魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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転生者同士の和解

 休み時間になり、生徒たちが集まり質問をしてくる。

 

 何処の学校から転校して来たのか、前の学校ではどういった事をしていたのか、何が好きなのかなどなど。そういった沢山の質問が全方向から聞こえてくる。

 

 転校生という存在はとても珍しいもので、クラスメイトである彼等は小さな瞳を興味という名前の光でランランと輝かせ、新しい仲間である俺を映している。

 

 彼等の、彼女等の質問に対して、あらかじめ考えておいた答えを使用して、適当に応え、受け流し、あしらっていく。

 

 それでも絶える事が無いと思えてしまう程の数の質問の嵐が襲って来る。それらはまるで言葉のマシンガンの様だ。

 

 次々と聞こえてくるその質問は、聞き取る事が難しく感じられる。

 

 だが、マルチタスクを使用して、それぞれに意識を割いてみれば、難無く応答していく事が出来るのだ。

 

 それと同時に、周囲を見渡してみる。

 

 隙間からチラッと見えたが、確かに予想通りと言うべきなのか、やけに整った容姿をしている男子生徒が居る。銀髪でオッドアイといった見た目をしているのだ。それと同時に、ワザとなのかは知らないが、膨大な魔力を抑えずに居て、常に放出している。周囲の生徒たちで作られている壁により、しっかりと見据え、注視する事は出来ない。だが、ハッキリとその大きな魔力を感じ取る事が出来る。

 

 教室の外では、他のクラスの生徒達が集まって来ている。そして、この部屋の中を覗いてきている。

 

 「うん、そうなんだよ。……(これは転生者確定だな……難癖を付けられなければ良いんだが)」

 

 周りから押し寄せて来る質問に焦る事無く応対をしていると、何やら前世で嫌という程に読んできたものに似たやりとりが耳に入ってくる。

 

 「おーい、嫁達!!」

 「嫁じゃ無いって言ってるでしょ!!」

 「相変わらず、アリサはツンデレだな」

 「止めろ。嫌がっているじゃないか」

 「あぁ? うるせぇぞ、モブの癖に」

 

 少女等を嫁だと言っているのは、先程から魔力を放出し続けている少年。

 

 止める様にと言っているのは、自己紹介の時に真っ先に視界の中心に入って来た黒髪の少年だ。

 

 テンプレート過ぎて、何故だか涙が出てきそうになる。これは一種の感動というものなのだろうか。

 

 この事から察するに、銀色の少年は“踏み台”と言う存在で、黒髪の少年の方こそがオリ主という存在なのだろうか。

 

 出来得る限りではあるが、関り合いはしたくない。

 だが、その願いは叶わずに、絡まれてしまうんだろうなと思える。覚悟をしておく必要があるだろう。

 

 チャイムが鳴り、次の授業が始まる。

 皆が、自身の席へと着いていく。

 そんななかで転生者と(おぼ)しき2人の少年はしっかりと椅子に座っているのだが、睨み合っている所為なのか、教室内の空気はギスギスとしていて、とても重く感じられる。

 

 

 

 

 午前中の授業は終了し、昼御飯の時間になる。

 

 周囲の生徒たちは、それぞれにグループを作り、弁当を広げて食べている。中には、弁当を持って教室から出て行く生徒も複数人居る。

 

 「(今頃、母さん達はどうしているかな……?)」

 

 前世で小学生だった頃は弁当ではなくて、給食だった。そして、弁当が必要な時は母親が料理し、用意をしてくれていたのだ。そう考えてみるととても恵まれた環境で過ごしてきたのだろう。思い出して、ホロリと涙がこぼれそうになる。

 

 「(俺って、こんなに涙腺が弱い……脆かったっけ……?)」

 

 泣きそうになるのをグッと堪えていると、横の方から少女が近付いて来る。

 

 とても嫌な予感がするのだが、無視をする訳にもいかない。恐る恐るだが、彼女の方へと、ゆっくりと顔を向ける。

 

 「あの……お昼、一緒にどうかな?」

 

 其処には、茶色の髪をツインテールにまとめた可愛らしい女の子が居た。

 

 「(やっぱりな……)」

 「突然でごめんなさい。私、“高町なのは”……なのはって呼んで」

 

 彼女の姿には、ひどく見覚えのある特徴が多数存在していた。

 

 そう……前世の知識内に存在している魔法少女リリカルなのは。その原作とでも言えるアニメの主人公なのだ。

 

 同じ学校に入って、偶然か転生者としての宿命なのか同じクラスになってしまったのだ。このクラスの教室へと入室をした時にでも、こうなってしまう事は考え、想定をしておくべきだっただろう。

 

 「ブロンだ。よろしく」

 「それで、お昼の方だけど……」

 

 おそらく、転校初日なので緊張をしているかもと思い、馴染める様にと善意をもって来てくれたのだろう。

 

 これを断るのは、流石に気が引けてしまう。

 

 「構わないよ。僕で良ければ……君が良いのであればだけどね」

 「よかった。それじゃ、行こう」

 

 これで確実に、否応なく転生者だろう彼等に絡まれてしまうだろう。

 

 弾む彼女の声とは正反対に、俺の気持ちはただただ深く沈み、ブルーな気持ちになっていた。

 

 だが、哀しいかな……前世での記憶の為に、「ゆ、ゆーっ、ユアアーッ!! ユアーッ!!」や「世界一かわいいよ」などと心の中で大きく叫んでしまっていた。

 

 屋上へと向かい。皆が手にしているそれぞれの弁当を広げていく。

 

 「紹介するね。こちら、友達の“アリサ・バニングス”ちゃん」

 「よろしく。アリサで良いわ」

 「よろしく頼む」

 

 どこか照れていながらも、何事も無いかの様に装っている感じに挨拶をしてくれる彼女。見た目としては、綺麗な金髪をしていて、活発そうな女の子だ。強気でグイグイと引っ張っていくタイプの様な感じを与えてくる。こちらも同じ様に前世での記憶の所為なのか、「くぎゅうううううう!」と大きな声で叫びたい心を必死に隠して、こちらも手を差し出して、握手をする。

 

 「こちら、“月村すず”かちゃん」

 「よろしくね。私の方もすずかで良いよ」

 「よろしく」

 

 彼女の見た目は紫色の髪をしていて、こちらもまた綺麗な感じだ。アリサの方とは違い、大人しそうで、物腰が柔らかく、そして人当たりの良い感じをしている。大和撫子の様に、一線引いて行動をするタイプだろうか。

 

 「こちら、“上条雄介”君」

 「よろしく。僕の事は雄介で良いよ」

 「こちらこそよろしく。なら、俺の事はブロンとでも呼んでくれ」

 

 銀髪の少年といろいろと盛り上がっていたもう1人の方の少年だ。見た目としては黒髪黒目をしていて、落ち着いた感じをしている。正しく日本人の男の子とでも言って良い様な容姿だ。高町なのは達と一緒に行動をしているのだ。そこから考えると、早計かもしれないが、転生者の1人だと思える。

 

 自己紹介を終え、仲良く食べ様とするその時。其処に不穏な影が忍び寄る。

 

 「おーい、嫁達。一緒に食べるぞ」

 

 俺が勝手に踏み台転生者だと予想している少年が、銀色の髪を風に靡かせながら近付いて来る。

 

 彼の登場により、高町なのはを始めとした彼女等は、あからさまにして嫌そうな表情になる。

 

 「うん……」

 

 嫌ではあるが、仕方が無い……といった諦めた感じで、彼の言葉を受け入れ、承諾をする彼女等。

 

 それにより、次第に空気が重く鋭いものへと変化していく。

 

 「どけ、モブ」

 

 彼は、彼女等の様子を気にした風を見せる事もなく、涼し気な顔をしながらズカズカと入り込んでくる。

 その彼の言葉の語気はとても強く、それと同時にひどく冷たいものだ。

 視線は鋭く、俺を貫いてくるかの様な錯覚を感じさせてくる。

 

 「(……これが、小学生のする顔なのか?)」

 「聞こえているのか?」

 

 そんな高圧的であり、喧嘩腰な態度を取っている彼に向かい、アリサ・バニングスは強く発言をする。

 

 「ちょっと待ちなさいよ。私達が一緒に食べようって誘ったんだから別に良いでしょ!」

 「そうなのか?」

 

 俺を睨みながらも、高町なのはや月村すずかに確認をするかの様に質問をする。

 

 「うん……そうだよ。私から言い出したの」

 「ダメかな……?」

 

 上目遣いで、彼に対して話をしていく彼女達。

 

 俺は勘違いをしてしまっているのか、彼女等の瞳は小動物のもののようにウルウルとしている様な気がする。

 

 「……仕方無いな」

 

 彼女達は自分の嫁だと豪語しているからこそだろうか。彼は、その言葉を信じて、深く追求をする事も無く、ドカッと彼女等の横に座る。其処が自分の指定席であり定位置だとでも言わんばかりに。

 

 「俺の名前は“神威志蓮”だ」

 「知っているかもしれないが、保和歩栄だ」

 

 握手はせずに、敵意を剥き出しにしながら自己紹介をしてくる。

 

 彼は、こちらには興味が無いのか……というよりも、高町なのは達を凝視している。その顔はニヤけていて、気持ちの悪い感じだ。スタイルが良く、整った顔をしているが為に、余計に残念で、より気持ちの悪いものに感じられた。

 

 もしかすると前世での俺も、顔は兎も角として表情は同じ様な感じだったのかもしれない。

 

 「(転生した初日に襲って来た奴らと比べると大分とマシだな。……道具として、彼女達を扱っていないのも鑑みて……というか、こんな事を考えてしまっている自分がホントに嫌になるな…………)」

 「じゃ、お昼御飯を食べようか」

 

 彼に警戒をしている俺の気持ちを知ってか知らずか、雄介のその一言で、それぞれが御飯の入っている弁当を取り出して、蓋を開いていく。

 

 俺も同じ様に自分の弁当箱の蓋を取り、開く。

 

 中に入っているのは、実に一般出的なものだろう。ウインナーに、たまご焼き。鶏の唐揚げに、ほうれん草のおひたしなどだ。

 

 「美味しそうだね」

 「ありがとう。それなりに考えて入れたからな」

 「作ってもらったのを自分で入れたんだ。偉いじゃん」

 「違うよ。自分で一から料理したんだ」

 「……ふぇえ!?」

 「「「!?」」」

 

 その俺の言葉を聞いて、目を丸くする彼女達。

 

 だが神威の方は、相変わらず気にしたといった様子を見せず、彼女達の方をじっと見ながら食事をしている。

 

 小学生で料理をして、弁当を作るというのはなかなかに大変で、そういった事をしている子供は少ない筈だ。

 驚いてしまうというのは仕方が無い事なのだろう。

 

 「どうした? 鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をしてるぞ」

 「ブロン君……。これ、1人で作ったって本当? お母さんは?」

 

 流石に、1人で暮らしているなんて馬鹿正直に答える訳にはいかないだろう。同情をして欲しいという訳では無いし、そのままを説明すると面倒な事になってしまうだろうから。

 

 あらかじめ用意をしておいた回答を口にする事にした。

 

 「母さんは仕事で朝早くから出かける事が多いんだ。だから、1人でも御飯を作れる様にって休みの日に教えてくれてさ……幼稚園児の頃に、御飯を作るのを手伝ったりしていたからレシピも覚えているし」

 「へぇー」

 「幼稚園児の頃にって。刃物とか危ないじゃないの!」

 

 驚く声を無視して、箸で唐揚げをつまんで口へと運ぶ。

 

 出来たてという訳では無いが、ジュワッとした肉汁が出て、衣の部分がカリッとしている。

 

 ある程度は作り慣れたであろう料理を食べながら、この先にどうなるのか、どうするのかを考えていた。

 

 取り敢えずは、神威によるチクチクと突き刺さるかの様な視線をどのようにして耐えるか。そして、慣れていくのを目標にするべきだろう。

 

 

 

 

 放課後になり、殆どの生徒は帰宅をしていっている。

 

 それは、高町なのはを始めとした3人の少女たちも同じだ。彼女等は塾があるからと言って、走る様にして教室を出て行ったのだ。

 

 そんなこんなで、今の教室には殆ど生徒は居ない。誰も居ないとでも言って構わないかもしれない。

 

 否、誰も居ないというのとは違うだろう。俺の目の前には、2人の少年が居る。上条雄介と神威志蓮の2人だ。その2人と俺を合わせた合計3人が教室の中に残っているのだ。

 

 「結界か……」

 

 どちらの転生者が魔法を使ったのだろうか。

 

 世界は、元居た場所から切り離されて、別の空間になってしまった。景色や、その場に置かれているものは変わらない。だが、先程の教室とは違う異質な空間なのは確かなのだ。

 

 そして、この世界には3人しか居ない。居る事が出来ないのだ。術者によって選定された者以外は、基本的には居る事が出来ないのだから。

 

 「一応聞くけどさ……君、転生者だよね?」

 

 落ち着いた感じの声を出して、雄介は確認をするかの様に質問をしてくる。あくまでも確認の為に、そして気付いているぞ、誤魔化し切れていないぞと言わんばかりに。

 

 「ああ」

 

 顔を上下に振り、肯定の意を示す。別に否定をする様な理由なんてものは無いのだ。

 

 「なのは達にどうこうしようってつもりなら」

 

 彼等2人の目は槍の様に鋭くなり、僅かではあるが俺に対しての敵意が漏れだしてきている。

 

 「そんな気は無いよ……さらさら無いよ……全く無いよ。一片も無い」

 

 志蓮の大きな声での言葉に対し、俺はただ否定をする。

 

 「原作に関わる気は……?」

 

 「自分から進んでする気なんていうのは全くと言っても良いくらいに無い……巻き込まれたりはしない限りだけどね……」

 

 自分から何かをしたいとかしようなんていった考えは全くと言って良いくらいに存在していない。今のところはただただ平穏無事にいきたいのだ。

 

 保和歩栄は静かに暮らしたい。ただそれだけなのだ。

 

 雄介の出した問いに対する答えを聞いて安心をしたのか、彼等はハアァといった感じに大きな溜め息を吐く。

 

 互いの間を走っていた緊張は解け、彼等の瞳には優しい光が宿っていた。

 

 「それじゃあ……改めて、上条雄介だ」

 

 握手を、そして2度目の自己紹介をしていく。

 

 俺達3人の間には、既に敵意というものは無くなっている。そして何故なのか、旧知の間柄であるかの様に、親し気に言葉を交わしていた。

 

 「神威志蓮だ。昼間はすまなかったな」

 

 神威の、その言葉は別に問題は無い。

 だが、彼の態度がいきなりに軟化して、戸惑ってしまう。そうであるのだが、その事に対して予想外だと感じている自分と、予想通りだと感じている2人の自分が居た。

感じていた疑問、そして妙な違和感の正体に気が付き、理解をする事が出来たのだから。

 

 「俺は踏み台を演じているんだ。理由は何と無くだけどさ……言ってみれば楽しそうだから、かな」

 

 彼の言葉を聞いて、理解をした。

 

 気持ちを理解するという事は出来ないが、そういうものなのだと理解し、納得をする事が出来たのだ。

 前世で読んでいたネット小説にも、そういった自ら進んで演じているオリ主達が少なからず居たのだという事を思い出す。

 

 「やっぱりか……。どこか不自然だとおもっていたんだよな」

 「バレてたのか……」

 

 「俺は“滅竜魔法”全般を使う事が出来るんだ」

 

 唐突に雄介は、自身の持つ力を説明し始める。

 

 「何故、話すんだ?」

 「今の転生者の数は、少ない。仲良く、協力しあって生きていくべきだと俺は考えてるんだ。1年前の様な事は勘弁願いたいからな」

 

 暗い顔をして、重い声を出してくる雄介。

 

 彼等もまた、自分と同じ様に、転生者同士で殺し合っていたのだろうか。

 

 「そうだな……だけど、話したら話したで、利用されてポイされたり、弱点を突かれて終わってしまうかもしれないけどな」

 

 そうなのだ。

 志蓮の言う通りであり、そうなっても可怪しくは無いのだ。そうなる可能性の方が大きいのだ。

 

 だが、それを理解した上で話してくれたというのなら、それに応えるべきなのではないのだろうか。

 

 「俺の力は、踏み台らしく“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”と“無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)”だ。本来なら、能力だけだから何も出す事も、“投影”をする事も出来ないけど……特典でいろいろと付け足して、出来る様になってる。因みに、“固有結界”の方はデバイスが無いと展開出来ないから」

 「俺は……」

 

 2人が、自身の持っている力を話してくれたのだ。自分も隠さずに話をするべきなのだろう。

 

 だがそれであっても、そう思っていても口を開く事が出来ない。出来ないのだ。

 

 「話したくないのなら別に……」

 

 言い淀んでいる俺に、雄介と志蓮は気を遣い、話さなくても良いと言ってくれる。

 その言葉に甘え、従い、話さないというのも良いのかもしれない。だが、そうじゃない。それではダメだろう。

 

 彼等の信頼を裏切ってしまう訳にはいかないのだ。

 

 「大丈夫だ。俺の力は……」

 

 黙っているより、話してしまった方が大分と良い結果になるだろう。悪い結果になったとしても、それはそれだ。運が悪かった。そう思えば良いだけなのだ。

 

 「俺は、サイヤ人だ。たぶんだけど、聖王の血も引いている……」

 

 そう言って、変身魔法を一時的ではあるが解除する。

 

 彼等には、金髪に(ロート)(グリューン)の虹彩異色、猿の尻尾が見えている筈だ。

 

 口を開いてみると、次々と言葉が外に出て行く。

 

 その聖王の血を引いているという事、自分がクローンであるという事が原因となって、“聖王のゆりかご”などに利用されてしまう可能性がある事。

 そして何よりも彼女が生まれてこなくなってしまう可能性が発生している事。

 

 サイヤ人という存在は、星や世界を簡単に破壊する事が出来得る程の力を持っている。修行をする事で、誰にでもそういった事が出来る様になる。

 だがその力は、“時空管理局”にとっては“ロストロギア”と同等、もしくはそれ以上の脅威になり得るものなのだ。

 

 「という訳だ……」

 

 説明を終えると、そこには何とも言えない微妙な空気が漂っていた。

 

 だが、お互いの事を少しだが知る事が出来て、ほんの数歩ではあるが歩み寄れた様な気がした。

 

 「さて、と……」

 

 そう言いながら雄介は、“封時結界”を解除する。それにより周りの色は元に戻っていく。

 

 窓の外は暗く、月の光がほんのりと優しく教室の中に射し込んで来ている。

 

 結界内でも同じ様な変化はあった筈なのだが、会話に夢中になっていた所為なのか気が付かなかった。

 

 「もうこんな時間か」

 「解散かな」

 「気を付けて」

 

 そんな短い言葉でやり取りをして、学校から出てそれぞれの自宅へと向かう。

 

 

 

 

 教室には鍵が掛けられていたのだが、魔法で学校の敷地外へと転移をしたのだ。

 

 背中を見せながら歩いて行く彼等の姿を見送っていると疑問が浮かんでくる。皆にはちゃんと家族が居るのかどうかを。

 

 前世での家族の事を想いながら、帰路へと向かって歩を進めていく。

 

 夜風が吹いていて、頬を優しく撫でていく。それがとても心地良く感じて、思わず顔が緩んでしまう。

 

 「午後9時か……もし家族が居るとしたら、遅くまで出歩いていた事を叱られるだろうな。……彼奴等には、今世での家族は居るのだろうか……?」

 

 教室内で確認をした時の時間は午後8時30分だった。

 

 本当に長い時間を話して過ごしていたのだと実感する。

 

 それだけ楽しむ事が出来たのだ。

 それだけ安心をしたのだ。

 自分だけでは無かったのだ。

 

 「…………」

 

 時間が時間なので、人通りというものがとても少なく感じられる。

 

 もし、不審者が出てきたとしても大丈夫だろう。今の俺には撃退をする事が出来るだけの力を所持しているのだから。だが逆に、やりすぎてしまわないかが心配だ。

 

 「ただいま」

 

 自宅へと辿り着き、家の中に入る。

 

 もちろん誰か他のヒトが居るという訳では無いのだから、ともて静かに感じられる。

 

 自分の呼吸音と歩く時に発生する音がやけに響き、ハッキリと聞こえてくる。

 

 「なんだか寂しいな……」

 

 家族というものの事を考えていた所為なのか、その孤独さがとても強く感じられる。

 

「“自動人形”みたいのを創ろうかな」

 

 帰宅した時に、家の中に自分以外の誰かが居るというだけでも、随分と楽な気持ちになるかもしれない上に、和らぐかもしれないのだ。

 

 だが、より一層強い孤独感が襲って来てしまう可能性もあるのだが。

 

 「止そう……所詮は人形だ。人工知能などみたいなものを積めば良いのかもしれないけど面倒だ。つくるのに成功したとしても、制作費に維持費、それに時間がどれだけ掛かるか……」

 

 当分の間は独りなのだと思うと、辛くはある。辛くはあるのだが、我慢をする事は出来る。精神年齢的には既に20を超えているのだから。1人でアパート暮らしをしている様なものだと思ってしまえば、大分と楽なものになる。

 

 もう、子供では無いのだ。肉体に精神が引っ張られてしまっていると思う時もあるが、大丈夫だろう。

 

 「そうだ!」

 

 

 

 

 「こんな感じかな……?」

 

 地下24階に存在している広い空間。そこは、普段修行用に使っている場所だ。

 

 小学校に転校を済ませる、手続きが完了する迄の間、この家の増築をしていたのだ。地下25階までを追加していたのだ。

 

 その開けた空間である修行室は、かなりの広さを誇っている。小学校の運動場の26倍程の広さだ。高さの方は、更にその広さの26倍だ。近所どころか、町全体の地下とでも言って良いくらいだろう。

 

 そして、この空間はスキルメイカーで創りだした能力の効果で補強をしているのだ。それにより、どのような力や衝撃などが発生したとしても、凹んだり壊れたりとする事は一切無い程の頑丈さを誇っている。例え、惑星破壊規模の力であろうとも、だ。

 

 そしてどの様な事になろうと地上には、地中にも何の影響も出ない。

 

 「はああああああああぁぁ!!!」

 

 自身のなかに存在している気をコントロールし、調整をしていく。

 

 気と魔力が分裂し、もう1人の自分が出現するのを感じる。そうとしか、言葉にする事が出来ない。

 

 どうやら、苦戦をしながらも分身体を1体つくりだすという事に成功をした様だ。

 

 「ふぅ……」

 

 ドッと強い疲れが襲ってきたのか、大きな溜息が溢れ出てしまう。

 

 額には大粒の汗が幾つも流れており、床にポタポタと落ちていく。

 

 「理解してたつもりだけど、難しいな。だけど……感じは、掴んだ」

 

 ――“四身の拳”。

 漫画、そしてアニメの“ドラゴンボール”で“天津飯”というキャラクターが、“孫悟空”というキャラクターに対して使っていた技の1つだ。

 その技は、4人の分身をつくりだして戦うというもの。

 だがその技にも弱点はあり、自身の持つ気によるパワーとスピードがそれぞれの分身に配分され、分身1人分の戦闘能力は4分の1に激減してしまうのだ。

 俺は、そこから元々の力と速さを保った分身をつくりだして、戦える様になる事を目標にしているのだ。

“セル”というキャラクターがテレビアニメで使ったものと同じものだ。

言い換えて説明をすると、“NARUTO-ナルト-”に出てきた“影分身”の様なものだ。

 さらにその影分身は、強い衝撃を受けても消えない仕様のもの。

 

 「すう……。はあああああああ!!!」

 

 大きく深呼吸をして、再び意識を集中させながら気を開放していく。

 

 気の開放により、周囲には強烈な風が発生して、髪が強く靡いている。室内の空気が揺れ、大きな音が発生して、反響していく。まるでその場に、局所的で小さな台風が発生した様だ。

 

 「はああああああああっ!!!!」

 

 自身の身体が、意識が4人に分裂したのを感じる。

 

 お互いに、自身の身体を見ている。思わず見つめ合ってしまう。

 

 「「「「ヒャッホッーーーッ!!!!」」」」

 

 目標を達成した事に対するその喜びで、勢い良く、天井スレスレまで思い切りにジャンプをしてしまう。1体の分身体はガッツポーズを、もう一体の方はバンザイを、最後の1体は大きな笑い声をあげている。

 

 それぞれの分身体にはしっかりと気と魔力が存在している。しかも、それは4分の1にはなっていないのだ。分身を創りだす前の大きさと同等なのだ。そして稀少技能であるスキルメイカーも、それぞれが使う事も出来る。

 

 意識を集中させてみると、その4つの分身体はスゥーっといった感じをして、オリジナルである俺の身体に重なる様にして消えていく。

 

 「それじゃあ、この要領で“超サイヤ人(スーパーサイヤジン)”状態の分身を……」

 

 実際のところ、出来るかどうかはやってみなければ分からない。どうなるか、そしてどれほどの負荷が掛かるのかなんていうのは未知数なのだ。

 

 再度、意識を集中させていく。

 気を高め、凝縮していく。限界まで収縮したそれを昇華させていく。

 

 「はああああああぁぁ!!」

 

 その気を、気合を込めながら爆発的に開放して、コント―ロールする。

 髪の毛が逆立ち金色に光り輝き、瞳の色は緑色へと変わる。その身体のうちからは、抑えられない程の大きな気が溢れ出ていて、黄金のオーラとなって身体を覆っている。

 

 膨大な気は光となり、修行室全体を明滅しながら照らしている。

 

 「ふぅ~……。この変化にも慣れたものだな」

 

 転生をしたあの日、その翌日での出来事が切っ掛けで超サイヤ人(スーパーサイヤジン)に覚醒し、変身をする事が出来る様になったのだ。

 そして、必死に修行をする事で、自身の意志でごく自然に変身をし、その状態を保つ事が出来るという地点にまで辿り着いた。

 

 「さてと……」

 

 目を閉じ、気を高めていく。

 

 そして、先程の時と同じ様に自身という存在が分裂して増えるのを感じる。

 

 眼を開くと、其処には金色の光を纏いながら逆立った金髪をしている3人の自分が居た。

 

 「……良し」

 

 それぞれの気が元々の50倍に跳ね上がっている。更に気だけでなく、魔力もまた膨れ上がり巨大なものになっている。

 

 各分身体は高速で修行室内を飛び回ったりをしてみる。移動をする度に大きな風切り音が聞こえ、突風が発生するが、目では姿を追う事が出来ない。

 

 それを確認し終えると同時に、思わずガッツポーズを取ってしまう。

 

 「名前は……考えるのが面倒だな」

 

 ただでさえ自分にはネーミングセンスのネという文字や、その欠片すらも所持していないのだ。名前を決めるとなると、頭が痛くなってしまう。

 

 「面倒だ……“真・四身の拳”で良いか」

 

 瞬きをすると同時に解除して、分身体を消す。空間を強く照らしていた3つの光源は消え失せ、1つだけが残った。

 

 「これで問題は解消出来たか」

 

 この技の開発成功により、いろいろな事が出来る様になった筈だ。

 

 例えば学校に登校をしている間に、分身体であるもう1人の俺が家事洗濯をしたり、買い物をしたりとする事が出来る。

 修行にも応用する事が出来るだろう。今の所4人の分身体をつくりだせるのだ。ならば、修行効率は4倍以上に跳ね上がるだろう。分身体との組手をしたりと、修行方法のバリエーションも増加したのだ。

 

 これでより速く、より強く、より高みへと昇り、向かう事が出来る様になるだろう。

 

 「時間か……」

 

 ピピピと腕輪から電子音が鳴り響く。表示されている時計の針は0時ちょうどを指している。

 

 あれほどの巨大な気を開放したというのにも関わらず、このデバイスは壊れてはいない。

 

 「作った奴が凄いのか、素材が良いのか」

 

 超サイヤ人(スーパーサイヤジン)状態を解除して、シャワーを浴びる。

 

 疲れが溜まっていたのか、パジャマに着替え終えると、ベッドへと倒れ込んでしまう。目蓋が重く、俺の意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 そして、西暦2005年、新暦65年の4月。

 

 原作で言うところの1期が始まろうとしていた。




こうしようああしようと考えるもの文章にするのが難しく苦戦し今に至ります。

こんな駄文を読み、感想を書いてくれたり、評価して下さって有難うございます。

取り敢えず、また思いつき、文章化出来れば投稿すると思います。
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