魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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次元世界の記憶が眠る場所 超規模データベース 無限書庫

 サンサンと、と言うよりもカンカン照りといった表現の方が良いだろうか。

 2つの太陽に照らされ続けている世界に小さな人影が1つあった。

 

 草木1つすらも見当たりも、生えてもいない砂漠で、赤い騎士甲冑を着込んだ少女は相棒(グラーフアイゼン)を杖代わりにして立ち上がる。

 

 無限とある砂の上でグラーフアイゼンを引き摺りながら、フラフラとした足取りで、砂に足を取られながらも歩き続ける。

 

 背後には、倒し募集を終えた現地の野生動物が横たわっている。

 微動だにしないところから、意識を失っているのか死んでいるのかのどちらかだろう。

 

「……クソっ……はやてに貰った騎士服をこんなにグチャボロにしやがって……ま、騎士服は直るし、そこそこページは稼げたから良いけどよ……」

 

 そのヴィータの言葉通り赤く綺麗だった騎士服はボロボロになっており、砂埃や戦闘の際に舞い上がった砂でところどころが汚れてしまっている。

 その中でも目立つのは帽子だ。帽子には玩具屋で見付け気に入ったのろいうさぎを模した白い兎のアクセサリーが付いているが白い為か、汚れが他の箇所よりもハッキリと見えるのだ。

 

 ダメージが蓄積されていたのか靴が壊れ、前のめりに顔面から倒れてしまう。

 

「――いっ、痛……く……無い!」

 

 痛みを堪え、空を仰ぎ見る。

 

「痛く、無い……こんなのちっとも痛く無い! 昔とはもう、違うんだ」

 

 再びグラーフアイゼンを杖にして、よろめきながらも立ち上がる。

 

 歩く度に服が動き、少なく無い傷も見え隠れをする。

 

「帰ったらきっと……温かい御風呂とはやての御飯が待ってんだ……優しい家族がニコニコ待っててくれるんだ。そうだよ……私は、すっげえ幸せなんだ!」

 

 自分に言い聴かせ、気持ちを、そして身体を奮い立たせていく。

 フラフラとしていた足取りが確かなものへと戻り、一歩ずつ確実に歩みを進めていく。

 

「だからっ――」

 

 地面が大きく揺れ動いて、砂底からリンカーコアを持つ現住生物が飛び出してくる。

 

「こんなの……全然、痛くねええええええええ!!!」

 

 グラーフアイゼンを握りしめ、目の前の標的へと飛び掛かる。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁはぁ……ハァ……ハァハァ……」

 

 目の前の目標を叩き倒し、目的であったリンカーコアの募集を開始する。

 

 先程よりも大きな汚れと傷が騎士服には付いている。

 

「く……そっ……」

 

 募集を完了すると同時に、同種ではあるがまた別の個体が顔を出して来る。

 

「次から次へと……」

 

 目の前に居る標的を倒そうとグラーフアイゼンを振りかざそうとするが、身体がよろけ倒れそうになる。

 

「全く……何をしている、ヴィータ?」

(りゅう)……()……?」

 

 倒れそうになる小さな身体を、また別の小さな身体が苦も感じさせないように片腕で支えている。

 支える側も、支えられる側もだ。

 

「これくらい……」

「無理はするな。其処で暫くの間、休んでろ」

「でも……」

「帰った直後に疲れやダメージの蓄積の所為で倒れてでもしてみろ。はやてはどう思うか……と言うよりもだな……、兄である俺にも少しは頼ってくれよ。家族だろ?」

 

 

 

 

「3人掛かりで出てきたけど、大丈夫かな?」

「まあ、モニタリングはアレックスに任せて来たし」

「闇の書について調査をすれば良いんだよね?」

「ああ。これから会う2人はその辺に顔が利くから」

 

 地球に置いてある臨時作戦本部から離れ、クロノとエイミィ、ユーノの3人は管理局本部へと来ていた。

 

 廊下を歩きながら、これから会うであろう2人の事を軽く説明をするクロノ。

 

 目的の場所へと辿り着き、ドアが開く。

 

「リーゼ、久し振りだ。クロノだ」

「うわおお!」

「――な!?」

 

 部屋の中には2人の少女が居た。

 その2人には猫のような耳と尻尾が生えており、使い魔だという事を理解させてくる。

 そして、2人の顔は瓜二つだと言える位に似通っているところから見て、双子だという事もまた同時に理解出来た。

 

 その2人の内の1人がクロノを見ると同時に、柔らかな動きで彼へと飛び掛かり抱きしめる。

 

「クロスケ、お久し振り振り~」

「離せコラ!」

 

 照れているのか、顔を赤らめながら離れようと必死に抵抗をするクロノ。

 

「何だと、コラ? 久し振りに逢った師匠に冷たいじゃんかよ~」

 

 そう言いながら再び抱きしめる。

 それに対し、より一層顔を赤くして抵抗をするクロノ。

 

「アリア、これを何とかしてくれ!」

「久し振りなんだし、好きにさせてあげれば良いじゃない」

 

 猫の少女が少年に対して、酷く猫可愛がりをしているようだ。

 

「それに……まあ、何だ。満更でも無かろう?」

「そんな訳が……」

 

 クロノが言葉を言い終える前に、少女は彼を押し倒して挨拶と称したキスをしていく。

 2人の身体はソファの陰に隠れて見えないが、唯一見えている少女の尻尾は垂直に立ち、大きく揺れ動いている。

 

「リーゼアリア、お久し」

「ん~、お久し」

 

 イチャイチャとしている、と言うよりも一方的にクロノがやられているその光景などを、毎回の事なのか余所にして挨拶をするエイミィとアリア。

 

 クロノと少女のやり取りを見て圧倒され驚きを隠せないでいたが、エイミィとアリアの2人の様子を見て、気にしないように心掛けた。

 

「リーゼロッテは相変わらずだね~」

「まあ、我が双子ながら時々計り知れんとこはあるね」

「御馳走様」

「リーゼロッテ、お久し」

「エイミィ、お久しだ」

 

 満足そうな顔をしながら、エイミィとアリアの方へと移動をするアリア。

 そして、エイミィの後ろに居るユーノを見付ける。

 

「何か美味しそうな鼠っ子が居る。どなた?」

「…………」

 

 にこやかな笑顔を見せながら顔を覗かせるロッテ。

 

 だが、ユーノはその笑顔が捕食者のそれに見え、思わず頬をひくつかせてしまう。

 

「何で、あんなのが僕の師匠なんだ……」

 

 やっとの思いでソファから身を乗り出したクロノはウンザリとした表情を浮かべており、彼の顔には無数のキスマークが付いていた。

 

 

 

「ああ……成る程、闇の書の捜索ね」

 

 闇の書の発見とその捜索、情報の探索が必要な事を説明するクロノ。

 

 その話を聴いている間、アリアは姿勢正しく座っているが、ロッテの方はソファにもたれ掛かりながら尻尾を右に左にと動かしている。

 

「事態は父様から伺ってる。出来る限り力になるよ」

「宜しく頼む」

「エイミィさん……この人達って?」

「クロノ君の魔法と近接戦闘のお師匠様達。魔法教育担当のリーゼアリアと近接戦闘教育担当のリーゼロッテ。グレアム提督の双子の使い魔。見ての通り、素体は猫ね」

 

 3人の会話を邪魔しないように、エイミィはエイミィに彼女等の紹介をする。

 

「な、成る程……」

 

 それに気付いたのか、ロッテはユーノに対して微笑み手を振る。

 

 ユーノもまた、引きつった笑顔を浮かべながら手を振り返した。

 

「2人にも駐屯地方面に来て貰えると心強いんだが……今は仕事なんだろ?」

「う~ん。武装局員に新人教育メニューが残っててね……」

「そっちに出突っ張りにはなれないのよ。悪いね」

「いや……実は今回の頼みは彼なんだ」

 

 クロノの言葉にリーゼ姉妹はユーノへと顔を向ける。

 

「喰って良いの?」

「っう……」

 

 捕食者のようにキラリと目を光り輝かせるロッテを見て狼狽えるユーノ。

 

「ああ。作業が終わったら好きにしてくれ」

「な、あ、おい! ちょっと待て!」

 

 人身御供のようにして差し出すようなクロノの口振りに思わず立ち上がって反論をするユーノ。

 

 そんな彼等2人の様子を見て、少女等3人は笑う。

 

「それで、頼みって?」

「彼の、無限書庫での調べ物に協力してやって欲しいんだ」

 

 そのクロノの言葉に双子は顔を見合わせ、品定めをするかのようにユーノの方へと視線を向けた。

 

 

 

「何だか、一杯あるね……」

「まあ、最近はどれも同じような性能だし……見た目で選んで良いんじゃない?」

 

 今、俺達は窓際に集まり、射し込んでくる陽の光を浴びながら会話をする。

 

 それぞれの手には携帯電話の種類や仕様及び機能などのデータが記載されている冊子があり、フェイトはその中のどれを買うかを悩み、考えているのだ。

 

 俺達は、そんなフェイトにどのような基準でどれを買えば良いのかなどといったアドバイスをしているのだ。

 

 フェイトの言葉通り、メーカーも複数あり、そこから販売されている携帯電話の数も多い。

 

 そしてアリサの言葉も正しいと言え、ここ最近販売されている携帯電話の性能はどこのメーカーのものであろうと大した差は無いように思える。

 

 どの携帯電話を買うのかを決めるのにいろいろ考えてしまうのは仕方が無いだろう。

 

「でもやっぱ、メール性能も良いやつが良いよね」

「カメラが綺麗だといろいろ楽しいんだよ」

 

 なのはやすずかの言葉にも耳を傾け、より一層深く考えこんでしまうフェイト。

 

「でもやっぱ、色とデザインが大事でしょ!」

「操作性も大事だよ!」

「外部メモリ付いてるといろいろ便利で良いんだけど」

「そうなの?」

「うん! 写真とか音楽とか沢山入れておけるし。そうそう、メールに添付してお友達に送る事も出来るの」

 

 アリサやなのはの意見もまた同意出来るものであり魅力的なものではあるが、フェイトはすずかの出した意見の方へと喰いつく。

 そうして、そのすずかの意見に対し、なのはとアリサもまた同意をする。

 

「あんた達はどう思う?」

「そうだな……どの意見ももっともだしな……」

「これなんてどうだ?」

 

 雄介が冊子を広げて指し示したそれは折りたたみ式の携帯電話であり、SONIA製のCMDX Ⅱ NF226Dだ。最新機種という事もあってか、メール機能やカメラ機能も優れており、画素数も多い。

 これと言って悪い部分は見当たらず、強いて言えば月額の料金位だろうか……他の機種と比べて少し高いかなと思える程度だ。

 全体的に見て、良機種と言えるだろう。

 

「うん。良いと思う」

 

 記載されているデータや画像を見て気に入ったのか、フェイトは首肯いてみせる。

 

「ドゥームの方はどんな携帯を選ぶのかな?」

「さあ? 気になるなら訊いてみれば?」

 

 フェイトの兄であるドゥームもまた同時期に携帯電話をリンディに買って貰うのだ。

 

 ドゥームは必要無いと言っていたらしいが、リンディは友達との連絡などにも必要だろうからと説得をして、買う事になったらしい。

 

 

 

「フェイトさん……はい」

「ありがとうございます、リンディ提督」

 

 会計や手続きを済ませたリンディから受け取り、なのは達の居る場所へと走りだすフェイト。

 

 受け取ったそれは小洒落た紙袋であり、中には先程の冊子に載っていた携帯電話――CMDX Ⅱ NF226Dだ。

 

「お待たせ」

「ううん。良い番号あった?」

「うん」

「何番?」

「えっとね……これ」

 

 アリサとなのはの質問に応え、手にしている袋から取り出して見せるフェイト。

 

 年齢相応に笑い、笑顔を見せる彼女等を離れた位置から見たリンディは微笑む。

 

 こちらもまた同様に彼女等の様子を見て、自然と笑顔をになる。

 

「お前の方はどうなんだよ、ドゥーム?」

「これだ……」

 

 志蓮の質問に対して、紙袋から箱を取り出して見せるドゥーム。

 

 彼の買った携帯電話はフェイトの選んだ折りたたみ式のものとは違い、スライド式のだ。更に、スライドで伸ばした後に回転させる事も出来る。

 所謂、スライド型と回転型(リボルバータイプ)の特徴を併せ持つ変わった機種だ。

 

「へぇ……面白い機種だな」

「まあ、生前にスライド式を使っていたからな。使い慣れているかたちの方が良いかなと思ってよ」

 

 そう言いながら、指でメインディスプレイをスライドさせてみせるドゥーム。

 

 

 

「管理局の管理を受けている世界の書籍やデータがすべて収められた超巨大データベース……」

「幾つもの歴史が丸ごと詰まった、言うなれば世界の記憶を収めた場所……」

「それが此処……無限書庫……とは言え、中身の殆どが未整理のまま」

「此処での探し物は大変だよ~」

 

 次元の狭間に存在する時空管理局本部の中にある無限書庫。そこにユーノ等は居た。

 

 ロッテとアリアの2人――リーゼ姉妹は愛弟子に頼まれた事、そして彼の友人であるユーノ自身に対しての興味などの理由から、クロノに頼まれた通りユーノの手伝いをする為に無限書庫に来ていた。

 

 辺りを見渡してみると、至るところに階段のようなものが縦横関係無く走っており、壁に当たる部分には大きな本棚が。そしてそこに無数の本が収納されている。

 だが、それはほんの一部だ。無数に存在している本は、その全てが本棚に収まりきっているという訳では無く、大部分は宙を浮遊している。

 円筒形のその空間で、下に行けば行く程に古いものがあり、無限書庫の名前通りに本を始めとした資料が無限にあるのではないかと思わせてくる程のものだ。

 リーゼ姉妹の言葉は強ち嘘では無いと感じさせるものがある。

 

 初めてこの無限書庫に訪れ中を見たのだとすると、その空間の広さと資料の多さに圧倒されてしまうだろう。

 そしてそれは、ユーノもまた例外では無い。だがまあ、今迄いろいろな遺跡を見てきた彼は直ぐに気を取り直したのだが。

 

「本来ならチームを組んで年単位で調査する場所なんだしね」

「過去の歴史の調査は僕等の一族の本業ですから……検索魔法も用意して来ましたし……大丈夫です」

 

 その周囲に存在する本を見てうんざり気に話すアリアに対して、ユーノは大丈夫だと応える。

 

 これだけの数の本を見てうんざりとした気持ちになるのは彼もまた同じだが、予めクロノからどういった場所かという事か軽い説明を受けており、その為の魔法も用意していた。

 

 そして何よりも、スクライア一族は、どのような仕組みかも理解らない、どんなトラップが設置されているか予測すらも出来ない遺跡を調査する事を仕事としているのだ。

 その一族の血が流れているユーノにとっては望むところであり、嫌気が差しているのと同時に心が踊っているという事もまた感じ取っていた。

 

「そっか。君はスクライアの子だっけね」

「私もロッテも仕事があるし、ずっとっていう訳にはいかないけど、成る可く手伝うよ」

「可愛い愛弟子、クロスケの頼みだしね!」

「ほう……なら、俺の頼みも利いて貰いたいものだな」

「うげっ……特務執務官」

 

 突如として、下の方から聞こえた声の主を見遣る。

 

 そこには3人とも顔を知っている人物であり、管理局内ではかなり特殊な立場に居るであろうゾイルが居た。

 

 ユーノとは反対に、ロッテの方はあからさまに嫌だと言わんばかりの表情をしている。

 

 

「うげっとは失礼な猫だな。まあ良い。闇の書について調べるのだろう? なら、もう1つついでに調べて欲しいものがある」

「何ですか、ゾイルさん?」

「ああ。お前も知っているだろうが、外道衆とモヂカラについてだ」

 

 ゾイルの頼みを快く承諾をし、その調べ物の内容について質問をするユーノ。

 そしてゾイルの返答を聴き、了承の意を示すように頷く。

 

 外道衆とモヂカラについては情報統制が行われている為にリーゼ姉妹は首を傾げ、興味津々といったふうに聞き耳を立てている。

 

「出来得る限りの情報、データは集めます。ですが……」

「理解している。勿論、闇の書の方を優先してくれて良い。だが、余裕があるのであれば、今言った事と……それともう1つ……」

「何ですか?」

 

 

 

「そっか……アリサとすずかはヴァイオリンをやってるんだね」

「うん。メールで良くお稽古の話とか教えてくれるんだよ」

「そうなんだ」

 

 携帯電話を買い終えた後、アリサとすずかの2人はフェイトとドゥームの選んだ携帯電話を見てその番号を登録し終えると、ヴァイオリンの稽古に行ったのだ。

 

 なのはの言葉通り、何か変わった事や面白いと感じた事などがあると、彼女等はその内容をメールにして送って来てくれる。文面だけの時もあれば、画像が添付されている時もある。

 

 その内容の殆どはくだらないと思えるような事ではあるが、何処か面白くもあり、思わず頬が緩んでしまうものばかりだ。

 例えば先生の言葉だとか、練習について、発表会などについてだ。

 

「ただいま~!」

 

 話をしているとエイミィの声が聞こえ、彼女は買い出しから帰って来た事を教えて来る。

 

 スーパーで貰ったビニール製の買い物袋からはネギやトマト、かぼちゃなどが出てきて、なのははそれを冷蔵庫へと入れていく。

 

「艦長、もう本局に出掛けちゃった?」

「うん。アースラの武装追加が済んだから……試験航行だって、アレックス達と」

「武装っていうと、アルカンシェルか……あんな物騒なもの最後迄使わずに済めば良いんだけど……」

 

 そう呟いて、大きく息を吐き出すエイミィ。

 

「アルカンシェルか……威力は推して知るべしといったところか」

「まあな。あれは凄いぞ。映像でしか見た事が無いけど、あれだけの物をヒトはつくりだせるのかなんて、何も知らなければ思えてしまうくらいだ」

「そんなにか?」

「ああ……」

 

 思い出しただけでも自然と身体が震えてきてしまう。

 

 なのはとフェイト、雄介、志蓮の4人は不思議そうにしているが、エイミィの方は苦笑いを浮かべていた。

 

『アニメやその資料では着弾後の空間歪曲によって目標を消滅させるとあったな』

『ああ。俺の記憶が正しければだが』

『空間を歪曲させるというのはこわいものだ。だがな……問題なのはその範囲だ。どれ位だと思う?』

『精々、発生地点を中心にして百数十km位だろ?』

『違う……直径で1,000km規模だ』

『…………』

 

 そのあまりの大きさに絶句してしまい、言葉を発せなくなってしまう雄介と志蓮の2人。

 今、なのはとフェイトには聞かせたく無い……と言うよりも、知って欲しくは無い。

 

「(まあ、フェイトの方は知っているだろうがな……)」

「クロノ君も居ないですし……戻る迄はエイミィさんが指揮代行らしいですよ」

『責任重大~』

 

 エイミィはなのはの言葉とアルフからの念話に対し顔をひくつかせるが、気を取り直してかぼちゃを冷蔵庫に入れる。

 

「それもまた物騒な。まあ……とは言え、早々非常事態なんて起こる訳が――」

 

 警報が鳴り響く。

 空間上にはモニターが展開され、Emergencyの赤い文字が浮かび上がった。

 

 

 

「文化レベル0。人間は住んで無い砂漠の世界だね」

 

 モニターには、飛ばしたサーチャーからの映像が映し出されており、そこにはシグナムとザフィーラの姿があった。

 

「結界を張れる局員の集合まで、最速で45分。不味いなぁ……」

「エイミィ。私が、私が行く」

「私もだ」

 

 焦りながらタイピングをするエイミィに対し、フェイトとアルフの2人は自分が行くという案を提示する。

 

 映し出されているのはシグナムとザフィーラであり、戦闘経験のある自分達が出るべきだろうと判断したのだろうか。

 

「うん、御願い」

「うん / おう」

「なのはちゃんと雄介君、志蓮君、ドゥーム君にブロン君はバックス。此処で待機して」

「はい」

「了解 / わかった / おk」

 

 

 

「行くよ、バルディッシュ」

【Yes, sir】

 

 机の上に置いてあったカートリッジを手にし、部屋から出るフェイト。

 バルディッシュの宝石部分が応えるようにキラリと輝く。

 

「出る前にこれを」

「これって……?」

 

 フェイトが出て来ると同時に、俺は彼女に声を掛け、手にしているものを渡す。

 

「カートリッジだね。でもこれは?」

「これには圧縮魔力の代わりにモヂカラが込めてある」

「モヂカラが……? そっか。外道衆との戦闘に備えて」

「そうだ」

 

 見た目としては他のカートリッジと変わったところは無い。

が、そこには言葉通りに魔力の代わり膨大な量と大きさのモヂカラを圧縮して込めてある。

 

 魔導師同士や現地生物との戦闘であれば魔力と気の運用だけでも何の問題も無いだろうが、外道衆が相手となればそうはいかない。

 外道衆を倒そうとする、倒せはし無くても、傷を付けるだけだとしてもモヂカラ使用出来なければ無理なのだ。

 

「でもさ……カートリッジ内のモヂカラを解放しても、扱えなけりゃ意味無いじゃん」

「その為にこれも」

 

 そう言いながらデータを渡す。

 

「これにはモヂカラを扱う事が出来るようになる為のプログラムが入ってる。バルディッシュに読み込ませてくれ」

「プログラムをバルディッシュに……」

「時間はそんなに掛からない。ものの数秒程で出来るさ」

「バルディッシュ……」

 

 応える変わりにキラリと金色の光を放つバルディッシュ。

 

 その様子を見て、フェイトは頷いた。

 

「理解った。でも」

「なのは等には今から渡すつもりだ」

 

【Reading of data is completed. Condition, all green】

 

 喋っている間にデータの全てを読み込んだ事を教えるバルディッシュ。

 

「そんじゃまあ、行って来い」

「うん! / ああ!」

 

 

 

 砂煙が舞い上がる中で、シグナムは現地の生物と向かい合っている。

 

 現住生物は疲れという疲れを見せないでいるが、相手をしているシグナムの方は軽く肩で息をする程度には体力を消耗していた。

 

「ヴィータが手古摺る訳だな……。少々厄介な相手だ……。――っ!」

 

 息を整えると同時に後ろから、前に居る個体の尻尾に当たる部分が出て来る。

 

 シグナムは上空へと退避して攻撃を躱そうと試みるが、尻尾に付いている触手のようなもので絡め取られてしまう。

 

「――!? しまった……」

 

 抜け出そうと藻掻いてはみるが、逃すまいとして現住生物はより強く彼女を締め付ける。

 

【Thunder blade】

 

 雷が集合した剣が無数、空から落ちて来て、現住生物を貫き、斬り裂いていく。

 

 それがシグナムの動きを封じていた触手を斬り裂いて、彼女の身体は解放された。

 

「…………」

 

 シグナムが上を見上げると、そこには見覚えのある黒いバリアジャケットを着込んだ金髪の少女が金色に輝く魔法陣の上に居た。

 

「ブレイク!」

 

 少女の言葉と同時に、刺さっていた剣は爆発、電撃を発する。

 それをまともに受けた現住生物は大きな悲鳴を上げながら倒れた。

 

《フェイトちゃん! 助けてどうすんの!? 捕まえるんだよ!》

「あ……ごめんなさい。つい……」

 

 エイミィからの通信に謝罪をするフェイト。

 動けずに居たシグナムを見て、思わず助けてしまったのだろう。

 

《いや……あれで良い。闇の書による募集を阻止した。それに、その生物が生きていたとして、シグナムとの戦闘を邪魔して来るかもしれないからな》

 

 概ね原作通りの展開に安堵を覚えながら、フェイトの行動にフォローを入れる。

 雄介と志蓮、ドゥームの3人もまた、同じように胸を撫で下ろしているように見える。

 

「礼は言わんぞ、テスタロッサ」

「お邪魔でしたか?」

「収集対象を潰されてしまった……」

 

 申し訳無さそうにして言葉を口にするフェイトに対して、シグナムは目を瞑りながら応える。

 モニター越しではあるが、様子からするとそれ程悔しいだとか残念だとかは思ってはい無いようだ。

 

 カートリッジを相棒(レヴァンティン)に装填するシグナム。

 

「まあ……悪い人の邪魔をするのが私の仕事ですし」

「そうか……悪人だったな、私は」

 

 フェイトの言葉を聞いて、改めて認識をしたのか……それとも、思い出したのか。管理局に追われている理由と原因を思い返して呟くシグナム。

 

 

 

「――!!」

 

 サーチャーから送られて来るフェイトとアルフ、そしてシグナムとザフィーラの様子をモニターで観ていると、また警報が鳴り響いた。

 

「もう一箇所!?」

「いや、2箇所だ……」

 

 周辺の次元世界にばら撒いてあるサーチャーの内の2つが反応し、モニターにはヴィータ、そして竜人の姿が映し出されていた。

 

 2人とも同じ次元世界ではあるが離れた場所に居る為に、2つのサーチャーが反応したのだ。

 

 竜人とヴィータが合流を果たすのが観える。

 

「うげっ……」

 

 竜人の姿を見て、雄介と志蓮は嫌そうな表情を出してそれを隠そうともしない。

 

 余程に前の戦闘で痛い目を見てしまったのだろう。

 

「(今回は俺が出るべきか? だが、外道衆が出て来る訳じゃ無いし……)」

「本命はこっち?」

 

 ヴィータの手には闇の書がある。

 竜人の方は何も手にしてはい無いが、ヴィータを護衛するようにして飛行している。

 

「なのはちゃん! ブロン君!」

「はい」

「……了解した」

 

 

 

「久し振りだね、リンディ提督」

「闇の書の事件……進展はどうだい?」

 

 机に置かれた2つのコップからは湯気が上がっている。

 そして、中にある紅茶はリンディとグレアムの2人の顔を映している。

 

「なかなか難しいですが、上手くやります」

「君は優秀だ。私の時のような失態はしないと信じているよ」

 

 リンディは砂糖を入れた紅茶を一口だけ口に含み、彼に言葉を返す。

 

「夫の葬儀の時、申し上げましたが……あれは提督の失態ではありません。未来を知っているならいざ知らず、あんな事態を予測出来る指揮官なんて、居ませんから」

 

 カチャリという音を立てながらコップを置き、何度目かも分からなくなった謝罪をするグレアムに対して微笑むリンディ。

 

 

 

「へぇ……器用なもんだね。それで中が理解るんだ」

 

 ユーノは目を瞑り、空中で胡座を組みながら魔法を行使している。その魔法は読書をするのに優れたものであり、複数の本を同時に読む事が出来る。探索魔法の1つでもあり、スクライアの一族でこれを修得している者は多い。

 

 ロッテは両手に複数の本を乗せ、その本をアーチ状にして運びながら、そんなユーノを見て驚嘆する。

 

 管理局では、この魔法を使える人材が少ないのだ。

 

「ええ、その……まあ……リーゼロッテさん達は、前回の闇の書の事件を見てるんですよね?」

「うん。ほんの11年前の事だからね」

「その……本当なんですか? その……その時に、クロノのお父さんが亡くなったって……」

「本当だよ……私とアリアは父様と一緒だったから、直ぐ近くで観てた」

 

 その時の事を思いだしながら応えるロッテの顔は、先程と比べて少し沈んだ感じになった。

 

「封印した筈の闇の書を護送中のクライド君が……クロノのお父さんね」

「はい……」

「クライド君が、護送艦と一緒に沈んでくとこ……」

 

 普段はおちゃらけた感じであり、クロノの事をクロスケと呼ぶ彼女が彼の事をクロノと言った事からも、あまり思い出したく無い事を口にしている事を感じさせる。

 

 

 

「封印手段は、やっぱりアルカンシェルになっちゃったな……」

「他に無いもんね。他に、あんな大出力を出せる武装」

「あれは周辺への被害が大き過ぎる。撃たずに済めば良いんだが……」

「主が見付かれば良いんだけどね」

 

 アルカンシェルと同等、それ以上の力を出す事が出来る存在が居るという事をクロノは知っている。

 

 ――彼の力を得る事が出来れば、それが可能なのであればどれだけ安全に、楽に事を済ませる事が出来るだろうか。

 

 なんて事を考えながら、アリアと廊下を歩くクロノ。

 だが、彼等の存在は秘密であるのだからそういった事は出来ないのだ。

 

「(まあ、既に力を貸してくれてはいるし、お人好しだから進んで首を突っ込んで来るだろうけど……だが……)」

「まあ……例え主を押さえたところで、闇の書には転生機能があるから……。新しい主に当たる迄、ほんの数年ばかり問題を先送りに出来るだけだけど……」

「それでも、その場で大規模な被害が出るよりはずっと良い」

「まあね……」

 

 彼等がガラス越しに見下ろす先には、改修作業と武装を搭載し終えたアースラの雄姿があった。

 

 

 

「預けた決着は出来れば今暫く先にしたいが……速度はお前の方が上だ。逃げられないのなら、戦うしかないな」

「はい。私もそのつもりで来ました」

 

 太陽が照りつけている。

 バリアジャケットには温度調節などの機能があるが、それでも暑さは感じているだろう。

 

 それぞれの相棒であるデバイスを構えるフェイトとシグナム。

 

 先に動いたのはフェイトの方だ。

 次にシグナムも動き出す。

 

 それぞれのデバイスをぶつけ合い、弾かせ、それを繰り返していく。

 

 足場が砂浜である為に普段通りの動きが出来ず威力やスピードが殺されてしまうが、2人は直様それに適応してみせる。

 

 フェイトは身体を右に回転させながら、Assault Formのバルディッシュをシグナムへと向ける。

 

 シグナムもまた、左回転で身体を回してSchwertform状態のレヴァンティンをフェイトへと向ける。

 

 2人はそれぞれの攻撃をバリアタイプの魔法で防御し、いなしてみせる。

 

 そのまま、場所を入れ替える2人。

 かと思うと、フェイトはシグナムの背後を取りバルディッシュを振りかざす。

 

 だがシグナムもまた今迄の戦闘経験を身体で覚えていたのか、直感的に振り返り、レヴァンティンで防ぐ。

 

 力強く振り下ろされたレヴァンティンによる攻撃を防ぎはするが、フェイトは吹き飛ばされて距離が離れてしまう。

 

 これで、実質的に最初に見合った時と同じ距離に戻ってしまった。

 

 レヴァンティンの刀身の付根にあるダクトパーツがスライドして、カートリッジである薬莢が1個飛び出し、魔力が増大する。

 

【Schlangeform】

 

 いくつもの節に分かれた蛇腹剣の形態である鞭状連結刃へと変形したレヴァンティンを振り翳すシグナム。

 

 伸びた刀身は砂浜へと当たり、小さな砂を無数巻き起こす。

 一時的に小規模な砂煙となり、両者の視覚を遮った。

 

 砂煙が晴れると同時にシグナムは攻撃をするが、向かってくる刀身をフェイトはジャンプして回避する。

 

 身体を回転させ砂浜に着地して、フェイトもバルディッシュにカートリッジをロードさせる。

 

【Load cartridge, Haken form】

「ハーケンセイバー!」

「はああ!」

 

 シグナムの意志に呼応して、連結刃はフェイトの周囲を囲み込む。

 

 フェイトは三日月型の魔力刃を、連結刃の隙間を通るように飛ばす。

 飛ばした魔力刃は、三日月の形から円形状へと変形して、強い回転と切断力を生み出す。

 

「――せえいっ!」

 

 シグナムは、フェイトの周囲にある連結刃を彼女へと向けて包囲網を小さくする。

 それと同時に、舞い上がった砂煙から出て来る金色の魔力刃を回避してみせた。

 

【Blitz rush】

 

 フェイトも、魔法を発動させて囲うようにして迫って来た連結刃から脱出してみせる。

 そのまま、上空へと回避をしたシグナムよりも上へと飛行して、斬り掛かる。

 

【Haken slash】

「――っ!」

「――鞘!?」

 

 だが、咄嗟の判断なのか。シグナムはレヴァンティンの鞘を使い、バルディッシュから出ている魔力刃を防ぐ。

 

 驚いた事によって出来た隙を見過ごす事は無く、シグナムはフェイトを回し蹴りで蹴飛ばす。

 

【Plasma lancer】

 

 フェイトは、顔へと向けて蹴り上げられたシグナムの足を防御魔法でいなして、飛ばされながらも攻撃魔法を撃ち出す。

 

 金色の魔力弾は、三角形の環状魔法陣が取り巻くスフィアから発射され、高速でシグナムへと向かって行く。

 

【Assault form】

 

 命中して爆発をしたのを確認したが、それでも健在であると判断し、直ぐに対応出来るように待機する。

 

【Schwertform】

 

 フェイトの予想通りにシグナムは健在であり、砂浜へと着地をしてみせる。

 

 互いにカートリッジをロードして、魔力を上昇させる。

 

 両者の脚元には魔法陣が展開され、攻撃魔法が繰り出される事を予想させた。

 

「プラズマ……」

「飛竜……」

 

 魔力が十分に溜まったのを確認すると同時に、その魔法を発動させる。

 

「――スマッシャアアアアッッ!!」

「――一閃っ!!」

 

 フェイトの方からは電光を伴った純粋魔力砲撃が、3つ存在する加速と威力増幅用の円形の環状魔法陣を通り、彼女の左手1つから放たれる。

 そして、僅かながら気も同時に込められていた。

 

 シグナムの方からはSchlangeformへと変形したレヴァンティンの連結刃に十分に圧縮した魔力を乗せて撃ち出した。

 

 互いの攻撃がぶつかり、爆発。相殺されるのを確認する事も無く、2人は上空へと飛行して、カートリッジをロードする。

 

 

 

 お互いに近付き、拳をぶつけて、直ぐに距離を取る。

 

「あんたも使い魔、守護獣ならさ……ご主人様の間違いを正そうとしなくて良いのかよ?」

「闇の書の収集は、我等が意志。我等の主は……我等の行っている収集については何も御存知無い」

「何だって……? そりゃ、一体……」

 

 アルフの疑問に応えるザフィーラ。

 

 空を覆う雲は、黒くどんよりとしており、暗い。

 

「主の為であれば、血に染まる事も厭わず……。我と同じ守護の獣よ、お前もまた、そうでは無いのか?」

「……そうだよ……でも、だけどさ……!」

 

 ザフィーラの解答に同意出来る部分はあるが、それでも納得が出来無いアルフ。

 

 そんなアルフの気持ちをしってか知らずか、ザフィーラは主を護る為に、仲間に応える為に再度拳を握り締めて構える。

 

 

 

『シグナム達が?』

『砂漠で交戦してるの。テスタロッサちゃんと……その守護獣の娘と』

『…………』

 

 シグナムとフェイト、ザフィーラとアルフが戦闘をしているのは、何も闇の書事件の解決に来ている管理局員だけが知っている訳では無かった。

 

 ヴィータと竜人もまた、シグナム等が戦闘を開始した事を知ったシャマルから連絡があったのだ。

 

『長引くと不味いな。助けに行くか?』

『いや、その必要は無いだろうさ。それに……こちらにも客が来たようだ』

『――!』

 

 竜人の言葉に、ヴィータは前へと進むのを止め、目を向ける。

 

 そこには白いバリアジャケットに身を包んだ少女と、山吹色の道着を着た少年が待ち伏せていた。

 

『ヴィータちゃん?』

『くそっ……こっちにも来た。例の白服。あともう1人……見覚えの無い奴』

 

 白服を着た少女の名前。

 

 ――そう、確か……。

 

「高町なんとか!」

「――!! なのはだってばあ! な、の、は!」

 

 名前を覚えて貰えていなかった事がショックだったのか、大きな声で訂正を入れて、息を吐き出すなのは。

 

「ヴィータちゃん、あと、えっと……」

「竜人だ」

「ヴィータちゃん、竜人さん……やっぱりお話聴かせて貰う訳にはいかない? もしかしたらだけど、手伝える事とか……あるかもしれないよ?」

 

 そのなのはの言葉と笑顔に、ヴィータは自身の大切な主であり家族でもある少女の姿を重ねて見てしまう。

 

「煩せえ! 管理局の人間の言う事なんて信用出来るか!」

 

 だが、ヴィータはそれを振り払い否定をするようにして声を荒げる。

 

「私、管理局の人じゃ無いもの。民間協力者」

 

 そう言いながら、「ちゃんと受け止めるから。だから話して」と言うように両手を広げるなのは。

 

「(闇の書の収集は魔導師1人につき1回……つまり、此奴を倒してもページにはなん無いんだよな。でも、もう1人の魔導師からなら……だけど、カートリッジの無駄使いも避けたいし……)」

『あの少年の方は俺が募集する。シグナム達の援護に行ってくれ』

『竜人……』

 

 悩むヴィータに、竜人は前に出てなのはとこちらを睨み付ける。

 

『理解った……。頼む、竜人』

『任された』

「ヴィータちゃん」

「ぶっ倒すのは、また今度だ!」

「――!!」

「吼えろ! グラーフアイゼン!!」

 

 ヴィータの脚元にベルカ式特有の魔法陣が展開され、手の平に魔力で赤色の衝撃弾を生成する。

 

【Eisengeheul】

 

 生成したそれをグラーフアイゼンで叩くと同時に、目を灼くかと思える程の閃光と思わず耳を塞いでしまいそうになる程の大きな音、衝撃波が発生する。

 

 となりを見てみると、なのはは耳を両手で耳を塞いでいる。

 

 目の前に居るヴィータは一瞬だけではあるが、球状のバリアで守られており、竜人の方は何をするでも無く、立っているだけだった。

 

 生み出した隙を付いて、ヴィータは飛行し、グングンと距離が大きくなっていく。

 

「――あっ!!」

「なのは、此奴の相手は俺がするから、なのははヴィータの方を」

「うん!」

 

 相変わらず竜人は動く事無く、こちらを見ているだけだ。

 なのはが動こうとしているにも関わらず、邪魔をしようとはして来ない。

 

【Master】

「うん」

 

「良し! 竜人も居てくれてるし、此処まで離せば攻撃は来ねえ。次元転送」

 

 かなりの距離を取った事を確認すると、シグナム等の居る次元世界への転移魔法を発動する準備に入る。

 

「――!!」

 

 だが、竜人の居る方へと目を向けると砲撃体勢に入っているなのはを目にする。

 

【Buster mode. Drive ignition】

 

 レイジングハートの補助を受け、真っ直ぐにヴィータへと精密に狙いを付けるなのは。

 

「行くよ! 久し振りの長距離砲撃!」

【Load cartridge】

 

 カートリッジが2個排出され、魔力が増大する。

 

 レイジングハートの後ろに小さな環状魔法陣が、真ん中に中位の魔法陣が1つ、前方に大きさは異なるが大きな環状魔法陣が展開される。

 脚元には足場のようにして、巨大な魔法陣が展開されている。

 

「まさか、撃つのか!? あんな遠くから!?」

 

 杖の先端に桃色の魔力光が集まり、収束されていく。

 

「竜人は!?」

 

 見ると、竜人の方は、道着を着ている少年と向かい合い一歩も動いてはいない。

 

『すまない、ヴィータ。此奴は強い……下手に動けば』

『自分でどうにかするしかないのか……くっ』

 

 竜人からの念話に、ヴィータは思わず舌打ちをしてしまう。

 信じたくは無いが、竜人の前に居る道着を着た少年はかなりの強者であり、高町なんとかは当たるかどうかは兎も角として、あの距離からの砲撃を仕掛けてくるのだ。

 

 なのははマガジンをグリップの代わりにして強く握り、照準を固定する。

 

【Divine buster Extension】

「ディバイイィン……バスタアアァ!!」

 

 水色のスフィアが3つ形成され、気が含まれた大きな桃色の魔力弾は2つの環状魔法陣とスフィアを通過して、加速、威力を増大させてヴィータへと真っ直ぐに向かっていく。

 

 排熱、そして圧縮された魔力の内使われなかった魔力残滓が煙のようにレイジングハートの排気ダクトから排出される。

 

 ヴィータの居た場所を見遣ると、大きな爆発と煙が上がっており、直撃した事を教えて来る。

 

【It's a direct hit】

「ちょっと、やり過ぎた?」

【Don't worry】

 

 煙が晴れていと、その中に居るヴィータの影が見えた。

 だが、そこにはヴィータだけでは無く、もう1人、長身の影が存在していた。

 

「――あ!」

 

 仮面の男だ。

 白と青色をした服に、額部に宝石のある仮面を付けている。

 

 遠くからでは判り難いが、少し服が汚れているだけであり、身体に傷は付いていないように見える。

 

 おそらく着ているのはバリアジャケットのようなものであり、カートリッジ2発を消費して放った魔力砲撃を防いでみせたのだろう。

 

「……あんたは?」

「行け、闇の書を完成させるのだろう?」

 

 その仮面の男の言葉を聞き、改めて次元転送の準備に取り掛かるヴィータ。

 

 正直なところ、目の前に居る仮面の男の正体や目的は知らないでいる。

が、今大事なのはそれでは無いのだ。

 

「ディバイイインン……」

【Master】

 

 逃すまいと砲撃準備に入るが、仮面の男がカードを取り出すと同時に光の鎖が出現して、なのはを拘束する。

 

「――バインドッ!? そんな! あんな距離から……一瞬で?」

 

 Divine Buster Extensionでやっと届く距離から、砲撃でも無い魔法で此方へ介入をして来たのだ。

 仮面の男の底知れない実力と、なのはとの間にある魔法の実力の差はハッキリとしたものなった。

 

【Sorry, master】

 

 力尽くでの内側から魔法による拘束を解除して前へと目を向けるが、そこには既にヴィータの姿も、仮面の男の姿も無かった。

 

「ううん。私の油断だよ」

 

 後に残されたのは、なのはとレイジングハート、竜人とブロンを含めて3人と1機であり、フェイトとアルフの無事を祈るだけだった。

 

 

 

 何度も何度も斬り結び合い、接近しては離れてを繰り返すフェイトとシグナム。

 

 シグナムの左腕には傷が出来ており、そこからは血が出ている。

 流れ落ちる血は、ポタポタと砂浜に落ち、極一部ではあるが赤く染めている。

 

「(ここに来て、尚速い……目では追えない攻撃が出て来た。早めに決めないと、不味いな)」

 

 肩で息をしながらも、将であるという事もあって実力は確かなもの。

 冷静に自身の状態と自身が置かれている状況を把握していた。

 

 二刀流のように、レヴァンティンと、その鞘を使い、構える。

 

「(強い……クロスレンジもミドルレンジも圧倒されっぱなしだ……。今はスピードで誤魔化してしているだけ。まともに喰らったら、叩き潰される!)」

 

 フェイトの方もまた手負いの状態であり、左脚から血が出ている。

 

 肩を動かしての呼吸を止め、息を整える。

 

 バルディッシュを構え、構えているシグナムを睨み返した。

 

「(シュツルムファルケン……当てられるか……?)」

「(ソニックフォーム……やるしかないかな……?)」

 

 一瞬の間ではあるが、互いに様子を見合い、強い焦りと緊張を感じ始めていた。

 

 両者共に、砂浜を蹴り、疾走る。

 

「――!?」

「――!」

 

 だが、それと同時に第三者による介入が成された。

 

 フェイトの小さな身体を白い腕が突き抜けている。

 

 後ろを見てみると、そこには仮面の男が静かに、フェイトの身体に腕を通しながら立っていた。

 

「テスタロッサ……」

 

 フェイトの叫びと共に、彼女のリンカーコアが最小の大きさになる迄抜き取られてしまう。

 そして、その痛みに耐えられず、フェイトはそのまま意識を手放した。

 

「――貴様!」

 

 綺麗な金色で光り輝く、小さくも膨大な魔力の塊であるリンカーコア。

 それは、仮面の男の手に握られていた。

 

 それを見て、思わず目を見開き、彼に対して強く睨み付けるシグナム。

 

 だが、そんなシグナムとは対照的に、仮面の男の声はただただ静かなものだった。

 

「さあ……奪え」




自分らしさを保ったまま、より読み易く、より想像し易く出来るように書きたいな
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