はメンテナンスルームでの一連の会話を思い出す。
――“ベルカ式カートリッジシステム”。
薬莢に込められた圧縮魔力を開放し、デバイスないし自身の身体能力や使用魔法の威力を上昇させるなどといったふうに使用をする事が出来る。
だが、その効果が大きい分だけ反動もまた大きく強い。未成熟かつ幼い彼女等のその身体には、大きなダメージと負担は計り知れないものになる事は理解と想像をする事が出来るだろう。
それはヴォルケンリッターの使用しているものと同じシステムや管理局が使用している旧式のカートリッジシステムであれば、の話しだが。
《安心し給え。改良に改良を重ねて、危険度の低下と安全性の向上性をある程度計ってはある》
「そうなんですか……」
《だがそれはある程度というだけだ。無茶な使用を重ね続けるとデバイスにも、君達の身体にも大きな負担が掛かるだろうから気を付けなさい》
「「――はい!」」
「強装型の捕獲結界……ヴィータ達は閉じ込められたか」
「そうみたいだな。だが、脱出は出来なくても、そんじょそこらの魔導師には負けはしないだろう」
「ああ。ベルカの騎士は1対1で負ける事は、余程の事が無い限り在り得ないだろう」
管理局武装局員の数名が展開し、補強をしている結界の外。
シグナムと竜人はヴィータとザフィーラからの連絡が途絶えた事に気付き、この場に駆け付けたのだ。
管理局の武装局員等による強化され続けている為に、生半可な攻撃などではその結界に傷を付ける事が出来ないだろう。
【Wählen sie aktion!】
「レヴァンティン……お前の主は、此処で引く様な奴だったか?」
【Nein】
「そうだ、レヴァンティン。私は、今までもずっとそうして来た」
シグナムの足元に魔法陣が展開され、レヴァンティンからカートリッジである薬莢が1つ排出され、刀身が炎を纏う。
彼女の足元にある魔法陣。それはなのは達が魔法を行使する際に出るものとは別のものだ。
彼女等2人が使う魔法のプログラムである術式はミッドチルダ式で、内部に二重の正方形を持つ真円形をしている。
だが、シグナムやヴィータが使う魔法により出て来る魔法陣は正三角形のフレームと、その頂点および内部に円形の小型魔法陣が組み合わさっている。
「俺もこの結界をぶち破るのを手伝おうか?」
「いや、私1人で十分だ」
その言葉と同時にレヴァンティンを振りかざし、結界を斬り裂いた。
「私達は、貴方達と戦いに来た訳じゃ無い。先ずは話を訊かせて」
「闇の書の完成を目指している理由を――」
「――あのさぁ、ベルカの諺にこう云うのがあるんだよ。“和平の使者なら槍は持たない”」
上空に居るヴィータとザフィーラに対して質問をするなのはとフェイト。
だが、当然その質問に対して正直に答える訳は無く、ヴィータはそれを一蹴する。
「話し合いをしようってのに、武器を持ってやって来る奴が居るかバカ! って意味だよ。バーカ!」
「いきなり有無を言わさずに襲い掛かって来た娘がそれを言う?」
「それに、それは諺では無く、小話の落ちだ」
「うっせー。良いんだよ、細かい事は」
なのはの反論、そしてザフィーラによる冷静な指摘に、ヴィータは拗ねる様にして顔を背ける。
「ププッ」
「間違えてやんの」
「――其処、聞こえてっぞ!」
なのは達達2人の後ろに居る雄介と志蓮は思わず吹き出し、笑い出してしまう。
そんな彼等に対して、ヴィータは殴りに行こうとする。
だが、それと同時に結界の上部に当たる部位に大きな魔力の波動が流れ、剣の騎士と竜人が乱入をして来る。
「結界の中に入って来たか。あの竜人……」
前回の戦闘を思い出したのか、それともその身体から滲み出ている魔力を感じ取ってなのか。雄介は竜人を見た瞬間に、思わず身体を震わせてしまう。
「雄介君、志蓮君、ドゥーム君、ユーノ君、クロノ君、ゾイル君……手、出さないでね! 私、あの娘と1対1だから」
『アルフ、兄さん……』
『どうした? フェイト?』
『私も……彼女と……』
『ああ……』
『わかった』
『私も野郎に、ちょいと話しがある』
なのはを始め、フェイトもアルフもそれぞれの相手であるヴィータ、シグナム、ザフィーラを真っ直ぐに見つめ、貫いている。
それは、先日の戦闘での雪辱を晴らす為に。交戦した事のある自分が――という考え。
そして、最短で、真っ直ぐに、一直線に相手に向かって、話を訊く為に。
「クロノ、ユーノ!」
「何、雄介?」
「お前達は、もう1人の方と闇の書の主を捜せ。連中は見たところ、闇の書を持っていないみたいだからな」
「だが、君達は――」
「――此奴の相手が出来ると言うなら、交代しても良いが……?」
雄介と志蓮、ドゥーム、ゾイル、クロノ、そしてユーノ等の目の前には竜人が静かに立っている。
その様子から見えるのは先日の戦闘で勝利した事による慢心か、それとも負ける事は無いという余裕と絶対の自信から成せるものか。
竜人の大きな身体から放出されている魔力はかなりのものであり、その魔力に気圧されてゾイル以外は後退んでしまう。
目の前に居る竜人は厄介である事は自明の理であり、何とかしないと駄目なのは理解出来る。
それと同時に、闇の書を所持している者を確保する必要があるという事も理解出来ているのだ。
「わかった。無理はするなよ」
「了解した、執務官殿」
クロノとユーノは結界の外へと転移をすると同時に、竜人の魔力が先程よりも大きく膨れ上がる。
「君は行かないの、ブロン君?」
「ちょっとした理由で、前線に出る事は出来ないんです。まあ、非常時になれば別ですが……」
「そっか~。でも、驚いたよ。突然連絡が入って来て、必要なCVK―792が2個、タイミング良く送られてくるんだもん」
《それはすまなかったね。ブロンは私の弟だからね。その友人の助けになるんだから、手を貸すのは当然だろう》
「有難う御座います。お陰で発注をする必要が無くなりましたし」
《それは良かった。送った甲斐があったというものだ》
駐屯所で、俺とエイミィはモニターを通して戦闘の様子を観ている。
モニターは2つあり、1つは戦闘の様子を。そしてもう1つはマッドの顔を映している。
睨み合う両組を見つめながら、助けに行きたいという気持ちを必死に抑えていた。
【Master, please call me “Cartridge Load”】
「うん。レイジングハート! カートリッジ、ロード!」
【Load Cartridge】
【Sir】
「私も、だね。バルディッシュ……カートリッジ、ロード!」
【Load Cartridge】
デバイスからカートリッジがロードされ薬莢が排出され、なのはとフェイトの魔力が増大する。
その増大した魔力は、彼女等を守るオーラの様にも見えるかたちで放出されている。
「デバイスを強化して来たか……気を付けろ、ヴィータ」
「言われなくても!」
彼女等のデバイスとその様子を見て、その瞬間だけで前回のものと比べられない程に力が増している事を瞬時に見抜くシグナム。
ヴィータは頷くと同時に、自身の標的だと決めたなのはの元へと移動をする。
「結局、やんじゃねえかよ」
「私が勝ったら、話を訊かせて貰うよ! 良いね!?」
「やれるもんなら、やってみろよ!」
【Schwalbefliegen】
【“Axelfin”】
飛んで来る鉄球を、上空へと移動する事で回避するなのは。
それを予測していた様に、ヴィータはなのはへと向けかって突っ込んで行く。
「アイゼン!」
【Explosion. Raketen form】
カートリッジをロードして、グラーフアイゼンは強襲形態であるRaketenformに変形する。
「――ッ!」
【“Protection Powered”】
回転をしながら向かって来るヴィータの攻撃を、レイジングハートは自信の意志で魔法を発動し、防御をする。
「――堅てえっ……!」
「本当だ!」
そのProtectionは、名称にPoweredが付いているというだけあって強化されており、今までのProtectionを遥かに凌ぐ防御力を誇っている。
グラーフアイゼンのスパイクである部分とぶつかっているProtection Poweredは、火花を散らしながらも弾こうとする程の堅さで、なのは自身でも驚く程のものだ。
噴射口から出る推進剤が増加し、威力を増大させるが、それでもProtection Poweredを破るという事が出来ない。
【“Barrier Burst”】
展開しているProtection Poweredを爆発させて、なのはは爆風と衝撃に逆らわずに、従うようにして距離を取る。
だが予想した攻撃とは別のものだったのか、油断をしていたのか。ヴィータは爆風に煽られ、ダメージを受けて吹き飛ばされる。
【Let's shoot it, “Accel Shooter”】
「アクセルシューター!」
【Accel Shooter】
「シューット! ――!」
「――っな!?」
発動し、発射すると同時に両者は大きく驚愕し、驚きを隠せなかった。
如何せん、数が多いのだ。
その数は生半可な、並の魔導師では出す事も出来ず、例え優秀な部類に入る魔導師であろうともその全ての魔力弾をコントロールをするという事は至難の業だといえる程のものだ。
それを、魔法と出会い数ヶ月しか経過していない筈の少女が実現させているのだ。
彼女のなかに大きく深い魔法の才能がある事を嫌でも理解させてくる。
【Control, please】
レイジングハートの言葉に従い、なのはは目を瞑り、20ものAccel Shooterを操作する為に強く集中をする。
1つ1つのAccel Shooterがなのはの周囲を囲い、円を描くようにして飛行し待機している。
「アホか。こんな大量の弾、全部制御出来る訳が――」
なのはの放ったAccel Shooterが移動し、そう言うヴィータの周りを包囲する。
周囲にあるAccel Shooterは常に動いており、隙があるようで殆ど無いといえるだろう。
そこから抜け出す為に迂闊に動けば、逆に当たってしまう可能性がある。
【It can be done, as for my master】
ヴィータは鉄球を操作し、なのはへと向けて攻撃をする。
が、その鉄球は4つのAccel Shooterにより粉砕されてしまう。
「――そんな!?」
「約束だよ。私達が勝ったら、事情を訊かせて貰うって。アクセル……」
【Panzer hindernis】
ヴィータは20もの魔力弾を見事にコントロールしてみせた事に驚きを隠せない。
だが、ヴィータは即座に気を取り直して自身を中心にして、赤色の防御魔法が展開する。
その装甲障壁は、多面体の形をしていて全方面からの攻撃を防ぐ事が出来るものだ。
「――シュート!」
なのはの掛け声と同時に、残りのAccel Shooterである6つのAccel Shooterは、Panzer hindernisを叩く様にして当たっていく。
フェイトとの戦闘時の時に使用したそれよりも魔力を注ぎ込んではいるが、Accel Shooterに内包されている魔力の方が多い上に強いのか、当たった箇所から次々とヒビが入っていく。
お互いのデバイスがぶつかり合い、込められていた魔力が火花となって周囲に飛び散る。
ぶつかり合っては離れ、再度接触をする。
それを何度も繰り返していくフェイトとシグナム。
高速で動く彼女等は、各々の魔力光の色の線を上空に描いていた。
その様は、遠くから眺めていると闘いによるものの光とは思えない程に綺麗なものだ。
【“Plasma Lancer”】
バルディッシュの補助により、生成される金色の発射体と魔力弾。
その数は16と多く、これもまた彼女の成長とバルディッシュの強化による結果だろうか。
それだけでは無く彼女自身の実力と才能があってこそというのもあるだろう。
「プラズマランサー……ファイア!」
発射された魔力弾を、シグナムはレヴァンティンに炎を纏わせて強く振るい、それを弾き飛ばす。
「――ターン!」
が、フェイトの命令と同時に飛ばされたPlasma Lancerは向きを逆転させ、再びシグナムの方へと向かって行く。
「……レヴァンティン」
【“Sturmwinde”】
飛来してくるPlasma Lancerに対し、シグナムは魔法による高速移動で上昇する事により回避をする。
【“Blitz Rush”】
Plasma Lancerの速度が上がり、回避を選択したシグナムを追い立てる様にして迫っていく。
シグナムは、避けるという行動を止め、レヴァンティンに纏わせてあった炎を、飛んで来るPlasma Lancerへと飛ばして相殺する。
全てのPlasma Lancerを撃ち落として直ぐ、シグナムの背後に、フェイトがバルディッシュを手にして近接攻撃を仕掛ける。
【“Haken Form”】
【“Schlange form”】
それぞれのデバイスが、カートリッジをロードして変形していく。
バルディッシュは魔力刃の付いた斧に、レヴァンティンは幾つもの節に分かれた蛇腹剣――鞭状連結刃へと形を変える。
お互いの攻撃は命中し、大きな爆発を起こす。
それと同時にして、距離を取る彼女等。
フェイトの左腕には2つの擦り傷が。
シグナムの方は、バリアジャケットを抜いて胸に擦り傷が出来ている。
「強いな、テスタロッサ……それに、バルディッシュ」
【Schwert form】
【Thank you】
「貴女とレヴァンティンも……シグナム」
【Danke】
「此の身に成さねば成らぬ事が無ければ、心躍る戦いであった筈だが……仲間達と我が主の為、今はそうも言ってられん」
Schwert formと戻ったレヴァンティンを、鞘へと納刀し、構え直すシグナム。
それと同時に彼女の魔力が増大し、足元に古代ベルカ特有の形である三角形状の魔法陣が展開される。
「殺さずに済ます自信は無い。此の身の未熟をゆるしてくれるか?」
「構いません。勝つの、私ですから」
「デカブツ、アンタも誰かの使い魔か?」
「ベルカでは、騎士に仕える使い魔とは呼ばぬ! 主の牙、そして盾――守護獣だああ!!」
「おんなじ様なもんじゃんかよお!」
お互いの魔力を込めた拳と拳がぶつかり合って、その度に大きな衝撃波が発生する。
それは道路を形成しているコンクリートを捲り上げ、周囲のビルの外壁にヒビを入れて、次々と剥がしていく。
「(状況は、余り良くないな……)」
「戦闘の最中に考え事かい!?」
絶える事無く迫り来るアルフの拳を、ザフィーラは右に左にといなし、躱していく。
上空では、なのはとヴィータが、シグナムとフェイトが戦闘を繰り広げ、花火の様に魔力による光を明滅させている。
「…………」
なのはとフェイト、アルフの3人を見送り、更にクロノ等2人と別行動を選択した転生者組。
目の前には、大きな身体をした竜人が存在し、立ち塞がっている。
その存在と魔力はかなり大きく、幾重にも重なり固く閉ざされた難攻不落の城壁のように堅く思えてくる。
「悪いけど、今回は俺に譲って貰うぜ」
「おいおい志蓮……この前の戦闘を忘れたのか? 彼奴は相当に出来るんだぞ。ゾイルを除いた俺達による総掛かりで抑える事が出来るかどうか――」
「――大丈夫さ」
心配する雄介の言葉に、志蓮は余裕を感じさせる顔をして応える。
「何か策でもあるのか?」
「策なんてもんは無い。此れっぽちも無い。一切無い。存在していない」
ドゥームの質問に、志蓮は呆れ返ってしまう位に大きな声で返事をする。
「無策で突っ込んで、どうにか成る相手じゃ――」
「――やらせてやれ」
ゾイルの言葉に、雄介とドゥームは黙り込む。
「ありがとよ」
ゾイルに礼を言いながら竜人の前へと進み、強く睨み付ける。
「ゾイルとの模擬戦の時もそうだったけど、嫌だったし、な……。だけどよお、今のままじゃあ同仕様も無いって事だけは理解出来るぜ。認めるよ。今の俺では、お前に勝てない。勝機なんてものは無いって、ハッキリと理解出来る」
「…………」
「だからよ……使わせて貰うぜ。“憑依経験”をよお」
「――な、何だ!? いつの間に?」
「見えなかった。ゾイルは見えたか?」
「ああ。ハッキリとは言えないが、見えた。目で追う事は出来た……目で追う事は、な」
竜人は、一瞬にして雄介達の目の前に建っているビルへと吹き飛ばされ、その巨躯を埋まらせていた。
志蓮は鎧を装着している。それは超サイヤ人の放つものと同じ程の輝きを放ち続ける金色の鎧。
そして、手には紅と黄色の2つの槍――“
鎧は彼自身の身体の大きさに合わせたものへと変化している。
だが槍の方は長く、
「知ってるか? “ランサー”の“サーヴァント”っていうのは最速のサーヴァントらしいぜ。まあ、俺はサーヴァントじゃ無いけどな。それでも、その英雄達に迫る程の速さを出す事が出来る。――付いて来れるか?」
「…………」
再び、瞬きをしてしまったのかと疑わざるを得ない程の速さで移動し手にした槍に依る刺突攻撃を次々と繰り出していく志蓮。
志蓮の身体から、大きな魔力と気が。そして握られている長さの異なる2つの槍からは禍々しい程の膨大な魔力が発せられている。
その槍から出ている魔力は、この結界内に居る全員が認識出来るだけのものであり、更に外で結界の維持をしている局員達にも感じ取れるだけのものだ。
「うっかり結界に当てないようにしないとな。少しでも掠ってしまえば、解除されてしまう。あかいあくまのうっかりみたいな事に成らないように細心の注意を払って――」
その槍に依る攻撃が、竜人の身体を掠めていく。
竜人の身体は魔力で構成されているのか、一瞬だけ乱れる。
その竜人の変化に気を取られて、志蓮の動きが止まる。
その隙を逃さずに、竜人は一瞬にして距離を取り、2対の砲身から無数の魔力弾をマシンガンの様に連続で発射をしてくる。
「――見えるっ!」
音速で飛んで来る魔力弾を、志蓮はそれぞれの槍に当てていく。
弾き飛ばされた魔力弾はなのは達の間を抜いて行き、結界の端々へと飛んで行く。
結界の壁である部分に当たると同時に、結界は大きく揺れる。
「クソッ。あの槍による攻撃の魔力余波が」
「見えない、見えないぞ。畜生」
「馬鹿野郎! 目で追うのでは無く、気で追え!!」
志蓮の攻撃の1つ1つがかなりのものであり、槍が竜人の身体に当たると同時に強く大きな衝撃が疾走る。
「流石に手を抜いては要られない、か……」
「何?」
志蓮から距離を大きく取り、竜人は口を開く。
竜人の身体は映像が乱れる様にして、不安定な状態だ。
だが、少し魔力を込めるだけで直ぐに安定して元の姿に戻る。
「この状態のままでケリがつけばと思っていたが、そうそう上手くいかないみたいだな。転生者が相手であれば尚更」
「今の今まで、ずっと手を抜いていたってか?」
「そうだとしたら……?」
先程の志蓮への意趣返しなのか、竜人は挑発的に言葉に出す。
「俺には、この形態以外にも他の姿がある。1つはスピード重視の形態。これは、俺自身でも未だコントロールが出来ていない。動く身体に対して、目で捉えて判断するという脳の働きが追いついていないからだ」
話しながらも、竜人の体内から魔力が漏れ出して来る。
その魔力はバーコードの様な形と成って、竜人を覆い隠していく。
「そして、もう1つ。全体的な能力を向上させた姿。いや、
バーコードが大きくなり、それと同時に魔力も増大する。
隠れていた竜人の身体が現れ、そして変化した姿が志蓮達の視界に入る。
脚と肩、そして腕部は黒い装甲で覆われ、所々に金色の装飾が成されている。
腕の先である、手の甲の部分と脚には金色に光り輝く大きな3本爪が。
胸は、緑色の装甲が無くなり、代わりにと言っては何だが、白と赤の2色をした竜の顔の様なものがある。
尻尾と手、そして顔は青色で、金色の冠の様なものを冠っている。
背中の羽は赤色へと変色し、大きく成っている。羽と言うよりも翼だと言った方が正しいだろうか。
そして、その身体の大きさだ。四肢は伸び、5m程度だった身長はその10倍は超えており、目測で60mもの巨躯と成った。
「――な、何だよ……あの大きさは……」
「大きさだけじゃ無い。魔力もそうだ」
「何なの、あれ……?」
「し、知らねーよ……此方が訊きてえくらいだ」
「あれは……!」
「……大きい」
その変貌を、志蓮と雄介達だけでは無く、なのはやフェイト、そしてヴィータとシグナム達も目にし、驚きを隠せないで居た。
「図体がでかく成ったな。まるで、外道衆みたいだぜ。ま、的が多く大きく成ったと思えば良いの――」
言い終える前に、志蓮は結界の端近く迄、吹き飛ばされる。
竜人がその大きな腕を振るった所為か、結界内に暴風が発生する。
その風は余りにも強く凶暴で、飛行していたなのは等に戦闘を中断させ、空中に浮かんでいながらも体勢を崩させる程のものだ。
「し、志蓮!」
「今度こそ、俺にも見えなかった。奴は予想以上にパワーアップしている」
「此れじゃあ、
その大きさと強さを目にして、雄介は唾を飲み込み、喉を鳴らす。
唾が出て来るだけの水分がある筈なのに、口の中はカラカラと乾き、渇いている様な錯覚が存在していた。
「ド、ドラゴンだっていうなら、俺の……」
「無理はするなよ、トカゲ野郎。話を聴く限りじゃ、あの前の形態とでさえ、対等に渡り合えなかったらしいじゃねえか。辞めとけ。その方が賢明だ」
「く、くそっ……」
ドゥームのその指摘に対し、雄介は強く口を閉じる。
何も言い返せないのだ。
前回の戦闘で、実際に敗北をした。そして、今回でも勝てる見込みが、可能性が全くと言っていい程に無く、想像をする事すらも出来ない。
更に、前回の戦闘で竜人は力の一部しか見せなかった。
今回も少ししか見せていないのだとしたら。他にも、何かを隠しているのだとしたら。
そんな不安が押し寄せて来て、雄介はドゥームに反論をする事も前に出る事も出来なかった。
『シグナムやヴィータ、そして竜人が負けるとは思わんが……此処は退くべきだ。シャマル、何とか出来るか?』
『何とかしたいけど、局員が外から結界を維持してるの。私の魔力じゃ破れない。シグナムのファルケンか、ヴィータちゃんのギガント級の魔力を出せなきゃ……それよりも上の魔力が必要かも』
結界の外では、緑色の騎士甲冑を着込んだ女性――シャマルが、闇の書を手にして中の様子を伺っていた。
だが、彼女の言葉の通りに、結界は局員の手によって維持し、補強されている。中の様子を覗く事や入る事は出来ても、破るのにはそれ相応に膨大な魔力が必要なのだ。
『2人とも、手が離せん。やむを得ん。あれを使うしか』
『理解ってるけど、でも……』
ザフィーラの言葉に対し、躊躇いを見せるシャマル。
「そらそらそらっ」
再び龍人の懐へと潜り込んで、槍による連撃を行う志蓮。
だが、龍人は反撃や避けるという行為すらもせずにただ立っているだけだ。
「――なっ、硬てえ!?」
龍人に当たった槍は跳ね返され、大きく体勢を崩してしまう志蓮。
そんな大きな隙を見逃す事無く、龍人はその大きな拳で志蓮を殴り飛ばす。
「ぐわあああああああ」
槍をクロスさせて防御をしたが、その防御の上から結界端にあるビルへと吹き飛ばされる志蓮。
志蓮は崩れたビルの瓦礫の中から何とか身体を起こして、抜け出す。
「(速い……それに、かなりのパワーだ。そして何よりも硬い。まるで)……まるで、身体を強化させずに岩盤を殴り付けた様な……。って、何言ってるんだか」
口から出ている血を手の甲で拭い取ると同時に、手にしている2本の槍を見る。
「――な……!?」
手にしているその2本の槍――
折れた
そして、着用していた鎧には大きなヒビが入っていた。
「おのれ……――おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれ……!!!」
身を灼き尽くし、焦がしてしまうかと思えてしまう程の激情と怒りが込み上げる。
理由なんてものは理解が出来ず、知ろうという意志は無い。
だが、目の前に存在している龍人は許せないという抗い難い程に大きく強い感情が自分というものを支配しようとしている事だけは自然と理解をする事が出来た。
だが――。
「(……
何故か急に、唐突にして冷静に、そして平常時通りの感情の振り幅が戻る。
それは頭の上から強烈に冷えた水である冷水を掛けられたかのようであり、一瞬にして先程の強いものは消え失せていた。
逆に、今度は冷静に。そして、目の前や現在置かれている状況などがクリアに見え、感じ取る事が出来る。
「そ、そんな……借り物だってのに……。クソっ」
瓦礫の上に立ち上がると同時に、背後に
その折れた槍を
「どうすっかな……相手は龍人だ。龍人……龍、か。なら……」
背後で光り輝いている
「(“
柄には青い宝石が嵌められており、空で戦っているなのは達の魔力弾の光に照らされてキラリと輝く。
少し魔力を込めると刀身と柄は眩い光を放つ金色へと変色をする。
それと同時に、大気を震わせる程の魔力が結界内に満ちる。
「憑依経験……」
読み取るのは、この剣を使用していた英雄である“ジークフリート”、そしてこの剣を創り出し使用したであろう神の経験。
それらを読み取り、魔力と気を通して自身の身体に伝え、身体能力と動体視力を一時的ではあるが底上げし強化する。
無理矢理ではあるが、英雄の域へと足を踏み入れる事が出来るのだ。
その
「行くぜ」
地を強く蹴り、龍人の元へと移動する。
その速度はとてつもなく、移動をするだけで衝撃波が、ソニックムーブが発生して周囲の瓦礫を吹き飛ばしていく。
その衝撃波の影響で、脚元や周囲にあったコンクリートの破片が舞い上がって散らばり、更に細かくバラバラになる。
「おらあああああああっ!!」
強風を巻き起こしながら龍人へと斬り掛かり、その身体へと攻撃を当てる。
だが、その刃は当たりはするが、食い込む事もその表面を斬り削ぎ落とすという事も無くぶつかるだけだ。
「(腕が震えてやがる……龍殺しなんだから多少はダメージが通ってくれても良いのによお)……涼しい顔をしやがって」
「終わりか?」
龍人が少し身体を動かすだけで、周りの瓦礫と同時に志蓮は再び結界の橋へと飛ばされてしまう。
「いや、まだだ!」
途中で体勢を立て直し、空中で見えない壁を蹴るかの様にして龍人に向けて跳び掛かる。
「スプレンダーブレード」
龍人は腕の爪から光の剣を発生させ、志蓮の持つ剣にピンポイントでぶつけ、鍔迫り合いを起こす。
「こ、此奴……!」
自身の身体よりも大きな光の剣と手にしている大剣をぶつけ、周囲に火花が散る。
「な、何て正確な斬撃だ……下手をすれば俺の身体は上下に分かれ、さよならしてたぜ」
「なのはとフェイトの奴、善戦してるみたいだな。だが、志蓮の方は……」
「大分苦戦してるみたい」
《それだけ相手が強いという事だ。転生者だから余計に厄介といったところかな》
モニターに映し出されている彼等は戦闘を続けている。
だが、志蓮と竜人を始めとしてなのは等もまたかなりの速さで戦闘を行っている為にサーチャーによる補足が追い付いていない。
残像が走っている様子が辛うじてモニターに映し出されているだけだ。
映し出されてはいないが、雄介とドゥーム、ゾイルは結界内で観戦。
クロノとユーノは結界内外で闇の書を所持している者を捜索している。
「(なのはとフェイト、志蓮も気をしっかりと使ってやがる。それでも勝つ事は出来ないのは相手の地力の方が上だからか。ヴォルケンリッター……。原作と比べて相当に強く成ってやがる)」
「クロノ君達、見つけたかな」
「いや、まだだ。結界外にクロノ等局員以外の気を感じるが、接触はしていないようだ。多分、闇の書を持っている奴だ」
《おや……?》
「どうしたんですか?」
《何か、結界外で大きな魔力と空間の歪みが起きたみたいだが……》
「え、そうなんですか? 此方では全く反応無いのに」
《多分誤作動だろう。一瞬だけだったからね》
マッドの言葉を聞き、俺は気と魔力を探る。
だが、感じ取る事が出来るのは直ぐ側に居るエイミィ、マッド、局員達、闇の書を所持しているだろう人物、なのは達の家族、結界内に居る皆のものだけだ。
「(気の所為だと良いんだが)……!」
「捜索指定ロストロギアの所持、使用の疑いで貴女を逮捕します。抵抗しなければ弁護の機会が貴女にはある」
結界の外で、クロノは緑色のバリアジャケットを着た女性を見付け、その女性へと近付く。その女性の手には闇の書が握られており、この事件の関係者である事だけは確かなようだ。
「同意するなら武装の解除を――」
「――えっ!?」
クロノのその言葉を聞きシャマルは抵抗をするかどうか迷っていると、何処から現れたのか仮面を付けた謎の男がクロノを蹴り飛ばす。
クロノはそのまま向かい側のビルの屋上にあるフェンスへとかなりの速度でぶつかってしまう。
クロノの着用している黒いバリアジャケット、そして“仮面の男”の脚からは煙が発生しており、かなりの速さで繰り出されたものだという事を理解させてくる。
《エイミィ、今のは?》
「わ、理解りません。こっちのサーチャーには何の反応も……何で、どうして?」
その様子は当然、エイミィ等もサーチャーを通して目撃をしている。
だが、その仮面を付けた謎の男は何処からどのようにして現れたのか計測、そして捕捉出来ていなかったのだ。
「貴方は?」
「使え」
「――っ!?」
その仮面の男の言葉に、シャマルは驚いてしまう。
何を使えという意味なのか。傍から見ていたとしても、その言葉の意味は理解できないだろう。
だが、シャマルの方にはそれに対して予想をし、その意味を理解する事が出来た。
先程ザフィーラと念話をし、その際に使うかどうかを悩んでいたもの。
この男は一体何者なのか。
そして、その方法を何故この男は知っているのだろうか。
そういった疑問が頭の中をグルグルと渦巻いていく。
「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」
その仮面の男の言葉で、彼が此方がしようとしていた事を理解しているという事を確信した。
そしてそれにより、目の前に居る男に対しての疑念と警戒心がより一層強くなる。
先程も浮かんだ、何者なのか、何故知っているのか、何が目的で接触をして来たのかという疑問が。
だが、状況がそういった事を考える時間を与えてはくれない。すぐさま決断して行動をするべきだろう。
それでも踏み切る事が出来ない。
「でも、あれは」
「使用して減ったページはまた増やせば良い。仲間がやられてからでは遅かろう」
その言葉を聞き、シャマルは決断をする。
闇の書のなかに存在している魔力の一部を消費し、結界の中に居る仲間を救出する事を。
だが――。
「その必要も、心配もありませんよ」
何処から聞こえたのだろうか。
また、別の男の声が聞こえた。
シャマルも仮面の男も、クロノ、そしてサーチャーを通して観ているエイミィ等もその声の主へと目を向ける。
そこには、明らかに人外だと言える存在が居た。
河童だろうか。
日本には妖怪と呼ばれる人外のものが存在し、そう呼ばれるものの持つ特徴と合致する部分が多い。
鋭く頑丈そうな青白いウ鱗が身体の殆どを覆っており、頭の上には皿のようなものがある。
「お前は……」
その姿を見て、クロノとエイミィ等は大凡の検討をつける。
それがどういった存在なのかを。
そして、何故介入をして来たのかという疑問もまた出て来る。
「何者だ?」
「――え?」
その存在を見て、シャマルと仮面の男は強く警戒をする。
一目見ただけで、目の前の存在が如何に厄介で強い存在かを理解したのだ。
そしてシャマルは、目の前に居る人外と仮面の男が知り合いでは無いという事を知り、更に気を引き締め、警戒をする。
「結界を破壊するのと管理局の魔導師を相手にするのは我々が引き受けましょう」
「貴様は何者だと訊いている!」
河童のような人外の言葉を聞き、仮面の男は強めの語気で再び、その正体について問いかける。
シャマルもまた仮面の男同様に、目の前の異形な存在へに対しての疑問が拭えなかった。
仮面の男同様に何者なのか。
何が目的なのか。
何故、こちらの手助けをするのか。
彼、もしくは彼女には何かしらのメリットが存在しているのか。
目の前に存在している人外はとても異様な存在であり、この人間界において異質な存在であるという事を嫌でも理解させるものを持っている。
「何者か、ですか……。そうですね。外道衆が1人、“水虎”とでも名乗りましょうか」
その水虎の言葉は清流を流れる水のように冷たく、肌に染み込むようにして耳に届いてくる。
「外道衆……?」
仮面の男はオウムのようにしてその言葉を確認する。
仮面の男、そしてシャマルは勿論そんなものを聞いた事は無かったのだ。
そしてそれが、余計に警戒を促してくる。
「――おや?」
「――バインド?」
水虎を始め、仮面の男、シャマルの3人の動きをバインドが封じている。
「ご苦労な事ですね、管理局の魔導師」
「そう思うなら大人しく倒されてくれないか……?」
「残念ですが、それは無理な話です。こちらもこちらで色々としなくてはならないので」
クロノと軽く言葉を交わしながら水虎は、自身の動きを封じているバインドを斬り裂く。
それは水虎自身のものだけでは無く、仮面の男のものとシャマルのものもまた同時に、だ。
「どういうつもりだ?」
「あなたは一体……」
「別に、たいした事はありませんよ。ですが、まあ……。何の目的があってこんな事をするのか。そいう疑問に思っているのでしょう? 今は答えられませんが、そのうちに嫌でも理解るでしょう」
その詳細を語る事無く、水虎はクロノへと目を向ける。
その瞳は、外道衆に属している筈であるのに……いや、属しているからこそだろうか。純粋で、そして何処までも吸い込まれそうな程に深い青色をしている。
「先程、我々と言ったな。だが、貴様は1人だけに見えるのだが」
仮面の男の言葉を聞き、水虎はやれやれといった感じに首を振りながら応える。
「ええ、確かに言いましたよ。我々と、ね」
その言葉と同時に、周囲の隙間という隙間から無数の赤いヒト型の生命体のようなものが湧き出てくる。
「――なっ!?」
誰がその驚愕の声をあげたのだろうか。
辺りのビルの屋上に存在しているスペースといえるスペースに名無し連中が武器を手にしながら立っている。
軽く見積もっても300程は居るだろう。
だが、幸いと言って良いだろうか。
これだけの数が居ながらも、地上に居る人等は気付かずに平常通りに過ごしている。
「よお、外道衆」
「貴方は、確かサイヤ人の」
「サイヤ、人……」
「(サイヤ人? 伝説でしか存在しない筈)」
「ブロン、お前」
ナナシ連中が出ると同時に、クロノの気を頼りにして瞬間移動をしたのだ。
目の前に居る水虎と名無し連中を睨み付ける。
「志葉の一族同様にモヂカラを操るもの……」
親の敵を見るかのように睨み返してくる水虎。
その視線を無視し、ショドウフォンを手にする。
「一筆――っ!?」
筆モードにしたショドウフォンで文字を書こうとすると、何かが飛来して来る。
それを回避しようと試み、成功をするがショドウフォンがその攻撃に当たってしまう。
ショドウフォンは何かに貫かれたように穴が空いている。木製である為に容易く撃ち貫かれてしまったようだ。
「いくらモヂカラを持っていようともそれが使えないと変身が出来まい」
「くそっ……」
壊れたショドウフォンを片目で見やり、思わず舌打ちをしてしまう。
ショドウフォンに出来ている穴から一滴の水が零れ出て、握っている手が濡れる。
「(――水?) ――しまった!」
そちらに気を取られた瞬間、水虎は結界へと手を向ける。すると結界は何かに斬られたかのように切れ目が走り、解除されてしまう。
「――結界がっ」
「解除されたのか……?」
それは結界の中で行われていたなのはやフェイト、シグナムにヴィータ等による戦闘を中断させるには十分なものだった。
『皆、今のうちに撤退を』
『分かった』
シャマルからの念話に返答をし、前に居る相手へと目を向ける。
突然の事ではあるが、そうであっても慌てる事も取り乱す事も無い。
戦いというものは生命のようなものであり、常に変動をし続けている数字のようなものでもある。
突然何か予想していなかった事が起きたとしても可怪しくは無いのだ。
「すまん、テスタロッサ。この勝負、預ける」
「――シグナム!」
「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士……ヴィータ。あんたの名は?」
「なのは……高町なのは」
「たかまちなぬ……なの……ええぃ! 呼び難い!」
「逆ギレ?」
「ともあれ、勝負は預けた。次は殺すかんな、ぜってぇだ!」
「えっと……ヴィータちゃん!?」
それぞれに言葉を交わして、撤退をしていくヴォルケンリッターの面々。
後に残されたのは龍人を始め、クロノとゾイル等を中心とする管理局の部隊、なのは、フェイト、アルフ、ユーノ、雄介、志蓮、ドゥーム。
そして、こちらへと視線を向け続けている水虎率いる外道衆だ。
《状況は?》
「魔力による斬撃? でも、魔力は感知してないし……」
《エイミィ?》
「――ぶ、物理被害はありません。でも、ジャミングされてサーチャーとレーダーが」
サーチャーによる観測を続けていたエイミィとリンディ。
変化した状況に対応して逃げるヴォルケンリッターを追いかけようとするのだが、相手側の方がやはり上手なのか、その方法が使えないように対策をされている。
『なのは、フェイト、アルフ……大丈夫?』
『うん。こっちは大丈夫』
ユーノからの念話を受け取り、戸惑いながらも落ち着いて返事をするなのは。
なのははヴィータが飛んでいった方向を見て、そこからビルの上に居る名無し連中へと目を向ける。
「…………」
「――お、おいっ!」
「止めろ志蓮。今はあっちの方が重要だ」
ヴォルケンリッターの後を追いかけるようにして高速で移動をする竜人。
志蓮は追いかけようとするが、ゾイルの言葉を聞き踏み留まる。
「…………」
「…………」
互いに警戒をしつつ、様子を見合っている。
クロノは後方で局員等に前に出ないように指示を出しつつこちらへ目を向けている。
仮面の男は逃げようとは思うが、迂闊に動いてしまえばどうなるかわからない為に動けないでいるようだ。
「嫌ですね。何ですか、この重苦しい空気は? 別に今直ぐ殺し合いをしようという訳では無いのに」
水虎は、やれやれといったふうにして首を横に振りながらこちらへと目を向ける。
「こちらのするべき事はし終えたので退散をさせて貰いますね。そろそろ水切れも近いですし」
「――待て!!」
そう言いながら、水虎は名無し連中と共に隙間を通って向こう側へと帰っていく。
「…………」
「あの男は何処へ?」
仮面の男もまた姿を消している。
おそらく水虎の方へと注意が向けられた隙に撤退をしたのだろう。
「あいつの気を追えるか、ブロン?」
「……駄目だ。何かに邪魔されてるみたいだ」
嘘だ。
気を追う事自体はどうという事無く出来ている。
ただ、その気が向かった先にある気が問題なのだ。
下手に喋り、動いてしまえば後々の展開にも影響が出て来るだろう。
そんな不安から、又もや嘘を吐いてしまう。
「取り敢えず、此方も撤退か……」
「また、寂しい想いをさせてしまったな……」
家の中から出、外の空気を浴びて頭を冷やす。
「それにしても……お前を助けたあの男と、化物で良いのだろうか? 一体何者だ?」
「理解らないわ。少なくとも当面の敵では無さそうだけど……」
仮面を着けた男。そして異形の存在。
目を閉じただけで頭の中に浮かび上がってくるその姿は異様なものであり、それがどれだけ強烈な印象を与えてくる姿だったのかを理解させてくる。
彼等の目的は一体何なのか。
管理局に対して敵対的とは言えないまでも、こちらを助けるような行動を取ったのだ。
少なくとも、直ぐに敵となりぶつかる訳では無いだろう。
「管理局の連中もこれで益々本腰を入れてくるだろうな。だが、あまり時間も無い」
「……うん」
「一刻も早く、主はやてを闇の書の真の所有者に」
「そうね」
「重ねて言うけど、カートリッジシステムは扱いが難しいの。本来なら、その子達みたいな繊細なインテリジェントデバイスに組み込むようなものじゃ無いんだけどね。本体破損の危険も大きいし、危ないんだけど……」
「確か、ブロンの兄のマッドさんが」
「そう。彼の技術は確かだからね。まぁ、どんなドッキリびっくりシステムが積み込まれてるかわからないけど」
カートリッジシステムはドーピングを行うようなものでもあり、身体とデバイスに多大な負担を掛けるものである、というのが今迄のものだ。
だが、創り出したのが転生者の1人でもあるマッドであるのだから、何かしらこちらの知らない術や方法でそういったデメリットを極力小さくしたものになっていても可怪しくは無いだろう。
それでも、成長途中の小さな身体にとっては大きなものと変わりは無いのだろうが。
「まあ兎に角、危険なものなの。でも、その子達がどうしてもって……。よっぽど悔しかったんだね。ご主人様を守ってあげられなかった事とか、ご主人様の信頼に応えきれなかった事が」
「ありがとう、レイジングハート……」
【All right】
「バルディッシュ……」
【Yes, sir】
「モードはそれぞれ3つずつ。レイジングハートは中距離射撃のAccelと砲撃の“Buster”で、フルドライブは“Exelion Mode”。バルディッシュは汎用のAssault、鎌のHarken、フルドライブは“Zanber form”。の筈なんだけど……」
含みの有る言い方だ。
先程言ったマッドが改良をしたシステムだという事が関係しているのだろう。
「兎に角、破損の危険があるから……フルドライブは成る可く使わないように。……特になのはちゃん」
「――はいっ?」
突然の名指しに驚くなのは。
「フレーム強化をする迄、Exelion Modeは起動させないでね」
「はい」
「問題は彼等の目的よね」
「ええ、どうも腑に落ちません。彼等はまるで自分の意志で闇の書の完成を目指しているように感じますし」
「それって何か可怪しいの? 闇の書ってのも、要はジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるようなもんなんでしょ? だったら、その力が欲しい人の為にあの娘達が頑張るってのも可怪しくは無いと思うんだけど」
アルフの疑問に対し、自身の持つ知識を整理していくクロノ。
そして、自分とアルフの間にある認識の違いを出来る限り埋める為に説明をしていく。
「第一に、闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の効くものじゃ無いんだ」
「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない。少なくとも、それ以外に使われたという記録は一度も無いわ」
「……そうか」
リンディによる捕捉説明も聴き、納得をするアルフ。
「それからもう1つ。あの騎士達――闇の書の守護者の性質だ。彼等は人間でも使い魔でも無い」
クロノの言葉を聴き驚くなのはとフェイト、ユーノにエイミィの4人。
「闇の書に合わせて魔法技術で造られた擬似人格。主の命令を受けて行動をするただそれのだけの為のプログラムに過ぎ無い筈なんだ……」
何だかんだでもう1年間も投稿し続ける事が出来ている。まあ、数ヶ月間空いたりしてたけど……。
三日坊主の自分がここまで出来るなんて思わなかった。