魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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闇の書の呪い 愛する家族の為に

「使い魔でも人間でも無い擬似生命っていうと、わたしみたいな――」

「――違うわ!」

 

 フェイトの疑問の声に対して、リンディは思わず遮るようにして大きな声を出して否定をする。

 

 そんなリンディの様子に、転生者を除いた皆はハッとしたふうにして大声を出した彼女へと目を向ける。

 

「フェイトさんは産まれ方が少し違っていただけで、ちゃんと生命を受けて生み出された人間でしょう?」

「検査の結果でも、ちゃんとそう出てただろ? 変な事を言うものじゃ無い」

 

 リンディは気持ちを落ち着かせ、改めて言葉を口にするが、それでも少し興奮をしているかのように強めの口調だ。

 そこにクロノはそんな彼女達2人に呆れながらもフォローを入れる。

 

「はい、ごめんなさい……」

 

 フェイト・テスタロッサ。

 プレシア・テスタロッサの愛娘であるアリシア・テスタロッサが、事故が原因で死んでしまい、それによって出来た心の隙間にアカマタが付け込んだ事が原因でプロジェクト「F.A.T.E」が発足し、フェイトとドゥームは誕生した。

 遺失世界の遺物であるロストロギアの中に存在していたアダム・プロジェクトに関する資料を見付けたからといってほんの数年間の間にプロジェクト「F.A.T.E」の技術と組み合わせて完成させてしまったプレシアの一途だと感じさせる程に強い想い。

 

 そして産まれ方が違うという点で言うと転生者である俺達もまた同様であるかもしれない。

 他の皆はどうなのかという事は訊いていない為にわからないが、少なくとも死んだ者の細胞を利用して生み出されたという点では俺もフェイトも変わらないだろう。

 

 だが、違う箇所をあげてしまえば、両親が判明している事。

 

 この世界に於ける俺の両親に位置する者は一体誰であり、どのような人物なのだろうか。

 

「ああ! モニターで説明しよっか!」

 

 空気を変えるようにしてわざと大きな声で提案をするエイミィ。

 

 こういった時に、切り替えがしやすくサポートをしてくれる人が居るというのは助かるものだ。

 

 その元気で大きな声に、こちらの考えも中断される。

 

 部屋が暗くなり、空間モニターが展開される。

 

「守護者達は、闇の書に内蔵されたプログラムがヒトのかたちを模ったもの。闇の書は転生と再生を繰り返すけど……この4人はずっと闇の書と共に様々な主の元を渡り歩いている」

「意思疎通の為の対話能力は過去の事件でも確認されてるんだけどね……感情を見せたって例は、今までに無いの」

「闇の書での魔力収集と主の護衛……彼等の役目はそれだけですものね」

 

 そう。

 今まで管理局が調べ集めてきた情報通りであるのなら、それだけなのだ。

 それだけである筈なのだ。

 

「でも、あの帽子の娘――ヴィータちゃんは……怒ったり悲しんだりしてたし」

「シグナムからもはっきり人格を感じました。成すべき事があるって……仲間と主の為だって……」

「主の為か……今まで管理局が集めた情報通りなら、模倣しているだけという事に……」

「あいつ等も俺等もたいして変わらないと思うんだけどな……」

 

 雄介の言葉にクロノは思わず否定をしかけるが、留まる。

 

「俺等の頭、つまり脳だがな……空覚えだけどさ、これは電気信号とかで動いてる筈だぜ。身体がプログラムと魔力で構成されてるか、炭素みたいな有機物で構成されてるかの違い程度……容姿や種族の違いみたいなもんだろ?」

「言いたい事は理解らないでもないが、暴論じゃないか?」

「そうか……?」

「まあ、それについては捜査に当たってる局員からの情報を待ちましょうか」

 

 リンディの言う通り、これからどういった展開を取るのかは情報を得てからしか判断が出来ないだろう。

 

「転移頻度から見ても、主がこの付近に居るのは確実ですし。案外、主が先に捕まるかもしれません」

「ああ、それはわかりやすくて良いね」

「だね。闇の書の完成前なら持ち主も普通の魔導師だろうし」

 

 クロノとアルフ、そしてエイミィの言葉を聴き、思わず慌てふためいてしまいそうになる。

 彼等はこの事件を解決しようとしているだけなのだから、他意は無いだろう。

 だが、こちらとしては知識通りの展開が望ましいのだから、そういった事になってしまうと困るどころではすまないだろう。

 

「あと残る問題は」

「仮面の男と外道衆……」

 

 クロノの言葉を聞き、この場に居る面々は彼等の姿を思い出す。

 

「仮面の男……おそらく魔導師だろう、闇の書を狙っている」

「闇の書を狙う?」

「闇の書を持つ者は大きな力を手に入れる事が出来る」

「でも、それは闇の書の主だけでしょ?」

「ああ。だがそれは、その力を扱う事が出来る者が主だけだという事だ」

「それって……」

 

 どういった事なのか理解らず、頭を悩ませるなのはとフェイト、アルフ。

 

「仮面の男は警戒すべきだろう。だが、もう1つどうにか対処をしないといけないのは」

「外道衆……確か、水虎と名乗っていたか」

 

 あの外道衆もまた、仮面の男同様にヴォルケンリッターを助けるように出て来た。

 

 水虎もまた、彼と同じように闇の書の力を欲しているのだろうか。

 

「何の目的があって、介入を」

「闇の書の力を狙っている……? だが、それをどうやって……」

「兎に角、それも含めて調査をしないといけないわね」

 

 リンディの言葉に反対をする必要も無く、皆同時に頷く。

 

「少し詳しいデータが欲しいな……。ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」

「え? 良いけど……」

 

 クロノとユーノが話している傍らで、俺はこの先どのようにして外道衆と戦うのかという事で頭が一杯だった。

 ショドウフォンには大きな穴が開けられており、使用する事が出来ないのだ。

 

「(本当、どうしようか……)」

 

 

 

『闇の書の主ってどんな人かな?』

『闇の書は、自分を扱う資質を持つヒトをランダムで転生先に選ぶみたいだから……』

 

 月が優しく照らし、ビルなどの人工物から光が出て、人々が行き交っている。

 

 自宅へと帰宅をするなか、なのはは闇の書の主がどのようなヒトなのかを想像してみていた。

 

『そっか……。案外、わたし達と同い年位の子だったりしてね』

『流石にそれは……』

 

 そんななのはの言葉に、雄介や志蓮、そして俺は黙り込んでしまった。

 

 的を得たというのか。感が良く、鋭いというのか。

 

『どうしたの? 3人共黙り込んじゃって』

『いや、何でも無い……』

 

 知識内にある闇の書の主がどういった存在なのかを知っている為に、彼女のその言葉に驚きを隠せない。

 そして、その驚きを表に出さないように耐えているのだ。

 

 ポケットに入っている携帯電話が震え、着信した事を教えてくる。

 

『すずかちゃん、今日は友達がお泊りに来てるんだって』

『そうなの?』

『うん。ほら』

 

 どうやらすずかからメールを着信したようだ。

 一斉送信だったのか、雄介や志蓮、俺の方にもメールが届いていた。

 

 なのははユーノに、そのメールに添付されている写真を見せる。

 

 その写真を見て、俺達転生者組は再び黙りこんでしまう。

 

『八神はやてちゃん。今度、紹介してくれるって』

『へえ』

 

 すずかの横に座る少女。

 見覚えのある顔が写されていた。

 

 

 

「シグナム……はやてちゃん、もう直帰ってくるそうよ」

「そうか」

 

 薄暗い部屋の中に、朝日がカーテンの隙間から射し込んでいる。

 

 シグナムはソファに身を預け、目を閉じがら腕を組み、シャマルの報告に対して静かに頷いた。

 

「ヴィータちゃんは? まだ……」

「かなり遠出らしい。夕方には戻るそうだ」

 

 闇の書に魔力を募集する為に。そしてそれは、管理局に捕まらないように細心の注意を払いながらとなる。

 付近の次元世界では足が付いてしまう為に、そいういった事に気を付けてもう少し離れた次元世界での募集行為に努めているのだ。

 

 そして、離れた次元世界だという事は行きも帰りも相応の時間が掛かってしまう。

 交代をしながらではあるが、休みという休みも無しにそういった事を続けている。

 

 主であるはやての為に。

 

 それが彼女に心配を掛け、寂しい思いをさせてしまっていたとしても。

 それでも彼女を護り、助ける為に。

 

 そう信じて……そう願い……行動しているのだ。

 

「貴女は? シグナム?」

「何が?」

「大丈夫? って……。大分、魔力を消耗してるみたいだから」

「お前達の将は、そう軟弱には出来てはいない。大丈夫だ」

 

 心配するシャマルに、安心させるように優しい声色で応えるシグナム。

 

 その答えは自信の表れか、気遣いによるものか。

 だがそれは、自身に言い聞かせもいるかのように聴こえ、感じられた。

 

「貴女、随分変わったわよね。昔は、そんな風には笑わなかったわ」

「そうだったか?」

「貴女だけじゃ無い。私達全員、随分変わったわ。皆、はやてちゃんが私達のマスターに成ってから……はやてちゃんと竜人(りゅうと)が家族として迎えてくれた日からよね」

 

 

 

「そうですか。御親戚の皆さんと一緒だと良いですね」

「はい。何やこう……毎日無闇に楽しいです」

「素敵ですね」

 

 ノエルが運転をする車の中で、はやては家で自身を中心に繰り広げられている事を話していく。

 

 最初は家に着くまでの間どうしようかと考えてはいたが、いざ話してみると次々と言葉浮かび上がり、気が付けばはやてもノエルも互いに笑い合っていた。

 

「(そうか……皆が来てから、もう半年以上になるんやな)」

 

 揺れる車体に、窓から射し込む陽光。

 

 その陽光は座っているだけのはやてに、強い眠気を発生させる。

 

 動いている車は、まるで乳母車のようだ。

 

 はやては、昨日の事のように思えるそれを、沈む意識の中で思い出していた。

 

 

 

 

 

 6月4日の午前0時丁度、それは起きた。

 

 目の前にある1冊の古い本は、独りでに宙へと浮かび上がり自身を縛めていた鎖を無理矢理に引き千切る。

 部屋の中であるのだから風も起きていない筈なのに、髪が捲れてページが次々と変わっていく。

 

 その様子をただ見ているだけしか出来ないはやて。

 

 何が起きているのか理解が追い付かないのだ。

 どうするべきなのかを考えるだけの余裕が無いのだ。

 

 開かれていたページが閉じ、本が降りて来る。

 

 思わず後退りをしてしまう。

 

 自身の理解の外にあるそれが怖い。恐いのだ。

 

【Anfang】

 

 古びた本から発せられる機械音声。

 それがよりこの場が異様であり異質なものであるか、平和な日常とはかけ離れたものであるかを少女に教えてくる。

 

 浮かんでいる本が光ると同時に、自身の胸もまたそれに共鳴をするかのように光り出す。

 その胸の光は空中へと浮かび上がり、本と自身の中間位置で止まり、それらの光がより強く輝く。

 

 その強烈な光が止み、はやては目を開く。

 

 すると、側には黒いアンダースーツを着用している見覚えの無い4人が自身へと向かって傅いているのが見えた。

 

「闇の書の起動を確認しました」

「我等闇の書の収集を行い、主を護る守護騎士にて御座います」

「夜天の主に集いし雲」

「ヴォルケンリッター。何なりとご命令を」

 

 目の前の出来事が理解出来ず、脳内での解釈と処理もまた追いつかなかったのか。

 意識を手放してしまった。

 

 

 

「はやてちゃん。良かったわ、何とも無くて」

「えっと……すんません」

 

 目を覚ますとそこは病室であり、側にはわたしの主治医である“石田幸恵”先生が居た。

 そうすると、ここは海鳴大学病院やろうか。

 

「で……誰なの、あの人達は?」

 

 無事を認め安心をすると直ぐに、石田先生は小さく手を動かして指をさす。

 そこには見覚えの無い――いや、気を失う前に目にした4人の姿があった。

 

「どういう人達なの? 春先とはいえまだ寒いのに、はやてちゃんに上着も掛けずに駆け込んできて。変な格好してるし、言ってる事は訳分かんないし。どうも怪しいわ」

 

 成る程。

 意識を失ったわたしをここへと連れて来てくれたのはあの4人で間違いが無いのだろう。

 だが、あの格好。黒いアンダースーツだけを着用しているだけなのだから、けったいな格好だと言う他無いだろう。

 それにしても、あの黒いアンダースーツ。

 金髪でショートボブの女性と桃色でロングストレートの髪をポニーテールに纏めている女性。出ているところはちゃんとと出ていて、引っ込むところもまた同じように引っ込んでいる。所謂ボンキュッボンと言えるメリハリのある体型をこれもかと言うくらいに主張をしてきている。

 特にあの桃色の髪の女性。胸が――おっぱいが大きい。

 

「ああ、えっと……。その……何と言いましょうか……」

 

 石田先生の言葉を聴き、どう返答すべきなのか。

 

『ご命令を頂ければ力になれますが。如何が致しましょう?』

 

 戸惑い悩んでいると、頭の中に声が響く。

 頭の中に直接語りかけて来るという表現が正しいと思えるような感じだ。

 

 それに対して、思わず信じられないものを見てしまったかのような顔をしてしまう。

 

『“思念通話”です。心でご命令を念じて頂ければ』

 

 自身の持つ疑問に答えてくれるかのように説明をしてくれる。

 

 目の前の様子を見る限り、思念通話をして来てくれているのは桃色の髪の女性のようだ。

 

『ほんなら、命令と言うよりお願いや』

『――?』

『わたしに話合わせてな』

『はい』

「えっと……石田先生。実はあの人達、わたしの親戚で」

「親戚?」

「遠くの祖国からわたしのお誕生日をお祝いに来てくれたんですよ。そんで、ビックリさせようと仮装までしてくれてたのに」

 

 説明をしながら、改めて彼女等を見遣る。

 

 男の人の頭には何かの動物の耳のようなものが付いていて、それが動いている。

 

 それを見て、思わず顔を引き攣りかけてしまう。

 

「わたしがそれにビックリし過ぎてもうたというか、その……」

 

 気を取り直して説明をし、石田先生へと目を向ける。

 

 赤髪の少女なんて、「何言ってるんや、こいつ」みたいな顔でこっちを見てるし。

 

「そんな感じで……なあ」

「そうなんですよ」

「その通りです」

 

 同意を求めてみると、金髪の女性がこちらの意を汲んでくれたのか肯定をしてくる。

 続いて、桃色の女性もまた同意をする。声からするに、予想通りに思念通話での声はこの桃色の女性で正解やったみたい。

 

 思い付きでもある為に、我ながら苦しい言い訳ではある。

 

 石田先生や他の医師等は何とか理解をしてくれたのか、これ以上追求をせずに部屋を出て行ってくれた。

 

「で、この者はどうなさいますか?」

 

 先生等が出て行くと同時に、目の前に居る誰かへと向けて敵意を向ける4人。

 

 敵意の先へと目を向けると、そこには兄である竜人が居た。

 

「はぁ……ああもう、何度も言っているだろう。俺ははやての兄だ」

「何の目的で主に近付いた?」

「待って」

 

 そのわたしの1言で彼女等4人は大人しくなる。

 まるで、鶴の一声のよう。

 

「わたしの兄で間違いは無いよ」

「シャマル、主が魔法などによる洗脳を受けている可能性は?」

「無いわ。もし私が気付かない程に優れた魔法を使っているのだとしたら……」

「まあ兎に角、ここから出よう、な?」

 

 その提案を受け入れてくれたのか、彼女等4人は部屋の外へと。竜人兄ちゃんは車椅子を用意し、外へと連れてって来れた。

 

 

 

「そうか……この子が闇の書っていうもんなんやね」

「はい」

「物心がついた頃には棚にあったんよ。綺麗な本やから大事にはしてたんやけど」

 

 自宅へ帰宅し、彼女等に闇の書と彼女等自身についての説明や自己紹介をしてもらった。

 

 竜人兄ちゃんが言うには、わたしが誕生した時には既に家にあったとか。

 古びてはいるが、ボロボロになっている訳では無く、状態が良く綺麗だった。

 古本屋に売るつもりは無かったし、気に入ってもいたからずっと手元に置いていたんやった。

 

「覚醒の時と眠っている間に闇の書の声を聴きませんでしたか?」

「う~ん……わたし、魔法使いとちゃうから漠然とやったけど。そいういうのは竜人兄ちゃんの方が詳しいんとちゃうん? 昔から魔法使いだ、とか言ってたし」

「――やはり貴様!」

「魔法使いじゃなくて魔導師、な。で、お前の場合はどうなんだろうな……魔導騎士とでも言うべきか」

 

 敵意を含んだ彼女等の視線も何のそのといったふうに竜人兄ちゃんは答えてくれる。

 

 魔法使いとまどうしってどう違うんやろ? なんて疑問に思えてしまう。

 

「あ、あった。分かった事が1つある。闇の書の主として守護騎士皆の衣食住、きっちり面倒見なあかんいう事や」

「流石はやて。着眼点というか何というか……」

「幸い住むとこあるし、料理は得意や。皆のお洋服買うて来るからサイズ測らせてな」

 

 そう言って先ほど見付けたメジャーを取り出す。

 

 そんなわたしの言葉に驚きを隠せない守護騎士等。

 

 そして横では、竜人兄ちゃんが腹を抱えて笑いを必死に堪えていた。

 

 

 

「騎士甲冑?」

「ええ。我等は武器を持っていますが、甲冑は主に賜らなければなりません」

「自分の魔力で創りますから形状をイメージしてくだされば」

「そっかあ……そやけど、わたしは皆を戦わせたりせえへんから……」

 

 ――騎士甲冑。

 その呼び名の通りに騎士の着る甲冑という事やろうか。

 甲冑っていったら西洋のガチャガチャとしたフルプレートアーマーを思い浮かべるけど、それやと動き辛いやろうし。

 それにやるからにはデザインの方も拘りたいし。

 

 少し頭を悩ませるが、直ぐに思い付く。

 もし一昔の漫画の中に居たとしたら、頭の上に電球があって、光ってるやろ。

 

「服でええか? 騎士らしい服、な?」

「ええ、構いません」

 

 服ならばデザインもしや易いやろう。それに、動き易さも良い筈や。まあ、防御面に難ありなんて事になるかもしれないんやけど。

 

「ほんなら資料探して、格好ええの考えたらな」

 

 

 

「ここは?」

「良えから良えから。こういうとこにこそ、それっぽい材料が」

 

 資料を手に入れる為に来たのは、近所にある玩具屋だ。

 

 横を見てみると沢山のフィギュアやぬいぐるみが棚に並べられている。

 

 そんな中で、一緒に来ていたヴィータは1つのぬいぐるみへと目を向ける。

 兎のぬいぐるみだ。赤い瞳に黒い蝶ネクタイをしており、長いウサ耳は折れ曲がっている。

 そんな“のろいうさぎ”という名前のぬいぐるみをマジマジと見詰めるヴィータ。

 

「ヴィータちゃん、どうしたの? ヴィータちゃん?」

「やっと年齢相応のものになってきたのか……」

 

 

 

「良い風ですね」

「ほんまや」

 

 求めていたものを見付け、買い物は終了。

 

 帰り道を歩いていると、秋風が丁度良い感じに吹いており、木々が揺らめいている。

 

 そんな中、頭の中では「でもこの風、少し泣いています」なんてフレーズが浮かんで来る。

 

「お天気も良いですし」

「絶好のお散歩日和やな。ヴィータ!」

 

 後ろの方では、紙袋大事そうに抱えながら歩いているヴィータが居る

 此方の声に気付き、顔を上げるヴィータ。

 

「もう袋から出しても良えで」

 

 その言葉に隙かさず袋から中身を取り出す。

 出てきたのは兎のぬいぐるみ――店内で気になったのかじっと見続けていたのろいうさぎだ。

 

 ヴィータの顔は見る見るうちに綻んでいく。

 

「はやて、竜人……あり――」

 

 ヴィータはお礼を言おうとするがその言葉を中断して走るようにして後を追いかけて来る。

 

 

 

 はやてはシグナムに抱えてもらいながら庭の方へと出、満天の星空を見上げて感嘆の言葉を口にする。

 

「主はやて」

「ん?」

「本当に良いのですか?」

「何が?」

 

 はやての言葉は優しく、家族を想っている事を感じさせる。

 

 シグナムの方もまた、言葉遣いの方は堅く主従のそれだが、その声からは少し前のものとは比べるまでも無い程にまるく優しいものだ。

 

「闇の書の事です。貴女の(めい)あらば我々は直ぐにでも闇の書のページを収集し、貴女は大いなる力を得る事が出来ます。この脚も、治る筈ですよ……」

「あかんて。闇の書のページを集めるにはいろんな人に御迷惑をお掛けせなあかんねやろ? そんなんはあかん。自分の身勝手で他人(ひと)に迷惑掛けるんは良くない」

 

 そのはやての言葉を聞き、シグナムは少し戸惑う様子を見せる。

 

 これ迄の主であれば喜々としてという程でも無いだろうが、それでも闇の書のページの収集は行って来ただろう。

 だが、今回の主であるはやてはそういった行動をしないと言うのだ。

 シグナムは、はやてが主となって数ヶ月の間でこれ迄の主とは違う事を認識していたが、ここで改めてそれを知り、理解したのだ。

 

「わたしは今のままでも十分幸せや。父さん母さんはもうお星様やけど、竜人兄ちゃんが居るし、遺産の管理とかは叔父さんがちゃんとしてくれてる」

「お父上の御友人でしたか?」

「お陰で生活に困る事も無いし。それに何より、今は皆が居るからな」

 

 そう言いながらはやてはシグナムの身体へ抱きつく。

 

「はやて!」

「どないしたん、ヴィータ?」

「はやて、冷凍庫のアイス食べて良い?」

 

 ヴィータのその言葉に、シグナムは呆れているような感じだ。

 

「お前、夕食をあれだけ食べて、まだ食うのか?」

「うるせーな。育ち盛りなんだよ。はやての御飯はギガ美味だしな」

「しゃあなうなぁ……。ちょっとだけやで」

「おう!」

 

 その言葉を聞いて嬉しかったのか。はにかみながら承諾をするはやて。

 ヴィータも同様に満面の笑みを浮かべて返事をし、冷凍庫の方へと走りだす。

 

「シグナム」

「はい?」

「シグナムは皆のリーダーやから……約束してな」

「はい?」

「現マスター八神はやては、闇の書には何も望み無い。私がマスターである間は闇の書の事は忘れてて。皆のお仕事は家で仲良く暮らす事、それだけや。約束出来る?」

「誓います。騎士の(つるぎ)に賭けて」

 

 はやての御願いに、首肯き応えるシグナム。

 それを見て、腕の中に居る今の主は微笑む。

 

 その笑顔を見て、シグナムは言葉には出さずに改めて誓いを立てる。

 闇の書の今の主であるこの優しい少女とその兄に報い、応えていく事を。

 

 

 

 だが、そんな誓いも、平和な日々も長く続きはしなかった。

 

 

 

「生命の危険?」

「はやてちゃん――」

「ええ。はやてちゃんの脚は原因不明の神経性麻痺だとお伝えしましたが、この半年で麻痺が少しずつ上に進んでいるんです。この2ヶ月は特に顕著で……このままでは内臓危機の麻痺に発展する危険性があるんです」

 

 病状の説明をする石田先生の声は深く沈んでいる。

 

 それを聴いているシグナムやシャマルの雰囲気も暗く、診察室の中の空気は御通夜のように重苦しいものになってしまっていた。

 

「何故……何故、気付かなかった……」

「ごめん……ごめんなさい……。私……」

「お前にじゃ無い。自分に言っている」

 

 謝るシャマルに訂正を入れるシグナム。

 

 はやては元気に、無邪気に笑顔をみせている。

 だが、それは気付かずにいるからか。それとも……。

 

 将でありながら、家族でありながらそれに気付かなかった自分を責めるシグナム。

 強く拳を握りしめながら、それを壁に叩きつけてしまう。

 

 はやてに起きている原因不明の脚の麻痺。それはこの地球で言う病気とはまた別のもの。

 

 ――闇の書の呪い。

 はやてが生まれたその時から共にあった闇の書は、彼女の躰と密接に繋がっていた。

 抑圧された強大な魔力は魔導師の力の源であるリンカーコアの未成熟な少女の躰を蝕み、健全な肉体機能どころか、生命活動すらも阻害してしまっているのだ。

 そしてはやてが――主が第一の覚醒を迎えた事でその呪いの進行度は加速した。

 守護騎士プログラムであるヴォルケンリッター4人の活動を促し維持をする為に、極僅かとは言え、はやての魔力を使用している事に無関係では無い筈なのだ。

 

「助けなきゃ……はやてを助けなきゃ! シャマル、シャマルは治療系得意なんだろ? そんな病気位治せよ!」

「ごめんなさい……どうにも」

「何でだ? 何でなんだよ!?」

 

 闇の書の呪いもまた闇の書のシステムの一部。

 ヴォルケンリッターもまた、闇の書の中の守護騎士プログラムである。

 上位存在や管制人格、管理者などでないとそれを防ぐ事は出来ない。出来る力も権限も持ち合わせていないのだ。

 

 代表するかのように喚き、泣きじゃくるヴィータ。

 今の彼女等はあまりにも無力で、ちっぽけな存在だ。

 

「シグナム……」

「我等に出来る事は余りに少ない……だが」

 

 

 

 とあるビルの屋上で4人の守護騎士等は向かい合い、デバイス(相棒)を握りしめている。

 

 ――はやての躰を蝕んでいるのは闇の書の呪い。

 

 ――彼女が闇の書の主として(まこと)の覚醒をすれば……。

 

 ――その小さな躰を蝕んでいる病は消え去る。少なくとも進みは止まる。

 

 ――はやての未来を血で汚す事は避け、人殺しなどはしない。だが、それ以外であるのならば……何だって出来るだろう。

 

「(申し訳ありません……我等が主、そして竜人。唯一度だけ、貴女との誓いを破ります)」

 

 魔法陣が展開し、シグナムにシャマル、ヴィータは騎士甲冑を纏い、ザフィーラは人間形態へと変わる。

 

「我等の不義理を御許し下さい」

「――何が御許し下さい、だ」

 

 背後から掛けられたその声に、シグナムは驚き振り返る。

 

「竜人……」

「頼む、止めないでくれ。これははやての為に」

「誰が止めるって言ったよ」

 

 溜め息を吐きながら、竜人は4人の顔を見る。

 彼の表情からは諦めなどと同時に呆れなども感じているように思わせるものがある。

 

「俺も手伝う」

「な!? 自分が何を言っているのか理解ってるのか?」

「理解しているね。嗚呼、十分に嫌という程に理解してしまっているね。はやての為に彼奴を蝕んでいる胸糞悪い病気……いや、呪いを解く。その過程で他人様に多大な迷惑を掛け、その結果犯罪者になってしまうかもしれないって事をな」

「ならば何故!?」

「決まっているだろ? 愛する妹の為だ。それ以外に何が要る。どんな答えなら納得する? 俺には十分過ぎるね」

「竜人……」

 

 捲し立てるように、反論させる機会すらも与えないように応えていく。

 救ける事が出来る可能性が少しでもあるのならばそれに縋りたい。しがみつきたい。

 

 そしてそれを4人がやろうとしているのに、自分だけが何もしないというのは嫌なのだ。

 

 力を持っているにも関わらず、自分だけが苦しむはやてを見続けるだけで、4人に負担を押し付けるのが嫌なのだ。

 

「本当に良いのか?」

「くどい! 覚悟は出来ている、とっくに完了しちゃってるんだよ。それにさ、理由は分からないけど感じるんだよ。このままじゃ駄目なんだって。行動しなくちゃ駄目なんだって。(前世での何かがそう感じさせてくるのか? 俺は一体何を知っていたんだ?)」

 

 4人へと真っ直ぐに見詰め返し、笑ってみせる。

 

 愛する妹などのような臭いセリフに照れながらも、その確かな想いをぶつけていく。

 

「理解った」

「――シグナム!?」

 

 了承したシグナムに対し、驚きを隠せないでいる残りの3人。

 

「だが、条件がある」

「何だ? 言ってみろ」

「お前に魔力が――リンカーコアがあるのは理解している。それでも、連れて行く価値があるのか、それだけの実力を持っているのかを確かめさせて貰う」

 

 真っ直ぐにこちらへと向けてくる彼女の視線は研ぎ澄まされた刃のようで、背中を冷や汗が流れていく。

 いや、冷や汗どころか失禁をしていまいそうな程に恐怖を感じさせてくる。

 

「良いぜ、やってやるよ!」

 

 そんな感情を踏み留め、押し殺し、睨み返してみせる。

 

 こんな痛みよりもはやての方が強いものを感じている筈だ。

 こんな恐怖よりもはやての方がもっと大きなものを感じている筈だ。

 

 自分が死ぬという事を微かにでも感じ取り、ハッキリと理解している。

 そして、それを悟られないように必死にして笑顔をみせて隠し通している妹。

 

 主であり家族でもある1人の少女を救ける為に、自身から汚れ役を買って出る4人の家族。

 

「覚悟は良いか? 俺は出来ている」

 




小説だけに限らず、漫画やアニメ・ゲーム・ドラマ・映画などの物語性のあるものは、どれだけ自分が抱えている、持っている妄想やイメージを表現できるか……押っ広らに、押っ広げに、恥ずかしがる事無く出す事が出来るかだと思う。

知識や実力なんていうのは、その後だろうとも思う。
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