魔法少女リリカルなのはZ   作:りおんざーど

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無限書庫での調査 判明する闇の書の呪い

「フェイトさんは、リンカーコアに酷いダメージを受けているけど……生命に別状は無いそうよ」

 

 担当医からの報告を受けたたリンディからの説明を聴き、場の空気は少し軽くなる。

 

 だがそれであっても、未だフェイトは目を覚ます事は無く、暫くの間は魔法を使用する事は出来ないのだ。

 

 あまり良くない流れだと言えるだろうか。

 

「私の時と同じように、闇の書に吸収されちゃったんですね」

「アースラの稼働中で良かった。なのはの時以上に、救援が早かったから」

「だね」

 

 クロノの言葉に頷くロッテ。

 彼女は、アースラ組に所属しているスタッフや魔導師という訳では無いのだが、協力者だという事もあり、会議室での会話に参加をしている。

 

 横を見てみると、ドゥームは目を瞑り大人しく座っており、一言も話さず静かにしている。

 だが、彼の膝下へと目を向けてみると拳をつくり強く握り占めているのが見える。爪が喰い込んでいるのか、ほんの少しではあるが血が出ているのが見えた。

 表情の方は普段と変わりが無いように見えるが、机の下では激情が現れている。必死に隠そくとしているのだろう。

 

「2人が出動して暫くして、駐屯所の管制システムがクラッキングで粗方ダウンしちゃって……それで、指揮や連絡が取れなくて……ごめんね、私の責任だ」

「んな事無いよ。エイミィが直ぐシステムを復帰させたから……アースラに直ぐ連絡が出来たんだし。仮面の男の映像だって、ちゃんと残せた」

 

 フェイトが募集され、意識を失っている。その事に大きく責任を感じているのか、エイミィは深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

 

「その通りだ。何者かの介入によってシステムはダウンしたという事にお前が責任を感じる必要は1つも無い。それにそう思うのであれば、そういった事をするよりも先に、この先どうするかを考えるべきだ」

 

 そこにロッテや俺がフォローを入れはするが、それでもエイミィは気を重くしている。

 

「でも、可怪しいわね。向こうの機材は管理局で使っているものと同じシステムなのに、それを外部からクラッキング出来る人間が居るなんて居るものなのかしら」

「そうなんですよ。防壁も警報も全部素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて……ユニットの組み換えはしてるけど、もっと強力なブロックを考えなきゃ」

 

 リンディの言葉にエイミィは強く反応をして、その不可解な点を述べる。

 

 管理局で使用されている防壁や警報などのシステム。

 これらを突破する事が出来る人物は、次元犯罪者の中でもかなり限られてくるだろう。

 そして、その防壁や警報を素通りして、ダウンしてから気付かせる程の腕を持つ人物。それ程の人物は知られてはいないのだ。表的には。

 そう。この場に居るアリア以外はそれが可能である人物を1人だけ知っている。知り合っているのだ。

 だが、彼の存在はトップシークレットのようなものであり、知り合ってから少ししか日数は経過していないが、そういった事をするような人物では無いといった確信を感じている。

 

「それだけ、凄い技術者が居るって事ですか?」

「うん。もしかして、組織だってやってんのかもね」

 

 なのはの言葉に、推測ではあるだろうがアリアが口を開いて考察を話す。

 

 だが、前世で見たアニメからの知識の所為で、その彼女の言葉はかなり白々しいものに聞こえてしまう。

 

「君の方から聞いた話も、状況や関係が良く判らないな」

「ああ……私が駆け付けた時には、もう仮面の男は居なかった。けど……あいつが、シグナムがフェイトを抱き抱き抱えてて」

 

 ――言い訳は出来ないが、すまないと伝えてくれ。

 

 そのシグナムはその時、非常に申し訳無いと言いたいような表情をしてたのだろうか。

 彼女も彼女で、優しい人間だ。

 募集をし、闇の書を完成するという事が目的である為に、仮面の男が差し出したフェイトのリンカーコアをやむなく募集したのだろう。

 不意打ちなどの手などは気に喰わないだろうが、今の彼女等にはそうは言ってはいられない程に切迫した状況なのだろうから。

 

「それじゃ、次にブロン……君からの報告を聴かせてくれないか」

「わかった。そうだな……なのはと共にヴィータと竜人が居る世界へと転移をして、なのはがヴィータへ魔力砲撃をした。が、仮面の男が現れて、そいつがなのはの砲撃を受け止めて、2人は転移。残ったのは俺となのは、そして竜人だけ。これは聴いただろ?」

「ああ」

「なのはも転移をした後、竜人と戦闘は激化した。そして、竜人を無力化した後に、ヴォルケンリッターが転移をして来て……竜人を保護した後に、撤退をしたよ」

「それだけか?」

「ああ……。それだけだ」

 

 そう。話せるのはそれだけだ。

 目の前には、この会議室には転生者については何も知らないなのはと、知らないであろうアリアが居るのだから。

 

「(どうして俺は……)」

 

 報告をしていると、彼等の――八神竜人と、ヴォルケンリッターが見せたあの態度と表情、そして言葉を思い出してしまう。

 

「(もう少し、マシな言い方は無かったのか……? もう少し優しい言い方が……。何も知らないとは言え、彼等は――)」

 

 考えれば考える程に、少しでも浮かべただけで、押し潰されてしまうと感じる程の重さと苦しさを感じてしまう。

 転生をして、特典を得て、サイヤ人や聖王になったところで、そういったところは何一つ変わりはしない。

 

 そういった風に自分を責めていると、先程エイミィに対して自分が口にした言葉を思い出す。

 

 ――この先に何を、どうするかを考えるべき。

 

「(そうだな……くよくよしていても始まらない。先ずはどうするかだ)」

 

 稀少技能(レアスキル)の1つを使い、意識を集中させていく。

 

「(闇の書の中に巣食っている闇の書の闇をどう取り除くか……。守護騎士であるヴォルケンリッターや管制人格の無事も保証出来る方法は……?)」

 

 転生数日後の時のように、手元には白紙の本なんて無い。

 だが、頭の中には無数の本棚が存在している。その本はあらゆる可能性や情報が載っている本であり、その中から求めるものを検索していく。

 

「(――!! まだ見付からないのか)」

 

 無数に存在する中から見付け出すには、かなりの根気が必要となる。そして、それだけ身体や精神には大きな負担が掛かってしまう。

 例えそれが現実での一瞬の出来事であろうと、かなり辛い作業になるだろう。

 

「(――っ見付けた!! だけど、十全を期して、完璧に、確実に、安全に事を成すとするなら時間が足り無さ過ぎる。やっぱり、アニメ通りの展開に持っていくしかないのか……)」

 

 該当したものの殆どは、どれも現実的なものとは思えないものばかりだ。時間も労力も技術も足り無い。いや、無いと言っても良い位だろう。

 そして何よりも、その全てに運が関係している。

 

「(ったく……あれがどれだけ奇跡的な事なのか、よく理解出来るぜ。最終的には、フェイトが脱出に成功して、はやてが目醒めるかどうかで決まるんだからな……)」

 

 俺が解決策を探している間にも、話はどんどんと進んでいく。

 

「アレックス! アースラの航行に問題は無いわね?」

「ありません」

「うん。では、予定より少し早いですが……司令部をアースラに戻します。客員は所定の位置に」

 

 リンディの言葉に、この場に居るメンバーの全ては強く頷く。

 

「なのはさんを始め、雄介君と志蓮君、ブロン君はお家に戻らないとね」

「ああ……はい。でも……」

「フェイトさんの事なら大丈夫。私達でちゃんと見ておくから」

 

 なのはが心配している事を察し、リンディはなのはを諭すように優しく話す。

 

 それでもまだ心配なのか、それともまた別の理由なのか。なのはの顔は暗く沈んでいる。

 大事な友達が意識不明になり、居ても立っても居られないだろう。

 

『まあ……そんなに気になるなら、俺が瞬間移動で連れてってやるから。取り敢えず、家に帰って、皆に無事を知らせようぜ』

『うん、ありがとう』

 

 リンディと俺の言葉に渋々といった感じに頷くなのは。

 

 次元転移を1人で行うというのは、それだけで優れた魔導師であるという事を示している。

 

 そして、転移魔法を使用する事が無く、リンカーコアを持た無い者でも次元転移が出来る方法が存在する事が知られてしまう訳にはいかないのだ。

 

 そういった理由などから、アリアには聞かれないように、なのはだけにチャンネルを絞って念話で話した。

 

 

 

「助けて貰った……って事で良いのよね」

「少なくとも、奴が闇の書の完成を望んでいるのは確かだ」

 

 八神家のリビングで、4人の守護騎士達と竜人は先日の出来事を思い出し、それぞれの考えを話す。

 

 シャマルの考えに、シグナムは大方そうであろうと判断出来る事を付け足す。

 

 仮面の男の目的はどうであろうと、その行為で助かった場面は実際にあったのだ。

 

「完成した闇の書を利用しようとしているのかもしれんな」

「あり得ねえ! だって、完成した闇の書を奪ったって、マスター以外は使えないじゃん!」

 

 ザフィーラの言葉に、強く否定をいれるヴィータ。

 

 闇の書は666もの真っ白なページが存在し、魔導師を始めとしたリンカーコアを持つ生物から魔力を募集する事で、そのページに文字が刻まれ、埋まっていく。

 埋まるページ数には、その生物の持つリンカーコアや力量によって左右される。

 そして、その募集作業を助け、行う為に守護騎士プログラムであるヴォルケンリッターが存在しているのだ。

 闇の書には無数のプロテクトやシステムが搭載されており、主にしか扱う事は出来ない。極一部ではあるが、管制人格もある程度のシステムの操作は行える。

 だが、それだけだ。

 

「完成した時点で、主は絶対的な力を得る。脅迫や洗脳に効果がある筈も無いしな」

 

 募集をする事で、その募集をした対象が使用出来る魔法などのプログラム構成や術式などもコピーされ、ページに記載される。そして、闇の書の主はその魔法を使用出来るようになるのだ。まあ、使用する際には資質の違いなどで別の効果を持つ魔法になったり、術式の組み直しを行う必要があるのだが。

 

 そういった理由から、シグナムの言う通り、脅迫をされたとしても、それに屈する必要は無い程の力を得る事になるだろう。

 

「まあ、家の周りには厳重なセキュリティを張ってるし……万が一にも、はやてちゃんや竜人にも危害が及ぶ事は無いけど……」

 

 シャマルの言葉通り、この八神家にはセキュリティに似た魔法が張られている。

 不審者が接近した時に、それを知らせる魔法。そういった存在を足止めする為の魔法。そういった魔法が張り巡らされている。

 

「念の為だ。シャマルは暫く、主の側を離れん方が良いな」

「うん」

 

 ザフィーラの提案に、頷くシャマル。

 

 はやてを直接守る必要が出て来たのだ。

 そう、彼女が闇の書の主である事を知っている人物が居るのだから。

 

「ねえ。闇の書を完成させてさ、はやてが本当のマスターになってさ……それ、はやてと竜人は幸せになれるんだよね?」

「闇の書の主は、大いなる力を得る。守護者である私達は、それを誰より知ってる筈でしょ?」

 

 ヴィータの言葉に、シャマルは応える。

 だが、それでも釈然としないのか、ヴィータは続けて口を開く。

 

「そうなんだよ、そうなんだけどさ……」

「保和歩栄の言った事を気にしているのか?」

「そういう訳じゃねえよ。でも……わたしは何か、大事な事を忘れてる気がするんだ……」

 

 闇の書の主となった者は、闇の書の全てのページが埋まると同時に、誰にも負けないと言える程に大きく強力な力を得る事が出来る。

 だが、その力を得た後にどうするのか。どうなるのか。

 

「……大事な何かを――っ!?」

 

 そうしていると、2階から何かが倒れる大きな音が鳴り渡る。

 

「――はやて!!」

「――はやてちゃん!!」

 

 2階にあるはやての部屋へと急ぐと、予想していた通り、倒れている彼女の姿があった。

 

 ベッドの横に置いてあった車椅子も転倒している事から察するに、車椅子に乗ろうとしたところで、気を失ってしまったのだろう。

 

 気を失いながらも胸を抑え、必死に痛みを耐えているはやて。

 

 その姿を見て、限界が近いという事を改めて認識させられた。

 

 

 

「リンディ……提督……」

 

 フェイトが目を覚ますと同時に、覗き込んできているリンディの顔が視界に入る。

 

 身体を起こそうとすると、リンディはそれをし易いようにと、少し手を貸した。

 

 ベッドの上に腕を乗せて、その腕を組み、枕代わりにして寝ているアルフの姿が見えた。

 

「アルフ……」

「アルフも、昨夜からずっと側に付いてたから」

「――ん? あれ? 私……?」

「ここはアースラの艦内。貴女は砂漠での戦闘中に、背後から襲われて、気を失ってたの」

 

 リンディのその言葉を聴いて、シグナムとの戦闘、そしてその前後の事を次第に思い出していくフェイト。

 

「リンカーコアを吸収されてるけど、直ぐ治るそうよ。心配無いわ」

「私、やられちゃったんですね」

 

 リンカーコアが募集された。

 その言葉を聞いて、胸が貫かれ、強制的にリンカーコアを抜き取られた事を思い出す。

 

 その時の痛みは既に無くなっている筈なのだが、その出来事を思い出すと、痛みもまた、同時に蘇ろうとして来る。

 

「管理局のサーチャーでも確認出来なかった不意打ちよ。仕方無いわ」

 

 不安を取り除くように優しく手を握ってくれている事に気付き、少し照れてしまうフェイト。

 

「あ! ごめんなさい。嫌だった?」

「いえ……嫌だとかは……」

「少し魘されているみたいだったから」

 

 自身の身体を他者の腕が貫く。それを目にし、体験したのだ。そして、リンカーコアを抜き取られるというのは、かなりの痛みが襲い掛かってくる。

 魘されるどころか、トラウマになっても可怪しくは無い。

 

「でも良かったわ。貴女が無事で」

「……すみません。ありがとうございます」

 

 その屈託の無い笑顔を、純粋な笑顔を見て、フェイトは礼を言う。

 

 その、真っ先に謝罪をするところから、彼女の性格がよく出ていると言えるだろうか。

 

「学校には、家の用事でお休みって連絡をしてあるから。もう少し休んでいると良いわ」

「はい」

「お腹減ってるでしょ? 何か、軽い食事と飲み物持ってくるわ。何が良い?」

「いえ……そんな……」

 

 寝ているところを看ていて貰った事や手を握って貰った事、心配を掛けた事などから、これ以上に、何かをして貰うという事が非常に申し訳なく思えてしまうフェイト。

 

「良いから」

「えっと……お任せします」

「うん」

 

 フェイトの言葉に、嫌な顔1つせず、それより寧ろ心からの笑顔を見せながら頷くリンディ。

 第三者が見ていたとしたら、それはまるで母親が娘の看病をしているかのように感じただろう。

 

「あの……」

「どうしたの?」

「皆は……兄さんは」

「彼なら訓練をしているわ。家の用事だと連絡したのだし、彼だけ学校に行くのも、ね」

 

 食堂へと向かうリンディを見送り、握って貰っていた手を見る。

 

 アルフの寝言が聞こえ、照れ隠しをするかのように寝ているアルフへと急いで目を向けるフェイト。

 

 そして、自身の名前を呼ぶ彼女を見て、思わず微笑んだ。

 

 

 

「大丈夫みたいね。良かったわ」

「はい。ありがとうございます」

 

 海鳴大学病院の病室にて、はやてはベッドの上に居り、その周りにシグナムとシャマルにヴィータ、そして担当医である石田幸恵が居た。

 

「せやから、ちょっと目眩がして、胸と手が攣っただけやって言ったやん。もう、皆して大事(おおごと)にするんやから」

「でも……頭を打ってましたし」

「何かあっては大変ですから」

 

 意識を取戻して、皆へと自身の無事を教えるはやて。

 

 だが、そうであっても、シャマルとシグナムの言う通りに頭を打ち付けていたのだ。何か問題が起きてからでは遅い為に、急いで病院に来たというところだ。

 

「竜人兄ちゃんもや。皆、心配してくれるのは嬉しいけど、でも大事(おおごと)にし過ぎ」

「そうは言うがな……」

「はやて、良かった」

 

無事な様子を観て、安堵した様子を見せるヴィータの頭を撫でるはやて。

 

「まあ、来て貰ったついでに……ちょっと検査とかしたいから、もう少しゆっくりしていってね」

「はい」

「さて。シグナムさん、シャマルさん、ちょっと……」

 

 

 

「今回の検査では、何の反応も出てないですが……攣っただけという事は無いと思います」

「はい。かなりの痛がりようでしたから」

 

 今は笑顔を見せてくれているはやて。

 だが、家で大きな音が鳴り、駆け付けると、倒れていた。

 病院に連れて行くまでの間、胸に手をやりながら必死に痛みを耐えているのが見て取れた。

 かなりの痛みだったのか、汗も流れていたのだ。

 

「麻痺が広がり始めているのかもしれません。今迄、こういう兆候は無かったんですよね」

「と思うんですが……はやてちゃん、痛いのとか、辛いのか隠しちゃいますから」

「発作が、また起きないとは限りません。用心の為にも、少し入院して貰った方が良いですね。大丈夫でしょうか?」

 

 闇の書による負荷が原因の麻痺。それが遂に、上半身にある臓器へも広がり、影響が出始めたという事だろうか。

 

 今回は、家に皆が居たから、直ぐに病院へと連れて来る事が出来た。

 

 だが、はやてにずっと付いていられる訳では無いのだ。今後、こういった出来事が起きたとして、直ぐにどうにか出来る訳では無い。

 

 だから、病院に居続けているという事の方が良いだろう。

 

「……はい」

 

 

 

「入院!?」

「ええ……そうなんです……」

 

 沈みかけている太陽の陽光が窓から射し込んでくる中、シャマルからの説明を聴き、驚くはやて。

 

 その言葉に、はやてとヴィータの表情は暗くなる。

 その言葉を発したシャマルもまた、同じく暗い表情だ。

 

「でも、検査とか、年の為とかですから。心配無いですよ。ね?」

「はい」

 

 シャマルから同意を求められたシグナムは、首肯きながら、新しい水を入れた花瓶を机の上に置く。

 

「それは良えねんけど……私が入院しとったら、皆の御飯は誰がつくるんや?」

 

 守護騎士である彼女等は、この時代で、はやてを主とするまでは、そういった経験などは全く無かったと言える。

 だからという訳では無いが、少し苦手意識を持っている。

 

「そ、それはまあ、何とかしますから」

「そうですよ。大丈夫です。多分……」

 

 ほんの少し狼狽えてしまうシグナムに、安心させる為に微笑むシャマル。だが、自信無さ気な様子に、はやても苦笑をしてしまう。

 

「まあ、竜人兄ちゃんが居るから大丈夫かもしれんけど……」

「毎日会いに来るよ! だから、大丈夫」

 

 寂しい思いをするだろうと察したのか、ヴィータは身を乗り出しながらはやてへ思いを口にする。

 

「ヴィータは良え娘やな。せやけど、毎日や無くても良えよ。やる事無いし……ヴィータ、退屈やん?」

「う……」

「ほんなら私は、3食昼寝付きの休暇をのんびり過ごすわ」

 

 はやてもまた、彼女等を安心させる為に言う。

 

「――あかん! すずかちゃんがメール来れたりするかも」

「ああ。私が連絡しておきますよ」

「お願い」

 

 病院内での機体電話の使用は極力避けなければ駄目なのだ。

 携帯電話から発せられている電波によって、計器類やその他の病院内で必要な機械類に影響があるかもしれないからだ。

 特に病室内での使用は控えるべきだろう。

 

「では、戻って着替えと本を持って来ます」

 

 そう言って部屋を出て行くシグナムとシャマルにヴィータ、そして竜人の4人。

 

「何しようかな……。――っくぅ……」

 

 4人が病室を出て、暫く経つとまた、痛みが増して来た。

 

 小さな身体に疾走る大きな傷みを、その小さな手で服を掴み、目を瞑りながら必死に耐えてみせる。

 

「やっぱり無理をしていたんだな……」

「――竜人兄ちゃん!?」

 

 目を開くと、ベッドの横にある椅子に座っている兄の姿が。

 

 竜人がナースコールのボタンへと手を伸ばすが、はやてがそれを止める。

 

「待って、竜人兄ちゃん!」

「だが――」

「大丈夫やから……」

 

 無理に笑ってみせるはやて。

 

 普段であれば、その笑顔を見て大丈夫だと思っただろう。

 

 だが、苦しんでいるところを見てしまったのだから、それが相当に無理をして浮かべているものだという事を理解してしまう。

 

「ヴィータ達は?」

「先に帰って貰った」

 

 はやてがそうするように、竜人もまた、いつも通りに接しようと努力をする。

 

「俺はお前の兄だ」

「いきなりどうしたん?」

「他の奴等が居る時は別に良い。だけど、俺とお前の2人だけの時くらいは、無理しなくても良い。苦しい時は苦しいって……辛い時は辛いって言ってくれて良いんだぞ」

 

 無理をしているのを見ていると、している側もそうだが、見ている側もまた、気付いてしまえば、苦しいと感じてしまう。

 

「別に、苦しいとか辛いって訳じゃ――」

「痛みは耐えるものじゃ無くて、叫び伝えるもの……訴えるもの」

「え?」

「誰かが、そう言っていたような気がする」

 

 それは何時何処で、誰が言った言葉だろうか。

 ハッキリとは覚えていなくて、空覚えの為に、厳密には違うのかもしれない。

 だが、確かにそんな感じの言葉を聴いた覚えがあるのだ。

 

「……痛いよ。苦しいよ。わたし、どうなってしまうん?」

「判らない。だけど、これだけは言える。今年中には、その痛みも無くなっている筈だ。だから、もう少しだけ頑張ってくれ、耐えてくれ」

「……うん」

 

 頷くはやてを見て、心を痛める竜人。

 

「本当は、竜人兄ちゃんも含めて、皆が何かを隠してやってるのは理解ってるんや……」

「…………」

「でも、言わないって事は、知って欲しく無いって事やと思うし……」

「今の俺から言える事は何も無い。だが、俺は兎も角として……彼奴等の事は信じてやってくれ。信じて待っていてやってくれ」

 

 ただ、家族の幸せを願い、そう言葉にするしか竜人には出来なかった。

 

 

 

 数冊の本が宙に浮かび、独りでにページが捲れていく。

 捲れていくスピードもそれなりに速く、読むだけであるなら速読技術が必要だろう。

 

 読んだ本はまた、独りでに閉じる。そして、元あった場所へと戻り、別の場所から別の本が向かいゆっくりと飛んで来る。

 

 勿論これは、検索魔法による効果が働いている為に起きている現象だ。

 

 無限書庫に保存されている本は無数と言える程にあり、ただ欲しい情報を選び、調べるだけでもかなりの時間が必要になる。運が悪かったりすると、数年間も調べないと駄目になる事もあるのだ。そして、元の場所に戻さないと、どれが何処にあった本かも判らなくなり、余計に時間が掛かってしまうだろう。

 

『うん。ここ迄で分かった事を報告しとく。先ず、闇の書ってのは、本来の名前じゃ無い。古い資料によれば、夜天の魔道書。本来の目的は、各地の偉大な魔導師の技術を収集して、研究する為につくられた……主と共に旅をする魔道書。破壊の力を振るうようになったのは……歴代の持ち主の誰かがプログラムを改変したからだと思う』

 

 アースラへと無限書庫内から念話で報告をしているユーノの周囲には、数冊の本が開いた状態で浮かんでおり、調べ物を続けている途中である事を教えてくる。

 

 ユーノは目を瞑りながら、見付けた資料の中から判明した内容を頭の中で纏め上げ、クロノ等に報告をしているのだ。

 

 無重力下であり静かな場所な為に、ユーノと、協力をしているアリアの息遣い、そして紙の捲れる音がやけにハッキリと聞こえて来ているだろう。

 

『ロストロギアを使って、無闇矢鱈に莫大な力を得ようとする輩は……今も昔も居るって事ね』

 

 アリアの言葉通り、夜天の魔道書が闇の書へと改変された事からはそういった思惑があったのではと推測をする事が出来る。

 

 だが、今回の闇の書の主もそうなのかというと、そうだとはハッキリと言えないのだが。

 

『その改変の所為で……旅をする機能と破損したデータを修復する機能が暴走してるんだ』

《転生と無限再生は、それが原因か》

《古代魔法なら、それくらいはありかもね》

 

 ある程度は予想と推測をしていたのか、クロノとエイミィはあまり驚いた様子を見せない。

 

 ロッテの方もまた、闇の書が遺失技術という事もあってか、その情報をそのまま受け入れる。

 

『一番酷いのは、持ち主に対する性質の変化。一定期間収集が無いと……持ち主自身の魔力や資質を侵食し始めるし。完成したら、持ち主の魔力を際限無く使わせる……無差別破壊の為に。たから、これ迄の主は皆、完成して直ぐに……』

 

 厄介と言うよりも、質が悪いという表現の方がしっくりとくるかもしれない。

 

 前回の闇の書の主も、一定期間をしなかった為に魔力や資質への侵食が始まり、それをどうにかする為に、募集をしたのかもしれない。

 

 そして、今回の主もそうだ。

 アルフからの報告であった、闇の書の守護騎士である守護獣――ザフィーラの言葉。主は募集行動をしている事を知らないでいるという事。

 もし守護騎士にも人並みの心や感情があるのなら、主を闇の書の侵食から救う為に募集を始めたのかもしれない。そうクロノやエイミィは考えている。

 

《ああ……停止や封印方法についての資料は?》

『それは今調べてる。だけど、完成前の停止は難しい』

 

 念話での会話を続けながらも、マルチタスクで意識を小分けして調査を続けている。

 アースラ内のモニターに映るユーノの瞳は、右に左にと忙しなく動き続けている。

 

《何故?》

『闇の書が真の主と認識した人間でないと……システムへの管理者権限が使用出来ない。つまり、プログラムの停止や改変が出来ないんだ。無理に外部からの操作をしようとすれば、主を吸収して転生しちゃう機能も入っちゃってる』

『そうなんだよね……だから、闇の書の永久封印は不可能って言われてる』

《元は健全な資料本が何と言うか、まあ……》

 

 アリアの言葉通り、従来の……と言うよりも、現在の管理局の技術や力では永久封印を行う事は出来ないだろう。

 管理局で、ある程度の手続きをして使用が出来るロストロギアを用いても、それは無理だろう。

 

《闇の書……夜天の魔道書も可哀想にね》

《調査は以上か?》

『現時点では……まだいろいろ調べてる。でも、流石無限書庫。探せばちゃんと出て来るのが凄いよ』

『て言うか、私的には君が凄い……すっごい捜索能力』

 

 最初に説明があった通りに、この無限書庫には、現在管理局が見付け、交流関係のある次元世界に存在する資料や滅亡した世界から流れて来た資料などが存在しており、世界全ての情報があると言っても良い位のものだ。

 

 そして、その中から求めているもの、必要なものをしっかりと見付け出すのだから、そのユーノの能力もまた優れたものである事が理解出来る。

 これが、天職ではないかと思わせてくる程のものだ。

 

《じゃあ、すまんが……もう少し頼む》

『ああ』

《アリアも頼む》

『はいよ。ロッテ、後で交代ね』

《オッケー、アリア》

《頑張ってね》

 

 

 

「ユーノ君、凄いね~」

「アタシも正直、驚いた」

 

 無限書庫内に居るユーノとロッテとの連絡を終え、通信を切る。

 

 人には、それぞれに向いている事や適材適所などといった事はある。

 だが、それを知っていながらも、ユーノの検索能力を実際に目にして、クロノとエイミィ、アリアの3人は驚きを隠せないでいた。

 

「エイミィ、仮面の男の映像を」

「はいな」

「何か、考え事?」

 

 何かを思い付いたのか、気になる事でもあるのか。

 

 エイミィはクロノの指示を受けて、キーボードを軽く叩く。

 

 モニターには、先日にフェイトがシグナムと戦闘をした砂漠の世界、なのはとヴィータ、ブロンと竜人が戦闘をいていた世界でサーチャーが捉えた映像と画像が映し出される。

 

 そしてその中から、仮面の男が映し出されたものが、選出されて、前に出る。

 

「この人の能力も凄いと言うか……結構、あり得ない気がするんだよね~。この2つの世界……最速で転移しても20分は掛かりそうな距離なんだけど。なのはちゃんの新型バスターの直撃を防御……長距離バインドをあっさり決めて……それから僅か9分後には、フェイトちゃんに気付かれないように後ろから忍び寄って、一撃」

「……かなりの使い手って事になるね」

「そうだな……僕でも無理だ」

 

 今のクロノの実力では、なのはのDivine Buster Extensionを直撃コースであろうとも防ぐ事は出来るだろう。

 だが、長距離バインドに、9分という短時間での単独次元転移を行うというのは無理だと言える。

 気の操作や波紋の呼吸で行なったとしたら問題無く出来るだろう。転移する事だけを除けば、だが。

 

「ロッテはどうだ?」

「ああ……無理無理。私、長距離魔法とか苦手だし」

 

 手を横に振りながら、否定をするロッテ。

 

 平均的な魔導師に限らず、優れた魔導師であっても、なのはが繰り出したDivine Buster Extensionは相当の威力があり、それを防御するにはかなり苦労する事になる。

 

 そしてそれだけでは無く、TVアニメ1話分程の時間が掛かってしまうその距離を、TVアニメのAパート分の時間だけで転移を完了させてしまう魔導の手腕。

 

 更に、フェイトやシグナムに、実際に攻撃してからでないと気付かせない程の気配遮断能力。

 

 魔導師が単独でそれを成すというのは、可能ではあるだろうが、かなり非現実的なものでもある。

 

「アリアは魔法担当、ロッテはフィジカル担当で、きっちり役割分担してるもんね?」

「そうそう!」

「昔はそれで、酷い目に遭わされたもんだ」

 

 エイミィの言葉に、楽しそうな感じで肯定するロッテ。

 

 そのロッテの言葉を聞いて、クロノは昔の訓練内容などを思い出して、げんなりとした表情へと変わる。

 

 ユーノと彼女等を始めて合わせて、無限書庫での調査の手伝いをお願いした時。そして、今回も同様に、エイミィが言い、ロッテが肯定をする通りに、彼女等はしっかりと役割分担が出来ている。

 

 彼女等は、基本的には一緒に仕事を行なっている。

 何か事件などが起きた時、主であるギル・グレアムの仕事の手伝いなどで共に行動をしているのだ。

 

 そして何よりも、彼女等は双子だという事もあってか。念話などを使わずとも、抜群のコンビネーションを誇り、戦闘時には、隙という隙があまり無いのだ。

 

「その分強くなったろ? 感謝しろっつーの!」

 

 

 

「体調、大丈夫?」

「魔法、使え無いのはちょっと不安だけど、身体の方はもうすっかり」

 

 12月13日、午前。

 

 冷たい空気が張り詰めている中で、登校をするなのはとフェイト。

 

 リンカーコアが抜き取られてから2日が経過し、フェイトは登校出来る状態に戻ったのだ。

 

 だが、病み上がりという事もあり、そして何より、一緒に登校したいという気持ちから、なのはが彼女を迎えに来た。

 

「あの、ドゥームさんの方は?」

「問題は無いよ。好調も好調、校長先生」

「「――え?」」

「いや……何でも無い……」

 

 少し歩くと、バス停に辿り着き、そこで雄介を始め、志蓮、ブロンの3人が既に到着していた。

 

「お早う、3人とも」

「「「ああ / おう / おはよ」」う」

 

 それぞれが思い思いに挨拶を返して、バスが来るのを待つ。

 

 登校時間の為に、他の生徒も集まって来ており、バス停がどんどんと賑やかになっていく。

 

 何の穢れも知らないという事は無いだろうが、それでも、大人の疲れたような笑顔とは比べられない程に綺麗に輝いている小さな笑顔が、冷たい空気の中で身体を暖かく照らしてくれている太陽のように眩しく思える。

 

『当面、呼び出しがある迄は、こっちで静かに暮らしててって、リンディさんが』

『出動待ち……みたいな感じかな?』

『うん。武装局員を増強して、追跡調査の方をメインにするみたい』

『そっか……』

 

 何かをしようとするなら、いろいろと手続きなどが必要であり、それが終わる迄は学生の本分である勉強や友達との交友をするべきだという考え、図らいのようなものだろうか。

 

 上からの許可が無いと動く事が出来ないというのは、どの組織であろうとも、面倒なものだろう。

 

「(特務執務官補佐なのに、何もしないで良いなんて……何か申し訳無いな……)」

 

 今頃、リンディやクロノにエイミィ、ユーノを始め、アースラスタッフの面々は必死になって行動をしているだろう。

 

 それが何か、何処か申し訳無くあり、何か手伝わなければ駄目じゃないんだろうかなどといった考えが出て来る。

 

 だが、手伝おうとしたところで何も変わりはしないだろうし、それどころか邪魔をしてしまうかもしれない。そして、彼等の仕事を奪う事になるのではないだろうか。といった考えが頭の中をグルグルと廻り始める。

 

「……おっと!」

 

 考え事をしていると、時間と距離はあっという間に進み、バスのドアが開く音が聞こえる。

 その音と同時に、考えはぼんやりとしたものになり、そのまま忘れてしまう。

 

「入院?」

「はやてちゃんが?」

「うん。昨日の夕方に連絡があったの。そんなに具合は悪く無いそうなんだけど……検査とかあって、暫く掛かるって」

 

 すずかの言葉に、思わず顔を見合わせる俺と雄介に志蓮。

 

 闇の書による麻痺の侵攻が予想通りに進行している事に気付き、安心を覚える。

 

 だがそれ以上に、彼女をどうすれば救ける事が出来るのかを必死に考えていて、心配をしている自分が居る事に気付いてしまう。

 

「(知り合ってしまったからか……生前には物語であるから可哀想程度の気持ちだったけど……友人が死ぬかもしれない状況なんだ。どうにかしてやりたいな……)」

 

 検索をした、どの方法も。どのような手段を用いても、運が絡んでいて、確実に事を成すのは難しい。

 彼女が絶望を抱き続けずに、生きる事を望むような状況へと持っていくにはどうすれば良いのか。

 今となっては、ヴォルケンリッターからの印象が悪くなった事がかなり響いて来るような気がしてならない。

 

「じゃあ、放課後、皆でお見舞いとか行く?」

「良いの?」

「すずかの友達なんでしょ? 紹介してくれるって話だったしさ。お見舞いも、どうせなら賑やかな方が良いんじゃない?」

 

 落ち込むすずかに、アリサは「私に良い考えがある」といった風に提案をしてみせる。

 

 入院をしていて、不安な気持ちの中で独り居続けているよりも、誰かと話をして、気を晴らす事などをすると良い。

 そういった考えもありなのかもしれない。

 

「それはちょっと……どうかと思うけど」

「でも良いと思うよ」

「ね?」

「ありがとう」

 

 病院で騒ぎ立ててしまうのではと心配をするなのは。

 

 だが、ここに居る彼女等は無闇矢鱈に騒ぎたて、迷惑を掛けてしまう程にはしゃぐという事も無いだろうし、問題は無いだろう。

 

 アリサの意見に賛成の意を示したフェイトに、すずかも顔を綻ばせる。

 

「あんた達も来るのよ? 良いわね?」

「理解ってるよ……」

 

 念を押すかのようなアリサの言い様に圧倒されながらも、返事を返しておく。

 

 頭の中にあった心配事は既に、小さくなっていた。

 

「(ま、なるようにしかならないか……。今出来る最善をってね)」

 

 

 

 八神家の台所で、楽しそうに鼻歌を歌いながら弁当に盛り付けをしていくシャマル。

 

 そこに、はやての携帯電話がピピピッといった感じに鳴り、メールを着信した事を知らせてくる。

 

「すずかちゃん!」

 

 ――シャマルさんへ。こんにちは。月村すずかです。今日の放課後、友達と一緒にはやてちゃんのお見舞いに行きたいんですが、行っても大丈夫でしょうか?

 

「すずかちゃん……良い子ね……」

 

 守護騎士としてという立場もあるが、何よりも家族としての立場から見て、月村すずかとう少女は物腰が柔らかく優しい娘だという印象を、シャマルは抱いている。

 

 文字であるにも関わらず、そこからも、その優しさを感じると思うのは錯覚だろうか。

 

 ――もし御都合が悪いようでしたら、この写真を、はやてちゃんに見せてあげて下さい。

 

 携帯電話を操作し画面を下の方へと持っていくと、そこにはすずかとその友達の姿が写った写真が添付されていた。

 

「――え!?」

 

 だが、すずかと一緒に写っている少年少女等は見覚えのある子等であり、警戒をすべき存在でもあった。

 

 

 

「――何!? テスタロッサ達がどうしたって?」

『だから……テスタロッサちゃんとなのはちゃん達……管理局魔導師の子達が今日、はやてちゃんに逢いに来ちゃうの! すずかちゃんのお友達だから!』

 

 募集をする為に別次元世界へと出ていたシグナムは、シャマルからの念話での連絡を受け、それを聴いている。

 

 シャマルの声とその抑揚から、彼女がかなり慌てているという事が簡単に判り、想像する事が出来た。

 

『どうしよう』

「いや、落ち着け、シャマル。大丈夫だ。幸い、主はやての魔法資質は、殆ど闇の書の中だ。詳しく検査されない限り、ばれはしない」

『それは、そうかもしれないけど……』

 

 シグナムの言う通り、はやてのリンカーコアは闇の書のシステムによって蝕まれ、その魔力や資質は、闇の書の機能維持の為に使用され、殆どがその書の中に吸収されている。

 

 リンカーコアがあるという事に変わりは無いが、その魔力量も、無いに等しい程であり、機材を用いて検査をしないと、どういった状況に置かれているかは理解らない程の状態だ。

 

「つまり、私達と鉢合わせる事が無ければ良いだけだ」

『顔を見られちゃったのが、失敗だったわ。出撃した時、変身魔法でも使っておけば良かった……』

「今更悔いても仕方無い。御友人の御見舞の時は、私達が外そう」

『うん』

「あとは主はやて、それから石田先生に我等の名前を出さないように御願いを」

『はやてちゃん、変に思わないかしら』

「仕方あるまい。頼んだぞ。竜人にはこちらから伝えておく」

『うん』

 

 

 

「はーい! どうぞ!」

 

 ドアを数回ノックして、返事が聞こえて来るのを待つ。

 

 そして、少女の柔らかい感じの声が返ってくるのを確認すると、ドアを開き、中へと入る。

 

「こんにちは!」

「――え!?」

 

 ぞろぞろと集団で入室をしているからか。それとも見舞いに来るとは思わなかったのか。

 はやては驚きの表情を浮かべるが、それは直ぐに嬉しさに溢れたものへと変わる。

 

「こんにちは! いらっしゃい!」

「お邪魔します。はやてちゃん、大丈夫?」

「うん! 平気や! 皆、座って座って」

 

 身体の痛みなどは感じてはいないと言わんばかりに、元気な様子で来客である俺等見事な対応をしてみせるはやて。

 

「これね、家のケーキなの」

 

 見舞い品として持って来た翠屋のケーキを差し出すなのは。

 

「――っ!」

 

 そういていると、後ろの方でドアが少し開かれて、誰かが覗き込んでいるのか。視線を感じ取る。

 

「(まあ、気といい、魔力といい、誰かなんて理解ってるけど、さ……)」

「それにしても、久し振りやなあ、ブロン君。御見舞に来てくれて嬉しいわ」

「そうか? 暇をしているだろうと思ってな」

 

 軽く挨拶を済ませ、ドアの方へと近付く。

 

「どうしたの? ブロン君?」

「鷹狩とでも言っておこうかな」

 

 そう答えながら、ドアを開いて病室の外へと出る。

 

 彼女の姿は既にドアの近くからは離れており、医師らしき人と話をしているところを見付ける。

 

「変な言い方かもしれないですが……はやてちゃんの主治医として、シャマルさん達には感謝しているんです。皆さんと暮らすようになってから、2人、本当に嬉しそうですから」

 

 2人というのは説明をする迄も無く、はやてと竜人の事であると理解出来るだろう。

 

 守護騎士であるシャマル等が出て来る迄、はやてと竜人は元気な様子を見せてはいたが、それでも何処か無理をしているようであり、辛そうでもあった。

 

 だが、皆が揃ってからは、自然な笑顔を見せるようになり、心の底から幸せを感じている事が想像出来た。

 

「はやてちゃんの病気は、正直難しい病気ですが……私達も全力で闘ってます」

「はい……」

「一番辛いのは、はやてちゃんです。でも、皆さんやお友達が支えてあげる事で……勇気や元気が出て来ると思うんです。だから、支えてあげて下さい。はやてちゃんが病気と闘えるように」

「はい……」

 

 幸恵の言葉に思わず涙を流してしまうシャマル。

 

 守護騎士として、家族として。彼女を想い、救けたいという気持ち。それであっても、自分に出来る事の少なさと無力さへの痛感など。

 それらの気持ちが、溢れ出、止まらなかった。

 

「(皆、頑張っているんだ……俺も、俺も出来る限り……いや……原作以上に良い方向へと持っていけるようにしなくちゃな)」

 

 彼女が来ている事を感じた時は、接触をしようと思ってはいた。

 だが、今その気持は1つも無く、皆が待っているであろう病室へと急ぎ、歩を進める。

 

 

 

「お友達のお見舞、どうでした?」

「うん。皆、良え子だったよ。楽しかった。また、時々来てくれるって」

「それは良かったですね」

 

 すずか達が見舞いを終え、帰宅をした後。シャマルは入れ替わるようにして、病室へと入る。

 

 夕暮れ時でもあり、沈みかけの、オレンジ色の陽の光が窓から射し込んできている。

 その陽光は、明るい場所と、暗い場所をハッキリと分けてしまっていた。

 

「せやけど、もう直ぐクリスマスやなあ。皆とのクリスマスは初めてやから……それ迄に退院して、皆で楽しくパーッと出来たら良えんやけど」

 

 闇の書が覚醒めて、守護騎士等と出会ってからの時間はあっという間だ。

 

 最初の頃と比べると、この次元世界の、この時代の世俗やルールとして知られている事に慣れて来たとは言え、知らない事は沢山ある。

 

 クリスマスについても、知識で知っているだけであり、体験をした事は無い。

 

 それらが楽しみであるというのには、嘘は無いだろう。

 

 だが今は、はやての病状悪化が深刻であり、その事ばかりが頭の中を占めてしまっている。

 

 闇の書が、はやての身体を侵食するスピードが加速している。

そして、最悪の想像ではあるが、最短で、あと一ヶ月しか生きられない可能性もあった。

 

 シャマルにはそれを認識しながらも、どうしようも無かった。

 ただただ無力であった。

 

 シグナムとヴィータにザフィーラと共にリンカーコアの募集を完了させ、はやてを闇の書の真の主として覚醒出来るようにする。

 そして、そうする事で、彼女が救かる。それが未来に繋がると。そう信じて行動するしか出来なかった。

 

「……そうですね。出来たら、良いですね」

 

 そしてただ、はやての言葉に、彼女に見られない角度で物憂げな表情を浮かべ、はやての言葉に肯定の言葉を返す事しか出来なかった。

 

 

 

「(何かが可怪しいんだ……こんな筈じゃ無えって、あたしの記憶が訴えてる。でも……今は、こうするしか無いんだよな)」

 

 暗雲が空を覆い尽くし、紫の雷が落ち続け、マシンガンの弾のような雨が身を打ち続けている。

 そんな中で、ヴィータは魔力募集をする為に、単独で行動をしていた。

 シグナムも、ザフィーラも単独で、別の次元世界で闘っている。

 独り苦しむ、痛みを抱え、耐え続けて、笑ってくれているはやての為に。

 

「……はやてと竜人が笑わなくなったり、はやてが死んじゃったら……やだもんな!」

【ja】

 

 海面が渦巻き、そこから大きな目を6つもつ巨大な生物が顔を覗かせてくる。

 

 巨体故に、少し顔を出しただけで、無数の大きな水飛沫が宙を舞い、雨と共に再び海へと落ちる。

 

「やるよ、アイゼン!」

【Explosion!】

「ギガント……」

 

 カートリッジを2個排出し、グラーフアイゼンがGiant formへと変形をする。

 

 ハンマーヘッドは彼女の身の丈程の大きさになり、柄の太さと長さもそれに見合ったものへと変化をする。

 

「ぶっ潰せええええっ!!」

 

 目尻に溜めていた大粒の涙を流して頬を濡らしながら、大好きな優しい少女の為に、泣き叫びながら

 思い切り相棒(グラーフアイゼン)を振り翳した。

 

 

 

 モニターには、闇の書についてのデータが映し出されている。

 

「父様。あんまり根を詰めると、躰に毒ですよ」

「そうだよ」

「――ん? リーゼか。どうだい、様子は?」

「まあ、ボチボチですね」

「クロノ達も頑張ってますけど……闇の書が相手ですから、一筋縄では」

「そうか……」

 

 ロッテの言葉を補足し、付け足すアリア。

 

「すまんな。お前達迄……付き合わせてしまって」

「何言ってんの、父様?」

「私達は父様の使い魔。父様の願いは、私達の願い」

「大丈夫だよ、父様。“デュランダル”ももう完成してるし」

「闇の書の封印。今度こそ大丈夫ですよ」

 

 感情がリンクしている為に、主である男性の気持ちを感じ取るリーゼ。

 

 物憂げであり、申し訳無さそうな表情をする男性に対し、ロッテとアリアは安心をさせるように言葉を口にする。

 

 2人の少女は笑顔を浮かべてはいるが、男性の方は浮かない顔のままだった。

 




あと数話ほどでA'sの内容は終了かな。
次はTHE BATTLE OF ACES、そしてTHE GEARS OF DESTINYだ。
大まかな物語(ストーリー)は変わらないだろうけど、転生者の存在とかもあるし多少は違う感じになるだろうな。
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